弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とし,補助参加によって生じた費用
は控訴人補助参加人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人の請求を棄却する。
2被控訴人
主文同旨
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,ダイオキシン類対策特別措置法(以下「ダイオキシン法」という。)
29条1項に基づくダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定された北区内の地
域につき東京都知事が策定したダイオキシン類土壌汚染対策計画に関する公害
防止事業(以下「本件公害防止事業」という。)の施行者である北区長が,公
害防止事業費事業者負担法(以下「負担法」という。)9条1項に基づき被控
訴人に対してした,被控訴人を本件公害防止事業の費用を負担する事業者とし
て定め,事業者に負担させる負担金(以下「事業者負担金」という。)の総額
を1億5825万円と定める旨の別紙通知目録記載1の通知に係る決定(以下
「本件決定1」という。),被控訴人の平成18年度分の事業者負担金を23
50万2081円と定める旨の同目録記載2の通知に係る決定(以下「本件決
定2」という。)及び被控訴人の平成19年度分の事業者負担金を1億106
1万7762円と定める旨の同目録記載3の通知に係る決定(以下「本件決定
3」といい,本件決定1及び本件決定2と併せて「本件決定」と総称する。)
について,被控訴人は負担法3条の公害防止事業に要する費用を負担させるこ
とができる事業者に該当しないなどとして,その取消しを求める事案である。
2関係法令の定め
別紙「関係法令の定め」のとおりであり,以下,同別紙で定義した略語を本
文中においても使用する。
3前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に
認められる事実)
(1)被控訴人
被控訴人は,肥料,工業薬品の製造,加工,売買及び輸出入等を目的とす
る株式会社である。
(2)土壌汚染対策計画の策定
ア控訴人が,平成16年12月,北区α所在の旧北区立A小学校(以下
「旧A小学校」という。)の跡地利用計画を立てるために土壌調査を実施
したところ,平成17年2月にダイオキシン類による汚染が確認され,そ
の後行われた調査により,同年4月に北区立B保育園(以下「B保育園」
という。)及び北区立C公園(以下「C公園」という。)においても土壌
汚染が確認された(乙1の1,2,乙2の1,2)。
イ東京都知事は,ダイオキシン法29条1項に基づき,平成18年3月6
日,北区α×番15号の一部(C公園の一部),北区α××番1号の一部
(旧A小学校の一部),北区α××番12号の一部(B保育園の園庭等)
の合計1万3410㎡(以下「本件対策地域」という。)をダイオキシン
類土壌汚染対策地域に指定し,同月7日,その旨を公告した。
ウ上記イの指定を踏まえ,東京都知事は,平成18年12月6日,「北区
α地域ダイオキシン類土壌汚染対策計画」(以下「本件対策計画」とい
う。)を定め,同月19日,以下のとおり,その概要を公告した。
(ア)事業の実施地域
本件対策地域の全域を含む以下の地域
a北区α×番15号の一部(C公園の一部)
b北区α××番1号(旧A小学校)
c北区α××番12号の一部(B保育園の園庭等)
(イ)事業の内容
汚染土壌による暴露経路を遮断するため,事業実施地域に覆土等を行
う。
(ウ)事業実施後の措置の内容
対策事業として実施した覆土等の効果を維持するよう適切に管理する。
(エ)事業費の額
2億1100万円
(オ)事業の実施者
北区
(カ)その他
将来,大規模な土地改変や技術の進歩等に伴い汚染除去を行う場合に
は,改めて汚染除去の対策計画を策定する。
(3)本件対策地域における化学工場の操業
本件対策地域においては,明治28年頃,D株式会社(以下「D」とい
う。)の化学工場(以下「E工場」という。)が建設された。その後,E工
場は,合併や営業譲渡等による経営主体の変動を経て,昭和20年4月1日
には,合併又は営業譲渡(合併であるか営業譲渡であるかについては,当事
者間に争いがある。また,以下,このことを「本件経営主体変更」とい
う。)により,被控訴人が経営する工場となり,昭和45年頃まで操業して
いた。(乙12の2,3,11,乙28)
(4)費用負担計画の策定
ア処分行政庁は,平成18年12月11日,環境基本法44条及び東京都
北区環境基本条例25条に基づいて設置された北区環境審議会に対し,負
担法6条1項に基づき,本件対策計画に係る費用負担計画の策定について
諮問し,北区環境審議会は,5名の学識経験者によって構成されるダイオ
キシン部会を設置して審議することとした(乙6ないし8)。
イダイオキシン部会は,平成18年12月13日,同月14日,同月28
日及び平成19年1月17日に開催され,原因者の特定と費用負担計画案
についての審議が行われた。同日開催されたダイオキシン部会では,被控
訴人から意見聴取が行われた後,本件対策地域における土壌汚染の原因が
専ら被控訴人と同一の法人格を有する事業者によって操業されてきたE工
場にあるとの判断を前提として,「費用を負担させる事業者を定める基
準」を「ダイオキシン類対策特別措置法第29条1項の規定に基づきダイ
オキシン類土壌汚染対策地域に指定された北区αの区域を含む土地におい
て,工場を撤去するまで,事業活動に伴い製造施設による操業を行い,ダ
イオキシン類を排出し,土壌の汚染を引き起こした事業者」と定め,公害
防止事業費の額2億1100万円のうち,事業者の負担総額を1億582
5万円とする費用負担計画部会案を決定した。(乙9,10,11の1な
いし11,乙12の1ないし17,乙13の1ないし6,乙14,15)
ウ北区環境審議会は,平成19年1月18日,ダイオキシン部会から上記
イの費用負担計画部会案の報告を受け,後に提出予定の被控訴人からの意
見書をダイオキシン部会の委員が検討した上で修正の必要がないとされた
場合には最終答申とするものとして,費用負担計画部会案と同じ内容の費
用負担計画の答申案を決定した(乙15)。
エ平成19年1月25日,被控訴人は,同月18日に北区環境審議会から
被控訴人に対して送付されたダイオキシン部会の見解をまとめた書面を受
けて,ダイオキシン部会に対する意見書を提出した。同月30日,ダイオ
キシン部会長は,同部会の委員の見解を踏まえ,上記イの費用負担計画部
会案に修正の必要がないことを北区環境審議会会長に報告した。(乙16
の1,2,弁論の全趣旨)
オ北区環境審議会は,平成19年1月31日,処分行政庁に対し,上記ウ
の費用負担計画案を答申した(乙17)。
カ処分行政庁は,負担法6条に基づき,平成19年1月31日,以下のと
おり,「「北区α地域ダイオキシン類土壌汚染対策事業」に係る費用負担
計画」(以下「本件費用負担計画」という。)を策定し,同年2月1日公
表した(甲5,乙18)。
(ア)公害防止事業の種類
負担法2条2項3号に規定するダイオキシン類により土壌が汚染され
ている土地について実施される事業
(イ)費用を負担させる事業者を定める基準(以下「本件基準」とい
う。)
ダイオキシン法29条1項の規定に基づきダイオキシン類土壌汚染
対策地域に指定された北区αの区域を含む土地において,工場を撤去
するまで,工場の操業に伴いダイオキシン類を排出し,土壌の汚染を
引き起こした事業者
(ウ)公害防止事業費の額
2億1100万円
(エ)負担総額及びその算定基礎
a負担総額
1億5825万円
b算定基礎
負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当と
認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=2億1100万円×
(1-1/4)=1億5825万円
ダイオキシン類による土壌の汚染が行われた期間が,法規制以前の
行為であるため,負担法4条2項の規定に基づく減額を行う。減ずる
額は,公害防止事業費の4分の1とする。
(オ)公害防止事業の実施に必要な事項
物価の変動その他やむを得ない事由により,公害防止事業費の額に
変更を生じたときは,変更後の公害防止事業費の額を基礎として算定
した額を負担総額とする。
(カ)その他
今回の本件対策計画は覆土によるものであるが,将来,大規模な土
地改変や技術の進歩等に伴い汚染除去を行う場合には,改めて対策計
画が策定され,それに伴い,改めて費用負担計画が策定されるもので
ある。
(5)費用負担する事業者及び事業者負担金の額の決定
ア処分行政庁は,平成19年2月1日,負担法9条1項により,本件公害
防止事業について,同法3条に規定する費用を負担させる事業者として被
控訴人を定め,納付すべき事業者負担金の額を1億5825万円,納付す
べき期限を各年度ごとに別途通知するものとする本件決定1をし,別紙通
知目録記載1の通知によって被控訴人に通知した(以下,別紙通知目録記
載1の通知に係る通知書を「本件決定1の通知書」という。)。
イ本件決定1の通知書には,被控訴人を費用負担する事業者として定めた
理由として,以下の記載がある。
(ア)本件対策地域は,「D」が工場を設置し操業を開始するまでは田畑
等であり,同社を承継した被控訴人(前身たる企業を含む。以下,イ
において同じ。)が工場を撤去した昭和45年以降は団地として利用
されており,この間,本件対策地域においては被控訴人だけが操業し
ていた。
(イ)本件対策地域のダイオキシン類による汚染土壌は,自然地層ではな
く,埋土層から確認されており,汚染の深さは2mから4m程度まで
広範囲にわたっていることから,汚染土壌は工場を撤去し更地化する
時点において,既に地中に存在していたものと考えられる。工場の撤
去後に搬入された土壌は,本件対策地域の汚染土壌量からすると極め
て少量である。
(ウ)被控訴人は,工場撤去直前まで,ダイオキシン類を生成する製造工
程を稼働させていた。
(エ)本件対策地域において確認されたダイオキシン類は,ほぼ全てが特
徴的な同族体組成比や異性体プロフィールを示しており,このことか
ら本件対策地域のダイオキシン類汚染が同一の原因によるものと考え
られる。
ウまた,本件決定1の通知書には,その他必要な事項として,本通知は,
平成18年12月19日公告の本件対策計画に基づく覆土等の対策に関わ
るものであり,将来,大規模な土地改変,技術の進歩等に伴い汚染除去を
行う場合には,改めて対策計画が策定され,それに伴い,改めて費用負担
計画が策定されることになる旨の記載がある。
エ処分行政庁は,別紙通知目録記載2の通知により,被控訴人に対し,本
件決定1に基づく平成18年度分の納付すべき事業者負担金の額が235
0万2081円であること及び納付すべき期限が平成19年4月19日で
ある旨の本件決定2を通知した。
オ被控訴人は,平成19年4月10日,上記エの事業者負担金として23
50万2081円を納付した(乙19の1,2)。
カ処分行政庁は,別紙通知目録記載3の通知により,被控訴人に対し,本
件決定1に基づく平成19年度分の納付すべき事業者負担金の額が1億1
061万7762円であること及び納付すべき期限が平成20年4月18
日である旨の本件決定3を通知した。
4争点及びこれに関する当事者の主張
(1)本件基準に該当する事業者は被控訴人のみか
アE工場が同一の法人格を有する事業者によって操業されてきたといえる

(控訴人の主張)
a被控訴人は,明治20年にF会社(以下「F」という。)として設立
されて以来,他の企業を合併し,社名を変更したG株式会社(以下
「G」という。),明治29年頃に設立され,Gと大正12年に合併し
たD,昭和12年4月にGを吸収合併したH株式会社(以下「H」とい
う。),同社が同年12月に改称し,昭和18年にI株式会社(以下
「I」という。)に吸収合併されるまで存在したJ株式会社(以下「旧
J」という。),I,Iの化学部門と合併したK株式会社(大正10年
4月にL株式会社<以下「L」という。>として設立された会社で,昭
和12年6月から昭和20年4月1日にJ株式会社と改称するまでその
名称であった。以下「旧K」という。),被控訴人と長期間にわたり連
綿と経営が続けられてきた同一の企業である。
b仮に,GからHへの営業の移転が,吸収合併によるものではなく,形
式的には営業譲渡によるものであったとしても,包括的な債権債務の移
転の定めを含んでおり,実質的には合併であったというべきである。
また,仮に,本件経営主体変更が形式的には営業譲渡であったとして
も,その際に旧Kと統合されたIの化学部門は,明治20年4月に創設
されたGを前身とし,化学部門として独立性を有していた旧Jであって,
旧Jは,M傘下にあり,本件経営主体の変更により,かつての子会社で
あった旧Kの法人格を借用することによって,実質的に復活したのであ
るから,旧J又はIの法人格は,実質的には被控訴人に承継されている
というべきである。営業譲渡という方式が採られたのは,会社分割とい
う法制度がなかった当時,会社を実質的に分割する方法として借用され
たものにすぎず,営業譲渡という方式が採られたことをもって法人格の
承継を否定するのは相当でない。
c負担法は,公害が環境に及ぼす有害な結果の重大性に鑑み,公害防止
事業に要する費用を当該公害の原因を作出した者に負担させることを企
図しているものであるから,その事業活動が公害の原因となった者は広
く同法3条の事業者に該当するというべきであり,同法は,公害防止事
業に係る事業活動を行った事業者と費用負担の対象となる事業者との
「事業者としての同一性」を要求しているにとどまり,原因者と負担者
の法人格が同一であることまでを要求しているものではないと解すべき
である。したがって,ある事業を行う事業者の法人格が継承されず,従
前とは法人格を異にするに至ったとしても,事業者としての社会的実体
が実質的に同一であると認められる限り,同法に基づく費用負担を免れ
ることはできない。
d控訴人は,本件決定1において,前記前提事実(5)イ(ア)のとおりの
理由を付しており,また,本件訴訟においても,被控訴人のみがE工場
において操業してきた旨主張してきたが,被控訴人は,これに対して何
ら認否,反論をしなかった。これによれば,被控訴人は,控訴人の主張
する事実を自白したとみなされるべきであり(民訴法159条1項),
DやGが被控訴人とは異なる法人であるとする被控訴人の主張は排斥さ
れるべきである。
また,被控訴人は,本件経営主体変更以前にE工場を経営していた企
業が被控訴人とは異なる法人である旨の主張をする機会が十分あったに
もかかわらず,長期間そのような主張をしてこなかったばかりか,本件
訴訟においては,大正時代から被控訴人がE工場において食塩電解工程
を継続して操業してきたなどというそれと矛盾する主張さえしてきた。
訴訟法上の信義則(民訴法2条)の観点からは,本件経営主体変更以前
にE工場を経営していた企業が被控訴人とは異なる法人である旨の主張
は許されるべきものではない。被控訴人は,本件訴訟において,主張の
大部分を本件対策地域の汚染の原因となったダイオキシン類が本件経営
主体変更前をも含むE工場の操業によって発生したものであるかどうか
に費やしてきた。これは,被控訴人が自らをDやGなどと同一の法人で
あると考えていたからに他ならない。
(被控訴人の主張)
a被控訴人の前身は,旧Kである。同社は,昭和20年3月29日開催
の臨時株主総会において,Iの化学工業に関する営業譲受(同年4月1
日予定)及び定款変更(商号及び目的の変更)を決議し,E工場などで
稼働していたIの化学部門を譲り受け,商号をJ株式会社と変更した。
被控訴人は,本件経営主体変更の際,初めてE工場を承継したのであり,
それ以前にE工場で事業を行っていたD,G,H等とは法人格を異にす
る。なお,本件経営主体変更は,Iから被控訴人への化学部門の営業譲
渡であり,同社との合併ではない。
b控訴人は,本件経営主体変更が法形式的には営業譲渡であるとしても,
実質的には人格が承継されている旨の主張をするが,法人格の承継は法
的な概念であり,営業譲渡が実質的には合併であって,法人格を承継す
るということはあり得ない。
c控訴人は,負担法の趣旨からして,大正時代から昭和45年まで社会
的実体が同一の企業としてE工場の操業によりダイオキシン類を排出し
てきた被控訴人が同法の費用負担の責任を負うべきである旨主張するが,
同法は,事業費の負担者を事業者と定め,原因者と法人格を同一とする
かどうかによってその範囲を限定しているのであるから,失当である。
d控訴人は,前記前提事実(5)イ(ア)の処分理由について擬制自白が成
立する旨主張するが,被控訴人は,上記処分理由について争っているの
であり,擬制自白は成立しない。また,本件訴訟においては,従前,本
件対策地域において確認されたダイオキシン類がE工場における食塩電
解工程により発生したものであるかが最大の争点とされたため,被控訴
人は,その点について集中して主張立証をしてきたが,原審裁判所の示
唆もあり,これに加えて本件経営主体変更以前にE工場を経営していた
企業の責任までは被控訴人が負担しない旨をも主張することとなったも
のであり,このことは信義則に反するものではない。
イIが行った事業活動を旧Kが行ったと同視し得る特段の事情があるか
(控訴人の主張)
仮に旧KとIとの間に法人格の同一性が認められないとしても,Iが行
った事業活動を旧Kが行ったと同視し得る特段の事情がある場合には,旧
KもIが行った事業活動について負担法上の責任を負うというべきである
ところ,このような特段の事情の有無は,事業承継の経緯,社会的実体と
しての同一性・連続性,営業上の債務の移転,当該事業者の自己認識等諸
般の事情を鑑みて判断すべきである。
そして,D,G及び旧Jと被控訴人とは社会的実体に変更がなく,連続
性を有する同一の事業者といえること,本件経営主体変更の前後において
組織的一体性が保たれており,大幅な社員等の変動はなかったこと,Jと
いう名称及び社章が一貫して使用されていること,旧Kは,本件経営主体
変更により,I化学部門の資産負債及び営業権の一切を譲り受けているこ
と,被控訴人は,自社をF(後にGと改称)等の系譜を引く企業であると
自認し,これを社史,株主及び投資家向け書類,ホームページ等に記載し
て,信用力の裏付けの一部としていること,被控訴人は,原審において,
本件経営主体変更の前後で法人格が異なる旨の主張をしていなかったこと
からすれば,本件においては上記特段の事情があるというべきである。
(被控訴人の主張)
ここで問題となる特段の事情とは,公害の原因者と同視し得る特段の事
情であり,事業の譲受人が譲渡人と実質的に同視できる事業を行っていた
か否かではないから,控訴人の主張は失当である。
ウ営業譲渡によって負担法上の責任が承継されるか
(控訴人の主張)
GとHとの関係及びIと旧Kとの関係がいずれも営業譲渡であったとし
ても,昭和12年及び昭和20年当時においては,営業譲渡は営業におけ
る地位の承継であると解されていた上,Hは,Gから債務一切を引き受け,
旧Kは,Iから,旧Jの社債にかかる債務を除く債務一切を引き受けてい
るのであるから,これらの営業譲渡によって負担法上の責任も引き継がれ
たというべきである。
(被控訴人の主張)
負担法における事業者負担は,旧公害対策基本法(昭和42年法律第1
32号。平成5年11月環境基本法の施行に伴い廃止された。)22条1
項の規定を根拠として事業者に課せられた公法上の負担であり,その性格
は原因者負担とされているところ,公害の原因となる事業を行っていた事
業者が公害防止事業に要する費用を負担させることができる事業者となる。
公害防止事業の施行者たる行政庁は,法律の規定と客観的な事実に基づ
いて,公害の原因者を特定し,費用を負担させる事業者を定めるのであり,
このような行政庁の専権に属する事項についての判断が,その行政処分を
受ける可能性のある当事者間の意思によって左右される余地はない。
したがって,仮に,営業譲渡に際して負担法上の地位を譲受人において
承継するとの合意をしていたとしても,そのような合意は当事者間での拘
束力を有するにすぎず,行政庁の判断を拘束することはあり得ないのであ
って,営業譲渡によって負担法3条に規定する当事者の地位が移転するこ
とはない。すなわち,公害の原因となる事業を行っていた事業者は,その
事業者以外にはあり得ないのであって,営業譲渡や事業譲渡によって,公
害の原因となっていた事業を行っていた事業者であるという地位が移転す
ることはないのである。
エ被控訴人が商法17条1項(同旨の内容を定める平成18年法律第87
号による改正前の26条1項を含む。以下同じ。)に基づく責任を負うか
(控訴人の主張)
Gは,昭和12年にHに吸収合併されたが,同社は,同年12月に社名
を「J株式会社」に改称した後,昭和18年4月にIに吸収合併されるま
で,「J株式会社」という商号を使用していた(旧J)。被控訴人は,昭
和20年4月以降,以前と同一の「J株式会社」という商号を使用してい
るから商法17条1項に基づく責任を負う。商法17条1項の対象となる
債務は,企業取引によって生じたものに限られず,その不履行に基づく損
害賠償債務や不法行為及び不当利得によって生じたものでもよいとされて
おり,負担法に基づく費用の負担もこれに該当する。被控訴人は,営業譲
受人が営業譲渡人の使用していた商号を引き続き使用する場合ではなく,
営業譲渡人が過去に一時使用したにすぎない商号を使用する場合には同項
の適用はない旨主張するが,本件は,従前から肥料等の製造販売において
国内有数の企業であった旧Jの信用を利用,維持し,その知名度を利用す
る目的のもとに,同じ商号を再び使用し,同一の社標を使用した場合であ
るから,商号の続用に当たると解すべきである。
したがって,被控訴人は,旧J又はその前身たる企業がE工場を操業し
ていた当時排出したダイオキシン類を原因としてこれらの企業が同法3条
の事業者として負うべき責任を負担するというべきである。
(被控訴人の主張)
控訴人は,商法17条1項により,旧Jが負担していた債務を被控訴人
が負う旨主張するが,同項の趣旨及び文理によれば,同項は営業譲受人が
営業譲渡人の商号を使用している場合に適用されるのであって,本件のよ
うに,営業譲渡人が過去に一時使用したにすぎない商号を営業譲受人が使
用する場合には適用されないことは明白である。また,営業上発生した債
務についての債権者の信頼の保護という同項の趣旨からすれば,負担法に
よる費用負担の債務を営業譲受人に負担させる必要はない。
(2)本件基準に複数の事業者が該当するとしても,被控訴人のみを負担者と
することができるか
(控訴人の主張)
仮に,被控訴人及びIが本件基準に該当するとしても,Iは,もともと
化学事業を行っている事業者ではなく,旧Jの吸収合併も,N内の組織再
編として,将来の分離を予定してあくまでも一時的な措置として行われ,
現にわずか2年で旧J部門が分離されていること,被控訴人自身が旧Jを
その前身と自称し,被控訴人の元社長や現社長も,旧Jと被控訴人とを同
一視していること,本件経営主体変更に際して,資産債務及び営業権の一
切が包括譲渡されていること,そのほか上記(1)イの(控訴人の主張)欄
記載のとおりの事情からすれば,E工場の操業者は実質的には被控訴人で
あったと評価できるのであり,処分行政庁としては,このような事情を負
担法5条に規定する「その他の事項」として考慮し,被控訴人の寄与度を
十割として,事業者負担金の全額を負担させることができるというべきで
ある。
(被控訴人の主張)
負担法5条により,事業者に負担金を負わせる決定をするに当たっては,
公害の原因が唯一の事業者によるものとして負担金を決定するのと,複数
の事業者が原因者であるとした上で,「特段の事情」という特殊な要因を
考慮して,そのうちの一事業者に負担金を負わせる決定をするのとは全く
異なる行政処分である。
同法は,事業者負担金の決定の手続について,施行者が審議会の意見を
きいて「費用を負担させる事業者を定める基準」,「負担総額及びその算
定基礎」等を明示した費用負担計画を定めた上で(同法6条),施行者が
負担総額を配分して各事業者が負担する事業者負担金の額を定めるものと
している(同法9条)。施行者は,費用を負担させる事業者を定めるにあ
たっては,すでに定めてある費用負担計画のうちの「費用を負担させる事
業者を定める基準」に従って行わなければならないとされているし,費用
負担計画所定の「費用を負担させる事業者を定める基準」を変更しようと
する場合には,施行者は審議会の意見をきかなければならないとされてい
る(同法8条)。
本件基準に複数の事業者が該当するにもかかわらず,そのうちの被控訴
人だけに事業負担金を課すとすれば,それは本件費用計画所定の本件基準
を変更しなければならない。
同法5条の適用に当たって,他の事業者の負担分も負担させることが可
能であるなどという論理は存在しないし,仮に存在し得るとすると,当該
事業者が,他の事業者と法人格が同一であると認められるような特段の事
情が必要であって,控訴人があげる事情などはこれに当たるものではない。
(3)本件対策地域のダイオキシン類による土壌汚染が,被控訴人及び被控訴
人以外にE工場を経営していた企業の事業活動により排出されたダイオキ
シン類によるものといえるかどうか
この点に関する当事者の主張は,原判決別紙「争点に関する当事者の主
張の要旨」の35頁23行目から55頁17行目までに記載のとおりであ
るから,これを引用する。
(4)控訴人による処分理由の追加が許されるか
(控訴人の主張)
ア本件公害防止事業は,覆土等により暴露経路を遮断する対策事業を行い,
対策事業実施後の措置として,覆土等の効果を維持するように適切に管理
するというものであるから,本件公害防止事業にかかる費用負担を課され
る事業者とは,ダイオキシン法29条1項の規定に基づきダイオキシン類
土壌汚染対策地域に指定された北区αの区域を含む土地(以下「本件地
域」という。)における表層土壌のダイオキシン類等の汚染物質を生成,
排出した事業者となるところ,本件地域における盛土及び表層部分に分布
するダイオキシン類は,ほぼすべてが第2次世界大戦終了後に生成,排出
されたものであるから,被控訴人のみが本件公害防止事業の費用を負担す
べき事業者となるところ,控訴人が,本件決定1を行った後に,本件地域
の土壌ダイオキシン類濃度実測値の全1242データを分析することによ
りダイオキシン類が排出された時期を推定することを目的とした調査を実
施した結果,本件地域における盛土及び表層部分に分布するダイオキシン
類は,ほぼすべてが第2次世界大戦終了後に生成,排出されたものである
ことが判明した。
そうすると,負担法に基づき本件公害防止事業の費用を負担すべき事業
者は,第2次世界大戦終了後にE工場を操業していた被控訴人のみとなる。
控訴人は,このように本件決定1の理由を追加(以下「本件処分理由の
追加」という。)する。
イ一般に,取消訴訟においては,別異に解すべき特別の理由のない限り,
行政庁は当該処分の効力を維持するための一切の法律上及び事実上の根拠
を主張することが許されているところ,本件において本件処分理由の追加
が許されないとする理由はない。
ウ審議会の調査審議事項は,公害防止事業の種類,費用を負担させる事業
者を定める基準,公害防止事業費の額,負担総額及びその算定基礎等に限
定されている(負担法6条1項,2項,8条1項)ところ,本件処分理由
の追加は,これらの事項についての変更をもたらすものではないから,審
議会の意見聴取を要するものではない。
費用を負担させる事業者を定める基準についてみても,本件基準が定め
る事業者が,本件地域の表層土壌のダイオキシン類汚染を引き起こした事
業者を指し,E工場を撤去するまで操業していた被控訴人がこれに該当す
ることは本件費用負担計画上明らかであり,処分行政庁は,もとよりその
認識で本件費用負担計画を策定し,本件決定を行ったものであり,北区環
境審議会も,このように解することは本件費用負担計画に合致するもので
あるとの見解を示している。
エ仮に何らかの瑕疵があるとしても,処分行政庁は,本件決定1の当時,
その調査能力及び調査コストを勘案した合理的な調査義務を尽くしており,
上記アのように解することは,覆土の性質や負担法の解釈から同然に導か
れるものであるし,事後的ではあっても北区環境審議会で審議がなされ,
上記のような解釈が明確になされた以上,重大な瑕疵があるとまではいえ
ない。
オまた,瑕疵ある行政処分について,その治癒や転換を安易に認めること
は適当でないとしても,手続をやり直しても処分の内容に全く変更が期待
できないような例外的場合にはこれを認めるべきであるところ,北区環境
審議会の上記見解からすれば,手続をやり直したとしても処分の内容が変
更されることは全く期待できないから,瑕疵は治癒されたというべきであ
る。
(被控訴人の主張)
事業者負担金の決定手続においては,審議会の意見をきいた上で,費用
負担計画を定めなければならず(負担法6条),この費用負担計画に定め
る「費用を負担させる事業者を定める基準」は,通常の誤差あるいは端数
処理に近い場合を除いて,その変更についても審議会の意見をきかないで
変更することができない厳格な手続とされている(同法8条)。このよう
な趣旨に照らすと,「費用を負担させる事業者を定める基準」を本件対策
地域を汚染した全ての事業者と定めるのと,本件対策地域のうち盛土及び
表層部分を汚染した事業者に限定するのとではきわめて大きな基本的相違
が存在することとなるので,このような変更をするためには,当然,審議
会を再度開催して,その意見をきかなければならない。そのような手続を
経ない決定は,明らかに違法である。
そうすると,仮に,控訴人が本件処分理由の追加で述べているような決
定をするためには,本件決定を取り消して,改めて審議会を開き,その意
見を聴取した上で,これを決定しなければならない。このような手続を経
て改めてなされた決定は,本件決定とは別の決定となることは当然である。
そうすると,理由の追加とか,差換えなどによって認められる範囲内のも
のではない。
(5)その余の争点,すなわち,①被控訴人のように負担法施行前の事業活動
により,事業所内にのみ公害を発生させた者が負担法3条の「事業者」に該
当するか,また,被控訴人が負担法3条の「事業者」に該当すると解するこ
とが憲法29条,84条や行政法令の不遡及原則に反しないかどうか,②本
件決定1付記部分(今後改めて費用負担計画が策定される場合がある旨の内
容)が行政行為の附款として無効でないかどうか,③本件決定における理由
付記不備の瑕疵の有無に関する当事者の主張は,原判決別紙「争点に関する
当事者の主張の要旨」の55頁18行目から61頁24行目までに記載のと
おりであるから,これを引用する。
第3当裁判所の判断
1前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認め
られる。
(1)本件対策地域及び現在のα団地の区域は,明治13年頃には田又は畑で
あったが,明治29年頃,Dにより,一部(おおむね現在のα団地の北側3
分の2の部分に当たる。)にE工場が建設された(乙12の2,5,6,乙
28,1028)。
Dは,大正6年,E工場において,タウンセンド式(フーカーF型)の電
解法による塩素(さらし粉)及び苛性ソーダの生産設備(電解槽40基を含
む。)を建設して操業を開始し,大正8年には,電解槽40基を追加するな
ど生産設備を増強した(乙28)。
(2)明治20年に設立されたFは,その後に他社を吸収合併したり商号を変
更したりして,Gとなり,大正12年5月頃,D他1社を吸収合併し,E工
場の経営を引き継いだ。同年9月1日の関東大震災の際,E工場においては,
電解槽が全部将棋倒しとなるなどの被害を受けた。(乙28,1028)
E工場の敷地は,大正15年ころまでには,拡大されて本件対策地域及び
現在のα団地の区域のほぼ全体に及び,現在のC公園(南側)の部分以外の
本件対策地域の全体に工場の建物が建てられていた。また,Gは,大正15
年秋に,E工場の電解槽を増設して132台とした。(乙11の4,乙2
8)
昭和6年ころには,本件対策地域のほぼ全体に工場建物が建ち並んでおり,
現在のC公園(南側)からC公園(北側)の一部にかけて電槽室が存在した。
また,Gは,E工場において,昭和8年にビリター・ジーメンス電解槽84
台を新設し,昭和12年にフーカーF型の電解槽をフーカーS型に変えた
(乙11の4,乙12の7,8,乙28)。
(3)Gは,昭和12年,O株式会社(以下「O」という。)が改称したHに
包括的に営業を譲渡して持株会社であるM株式会社(以下「M」という。)
と合併し,又は,Oが改称したHに吸収合併され(このいずれであるかにつ
いては当事者間に争いがある。)Nの傘下に入った。Hは,同年,J株式会
社(旧J)と改称した。(乙12の2,乙1028,1029,1031,
1032,1045,丙5,丙6の1ないし3,丙7ないし10)
(4)旧Jは,昭和18年3月頃,Nの中核企業であったIに吸収合併された
(乙12の2,乙1028,1031,丙2,丙3の1ないし3,丙4の1,
2)。
(5)他方,大正10年4月に設立されたLは,E工場に隣接する場所に工場
を有し,E工場から産出される水素を利用して事業を行っていた。Lは,大
正12年4月,P株式会社を合併してQ株式会社と改称したものの,昭和2
年3月,親会社の倒産により,Gの傘下に入り,昭和6年12月,R株式会
社と改称した。
また,N傘下にあったS株式会社は,昭和12年3月,他の会社と統合し
て,K株式会社(以下「旧々K」という。)となった。
上記(3)のとおりGがN傘下に入ったのを機に,昭和12年6月,R株式
会社は旧々Kと合併し,さらに,同月,K株式会社(旧K)と改称した。
(以上につき甲48ないし52,乙12の2,乙1028,1029,1
032,1038)
(6)昭和20年4月,旧Kは,Iからその化学工業に関する営業を譲り受け,
又は,同社の化学部門と合併し(このいずれであるかについては当事者間に
争いがある。本件経営主体変更),さらに,J(被控訴人)と改称した(甲
53,丙1)。
(7)被控訴人は,昭和24年,企業再建整備法に基づき,油脂等の部門を分
離し,分離された会社は,K株式会社となった(乙1029)。
(8)昭和41年ころにおいても,本件対策地域には工場の建物が建ち並び,
上記(2)と同じ場所に電槽室も存在した(乙11の4,同12の9,11)。
(9)本件対策地域の土地は,昭和44年9月13日に被控訴人から住宅公団
に売却された。本件対策地域は,昭和46年ころには更地となり,その後,
住宅公団によって建設されたα団地内の公共施設(学校,保育園,公園等)
が存在している(乙11の4,乙12の4)。
2負担法3条の事業者と本件費用負担計画について
負担法3条は,公害防止事業に要する費用を負担させることができる事業者
について,当該公害防止事業に係る地域において当該公害防止事業に係る公害
の原因となる事業活動を行い,又は行うことが確実と認められる事業者とする
旨定めている。同条に基づく事業者の費用負担は,環境基本法8条1項に規定
する事業者の責務を根拠として同法37条の規定により事業者に課せられる公
法上の特別負担であり,その性質は,広い意味での原因者負担であるというべ
きであるから,負担法3条の事業者とは,公害の原因となる事業活動を過去,
現在,未来のいずれかの時点で行い,又は行うことが確実な者自身をいうもの
と解される。したがって,公害の原因となる事業活動を一定期間にわたり法人
格を異にする複数の事業者が順次承継して行った場合,負担法3条の事業者は
複数存在することになり,その内の一事業者は,同事業者が事業活動を行った
期間においてだけ同条の事業者となり,それ以前の事業活動に係る期間につい
ては,この事業者が前事業者の事業活動を行ったのと同視し得る特段の事情の
ない限り,同条の事業者には該当しないというべきである。
前記前提事実(2)ウ及び(4)カによれば,本件公害防止事業は,ダイオキシン
類により汚染された本件対策地域の土壌について,ダイオキシン類への暴露を
防ぐための覆土等を行うものであり,また,上記1(9)のとおり,本件対策地
域には住宅団地内の公共施設が存在しており,そこでは現在ダイオキシン類が
発生するような事業活動が行われておらず,今後そのような事業が行われるこ
とが予定されていないことも明らかであることからすれば,本件公害防止事業
に係る同条の事業者となり得るのは,本件対策地域の汚染の原因となっている
ダイオキシン類を排出する事業活動を過去に行った事業者に限られることとな
る。
そして,前記前提事実(4)のとおり,北区環境審議会は,本件対策地域にお
ける土壌汚染の原因が専ら被控訴人と同一の法人格を有する事業者によって創
業されてきたE工場にあるとの判断を前提として,「費用を負担させる事業者
を定める基準」を「ダイオキシン類対策特別措置法第29条1項の規定に基づ
きダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定された北区αの区域を含む土地にお
いて,工場を撤去するまで,事業活動に伴い製造施設による操業を行い,ダイ
オキシン類を排出し,土壌の汚染を引き起こした事業者」と定めるよう答申し,
これを受けて,処分行政庁も,同基準を「ダイオキシン法29条1項の規定に
基づきダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定された北区αの区域を含む土地
において,工場を撤去するまで,工場の操業に伴いダイオキシン類を排出し,
土壌の汚染を引き起こした事業者」(本件基準)と定めて本件費用負担計画を
策定しているところ,本件基準には,特定の期間にのみE工場を操業していた
事業者に限定して本件公害防止事業の費用負担者とするという趣旨の記載はな
いし,上記のとおり,同審議会が上記答申をするに際して,被控訴人と同一の
法人格を有する事業者がE工場を操業してきたと判断していたこともあって,
本件費用負担計画が策定されるまでの間に,本件対策地域における土壌汚染が,
E工場が操業されていた特定の期間の操業に限って原因となっていたと判断さ
れた様子もない上,処分行政庁も,上記答申と同様の内容で本件基準を策定し,
前記前提事実(5)のとおり,特に期間の限定を付すことなく,被控訴人のみが
一貫してE工場を操業してダイオキシン類を排出し,本件対策地域の土壌を汚
染したとして本件処分を行っていることからすれば,本件基準は,特に期間を
限定することなく,E工場の操業が開始されてから終了されるまでの間に,同
工場を操業していた事業者に本件公害防止事業の費用を負担させるという趣旨
で策定されたものと認められるから,仮にE工場が法人格を異にする複数の事
業者によって操業されていたとすれば,これらすべての事業者が本件基準に該
当することになるものと解される。
3争点(1)アについて
(1)前記前提事実(5)のとおり,処分行政庁は,本件公害防止事業の費用を負
担させる事業者として被控訴人のみを定めているところ,被控訴人は,この
点について,Dが明治29年頃に同工場を建設して以来,同工場が被控訴人
と法人格を同一にする事業者によって操業されてきたことによるものである
と主張し,具体的には,上記1(3)におけるGからHへの営業の移転及び同
(6)におけるIから旧Kへの営業の移転はいずれも合併によるものであった
と主張する。
しかし,証拠(乙1028,1032,1045,丙5,丙6の1ないし
3,丙8ないし10)によれば,Gは,昭和12年,Oが改称したHに包括
的に営業を譲渡し,持株会社であるMと合併したことが認められるから,H
がGを吸収合併したとする控訴人の主張は採用できない。
また,証拠(丙1)によれば,旧Kは,Iからその化学工業に関する営業
を譲り受けたことが認められるから,旧KとIの化学部門が合併したとする
控訴人の主張は採用できない。
したがって,被控訴人と法人格を同一にする事業者によってE工場が操業
されてきたとする控訴人の主張は理由がなく,E工場は,G,I及び被控訴
人という法人格を異にする事業者によって操業が行われてきたと認めること
ができる。
(2)なお,控訴人は,GからHへの営業の移転及びIから旧Kへの営業の移
転が形式的には営業譲渡であったとしても,実質的には合併というべきもの
であった旨主張するが,法人格の承継は法的な概念であり,営業譲渡が実質
的には合併であって,法人格を承継するということはあり得ないというべき
である。
また,控訴人は,上記営業譲渡の前後において,事業者としての社会的実
体が実質的に同一であるから,被控訴人は本件経営主体変更前に排出された
ダイオキシン類に関しても負担法3条の事業者となるなどと主張するが,上
記2に説示したとおり,公害の原因となる事業活動を一定期間にわたり法人
格を異にする複数の事業者が順次承継して行った場合,その内の一事業者が
自ら事業活動を行った期間以前の事業活動に係る期間についても同条の事業
者となるのは,この事業者が前事業者の事業活動を行ったのと同視し得る特
段の事情があるときに限られるというべきところ,本件においてそのような
特段の事情が認められないことは後記4のとおりである。
控訴人のこの点の主張は採用できない。
(3)控訴人は,被控訴人のみがE工場で操業してきたという事実を被控訴人
が争わなかったとして,この事実を自白したとみなされる(民訴法159条
1項)と主張する。
しかし,被控訴人は,原審の弁論終結までに上記事実と反する主張をして
いるのであるから,同項の効果は生じない。
また,控訴人は,本件訴訟の経緯に鑑み,被控訴人が,本件経営主体変更
以前のE工場の経営主体が被控訴人とは異なる法人である旨の主張をするこ
とが訴訟上の信義則(民訴法2条)に反し許されないと主張する。
確かに,控訴人が,本件決定の適法性の主張の前提として,被控訴人及び
その前身たる事業者だけが明治時代以降E工場を経営してきた旨主張したこ
と,被控訴人も,原審において,平成22年6月2日に一旦弁論終結がされ
るまでは,その点について特に争っていなかったことは原審記録から明らか
である。
しかし,被控訴人は,平成22年6月2日の原審における弁論終結の前の
時点で,本件経営主体変更時に法人格が承継されたという事実を明示的に認
めていたわけではなく,この点は単に争点とされていなかったにすぎない。
また,行政処分の取消訴訟においては,処分の適法性について控訴人が主張
立証責任を負うべきであるところ,この点が争点とされなかったことが専ら
被控訴人の責めに帰すべき事由によるものであったと解すべき事情はないし,
本件決定の前提である被控訴人と同一の法人格を有する事業者だけがE工場
を経営してきたという点は上記(1)のとおり誤りなのであるから,これらに
よれば,原審における弁論再開の後に,被控訴人において被控訴人が本件経
営主体変更前にE工場を経営していた事業者と法人格を異にする旨主張する
ことが信義則に反して許されないということはできない。
4争点(1)イについて
(1)控訴人は,仮にIと旧Kとの間に法人格の同一性が認められないとして
も,Iが行った事業活動を旧Kが行ったと同視し得る特段の事情があると主
張する。
確かに,前記1の事実及び証拠(乙12の2,乙1028,1030,1
034の1,2)によれば,E工場においては,明治時代から昭和45年頃
まで,その工場の区域を拡大させつつ,食塩電解工程を含む事業が行われ,
同種の商品が生産されてきていること,被控訴人の社史においてもE工場の
創立以来の経緯が記載されていること,Gの社章と被控訴人の社章が同一の
デザインのものであることが認められ,これらの事実によれば,E工場にお
ける事業については,明治以来,その経営主体となる企業は変動しつつも,
連続性を有する一つの事業部門として,その事業活動が行われてきたという
ことができる。
しかし,企業においてある事業部門がある程度の独立性をもって存在して
いるとしても,その経営方針を最終的に決定するのは一般的には企業自体で
あるし,また,その収支が帰属するのも企業自体であることからすれば,そ
の事業により生じた公害の責任を負うべき原因者が,その公害を発生させた
企業であるのが原則であることに変わりはなく,法人格を異にする者が排出
したダイオキシン類についても被控訴人が負担法の責任を負うべき特段の事
情があるというためには,法人格が全くの形骸にすぎない場合や法律の適用
を回避するために新たな会社を設立したなど法人格を濫用したというべき場
合等でなければならないというべきである。
この点に関し,控訴人は,このような特段の事情の有無は,事業承継の経
緯,社会的実体としての同一性・連続性,営業上の債務の移転,当該事業者
の自己認識等諸般の事情を鑑みて判断すべきであると主張するが,独自の見
解といわざるを得ず,採用できない。
(2)そして,上記1(4)及び(5)によれば,Iと旧Kは,本件経営主体変更
時においては,共にNの傘下にあったことが認められるものの,法人格が全
くの形骸にすぎなかったという事情は見当たらない。
また,本件経営主体変更の経緯についてみるに,証拠(乙1028,10
31,1045,丙2,丙3の3,丙4の2)によれば,太平洋戦争による
戦時統制経済下において,炭鉱業と化学業を兼営していた旧Jは,石炭の増
産の要求に応えるために大資本を有するIと合併することが相当であるとさ
れ,この際に,旧Jが炭鉱業と化学業を兼営する効果が失われてきていたこ
とから化学部門を独立させて別会社を設立することも検討されたものの,化
学部門を独立させる基盤が十分でなかったことから,将来は分離独立させる
方針の下,化学部門も併せてIに合併されたこと,その後,N内での事業再
編といった観点もあって,合併の約2年後に至り,Iの化学部門が同じく化
学業を営んでいた旧Kに営業譲渡されたことが認められる。このような経緯
に照らしてみれば,本件経営主体変更において法人格の濫用があったという
ことはできない。
(3)したがって,E工場における事業がある程度の独立性を持って引き続き
行われてきたという事情があったとしても,Iが行った事業活動を旧Kが行
ったと同視し得る特段の事情があるということはできない。
5争点(1)ウについて
控訴人は,Hは,Gから債務一切を引き受け,旧Kは,Iから,旧Jの社債
にかかる債務を除く債務一切を引き受けているのであるから,これらの営業譲
渡によって負担法上の責任も引き継がれたというべきである旨主張する。
しかし,上記2のとおり,同法3条に基づく事業者の費用負担は,環境基本
法8条1項に規定する事業者の責務を根拠として同法37条の規定により事業
者に課せられる公法上の特別負担であり,その性質は,広い意味での原因者負
担であると解され,負担法3条は,このような趣旨から,公害防止事業に要す
る費用を負担させることができる事業者について,当該公害防止事業に係る地
域において当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行い,又は行
うことが確実と認められる事業者に限定しているのである。したがって,本件
公害防止事業の施行者である処分行政庁としては,客観的な事実関係等を前提
として,本件対策地域の土壌を汚染させた原因者たる事業者を特定し,この事
業者に同事業の費用を負担させることができるのであり,仮に,同法の責任を
負う地位を他に譲渡することが可能であり,このような地位を譲渡することが
上記各営業譲渡の際に各契約当事者間で合意されていたとしても,譲渡人たる
上記各事業者が本件土壌を汚染させたという事実自体がなくなるものではない
から,これらの合意が,同法に基づいて本件公害防止事業の費用を負担させる
事業者を決定する処分行政庁の判断を拘束すると解すべき理由はなく,上記合
意がされたことによって,上記地位を譲り受けた者のみが同法に基づく責任を
負うと解すべき根拠もない。
しかも,公害防止事業の施行者は,費用負担計画を定めた(同法6条)上,
同計画に基づいて費用を負担させる事業者及び事業者負担金の額を決定する
(同法9条)のであり,施行者によるこのような決定がされることによって初
めて費用を負担すべき事業者の債務が発生するものと解されるから,施行者に
よる同決定以前にされた営業譲渡によってこのような債務が譲受人に移転する
と解することはできないというべきである。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
6争点(1)エについて
控訴人は,商法17条を根拠として,被控訴人は,旧J又はその前身たる企
業が負担すべき負担法3条の事業者としての責任を負うべきであると主張する。
しかし,商法17条1項の趣旨及び文理によれば,同項は営業譲受人が営業
譲渡人の商号を使用している場合に適用されるのであって,本件のように,営
業譲渡人が過去に一時使用したにすぎない商号を営業譲受人が使用する場合に
は適用されないというべきである。また,商法17条1項が適用されることを
前提としても,被控訴人と法人格を異にするG及びIが負担法3条の事業者と
しての責任を免れることにならないことは,上記5に説示したところに照らし,
明らかである。
7争点(2)について
以上によれば,本件基準には,法人格を異にするG,I及び被控訴人が該当
することになるが,控訴人は,本件基準に複数の事業者が該当するとしても,
処分行政庁は,負担法5条に基づいて,被控訴人のみに負担金を課すことが許
されると主張する。
しかし,同法は,公害防止事業の費用を負担すべき事業者を決定する手続に
ついて,施行者が,審議会の意見をきいて,公害防止事業の種類,費用を負担
させる事業者を定める基準,公害防止事業費の額,負担総額及びその算定基礎
を明示した費用負担計画を定めた(同法6条)上で,施行者が,当該費用負担
計画に基づいて,費用を負担させる事業者及び事業者負担金の額を定める(同
9条)ものとしているところ,このように費用負担計画の決定が審議会の諮問
事項とされているのは,公害防止事業の遂行及びこれに関する費用の負担が,
対象となる事業者のみならず,公衆の重大な利害にかかわるとともに,公害の
原因についての科学的及び専門的な判断を伴うことから,その原因となる事業
活動を行う事業者をどのように把握するか,また,その負担総額をどの程度と
することが妥当かといった事業の根幹となる事項について,地域の実情に詳し
い市民や学識経験者等で構成する第三者的な諮問機関からの意見を参考にする
ことにより,施行者の恣意を抑制し,費用負担に関して施行者が定める計画が
適正なものとなるようにするためであり,費用を負担させる事業者と事業負担
金の額の決定が審議会の諮問事項とされていないのは,費用負担計画で定めら
れた基準によって明確となった事業者間で負担総額をどのように配分するかと
いう問題が技術的な問題にすぎないことによるものと解される。
そして,上記のとおり,施行者は,費用負担計画に基づいて,費用を負担さ
せる事業者を定めなければならないのであるから,費用負担計画に定められた
「費用を負担させる事業者を定める基準」に複数の事業者が該当するのであれ
ば,施行者としては,費用負担計画に基づいて,費用を負担させる事業者とし
てこの複数の事業者を決定すべきことになるものと解するのが相当である。こ
の場合,事業者負担金の配分は,費用負担計画が定める負担総額の範囲内で,
同法5条に定める基準を考慮して施行者が決定することとなるが,施行者が
「費用を負担させる事業者を定める基準」に該当する事業者のうちの一部の者
について事業負担金を負担させないこととすることは,審議会の意見をきいて
決定された費用負担計画に基づかずに費用を負担する事業者を決定することと
なるから許されないというべきであり,仮に施行者がそのような判断を相当と
するのであれば,同法8条に基づき,審議会の意見をきいた上で,費用負担計
画をそのような内容のものに変更する手続を執るべきものと解される。
そうすると,本件基準にG,I及び被控訴人が該当すると解される以上,本
件対策計画の施行者である処分行政庁としては,本件費用負担計画に基づいて,
上記各事業者を本件対策計画の費用を負担させる事業者として決定すべきこと
となるのであって,被控訴人のみに同費用を負担させることは許されないとい
うべきであり,仮に,控訴人が指摘するような事情を考慮して,処分行政庁が
被控訴人のみに費用を負担させるのが相当であると判断するのであれば,同法
8条に基づいて,審議会の意見をきいた上で,費用負担計画をそのような内容
のものに変更する手続を執る必要があるというべきである。なお,同法8条1
項ただし書によれば,費用負担計画の変更が軽易なものにとどまる場合には審
議会の意見をきく必要はないが,控訴人が指摘するような事情を考慮して被控
訴人のみに費用を負担させるということは,個々の事業者の負担金額に直接か
かわる事項であるから,これを軽易な変更に当たると解することはできない。
したがって,控訴人の主張は理由がない。
8争点(3)について
控訴人は,処分理由を追加して,本件公害防止事業は,覆土等により暴露経
路を遮断する対策事業を行い,対策事業実施後の措置として,覆土等の効果を
維持するように適切に管理するというものであるから,本件公害防止事業にか
かる費用負担を課される事業者とは,本件地域における表層土壌のダイオキシ
ン類等の汚染物質を生成,排出した事業者となるところ,本件地域における盛
土及び表層部分に分布するダイオキシン類は,ほぼすべてが第2次世界大戦終
了後に生成,排出されたものであるから,被控訴人のみが本件公害防止事業の
費用を負担すべき事業者となると主張する。
しかし,本件基準が,特に期間を限定することなく,E工場の操業が開始さ
れてから終了されるまでの間に同工場を操業していたすべての事業者を対象と
していることは上記2のとおりであり,第2次世界大戦終了時以降に限定して
E工場を操業していた事業者のみが本件基準に該当すると解することはできな
いから,控訴人の上記主張のように解するためには本件基準自体を改める必要
があると解される。
この点に関し,控訴人は,本件基準が定める事業者が,本件地域の表層土壌
のダイオキシン類汚染を引き起こした事業者を指し,E工場を撤去するまで操
業していた被控訴人がこれに該当することは本件費用負担計画上明らかであり,
北区環境審議会も同趣旨の見解を示しているとして,本件処分理由の追加によ
っても本件基準の変更をもたらすものではない旨主張する。
確かに,本件公害防止事業は,ダイオキシン類により汚染された本件対策地
域の土壌について,ダイオキシン類への暴露を防ぐための覆土等を行うという
ものであるから,本来は,本件地域の表層土壌を汚染させた事業者を特定し,
これに本件公害防止事業の費用を負担させるのが相当であったと解されるが,
上記2のとおり,控訴人が主張するような内容で本件基準が定められたと解す
ることはできないし,控訴人自身も,原審において,上記のような主張を全く
せず,むしろ本件基準にはE工場の操業が開始されてから終了されるまでの期
間に同工場を操業していた事業者が該当することを前提とした主張をしていた
のであるから,上記のような控訴人の主張を採用することはできない。
そうすると,処分行政庁としては,本件決定を取り消し,改めて控訴人の上
記主張に沿った費用負担計画を策定するか,本件費用負担計画を控訴人の上記
主張に沿った内容のものに変更した上で,本件公害防止事業の費用を負担する
事業者を決定する必要があり,しかも,いずれの場合においても審議会の意見
をきく必要があるところ,施行者の恣意を抑制し,費用負担に関して施行者が
定める計画が適正なものとなるようにするために審議会に意見をきく手続が設
けられていることは上記7のとおりである。
したがって,追加された処分理由によってされる処分と本件訴訟で取消しを
求められている本件処分とは,別個の費用負担計画に基づく別個の処分という
べきであるから,処分としての同一性自体が失われているといわざるを得ない
し,本件処分理由の追加は,審議会に意見をきく手続を経ず,適正な費用負担
計画を定めることもないまま本件決定と異なる新たな処分をしようとするに等
しいものとなるから,仮に,控訴人が主張するとおり,結果的に本件決定と同
じ内容の処分がされる可能性が高いとしても,このような本件処分理由の追加
は許されないというべきである。
9結論
以上によれば,被控訴人のみを本件公害防止事業の費用の負担者と定め,ま
た,これに基づいて費用の負担額を定めた本件決定は,本件費用負担計画に基
づかない違法なものであるといわざるを得ないから,その余の点について判断
するまでもなく,本件決定の取消しを求める被控訴人の請求は理由がある。
よって,原判決は結論において相当であり,本件控訴は理由がないから棄却
することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第19民事部
裁判長裁判官青柳馨
裁判官生島弘康
裁判官土田昭彦
(別紙)
関係法令の定め
1ダイオキシン法の定め
(1)都道府県知事は,当該都道府県の区域内においてダイオキシン類による土
壌の汚染の状況が7条の基準のうち土壌の汚染に関する基準を満たさない地域
であって,当該地域内の土壌のダイオキシン類による汚染の除去等をする必要
があるものとして政令で定める要件に該当するものをダイオキシン類土壌汚染
対策地域(以下「対策地域」という。)として指定することができる(29条
1項)。
(2)都道府県知事は,対策地域を指定したときは,遅滞なく,ダイオキシン類
土壌汚染対策計画(以下「対策計画」という。)を定めなければならない(3
1条1項)。
(3)対策計画においては,次に掲げる事項のうち必要なものを定めるものとす
る(31条2項)。
ア対策地域の区域内にある土地の利用の状況に応じて,政令で定めるところ
により,次に掲げる事項のうち必要なものに関する事項(同項1号)
(ア)ダイオキシン類による土壌の汚染の除去に関する事業の実施に関する
事項(同号イ)
(イ)その他ダイオキシン類により汚染されている土壌に係る土地の利用等
により人の健康に係る被害が生ずることを防止するため必要な事業の実
施その他必要な措置に関する事項(同号ロ)
イダイオキシン類による土壌の汚染を防止するための事業の実施に関する事
項(同項2号)
(4)対策計画に基づく事業については,負担法の規定は,事業者によるダイオ
キシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係が科学的知見
に基づいて明確な場合に,適用するものとする(31条7項)。
2負担法の定め
(1)この法律において「公害防止事業」とは,次に掲げる事業であって,事業
者の事業活動による公害を防止するために事業者にその費用の全部又は一部を
負担させるものとして国又は地方公共団体が実施するものをいう(同法2条2
項)。
ア(略)(同項1号,2号)
イ公害の原因となる物質により被害が生じている農用地若しくは農業用施設
又はダイオキシン類(ダイオキシン法2条1項に規定するダイオキシン類を
いう。)により土壌が汚染されている土地について実施される客土事業,施
設改築事業その他の政令で定める事業(同項3号)
ウ(略)(同項4号,5号)
(2)公害防止事業に要する費用を負担させることができる事業者は,当該公害
防止事業に係る地域において当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活
動を行い,又は行うことが確実と認められる事業者とする(同法3条)。
(3)公害防止事業につき事業者に負担させる費用の総額(以下「負担総額」と
いう。)は,公害防止事業に要する費用で政令で定めるもの(以下「公害防止
事業費」という。)の額のうち,費用を負担させる全ての事業者の事業活動が
当該公害防止事業に係る公害についてその原因となると認められる程度に応じ
た額とする。(同法4条1項)
(4)公害防止事業が上記(1)イ等に係る公害防止事業である場合において,その
公害防止の機能以外の機能,当該公害防止事業に係る公害の程度,当該公害防
止事業に係る公害の原因となる物質が蓄積された期間等の事情により上記(3)
の額を負担総額とすることが妥当でないと認められるときは,上記(3)の規定
にかかわらず,上記(3)の額からこれらの事情を勘案して妥当と認められる額
を減じた額をもって負担総額とする。(同条2項)
(5)ア施行者は,公害防止事業を実施するときは,審議会の意見をきいて,当
該公害防止事業に係る費用負担計画を定めなければならない。(6条1項)
イ前項の費用負担計画に定める事項は,次のとおりとする。(同条2項)。
(ア)公害防止事業の種類
(イ)費用を負担させる事業者を定める基準
(ウ)公害防止事業費の額
(エ)負担総額及び算定基礎
ウ上記イ(イ)の費用を負担させる事業者を定める基準は,工場又は事業場の
所在する区域,業種,公害の原因となる施設の種類及び規模その他の事項に
より,事業者の範囲が明確で,かつ,妥当なものとなるよう定めるものとす
る。(同条3項)
エ上記イ(ウ)及び(エ)の公害防止事業費の額及び負担総額を定める場合にお
いて,これらの額のうち当該公害防止事業費の額及び負担総額を定める場合
において,これらの額のうちに当該公害防止事業に係る施設の管理に要する
毎年度の費用(以下「管理費」という。)が含まれているときは,当該施設
の設置に要する費用(以下「設置費」という。)と管理費に区分するものと
する。(同条4項)
オ(略)(同条5項)
(6)ア施行者は,上記(5)イの費用負担計画を変更しようとするときは,審議会
の意見をきかなかれければならない。ただし,その変更が軽易である場合は,
この限りでない。(同法8条1項)
イ(略)(同条2項)
(7)施行者は,6条1項の規定により費用負担計画を定めたときは,9条2項
に規定する者を除き,当該費用負担計画に基づき費用を負担させる各事業者及
び事業者負担金の額(負担総額が設置費と管理費とに区分されているときは,
設置費に係る事業者負担金の額。以下この条において同じ。)を定めて,当該
各事業者に対し,その者が納付すべき事業者負担金の額及び納付すべき期限そ
の他必要な事項を通知しなければならない(同法9条1項)。
3公害防止事業費事業者負担法施行令1条3項の定め
上記2(1)イの政令で定める事業は,次のとおりとする。
(1)(略)(同項1号,2号)
(2)ダイオキシン類による土壌の汚染の状況がダイオキシン法7条の基準のう
ち土壌の汚染に関する基準を満たさない地域であって,上記1(1)の政令で定
める要件に該当する地域内にある土地について行う上記1(3)ア(ア)及び(イ)
並びにイに規定する事業(事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン
類による土壌の汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合において
実施されるものに限る。)(同項3号)

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