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(原審・東京地方裁判所平成7年(ワ)第15435号(原審言渡日平成10年3月23日))
     主      文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
     事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。 
二 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
第二 事案の概要
一 事案の骨子
本件は、控訴人の開設する東邦大学医学部付属大橋病院(以下「控訴人病院」
という。)の新生児室内のコット(新生児用ベッド)に出生から3日後にうつ伏せ
寝で寝かせられていた際に、呼吸停止、心停止状態に陥り、低酸素脳症となっ
て重度の脳性麻痺の障害を後遺し、約7か月後、この障害の下で死亡したCの
両親である被控訴人らが、控訴人に対し、Cが呼吸停止、心停止状態に陥り、
結局死亡したのは、控訴人及び控訴人病院新生児室付き助産婦の注意義務
違反が原因であると主張して、不法行為又は債務不履行を理由に損害賠償を
請求する事案である。
二 基礎的事実関係(証拠を掲げていない事実は争いがない。)
1 被控訴人Aは、Cの父であり、被控訴人Bは、Cの母である。
2 控訴人は、総合病院である控訴人病院を開設しており、被控訴人らは、平
成6年8月15日、控訴人との間において、被
  控訴人Bが控訴人病院で出産をすることについて診療契約を締結した(弁
論の全趣旨)。
3 Cは、平成7年1月5日午前5時43分(以下、年月日の記載については、「平
成7年」の記載を省略することがある。)、
控訴人病院の産婦人科において、被控訴人A及び被控訴人Bの二男として
出生した。出生時に、Cに異常はみられず、
  出産自体も順調であった。また、Cの出生後の成育状況は良好で、ミルクを
よく飲み、排便もスムーズで、泣き声も大きかった。
4 事故の発生
(一) 控訴人病院新生児室付きの助産婦である看護婦のE(以下「E助産婦」
という。)は、平成7年1月8日午前5時40分ころ(甲第9、第25)、Cに腹満
を認め、授乳室に隣接する新生児室内のコット(新生児用ベッド)の中にCをう
つ伏せ寝で寝かせ た。
(二) 被控訴人Bが、同日午前6時25分ころ、Cに授乳するために 新生児室
に赴いたところ、Cは、コット内において、呼吸停止、 心停止状態となっていた
(以下「本件事故」という。)ため、控 訴人病院の医師らにより蘇生措置が施さ
れ、Cの心臓機能、呼吸 機能が回復した。
(三) Cは、蘇生措置により一命を取り留めたものの、低酸素脳症と なり、重度
の脳性麻痺の障害を後遺し(甲第2、第3、第9、第 24)、平成7年8月9日午
前8時24分、気道分泌物による窒 息により、控訴人病院において死亡した
(甲第1、第32、弁論 の全趣旨)。
5 Cの財産権は、被控訴人らが2分の1ずつ相続した(甲第1、弁論の全趣
旨)。
二 争点及び争点についての当事者の主張
【争点1】
 Cが平成7年1月8日に呼吸停止、心停止状態となったのは、窒息したため
か、それとも未然型乳幼児突然死症候群(abortive SIDS)ないし乳幼児突発性
危急事態(ALTE)によるものか。
(一) 被控訴人らの主張
 (1)Cは、控訴人病院におけるうつ伏せ寝の際の枕等による鼻口部圧迫によ
る酸素欠乏状態と、これにより惹起された吐乳、吐乳誤嚥という一連の機序に
より窒息し又はうつ伏せ寝の際の枕等による鼻口部圧迫ないし閉塞により吐乳
誤嚥前に既に窒息し、これらの結果、呼吸停止、心停止状態となった。上記機
序については、甲第12(M教授の研究結果を転載した文献)のほか、甲第23、
第32、第58、第60、第74、第76、第78等の数多くの証拠によって裏付けら
れている。
 (2)乳幼児突然死症候群の定義は、甲第61、乙第9記載のとおり、厚生省心
身障害研究乳幼児突然死症候群研究班によって平成6年に変更され、「それま
での健康状態および既往歴からその死亡が予測できず、しかも死亡状況およ
び剖検によってもその原因が不詳である乳幼児に突然の死をもたらした症候
群」と定義されており、未然型乳幼児突然死症候群という診断名は廃止されて
いる。控訴人の主張する乳幼児突然死症候群及び未然型乳幼児突然死症候
群は、そもそもその定義自体からして誤りである。本件では、発見時の状況によ
っても、また、解剖結果によっても、不適当な条件下でのうつ伏せ寝が心肺停
止に寄与していることが明らかであるから、この寄与が明確に否定されない限
り、乳幼児突然死症候群等の診断名を付することはできない。
 (3)乙第25の1(N教授の鑑定書)は、要するに、新生児は窒息を回避する能
力があるので窒息しないというものにすぎず、前記甲号各証に照らし、重視され
るべきものではない。
 (4)当審における鑑定人Oの鑑定(以下「本件鑑定」という。)の結果について
は、前提事実の把握について誤認や根拠に基づかない断定があり、それらに
基づいて推論したものにすぎないから、重視されるべきものではない。
(二) 控訴人の主張
 (1)E助産婦は、証人Eの証言のとおり、1月8日午前5時40分ころにはCに授
乳していない。同助産婦がCをうつ伏せ寝にしたのは、直前の授乳から約1時
間40分後においても、授乳時に認めた腹満が変わらなかったため、ミルク嘔吐
の可能性を否定できず、その誤嚥の危険もあり得ないわけではないと考えたか
らである。証人Fの証言や甲第27によっては、証人Eの上記証言を排斥するこ
とはできない。また、哺乳記録(甲第8の3)に午前5時40分ころの授乳の記録
がないのは後に記載する予定であったという原判決の認定は、何の証拠もない
原判決の創作である上、看護記録(甲第25の89丁裏)及び診療録(甲第9の4
丁裏)に、午前4時にミルクを与えた旨が記載されているのに、午前5時40分に
は腹臥位との記載があるのみであることからすれば、午前5時40分には授乳
していないことが明らかである。
 (2)E助産婦が本件事故を発見した際、バスタオル及び毛布は、Cの肩にまで
しか掛けられていなかったし、Cの顔はやや曲がった状態で、鼻や口は横を向
いていたので、窒息の危険性はなかった。
 (3)次のとおり、Cには、吐乳の事実はないので、うつ伏せ寝が呼吸停止、心
停止の原因であるとは認められない。
 (ア) 新生児が吐乳した場合には、溢乳し、新生児の口鼻周辺や枕辺りにミル
クの付着が認められるのが通常である。このことは、うつ伏せ寝であればなおさ
らのことである。しかし、Cが心肺停止の状態で発見された際、コット内やCの口
鼻周辺はもとより口腔内にも、ミルクの付着等、嘔吐の形跡は認 められなかっ
た。
 (イ)うつ伏せ寝の場合、吐物は、下に位置する口から出るはずで、位置的に
上方になる気管に入ることはまずない。
 (ウ) 甲第21、第65、第72、乙第19、第23等によれば、新生児でも、手を
動かしたり、頭を上げたり、顔の向きを変 えたりする能力を有しているので、仮
に鼻口部が圧迫、閉塞 されれば、自分で手を動かしたり、頭を支えたり、頭の
位置 を変えたり、顔を横向きにするなどして、窒息を回避することができる。し
たがって、窒息と判断するには、なぜCがこのような窒息の回避行動をとらなか
ったかを明らかにする必 要がある。
 (エ) Cのような新生児であっても、吐物を誤嚥しそうになれば、防御機構が働
き、反射的にこれを止めようとする(咳き込む などにより、気管内に入らないよ
うにする。)ため、誤嚥の可能性自体低いし、窒息するほどの大量の気管内吸
引は通常起こらない(これは、睡眠中でも同じである。なお、窒息するほどの吐
物誤嚥が起こり得るのは、深麻酔下や意識障害時などの中枢神経抑制状態に
ある場合などである。)。しかも、窒息するほどの気管内吸引があったのであれ
ば、Cは暴れた りするなどの不穏な体動を示し、新生児集中治療室(以下「NI
CU室」という。)にいたE助産婦がこれに気付くはずであるし、新生児であって
も、身体の位置が移動したり、掛 けられた布団にその痕跡が残ったりするであ
ろうし、着衣にも異常が認められるはずである。ところが、本件においては、 E
助産婦は、そのような異常を全く認めていない。
 (オ)気管内挿管終了後、直ちにCの胸腹部のレントゲン写真が 撮影されて
いるが、このレントゲン写真及びその後に撮影されたレントゲン写真によって
も、Cにミルク誤嚥による窒息状態を窺わせる所見は認められない。ミルク誤嚥
による窒息 というのは一種の溺死状態なのであるから、気管内挿管後の吸引
で両肺野に貯まったミルクを吸引することは不可能であり、したがって、上記レ
ントゲン写真は、Cの死因がミルク誤嚥による窒息でないことを示すものであ
る。
 (カ)E助産婦が酸素マスクによる酸素投与をした時点では、口腔内に吐物は
認められていない。控訴人病院の医師F(以下「F医師」という。)が到着し、心臓
マッサージを施行した際に、Cの口からミルク残滓を含む液体が溢れてきたの
である。したがって、この時の吸引は、心臓マッサージにより口腔内に貯留した
液体を吸引したものである。気管内挿管後に、挿管チューブを通して乳白色の
粘性の低い液体が気管ないし気管支から引けているが、この液体は、E助産婦
がCの異常を発見した後、Cの身体の移動や蘇生処置(心臓マッサージ、バギ
ング)によって気管内に移動したものである。なお、気管支からの吸引量は、5c
cないし10ccであっても「多量」と記載されるところ、5ccないし10cc程度の液
体の移動は十分あり得る。
 (キ) Cがミルク誤嚥により窒息したのであれば、バギングが行われていること
も考え併せると、気管やその末梢に広範囲に多量のミルクが存在しているはず
であるが、そのような多量のミルクが存在していたという所見はない。
 (ク) 嘔吐したミルクを誤嚥して窒息したのであれば、鼻口から 細小泡沫を洩
出する。なぜならば、気管及び気管支が吸入したミルクで刺激されて咳き込む
とともに、粘液が分泌され、呑み込んだミルクは呼気と吸気で攪拌され、ミルク
と混和した粘液は細かい気泡を形成するからである。この気泡を細小泡沫とい
うが、本件で吸引された液体は、いずれも粘調性の 低いさらさらしたものであ
り、細小泡沫は全く認められていない。細小泡沫の存在については被控訴人ら
に立証責任があるところ、原判決は、細小泡沫が存在した可能性があるとす 
るだけで控訴人の主張を排斥しており、立証責任の負担のさせ方を誤ってい
る。
 (4)原判決は、本件事故の際に用いられていた寝具がうつ伏せ寝に適さない
と判断しているが、原審は、本件事故の際にどのような形状、材質の寝具が用
いられていたか審理しておらず、上記事実を認めるに足りる証拠は何もない。
かえって、本件事故当時使用されていた寝具は、乙第16、第17で明らかなと
おり、Cの顔が下向きになったとき敷布団に潜るような状況になるものではない
こと、仮に毛布やタオルがCの頭部にまで掛けられていたとしても、その重量は
児の頭部のみに集中的に掛かるものではないこと、新生児が窒息するような事
態に至るのは、タオルや毛布程度の重量では足りず、児を敷布団に押し付ける
ようなことをした場合に限られることからすれば、上記寝具がうつ伏せ寝に適さ
ないということはできない。
 (5) 本件事故は、次のとおり、未然型乳幼児突然死症候群(abort-ive 
SIDS)ないし乳幼児突発性危急事態(ALTE)によるものと考えられる(死亡の結
果に着目すれば、乳幼児突然死症候群(SID-S)ということになる。)。
 厚生省心身障害研究乳幼児突然死症候群研究班によれば、乳幼児突然死
症候群(SIDS)は、「それまでの健康状態及び既往歴からその死亡が予測でき
なかった乳幼児に突然の死をもたらした症候群」と定義され、また未然型乳幼
児突然死症候群(abortive SIDS)は、「それまでの健康状態及び既往歴から、
その発生が予測できなかった乳幼児が、突然の死亡をもたらしうるような徐脈、
不整脈、無呼吸、チアノーゼなどの状態で発見され、死に至らなかった症例」と
定義されている。未然型乳幼児突然死症候群は、近時は乳幼児突発性危急事
態(ALTE)とも呼ばれる。これらの発生頻度は次第に多くなってきているといわ
れるが、現在においても原因は解明されていない。そして、新生児にも乳幼児
突然死症候群、未然型乳幼児突然死症候群が起こることが認められている。
 このように、乳幼児突然死症候群及び未然型乳幼児突然死症候群は、疫学
的に一定の割合で発症することが知られており、本件では前記のとおり窒息で
あるとは考えられず、また突然の心肺停止を来す病態を窺わせる他の疾患が
特に認められないことからすると、未然型乳幼児突然死症候群と診断すべきで
ある。原判決は、控訴人の未然型乳幼児突然死症候群についての主張を、C
に未然型乳幼児突然死症候群であることを窺わせる何らかの徴候があったと
いう主張、立証をするものではないとして排斥しているが、未然型乳幼児突然
死症候群では、これを窺わせる何らかの徴候など存在しないことは、その定義
からも当然の帰結であり、そのようなものとしての未然型乳幼児突然死症候群
が医学界において現実に存在する疾患として認知されているのであるから、原
判決の認定判断は、独善的で不十分な理解に基づいたものであって、誤りであ
る。なお、未然型乳幼児突然死症候群であるとするために、訴訟上、控訴人が
他の原因がないことを立証する必要があるわけではなく、本件では、窒息とい
えるかどうかがまず問題なのであるから、控訴人がこれについて反証し、窒息
であると認められないとすれば、結局、未然型乳幼児突然死症候群であること
が証明されたことになるものである。
 (6)原判決の認定したうつ伏せ寝にした場合の吐乳吸引による窒息という本
件事故の発生機序は、全く証拠に基づかない論理性に欠けた恣意的な事実認
定であって、何ら医学的検討をせず、極めて安易に、拙速主義に基づいて認定
判断されたものである。
 すなわち、被控訴人ら主張の機序によって乳幼児の窒息ないし心肺停止が生
ずるかどうか自体も、専門家によって見解を異にしているところ、原審では、本
件の具体的症例が医学的にどのように評価されるべきかについて何ら証拠調
べが行われておらず、仮に原判決の認定した事実経過を前提としても、それら
の事実から本件事故が被控訴人ら主張の機序により生じたものであることを推
認することは到底できない。また、うつ伏せ寝の際の枕等による鼻口部閉塞に
より吐乳誤嚥前に既に窒息したとの被控訴人らの主張も、これを裏付ける証拠
が全くない。
 むしろ、逆に、① 被控訴人らが提出した専門家の見解であるP教授の死体
検案書(甲第32)、鑑定書(甲第62)及び刑事事件の尋問調書(甲第74)は、
Cの死亡原因として、吐物誤嚥を挙げておらず、「鼻口部圧迫・窒息」という結論
につては、解剖所見に基づくものではなく、動脈血のPHの低下(アシド-シス)
という根拠については、誤りであったことが自認されており、そのほか、カルテ
の記載を除き、具体的根拠を何も示していないこと、② 同じくQ教授の意見書
(甲第60)にも、被控訴人ら主張の機序による心肺停止が起こったと認められ
る旨の記載はなく、心肺停止の原因について触れるところがなく、かえって、乳
幼児突然死症候群の可能性を認めているものであること、③ 窒息と診断する
ためには、そうするに足りるだけの根拠が必要であって、原因が分からないま
ま窒息とするのでは、乳幼児突然死症候群という概念を否定するものであるこ
と、④ 小児科の専門家であるN教授の鑑定書(乙第25の1)によれば、Cの死
因がうつ伏せ寝による窒息死であるとは考えられないとされていること、⑤ 本
件鑑定の結果によれば、本件事故当時、新生児をうつ伏せ寝にさせることが新
生児にとって危険であるから避けるべきであるなどという一般的知見は、一般
臨床の場では存在せず、Cの心肺停止の原因は不明であり、枕等による鼻口
部圧迫による酸素欠乏状態と、これにより惹起された吐乳、吐乳誤嚥という一
連の機序により呼吸停止、心停止状態となった可能性は極めて少ないとされて
いることによれば、本件事故が被控訴人ら主張の機序によって発生したこと
は、証拠上、積極的に否定されているというべきである。
【争点2】
 Cの死亡についての控訴人及びE助産婦の注意義務違反と因果関係
(一) 被控訴人らの主張
 (1)不法行為責任について
 (ア) 本件事故以前、遅くとも昭和62年ころから、一般育児書、女性誌等にお
いても、新生児をうつ伏せ寝にする際には、固 い敷布団(アイロン台の固さが
目安とされている。)を使用すること、枕は使わず、顔のまわりをすっきりさせる
こと、こまめに様子を見、吐乳したら、直ちに顔をふいたり、シーツを替えたりし
なければならないことなどが指摘され、また、医療専門誌においても、うつ伏せ
寝にする場合の危険性が議 論されていた。控訴人病院も、平成4年ないし6
年ころ、産 婦に配る「産後の摂生と育児」という小冊子(甲第11、第67)の記
載内容を変更し、「「(うつぶせ寝は)乳児突然 死症候群(SIDS)、吐物吸引に
よる窒息死を起こす割合 が多く危険」とする考え方と、「頭の形が良くなる、首
の座りが早い、よく寝るなど、メリットが多い」とする考え方とあり、医療関係者
の間でも賛否両論です。大切な事は、細やかな気配りと充分な注意を忘れずに
育児に携わるという心構 えです。もし、うつぶせ寝にするなら、①固い布団を
使う  ②枕は使わない ③シーツをピンと張る ④ベッドの中にぬ いぐるみを
置いたり、タオルを敷いたりしない ⑤半袖またはピッタリした袖の服を着せるな
ど最低の条件は守りましょう。」と、以前にはなかった記載をあえて加えている。
 (イ) したがって、控訴人は、開設する大学付属の総合病院である控訴人病
院において、少なくとも上記小冊子の記載変更後は、新生児の看護に当たる看
護婦に対し、うつ伏せ寝にするなら、必ず固い布団を使い、枕は外し、掛け布団
を頭上まで掛けないなどの細心の処置を施すとともに、常にも増して新生児の
動静を注視すべきように、適切な指導・監督をすべき注意義務を負っていた。
  しかるに、控訴人は、上記のような指導・監督を怠った。
 (ウ) E助産婦は、平成7年1月8日午前5時40分ころ、通常の授乳時間外に
Cにおやつとしてミルクを与えた。その際、Cは腹部が張っており、ミルクを吐い
たため、E助産婦は、Cが再度ミルクを吐くことを予想していた。
 (エ) したがって、E助産婦としては、Cをうつ伏せ寝にするに際し、固い布団を
使い、枕は外し、布団を頭上まで掛けないなどの細心の処置を施すとともに、
常にも増して注意深くCの動静を注視すべき注意義務を負っていた。
  仮に、E助産婦が、1月8日午前5時40分ころCにミルクを与えていなかった
としても、前記注意義務は、一般に、うつ伏せ寝にさせる場合には必ず守るべ
き条件であった。
  しかるに、E助産婦は、枕は外し、ベッドの中にタオルを敷いたりしないという
前記条件を守っていないことが明らかであり、また、布団やシーツについても、
仰向け寝にさせる場合と同じものが使用されたのであって、固い布団に替えた
り、シーツを直したなどの事情は窺えず、Cの動静の注視も怠っている。したが
って、E助産婦は、控訴人自身が産婦に対して指導しているうつ伏せ寝にさせ
るための基本的な条件さえほとんど守っていないことになり、注意義務を全く尽
くさなかったというべきである。
 (オ) Cは、控訴人が、新生児の看護に当たる看護婦に対しうつ伏せ寝にする
際の条件等に関して適切な指導・監督をすべき注意義務を怠り、E助産婦も、う
つ伏せ寝にする際の注意義務を守らなかったために、うつ伏せ寝の際の枕等
による鼻口部圧迫による酸素欠乏状態による吐乳及び吐乳誤嚥又は枕等によ
る鼻口部圧迫ないし閉塞により、窒息し、そのため呼吸 停止、心停止状態に
なり、回復後も低酸素脳症となって重度の脳性麻痺の障害を後遺し、それが原
因で窒息死したのであるから、控訴人は、自らの注意義務違反により、また、E
助産婦の使用者として、Cの死亡について、不法行為責任を負う。
 (2)債務不履行責任について
  被控訴人らは、平成6年8月15日、控訴人との間において、被控訴人Bが
子供を出産することについて、当時の医学水準において実務上必要とされる最
善の注意をもって適切な診療を行う旨の診療契約を締結した。この契約は、生
まれてくる子供を受益者とする第三者のためにする契約であり、Cは出産と共
に両親である被控訴人らに代理され、診療を受けることにより受益の意思表示
をした。
したがって、控訴人は、Cに対し、適切な診療、看護を行うべき注意義務を
負っていた。
 しかるに、前記不法行為責任について述べたとおり、控訴人自らの過失及び
控訴人の履行補助者であるE助産婦の過失により、Cが死亡するに至ったので
あるから、控訴人は、被控訴人らに対し、Cの死亡について債務不履行責任を
負う。
(二) 控訴人の主張
 (1)不法行為責任について    
 (ア) 前記のとおり、Cの心肺停止の原因は、窒息ではなく、未然型乳幼児突
然死症候群ないし乳幼児突発性危急事態によるものであるから、控訴人が不
法行為責任を負うことはない。
 (イ) 原判決は、Cを継続的に観察すべき注意義務があるとするが、うつ伏せ
寝にした場合、どの程度の頻度で何分おきに乳 児を観察すべきなのか何ら具
体的に示していない上、そのようにすべき医学的根拠を何ら具体的に述べてい
ない。 
 (2)債務不履行責任について
   被控訴人らと控訴人との間の診療契約は、出産に関するものである。Cの
死亡は出産後の出来事であるから、上記診療契約の債務不履行にはならな
い。
【争点3】
    Cの死亡によって被控訴人らが控訴人に請求することができる損害賠償
の額
(一) 被控訴人らの主張
 (1)Cの被った損害
 (ア) 逸失利益 2487万5300円
平成5年の賃金センサスにより、男子労働者学歴計の年収549万1600
円を基に、就労可能年齢を18歳から67歳までとし、ライプニッツ方式により中
間利息を控除し、更に生活費として40パーセントを控除すると、逸失利益は、
次のとおり2487万5300円になる。
   5,491,600円×(19.2390(67年のライプニッツ係数)-11.6895(18年のラ
イプニッツ係数))×(1-0.4(生活費))=24,875,300円
 (イ) 慰藉料    2600万円
 (ウ) 葬儀費用120万円
Cの葬儀は、平成7年8月11日に行われた。
 (エ) 入院雑費(母乳バッグ・乳児服等)27万8200円
Cは、平成7年1月8日の本件事故後同年8月9日に死亡するまでの214
日間入院を余儀なくされた。入院雑費は、 1日1300円が相当である。
 (オ) 近親者の通院交通費  25万0880円     
   被控訴人らがCの介護・入浴あるいは搾乳を届けるためなどに要した交
通費
 (カ) 診断書料(2通)  6180円
 (キ) 合計5261万0560円
   被控訴人らは、Cの上記損害につき、2分の1(2630万5280円)ずつそ
の賠償請求権を相続により取得した。
 (2)被控訴人ら固有の損害
 (ア) 慰藉料  被控訴人らそれぞれにつき500万円
   被控訴人らは、順調な出産による喜びを味わったのもつかの間、健康なは
ずの我が子を重度の身体障害者にされてしまった。事故発生からC死亡までの
約7か月間、小さな体に繰り返される検査、自らミルクを飲むこともできない姿、
頻繁な痰の吸引などを眼前にした両親の苦痛は、Cの慰藉料とは別途に考慮
されるべきである。
 (イ) 弁護士費用   被控訴人らそれぞれにつき310万円
   被控訴人らは弁護士に委任して本件訴訟を提起しており、その報酬620
万円を被控訴人らが2分の1ずつ負担するので、これを損害として請求する。
 (3)被控訴人らの請求額
   上記(1)、(2)を合計すると、被控訴人らそれぞれについて3440万5280円
となるので、被控訴人らは、控訴人に対し、上記金員及びこれに対する不法行
為又は債務不履行の日である平成7年1月8日から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(ただし、被控訴人らは、控訴
又は付帯控訴を提起していないので、当審における審理の範囲は、原判決の
認容した金額の限度に画されている。)。
(二) 控訴人の主張
被控訴人らの主張は争う。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所は、被控訴人らの請求のうち、原判決の認容した部分は、すべて
理由があるものと判断する。その理由は、以下のとおりである。 
二 認定事実 
   第二、二記載の基礎的事実関係に、甲第1ないし第19(以下、枝番のある
ものについて枝番の特定がない場合には、すべての枝番を含む。)、第21ない
し第27、第29、第31、第32、第57ないし第65、第67ないし第79、乙第1な
いし第3、第5ないし第9、第16、第26、第29、第34、第35、原審における証
人E、同F、同G、同Iの各証言及び被控訴人B本人尋問の結果(以下、人証に
ついては、いずれも「原審における」の記載及び名又は氏の記載を省略する。)
並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
1 Cの心肺停止に至る経緯とうつ伏せ寝にする際の条件等について
(一) 被控訴人Bは、当初、自宅から控訴人病院まで1時間半以上の時間をか
けて通院していたが、出産予定日(平成7年1月21日)が近づいた平成6年12
月末ころからは、同病院から車で15分位のところにある被控訴人Aの実家にお
いて出産に備えるようになった。
(二) 被控訴人Bは、平成7年1月5日午前3時ころ、陣痛が始まったことから、
タクシーで控訴人病院に赴き、そのまま入院し、同日午前5時43分、Cを正常
分娩で出産した。出産は、順調であった。Cの出生時の体重は3460グラム、
身長は51センチメートルであり、心拍数や呼吸等に異常は見られなかった。そ
の後本件事故までのCの成育状況は、良好であった。
(三) 1月5日午後2時から同月8日午前2時30分までのCに対する授乳等は、
次のとおりであった(甲第8の3)。
  ① 1月5日
    午後2時00分  糖水10cc         合計10cc
    午後3時30分 ミルク20cc       合計20cc
    午後6時30分  直母乳2cc、ミルク20cc  合計22cc
    午後10時30分  直母乳2cc、ミルク30cc  合計32cc
  ② 1月6日
    午前2時30分ミルク30cc  合計30cc
    午前6時30分直母乳2cc、ミルク20cc  合計22cc
    午前9時30分ミルク30cc  合計30cc
    午後0時30分ミルク30cc  合計30cc
    午後3時30分  ミルク30cc         合計30cc  
    午後6時30分  ミルク40cc         合計40cc
    午後10時30分  直母乳2cc、ミルク50cc  合計52cc
  ③ 1月7日
    午前2時00分  ミルク40cc         合計40cc
    午前3時30分  ミルク20cc         合計20cc
    午前5時00分  ミルク20cc         合計20cc
    午前6時30分  直母乳6cc、ミルク60cc  合計66cc
    午前7時30分  ミルク30cc         合計30cc
    午後0時30分  直母乳4cc、ミルク60cc  合計64cc
    午後4時30分  直母乳4cc、ミルク50cc  合計54cc
    午後6時30分  直母乳8cc、ミルク30cc  合計38cc
    午後10時30分  搾母乳20cc、 ミルク40cc 合計60cc
    午後11時30分  ミルク10cc  合計10cc
  ④ 1月8日
    午前2時30分  搾母乳30cc、ミルク40cc  合計70cc
(四) 被控訴人Bは、1月8日午前3時過ぎころ、乳房が張り、痛み
 があったこと及びCが泣いていたことから、控訴人病院の看護婦の同意を得
た上、同病院産婦人科授乳室において、Cに若干量の授乳を行い、新生児室
内のコットにCを仰向け寝で寝かせた。
(五) 1月8日午前4時ころ、Cがかん高く泣いたため、E助産婦は、30ccのミル
クを授乳し、それまでと同じように、コットに仰 向け寝で寝かせた。
(六) E助産婦は、1月8日午前5時40分ころ、さらに、Cが泣いたため、同人に
おやつとしてミルクを与えた。その時、Cに排気させたが、ミルクを吐き、腹満も
あったことから、再度吐く可能性があることを考え、Cをうつ伏せ寝で寝かせた
(甲第5、第9、第25、第27、被控訴人Bの供述)。その当時、Cは、まだうつ伏
せ寝に慣れていなかった。
(七)本件事故以前の遅くとも昭和62年ころから平成6年ころまで の間に、妊
産婦向けの書籍、雑誌等には、うつ伏せ寝にする場合 の注意事項等として、
「うつぶせ寝ルール集 ・・・フカフカ敷 ぶとんと枕は絶対タブー! 顔のまわり
にガーゼやタオルなど物 を置くのはタブー! ルール1 敷ぶとんは固くて薄
い、吸湿性 の高いものを。・・・顔がもぐらないよう、アイロン台の固さを 目安
に。・・・ルール2 枕は絶対使わないこと・・・ルール3 顔のまわりを常にすっき
りさせて、物を置かないこと。・・・ルール4 最初の1週間は目を離さない。・・・」
(甲第68。大 関早苗著「うつぶせ寝育児法」。同書はうつ伏せ寝を推奨するも
のである。)、「うつぶせ育児の注意点・・・必ず、かたいマットレスを用意しましょ
う。シーツにシワが寄らないようピンとのばし、マットレスの下側へ深く折り込み
ます。・・・ベッド上に タオル類やぬいぐるみを置かないこと。赤ちゃんの顔にか
かるのを避けます。タオルを折ってまくらがわりにするのもやめましょう。」(甲第
69。杉山四郎著「いい妊娠いいお産」。同人は新生児期からのうつ伏せ寝を推
奨し、実践している医師である。)、 「うつぶせ寝の商品の特徴は、・・・寝具は
アイロン台くらいの硬さです・・・うちの病院のように赤ちゃんから目を離さなけれ
 ば、大丈夫ですよ。うちは・・・事故は1例もありません。・・・私は、うつぶせ寝
が悪いとはいえません。ただ、うつぶせ寝を させる場合は、こういう事故が起こ
ることもあることを頭に入れておいて、厳重な指導をしていただきたいと思いま
す。・・・こ まめに様子をみて、お乳を吐いたら、すぐ顔をふいてやったり、シー
ツを替えてやらなければならない。敷布団には硬い布団を使う。シーツはピンと
たるみがないように張る。掛け布団は薄手のものを。」(甲第70。女性セブン平
成3年11月21日号。同 記事は医師の指導のないうつ伏せ寝の危険性を報
道するものであり、寝具メーカーや医師、学者の発言等が転載されている。)な
どの記載がある。控訴人病院が本件事故当時妊産婦に配っていた「産後の摂
生と育児」という小冊子(甲第11)にも、うつ伏せ寝について、「「乳児突然死症
候群(SIDS)、吐物吸引による窒息死を起こす割合が多く危険」とする考え方
と、「頭の形が 良くなる、首の座りが早い、よく寝るなど、メリットが多い」とする
考え方とあり、医療関係者の間でも賛否両論です。大切な事は、細やかな気配
りと充分な注意を忘れずに育児に携わるという心構えです。もし、うつぶせ寝に
するなら、①固い布団を使う  ②枕は使わない ③シーツをピンと張る ④ベッ
ドの中にぬいぐるみを置いたり、タオルを敷いたりしない ⑤半袖またはピッタリ
した袖の服を着せる、など最低の条件は守りましょう。」との注意事項が記載さ
れていた。
(八) ところが、E助産婦が1月8日午前5時40分ころにCをうつ伏せ寝で寝か
せた際のCの寝具は、控訴人病院において通常に使用されているものであっ
て、新生児を仰向け寝で寝かせる際に使用されるものと同一であり、① 枕とし
て、二つ折りにされたハンドタオルが用いられ、② 敷布団として、下から順に
厚さ約5センチメートルのマットレス、厚さ約2センチメートル程度のベ ッドパッ
ト、三つ折りにされたバスタオル及び防水用ラミネートシートを木綿のシーツでく
るんだものが重ねられ、③掛布団として、下から順に二つ折りのバスタオルと二
つ折りの毛布が用いられていた。新生児室には、うつ伏せ寝専用の寝具は用
意されていなかった。なお、上記マットレスの素材は、ソフランエーテルフォーム
と呼ばれるウレタンフォームのうちの一般フォームの一種であって、一般フォー
ムの中では硬いものであるが、汎用クッ ション材であり、耐久特性に優れた高
硬度クッション材である高硬度フォームではなかった(乙第16)。
(九) 1月8日の本件事故当時、控訴人病院の産婦人科では、新生児 室、NI
CU室(新生児集中治療室)及びクリーンルームのそれ ぞれの入り口となる部
屋(以下「中間の部屋」という。)をはさんで右側に、コット(新生児用ベッド)の置
かれた新生児室が、左側にNICU室が、中間の部屋の奥にクリーンルームがあ
り、新生児室には、6、7人の新生児がおり、中間の部屋には、新生児はおら
ず、NICU室には、3、4人の新生児がいて、NICU室の新生児の中には、小児
科の医師が担当する必要のある重症児もいた(甲第6、証人Fの証言)。そし
て、同日の深夜帯(午前0時から午前8時30分まで)における新生児室担当看
護婦は、E助産婦一人であり、同助産婦が新生児室及びNICU室の新生児の
看護を一人で担当していた。
(一〇) このような状況の中で、E助産婦は、1月8日午前5時40分ころ、新生
児室で、Cをうつ伏せ寝で寝かせた後、新生児らの黄疸測定、状態の観察等必
要な処置を行い、同日午前6時少し前、新生児室を出てNICU室に行き、記録
をつけたりしていた。中間の部屋が介在することと、窓の位置等により、NICU
室から新生児室内のコットを見ることは不可能であり、同助産婦は、朝の授乳
開始のために午前6時25分ころに新生児室に赴くまで、約30分間、うつぶせ
寝となったCの動静を観察することはでき なかった。
(一一) 控訴人病院の産婦人科病棟及び産婦人科看護婦を管理、監督する管
理・監督者(氏名を特定することはできないが、存在することは明らかである。)
は、新生児室担当の看護婦に対し、本件事故当時、生後間もない新生児や吐く
可能性のある新生児、うつ伏せ寝に慣れていない新生児等をうつ伏せ寝にす
る場合に、うつ伏せ寝用の特別な寝具を使用し、寝かせた後も、肉眼又は機器
により継続的に観察すべき旨看護婦に指導することはしていなかった。
(一二) E助産婦は、1月8日午前6時25分ころ、朝の授乳開始のため、NICU
室から新生児室に赴き、授乳に来ていた被控訴人BにCを渡そうと同人を抱き
上げたところ、同人の顔面はチアノーゼ様で、呼吸は停止しており、肌着をはだ
けて確認したところ、チアノーゼは全身に及んでいた。E助産婦が抱き上げる前
のCは、顔を真下に向けた状態でうつ伏せ寝で寝ており、バスタオル及び毛布
が頭の一部が見える程度に掛かっていた。Cが使用していた枕代わりの白色の
タオルの中央に黄色みを帯びた直径6、7センチメートルのしみがあった(甲第
5、第27、乙第29、被控訴人Bの供述)。
2 本件事故発見後の事実経過について
(一) E助産婦は、Cの呼吸停止に対する処置を行うべく、被控訴人Bに対して
吸引してくるからと告げ、Cを抱えてNICU室に走り込み、インファントウォーマー
に仰向け寝で寝かせ、直ちに控訴人病院の産婦人科当直のF医師を呼び出し
た。E助産婦は、同医師到着まで、Cに酸素マスクによる酸素投与とタッピング
(児 を横向きにして背中を叩くこと)による皮膚刺激を行ったが、Cに反応は現
われなかった。
(二) 1月8日午前6時30分ころ、F医師が到着し、Cを診察したが、心肺機能停
止状態であったため、直ちに体外心臓マッサージ とバギング(酸素マスクを使
用し、圧をかけて酸素を投与する。)を開始した。さらに、気道確保のために気
管内挿管を試み、口頭展開を行い、声門を確認することまではできたが、挿管
はできなかった。そのため、F医師は、E助産婦に対し、小児科当直医を呼ぶこ
とを指示し、同助産婦は、控訴人病院小児科のI医師に、直ちにNICU室に来る
よう要請した。その後、I医師が到着するまでの間、Cに対する心臓マッサージと
バギングが継続されたが、心臓マッサージ施行中に、Cの口からミルク残滓を
含む液体が噴き出したため、気管内より多量のミルクを吸引し、更に心臓マッ
サージを続けた。
(三) 1月8日午前6時35分ころ、I医師がNICU室に到着し、気管内挿管を試
みたが挿管できず、その後、要請を受けて到着した控訴人病院小児科のG医
師(当時の姓・H)(以下「G医師」という。)により、同日午前6時40分ころ、挿管
が完了した。挿管後、挿管による吸引により多量の乳白色の液体が吸引され
た。同液体の粘調性、量については、診療録に後記の記載がされている。
 なお、挿管後、ポータブル撮影機により、Cの胸腹部のレントゲン写真が撮影
されているが、この撮影は、前記挿管吸引後にされたものであった(証人F、同I
の各証言)。
          記
  ① 被控訴人Bの産婦人科入院診療録(甲第10)7丁裏       
     記載者・F医師
     Tapping、吸引にて気管内よりmilk多量にひける
  ② Cの小児科入院診療録(甲9)10丁表             
    記載者・I医師
    挿管よりmilk残渣多量に吸引できる
  ③ 同診療録(甲9)12丁裏 
    記載者・G医師
 チューブより粘調なmilkかすのようなもの多量にひけ、吸引性肺炎を想定し、
早目にアミノベンジルペニシリン抗生剤使用としました
(四) 前記挿管による吸引後、間もなく、Cの心拍音を聴取できるようになり、時
々ではあるが自発呼吸も出現した。そして、1月8日午前6時53分になって自
発呼吸が認められたが、未だ弱めであり、不規則なため、バギングが継続され
た。
(五) 1月8日午前7時10分ころ、Cの口腔内から唾液様の液体が多量に吸引
され、また、挿管チューブからごく少量の淡々黄色の液体が引けた。
(六) 1月8日午前7時35分ころ、Cの自発呼吸及び心拍が安定してきたため、
バギングが中止され、同日午前7時45分、同人はクベース(保育器)に収容さ
れ、器内の酸素は30パーセントに維持された。
(七) E助産婦は、Cの蘇生措置が終わった後も、枕代わりのタオルに触った
り、これを検査したりなどはしなかった。
3 控訴人病院医師らによる診療録への記載、説明等について
(一) F医師は、1月8日午前8時30分ころ、被控訴人らに対し、本件事故の原
因について、Cが、戻したミルクを再度飲み込み、それが肺に入ったために本件
事故が生じた旨の説明を行った。
(二) 控訴人病院小児科のJ医師、同科のG医師、同科のI医師、同 病院産婦
人科のF医師、同科のK医師は、1月8日午前10時30分ころ、被控訴人らに対
し、① 本件事故の原因としてミルクの誤嚥が考えられる、② 挿管チューブよ
り粘調なミルクかすのようなものが多量に引けた、③ 肺炎を想定し、早期に抗
生剤を使用することにした旨の説明を行った。
(三) 1月9日午後2時30分ころ、被控訴人ら及び被控訴人Aの母Dと、控訴人
病院産婦人科部長のL教授、K医師、J医師、I医師との間で会談が行われた
が、L教授からは、① 肺からミルクが相当吸引できたこと、② 嘔吐してそこで
うつ伏せになっていたこと、③ 再び吸い込んだ嚥下性のものであって、これに
付随して心停止が起きたのではないかと思われること、④ 嘔吐の事故である
ことなどが説明された。しかし、本件事故の原因が未然型乳幼児突然死症候群
ないし乳幼児突発性危急事態であることを示唆する説明は全くされなかった。
(四) その後も、控訴人病院の関係者等からは、被控訴人らに対し、訴訟が予
想される事態となるまでは、本件事故ないしCの死亡の原因が未然型乳幼児突
然死症候群ないし乳幼児突発性危急事態で ある旨の説明は一度もされず、
特に、Cの蘇生措置や治療に携わった医師たちからは、本件訴訟の審理が進
むまで、本件事故ないしCの死亡の原因が未然型乳幼児突然死症候群ないし
乳幼児突発性危急事態である旨の説明はされなかった。
(五) Cの心肺停止に関しては、診療録に次の記載がされている。
  ① Cの小児科入院診療録(甲第9)10丁表
    記載日  平成7年1月8日
    記載者  I医師
    記載内容milk誤嚥による窒息→呼吸停止→心臓停止の可能性大。誤
嚥の原因は不明
  ②同診療録170丁表
    記載日平成7年3月15日
    記載者I医師、風間医師
    記載内容平成7年1月5日に、正常分娩にて35w5d、3460gで生まれ
た男児です。生後3日目の1月8日の早朝、うつぶせ寝状態にて、milk誤飲によ
る窒息及び心停止状態で発見されました。直ちに蘇生しましたが、低酸素状態
にしばらくさらされており、その後の頭部CTにてSAH、brainatrophyが認められ
ました。現在は、roomair自発呼吸しております。
4 うつ伏せ寝の適否と本件事故の原因について
(一) 本件事故以前の遅くとも昭和62年ころから平成6年ころまでの間に、乳幼
児のうつ伏せ寝の適否自体については、乳幼児の成 育に良い効果があるとし
てこれを積極的に評価する論者や、その危険性に着目してこれを消極的に評
価する論者など、専門家の間 でも意見が分かれていた。しかし、当時既に、①
 海外の調査例では、統計上、うつ伏せ寝の普及につれて乳幼児の突然の死
亡事 例が増加し、逆にうつ伏せ寝の減少につれて乳幼児の突然の死亡 事
例も減少したことが報告されており、② 国内でも、うつ伏せ寝の乳児の吐乳吸
引による多数の窒息死の例の報告や、③ 乳幼児の窒息による死亡例を調査
すると吐物吸引によるものが多く、かつ、吐物吸引による死亡例の大半がうつ
伏せ寝であったことの報告、④ 乳幼児の吐物吸引による窒息は、うつ伏せ寝
による鼻口部圧迫による酸素欠乏状態と、これにより惹起された吐物、更に吐
物の吸引という一連の機序により発生したものとみることができる場合があると
の見解、⑤ 乳児の吐乳吸引の可能性という点からはうつ伏せ寝は好ましくな
いという見解、⑥ 医師、看護 婦等の適切な指導のないうつ伏せ寝は危険で
あるという見解、⑦ 寝具等に関するルールを守れば、うつ伏せ寝でも窒息の
心配はないという見解などが医学文献や妊産婦向け文献、一般文献、新聞等
で明らかにされていた(甲第11ないし第18、第22、第23、第58、第63、第7
1ないし第73、第79等)。
(二) Cの死亡後、Cを解剖して死体検案及び鑑定をした東京女子医科大学の
P医師は、法医学や乳幼児突然死症候群の専門的研究者であるが、① 死体
検案書(甲第32)に、死亡の直接原因(気道分泌物による窒息)の原因として、
死亡の7か月前の「低酸素性脳症」を挙げ、さらにその原因として死亡の7か月
前の「鼻口部圧迫・閉塞」を挙げており、② 鑑定書(甲第57、第62)でも、死
因は、「鼻口部圧迫・閉塞に起因した低酸素性脳症に基づく窒息」としており、
③ 刑事事件における尋問調書(甲第7 4)でも、腹臥位にすると、生後3日で
頭が重いので、その重みで鼻口部が圧迫されやすくなり、40分間に遷延性の
窒息状態になって、低酸素症が徐々に起こっていったと考えたこと、本件事故
の際に使用されていたものと同種の寝具を観察し、手で押してみた結果によれ
ば、この寝具でうつ伏せ寝にすれば、鼻口部が圧迫あるいは閉塞されて、低酸
素性脳症になる可能性があること、生後3日では瞬間的にあごを少し上げるこ
とはできるが、顔が下に向けられた状態を自分で排除するのは困難であること
などを供述しており、④ これらに、未然型乳幼児突然死症候群ないし乳幼児
突発性危急事態を疑わせる記載及び供述は存しない。
(三) 酸素欠乏症及び乳幼児突然死症候群についての研究者であるR医学博
士は、別な乳幼児の死亡事故に関する意見書及び本件についての検察官に対
する供述調書(甲第58、第76)において、うつ伏せ寝による酸素欠乏症の誘発
について研究した結果、うつ伏せ寝において柔らかい布団に顔を埋めた場合の
窒息死は事故例として多いものであること、乳幼児は成人に比べて酸素欠乏に
よる脳障害の進行が早く、その初期の段階では、嘔吐を引き起こすこと、乳児
のうつ伏せ寝では胸腹部圧迫も加わって吐乳が起こりやすいこと、その気管内
吸引が窒息を引き起こすこと、本件事故の際に使用されていたものと同種の寝
具を観察し、手で押してみた結果によると、その敷布団の柔らかさであれば、顔
が下向きになった場合、鼻口部が閉塞され、布団内の空気を繰り返し呼吸する
ことになって、窒息に陥ることになり、低酸素の状態が更に進むことにより嘔吐
しやすい状態になることも考えられることなどを指摘している。
(四) うつ伏せ寝を推奨したこともある研究者であるQ教授は、被控 訴人ら代
理人から提供されたCの診療録を含む原審における主な 甲号証や文献等を
前提として検討した結果、① Cに突然の異常事態を予測させるハイリスク因子
はなく、② 心肺停止の発見が遅れたのは状態の観察に不適切な状況にあっ
たからであり、③ 1990年代に入ると、医療従事者においては、うつ伏せ寝に
する場合は、着衣や寝具などに注意を払うことは極めて一般的な知 識となっ
ており、E助産婦はコットを見やすい位置に移動させるとか、枕としていた二つ
折りのタオルや掛ける寝具にも配慮を払うなどしてしかるべきであったと判断さ
れ、④ うつ伏せ寝にしたことが何らかの機序で、Cの心肺停止の重大な誘因と
なったことが考えられ、何らかの機序とは、嘔吐物の誤嚥による窒息、鼻孔閉
鎖による窒息及び乳幼児突然死症候群などであり、⑤ 新生児が誤嚥で心肺
停止することは例外的であるが、その例外が、うつ伏せ寝の際に嘔吐して、体
外に出たミルクを鼻孔から再度吸入して誤嚥した場合であり、⑥ 本件では、ミ
ルクの誤嚥があったことは十分推測されるが、その時期は明言することができ
ず、⑦ 乳幼児突然死症候群は他の疾患がすべて否定されることが最低の 
条件であり、本件では、乳幼児突然死症候群の診断はすることができず、外因
による窒息事故の可能性が最も考えられるなどの意見を述べている(甲第6
0)。
(五) うつ伏せ寝の危険性についても主張している研究者であるM教授は、そ
の意見書(甲第78)において、① 乳幼児の突然死の死因の判断には、寝具、
寝かせ方、発見時の状況が最重要であること、② 本件事故の際に使用されて
いた寝具は、マットレスの上に敷かれた敷き物が多く、顔面部に二つ折りのタオ
ルが敷かれていたことからみて、鼻口部が埋もれる可能性が高く、うつ伏せ寝
にするには、不適切な寝具であること、③ 掛け布団のタオル及び毛布も不適
切であること、④ 生後1週間以内の新生児の運動能力には個体差が大きく、
寝具によっても大きく影響されること、⑤ 普段うつ伏せ寝の習慣のない新生児
がうつ伏せ寝にされ た場合には、十分な窒息回避能力を発揮することができ
ないこと、⑥ 吐物吸引による窒息と診断できる臨床例がほとんどなく、それが
存在するにしても極めてまれな現象であろうとする意見は、実態を知らないもの
であること、⑦ 本件事故で低酸素脳症が生じた経過を呼吸停止先行型の生
体反応ととらえ、鼻口部圧迫による窒息と推定する考えは評価することができ
ることなどを指摘している。
三 以上の認定と異なる控訴人の主張について
11月8日午前5時40分ころの授乳の有無について
    控訴人は、E助産婦は、上記時点におけるCへの授乳は行っておらず、
これを証する証拠もない旨主張し、証人Eも、上記時点におけるCへの授乳は
行っておらず、同日午前4時の時点でも腹満が認められたが授乳直後であり吐
く危険があったことから、うつ伏せ寝にはせず、同日午前5時40分の時点で
は、授乳後時間が経過しており、吐く危険が少なくなっていたのでうつ伏せ寝に
した旨供述している。
しかし、E助産婦は、F医師に対しては、Cをうつ伏せ寝にしたことにつき、腹満
が認められ、吐乳する可能性があったことを理由として報告している(証人Fの
証言。乙第38(E助産婦の刑事事件における供述調書)も同旨である。)のであ
って、同日午前5時40分ころの行動に関するE助産婦の供述には、変遷があ
り、信用することができない。
 他方、甲第5(被控訴人A作成の報告書)、第27(L教授との会談を録音した
テープの反訳書)、第32(死体検案書)及び被控訴人Bの供述によれば、控訴
人病院の関係医師は、外部の者に対し、本件事故から間もないころには、授乳
後うつ伏せ寝にした旨説明していたことが認められる。また、乙第38及び証人
Eの証言によれば、本件事故が起きるまで、E助産婦は、うつ伏せ寝を危険とす
る意見があること自体は知っていたが、同助産婦としては、危険とは考えず、む
しろ、吐くおそれがある場合には、うつ伏せ寝の方が適すると考えていたものと
認めることができる。以上によれば、E助産婦は、午前4時の授乳に続けて午前
5時40分ころにも授乳し、当時は、うつ伏せ寝を危険とは考えていなかったた
め、その際に、吐くおそれを認識しながらうつ伏せ寝にしたものと認めるのが相
当である。
なお、控訴人は、午前5時40分ころの授乳について、哺乳記録(ミルク板)(甲
第8の3)、看護記録(甲第25の89丁裏)及び診療録(甲第9の4丁裏)に記入
がされていないことを問題視するが、哺乳記録については、午前4時の授乳に
ついても記載がないことからすると、E助産婦は、午前5時40分ころの授乳に
ついては、午前4時の授乳とともに、後に記載する予定であったものと考えるこ
ともできる。また、看護記録及び診療録については、1月8日午前4時の授乳の
記載があるものの、同日午前2時30分及び3時過ぎころの授乳の記載はなく、
すべての授乳を記載しているのか疑問がある上、哺乳記録を含め、午前5時4
0分の授乳はおやつとしての若干量の授乳であったので、記入しなかった可能
性もあるといわざるを得ない。そうすると、前記のとおり、他に、午前5時40分
の授乳の証拠が存する本件においては、上記各記録への記載の欠如をもっ
て、前記認定を覆すことはできない。さらに、控訴人は、証人Fの証言や甲第2
7によっては、控訴人の主張を排斥することができないなどと縷々主張するが、
独自の見解であって採用することができない。 
 以上によれば、控訴人の前記主張は、採用することができない。なお、付言す
るに、前記認定のとおり、1月8日午前5時40分ころ、Cに吐乳、腹満があった
事実及びE助産婦がこれらによりCが再度吐く可能性があることを認識していた
ことが認められ、この点が、後述するように、うつ伏せ寝にする際の注意義務違
反を判断するために一定の重要性を有するのであって、同時刻の授乳の有無
自体は、そもそも本訴の結論を左右するほどのものではない。
2 Cが心肺停止の状態で発見されたときの寝具の掛かり方及び頭の位置につ
いて
 控訴人は、本件事故の際、バスタオル及び毛布は、肩にまでしか掛けられて
いなかったし、Cの顔はやや曲がった状態で、鼻や口は横を向いていたので、
窒息の危険性はなかった旨主張し、乙第5(E助産婦作成の陳述書)、第38(同
助産婦の刑事事件における供述調書)、甲第80(同供述調書)及び証人Eの証
言中にも同旨の部分(以下「発見時の状況に関するE供述」という。)がある。
 しかし、被控訴人Bは、バスタオル及び毛布は子供の頭が一部しか見えない
程度に目深に掛けられており、Cの顔は下を向いていた旨、一貫して具体的に
供述又は陳述しており(甲第5(被控訴人A作成の報告書)、第31(被控訴人B
の陳述書)、乙第29(同被控訴人の刑事事件における尋問調書)、同被控訴人
の供述)、これを疑うべき根拠もない。他方、発見時の状況に関するE供述に
は、一部変遷したり、あいまいな点があり、Cの顔が横を向いていた理由である
という耳の見え方に関する供述は不自然であることを勘案すると、発見時の状
況に関するE供述は採用することができない。
 また、控訴人は、E助産婦と被控訴人Bの立っていた位置関係からすれば、コ
ットのすぐ真横で見ていたE助産婦の観察の方が正確であり、被控訴人Bはコ
ットの斜め後方の離れた位置にいたので、毛布等が目深に掛かっていたように
誤って見えたものであるなどと主張するが、両者がCを見た位置関係は、控訴
人主張のように明確なものと認めることはできない上、当時の状況からすると、
主張に係る位置に両者が終始立ち止まったままCを見ていたとは限らないの
で、控訴人の上記主張は、失当である。
 以上によれば、控訴人の前記主張は、採用することができない。
3 Cが心肺停止の状態で発見されたときの嘔吐の痕跡について
    控訴人は、Cが心肺停止の状態で発見された際、コット内には、ミルクの
付着等、嘔吐の形跡は認められなかった旨主張し、乙第38(E助産婦の刑事
事件における供述調書)、証人E及び同Gの各証言は、これに沿うものである。
 しかし、被控訴人Bは、E助産婦がCを抱き起こした後、Cが使用していた枕代
わりの白色のタオルの中央に黄色みを帯びた直径6、7センチメートルのしみが
あるのを確認した旨供述している(乙第29(同被控訴人の刑事事件における尋
問調書)も同旨。)。同供述は、一貫したものであって、気管内からミルクの残滓
が引けた事実や、Cの緊急治療に当たったF医師や婦人科を統括するL教授
が、訴訟が予想される事態となる前には、本件事故につき、戻したミルクの誤嚥
と考えられるとか、嘔吐してそこでうつ伏せになっていた旨被控訴人らに説明す
るなどしていた事実とも符合し、他にこれを疑うべき客観的根拠はない。また、
甲第5(被控訴人A作成の報告書)及び第27(L教授との会談を録音したテープ
の反訳書)に上記のしみについての記載がないのは、両文書の目的、性質上、
不自然ではなく、甲第31(被控訴人Bの陳述書)に上記のしみについての記載
がない点も、同陳述書は必ずしも詳細・網羅的なものではない上、毛布等の掛
かり方について陳述する部分があるものの、そもそもコット内の他の寝具の状
況や嘔吐の有無等についての記載が何もないのであるから、枕にしみがあった
という記載がないことを重視するのは相当ではない。
これに対し、E助産婦は、抱き上げたCがチアノーゼ様を呈し、呼吸停止に陥っ
ている状態にあることを発見し、動揺しながら少しでも早く蘇生措置を執らなけ
ればならないと感じて、別室へ走ったのであるから、その際、コット内に嘔吐の
痕跡があることを確認し得なかったとしても、何ら不自然ではない(なお、E助産
婦は、Cの蘇生措置が終わった後も、枕を触ったり、検査したりなどしていな
い。)。また、G医師は、その陳述書(乙第8)においても、「新生児室のC君が寝
ていたコット内には、嘔吐の痕跡はなかったと記憶しています。」と記述している
が、同医師は、新生児室を通らずにCが運び込まれたNICU室へ出入りしてお
り、コット内の嘔吐の痕跡の有無を確認し得る状況にはなかったといわざるを得
ない。
以上によれば、前記被控訴人Bの供述により、コット内には、ミルクの嘔吐の形
跡があったと認めるのが相当であり、控訴人の前記主張は、採用することがで
きない。
四 争点1(Cの心肺停止の原因は窒息か、未然型乳幼児突然死症候群ないし
乳幼児突発性危急事態か)について
1 前記認定事実によれば、① 被控訴人Bの出産は順調であって、Cは、出生
時に異常はみられず、出生後の成育状況も良好で、泣き声も大きかった、② 
Cは、本件事故当時生後間もない新生児であって、まだうつ伏せ寝には慣れて
いなかった、③ 本件事故以前の遅くとも昭和62年ころから平成6年ころまでの
間、乳幼児のうつ伏せ寝の適否自体については、専門家の間でも意見が分か
れていたが、海外やあるいは国内でも、うつ伏せ寝にした場合に乳幼児の突然
の死亡例の増加や、吐物吸引による乳幼児の窒息死の可能性があることが指
摘されており、そのため、うつ伏せ寝にする場合には、アイロン台ぐらいの固さ
を目安とした固くて薄い敷布団を使うこと、枕や枕代わりのタオル等を使わない
こと、細やかな気配りと十分な注意を忘れず、特に最初のうちは目を離さないな
どの注意事項を必ず守るべきことが一般的に提唱されていた、④ ところが、本
件事故当時のCの寝具は、控訴人病院において通常に使用されているもので
あって、新生児を仰向け寝で寝かせる際に使用されるものと同一であり、枕とし
て、二つ折りにされたハンドタオルが用いられ、敷布団として、厚さ約5センチメ
ートルのマットレス(汎用クッション材用の一般フォーム使用)のほかに、厚さ約
2センチメートルのベッドパッド、三つ折りにされたバスタオル及び防水用ラミネ
ートシートまで用いられており、さらに、コット内のCの上には、二つ折りのバスタ
オルと二つ折りの毛布が頭の一部が出る程度に掛けられており、うつ伏せ寝の
際の寝具及びその用い方としては、不適切であり、危険性があった、⑤ E助産
婦は、Cをうつ伏せ寝にした後、その動静に注意することをせず、Cを観察する
ことのできないNICU室で勤務していたため、うつ伏せ寝及び上記寝具による危
険性が更に増していた、⑥ うつ伏せ寝にした場合、寝具が適切でないときや
乳児がうつ伏せ寝に慣れていないときなどに、顔が下を向いたまま、布団や枕
等で鼻口部が圧迫され、低酸素状態となり、嘔吐を引き起こし、その結果吐物
を吸引するなどして、窒息にまで至ることがあり得る、⑦ Cは、前記うつ伏せ寝
にされた夜は、合計100ccの授乳のほか2回の授乳(量不明)という、これまで
で最も量の多い授乳を受けており、うつ伏せ寝にする直前にも、吐乳や腹満が
認められた、⑧ Cは心肺停止状態で発見され、E助産婦も直ちに吸引が必要
と判断し、医師も挿管吸引をした、⑨ 本件事故後、気管内挿管前の吸引及び
気管内挿管による吸引のいずれの際にも、Cの気管内からミルク残滓が多量に
吸引された、⑩ 上記ミルク残滓の吸引後間もなく、Cの呼吸が十分ではないが
復活した、⑪ Cが使用していた枕代わりのタオルの中央に黄色みを帯びた直
径6、7センチメートルのしみがあり、吐乳の跡と推測することができる、⑫ 本
件事故当時に緊急治療に当たった控訴人病院小児科のI医師等の記載した診
療録には、記憶が新しいと考えられる本件事故の翌日分には、「milk誤嚥によ
る窒息→呼吸停止→心臓停止の可能性大」と記載され、その後、検査、検討期
間を置いた3月15日の分にも、「milk誤飲による窒息及び心停止状態で発見さ
れました。」と記載されている、⑬ 本件事故当時の当直医であって、最初にC
の治療に当たったF医師は、その約2時間後に、被控訴人らに対し、Cが、戻し
たミルクを再度飲み込み、それが肺に入ったために本件事故が生じた旨の説
明を行っており、その更に約2時間後、緊急治療に当たった控訴人病院の医師
5人が被控訴人らに対し説明した際も、本件事故の原因としてミルクの誤嚥が
考えられる旨の説明を行っており、翌日行われた控訴人産婦人科部長のL教
授の説明も、嘔吐の事故であるというものであって、訴訟が予想される事態とな
るまでは、控訴人病院の関係者等から、Cの本件事故ないし死亡が未然型乳
幼児突然死症候群ないし乳幼児突発性危急事態による旨の説明はされていな
いということができる。
以上によれば、Cの本件事故時の心肺停止の原因については、うつ伏せ寝にさ
れた後、頭の重み及び枕代わりのタオル等で鼻口部が圧迫され、生後間もな
く、うつ伏せ寝に慣れていなかったためや、敷布団、枕代わりのタオル及び掛け
布団代わりのバスタオルと毛布に妨げられて、適切な窒息の回避行動をするこ
ともできず、徐々に低酸素状態に陥り、吐乳や吐物の誤嚥も生じ、だれも観察し
ている者がいなかったため、結局、窒息にまで至ったことによるものと推認する
のが相当である。なお、低酸素状態及び吐物誤嚥のいずれが窒息の直接の原
因であるかという点については、気管内からのミルク残滓の吸引や本件事故に
直面しその後のCの治療に当たった医師たちの当時の記録、発言等に照らし、
吐物誤嚥が直接の原因である可能性が高いと考えられるが、断定することまで
はできない。しかし、いずれにせよ、吐物誤嚥やその重大化にも低酸素状態が
影響しており、その両方が窒息の原因になったものと考えられるので、上記断
定ができない点は本訴の結論に影響するものではない(後記注意義務違反の
判断は、低酸素状態及び吐物誤嚥のいずれが窒息の直接の原因であるかに
よって左右されるものではない。)。
2 上記認定に反する控訴人の主張は、要するに、医学的証明が完全ではない
ことを理由とするものか(民事上の不法行為責任を認定判断するには、このよう
な証明は不要である。)、又は単に通常起こりにくい事故であることを強調する
ものか、あるいは、的確な証拠に基づかない独自の議論を展開するものにすぎ
ず、次のとおり、いずれも採用することができない。
(一) 控訴人は、新生児が吐乳した場合には溢乳し、新生児の口鼻周辺や枕辺
りにはミルクの付着が認められるのが通常であるが、本件ではこのような付着
は認められない旨主張するが、付着が認め られることは、既に判示したとおり
である。なお、口腔内にミルクの付着があったことを示す証拠はないが、他の間
接事実や証拠を考え合わせれば、この点は、本件の結論を左右するものでは
な い。
(二) 控訴人は、うつ伏せ寝の場合、吐物は下に位置する口から出るはずで、
位置的に上方になる気管に入ることはほとんどない旨主張する。
  しかし、前記認定のとおり、うつ伏せ寝の場合の窒息の危険性や吐物吸引
の危険性を指摘する調査結果や文献があり、現に、乳児の吐物吸引による死
亡事例にはうつ伏せ寝が多いという調査報告もある上、上記主張とは逆に、う
つ伏せ寝にした場合には、かえって咽喉頭部に溜まった吐物を吸引しやすくな
るなどの指摘もあることが認められる(甲第22)。したがって、控訴人の上記 
主張は、採用することができない。
(三) 控訴人は、新生児でも、鼻口部が圧迫、閉塞されれば、自分で手を動かし
たり、頭を支えたり、頭の位置を変えたり、顔を横向きにするなどして、窒息を回
避することができる旨主張する。
  しかし、生後3日の新生児の運動能力が活発ではあるとしても、強いもので
はないことは公知の事実であり、Q教授(甲第60。同教授の意見書)、P教授
(甲第74。同教授の刑事事件における尋問調書)及びR医学博士(乙第34。同
博士の刑事事件にお ける尋問調書)も、控訴人主張のような窒息の回避能力
を否定しており、甲第79(ニュージーランドにおける調査結果に関する 文献)
もこれを裏付けるものである。控訴人の援用する甲第21、第65、第72、乙第
19、第23については、新生児が色々な運動をしようとすることや、生後余り間
を置かないころでも一瞬頭を持ち上げようとすることがあるという限度では採用
することができるが、上記各証によっては、遷延性の酸素欠乏症やこれによる
吐物誤嚥に至った生後3日の新生児であるCが、酸素欠乏状態の下、本件事
故時に使用されていた寝具の中で、単に体位を変えようと試みるのではなく、実
際に手を動かしたり、頭を上げたりすることにより、顔の向きを変えることができ
るはずであったという事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的
確な証拠はない。
  したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
(四) 控訴人は、① Cのような新生児であっても、吐物を誤嚥しそうになれば、
防御機構が働き、反射的にこれを止めようとするた め、誤嚥の可能性自体低
いし、窒息するほどの大量の気管内吸引は通常起こらず、② しかも、窒息す
るほどの気管内吸引があったのであれば、Cは暴れたりするなどの不穏な体動
を示し、NICU室にいるE助産婦がこれに気付くはずであるが、同助産婦は気付
いておらず、③ また、身体の位置が移動したり、掛けられ た布団にその痕跡
が残ったり、着衣の異常が認められるはずであるが、E助産婦がCを抱き上げ
た時点で、そのような異常は全く認められなかった旨主張する。
  しかし、①の主張については、通常起こりにくい事故であるということをいう
のであれば、通常起こりやすければ大問題なのであって、そのようなことは本
訴訟の論点ではなく、また、一般的に起こり得ないということをいうのであれば、
うつ伏せ寝の場合に、吐物誤嚥や窒息するほどの大量の気管内吸引が起こる
可能性があることは、学説上も、また実際の報告例からも明らかであり、採用す
ることができず、さらに、生後3日の乳児が本件事故時に使用されていた寝具
の中でうつ伏せ寝にされた場合に、吐物誤嚥や窒息するほどの大量の気管内
吸引が起こり得ないと主張するのであれば、このような事実を認めるに足りる的
確な証拠はない。
  ②の主張については、新生児室とE助産婦が詰めていたNIC U室との位置
関係からして、同助産婦がCの異常に気付かなかったことは当然であるから、
同主張を採用することはできない。
  ③の主張についても、生後3日の乳幼児が、本件事故時に使用 されてい
た寝具の中で窒息し、ないしは窒息するほどの吐物の気管内吸引があった場
合に、身体の位置が移動したり、掛けられた布団にその痕跡が残ったり、着衣
の異常が認められるか否か自体、そもそも明確ではない上、E助産婦が混乱し
た状況の中で急いでCを抱き上げた時点で、寝具の乱れ等をどの程度認識、記
憶していたか明らかでないこと、生後3日の乳幼児の運動は活発ではあるとし
ても、強いものではなく、もちろん首も据わっていないこと(公知の事実であ
る。)、Cは二つ折りのバスタオル及び二つ折りの毛布を頭が一部出る程度に
掛けられた状態で発見されたことに照らせば、E助産婦が、寝具等に不穏な体
動による移動等の痕跡があることに気付かず、あるいは実際にこのような痕跡
がなかったとしても特に不自然ではないから、同主張も採用することはできな
い。
(五) 控訴人は、Cの胸腹部のレントゲン写真によっても、Cにミルク誤嚥による
窒息状態を窺わせる所見は認められず、吸引で両肺野に貯まったミルクを吸引
することは不可能であるから、上記レントゲン写真は、Cの死因がミルク誤嚥に
よる窒息ではないことを示すものである旨主張する。
  しかし、前記認定のとおり、ポータブル撮影機によるレントゲ ン写真の撮影
は、気管内挿管後の吸引により、ミルクを含む液体が多量に吸引された後に行
われており、ポータブル撮影機によるレントゲン写真及びその後に撮影されたと
するレントゲン写真上 にミルク誤嚥の著明な状況が撮影されていなくても不自
然ではない。ミルク誤嚥による窒息が一種の溺死状態であって、気管内挿 管
後の吸引で両肺野に貯まったミルクを吸引することは不可能で あるという控訴
人の主張は、新生児のミルク誤嚥と溺死との間の程度の違い及びレントゲン写
真の判読可能性の問題を無視した議論であり、他の事実関係と総合考慮すれ
ば、上記レントゲン写真は、Cがミルク誤嚥をしたという事実認定を覆すもので
はないと いうべきである。
  したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
(六) 控訴人は、最初の吸引は、心臓マッサージにより口腔内にあふれてきた
液体を吸引したものであり、気管挿管後に、挿管チューブを通して気管支から
引けた乳白色の粘性の低い液体も、心臓マッサージ、バギングの蘇生措置等
によって気管への移動が生じた ものである旨主張する。
  しかし、前記認定事実によれば、Cは、既に呼吸停止の状態で発見され、吐
乳の跡もあって、E助産婦も直ちに吸引が必要と判断しており、また、F医師は、
I医師がNICU室に到着するまでの間に行った心臓マッサージ中にCの口から
吹き出したミルク残滓を含む液体を気管内から多量に吸引し、その後に心臓マ
ッサージを再開継続させ、更にその後にG医師が挿管吸引した際に再び乳白
色の液体が多量に吸引され、その後呼吸が再開したというのである。したがっ
て、最初に吸引された液体についても、心臓 マッサージ等によって胃から嘔吐
されたものであってミルクの誤 嚥によるものではないと断ずることはできない
上、仮に、最初に吸引された液体が心臓マッサージ等によって胃から嘔吐され
たものであるとしても、これが多量と認識されることになる程度に気管等に移動
し、その移動した液体が貯留して、後に挿管吸引されたものであると認めること
はできない。
  なお、控訴人は、吸引量が5ccないし10ccにすぎない旨 主張するが、吸
引したのが控訴人の雇用する医師であって、診療録に「多量」と記載されている
ことからすると、これが5ccな いし10ccであったことを認めるに足りる的確な
証拠を控訴人が提出しない限り、前記認定に係る「多量」という評価を覆すこと
はできないというべきであるところ、そのような証拠は提出されていない。
  したがって、控訴人の前記主張は、いずれも採用することができない。
(七) 控訴人は、Cがミルク誤嚥により窒息したのであれば、バギングが行われ
ていることも考え併せると、気管やその末梢に広範囲に多量のミルクが存在し
ているはずであるが、そのような多量のミルクが存在していたという所見はない
旨主張する。
  しかし、レントゲン写真の問題については、既に判示したとおりであり、ミルク
残滓の吸引を含む前記認定事実を総合すれば、ミルクの誤嚥を認定するに十
分である。控訴人の上記主張は、採用することができない。
(八) 控訴人は、嘔吐したミルクを誤嚥して窒息したのであれば、挿管チューブ
から引けた液体に細小泡沫が存在したはずであるが、本件で吸引された液体
は、いずれも粘調性の低いさらさらしたものであって細小泡沫は認められてい
ない旨主張し、吸引を行ったG医師も、その陳述書(乙第8)において、吸引され
たミルク様のものはさらさらしており固まりや気泡は認めなかったと、上記主張
に沿う記述をしている。
  しかし、G医師は、上記陳述書の記載にもかかわらず、Cの小児科入院診療
録(甲第9)においては、「粘調なmilkかすのようなもの多量にひけ」と記載して
おり(12丁裏)、同記載の方が担当の医師によりその当時の印象に残ったこと
を端的に表現したものとして信用性が高いと評価すべきところ、同診療録の記
載においては、「さらさら」との文言は使用されておらず、逆に「粘調」という文言
が使用されていることからみて、吸引された液体の粘調度は高かったものと認
めるのが相当である。さらに、証人Gの証言によっても、引けた液体は、チュー
ブの中を、最初は1センチぐらいの量がずずずずずっと行って、その後細かい
途切れ途切れの白い物質がずずずずずっと引けてきたということであり、細小
泡沫が存在した可能性もあると考えられる。そうすると、細小泡沫の存在の確
認は、控訴人が主張するように、ミルク誤嚥の事実を確認する有力な方法とな
るとしても、唯一の方法とは認められない上、吸引したのは控訴人病院の勤務
医師であって、その液体を控訴人病院が保管も検査もしていないこと(甲第9、
弁論の全趣旨)からすれば、本件においては、細小泡沫の存在につき医学的
証明が尽くされていないことをもって、ミルク誤嚥の事実を覆すことはできない。
  したがって、控訴人の前記主張は、採用することができない。
(九) 控訴人は、原判決は、本件事故の際に用いられていた寝具がうつ伏せ寝
に適さないと判断しているが、原審は、本件事故の際に どのような形状、材質
の寝具が用いられていたかを審理しておらず、上記事実を認めるに足りる証拠
は何もなく、かえって、本件 事故当時使用されていた寝具は、Cの顔が下向き
になったとき敷 布団に潜るような状況になるものではなく、また、新生児が窒
息するような事態に至るのは、タオルや毛布程度の重量では足りず、新生児を
敷布団に押し付けるようなことをした場合に限られるな どと主張し、乙第25の
1(N教授の鑑定書)も同旨である。
  しかし、本件事故の際に用いられていた寝具が、仰向け寝の際に用いられ
ていたものと同一であって、うつ伏せ寝には不適切であることは、前記認定から
明らかであり、甲第6の3(写真の番 号15、21、22)、第11、第21、第60(Q
教授作成の意見書)、第68ないし第70、第74(P教授の刑事事件にお ける
尋問調書)、第76(R医学博士の検察官に対する供述調書)、第78(M教授作
成の意見書)、乙第26(P教授の刑事 事件における尋問調書)、第34(R医学
博士の刑事事件における尋問調書)等に照らしても、控訴人の上記主張は、採
用することができない。控訴人の主張及び乙第25の1は、要するにうつ伏せ寝
による窒息死があり得ないこと及び生後3日の新生児に遷 延性の窒息の回
避能力があることを前提とするものであるところ、このような前提を採ることがで
きないことは、既に判示したとおりである。また、遷延性の酸素欠乏症が起きる
には、顔が敷布団に深く潜るような状況になることまでも必要なわけではない。
  なお、控訴人の援用する乙第16及び第17については、乙第16は、マットレ
スのみに関するものであって、本件事故当時には、ベッドパッドやタオル、防水
用ラミネートシート等が重ねら れていたこと、マットレスも、汎用クッション材用
の一般フォームであって、高硬度フォームではない上、使用の経年変化により 
硬度がどう変わるのかという検討はされていないこと、乙第17は、底部の平た
い箱を載せて凹み方を調べたものにすぎず、人間の顔を載せた場合の状況や
遷延性の酸素欠乏症の可能性を検証するものではないことからすると、上記各
証によって、寝具の適否 に関する前記認定判断を覆すことはできない。
  したがって、控訴人の前記主張は、採用することができない。
(一〇) 控訴人は、Cの心肺停止の原因は未然型乳幼児突然死症候群ないし
乳幼児突発性危急事態である旨主張する。
  しかし、前記認定事実によれば、Cの死亡原因については、別 の発生機序
が認められ、しかも、本件では、Cにつき未然型乳幼児突然死症候群ないし乳
幼児突発性危急事態を疑わせるような何 らかの負因や兆候が窺われるもの
ではない上、本件事故及びCの状態を最もよく知っていたはずの控訴人病院の
担当医師たちも、本件訴訟の審理が進行するまでは、いずれも、本件事故が未
然型 乳幼児突然死症候群ないし乳幼児突発性危急事態によるものであ ると
の診療録への記載や被控訴人らへの説明を一切していなかったというのであ
るから、控訴人の上記主張は、採用することができない。
(一一) 控訴人は、原判決の認定したうつ伏せ寝にした場合の吐乳吸引による
窒息という本件事故の発生機序は、全く証拠に基づかない論理性に欠けた恣
意的な事実認定であって、何ら医学的検討をせず、極めて安易に拙速主義に
基づいて、認定判断されたものであり、被控訴人らが依拠する甲第32、第60、
第62、第74、第76、第78、乙第26、第34及び第35にも、被控訴人ら主張
の機序による心肺停止が起こったと認められる旨の記載はないなどと主張す
る。
  しかし、前記認定に係る酸素欠乏状態及び吐乳誤嚥による窒息という本件
事故の発生機序を裏付ける証拠は、前掲の甲第12を始めとして、甲第23、第
32、第58、第60、第62、第63、第74、第76、乙第34等が存在し、かつ、前
記認定に係る種々の間接事実があるのであって、上記発生機序を認めること
が証拠に基づかない論理性に欠けた事実認定であるということはできない。控
訴人の上記主張は、関係証拠を真摯に検討することを怠り、あるいは、うつ伏
せ寝に慣れていない生後間もない新生児の病院における事故という本件事案
の特質を捨象して、無理にうつ伏せ寝一般の当否を論ずるものであって、到底
採用することができない。なお、控訴人は、臨床医以外の研究者や法医学者は
実際の乳幼児の突然死の状況や、乳児の運動能力等を知らないので、本件事
故の原因を判断することのできる専門家とはいえない旨主張するが、独自の議
論であって採用することができない(控訴人は、甲第74(P教授の刑事事件に
おける尋問調書)について縷々批判するが、同教授が動脈血のPHの低下(ア
シド-シス)という立論の根拠が誤りであることを自認しているので立 論が成り
立たない旨の批判は、曲解であって、採用することができず、他の点も、本判決
の採用しない事実を前提としたり、いたずらに厳密な医学的立証を求めるもの
であって、採用することができない。また、控訴人は、乙第34(R医学博士の刑
事事件における尋問調書)についても科学的・合理的根拠がない旨縷々批判
するが、いずれも、厳密な医学的立証を求めたり、本判決の採用しない事実を
前提に独自の議論を展開するものであって、採用することができない。甲第78
(M教授作成の意見書)に対する批判も、的を射ない議論や、本件事故の際の
寝具の状況とCが生後3日であってうつ伏せ寝に慣れていなかったことを正当
に勘案しない議論、あるいは証拠の独自の評価をいうものにすぎず、採用する
ことができない。)。
(一二)  控訴人は、小児科の専門家であるN教授の鑑定書(乙第 25の1)に
よれば、Cの死因がうつ伏せ寝による窒息死であ るとは考えられない旨主張
する。
 しかし、同鑑定書のような考え方では、現に乳児のうつ伏せ寝による窒息死
や吐物誤嚥による死亡事故が相当数報告されていることと矛盾する上、同鑑定
書は、既に判示した、うつ伏せ寝が条件次第では危険性を有すること、生後3
日目の新生児の遷延性の窒息の回避能力が十分ではないこと、本件事故当時
使用されてい寝具がうつ伏せ寝に適切なものではないことなど、重要な前提事
実につき、前記認定判断とは全く異なる前提を基に論じているも のであるか
ら、これを採用することができない。
(一三) 控訴人は、本件鑑定の結果が、① 本件事故当時、新生児をうつ伏せ
寝にさせることが新生児にとって危険であるから避けるべきであるなどという一
般的知見は、一般臨床の場では存在せず、 ② Cの心肺停止の原因は不明
であり、③ 枕等による鼻口部圧 迫による酸素欠乏状態と、これにより惹起さ
れた吐乳、吐乳吸引 という一連の機序により呼吸停止、心停止状態となった
可能性は極めて少ないなどとしている点を有利に援用している。
  しかし、本件鑑定の結果は、長期間の検討時間があったにもか かわらず、
そもそも相当に簡易な内容のものである上、うつ伏せ寝にした措置が適切であ
って、ミルクの誤嚥及びこれによる窒息 の可能性が極めて少ないとしている部
分は、① Cが嘔吐しやすい児である事実、② 口や顔の周りに吐物がなかっ
た事実、③ 早期新生児及び嘔吐の見られる児にはうつ伏せ寝が適するという
見解、④ うつ伏せ寝の方が吐物の誤嚥は少ないので、吐く可能 性があると
きはうつ伏せ寝にすべきであるという見解、⑤ 枕代わりのタオルの使用は差し
支えないという見解、⑥ 病的新生児 を年間200人から300人みており、そ
のほとんどをうつ伏せ寝で管理してきたが、うつ伏せ寝で口が塞がって窒息し
そうになっていたということを一度も経験したことがないという事実を前提とする
ものである。しかし、①及び②は本判決の認定するところではなく、殊に、本件
における重要な事実である嘔吐の跡及びミルク残滓の吸引に関する詳細な検
討を欠いている点で、本件鑑 定の結果は、既に採用することのできないもの
である。また、③ の見解及び⑥の事実については、鑑定人は、Cが嘔吐しや
すい病児であることと、呼吸心拍モニター装着という条件下でのうつ伏 せ寝を
前提に論じており、本件のように、健常児であって、呼吸 心拍モニターはもち
ろん肉眼による観察さえされていない事案に即した議論ではない。④及び⑤に
ついては、前記認定のとおり、 これと異なる見解が文献等で公表されており、
鑑定人の見解のみによって、本件の結論を左右することはできない。さらに、本
件 鑑定の結果は、控訴人病院で使用されている寝具全体の状況及び うつ伏
せ寝にさせた以降の継続的観察の懈怠という本件で最も重 要な点について、
実質的検討をせず、殊に継続的観察の懈怠については無視して判断している。
したがって、本件鑑定の結果は、本件の結論に影響するものではないというべ
きである。
  また、乙第33(O医師の刑事事件における尋問調書)も、本 件鑑定の結果
と同結論ではあるが、同証によれば、同医師は、さらに、① 本件事故の際に
使用されていたものと同種の寝具は、 一般の病院で通常使われているものと
同様であって、不適切なものではないこと、② Cの気管から吸引されたミルク
は蘇生措置 中に胃から気管に移動したものであること、③ 生後3日の新生
児でも、顔を左右に動かすことができ、下を向けて寝せても自分 で横を向くこ
と、④ 本件事故は、内因的な病気による可能性が高いことを証言している。し
かし、これらは、必ずしも本件鑑定 の結果においては言及されていないもので
ある上、①については、顔が埋まってしまうほど柔らかい布団や羊毛がふさふさ
している もののみが不適切であるという同医師の見解を前提としているとこ
ろ、前記認定事実に照らし、このような見解を採用することはできない。②につ
いても、実際の蘇生措置の経過と呼吸の再開時 期等を厳密に検証しないま
ま、蘇生措置中の移動であると断定す るものであり、既に判示したとおり、こ
のような見解は採用することができない。③に関する証言は、生後3日の新生
児に関する点は推測に基づくと考えられる部分が多い上、酸素が足りなくな っ
た場合の回避行動自体は見た経験がないというのであるから、これを採用する
ことはできない。④も、具体性に乏しく採用することができない。
  なお、本件の訴訟経緯に照らし若干付言するに、当裁判所に顕 著な事実、
乙第33、甲第81、第82及び第84によれば、本件鑑定に当たっては、控訴人
訴訟代理人から中立的な者を選ぶべきであるとの意見が出されて、鑑定人が
推薦されたものであるが、実際には、鑑定人は、元々乳幼児のうつ伏せ寝の実
行者であって、一部の控訴人訴訟代理人の知人であったことが認められるの
で、この点からも、本件鑑定の結果の証明力は、高くないものといわざるを得な
い。
五 争点2(控訴人の責任)について
1(一) 前記のとおり、本件事故当時、新生児をうつ伏せ寝にする場合には、ア
イロン台ぐらいの固さを目安とした固くて薄い敷布団を使い、枕や枕代わりのタ
オル等を使わず、細やかな気配りと十分な注意を忘れず、特に最初のうちは目
を離さないなどの注意事項を必ず守るべきことが提唱されており、控訴人病院
自身も同様な趣旨を記載した小冊子(甲第11)を産婦に配っていたのであるか
ら、総合病院である控訴人病院の産婦人科病棟及び産婦人科看護婦を管理、
監督する管理・監督者(本訴において氏名を特定することはできないが、存在
することは明らかであり、以下「本件管理・監督者」という。)並びに同科新生児
室担当の看護婦であるE助産婦は、少なくとも生後間もない新生児をうつ伏せ
寝にする場合には、上記のような注意をすべきであることを知っていたか、又は
容易に知り得たものと認められる。
(二) したがって、総合病院にあって産婦人科の専門的医療を提供すべき本件
管理・監督者は、少なくとも生後間もない新生児をうつ伏せ寝にする場合には、
それに適した寝具、すなわち当該新生児 が低酸素状態となったり、それにより
嘔吐し、吐乳を吸引したりすることのないように、薄く、材質の硬い敷布団を使
用し、軽い 上掛け、タオルケット等の掛け布団を準備して、これを浅く掛ける
か、又は何も掛けず、枕や枕代わりのタオルを使用しないこと とした上、新生
児室担当の看護婦に対し、生後間もない新生児をうつ伏せ寝にする場合には
そのような寝具を用い、これがなけれ ば、うつ伏せ寝にしてはならないことを
徹底させると同時に、寝かせた後も、当該新生児に異常が生じていないかどう
かという点(すなわち、鼻口が圧迫、閉塞された状態となっていないか、吐物に
よる気道閉塞が生じていないか、あるいは呼吸及び心拍の異常がないかなどと
いう点)を肉眼又は機器を使用して継続的に観察又は監視するように指導する
注意義務があるものというべきで ある。
(三) また、同じく、総合病院である本件病院の産婦人科新生児室の担当看護
婦も、生後間もない新生児をうつ伏せ寝にする場合には、前記のようなうつ伏
せ寝に適した寝具を使用し、寝かせた後も肉 眼又は機器により継続的に観察
又は監視すべき注意義務があるということができる。特に本件では、Cは生後3
日であって、うつ 伏せ寝に慣れておらず、E助産婦は、前記認定のとおり、Cに
対し、1月8日午前2時30分以降、これまでで最も量の多いミルクを与え、午前
5時40分ころにもミルクを与えたが、ミルクを吐き、腹満もあったことから、再度
吐く可能性があることを認識していたというのであるから、新生児の看護の専門
家としては、このように嘔吐する可能性が高く、かつ、うつ伏せ寝に慣れていな
い新生児をうつ伏せ寝で寝かせる場合には、寝具に十分な注意 を払うととも
に、寝かせた後、当該新生児に異常が生じていないかどうかという点を肉眼又
は機器を使用して慎重に継続的に観察又は監視すべき注意義務があるものと
いうべきである。
2(一) しかし、本件管理・監督者は、新生児室担当の看護婦に対し、 生後間
もない新生児をうつ伏せ寝にする場合に前記のような寝具 を使用することを
徹底させることを怠っていたのみならず、当該新生児に異常が生じていないか
どうかという点を肉眼又は機器を使用して継続的に観察又は監視するように指
導することを怠っていたものというべきであり、民事上の不法行為の原因となる
注意義務違反と過失が認められる。
(二) そして、E助産婦も、前記注意義務を怠り、前記認定のとおり、新生児を仰
向け寝で寝かせる場合に使用する寝具と同じ敷布団等を用い、枕としてハンド
タオルを二つ折りにしたものを使用し、二つ折りのバスタオル及び二つ折りの毛
布を掛け、午前6時少し前に新生児室を離れた後は、継続的にNICU室に詰め
て、Cのいる新生児室に入らず、さらに、NICU室からでもCが見える位置に同
人のコットを移動させたり、監視するために機器を使用するなどの措置も執ら
ず、結局、呼吸停止状態のCを被控訴人Bと共に発見するまで、短く見積もって
も約30分間一度もCの状態を観察又は監視していなかったのであり、以上の
点において、民事上の不法行為の原因となる注意義務違反と過失が認められ
る。
なお、本件管理・監督者は、前記注意義務違反において、単に指導を怠るのみ
ならず、そもそも前記のような生後間もない新生児のうつ伏せ寝に適する寝具
を準備せず、NICU室に詰めている場合には同室を出なければ新生児室内の
コットを観察することができないような病棟の構造としながら、本件事故当日、N
ICU室に重症の新生児がおり、新生児室にも相当数の新生児がいるのに、両
室を併せて担当する一人の当直看護婦しか配置していなかったのであるから、
その責任は重大であり、その反面、本件事故の責任のうちE助産婦の負うべき
部分は相対的には小さく、同助産婦には非難し難い点もあるということができ
る。しかしながら、総合病院の産婦人科に勤務し、新生児の看護の専門家であ
って、当時ただ一人の新生児室担当看護婦であったE助産婦としては、前記の
ような生後間もない新生児のうつ伏せ寝に適する寝具が手近にないならば、前
示のとおり、嘔吐する可能性が高く、うつ伏せ寝に慣れていない生後3日の新
生児であったCをうつ伏せ寝にすべきではないのであり、また、新生児室とNIC
U室の両方に用務があるのであれば、両室を巡回するとか、あるいは、それが
事実上困難であるとすれば、呼吸心拍モニター等の機器を使用するとか、上司
若しくは当直医に相談するなど何らかの適切な措置を執る義務があるといわざ
るを得ないのであるから、法的には、前示のとおり、注意義務違反と過失が認
められるといわざるを得ず、この注意義務違反と本件管理・監督者の前記注意
義務違反とは、共同不法行為の関係にあるというべきである。
(三) 控訴人は、原判決は、継続的に観察すべき注意義務があるとす るが、う
つ伏せ寝にした場合、どの程度の頻度で何分おきに乳児 を観察すべきなのか
何ら具体的に示していない上、そのようにす べき医学的根拠を何ら具体的に
述べていない旨主張する。
しかし、本件のような状況でうつ伏せ寝に慣れていない生後3日の新生児をう
つ伏せ寝にした場合には、総合病院において新生児を担当する看護婦として
は、肉眼又は機器により当該新生児の状態を慎重に継続的に観察すべき注意
義務があるということは、既に判示したところから明らかである。また、慎重に継
続的というのは、このような新生児の深刻な事故を見逃さない程度に目を離さ
ないという意味に解すべきである。目を離し得る具体的な時間については、甲
第74(P教授の刑事事件における尋問調書)、第76(R医学博士の検察官に対
する供述調書)、乙第34(同博士の刑事事件における尋問調書)等によれば、
おおむね10分前後が目を離すことのできる最大限度ではないかと推測される
が、窒息に至る可能性のある時間は寝具の状況や新生児の個人差にも左右さ
れるであろうから、これを明確に認定することは困難である。しかし、本件では、
E助産婦は短く見積もっても約30分間、Cの状態を観察しておらず、しかも、現
に深刻な事故を生ずるほどの間新生児室から離れていたことになるのであるか
ら、これが長すぎる間隔であって、慎重な継続的観察ないし監視という注意義
務に違反することは明らかである。したがって、本訴においては、目を離し得る
時間の限界を認定する必要はない。
 以上のとおり、控訴人の前記主張は、採用することができない。
3 本件管理・監督者及びE助産婦が前記各注意義務を果たしていれば、Cは
前記認定の機序により心肺停止に至ることはなかったか、あるいは、短時間の
心肺停止により発見され、重度の脳性麻痺の障害を後遺することがなかったも
のであるが、本件管理・監督者及びE助産婦が前記各注意義務を怠った結果、
Cは、蘇生措置により一命を取り留めたものの、低酸素脳症となり重度の脳性
麻痺の障害を後遺し、その脳性麻痺により気道分泌物の排泄に支障が生じ、
気道分泌物が気道に貯留しやすくなっていたため、気道分泌物による窒息によ
り死亡したものである(甲第2、第3、第9、第24、第25、第32、弁論の全趣
旨)。したがって、本件管理・監督者及びE助産婦は、Cの死亡につき、共同不
法行為責任を負うというべきである。
4 そして、本件管理・監督者及びE助産婦は控訴人の被用者であることが明ら
かであって、いずれも控訴人病院の業務に関して前記各注意義務に違反した
のであるから、控訴人は、Cの死亡について、民法第715条の使用者責任を負
うものというべきである。なお、被控訴人らは、同条の使用者責任のほか、同法
第709条による控訴人自身の不法行為責任を主張するが、後者の主張は、事
実の問題としては、本件管理・監督者の指導監督義務違反をいうものであっ
て、具体的な論点も同一で控訴人に対する不意打ちのおそれもないので、当裁
判所は、これを本件管理・監督者の指導監督義務違反につき同法第715条の
使用者責任を問うものと法律構成して判断するものである。
六 争点3(損害賠償金の額)について
1 Cの被った損害について
(一) 逸失利益
     被控訴人ら主張のとおりの理由により、Cの逸失利益を2487万5300
円と認めるのが相当である。
(二) 慰藉料
     前記認定のCの死亡に至る経緯、逸失利益の額等を考慮すると、Cの
慰謝料としては1500万円が相当である。
(三) 葬儀費用
     100万円を相当因果関係のある損害と認める。
(四) 入院雑費
     被控訴人ら主張のとおりの理由により、入院雑費を27万8200円と認
める。
(五) 近親者の通院交通費及び診断書料
     これらは、Cの損害といえるか疑問がある上、具体的な金額についての
立証がないので、これを認めることができない。
(六) 合計
     上記(一)から(四)までの損害金の合計は4115万3500円 となり、被
控訴人らは、相続により、その2分の1である2057万6750円ずつCの損害賠
償請求権を取得したものと認められる。
2 被控訴人ら固有の損害について
(一) 慰藉料
     本件事故の態様、Cの死亡に至る経緯その他本件に現れた一切の事
情を考慮すると、被控訴人ら固有の慰藉料を、それぞれ250万円と認めるのが
相当である。
(二) 弁護士費用
     本件訴訟の内容、訴訟追行の態様、訴訟の経緯、認容額等を考慮する
と、被控訴人らが、本件不法行為による損害として賠償を求め得る弁護士費用
は、被控訴人らそれぞれにつき少なくとも120万円以上であると認めることがで
きる。
七 結論
  以上によれば、被控訴人らの本訴請求のうち、控訴人に対し、それぞれ金2
427万6750円及びこれに対する不法行為の日である平成7年1月8日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分
は、理由がある。
  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却する
こととし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第67条第1項、第61条を適用し
て、主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第5民事部
     裁判長裁判官  飯 田 敏 彦
          裁判官  持 本 健 司
          裁判官  菅 野 博 之

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