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平成16年2月13日宣告 裁判所書記官 簑田直美
平成14年(わ)第599号,第602号,第701号,平成15年(わ)第256号
判        決
主        文
1 被告人Aを懲役8年に,被告人Bを懲役6年に,被告人Cを懲役5年に処す
る。
2 未決勾留日数中,被告人A,被告人Bに対しては各460日を,被告人Cに対
しては510日を,それぞれその刑に算入する。
理        由
(犯罪事実)
第1 被告人3名は,Dと共謀の上,
1 平成13年12月10日午後11時30分ころ,福岡県中間市a町b番c号所
在のE学園裏門前付近路上において,F(当時49歳)に対し,被告人Bが金属製
懐中電灯(長さ約43.5センチメートル,重さ約1キログラム〔乾電池込み〕)
で,その頭部及び顔面等を多数回殴打し,上記Dが折りたたみ式ナイフ(刃体の長
さ約4センチメートル)で,その頸部及び背部を切り付けるなどの暴行を加え,よ
って,上記Fに対し,加療約111日間を要する頭頂部挫創,右眼球破裂,右脈絡
膜剥離,頸部切創,背部切創等の傷害を負わせ,
2 引き続き,上記場所において,被告人C及び上記Dが,上記Fを,同所に停車
中の普通乗用自動車の後部座席に押し込み,上記Dが同車両を直ちに発進させて,
同市d町e番f号先交差点付近まで時速約50キロメートルで疾走させ,そのころ
から同日午後11時35分ころまでの間,上記Fを同車内から脱出することを著し
く困難ならしめ,もって,同人を不法に監禁し,
第2 被告人A及び同Cは共謀の上,同月11日午前2時ころ,北九州市g区大字
h字ij番のk所在のG事務所休憩所(当時)横において,上記Cが,上記F所有の
普通乗用自動車の車内に灯油を撒いた上,ライターで点火したタオルを同車内に投
げ入れて同車を焼損し,もって,他人の物を損壊し,
第3 被告人Cは,平成13年1月14日午後8時30分ころ,福岡県直方市l町
m番n号所在のH株式会社給油所において,同店経営者I(当時39歳)に対し,
その左顔面を右手拳で殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に加療約7日間を
要する左頬部挫傷の傷害を負わせ,
第4 被告人Cは,法定の除外事由がないのに,平成14年5月24日午後9時こ
ろ,福岡県遠賀郡o町大字pq番地のr付近路上に駐車中の普通乗用自動車内にお
いて,覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を含有する水溶
液を自己の身体に注射し,もって,覚せい剤を使用し,
第5 被告人Bは,自己の内妻(当時)が経営する北九州市g区st丁目u番v号w
ビル所在の飲食店Jの従業員であったKが,従業員同士の男女交際を禁止している
同店の規則に違反し,同店のホステスであったLと交際していることを聞知する
や,上記Kから迷惑料名下に金員を喝取しようと企て,平成14年6月25日午後
9時ころ,同店出入口前通路において,同人の腹部等を数回足蹴にするなどの暴行
を加えた上,同店店内において,同人に対し,「これは店とは関係ない,おれとお
前の問題やけ,裏切ったりした分の迷惑料たい。」,「その分の迷惑料として,1
年間毎月10万ずつ,120万持ってこい。」などと申し向け,その要求に応じな
ければ同人の身体等に更にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して同人を
畏怖させ,よって,そのころ,同所において,同人の雇用主であるMを介して,上
記Kから,同人の給料から差し引いた現金10万円の交付を受け,さらに,同年8
月3日,同年9月2日,同年9月下旬ころから10月上旬ころの前後3回にわた
り,福岡県遠賀郡x町yz丁目z番a’号所在のN店駐車場において,また,同年
10月31日,同県中間市b’町c’番d’号所在のO商店前路上におい
て,いずれも被告人Bから集金方の指示を受けたPをして,上記Mを介して,上記
Kから前同様の現金各10万円(合計40万円)の交付を受けさせて,これを喝取し
たものである。
(証拠)(略)
(事実認定の補足説明)
 判示第1の1,2及び第2の,F(以下「被害者」という。)を襲撃した後監禁
し,その所有車両を損壊した,一連の傷害,監禁,器物損壊の各事実について,被
告人Aは,自分が他の共犯者と共謀した事実を否認し,被告人Bと被告人Cも,そ
れぞれ自分が関与した判示各事実につき被告人Aとの共謀はなかった旨供述し,ま
た,被告人Bは,判示第1の2の監禁の事実につき,当該外形的事実は争わないも
のの,被害者を監禁したつもりはない旨,監禁罪の成立を争う趣旨の供述をし,弁
護人らも,いずれもその旨主張するが,当裁判所は,判示のとおり,被告人Aと同
B,同C及びDとの共謀の事実及び被告人B,同C及びDによる監禁の事実を,い
ずれも認定したので,以下,補足して説明する。
1 被告人Aとの前記共謀の事実について
(1) 関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告人3名及び共犯者Dは,本件当時,いずれも指定暴力団Q組に所属し,被
告人Aは同組若頭,被告人Bは同組行動隊長,被告人Cは同組行動隊長補佐,Dは
同組筆頭若頭補佐であった。
 被害者は,福岡県中間市議会議員を4期連続して務める者であり,平成13年7
月に行われた同市長選挙において公約として暴力追放,公共工事の不正排除などを
訴えて当選した同じ会派に属するRの選挙参謀を務めたが,同選挙戦においては暴
力追放が大きな争点の1つとなり,R候補は暴力追放を前面に押し出した選挙戦を
行っていた。また,当選後,R市長は街頭等で引き続き暴力追放運動を行ってい
た。
 そうしたところ,被害者は,同年9月ころ,「市会議員をやめろ。北九州のやく
ざがおまえをねらっている。」などといった脅迫電話を受けたこともあった。
イ 被告人Aは,同年9月ころ,Dに対し,中間市在住のSが暴力追放の運動家で
あるとして,同人の襲撃を指示し,自らもその住居にDとともに下見に行くなどし
ていたが,結局,上記襲撃の件は実行されないままとなっていた。
ウ 被告人Aは,同年12月8日昼前ころ,Dの携帯電話に架電して同人を自宅に
呼び,同宅付近で,被告人Bが風邪を引いて往生した旨述べて同被告人に何らかの
犯行を実行させようとしていることをほのめかすなどしたが,この際,被告人A
は,同Bから電話を受け,「行くやつはほかにもおるんぞ。」などと同被告人を叱
責し,また,Dに対し,「電池も切れるしの。」と,被害者の車に無断で装着した
所在位置確認のための発信機のバッテリーが近々切れる旨言った。そして,Dは,
被告人Aの指示により,同Bらの行う被害者の襲撃・捕捉(ただし,Dはその相手や
内容を具体的には知らされなかった。)を手助けすべく,途中で話し合いに加わった
被告人Aの舎弟であるTと一緒に,下関の競艇場に向かった。
 他方,被告人B及び同Cも,同Aの指示により,被害者を生け捕るために,この
競艇場に探索に行き,被害者の車を発見したが,その車内に同乗者がいたことか
ら,被害者に対する襲撃は中止された。
エ 被告人Aは,その後,本件当日である同月10日午後9時34分ころ,小倉
e’区内のスナックにいたDに電話をかけ,「Cと連絡取れんけの。車を探しちゃ
らんかの。」,「f’インターから500メートル以内の,飲み屋街の方のホテル
関係を探せ。」などと,2日前に下関で見つけた車(被害者の車)を探索するよう指
示した。Dは,途中で被告人Aが差し向けた同Bと合流して同人運転の車に乗って
探索を続けたものの被害者の車を発見できずにいたところ,さらに,被告人Aは,
同Bに電話で,北九州都市高速に乗って黒崎方面に行くよう指示した。その後,被
告人Bは,同Aと数回電話で話した後,g’インターから一般道に降り,被告人A
の指示を受けるなどして北九州市g区h’i’丁目j’番k’号所在のファミリー
レストランU付近まで行き,同店の駐車場にある被害者の車を見つけた。他方,被
告人Cは,同Bから電話で呼び出され,自動車を運転してこのレストラン付近に到
着し,被告人Bに電話連絡した後,被害者の車両を見張った。
 Dは,被害者がレストランから出てくるのを待つ間,被告人Bに,同Aは被害者
をどうしろと言っているのかを尋ねたところ,同Bは,「若頭は生け捕れと言うと
ります。」と答えた。しばらくすると,被害者がレストランから出て車に乗って移
動し始めたので,被告人BはDを同乗させたまま,被害者運転の車の後をつけ,被
告人Cもその後を追った。
オ 被告人B,同C及びDの3名は,被害者運転の車をしばらく追跡した後,判示
E学校裏門前付近で被告人Bが被害者の車を追い越して停車させ,こもごも被害者
に対し判示のとおり激しく執ような暴行を加えた上,被害者を運転席から車外に引
きずり出し同車の後部座席に押し込んだ。
 その後,気を失ってぐったりとなった被害者を車に乗せたまま,この車をDが運
転し,その前を被告人B運転車両が,後を同C運転車両がそれぞれ進行する形で,
3台の車が判示交差点付近まで平均時速約50キロメートルで約700メートル進
行し,信号機の赤色表示に従い同交差点手前でそれぞれ停止した。
カ 被害者は,この進行の途中で意識を回復したものの,車がかなりの速度で走行
している上,直前に受けた暴行の影響により体に力が入らず,当時掛かっていたド
アロックを解くことが困難であったことなどから脱出できずにいたが,必死にパワ
ーウィンドウのボタンを押したところ,ドアの窓が開き,そのころ,たまたま車が
上記のとおり信号停止したことから同車から脱出した。被告人Cらは更に被害者を
生け捕ろうと試みたものの,結局,被害者の生け捕りは失敗した。
 その後,Dと被告人Cは,被害者の車両を隠匿すべく2回移動させた。他方,被
告人Aは,同月11日午前0時過ぎころから,Dに対し,電話で前記発信機を取り
外すよう再三指示した。こうして,被害者の車両から発信機が取り外されたが,こ
の発信機は,その後,被告人Aに手渡された。
キ また,被告人Aは,同月11日午前1時23分ころ,Dに対し,「車の処分は
こっちでするけ。車を燃やすけ。どこにあるんか。」などと電話したところ,Dが
車の隠し場所に不案内であったことから,電話を替わった被告人Cが,同Aの指示
に従い,判示G事務所休憩所(当時)横まで被害者の車両を移動させた後,同所にお
いて判示のとおり同車両を焼損した。
(2) 被告人Aと同B,同C及びDとの判示共謀の事実が認められることについて
ア 本件では,犯行日(平成13年12月10日夜から翌11日未明にかけて)にお
ける,被告人Aの犯行指示・関与の点を除く外形的事実については,被告人B,同
C,Dの本件実行犯3名と被害者の各供述が,各人の関与した関係箇所において相
互に概ね合致している(この限度でいずれの供述も十分信用できる)。一方,犯行日
を含めた被告人Aの犯行指示・関与の有無については,これを認めるDの公判供述
と,これを否定し被害者の襲撃・拉致は被告人Bが首謀者となり企んだものである
旨の同被告人の供述及びこれに沿う被告人Cの供述とが相異し,この点につき,少
なくともどちらかが殊更虚偽の供述をしていることが明らかである。
イ しかるに,上記被告人Aの犯行指示・関与の有無の点につきDは,被告人Aと
自分や同Bらとの間での携帯電話での犯行に関するやり取りにつき具体的で詳細な
供述をしているところ,その内容は犯行当日を含めた被告人Bらの行動等の外形的
な事実経緯ともよく整合する極めて自然なものであるばかりか,それらの供述は判
示共犯者間の携帯電話の通話履歴により逐一裏付けられてもいるものであり,この
ことはDの供述の信用性が高いことを示すものである。
 弁護人は,上記通話履歴については携帯電話の使用者が必ずしも特定されていな
い旨指摘する。しかし,この点被告人らは納得できるような具体的な反論をしてい
ないし(被告人Bも履歴中の電話を使っていたかは覚えていない旨供述するに止ま
る。),この証拠によれば,少なくとも当時Dが何者かと連絡を取り合い,この者が
別の者らと連絡を取り合うなど,Dを含む4名の者が犯行日を含めて頻繁に連絡を
取り合っていたことが認められるところ,Dの供述内容は上記の証拠から認められ
る状況や上記の争いのない外形的事実とも整合している上,上記のとおり,Dの供
述中,携帯電話での犯行に関するやり取りの部分が上記証拠により逐一裏付けられ
ているのであるから,これらの事情は,上記外形的事実と整合しあるいは逐一裏付
けが存する部分と密接に関連する,携帯電話の通話の相手方,すなわち使用者の特
定に関する部分の信用性をも十分に保証するものである。
 このようにして証拠の裏付けが存在し,外形的事実と整合するDの供述の信用性
は高いと認められるのであるが,さらに,被告人Aに関する部分について別の角度
から検討してみるに,被告人Aは,Dの所属していた暴力団組織の中でDよりも格
上の人物であり,後日の報復等のおそれを考えてみても,Dが被告人Aを敢えて陥
れる虚偽供述をするだけの動機はおよそ考えがたく(組の内外での日頃のうっ憤や
交際していた女性の死亡などといった被告人Aが供述する抽象的な事情では,暴力
団組織の上位者を陥れる動機としては余りに薄弱である。),Dが,ビデオリンクや
遮へいの措置が講じられたとはいえ,公判廷で被告人Aの犯行指示・関与につき敢
えて供述したことは,その部分の信用性判断において大きな積極事情となるという
べきである。そして,Dと被告人B及び同Cとは,互いにあまり付き合いがなかっ
たことが認められるところ,同じ組内で格上の被告人Aが上記3名を指揮・統率し
ていたとみれば上記3名が本件各犯行に及んだことがよく理解できるのであるし,
Dばかりでなく被告人Cも供述するとおり被害者の車には所在位置を知らせる発信
機が装着されていたところ,Dの供述どおり被告人Aがその受信情報
を同Bらに提供し指示していたとみれば,同被告人らが犯行日に短時間のうちに前
記認定事実記載の場所的に隔たりのある場所で被害者の車両を発見し得た事実が極
めて整合性を持つことになるのである。
 そうしてみると,やはり,被告人Aから本件各犯行を指示された旨のDの供述
は,極めて信用性が高いというべきである。
ウ 次に,被告人Bの供述について見てみると,同被告人は,被害者の襲撃・拉致
は自分が思い付きDと被告人Cに話した旨供述する。しかし,被告人Bは,その後
は上記2名の者と話し合ったり被害者を襲撃する準備をしたりしたことはないとい
うほか,本件各犯行に及んだ経緯についても,偶然小倉の街中で被害者の運転する
車両を見つけて襲撃をする気になったといいながら,直ちに連絡を取ったDから言
われるまま同人を迎えに行って上記車両を見失い,別の機会に探せばいいと思った
という一方で被害者を探しに中間市方面にすぐに向かい(この点は組事務所へ帰るた
めであったともいう。),またもや偶然被害者の車両を見つけたというなど,その供
述内容は相当に不自然ないしちぐはぐなものである。
 また,被告人Bは,判示第1の2の事実の後被害者が逃亡すると,Dらに何も言
わずにそのまま現場を離れて自宅に戻り,その後は自分からはDらと連絡を何ら取
っていないなど,被告人BがDらを犯行に誘った首謀者であったとはおよそ認めが
たいところでもある。
 そもそも,(被告人Bは否定するが)Dは被告人Bよりも組内の地位としては格上
であり(被告人Cもその旨供述する。),被告人Bがあまり付き合いもなかったDを
共犯者2名のうち1人に選んだということ自体が相当に不自然であるし(被告人Cも
Dの犯行関与に奇異な感を抱いている。),前記通話履歴によれば,犯行の最中やそ
の直前後にDが被告人Bや同C以外の者と頻繁に携帯電話で話をしていることが明
らかに認められるなど,本件実行犯3名のみで犯行を企み実行した旨の被告人Bの
供述は上記証拠と整合的でない反面,Dらと連絡を取り合っていた上記人物がDら
3名を指揮・統率していたとみれば,Dが実行犯に加わった事情がよく理解でき
る。そして,犯行当日に比較的短時間のうちに被害者の車を小倉の街中と中間市近
辺で発見し得たのは前記発信機の受信情報によるとみるのが自然であるのは前記の
とおりであるところ,上記3名はその受信機を所持していなかったのであるから,
上記受信情報を提供する第三者が存在していたものとみるのが極めて自然であっ
て,結局のところ,被告人BがDと被告人Cを誘いこの3名だけで本件各犯行に及
んだ旨の被告人Bの供述は,にわかに信用できないものであるといわ
ざるを得ない。
エ 被告人Cの供述にしても,基本的に同Bの供述と同旨である上に,被害者の車
両に火を付けて損壊した(第2の犯行)という罪証隠滅として相当に重要な行為を,
自分の判断だけでしたことである旨供述し,また,前記発信機の装着はある若い者
が気を利かせてしたものである旨の曖昧な供述に終始するなど,被告人Cの供述も
やはり不自然で直ちに信用できないものである。
オ そして,被告人Aは自己が犯行に関与していないことについて具体的供述を何
らしていないのであり,以上の,Dと被告人3名の各供述内容を比較検討してみて
も,被告人Aから本件各犯行を指示された旨のDの供述は十分に信用することがで
き,被告人Aが,被害者を襲撃する直前にその捕捉を指示するなどして傷害,監禁
の指示を,また,被害者が逃亡した後被告人Cに被害者車両の処理の指示をそれぞ
れ行った事実は優に認めることができる(なお,傷害行為の直後監禁行為の前に被
告人Aが被害者の監禁を具体的に指示したと認めるだけの確実な証拠はない。)。
 そして,上記被告人Aによる各指示は,その暴力団内部における地位からして,
自己の各犯罪意思を,配下の組員である被告人B,同C及びDを利用することによ
り,同被告人らと共同して実現する意思のもとにされたものというべきであるか
ら,被告人Aと同B,同C及びDとの共謀の事実を優に認めることができる。
2 被告人Bらによる前記監禁の事実について
 前記認定事実のとおり,判示第1の1の犯行の後,被告人Bらは,気を失ってぐ
ったりとなった被害者を車の後部座席に運び入れたままその車をDが運転し,3台
の車を連ねて前記交差点まで平均時速約50キロメートルで停止することなく進行
したものであり,被害者は,途中で意識を回復したものの,車が上記速度で走行し
ている上,事前に受けた暴行による前記影響もあって脱出できずにいたものである
から,上記の行為は被害者に対する監禁行為であると認められ,また,被告人B
は,上記走行の事実を十分認識していた以上,監禁の共同行為の故意に何ら欠ける
ところはない。
3 以上の次第で,判示のとおり被告人Aと同B,同C及びDとの共謀の事実及び
被告人Bらによる監禁の事実を,いずれも認定した。
(累犯前科)(略)
(法令の適用)
1 被告人A
(1) 罰条
判示第1の1の所為   刑法60条,204条
判示第1の2の所為   刑法60条,220条
判示第2の所為     刑法60条,261条
(2) 刑種の選択(判示第1の1,第2の各罪)
それぞれ懲役刑を選択
(3) 再犯の加重(各罪の刑)
刑法56条1項,57条
(4) 併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第1の1の罪の刑に刑法14
条の制限内で法定の加重(ただし,短期は判示第1の2の罪の刑のそれによ
る。))
(5) 未決勾留日数の算入
刑法21条
(6) 訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
2 被告人B
(1) 罰条
判示第1の1の所為   刑法60条,204条
判示第1の2の所為   刑法60条,220条
判示第5の所為     刑法249条1項
(2) 刑種の選択(判示第1の1の罪)
 懲役刑を選択
(3) 再犯の加重(各罪は前記ア,イの各前科との関係で再犯)
刑法56条1項,57条
(4) 併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第1の1の罪の
刑に刑法14条の制限内で法定の加重(ただし,短期は第1の2の罪の刑のそれに
よる。))
(5) 未決勾留日数の算入
 刑法21条
(6) 訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
3 被告人C
(1) 罰条
判示第1の1の所為   刑法60条,204条
判示第1の2の所為   刑法60条,220条
判示第2の所為     刑法60条,261条
判示第3の所為     刑法204条
判示第4の所為     覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条
(2) 刑種の選択(判示第1の1,第2,第3の各罪)
それぞれ懲役刑を選択
(3) 再犯の加重(各罪の刑)
刑法56条1項,57条
(4) 併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第1の1の罪の
刑に刑法14条の制限内で法定の加重(ただし,短期は第1の2の罪の刑のそれに
よる。))
(5) 未決勾留日数の算入
刑法21条
(6) 訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1 本件は,判示のとおり,指定暴力団Q組組員である被告人3名及び共犯者Dに
よる傷害(第1の1),監禁(第1の2),被告人A,同Cによる器物損壊(第
2)のほか,同Cによる傷害(第3)及び覚せい剤の自己使用(第4),同Bによ
る恐喝(第5)の事案である。
2 第1の各犯行は,共犯者の中で最も格上である被告人Aの指示のもと,その配
下の同B,同C,Dが実行犯となって敢行されたものであるが,中間市の現市長が
公約の1つとして掲げた暴力追放が,同市に事務所を置く上記Q組の組員としての
活動の妨げとなることなどから,暴力追放運動の萎縮・排除を目的とし,先の市長
選で現市長の選挙参謀として中心的役割を果たした市議会議員である被害者を襲撃
して見せしめとすることなどを企図してなされたものであると考えられるのであ
り,反社会性は顕著であって,許容することなど到底できないものである。
  そして,被告人らは,予め被害者が使用している自動車に発信機を取り付ける
など,被害者の動静を把握して襲撃を容易にするための手段を講じた上,受信機を
通じて被害者の動静を把握していたとみられる被告人Aの指揮・統率のもと,計画
的かつ組織的に本件犯行に及んだものであって,相当に悪質である。
  しかも,被告人Bら実行犯は,被害者の自動車を停止させるや,Dにおいて,
助手席側から乗り込んで小型ナイフで首の後ろや背中を切りつけ,被告人Bにおい
て,所携の金属製懐中電灯で,運転席の窓ガラスをたたき割って,被害者の頭部,
顔面等を多数回殴打した上,車外でも被害者の頭頂部を殴打するなどという激しい
暴行を加えたのであって,その態様も粗暴で悪質である。
 もとより被害者は何らの落ち度もないにもかかわらず,突然の激しい暴行によ
り,殺されるかもしれないと思うほどの強い恐怖感と身体的苦痛を味わわされて重
い傷害を負い,現在,右目の視力をほとんど失い,右足のじん帯が伸びて歩行時に
痛むなどの後遺症を負っており,被害者が受けた身体的・精神的苦痛は甚大であ
る。
 加えて,暴力追放を願う市民,社会は,第1の各犯行により大きな衝撃を受けた
と考えられ,第1の各犯行の犯情はすこぶる悪い。
 また,第2の犯行は,第1の各犯行の証拠隠滅のために,被告人Aの指示のもと
同Cにより実行されたものであるが,これにより被害者が受けた財産的損害は大き
く,被害者はいわれのない暴力を受けて重傷を負った上に大きな財産的被害をも被
ったものであり,やはり犯情は極めて悪質である。
 そして,第1及び第2の各犯行を通じて,被害者に対する慰謝の措置はとられて
おらず,被害感情が厳しいのも当然である。
 そうすると,第1及び第2の各犯行に関与した被告人らの刑事責任は相当に重
い。
3 被告人Aは,第1の各犯行において,前記Q組の若頭として,その計画及び実
行の指示,発受信機によって把握した被害者車両の所在場所の伝授等を行った主犯
格と認められ,その果たした役割は大きい。
 しかるに,被告人Aは,各犯行の指示を全面的に否定し,真摯な反省の態度はお
よそ認められない。
 のみならず,被告人Aは,自己の所属する暴力団組織への警察の取締りの強化へ
の危機感からその矛先を他に向けるため,共犯者とともに中国総領事館に対して散
弾銃を発砲するなどした事件で昭和63年12月23日に懲役4年に,暴力団取締
捜査に携わった元警察官に対する報復や警察組織への威嚇・挑戦の目的をもって,
その居宅を放火した事件で平成3年4月12日に懲役8年(後者が前者の確定裁判
の余罪に係るものではある。)に処せられているところ,いずれも自己の所属する
暴力団組織の防衛ないしは誇示等を目的とするとみられる組織的暴力犯罪によるも
のであるのに,前記各刑の服役を終えて出所後約1年3か月にして,またしても同
種犯罪ともいうべき本件各犯行に及んでいるものであり,この種の反社会的な暴力
犯罪傾向は誠に顕著であって,本件での供述態度等にも照らし,今後も同様に暴力
団組織の幹部として活動し,同種再犯に及ぶおそれも強く懸念されるところであ
る。
 そうすると,被告人Aの刑事責任はとりわけ重く,本件では被害者が自ら車外に
脱出したことで監禁時間が比較的短く被害者の捕捉という当初の目的は失敗に終わ
ったことなどの事情も併せ考慮し,さらに,共犯者Dの量刑の点をも斟酌してもな
お,主文の刑が相当である。
4 被告人Bは,Q組行動隊長として第1の各犯行に加担し,金属製懐中電灯で被
害者の頭部及び顔面等に対し激しい暴行を加え,それが判示の重い傷害の主因とな
ったものであり,同Aに次ぐ役割を果たしたものと認められるところ,捜査段階か
ら同被告人との共謀の事実はない旨の供述を一貫させて組の上位者をかばう姿勢を
徹底させているほか,中間市での暴力追放運動を非難する姿勢を見せるなど,真摯
な反省の態度はおよそ認められない。
  また,被告人Bによる第5の犯行は,同被告人の内妻(当時)の経営する飲食店
の従業員であった被害者が,従業員同士の男女交際を禁止している同店の規則に違
反するなどして同被告人に迷惑を掛けたとして,迷惑料名下に金員を喝取したもの
であるが,暴力を用いて高額の金員を喝取するなど粗暴な姿勢がうかがわれ,ま
た,被害者が受けた財産的被害は小さくないのに被害弁償はされておらず,同人が
受けた恐怖感や身体的苦痛も大きい。
  そして,被告人Bは,5回の服役経験を有しながら更に本件各犯行に及んだも
のであり,同被告人の規範意識及び更生意欲の欠如は顕著である。
 以上の被告人Bに係る諸事情に照らせば,同被告人の刑事責任も相当に重く,第
1の各犯行では被害者が自ら車外に脱出したことで監禁時間が比較的短く被害者の
捕捉という当初の目的は失敗に終わったことなどの事情のほか,同被告人は第1の
各犯行につき自己のした行為自体は認め,第5の犯行を素直に認めていることなど
の同被告人のために酌むべき事情も併せ考慮し,共犯者Dの量刑の点をも斟酌して
もなお,主文の刑が相当である。
5 被告人Cは,第1の各犯行について,自らも被害者に暴行を加えたほか,監禁
の際Dとともに被害者を車両内に運び入れるなど,本犯行に加担したことでその実
行を容易にしたほか,第2の犯行を実行するなど,その役割は軽視できない。
  また,被告人Cは,第1,第2の各犯行のほかに第3,第4の各犯行にも及ん
でいるところ,第3の傷害の事案については,同被告人が判示給油所で給油を受け
たガソリン代の支払を猶予してもらったのにその支払が遅れたことなどから被害者
との間で言い争いとなったことが原因であり,被害者の応対に全く問題がないとは
いえないものの,本件暴行を正当化できるものではなく,被害者が負った傷害も必
ずしも軽いとはいえないところ,同被告人の安易に暴力に訴える粗暴性は軽視でき
ない。また,第4の覚せい剤使用の事案については,同被告人は,過去に覚せい剤
の使用ないしこれを含む罪による3度の服役を含めて合計4回の服役経験を有して
いるにもかかわらず,更生の機会を生かすことなく,前刑終了後2年を経ずして本
件覚せい剤の使用に及んでおり,同被告人の覚せい剤に対する親和性のみならず,
規範意識及び更生意欲の欠如は顕著であり,再犯のおそれも否定できない。
 以上の被告人Cに係る諸事情に照らせば,同被告人の刑事責任は重く,第1の各
犯行では被害者が自ら車外に脱出したことで監禁時間が比較的短く被害者の捕捉と
いう当初の目的は失敗に終わったことなどの事情のほか,同被告人は,第1及び第
2の各犯行につき,その役割が従属的であること,第3及び第4の各犯行について
は素直に犯行を認めて反省の態度を示していることなどの同被告人のために酌むべ
き事情も併せ考慮し,共犯者Dの量刑の点をも斟酌してもなお,主文の刑が相当で
ある。
(求刑 被告人Aにつき懲役10年,被告人Bにつき懲役7年,被告人Cにつき懲役
6年)
平成16年2月13日
福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部
裁判長裁判官   野  島   秀  夫
裁判官   西  森   英  司
裁判官   大  庭   和  久

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