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平成17年(行ケ)第10741号 審決取消請求事件
平成18年2月15日判決言渡,平成17年12月20日口頭弁論終結
     判    決
 原 告 X
 被 告 Y1
 被 告Y2
     主    文
  特許庁が無効2004-89108号事件について平成17年9月7日にした
審決のうち,「その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。」との部分
を取り消す。
  訴訟費用は,被告らの負担とする。
     事実及び理由
(本判決においては,審決や書証等の記載を引用する場合も含め,公用文の用字用
語例に従って表記を変えた部分がある。)
第1 当事者の求めた裁判等
 原告は,主文同旨の判決を求め,その請求原因として,訴状(訴状追加申立書を
含む。)において後記「第3 原告の主張の要点」のとおり主張し,証拠として甲
1ないし26を提出し,これらの訴訟書類は口頭弁論期日の呼出状とともに,2回
にわたって被告らに送達された。これに対し,被告らは,いずれも,口頭弁論期日
に出頭せず,答弁書その他の準備書面も,また証拠申出書等の書類も何ら提出しな
かった。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告らを商標権者とする後記登録商標について,商標法4条1
項11号及び16号に違反して登録されたものであるとして無効審判請求をしたと
ころ,特許庁は,本件商標の指定商品中「パイ」についての登録を無効とし,その
余の指定商品についての審判請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が同審
決のうち無効不成立とした部分の取消しを求めた事案である。
 1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件商標
 商標権者:被告ら(Y1,Y2)
 本件商標:
 指定商品:第30類「菓子及びパン,即席菓子のもと」
 登録出願日:平成15年2月3日
 設定登録日:平成15年8月8日
 登録番号:第4699238号
 (2) 本件手続
 審判請求日:平成16年11月30日(無効2004-89108号)
 審決日:平成17年9月7日
 審決の結論:「登録第4699238号の指定商品中「パイ」についての登録を
無効とする。その余の指定商品についての審判請求は,成り立たない。」
 審決謄本送達日:平成17年9月17日(原告に対し)
 2 審決の理由の要旨
審決は,以下のとおり,本件商標の指定商品中「パイ」についての登録は商標法
商標法4条1項11号に違反して登録されたものであるから無効であるが,その余
の指定商品については,同号に当たらず,また同項16号にいう「商品の品質の誤
認を生ずるおそれがある商標」ともいえないのであるから,その登録を無効とする
ことはできないと判断した。
 (1) 引用商標
 ア 引用商標1
 構成:
 
 登録番号:第4058700号
 設定登録日:平成9年9月19日
 指定商品:第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,調味料,香辛料,
食品香料(精油のものを除く。),米,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテ
ン,穀物の加工品,サンドイッチ,すし,ピザ,べんとう,ミートパイ,ラビオ
リ,菓子及びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのも
と,アーモンドペースト,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダ
ー,氷,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定
剤,酒かす」(ただし,その後,商標登録の取消審判により,指定商品中「菓子及
びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと」について
取り消す旨の審決がされ,同14年8月14日にその確定審決の登録がされた。)
 イ 引用商標2
構成:
 登録番号:第4093369号
 設定登録日:平成9年12月19日
 指定役務:第42類「飲食物の提供」
(2) 商標法4条1項11号該当性について
ア 本件商標と引用商標の類否について
 「本件商標は,別掲のとおり「14March=π(Pi・Pie)Day」の
文字と「14March」の文字の下部に「3.14」の文字を表してなるとこ
ろ,その構成中の「March」は5月(判決注:3月の誤りと認める。),「P
i」は円周率:3.14,「Pie」はパイ料理,パイ菓子及び「Day」は日の
意味を有する平易な英単語であるといえる。
 そうすると,本件商標中の前半部の「14March」及び「3.14」の文字
は,全体で「3月14日」を意味するものということができる。また,後半部の
「π(Pi・Pie)Day」の文字は,(菓子の)「パイ」を円周率の「π(パ
イ)」に語呂合わせして表した「π(Pi・Pie)」の文字と「Day」の文字
よりなるとみることができるから,全体として「3月14日はπ(パイ)の日」の
意味を容易に理解させるものと認められる。
 これに対し,引用商標は,「3.14=π(パイ)の日」の文字よりなるとこ
ろ,我が国において,月日を表す場合に「月」「日」の文字を省略して「3.1
4」のように表すことは日常的に広く行われているところであり,かつ,月日を示
唆する「π(パイ)の日」の文字が後半部に配されていることからすれば,引用商
標に接した取引者,需要者は,これから「3月14日はπ(パイ)の日」の意味を
容易に理解するものと認められる。
 そうとすれば,本件商標は,引用商標と「3月14日はπ(パイ)の日」の観念
を同一にするものであり,また,英単語を配したその構成をみれば,引用商標を英
語で表したものものと容易に看取されるものである。
 してみれば,本件商標は,引用商標とそれぞれの構成文字より生ずる称呼におい
て区別し得るとしても,「3月14日はπ(パイ)の日」の観念を同一にする類似
の商標といわなければならない。」
 イ 指定商品,指定役務間の類否について 
 「「指定商品が類似のものであるかどうかは,商品自体が取引上誤認混同の虞が
あるかどうかにより判定すべきものではなく,それらの商品が通常同一営業主によ
り製造又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は類似の商標を
使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞があると認
められる関係にある場合には,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生ずる虞がな
いものであっても,それらの商標は商標法(大正10年法律99号)2条9号にい
う類似の商品に当たると解するのが相当である。」(最高裁裁判所第3小法廷,昭
和36年6月27日判決言渡(注)原文のまま) 
 そこで,先ず,本件商標の指定商品中「菓子」の範疇に属する「パイ」と引用商
標1の指定商品中の「ミートパイ」が類似する商品であるか否かについて検討す
る。」
 「前記取引の実情等を総合すれば,本件商標をその指定商品中,「菓子」の範疇
に属する「パイ」について使用した場合,これに接する需要者は,本件商標と引用
商標1とが商標において類似するものであるが故に,該商品が引用商標1を使用し
た「ミートパイ」と同一の営業者によって製造又は販売されたものであるかのよう
に,商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるというのが相当である。
 したがって,本件商標の指定商品中「菓子」の範疇に属する「パイ」と引用商標
1の指定商品中の「ミートパイ」は,類似の商品といわなければならない。」
 (3) 商標法4条1項16号該当性について
 「本件商標は,その構成全体より「3月14日は(菓子の)パイの日である」程
度の意味合いを想起するとしても,商品の特定の品質を表示するものとはいい得な
いから,本件商標を「パイ」を除く指定商品に使用しても,これに接した取引者,
需要者が,これを「パイ」であろうと認識し,商品の品質について誤認するおそれ
があるとは判断することができない。
 してみれば,本件商標は,「パイ」を除くいずれの指定商品についても,商品の
品質の誤認を生ずるおそれはないといわなければならない。
 請求人は,広告代理店の実施したアンケートによれば,一般消費者が本件商標に
接して75%もの人が容易に菓子のパイとの関係を認識できることを示している。
この数字は,商標の文字だけから得られた連想の結果であり,菓子売場や広告で商
品(パイ)とともに表示されれば当然,その確率は一層高まると容易に判断できる
旨も主張する。
 しかしながら,広告代理店の該アンケートは,まず,バレンタインデーへの関心
度及びプレゼントについて問い,次いで,ホワイトデーについて同様の設問をした
ものである。請求人の述べる「一般消費者が本件商標に接して75%もの人が容易
に菓子のパイとの関係を認識できることを示している」との回答結果を得たという
設問についてみると,本件商標の構成文字などを示して「次のキャッチフレーズの
狙いはどのようなプレゼントでしょうか」というものであり,設問自体が「ホワイ
トデーのプレゼント」という答えるべき範囲を前もってある程度恣意的に提示して
されたものであるとみられる。そうすると,該アンケート結果は,実際の商取引の
場における一般取引者,需要者の認識の程度を示すものとみることは到底できない
から,この点に関する請求人の主張は,上記判断を左右するものではない。
 以上のとおり,本件商標は,商標法4条1項16号に該当するものということは
できない。」
 (4) 結論
 「本件商標は,その指定商品中「パイ」については,商標法4条1項11号に違
反して登録されたものであるから,その登録を無効にすべきものであり,その余の
商品については,同法4条1項16号に違反して登録されたものではないから,そ
の登録を無効とすることはできない。」 
第3 原告の主張の要点
 1 取消事由(商品の品質を誤認するおそれについての判断の誤り)
 審決は,本件商標をその指定商品に使用しても商品の品質の誤認を生ずるおそれ
はないと判断したが,誤りである。
 (1) 本件商標の観念は「3月14日は菓子のパイの日」である。審決は「3月1
4日は(菓子)のパイの日である」程度の意味合いを想起するとしても,商品の特
定の品質を表示するものとはいい得ないとするが,本件商標の「パイの日」のよう
に語尾に「の日」とつく記念日には,その前後に目的の商品を集中して展示し,そ
の記念日であることを強くアピールすることで営業が成立するのが一般的である。
一般需要者は,「パイの日」といわれれば,「パイ」の購入を期待し,商標を付さ
れた商品が「パイ」であると考えるのが当然である。
(2) 審決は,原告が提出したアンケート結果(甲1)について,設問自体がホワ
イトデーのプレゼントという答えるべき範囲を前もって恣意的に提示したものであ
るというが,本件商標はホワイトデーのプレゼントである「菓子のパイ」に付され
ることを目的としたものであるから,その使用実態に即した形で回答を求めないと
正確な数字を得ることができない。上記アンケートは中立の業者により実施され,
ホワイトデーの購買動向という条件設定をすることにより,実態に近い結果を得ら
れたものである。
 2 結論
 以上によれば,本件商標が商標法4条1項16号に該当しないとした審決の判断
は,誤りであり,取り消されるべきである。
第4 当裁判所の判断
 1 取消事由(商品の品質を誤認するおそれについての判断の誤り)について
 (1) 商標法4条1項16号は,「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれ
がある商標」は登録することはできない旨規定している。商品の品質の誤認を生ず
るかどうかは,その商標の外観,称呼,観念等から判断して,その指定商品につい
て,その商品が現実に有する品質と異なるものであるかのように需要者をして誤認
されるおそれがあるかどうかに照らして判断するべきである。
 本件商標は,「14March=π(Pi・Pie)Day」の文字と,そのう
ちの「14March」の文字の下部に「(3.14)」の文字を表してなるもの
であり,本件商標の指定商品は,第30類「菓子及びパン,即席菓子のもと」であ
る。本件審決の判断のうち,「パイ」についての登録を無効とするとの部分につい
ては取消しを求める訴えは提起されていないので,本訴において判断すべきは,本
件商標をパイ以外の「菓子及びパン,即席菓子のもと」に使用した場合に,商品の
品質の誤認を生ずるおそれがあるかどうかである。
 (2) 本件商標の構成のうち,「March」は3月,「Pie」はパイ菓子又は
パイ料理,「Day」は日の意味を有する平易な英単語であり,「π」が「パイ」
と呼称され,円周率(3.14)を意味することはよく知られている。また,「P
i」は円周率(3.14)を意味する。
 本件商標は,その外観から明らかなように,数式を模したものであり,「=」
(イコール)の左側が3月14日を意味することは明らかである。その右側の「π
(Pi・Pie)Day」のうち「π」は円周率(3.14)を意味し,「Da
y」は日を意味することから,「π…Day」は3月14日を意味するものと理解
できる。また,「π(Pi・Pie)」を構成する「π」「Pi」「Pie」は,
いずれも「パイ」と呼称され,「…Pie)Day」の「Pie」はパイ菓子又は
パイ料理を意味する英語としてよく知られているものであるから,本件商標から
「3月14日が菓子のパイの日である」ことも想起し得るというべきである。
 (3) ところで,我が国では,3月14日は「ホワイトデー」と称され,2月14
日のバレンタインデーにチョコレートなどをもらった男性がそのお返しとして贈り
物をする日としてよく知られている。ホワイトデーの贈り物として定まったものは
ないが,マシュマロ,クッキー,キャンディ,ケーキなどの菓子類が贈り物として
選択されることが多いことは甲1のアンケート結果からも明らかであり,3月14
日が近づくと,菓子店を初めとする小売店がホワイトデーの贈り物用として様々な
商品を宣伝・販売していることは,誰もが経験する周知の事実である。
 (4) 本件商標の観念,称呼やホワイトデーの上記習慣からすれば,本件商標が3
月14日のホワイトデー用のパイ菓子に用いられるものであり,同日が菓子のパイ
の日であることを需要者にアピールすることによりパイ菓子を販売しようとするも
のであることは明らかである。パイ菓子は,ホワイトデーの贈り物としてはそれほ
ど一般的であるとはいえないが,ホワイトデーの贈り物として販売される場合に
は,他の菓子類,即席菓子のもと,パン類等とともに販売される可能性が高いこと
は,その性質上当然である。
 (5) 審決は,本件商標は,「3月14日は(菓子の)パイの日である」との意味
を想起するとしても,商品の特定の品質を表示するものとはいい得ないとする。
 確かに,本件商標は菓子パイそのものを意味するものではなく,「Pie」の文
字も本件商標の一部を構成するにすぎない。また,一般的な需要者にとって,本件
商標が「3月14日が菓子のパイの日である」との意味を持つと即座に理解するこ
とが必ずしも容易ではないことは,甲1のアンケート結果(問12)が示すとおり
である。
 しかしながら,前記判示のとおり,本件商標はホワイトデーという多くの人が限
られた期間内に菓子類等を買い求める機会に使用されるものであり,そのことが商
標の構成から明らかであるところ,同商標には,パイ菓子であることを直接的に示
す平易な英語である「Pie」という言葉が使われ,さらに「π」「Pi」も「パ
イ」と呼称されるのであるから,ホワイトデーの贈り物として菓子類やパン類を求
めにきた需要者は,本件商標に接した場合,その内容,品質がパイ菓子であって,
他の種類の菓子やパンではないと認識するのが自然である。そうすると,本件商標
が,パイ菓子以外の「菓子及びパン,即席菓子のもと」に使用された場合には,需
要者はその商品の品質,内容がパイ菓子であると誤認するおそれがあるというべき
である。 
 2 結論
 以上のとおり,「パイ」を除く指定商品について,本件商標が商品の品質の誤認
を生ずるおそれのある商標とはいえないとした審決の判断は誤りであり,原告主張
の審決取消事由は理由があるので,審決は,その無効不成立の部分について取消し
を免れない。
  知的財産高等裁判所第4部
        裁判長裁判官
                   塚   原   朋   一
           裁判官
                   髙   野   輝   久
           裁判官
                   佐   藤   達   文

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