弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 原判決中控訴人兼被控訴人《甲1》及び同《甲2》の各敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人兼控訴人東京上野税務署長が亡《甲3》の平成元年分の所得税につい
て平成5年3月3日付けでした控訴人兼被控訴 人《甲1》及び同《甲2》に対す
る各更正のうち、各長期譲渡所得金額4億3825万7002円及び各納付すべき
税額351 8万3200円を超える部分及び各過少申告加算税賦課決定を取り消
す。
3 被控訴人浅草税務署長が控訴人兼被控訴人《甲1》の平成元年分の所得税につ
いて平成5年3月3日付けでした同人に対する 更正のうち長期譲渡所得金額1億
1687万3116円及び納付すべき税額2720万2200円を超える部分及び
過少申告加 算税賦課決定を取り消す。
4 被控訴人兼控訴人東京上野税務署長の本件控訴を棄却する。
5 訴訟費用は、1、2審とも、被控訴人兼控訴人東京上野税務署長及び被控訴人
浅草税務署長の各負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
一 控訴人兼被控訴人《甲1》(以下「控訴人《甲1》」という。)及び同《甲
2》(以下「控訴人《甲2》」という。)
 主文同旨
二 被控訴人兼控訴人東京上野税務署長(以下「東京上野税務署長」という。)
1 原判決中東京上野税務署長の敗訴部分を取り消す。
2 控訴人《甲1》及び同《甲2》の東京上野税務署長に対する各請求をいずれも
棄却する。
3 訴訟費用は、1、2審とも、控訴人《甲1》及び同《甲2》の各負担とする。
三 被控訴人浅草税務署長(以下「浅草税務署長」という。)
1 控訴人《甲1》の浅草税務署長に対する本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人《甲1》の負担とする。
第2 当事者の請求と本件事案の概要等
 本件における控訴人《甲1》及び同《甲2》の各請求の内容、本件事案の概要及
び本件の各争点に関する当事者双方の主張等は、原判決36頁2行目から7行目ま
での(3)の項の記載を削除し、同8行目の(4)から同37頁11行目の(6)
までの項番号をそれぞれ(3)から(5)までに繰り上げるほかは、原判決の「事
実及び理由」欄の第1項から第5項までの各項の記載のとおりであるから、右の各
記載を引用する。
 すなわち、本件の中心的な争点は、本件取引が、課税庁側の主張するように、本
件譲渡資産と本件取得資産との補足金付交換契約とみるべきものであったのか、そ
れとも控訴人《甲1》及び同《甲2》の主張するように、本件譲渡資産及び本件取
得資産の各別の売買契約とその各売買代金の相殺とみるべきものであったのかとい
う点にある。
 なお、本件取引が、控訴人《甲1》及び同《甲2》の主張するように、本件譲渡
資産及び本件取得資産の各別の売買契約とその各売買代金の相殺とみるべきもので
あったとした場合には、右控訴人らの本件の所得税関係及び相続税関係の各課税標
準、税額等が、右控訴人らの各確定申告額どおりとなることについては、当事者間
に争いがない。
第3 争点に対する判断
一 本件取引の経過
 本件取引の経過に関する事実認定は、原判決53頁1行目及び57頁4行目にそ
れぞれ「代替土地」とあるのをいずれも「代替土地の代金」と改めるほかは、原判
決51頁8行目から同59頁2行目までの「1 本件取引の経過」の項の記載にあ
るとおりであるから、この記載を引用する。
二 本件取引の法的性質
1 本件取引に関しては、本件譲渡資産の譲渡及び本件取得資産の取得について各
別に売買契約書が作成されており、当事者間で取り交わされた契約書の上では交換
ではなく売買の法形式が採用されていることは、前記のとおりである。
2 もっとも、右の事実関係からすれば、亡《甲3》らにとってもAにとっても、
本件取引においては、本件譲渡資産の譲渡あるいは本件取得資産の取得のための各
売買契約は、それぞれの契約が個別に締結され履行されただけでは、両者が本件取
引によって実現しようとした経済的目的を実現、達成できるものではなく、実質的
には、本件譲渡資産と本件取得資産とが亡《甲3》らの側とAの側で交換されると
ともに、亡《甲3》らの側で代替建物を建築する費用、税金の支払に当てる費用等
として本件差金がA側から亡《甲3》らの側に支払われることによって、すなわち
右の各売買契約と本件差金の支払とが時を同じくしていわば不可分一体的に履行さ
れることによって初めて、両者の本件取引による経済的目的が実現されるという関
係にあり、その意味では、本件譲渡資産の譲渡と本件取得資産及び本件差金の取得
との間には、一方の合意が履行されることが他方の合意の履行の条件となるという
関係が存在していたものと考えられるところである。
 さらに、本件取引における本件譲渡資産の譲渡価額あるいは本件取得資産の取得
価額も、その資産としての時価等を基にして両者の間の折衝によって決定されたと
いうよりも、むしろ、国土法の制約の下で許容される本件譲渡資産の譲渡額の上限
額を前提として、本件取引により亡《甲3》ら側で代替物件を取得した上に税金を
支払ってもなお利益のある額となるように亡《甲3》ら側で計算して本件譲渡資産
を構成する各資産ごとに割り振るなどして算定した金額を、A側でも受け入れて、
前記のとおりの額と決定したものであることが認められる。
 これらの事実関係からすれば、亡《甲3》ら側とAとの間で本件取引の法形式を
選択するに当たって、より本件取引の実質に適合した法形式であるものと考えられ
る本件譲渡資産と本件取得資産との補足金付交換契約の法形式によることなく、本
件譲渡資産及び本件取得資産の各別の売買契約とその各売買代金の相殺という法形
式を採用することとしたのは、本件取引の結果亡《甲3》ら側に発生することとな
る本件譲渡資産の譲渡による譲渡所得に対する税負担の軽減を図るためであったこ
とが、優に推認できるものというべきである。
3 しかしながら、本件取引に際して、亡《甲3》らとAの間でどのような法形
式、どのような契約類型を採用するかは、両当事者間の自由な選択に任されている
ことはいうまでもないところである。確かに、本件取引の経済的な実体からすれ
ば、本件譲渡資産と本件取得資産との補足金付交換契約という契約類型を採用した
方が、その実体により適合しており直截であるという感は否めない面があるが、だ
からといって、譲渡所得に対する税負担の軽減を図るという考慮から、より迂遠な
面のある方式である本件譲渡資産及び本件取得資産の各別の売買契約とその各売買
代金の相殺という法形式を採用することが許されないとすべき根拠はないものとい
わざるを得ない。
 もっとも、本件取引における当事者間の真の合意が本件譲渡資産と本件取得資産
との補足金付交換契約の合意であるのに、これを隠ぺいして、契約書の上では本件
譲渡資産及び本件取得資産の各別の売買契約とその各売買代金の相殺の合意があっ
たものと仮装したという場合であれば、本件取引で亡《甲3》らに発生した譲渡所
得に対する課税を行うに当たっては、右の隠ぺいされた真の合意において採用され
ている契約類型を前提とした課税が行われるべきことはいうまでもないところであ
る。しかし、本件取引にあっては、亡《甲3》らの側においてもまたAの側におい
ても、真実の合意としては本件譲渡資産と本件取得資産との補足金付交換契約の法
形式を採用することとするのでなければ何らかの不都合が生じるといった事情は認
められず、むしろ税負担の軽減を図るという観点からして、本件譲渡資産及び本件
取得資産の各別の売買契約とその各売買代金の相殺という法形式を採用することの
方が望ましいと考えられたことが認められるのであるから、両者において、本件取
引に際して、真実の合意としては右の補足金付交換契約の法形式を採用した上で、
契約書の書面上はこの真の法形式を隠ぺいするという行動を取るべき動機に乏し
く、したがって、本件取引において採用された右売買契約の法形式が仮装のもので
あるとすることは困難なものというべきである。
 また、本件取引のような取引においては、むしろ補足金付交換契約の法形式が用
いられるのが通常であるものとも考えられるところであり、現に、本件取引におい
ても、当初の交渉の過程においては、交換契約の形式を取ることが予定されていた
ことが認められるところである(乙第8号証)。しかしながら、最終的には本件取
引の法形式として売買契約の法形式が採用されるに至ったことは前記のとおりであ
り、そうすると、いわゆる租税法律主義の下においては、法律の根拠なしに、当事
者の選択した法形式を通常用いられる法形式に引き直し、それに対応する課税要件
が充足されたものとして取り扱う権限が課税庁に認められているものではないか
ら、本件譲渡資産及び本件取得資産の各別の売買契約とその各売買代金の相殺とい
う法形式を採用して行われた本件取引を、本件譲渡資産と本件取得資産との補足金
付交換契約という法形式に引き直して、この法形式に対応した課税処分を行うこと
が許されないことは明かである。
 実質的に考えても、譲渡所得に対する課税は、資産が譲渡によって所有者の手を
離れるのを機会に、その所有期間中の増加益を清算して、これに課税するというも
のであるところ、資産が著しく低い対価によって法人に譲渡された場合について
は、資産の増加益に対する課税が繰り延べられるのを防止するために、時価による
譲渡があったものとみなして課税が行われることとなっている(所得税法59条1
項2号参照)が、それ以外の場合については、当該資産の増加益に対する課税が繰
り延べられることもやむを得ないものとする法制が取られているところである。こ
のような法制からすると、本件取引において、結果として本件譲渡資産が通常の場
合に比較すると低い価額で他に譲渡されたこととなり、これによって亡《甲3》ら
の譲渡所得に対する税負担が軽減されることとなったとしても、その譲渡が右の著
しく低い対価による譲渡に当たらない以上、その軽減された部分に対応する課税負
担は後に繰り延べられることを法律自体が予定しているものというべきである。
したがって、本件取引において、亡《甲3》らが税負担の軽減を図るため本件譲渡
資産及び本件取得資産の各別の売買契約とその各売買代金の相殺という法形式を採
用したとしても、そのことをもって、違法ないし不当とすることも困難なものとい
うべきである。
4 結局、本件取引は、控訴人《甲1》及び同《甲2》が主張するとおり、一方で
亡《甲3》らがAに対して本件譲渡資産を代金7億3313万円で売却するととも
に、他方でAから亡《甲3》らが本件取得資産を代金4億3400万円で購入し、
この二つの売買契約の代金を相殺した差額の2億9913万円を、Aが亡《甲3》
らに対して本件差金として支払ったというものであったとみるべきこととなる。
三 本件各課税処分の適否
 右に検討したところからすると、いずれも本件取引が本件譲渡資産と本件取得資
産との補足金付交換契約であることを前提としてされた東京上野税務署長及び浅草
税務署長の控訴人《甲1》及び同《甲2》に対する所得税関係及び相続税関係の本
件各更正は、いずれも所得金額及び課税価格並びに納付すべき税額を過大に認定し
た違法なものであり、かえって、亡《甲3》、控訴人《甲1》及び同《甲2》のし
た所得税関係及び相続税関係の各確定申告が、いずれも適正なものであったという
べきことになる。
四 結論
 そうすると、東京上野税務署長及び浅草税務署長が控訴人《甲1》及び同《甲
2》に対してした所得税関係及び相続税関係の本件各更正のうち亡《甲3》らの各
申告に係る金額を超える部分並びに本件各過少申告加算税賦課決定の取消しを求め
る控訴人《甲1》及び同《甲2》の請求は、その余の点について判断するまでもな
く、いずれも理由があることとなるから、原判決中控訴人《甲1》及び同《甲2》
の敗訴部分を取り消し、同控訴人らの右の各請求をいずれも認容するとともに、東
京上野税務署長の本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 増山宏 裁判官 合田かつ子)

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