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裁判例


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主文
1近畿経済産業局長が,原告に対し,平成17年1月6日付けでした行政
文書一部不開示決定(ただし,平成18年5月19日付け行政文書開示決
定によって変更された後のもの)のうち,別紙1不開示情報目録1記載の
情報が記録された行政文書の部分を不開示とした部分を取り消す。
2近畿経済産業局長は,原告に対し,原告の平成16年8月6日付け行政
文書開示請求に基づいて,別紙1不開示情報目録1記載の情報が記録され
た行政文書の部分につき開示決定をせよ。
3原告のその余の訴えを却下する。
4訴訟費用はこれを5分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負
担とする。
事実及び理由
第1請求
1近畿経済産業局長が,原告に対し,平成17年1月6日付けでした行政文書
一部不開示決定のうち,別紙1不開示情報目録1及び別紙2不開示情報目録2
記載の情報が記録された行政文書の部分を不開示とした部分を取り消す。
2近畿経済産業局長は,原告に対し,原告の平成16年8月6日付け行政文書
開示請求に基づいて,別紙1不開示情報目録1及び別紙2不開示情報目録2記
載の情報が記録された行政文書の部分につき開示決定をせよ。
第2事案の概要
1本件は,原告が,近畿経済産業局長に対して,行政機関の保有する情報の公
開に関する法律(以下「情報公開法」という)3条に基づき,エネルギーの。
使用の合理化に関する法律(平成17年法律第93号による改正前のもの。以
下「省エネ法」という)11条に基づき各事業者から提出された定期報告書。
の開示請求をしたところ,同局長がその一部につき情報公開法5条2号所定の
不開示情報に該当するとして不開示とする処分をしたため,原告が,上記一部
不開示決定処分の一部の取消しを求めるとともに,同部分につき開示処分の義
務付けを求めている抗告訴訟である。
2法令の定め
(1)情報公開法
,,,,情報公開法は何人も同法の定めるところにより行政機関の長に対し
当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができるものとして
おり(3条,行政機関の長は,上記の開示請求があったときは,請求に係)
る行政文書に5条各号に掲げる不開示情報が記録されている場合を除き,当
該行政文書を開示しなければならない(同条柱書。)
そして,同条2号イは,法人その他の団体に関する情報又は事業を営む個
人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより当該法人等又は当
該個人の権利競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの以,(
「」。),,下利益侵害情報というを不開示情報に掲げる一方同号ただし書は
人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要である
と認められる情報は,不開示情報から除かれるものとしている。
(2)省エネ法等
,(「」。)ア経済産業大臣は燃料及びこれを熱源とする熱以下燃料等という
の年度中使用量が政令で定める数値以上である工場を燃料等の使用の合理
(「」。)化を特に推進する必要がある工場以下第一種熱管理指定工場という
として,電気の年度中使用量が政令で定める数値以上である工場を電気の
使用の合理化を特に推進する必要がある工場(以下「第一種電気管理指定
工場」といい,第一種熱管理指定工場と合わせて「第一種エネルギー管理
」。),()。指定工場というとしてそれぞれ指定することができる6条1項
(「」イ第一種エネルギー管理指定工場を設置する者以下第一種特定事業者
という)は,毎年,経済産業省令で定めるところにより,第一種熱管理。
指定工場にあっては燃料等の使用量その他燃料等の使用の状況並びに燃料
等を消費する設備及び燃料等の使用の合理化に関する設備の設置及び改廃
の状況に関し,第一種電気管理指定工場にあっては電気の使用量その他電
気の使用の状況並びに電気を消費する設備及び電気の使用の合理化に関す
る設備の設置及び改廃の状況に関し,経済産業省令で定める事項を主務大
臣(経済産業大臣及び当該工場に係る事業を所管する大臣をいう。27条
1項。以下同じ)に報告しなければならない(11条。。)
ウ上記経済産業大臣の権限は工場の所在地を管轄する経済産業局長に,上
記主務大臣の権限は地方支分部局の長に,それぞれ委任されている(27
条2項,エネルギーの使用の合理化に関する法律施行令〔平成17年政令
第228号による改正前のもの。以下「省エネ法施行令」という〕15。
条1項,2項。)
3前提事実(当事者間に争いがないか弁論の全趣旨及び証拠〔書証番号は特記
なき限り枝番を含む。以下同じ〕により容易に認定できる事実)。
(1)近畿経済産業局長は,省エネ法11条に基づく定期報告を受ける権限を
同法27条2項,省エネ法施行令15条2項により主務大臣から委任され,
また,情報公開法に基づく行政文書の開示及び不開示の決定をする権限を情
報公開法17条,行政機関の保有する情報の公開に関する法律施行令15条
1項の規定に基づく告示(平成13年経済産業省告示第173号)により経
済産業大臣から委任された被告に属する行政庁である。
株式会社神戸製鋼所(以下「神戸製鋼」という)は,第一種熱管理指定。
工場及び第一種電気管理指定工場である加古川製鉄所を設置する者である。
住友金属工業株式会社(以下「住友金属」という)は,第一種熱管理指。
定工場及び第一種電気管理指定工場である和歌山製鉄所を設置する者であ
る。
花王株式会社(以下「花王」という)は,第一種熱管理指定工場及び第。
一種電気管理指定工場である和歌山工場を設置する者である。
(。「」。),鐘淵化学工業株式会社現株式会社カネカ以下カネカというは
第一種熱管理指定工場及び第一種電気管理指定工場である高砂工業所を設置
する者である(甲1,2,弁論の全趣旨。)
(2)原告は,情報公開法3条に基づき,近畿経済産業局長に対し,平成16
年8月9日,請求する行政文書の名称等を「平成16年8月9日までに受理
した最新年度の省エネ法第11条に基づく定期報告書(燃料等・電気共に第
2表以下を除く」とする行政文書開示請求書(同月6日付け)を提出し,)
行政文書開示請求(以下「本件開示請求」という)をした(乙1。。)
(3)近畿経済産業局長は,本件開示請求に係る行政文書として,省エネ法1
1条に基づいて第一種特定事業者から平成16年8月9日までに提出された
最新年度の定期報告書(合計1176通)のうち熱管理に関する定期報告書
(様式第4)の報告者等に関する記載欄及び第1表(燃料等の使用量)並び
に電気管理に関する定期報告書(様式第5)の報告者等に関する記載欄及び
第1表(電気の使用量)を特定した(甲1,弁論の全趣旨。)
(4)近畿経済産業局長は,定期報告書の第1表(様式第4及び様式第5双方
の第1表をいう。以下同じ)には各工場の燃料等又は電気の使用量等に関。
する情報が記録されており,情報公開法13条1項所定の第三者情報に該当
するものであったことから,同項の規定に基づき,平成16年8月24日付
けで,対象文書である定期報告書を提出した各第一種特定事業者(国及び地
方公共団体を除く)に対して意見書の提出を求め,同年9月24日までに。
当該各事業者から意見書の提出を受けた(弁論の全趣旨。)
(5)ア近畿経済産業局長は,前記(4)記載の意見書(提出がない事業者につい
ては,意見がないものと扱われた)を参考にして定期報告書記載の情報。
の不開示情報該当性を検討し,平成16年10月8日付けで合計246通
の定期報告書について,同年12月10日付けで合計664通の定期報告
書について,いずれも提出者等に関する事項のうち個人情報等に該当する
部分は情報公開法5条1号の不開示情報に該当するものとして法人等国,(
等を除く)の印影については利益侵害情報に該当するものとして,これ。
らの部分等について不開示とし,第1表についてはすべて開示するとの部
分開示決定処分をした(弁論の全趣旨。)
イ近畿経済産業局長は,平成17年1月6日付けで,残りの266通の定
期報告書のうち,52通については上記アと同様の部分を不開示として第
1表についてはすべて開示し,214通については,上記アの不開示部分
等に加え,第1表に記載されている項目の全部又は一部を不開示としその
余を開示する部分開示決定をした。上記第1表記載項目の不開示について
は「法人に関する情報であって,通常一般には入手できない当該法人の事
業活動に関する内部情報であり,当該情報を競業他社が入手し,パンフレ
ット等により生産量の情報を知り得た場合,製品当たりのエネルギーコス
ト等が推測され,製品当たりの製造コストが類推可能となり,競業他社と
の競争上の不利益や,販売先事業者との価格交渉上の不利益が生じること
等が想定される。従って,これらの情報を公にすることにより,当該法人
の権利,競争上の地位,ノウハウ等正当な利益を害するおそれがあること
から,法第5条2号イに該当するため,これらの情報が記載されている部
分を不開示とした」との理由が付されていた(甲1。。)
(6)原告は,平成17年2月23日,経済産業大臣に対し,前記(4)イ記載の
214通の定期報告書の部分開示(一部不開示)決定処分に関し,それぞれ
第1表の項目の全部又は一部につき情報公開法5条2号イに該当するとして
不開示とした点を不服として審査請求を行ったが,当審の口頭弁論終結時に
おいて裁決はされていない(弁論の全趣旨。)
(7)原告は,同年7月29日,前記(5)イ記載の214通の定期報告書の部分
開示(一部不開示)決定処分のうち別紙1不開示情報目録1記載の情報が記
録された行政文書の部分(以下「本件不開示部分」という)及び別紙2不。
開示情報目録2記載の情報が記録された行政文書の部分を不開示とした各部
分(以下「本件一部不開示決定」という)の取消しを求めて,本件訴訟を。
提起した(顕著な事実。)
(8)近畿経済産業局長は,本件訴訟提起後,本件開示請求の対象である定期
報告書を提出した第一種特定事業者に対して改めて意見聴取を行った上,平
成18年5月19日付けで,別紙2不開示情報目録2記載の情報が記録され
た行政文書の部分をいずれも開示する内容の行政文書部分開示決定処分(以
下「本件変更決定」という)をした(乙9,10。。)
4本案前の主張
被告は,本件訴えのうち,本件変更決定により新たに開示されることとなっ
た部分(別紙2不開示情報目録2記載の情報が記録された部分)に係る本件一
部不開示決定の取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠いて不適法であると主
張し,原告は特にこれを争わない。
5本案の争点及び当事者の主張
本件における本案の争点は,①別紙1不開示情報目録1記載の各情報(以
下「本件数値情報」といい,個別の情報については同目録記載の番号を付して
「」。)()本件数値情報①のようにいうが利益侵害情報情報公開法5条2号イ
に該当するか否か,②本件数値情報が同号ただし書の不開示情報除外事由に
該当するか否かである。
(1)本件数値情報が利益侵害情報に該当するか〔争点1〕
[被告の主張]
ア利益侵害情報該当性の判断基準について
(ア)情報公開法5条2号イにいう「権利,競争上の地位その他の正当な
」,,,利益とは法的保護に値する権利一切公正な競争関係における地位
ノウハウ,信用等法人の運営上の地位が広く含まれる。また,法人等に
は様々な種類,性格のものがあり,その権利・利益も多様であるので,
不開示情報該当性の判断に当たっては,当該法人等の性格や権利利益の
性質等に応じ,当該利益の要保護性,行政との関係,競争事情等を十分
に考慮する必要があるほか,他の情報と照合することによってその利益
を侵害するおそれが生ずるか否かも問題とすべきである。
(イ)情報公開訴訟における審理は,当該行政文書に記載された具体的文
言を明らかにすることなく行わざるを得ないから,不開示決定を行った
行政庁は,当該行政文書に記載されている情報を公にした場合に生ずる
支障等について,当該行政文書の類型的な特質に着目して主張立証する
ことが想定され,裁判所の認定・判断についても同様のことがいえる。
また,情報公開法は「何人も」開示請求をすることができるとして,
おり(同法3条,開示請求者がいかなる目的で開示請求を行ったかは)
問題とならないから,行政文書が開示された場合生ずる支障は,不特定
多数者との関係で検討すべきである。
以上からすれば,情報公開訴訟においては,当該行政文書に記録され
た情報が公にされた場合に支障が生じる蓋然性自体が証拠に基づいて直
接具体的に証明されることまでは要求されていないというべきであっ
て,被告が不開示情報に該当するとする情報の類型的な性質を明らかに
して,そのような情報が公にされた場合,経験則上,支障が生ずるおそ
れがあることを判断することが可能な程度の主張立証をすれば,不開示
情報該当性は肯定されるというべきである。
イ定期報告書の性質等について
省エネ法は,エネルギーの使用量が一定以上である第一種特定事業者に
,(),対し特に定期報告書の提出を義務付けているところ省エネ法11条
,,これはエネルギーの使用量が企業秘密に属するものであることを前提に
エネルギー使用者自身に対して,エネルギーの使用量等の状況,エネルギ
ー消費設備の設置改廃等の状況等の把握や整理分析を促すとともに,主務
大臣に対し,エネルギー使用者に対する必要な指導及び助言(省エネ法5
条)等を行うに当たっての基礎資料を提供しようとしたのであって,省エ
ネ法上,その公開が予定されているものではない。このことは,省エネ法
に関する国会審議の経過からも明らかである。
ウ本件数値情報がその性質上一般的に情報公開法5条2号イの不開示情報
に該当すること
(ア)製造原価を推計されることによる不利益
a本件数値情報は,一般に公開されていない各事業者の事業活動に関
する内部情報であるところ,燃料や電力の単価は各種統計等や自らの
契約単価から想定可能なので,本件数値情報が明らかになれば,本件
数値情報に燃料等又は電気の単価を乗じることにより当該工場全体の
1年間のエネルギーコストが推計できる。特に定期報告書では,数値
の算出方法や記載方法の統一が図られており,正確性の担保もされて
いるから,この推計の精度は高い。また,企業は,年次報告書やパン
フレット,ウェブサイト等により当該工場での年間製品製造数量を公
表していることがあるから,第三者,特に同業他社が当該工場での年
間製品製造数量を推計することは可能であり,上記エネルギーコスト
を製品製造数量で除することにより,製品単価当たりのエネルギーコ
ストが推計できる。
製造原価は,材料費,労務費,減価償却費等のその他の経費にエネ
ルギーコストを加えたものであるところ,エネルギーコスト以外の費
用は,各種統計資料等からおおよその(同業他社であれば自社データ
を利用することにより正確な)推計をすることが可能なので,上記の
とおり推計したエネルギーコストは,製造原価を推計する有力な手掛
かりになる。
したがって,本件数値情報は,当該事業者以外の第三者にとって,
エネルギーコストひいては製造原価の推計を可能ならしめるものであ
る。
b本件数値情報が公にされれば,競業他社が製造原価を推計すること
ができ,同種製品の製造に当たって,上記推計したエネルギーコスト
や製造原価を指標として,当該事業者の製造原価より下回る又はそれ
に近似するような製造原価を設定し,これにより製品の低価格戦略を
展開することが考えられる。
また,取引先企業が上記のように製造原価を推計し,製造原価の推
移が明らかになると,製造原価が下がっていることを値下げ交渉の材
料とされ,製品を供給する者は不利益を被る可能性が高い。
加えて,製造原価の経年変化が判明すれば,製造原価の変化傾向や
その将来像を推察でき,競業他社に技術開発戦略,設備投資戦略及び
営業戦略を検討する上での貴重な情報を提供する結果となって,当該
事業者が競争上不利益を被る可能性がある。
確かに本件数値情報によっては製造原価の概算値しか判明しない
が,それでも同業他社は同情報が不明である場合よりは正確な推計が
可能であるし,この程度の不利益があれば情報公開法5条2号イ該当
性が肯定されることは東京地方裁判所平成16年4月23日判決訟,(
務月報51巻6号1548頁,東京高等裁判所平成18年6月28)
日判決(乙21)等の裁判例からも明らかである。名古屋地方裁判所
平成18年10月5日判決(甲21)は,以上の裁判例に反する特異
な判断であって,本件の参考とならない。
(イ)エネルギー効率化技術の水準等を推測されることによる不利益
a前記(ア)aのとおり,本件数値情報から製品一単位当たりのエネル
ギー使用量が推計可能である。そして,その経年変化を追跡すること
によりエネルギー使用量の推移が判明し,製造技術の改善レベルやエ
ネルギー効率化の進捗状況が判明するから,当該事業者の導入した技
術や設備の効果が判明し,当該事業所のエネルギー効率化技術水準を
容易に推知することができる。
各事業者にとって,内外市場において厳しい競争に直面しコスト削
減が焦眉の問題となっている現状の下,材料費・労務費の抑制には限
界があるため,エネルギーコストの抑制こそが競争上の重要課題であ
って,その技術水準や取組内容,進展状況等は,重要な企業戦略とし
て企業秘密となっている。
したがって,エネルギー使用量に関する情報の開示自体により,一
般的に競争上の地位等の正当な利益を害されるおそれがある。
b原告は,本件数値情報からエネルギー効率化の技術の具体的内容が
明らかになることはないと主張するが,例えば,鉄鋼業の場合,粗鋼
の生産過程においてエネルギー効率化を進展させると,石炭系燃料の
使用量は変わらず,石油系燃料の使用量が低減されるという現象が見
られ,これにより当該事業者のエネルギー効率化の技術の具体的内容
が判明し得る。このように,製造技術の進展により,エネルギー技術
の具体的内容を推知できる場合もあり得るから,原告の上記主張は失
当である。
(ウ)燃料等の調達需要を推知されることによる不利益
第一種熱管理指定工場のような燃料等の大口需要家は,燃料等の調達
先を変更することが一般的に困難であるから,燃料業者が本件数値情報
から当該工場への自己の納入比率の程度を推知した場合には,これが推
,,知できない場合に比べて燃料等の価格交渉において有利な立場に立ち
反面,当該事業者は不利な立場を強いられることとなる。実際にも,各
事業者は,以上のようなリスクを避けるため,燃料の調達先を複数確保
し,燃料業者から納入比率を推定されないよう留意している。
(エ)当該事業者が契約違反を問われる危険
他者と技術ライセンス契約等を締結している事業者であれば,当該ラ
イセンス契約等の内容において,当該技術の水準,内容等に関連する数
値情報の公開を制限し,あるいは当該技術に関連する情報として,燃料
の使用量や種類の秘密保持義務が課されている可能性がある。
本件数値情報の情報公開法に基づく公開が当該事業者に法的責任を生
じさせるものでないとしても,本件数値情報が公にされたこと自体によ
り,技術ライセンス契約等の相手方との間で紛争が起こることが想定さ
れ,かかる事態に至ること自体が,当該事業者にとって不利益というべ
きである。
(オ)開示に応じている事業者の存在について
環境問題に関心が高まっている今日,環境に配慮した企業活動を行っ
ているというイメージを社会に与えることが結果的に企業に経済的利益
をもたらすと考え,定期報告書の開示に積極的な姿勢を示す事業者もい
。,,,る各事業者の事業内容競業他社等との関係市場における地位等は
各事業者によって様々であり,定期報告書が公開されることによって被
る不利益の程度もまた様々であるから,不利益を甘受してでも環境に配
慮しているというイメージを重視する経営判断をすることはあり得る。
このように,定期報告書の開示に反対しない事業者の存在は,その開
示が当該事業者の正当な利益を害するおそれを生じさせる可能性が大き
いという一般的性質を有するということや,本件数値情報の開示により
当該事業者の利益を害するおそれがあることを否定するものではない。
(カ)小括
以上のとおり,本件数値情報は,その性質上,開示されれば当該事業
者の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれを生じさせる類型の
情報であって,情報公開法5条2号イに該当する。
エ神戸製鋼加古川製鉄所の個別事情について
(ア)神戸製鋼は,本件一部不開示決定に先立ち,本件数値情報①,②は
エネルギー使用の実態など事業所のエネルギーコストに関する情報や経
営戦略に係わる情報であり,容易にコスト計算ができることなどから,
その開示により正当な利益が害されるとする意見書を提出した。
(イ)神戸製鋼加古川製鉄所のエネルギーコストは,本件数値情報から分
かる燃料等及び電気の使用量に公知の情報ないし競業他社の自社情報に
より判明する単価を乗じて明らかになる。そして,公知の情報によって
容易に推計することができる材料費,労務費,経費等に,上記エネルギ
ーコストを加算すれば,神戸製鋼加古川製鉄所における製造コストが判
明してしまう。
また,単年度でのコストは推計値であるとしても,誤差の要因が年度
ごとに大きくは異ならないから,推計値の経年分析をすることにより,
実績値の推移を精度よく分析することが可能となる。
(ウ)神戸製鋼の取引先は,主に自動車メーカー等の大企業であり,鉄鉱
石及び石炭のコスト情報を収集して値下げ交渉に臨むなど,高い情報収
集能力,交渉力を有しており,具体的に価格を設定して厳しく交渉に臨
む取引先もある。また,取引先のほとんどが年単位で契約しており,継
続的な契約関係にあることから,価格交渉においては前年度の価格を基
準として行われており,コストの経年変化が重要な要素となり得る。
このことは,鉄鉱石や原料炭のコストでさえ価格交渉の材料とされて
いることから,明らかといえる。
(エ)鉄鋼業においては,近年,中国,韓国をはじめとする海外企業との
,,競争が激化しており神戸製鋼の製品中海外企業と競合しているものは
約半数に及んでいる。神戸製鋼は,海外企業が安い人件費でコストダウ
ンするのに対し,優れたエネルギー効率化技術によりエネルギーコスト
を削減して海外企業と競争してきた。本件数値情報の開示により,エネ
ルギー効率化水準を推測させる情報が海外企業に知られれば,海外企業
にとってエネルギー効率化水準の目標設定が容易となり,短期間での達
成が可能となる。鉄鋼業はいわゆる素材産業で,品質の向上にも限界が
あるから,このようにエネルギー効率化技術による優位性を喪失し得る
ことは,長期的にみて極めて大きな不利益となる。
(オ)神戸製鋼では,企業努力により燃料供給者と有利に交渉し,統計値
よりも低価格で燃料等を仕入れているが,本件数値情報の開示により,
この優位性を喪失するおそれがある。
オ住友金属和歌山製鉄所の個別事情について
,,,,(ア)住友金属は本件一部不開示決定に先立ち本件数値情報③④は
エネルギー使用の実態等の企業秘密であり,競業他者や顧客に知られれ
ば競争上の地位及び正当な利益を著しく害するおそれがあるとする意見
書を提出した。
(イ)住友金属は,和歌山製鉄所で薄鋼板及びシームレス鋼管(無継目鋼
管)を製造しているが,その総エネルギーコストは,上記エ(イ)と同じ
方法によって推計することができる。そして,その製造工程の前半(上
工程。両製品に共通)と後半(下工程。製品別)のエネルギーコスト比
率,上工程での歩留率,両製品のエネルギー原単価はいずれも公知の情
報といってよく,これらを用いることによって薄鋼板及びシームレス鋼
管製造のエネルギーコストの推計が可能となる。
また,単年度でのコストは推計値であるとしても,誤差の要因が年度
ごとに大きくは異ならないから,推計値の経年分析をすることにより,
実績値の推移を精度よく分析することが可能となる。
(ウ)神戸製鋼に関する前記エ(ウ),(エ)の主張は,住友金属についても
当てはまる。
カ花王和歌山工場の個別事情について
(ア)花王は,本件一部不開示決定に先立ち,本件数値情報⑤,⑥の開示
は企業として不利益があるとする意見書を提出したが,燃料等の使用量
の合計及びその原油換算並びに電気の使用量の合計については反対しな
かった。
(イ)花王は,和歌山工場において複数製品を生産しているが,主力製品で
ある衣類用粉末洗剤については,公知の情報や同業他社の自社情報によ
って原材料費,労務費,経費等を容易に推知でき,本件数値情報によっ
てエネルギーコストも推計することができる。そして,このように算出
したコストの合計に同工場の総生産量のうち衣料用粉末洗剤の生産量が
占める割合を乗ずることにより,衣料用粉末洗剤に関するコストを推計
することができる。
(ウ)衣料用粉末洗剤は,量販店で安売りの目玉商品にされるなど,価格
競争の激しい製品であり,販売価格も下落し続けている。また,近時,
小売店も,激しい競争に勝つため,民間の調査会社から衣料用粉末洗剤
のシェアや販売価格等に関する資料を購入し,仕入原価の圧縮に努めて
。,,いるこのような情勢の下製造コストやその経年変化を分析されれば
小売店からの値下交渉の材料とされる可能性は極めて高く,その結果,
花王は,得られるはずの利益を失うこととなる。
(エ)我が国においては,衣類用粉末洗剤に高い溶解性及び洗浄性能が要
求されるが,そのための具体的な製造方法は企業秘密となっている。そ
して,洗剤の製造業者は,常に競業他社の製品やその製造方法について
情報を分析している。このような状況において,特許で公開されている
基本的な製造法に,本件数値情報から得たエネルギーコストの推計値を
加味することによって,花王における衣料用粉末洗剤の具体的な製造方
法が判明するおそれがある。
キカネカ高砂工業所の個別事情について
(ア)カネカは,本件一部不開示決定に先立ち,本件数値情報⑦,⑧が開
示されればエネルギーコスト,生産コストの推定が可能となり,競争上
の不利益が生じるとする意見書を提出した。
(イ)カネカは,高砂工業所において複数製品を生産しているが,主力製品
である苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)及び塩素(以下,合わせて「苛性
ソーダ等」という)の製造コストについては,食塩水の電気分解に係る。
電力コストが製造原価中の変動費に占める割合が8割以上と大きく,その
他のコスト割合等も競業他社にとって常識となっているから,本件数値情
報により電気及び燃料等の使用量が明らかになれば,高い精度で製造原
価が推計される。
(ウ)苛性ソーダ等は,いわゆる基礎資材であり,品質の面では他社の製
品と同等であることから,取引先の最大の関心は価格にあり,カネカが
コストダウンに成功しても,取引先が製造コストを経年分析すれば,不
当な値下げ交渉にさらされ,カネカが価格交渉において不利益を被るこ
とは明らかである。
また,カネカのようなコンビナート型工場は,海外を含め広域に製品
を供給していることから,他社との競争関係が生じ易いところ,競業他
社が海外企業である場合には,カネカのコスト情報が一方的に知られる
ことになり,大きな不利益を生ずる。
なお,ソーダ業界で開示に応じている事業者は,いずれも当該地域の
,。みに製品を供給するタイプの事業者であり競争の態様が大きく異なる
[原告の主張]
ア情報公開法5条2号イ該当性の判断基準について
一定の情報を公開することによって何らかの不都合が生じる可能性がお
よそ存在しないと断定できる場合は少ないにもかかわらず,情報公開法が
公開を原則とし,非公開を例外としていることからすれば,ある情報が情
報公開法5条2号イにいう「当該法人等…の権利,競争上の地位その他正
当な利益を害するおそれのあるもの」に該当するためには,その公開によ
り一般的抽象的に侵害が生ずるおそれがあるだけでは足りず,当該情報が
事業活動上の機密事項や生産技術上の秘密に属し,その公開により競争上
の地位が具体的に侵害されることが客観的に明白である,あるいはそうい
った危険が生じる可能性が強いことが必要であると解すべきである。
そして,その立証の程度についても,不開示事由たる「おそれ」の存在
を具体的に主張立証することが必要であり,当該情報の開示によりどのよ
うな法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある
のかについて,具体的理由とその根拠を示すことが不可欠であるというべ
きである。
当該文書に記載されている具体的文言を明らかにすることができないこ
とは,一般的抽象的な観点から主張立証を行わなければならないことを論
理必然的に導くものではない。
イ本件数値情報が一般的に情報公開法5条2号イに該当するとの主張に対
する反論
(ア)エネルギーコスト及びその経年変化の把握が困難であること
被告は,本件数値情報の開示によりエネルギーコストないしその経年
変化の推計,さらに製品の製造原価の推計が可能になると主張する。
しかし,エネルギーコストは出荷額の1%から20%にすぎず,その
,,(),余の80%以上は材料費人件費経費減価償却費等が占めるから
エネルギーコストのみを推計したところで,他の要素を正確に把握でき
なければ重要な意味を持たない。そもそも,エネルギー原料の購入価格
自体が変動率の高いもので,実際の購入価格は各社の交渉力により異な
るから,他社の正確なコスト計算はきわめて困難であり,これを正確に
推計する手法については何ら立証されていない。
また,各工場には多数の部門があり部門ごとに生産品や生産設備も異
なること,部門別にみても多種多様な製品が作られていること,人件費
についても有価証券報告書の平均給与等しか資料がなく,これとて管理
職の給与,各部門ごとの年齢構成や職種構成の相違,派遣労働者の存在
等が無視されたものであること,その余の経費も正確に算出することは
不可能であることなどからすれば,個別商品,製品ごとに材料費,人件
費,その他の経費を割り振ることは不可能であり,エネルギーコストを
割り振る前提を欠く。したがって,製品ごとの製造原価を推計すること
はおよそ不可能であり,取引先や競争企業において意味を有する程度に
エネルギーコスト,ひいては製造原価を推計することはできないから,
これにより不利益を受けることもない。
(イ)エネルギー効率化技術水準を推知されることによる不利益がないこ

被告は,エネルギー効率化技術水準ないしその進展状況も企業秘密で
あると主張する。しかし,上記技術水準ないし進展状況は,企業の取組
みの結果であってその具体的内容ではなく,燃料等や電気の使用量とい
う結果そのものからその具体的な技術内容が判明することはない。
なお,エネルギー効率化技術水準ないしその進展状況そのものが公開
により当該法人等の正当な利益を害するおそれのある情報ということも
できない。
(ウ)燃料の調達需要を知られることによる不利益がないこと
省エネが進んでいく市場においては,供給側でも競争原理が働くので
あり,事業者の需要を知られることがその事業者の不利な立場に直ちに
結びつくものではない。
また,燃料等の供給業者は複数の事業者に供給しているから,各事業
者の需要の程度はおおよその見当により比較可能であって,本件数値情
報を知ることにより事業者側に対し特に有利な立場に立つということは
ない。
(エ)契約上の秘密保持義務違反を問われることによる不利益がないこと
本件数値情報の公開が守秘義務の対象となるようなライセンス契約は
存在しない。
また,省エネ法上提出を義務付けられる定期報告書が情報公開法上の
,,手続により公開されることについては当該事業者に何ら帰責性がなく
契約違反を問われるおそれはないし,かかる場合にも事業者に責任が発
生するような内容の契約であれば,公序に反して無効であるというべき
である。
ウ各社個別事情についての反論
(ア)神戸製鋼加古川製鉄所について
高炉製鉄業において還元剤として使用される原料炭をエネルギーコス
トに加えれば,経済産業省の統計(甲15)による高炉製鉄業の平均エ
ネルギーコスト6.3%を上回る可能性はあるものの,そもそも石炭は
輸入元やその時期によって価格が大きく変動するものであり,しかも現
実の仕入値は交渉力次第で平均値と大きく異なることがある。さらに,
同種の石炭であっても,品質により価格は変わり得る。このように,原
料炭の購入費用を考慮に入れても,製造原価が正確に推計できるという
ことにはならない。
また,高炉製鉄業におけるコスト構造は,割合の大きい方から原材料
費,労務費,経費,エネルギーコストの順であるところ,原材料費,労
,,,務費及び経費については工場ごと部門ごとに生産品や労働力の構成
設備の構造などが大きく異なるため,その推計は甚だ大まかなものとな
らざるを得ないのであって,エネルギーコストをある程度推計し得たと
しても,製造原価が把握できることにはならない。しかも,神戸製鋼は
大規模な自家発電をしているから,エネルギーコスト内部でもさらに推
計が困難となる。
(イ)住友金属和歌山製鉄所について
上記(ア)と同じである。
(ウ)花王和歌山工場について
花王和歌山工場では,非常に多種類の製品を製造しており,本件数値
情報が開示されても,個別商品の製造原価中いくらが燃料原価であるか
を推定することはまったく不可能である。
経済産業省の統計(甲15)によれば,花王の属する石鹸合成洗剤製
造業では,売上に対するエネルギー経費率はわずか1%であり,燃料等
の使用量が判明することにより製造原価が推計される関係にない。
花王和歌山工場と同じ業種であるライオン千葉工場及び大阪工場並び
に資生堂久喜工場の定期報告書のうち本件数値情報に当たる部分は既に
開示されており,本件数値情報の開示により殊更に花王の競争上の地位
が脅かされることにはならない。
(エ)カネカ高砂工業所について
カネカ高砂工業所では,苛性ソーダ等以外にも多様な製品が製造され
ており,食塩電解装置以外の多種多様な機械装置も使用されている。定
期報告書には,同工業所全体で使用される電力量の合計が記載されるの
,。みであり食塩電解装置の消費電力を分離して把握することはできない
また,仮にこれが可能であったとしても,食塩電解装置から発生した塩
素は,それ自体が販売されるほか,カネカにおいて生産される他の製品
の原料ともなっており,なおさらコストの分離は困難である。
(2)本件不開示情報が情報公開法5条2号ただし書に該当するか〔争点2〕
[原告の主張]
ア地球温暖化は,人間活動による温室効果ガスの急激な排出増加により,
地球の平均気温の上昇とそれに伴う気候変動を引き起こしている現象であ
り,温室効果ガスの代表的なものが二酸化炭素である。二酸化炭素の大気
,。,中濃度は産業革命前と比べて約3割も上昇している地球の平均気温は
20世紀中に約0.6℃上昇している。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)作成のシナリオを用いた場
合,地球の平均地上気温は1990年から2100年までの間に1.4℃
ないし5.8℃上昇するとされ,この度合いは,少なくとも過去1万年間
で例をみないものである可能性が高い。
イ気温が大幅に上昇すれば,単に暑い日が増えるだけでなく,多くの場所
で集中豪雨が増加し,アジアの夏季モンスーンによる降水量の変動性も増
大すること,内陸部では夏季に干ばつが発生する頻度が高くなり,エルニ
ーニョ現象による干ばつや洪水が激しさを増してくること,熱帯低気圧の
風力や降水量が大きく上昇することが予測されている。その結果,個人の
生命,身体,財産に対して,次のような深刻な影響がもたらされる。
(ア)マラリアとデング熱の地理的伝染可能範囲の拡大
(イ)熱波の増加による熱に関連した死亡や疫病の増加
(ウ)洪水による溺死,下痢,呼吸器疾患,飢餓等の増加
(エ)食糧生産の減少
(オ)海水面の上昇による沿岸地域への高潮被害の増加
,,このように温暖化の主要な原因である二酸化炭素排出に関する情報は
まさに人の生命,身体,財産に関する情報といえる。
ウ我が国は,平成14年6月に京都議定書を批准し,二酸化炭素を基準年
比で6%削減する国際的な義務を負った。そのため,政府は,地球温暖化
対策として種々の政策を実行するに至っている。
国内の二酸化炭素の約6割は,省エネ法に基づく定期報告書の提出義務
を負う事業所によって排出されており,特に高炉製鉄業が全体に占める割
合は約13%に上る。温暖化対策の政策立案やその検証のためには,一部
情報の開示では足りず,このように多くの二酸化炭素を排出する事業者に
関し,電気・燃料別の数値も含めた本件数値情報がすべて開示されること
が必要不可欠である。事業者自らの省エネ努力も重要であるが,本件数値
情報が開示されることによって,二酸化炭素排出抑制の努力をいっそう促
す効果がある。
エしたがって,本件数値情報は,人の生命,健康,生活又は財産を保護す
るため,公にすることが必要であると認められるから,情報公開法5条2
号ただし書の情報に該当し,これを開示すべきである。
[被告の主張]
情報公開法5条2号ただし書に該当するためには,当該情報を公にするこ
とにより保護される人の生命,健康,生活又は財産と,これを公にしないこ
とにより保護される法人等の利益を比較衡量し,前者の利益を保護すること
の必要性が上回ることが必要である。
原告は,二酸化炭素の排出量を削減することによって,地球温暖化が防止
されるから,人の生命,健康,生活の保護に資すると主張するが,本件数値
,,情報を公開し各事業者が排出している二酸化炭素の量を算出したとしても
それだけでは何ら人の生命,健康,生活を保護することにはならない。
また,二酸化炭素排出量については,地球温暖化対策の推進に関する法律
21条の2以下により,特定の事業者は,事業所管大臣に対し,温室効果ガ
ス算定排出量に関する報告をしなければならないとされ,環境大臣及び経済
産業大臣は,集計された結果について公表するものとされている。他方,本
件数値情報は,国会審議においても,企業の経営上の秘密に属するものと評
価されていたものである。
しかも,神戸製鋼,住友金属及びカネカにおいては,いずれも法人単位で
二酸化炭素の排出量を公開しており,花王においては,事業所単位で二酸化
炭素の排出量を公開している。
そうすると,本件数値情報を公開することの必要性とこれによって法人に
生じる不利益を比較すると,後者が上回っているというべきであるから,本
件数値情報は,情報公開法5条2号ただし書の情報に該当しない。
第3当裁判所の判断
1本案前の判断
前記第2の3(8)記載のとおり,本件一部不開示決定により不開示とされた
行政文書の部分のうち別紙2不開示情報目録2記載の情報が記録された部分
は,本件変更決定により既に開示されている。したがって,同部分に係る本件
一部不開示決定の取消しの訴え及び開示処分義務付けの訴えは,いずれも訴え
の利益を欠いて不適法である。
2争点1(本件不開示情報が利益侵害情報に該当するか)について
(1)利益侵害情報該当性の判断基準について
ア情報公開法は,国民主権の理念にのっとり,行政文書の開示を請求する
権利につき定めること等により,行政機関の保有する情報の一層の公開を
図り,もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされる
ようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な
行政の推進に資することを目的とするものであり(1条,何人も,同法)
の定めるところにより,行政機関の長に対して,当該行政機関の保有する
行政文書の開示を請求することができ(3条,行政機関の長は,当該行)
政文書に同法5条各号所定の情報が記録されている場合を除き,当該行政
文書を開示しなければならない(同条柱書。)
同条2号イは,法人その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当
該事業に関する情報のうち,公にすることにより,当該法人又は当該個人
の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものを不開
示情報と定めているが,情報公開法の立法趣旨が上記のとおり政府の説明
責任を全うさせるところにあり,開示請求権者を限定していないのもその
趣旨と解されること,行政文書は開示されるのが原則であり,一定の事由
に該当しなければ不開示とすることができないとされていることに照らす
と,利益侵害情報として不開示情報に当たるといえるためには,主観的に
他人に知られたくない情報であるというだけでは足りず,当該情報を開示
することにより,当該事業者の権利や,公正な競争関係における地位,ノ
ウハウ,信用等の利益を害するおそれが客観的に認められることが必要で
あり,上記のおそれが存在するといえるためには,単に事業者の利益が侵
害され得るという抽象的な可能性が認められるだけでは足りず,法的保護
に値する程度の蓋然性をもって利益侵害が生じ得ると認められることが必
要と解するのが相当である。
イまた,行政文書に記載された情報には様々な類型があり,当該情報が関
係する事業者にも様々な種類,業態,規模,商圏や取引態様等を有する者
がある。そして,情報の類型によっては,あらゆる事業者にとってその公
開がその正当な利益を侵害することとなるものがある一方,当該事業者の
個性に照らして,公開されることでその正当な利益を侵害すると初めて判
断し得る情報も存在するのであり,そのような場合は当該事業者の個別的
な事情も検討することが必要である。このことは,情報公開法5条2号イ
が「当該法人又は当該個人」の正当な利益を害するおそれのある情報を不
開示情報と定めていることからも窺われる。
そこで,まず本件数値情報の一般的な性質から本件数値情報の開示が一
般的に事業者の正当な利益を害するおそれがあるといえるかどうかを検討
し,その後に,各事業者ごとの個別事情を併せ考えた検討を加えることと
する。
(2)本件数値情報の一般的性質による検討
ア本件数値情報の一般的性質について
(ア)省エネ法の定め
省エネ法は,内外におけるエネルギーをめぐる経済的社会的環境に応
じた燃料資源の有効な利用の確保に資するため,工場,建築物及び機械
器具についてのエネルギーの使用の合理化に関する所要の措置その他エ
ネルギーの使用の合理化を総合的に進めるために必要な措置等を講ずる
こととし,もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的としてお
り(1条,主務大臣は,工場におけるエネルギーの使用の合理化の適)
確な実施を確保するため必要があると認めるときは,事業者に対し,必
要な指導及び助言をすることができる(5条。)
経済産業大臣は,工場の中でも,燃料等及び電気の年度ごとの使用量
が政令(省エネ法施行令2条)で定める数値以上であるものを,それぞ
れその使用の合理化を特に推進することが必要な工場,すなわち第一種
熱管理指定工場第一種電気管理指定工場として指定することができ6,(
条,これらを設置する事業者(第一種特定事業者)は,毎年,経済産)
業省令で定めるところにより,第一種熱管理指定工場にあっては燃料等
の使用量その他燃料等の使用の状況(燃料等の使用の効率に係る事項を
含む)並びに燃料等を消費する設備及び燃料等の使用の合理化に関す。
る設備の設置及び改廃の状況に関し,第一種電気管理指定工場にあって
は電気の使用量その他電気の使用の状況(電気の使用の効率に係る事項
を含む)並びに電気を消費する設備及び電気の使用の合理化に関する。
設備の設置及び改廃の状況に関し,経済産業省令で定める事項を主務大
臣に報告しなければならない(11条。)
(イ)定期報告書の記載事項及び本件数値情報の内容等
省エネ法11条を受けて定められた経済産業省令であるエネルギーの
使用の合理化に関する法律施行規則(平成18年経済産業省令第19号
による改正前のもの。以下「省エネ法施行規則」という)10条は,。
省エネ法11条の規定による報告について,第一種熱管理指定工場にあ
っては様式第4による報告書を,第一種電気管理指定工場にあっては様
式第5による報告書を,それぞれ提出してしなければならないと定めて
いる。
そして,同規則11条1項は,第一種特定事業者が第一種熱管理指定
工場につき主務大臣に報告すべき事項を,燃料等の種類別の使用量及び
(。販売副生燃料等販売された及び自らの生産に寄与しない燃料等をいう
以下同じ)の量並びにそれらの合計量(1号,燃料等を消費する設。)
備の新設,改造又は撤去の状況及び稼働状況(2号,燃料等の使用の)
,(),合理化に関する設備の新設改造又は撤去の状況及び稼働状況3号
燃料等の使用の合理化に関する省エネ法4条1項に規定する判断の基準
(),の遵守状況その他の燃料等の使用の合理化に関し実施した措置4号
生産数量(これに相当する金額を含む。以下同じ)又は建物延床面積。
その他のエネルギーの使用量と密接な関係をもつ値(5号,並びに燃)
料等の使用の効率(当該工場が第一種電気管理指定工場である場合にあ
っては,燃料等の使用の効率及びエネルギーの使用の効率(6号)と)
定め,同条2項は,第一種電気管理指定工場につき主務大臣に報告すべ
き事項を,電気の使用量(1号,電気を消費する設備の新設,改造又)
は撤去の状況及び稼働状況(2号,電気の使用の合理化に関する設備)
の新設,改造又は撤去の状況及び稼働状況(3号,電気の使用の合理)
化に関する省エネ法4条1項に規定する判断の基準の遵守状況その他の
電気の使用の合理化に関し実施した措置(4号,生産数量又は建物延)
床面積その他のエネルギーの使用量と密接な関係をもつ値(5号)並び
に電気の使用の効率(6号)と定めている。
省エネ法施行規則は,様式第4の第1表(燃料等の使用料)について
,(),,,は原油原油中のコンデンセートにつきその内数揮発油ナフサ
灯油,軽油,A重油,B・C重油,石油アスファルト,石油コークス,
石油ガス(液化石油ガス〔以下「LPG」という〕及び石油系炭化水。
素ガス,可燃性天然ガス(液化天然ガス〔以下「LNG」という〕)。
及びその他可燃性天然ガス,石炭(原料炭,一般炭及び無煙炭,石))
炭コークス,コールタール,コークス炉ガス,高炉ガス,転炉ガス及び
その他の燃料等(都市ガス等)の各燃料等の種類ごとに,当該年度の使
用量(液体及び気体は体積,固体は質量で表記)及びこれを熱量に換算
した値(GJ単位で表記)並びに当該年度の販売副生燃料等の量及びこ
れを熱量に換算した値(GJ単位で表記)を明らかにした上,使用量及
び販売副生燃料の量について,合計の熱量換算値(GJ単位で表記,)
原油に換算した値(kl単位で表記,対前年度比(百分率で表記)を)
示すものし,様式第5の第1表(電気の使用量)については,当該年度
の電気の使用量につき「昼間買電「夜間買電「上記以外の電気」」,」,
及び「合計」を明らかにした上(電力量で表記,これら使用量の対前)
年度比(百分率で表記)を示すものとしている。
なお,本件数値情報のうち,本件不開示情報①,③,⑤,⑦は,上記
の様式第4の第1表の記載事項(又はその一部)で,省エネ法施行規則
11条1項1号所定の事項であり,本件不開示情報②,④,⑥,⑧は,
上記様式第5の第1表の記載事項(又はその一部)で,同条2項1号所
定の事項である。
(ウ)国会での議論について
証拠(乙4)によれば,平成10年5月15日の衆議院商工委員会に
おいて,エネルギーの使用の合理化に関する法律の改正に関し,衆議院
商工委員Aから,届け出られた省エネの将来計画については情報開示の
方向で検討すべきではないかという質問があり,これに対して,政府委
員B(資源エネルギー庁石炭・新エネルギー部長)から,要旨,定期報
告書には,国が各指定工場における省エネの取り組み状況を把握するた
め,年間エネルギー使用量,生産数量,具体的設備の導入,投資の計画
等について記載を求めるが,これらは企業の経営上秘密に属することが
通常であり,公開になじまず,仮に公開すれば,このように多くの情報
を提出させることが困難になる旨の答弁があったことが認められる。
イ製造原価を推計されることによる不利益について
(ア)本件数値情報は,各工場における燃料等及び電気の使用量そのもの
であるから,同情報から直接に製品の製造原価を推計することは不可能
である。この点被告は,①本件数値情報に燃料等又は電気の単価を乗
じて当該工場全体のエネルギーコストを算出する,②このエネルギー
コストを,当該工場で生産されている製品数量で除して,製品単位当た
りのエネルギーコストを算出する,③エネルギーコスト以外の諸費用
を他の資料から推計して,製品単位当たりの製造原価を積算する,とい
う3段階の計算をすれば,製造原価を推計することが可能であると主張
するので,以下,この方法によって製造原価を推計することの可否及び
その精度について検討する。
(イ)当該工場全体のエネルギーコストの推計(上記(ア)①)について
a証拠(乙6,12,13,15)によれば,燃料等及び電気の種類
別の単価は,各種統計等によって入手することができることが認めら
れる。例えば,原油及び石油製品(ガソリン,ナフサ,灯油,軽油,
A重油,C重油及びLPG,石炭(無煙炭,一般炭及び原料炭)の)
単価は石油資料月報により,石炭コークスの単価は石炭年鑑により,
それぞれ月次の統計値が公表されており,電力については電力会社の
ウェブサイト等により時間帯別調整契約標準単価等が公表されてい
る。
そうすると本件数値情報が公になれば燃料等の種類別使用量販,,(
売副生燃料の量を減じたもの)に種類別の単価を乗じ,電気の時間帯
,,別等の使用量に上記の電力単価を乗じこれを合算することによって
当該工場全体の年間エネルギーコストを推計することが一応可能であ
る。
bそこで,以上の方法によるエネルギーコスト推計の精度について検
討する。
上記方法は,石油資料月報及び石炭年鑑記載の単価を用いて年間エ
ネルギーコストを推計するものであるが,これらの単価はあくまでも
平均であり,当該事業者が現実に購入している金額がこれと乖離して
いることは十分に想定できる。燃料等の購入価格が交渉によって定ま
ることは公知の事実であり,また,生産国やその品質によっても異な
ることも容易に想定できる。例えば,石炭年鑑(乙12の資料2等)
によれば,中国産石炭コークスの価格は,平成15年1月から平成1
6年1月までの間に2倍以上高騰し,その後の4か月で更に2倍以上
になっているが,その後半年以内に半値以下になるなど,価格変動が
激しい。しかも,オーストラリア産の石炭コークスの価格は,平成1
5年1月時点では中国産コークスの2倍以上の高値であったが,平成
16年1月時点には価格がほぼ半値になり,中国産コークスの6割以
下の安値になっているなど,生産国によっても価格及びその動向が大
きく異なる。また,石油資料月報(乙12の資料1等)によれば,石
油系の燃料の価格にも,石炭コークスほどではないにしても,相当大
幅な価格変動が認められる。そして,当該工場において当該年中に使
用された燃料等がいつ,いくらで仕入れたかは,企業秘密に属する情
報であり(証人C18頁,同D22頁,29頁,これが公表される)
と認めるに足る証拠はない。加えて,石油資料月報及び石炭年鑑に記
載のない燃料等は,その他の方法で推計する必要がある。被告は,こ
の点について,粉コークスは石炭コークスの4分の1,コールタール
はA重油の7割,コークス炉ガス,高炉ガス,転炉ガス及び蒸気は1
Mcal当たり1円と仮定して計算しているが(乙6,この根拠は)
不明で,正確性は担保されていない。さらに,買電契約の内容は,電
力会社によっていくつかのパターンに分けられているとしても,他の
。,事業者がその内容を明確に知り得ると認めるに足る証拠はないまた
大規模な工場では自家火力発電設備を導入しているものもあるが,公
表されている資料から,その設備や人員のコストを正確に知ることは
できない(証人E18頁,同D14頁以下。)
そうすると,本件数値情報を用いて当該工場全体のエネルギーコス
トを推計する場合,それは,いくつもの仮定を前提とするものとなら
ざるを得ず,一般的には,相当程度の誤差を含む概算値を算出するこ
とができるにすぎないものというべきである。
(ウ)製品単位当たりのエネルギーコストの推計(上記(ア)②)について
a当該工場で単一の製品のみを製造しており,その生産数量が判明す
る場合には,上記(イ)で求めた当該工場全体のエネルギーコストを当
該工場の生産数量で除して,製品単位当たりのエネルギーコストを算
定することが可能である(ただし,相当程度の誤差を含む数値である
ことは上記(イ)のとおりである。。)
bしかし,実際には,単一種類の製品のみを製造する工場は少なく,
複数種類の製品を製造している工場が大多数であると考えられ,中に
は1000種類を超える製品を製造するものもあることが認められる
(甲2,3,証人F14頁。)
このような場合,生産量の内訳,歩留率や当該製品のエネルギー原
単位を想定して当該工場において個別の製品の生産に必要とされるエ
ネルギーの割合を算出し,これを用いて当該製品の単位当たりのエネ
ルギーコストを推計する方法や,当該事業者が代表的な製品について
公表している生産量や生産シェアなどから推計した生産量から,当該
事業者が有する工場の設備,構造等によって推計した生産量の比率に
より当該工場における当該代表的商品の生産量を推計し,当該工場の
出荷量に占める割合を用いて,当該製品の単位当たりのエネルギーコ
ストを算出するという方法等が想定できる(乙12から15まで,弁
論の全趣旨。)
,,,,しかし上記のような方法は生産量の内訳製品ごとの歩留まり
エネルギー原単位,あるいは当該製品の当該工場出荷量に占める割合
など,幾重にも渡る仮定的な要素が存在する上,中には企業秘密とな
っているものもあると考えられることに照らせば,上記方法によって
推計される製品単位当たりのエネルギーコストは,一般に,極めて精
度の粗いものとならざるを得ない
(エ)製品単位当たりの製造原価の推計(上記(ア)③)について
a証拠(乙6,12から15まで)によれば,製造業におけるコスト
構造は,概ね,原材料費,労務費,経費(減価償却費等,エネルギ)
ーコストから構成されることが認められるから,製品単位当たりのこ
れら費目を推計することによって,製品単位当たりの製造原価を積算
することができる。
このうち,原材料費(エネルギーコストと重複する部分を除く)。
については,その単価の推計において,前記(イ)bで指摘したと同様
の問題があり(証人E19頁,同C18頁,同D24頁,その推計)
の精度には限界があると推認される。
次に,労務費について,証拠(乙12,14)及び弁論の全趣旨に
,,よれば人件費の平均値は有価証券報告書等で公表されることが多く
工場ごとの配置人数も特段秘匿されることは少ないと認められるが,
当該工場の人員構成まではわからず,その受ける賃金の額も,会社従
業員全体の平均値をもって推計に当てるしかない(証人E15頁。)
そして,これを個別の製品に割り付けるに当たっては,上記(ウ)bで
指摘したような,幾重にもわたる推計を重ねることになる。
また,費用(減価償却費等)についても,その推計が困難であるこ
とは,労務費と同様である。企業がどの工場にどのような設備投資を
したか,事業所ごとの減価償却費がどの程度であるかなどの情報は,
少なくともその詳細は秘匿されることが通常であり(証人E17頁,
同C18頁,推計の精度には自ずと限界がある。)
b本件数値情報の開示により何らかの推計をされ得るのはエネルギー
コストであるが,証拠(甲15)によれば,製造業一般における燃料
使用額及び購入電力使用額の製造品出荷額に占める割合は,平均2.
1%にとどまることが認められる。
しかも,製品単位当たりのエネルギーコストは,上記(ウ)説示のと
おり,極めて精度の粗いものしか求めることができない。そして,製
品単位当たりの製造原価を求めるに当たり,より大きな割合を占める
原材料費や労務費などの推計についても,上記a説示のとおり,正確
な推計は困難である。
そうすると,本件数値情報が公になったとしても,そのことにより
第三者が当該事業者の製品単位当たりの製造原価をより正確な度合で
推計することが可能となる程度はわずかな範囲にとどまるというべき
である。
(オ)事業者が正当な利益を害されるおそれの有無について
被告は,製造原価を推計されることにより,①競業他社による低価
,,格戦略を誘発するおそれ②取引先による値下げ圧力を強めるおそれ
③競業他社に将来的な技術開発戦略や営業戦略を推知されるおそれが
一般的に存在すると主張する。
しかし,上記のとおり,本件数値情報が公になっても,第三者が当該
事業者の製品単位当たりの製造原価をより正確に推計できる程度は,あ
ったとしてもわずかな範囲にとどまるというべきであるから,競業他社
が低価格戦略を行ったり,当該事業者の将来的な戦略を推知するのに活
用するには,貧弱な根拠にしかならないというべきであり,また,取引
相手が交渉の材料として行使するにも,一般的には極めて弱い材料にし
かならないといわざるを得ない。
もっとも,証拠(乙13,20,証人F6頁,同D6頁以下,同C3
頁)によれば,本件数値情報が公になった場合,エネルギーコストの経
年変化について,その傾向を推知することはできると認められるから,
前年度の価格を基準に当該年度の販売価格を交渉する場合,エネルギー
使用量の変化から推計されるエネルギーコストの変化を捉えて取引先か
ら値下げの提示をされる可能性はある。しかし,エネルギー使用量が有
意に低減する場合は,単なるエネルギー消費の節約による場合だけでな
く,エネルギー効率の改善など設備投資を前提とする環境対策の成果に
よる場合が多いと解され(証人C15頁以下参照,この場合,相応の)
コストがかかることや,設備投資の細目が企業秘密であり外部に明示で
きないことは,取引先にとっても明らかであるから,取引先に製品単位
当たりのエネルギー使用量が低下したことを知られ得ることが,直ちに
有力な価格交渉の資料を握られることにはならないというべきである。
しかも,証拠(証人D27頁,同E24頁,同C19頁)及び弁論の全
趣旨によれば,原料等の単価のように統計上明らかなものについては交
渉材料に利用されることがあるものの,当該企業の個別的な事情(例え
ば,生産技術の向上によるエネルギー効率の改善,人員整理による人件
費の削減等が考えられる)が交渉材料に利用されることは一般的でな。
いと認められる。
そうすると,上記の不利益が生ずる可能性は,一般的には,いまだ抽
象論のレベルにとどまるというべきであるから,本件数値情報が公開さ
れ第三者に製造原価が把握されることにより当該事業者の公正な競争関
係における地位など正当な利益が害されるという法的保護に値する程度
の蓋然性は,これを一般的に認めることができない。
なお,被告は,本件数値情報が全く開示されていない場合に比べれば
当該事業者が不利な立場に立たされると十分に考えられるとして,推計
の正確性に限界がある場合でも利益侵害情報該当性は肯定されるべきで
あると主張するが,前記2(1)ア説示のとおり,情報公開法5条2号イ
の「利益を害するおそれ」が存在するといえるためには,単に事業者の
利益が侵害され得るという抽象的な可能性が認められるだけでは足り
ず,法的保護に値する程度の蓋然性をもって利益侵害が生じ得ると認め
られることが必要であると解すべきであって,上記被告の主張する利益
侵害の生ずるおそれは,いまだ抽象的な可能性の次元にとどまるという
ほかないから,被告の上記主張は採用できない。
ウエネルギー効率化技術の水準等を推測されることによる不利益について
本件数値情報が公にされた場合,当該工場における年間製品製造数量の
情報を用いることにより,製品単位当たりのエネルギー使用量を推計する
ことができる(もっとも,当該工場で複数の製品が製造されていることが
一般であるため,この推計にも困難が伴うことは,前記イ(ウ)説示のとお
りである。そして,競業他社が当該事業者のエネルギー効率化技術の。)
進展状況等を推知しようとする場合,上記方法により得られる値の変化を
経年追跡することが考えられる。しかし,今日において,多くの事業者が
エネルギーの効率化に取り組んでいることは公知の事実であるから,エネ
ルギー効率が改善傾向にあるという事実自体を,事業者が特段秘匿すべき
,()。性質のものと扱っているとは一般的には考えられない証人C15頁
企業のエネルギー効率化の取組みが広報活動や報道を通じて公表されるこ
ともあり得るが,被告も主張するとおり,その具体的な取組内容は,多く
の場合企業秘密となっていると考えられるから,本件数値情報から一定の
限度で当該工場のエネルギー効率の改善状況が明らかになったとしても,
その具体的な取組内容及びその効果が一般的に明らかになる蓋然性がある
とまでいうことはできない。
よって,本件数値情報の開示によりエネルギー効率化技術が明らかにな
り当該事業者の正当な利益が害される蓋然性があると認めることはできな
い。
なお,被告は,鉄鋼業においては,本件数値情報からエネルギー効率化
技術の具体的内容が明らかになり得ると主張するが,仮にこれが肯定され
ても,鉄鋼業に関わる事業者についてのみ生ずる不利益が問題になるので
あるから,後記(3)以下において判断することとする。
エ燃料等の調達需要を推知されることによる不利益について
本件数値情報には,燃料等の種類別の使用量が含まれているから,燃料
を供給する者がこれを入手すれば,納入先である当該事業者の燃料の種類
別年間需要が判明し,ひいては当該供給者の納入量の占める割合が判明す
ることになる。被告は,これにより,燃料等の大口需要家である事業者が
価格交渉上の不利益を受けると主張する。
しかし,燃料供給者は,通常,同一業種に属する複数の事業者に燃料等
を供給しており,各事業者における自社の納入比率を正確には知り得ない
までも,通常,おおよその見当を付けていると考えられる。しかも,大口
需要家は,供給者にとって大切な顧客であり,他の事業者へのシフトは絶
対に避けたい事態であろうから,たとえ本件数値情報が開示されたとして
も,納入比率の高い供給者が納入先事業者に供給打ち切りを示唆して価格
交渉を迫り燃料の需要家がそれに応じざるを得ないような事態が生ずる蓋
然性が一般的に認められるとは到底いい難い。
なお,被告は,各工場は価格交渉上の立場を弱めないために複数の燃料
供給者から燃料を調達していると主張するが,そのような調達形態が一般
的であるならば,逆に,被告主張のような価格交渉上の不利益は,一層生
じにくいものというべきである。
オ当該事業者が契約違反を問われる危険について
被告は,当該事業者が他者と締結している技術ライセンス契約等により
本件数値情報の秘密保持義務が課されている可能性があると主張する。
,,確かにそのような契約の存在する可能性を否定することはできないが
情報公開法所定の手続に従って開示される限り当該事業者に何ら帰責性は
なく,契約違反の問題が生ずることは通常想定し難い。
被告は,本件数値情報が公にされたこと自体により,技術ライセンス契
約等の相手方との間で紛争が起こることが想定されると主張するが,かか
る事態が生ずる蓋然性を認めるに足る証拠はない。
カ立法過程の議論の位置付けについて
被告は,省エネ法上定期報告書の公開が予定されているものではなく,
そのことは国会審議の過程からも明らかであると主張する。
確かに,衆議院商工委員会では,定期報告書の記載事項は企業の経営上
秘密に属することが通常であり,公開になじまないという内容の政府委員
()。,答弁があったことが認められる前記ア(ウ)前記ア(イ)説示のとおり
熱管理に関する定期報告書には省エネ法11条1項各号所定の,電気管理
に関する定期報告書には同条2項各号所定の各事項を記載すべきとされて
,,(),おりその内容は本件数値情報同条各項1号に基づくにとどまらず
例えば,熱管理に関する定期報告書についていえば,燃料等の使用の合理
化に関する設備及び燃料等を消費する主要な設備の概要,稼働状況及び新
設,改造又は撤去の状況(第2表,燃料等の使用に係る原単位が対前年)
度比1%以上改善できなかった場合その理由(第5表)など,より当該事
(,),業者のノウハウや信用に関わる情報も含まれているのであって乙23
すべてにつき公開することがその性質になじまないということは一応理解
できる。
しかし,本件においては,定期報告書の一部である本件数値情報記載部
分(第1表)の開示が問題となっているのであり,定期報告書の全部開示
が求められているのではないから,本件数値情報のみの性質に即して判断
をする必要があるのであって,定期報告書全体を対象とした上記立法経緯
における議論が,直ちに本件数値情報が利益侵害情報であることを根拠付
けるものということはできない。
キ第1表の開示に反対しない事業者の存在について
被告は,本件数値情報の開示に反対しない事業者は,その個別的な経営
判断により公開を認めたにすぎないので,その開示が当該事業者の正当な
利益を害するおそれを生じさせる可能性が大きいという一般的性質を有す
るということ等を否定するものではないと主張する。
しかし,各事業者において情報公開法13条1項に基づく意見書を提出
するに際しては,第1表の開示に反対しない意見を述べた事業者も,環境
に配慮しているなど企業イメージ向上の点だけでなく,その開示による不
利益が存在しないかという点からも検討を加えたと考えられる。そして,
本件開示請求の対象となった定期報告書は1176通であるが,証拠(甲
7の2)及び弁論の全趣旨によれば,当初は962通につき第1表の開示
に反対しない意見が明示又は黙示に述べられ,その数は,本件訴訟提起後
。,,には1000通以上に上ったと認められるこの事実は多くの事業者が
本件数値情報の開示により自社の正当な利益が害されるおそれが大きくな
いと判断した結果であると評価することが可能であり,本件数値情報の開
示による当該事業者の競争上の地位その他正当な利益が害されるおそれが
一般的に存在するということの推認を妨げる事情と解すべきである。
ク小括
以上によれば,本件数値情報は,その開示により一般的に当該事業者の
権利,競争上の地位その他正当の利益を害するおそれのある情報であると
認めることはできず,この点に関する被告の主張を採用することはできな
い。
(3)神戸製鋼加古川製鉄所の個別的事情を踏まえた検討
ア製造原価の推計について
証拠(乙12,証人E)によれば,神戸製鋼加古川製鉄所における鉄鋼
製品の製造原価を推計する方法等につき,以下のとおり認められる。
(ア)製造工程
神戸製鋼加古川製鉄所における鉄鋼製品の製造工程は,上工程と下工
程に分かれる。上工程は,鉄鉱石と原料炭を高炉で燃焼・熔解させて銑
鉄を作り,これに酸素を吹き付けるなどして粗鋼を生成し,これを整形
して半製品を製造するまでの工程をいう。下工程は,上記半製品を圧延
等により加工し,最終的な製品を製造する工程をいう。上工程は,すべ
ての鉄鋼製品について共通の工程であって,全エネルギーコストのうち
約90%が上工程に係るものであり,残りの約10%が下工程に係るも
のである。
(イ)原材料費
神戸製鋼の有価証券報告書記載の全社材料費に同報告書記載の事業別
売上高に占める鉄鋼関連事業の売上高の割合を乗じて鉄鋼関連事業に係
る材料費を推計し,これに鉄鋼関連事業を営む事業所(加古川製鉄所及
び神戸製鉄所)の各生産量から加古川製鉄所の生産量比率を算出して,
加古川製鉄所における原材料費を算出する。
(ウ)労務費
同報告書記載の平均年間給与及び加古川製鉄所の従業員数を相乗して
同製鉄所の労務費を算出する。
(エ)経費
同報告書記載の全社外注加工費に鉄鋼関連事業の売上高比及び加古川
製鉄所の生産量比を併せ考慮して同製鉄所の外注費を,全社減価償却費
に鉄鋼関連事業の減価償却費率及び同製鉄所の生産量比を併せ考慮して
同製鉄所の減価償却費を,全社のその他経費に鉄鋼関連事業の売上高比
及び同製鉄所の生産量比を併せ考慮して同製鉄所のその他の経費をそれ
ぞれ算出し,これらを合算して同製鉄所の総経費を算出する。
(オ)エネルギーコスト
燃料費は,定期報告書記載の各燃料の使用量に,石油資料月報及び石
炭年鑑によって直接得られ又はこれらから推計される燃料単価を乗ずる
ことにより推計する。電力費のうち買電については,関西電力のウェブ
サイトにより単価を調査してコストを計算する「上記以外の電力」に。
ついては,加古川製鉄所が共同火力発電所から電力を供給されていない
ことから,すべて自家発電によるものとなるが,このコストはすべて燃
料費に含まれる。このようにして,加古川製鉄所の総エネルギーコスト
を推計する。
(カ)製造原価
以上を合算し,加古川製鉄所の粗鋼生産量で除することにより,粗鋼
1トン当たりの製造原価を推計し,これをもって各製品の平均的なコス
トの推計に替える。
イその余の個別事情について
証拠(甲3の5,乙12,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,神戸製
鋼加古川製鉄所のその余の個別事情について,以下の事実が認定できる。
(ア)神戸製鋼の鉄鋼製品に関する大口顧客は,自動車メーカー,電機メ
ーカー及び造船会社であり,大部分の顧客とは1年単位の継続的供給契
,,,約を締結しており契約を更新する際には前年度の価格を基準にして
当該年度の価格交渉を行っている。
(イ)神戸製鋼では,石炭の供給者との間で,原則として毎年1月から3
月ころまでの間に,年度ごとの供給契約を締結している。
(ウ)神戸製鋼では,過去の価格交渉において,鉄鉱石や石炭の価格が低
下したことを根拠に顧客から値下げ要求がされたことがあり,その際に
は,値下げの幅について交渉する余地はあったものの,値下げ自体には
応じざるを得なかった。しかし,神戸製鋼が同社ないし加古川製鉄所特
有の事情で値下げ交渉を受けたことを認めるに足りる証拠はない(証人
E24頁参照。)
(エ)加古川製鉄所のコスト構造は,割合の高い順に,原材料費(原料炭
を含む,労務費,経費,エネルギーコストの順であるが,エネルギ。)
ーコストに還元剤としての石炭や石炭コークスを含めた場合には,その
全コストに占める割合は2割程度となる(なお,平成15年工業統計表
〔甲15〕によれば,高炉製鉄業のエネルギーコストの出荷額に占める
割合は,6.3%である。。)
(オ)加古川製鉄所では,鉄鋼製品のほか,チタン製品も製造している。
(カ)加古川製鉄所では自家火力発電設備を設置しており,燃料は主に石
炭を使用している。また,加古川製鉄所の燃料等の消費量の90%以上
は石炭系の燃料であり,石油系の燃料は10%未満である。
ウ本件数値情報の利益侵害情報該当性について
(ア)取引先との価格交渉に及ぼす不利益について
被告は,神戸製鋼の顧客の多くが大企業であって強い交渉力を有し,
また,年単位の継続的供給契約であることから,本件数値情報から製造
原価ないしエネルギーコストの経年変化を推計され,これを基に価格交
渉を迫られることになると主張する。
そこで,まず製造原価の推計の精度について検討するに,原材料費,
労務費及び経費のいずれの推計についても,前記(2)イ(エ)aで説示し
たところと同様,推計の精度を制限する要因がある。また,エネルギー
コストに関しても,還元剤としての石炭や石炭コークスも含めたエネル
ギーコストの製造原価に占める割合は製造業の平均値を上回ると認めら
れるものの,それでも全体の2割程度にとどまる上(前記イ(エ),前)
記(2)イ(イ)bで指摘した推計過程における問題点を伴うものであり,
そのコストの算定に当たっては相当の誤差を避けることができない。
したがって,この点に関しては,前記(2)イ(オ)で説示したところと
異ならない。
これに対し,エネルギーコストを構成するエネルギーの使用量につい
ては,加古川製鉄所の粗鋼生産量が公表されており,全製品に共通であ
る上工程のエネルギー使用量が約90%を占めているので,製品当たり
のエネルギー使用量の推計は,製造原価の推計よりは正確に行うことが
できることが窺われる。しかし,加古川製鉄所では,鉄鋼製品のみなら
ずチタン製品も製造しており,総エネルギー使用量を鉄鋼製品とチタン
製品に割り付けることには誤差が伴うと考えられる。また,今日におい
ては多くの事業者が省エネに取り組んでおり,また,通常,省エネ技術
の導入には一定の設備投資が必要であり,取引先がその技術内容,金額
を把握することは困難であるから(証人E16頁以下,取引先におい)
て,当該事業者が省エネの進展によりエネルギー効率の向上を進展させ
ていることが判明したからといって,これが直ちに価格交渉における値
下げ圧力につながると考え難いことは,前記(2)イ(オ)説示のとおりで
。,,あるこれに神戸製鋼が過去において値下げ交渉の根拠とされたのが
鉄鉱石や石炭の価格変動という,誰の目にも明らかな事情のみであり,
神戸製鋼ないし加古川製鉄所の個別的な事情をその根拠とされたことを
認めるに足る証拠がないことをも併せ考えれば,本件数値情報の開示に
より,取引先との価格交渉における神戸製鋼の競争上の地位が害される
こととなる蓋然性を認めることはできない。
(イ)競業他社(特に海外企業)との関係における不利益について
被告は,鉄鋼業界が海外の企業と厳しい競争関係にあり,本件数値情
報の開示によりエネルギー効率化水準を推測させる情報が海外企業に知
られれば,海外企業にとってエネルギー効率化水準の目標設定が容易と
なり,短期間での目標達成が可能となるから,エネルギー効率化技術に
おける優位性の喪失につながると主張する。
そこで検討するに,証拠(乙12)及び弁論の全趣旨によれば,鉄鋼
業界が海外企業と厳しい競争関係にあることは認められるが,同時に,
海外企業が,本件数値情報の開示の有無を問わず,エネルギー効率化水
準の向上に努力していることも推認できるのであって,本件数値情報が
開示されることが原因となって,神戸製鋼のエネルギー効率化技術の優
位性が短期間で喪失される結果が生じることになるとは考えにくい。被
告の上記主張は,あくまでも抽象的な可能性を論じたものにすぎないと
いうべきである。前述したとおり,情報公開法5条2号イの「利益を害
するおそれ」が存在するといえるためには当該事業者に法的保護に値す
る程度の蓋然性をもって利益侵害が生じ得ると認められることが必要で
あることにかんがみれば,利益侵害情報該当性を根拠付ける理由にはな
らないといわざるを得ない。
なお,被告は,鉄鋼業においては,粗鋼の生産過程においてエネルギ
ー効率化につながる工程の組み替えを進展させると,石炭系燃料の使用
量は変わらず,石油系燃料の使用量が低減されるという現象がみられ,
これによりエネルギー効率化技術の具体的内容が判明するというが,そ
のことを認めるに足る証拠はない。
(ウ)燃料等の価格交渉における不利益について
被告は,神戸製鋼が企業努力により獲得した燃料供給者への優位性が
本件数値情報の開示により喪失されるというが,結局のところ,一般的
な不利益が存在する可能性を述べるにすぎず,前記(2)エの説示に照ら
し,そのような不利益が生ずるという法的保護に値する程度の蓋然性は
認められない。
エ小括
以上によれば,本件数値情報の一般的性質に神戸製鋼加古川製鉄所の個
,,,別事情を併せ考えても本件数値情報がその開示により神戸製鋼の権利
競争上の地位その他正当な利益を害するおそれのある情報であると認める
ことはできない。
,(),,なお証拠甲7の2及び弁論の全趣旨によれば高炉製鉄事業者は
定期報告書の開示に関する意見聴取に際し,いずれも第1表の開示に反対
する意見を述べたことが認められる(ただし,住友金属の鹿島製鉄所及び
総合技術研究所の各電気管理に関する報告書を除く。しかし,当該情。)
報を開示することにより当該事業者の利益を害するおそれが客観的に認め
られなければ利益侵害情報に該当しないことは,前記(1)ア説示のとおり
であるから,開示に反対する同業者が多数であることは,当該情報が利益
侵害情報であることを直ちに根拠付けるものということはできず,上記判
断を左右しない(なお,このことは,前記(2)キの説示と矛盾するもので
はない。。)
(4)住友金属和歌山製鉄所の個別的事情を踏まえた検討
ア住友金属和歌山製鉄所における製造原価の推計について
証拠(乙13,証人C)によれば,住友金属和歌山製鉄所における鉄鋼
製品の製造原価を推計する方法等につき,以下のとおり認められる。
(ア)総エネルギーコストの推計
燃料等の単価は石油資料月報,石炭年鑑等に公刊されているので,こ
れを本件数値情報に乗ずることによりコストを把握する。
電気のうち「昼間買電」及び「夜間買電」については,時間帯別調,
整契約を締結しているので,同様の契約を締結する者にとってはその単
価が推認できこれを使用電力量に乗じてコストを推計するまた上,。,「
記以外の電気」は,共同火力発電所からの給電と自家発電によるものと
がある。和歌山製鉄所に給電しているのは和歌山共同火力発電所である
が,その発電電力量及び燃料消費量は公表されているから,これを利用
して和歌山製鉄所への供給に係る電力コストを推計する。また,自家発
電については,その燃料消費量が燃料等として計上されている。
以上により,総エネルギーコストが判明する。
(イ)製品別のエネルギーコストについて
和歌山製鉄所における鉄鋼製品の製造工程及び上工程と下工程とのエ
ネルギー消費量比率は,前記(3)ア(ア)説示の神戸製鋼加古川製鉄所に
おける製造工程と同様である。和歌山製鉄所では,上工程終了段階の半
製品を出荷するほか,下工程を経て製造される薄鋼板及びシームレス鋼
管(継目無鋼管)を出荷している。
各製品別の上工程でのエネルギーコストは,総エネルギーコストの9
0%の値に,各製品の生産に必要な粗鋼量(生産量を歩留率90%で割
)。り戻したものの総生産粗鋼量に占める割合を乗ずることによって得る
なお,総生産粗鋼量及び各製品の生産量は,見学者や顧客等に対して公
開されている。
各製品別の下工程でのエネルギーコストは,次のように把握する。ま
ず,薄鋼板とシームレス鋼管のエネルギー原単位が異なるのでその比を
とり(この比は同業者間においては周知である,また,操業率が減。)
少すればエネルギー原単位が増加する関係にあり,その関係については
鉄鋼業界において公表されているから,これらを用いて各製品の製造に
必要なエネルギー消費量の比を割り出し,総エネルギーコストの10%
(下工程の総エネルギーコスト)をその比で割り付けることにより,各
製品を製造するに当たり必要な下工程のエネルギーコストを推計する。
以上を合算して各製品の生産に必要なエネルギーコストを推計し,製
品の単位量当たりのエネルギーコストを推計する。
イ住友金属和歌山製鉄所におけるその余の個別事情について
証拠(乙13,18,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,住友金属和
歌山製鉄所のその余の個別事情について,以下の事実が認定できる。
(ア)住友金属の主要な顧客は,自動車メーカー,家電メーカー,重工メ
ーカー,メジャーオイル等である。
(イ)住友金属が顧客との間で販売価格を決定するに当たっては,通常,
,。前年度若しくは前回の取引における価格を基準に顧客との交渉を行う
(ウ)住友金属は,顧客である日産自動車から強い姿勢で製品の値下げを
(「」。)。,迫られたことがあるゴーンショックと呼ばれているこのとき
日産自動車は,社内で大幅な人員整理を行うとともに,部品の調達先を
整理し,値下げを強く要求した。
(エ)住友金属では,過去において,顧客から鉄鉱石や原料炭の単価の変
動を価格交渉の理由にされたことがある。しかし,人員削減や設備の導
入ないし廃止を理由に価格交渉を迫られたことはなく,単価の変動以外
のエネルギーコストの変化を理由に価格交渉を迫られたこともない。
ウ本件数値情報の利益侵害情報該当性について
(ア)取引先との価格交渉に及ぼす不利益について
被告は,住友金属の顧客の多くが大企業であって強い交渉力を有し,
また,年単位の継続的供給契約であることから,本件数値情報からエネ
ルギーコストの経年変化を推計され,これを基に価格交渉を迫られるこ
とになると主張する。
しかし,エネルギーコストの経年変化を把握されることに伴う価格交
渉上の不利益が生じるおそれの存否については,前記(3)ウ(ア)におい
て説示したところと同様の指摘があてはまる。和歌山製鉄所においては
鉄鋼製品以外の製品が製造されていないが(前記ア(イ),このことを)
併せ考えても,前記アのような計算方法では,そのコストの算定に当た
。,っては相当の誤差を避けることができないといわざるを得ない例えば
「その他の電力」に占める共同火力発電による電力量と自家発電による
電力量の各内訳や,現実の操業率や歩留率が判明し得ると認めるに足る
証拠はない。
,,,また今日においては多くの事業者が省エネに取り組んでおりまた
通常,省エネ技術の導入には一定の設備投資が必要であるから,取引先
において,当該事業者が省エネの進展によりエネルギー効率の向上を進
展させていることが何らかの形で判明したからといって,これが直ちに
価格交渉における値下げ圧力につながると考え難いことは,前記(2)イ
(オ)説示のとおりである。
前記イ認定のとおり,住友金属では,顧客からの圧力により値下げを
余儀なくされたことがあると認められるが,これは,もっぱら顧客が経
営上の合理化を促進するために各取引先に取引数量を変動させる可能性
を示唆して価格競争を促すという交渉手段をとったにすぎず,住友金属
ないし和歌山製鉄所の個別事情が交渉材料になったのではない。また,
住友金属が受けた鉄鉱石や原料炭のコスト低下を理由とした値下げ交渉
は,前記(3)ウ(ア)同様,いずれも単価の変動が根拠であって,住友金
属ないし和歌山製鉄所の個別事情は問題となっていない。これらのこと
をも併せ考えれば,本件数値情報の開示により,取引先との価格交渉に
おける住友金属の競争上の地位が害されることとなる蓋然性を認めるこ
とはできない。
(イ)競業他社(特に海外企業)との関係における不利益について
被告は,本件数値情報の開示によりエネルギー効率化水準を推測させ
る情報が海外企業に知られれば,エネルギー効率化技術における優位性
の喪失につながる,本件数値情報により具体的なエネルギー効率化技術
が判明し得るなどと主張するが,いずれについても,前記(3)ウ(イ)と
同様の理由により採用できない。
(ウ)また,高炉製鉄事業者の多数が第1表の開示に反対したことが本件
数値情報の利益侵害情報該当性を根拠付けるものということはできない
ことは,前記(3)エ説示のとおりである。
エ小括
以上のとおり,本件数値情報の一般的性質に住友金属和歌山製鉄所の個
,,,別事情を併せ考えても本件数値情報がその開示により住友金属の権利
競争上の地位その他正当な利益を害するおそれのある情報であると認める
ことはできない。
(5)花王和歌山工場の個別事情を踏まえた検討
ア花王和歌山工場における製造原価の推計について
証拠(乙14の1,証人F)によれば,花王和歌山工場における衣料用
粉末洗剤の製造原価を推計する方法等につき,以下のとおり認められる。
(ア)和歌山工場の総エネルギーコストの推計
燃料等については,公刊資料で単価を調査し,本件数値情報に乗ずる
ことでコストを推計する。
電気のうち「昼間買電」及び「夜間買電」については,時間帯別調,
整契約を締結しているので,同様の契約を締結する者はその単価を想定
でき,これによりコストを推計する「上記以外の電気」については,。
,。すべて自家発電でありその燃料消費量が燃料等として計上されている
以上により,総エネルギーコストを推計する。
(イ)衣料用粉末洗剤の製造原価の推計
原材料費については,製品の成分を分析し,同業他社が有する自社の
原材料単価のデータを参照して推計する。
労務費は,和歌山工場の従業員数に有価証券報告書で公開される平均
賃金を乗ずることにより推計する。
経費等は,和歌山工場における設備の能力や従業員数に照らして推計
する。
労務費,経費等及びエネルギーコストのうち粉末洗剤に係る部分は,
和歌山工場の総生産量のうち衣料用粉末洗剤の生産量が占める割合を乗
ずることにより推計するすなわち国内の衣料用粉末洗剤総生産量公。,(
表されている)に花王のシェア及び和歌山工場の花王全体に占める割。
合(川崎工場との対比により推計する)を乗ずることにより和歌山工。
場の衣料用粉末洗剤生産量を算出して和歌山工場の総生産量(公表され
ている)に占める衣料用粉末洗剤の割合を推計し,これをもって労務。
,。費経費等及びエネルギーコストのうち粉末洗剤に係る部分を推計する
イその余の個別事情について
証拠(乙14の1,証人F)及び弁論の全趣旨によれば,花王和歌山工
場のその余の個別事情について,以下の事実が認定できる。
(ア)衣料用粉末洗剤の製造過程は,特許等により公表されている部分も
あるが,その詳細は企業秘密になっており,例えば,溶解性を高めるた
めにどの工程でどの程度熱を加えるかということ等が模索されている。
,,()(イ)花王は同社ウェブサイトにおいて2005年度平成17年度
の環境保全コスト,例えば,地球温暖化対策に関するコスト(投資額1
億8400万円,大気環境保全に関するコスト(投資額2億8400)
万円)等を公表している。
(ウ)花王和歌山工場では,ハウスホールド製品として衣料用洗剤(粉末
及び液体,衣料用仕上剤,のり剤,アイロン用仕上剤等16種類の商)
品群が,パーソナルケア製品として洗顔料,化粧水,シャンプー,整髪
料,歯磨き粉等10種類以上の製品群が製造されているほか,その他の
工業用製品も製造されており,個別の商品単位で数えると,約1600
種類である。
(エ)花王は,出荷する衣料用粉末洗剤について,原則として希望小売価
格を設定していない。また,衣料用粉末洗剤は,小売店において安売り
の対象商品になることが多く,小売価格が低下傾向にある。
ウ本件数値情報の利益侵害情報該当性について
,,(ア)被告は衣料用粉末洗剤の製造原価やその経年変化が分析されれば
小売店から値下げ交渉の材料にされる可能性が極めて高いと主張する。
そこでまず,その推計の精度について検討するに,衣料用粉末洗剤の
単位当たり製造原価を推計する方法として,前記アの方法があることが
認められる。しかし,証拠(甲15)によれば,石けん・合成洗剤製造
業におけるエネルギーコストの製造品出荷額に占める割合は,平均して
1.0%であることが認められ,花王和歌山工場におけるエネルギーコ
ストの割合もこれと大きく異ならないと推認されるところ,本件数値情
報の開示によりエネルギーコスト以外の費用の推計精度が向上すると認
めるに足りる証拠はないから,結局,本件数値情報の開示により推計の
精度が向上し得るのは,エネルギーコストのみと解される。そして,和
歌山工場の衣料用粉末洗剤の生産量を川崎工場との対比で推計し,ある
いは和歌山工場の総生産量に占める衣料用粉末洗剤の生産量からその生
産に必要なエネルギー使用量を推計するためには,両工場で消費される
エネルギーのうちいくらが洗剤の生産に供されるかを把握する必要があ
るが,その的確な方法は何ら提示されていない。被告は,各工場の生産
量に占める衣料用粉末洗剤の生産量が公表されており,これから推計が
可能であると主張するが,製品ごとにエネルギー原単位は異なると考え
,,られるから単純に生産量の割合でエネルギー使用量を推計することは
不正確であるといわざるを得ない。
このように,全体に占める割合が小さい費用が,必ずしも精度が高い
とはいえない方法で推計可能になったとしても,そのことが小売店にと
って有力な価格交渉の材料になるとは解し難い。
そうすると,小売店からの値下げ圧力が強いということを前提として
も,本件数値情報の開示により,取引先との価格交渉における花王の競
争上の地位が害されることとなる蓋然性を認めることはできない。
(イ)被告は,本件数値情報により得たエネルギーコストの推計値を加味
することによって,花王における衣料用粉末洗剤の具体的な製造方法が
判明するおそれがあると主張するが,結局のところ,抽象的な可能性を
いうにすぎない。
証拠に照らしても,例えば,衣料用粉末洗剤の製造工程における加熱
のタイミングとその程度が企業秘密であることは認められるが(前記イ
(ア),上記のとおり,そもそも衣料用粉末洗剤の製造に供されるエネ)
ルギー使用量を正確に推計することが困難であること,本件数値情報に
よって判明するのは電気の使用量及び燃料等の種類別使用量であり,こ
(,。)れが各製品の製造工程その詳細は当然企業秘密であると解される
のどこで消費されるか外部から推知することは困難であると考えられる
ことからすれば,本件数値情報が開示されても,花王における衣料用粉
末洗剤の具体的な製造方法が判明するおそれがあると認めることはでき
ない。
エ小括
以上のとおり,本件数値情報の一般的性質に花王和歌山工場の個別事情
を併せ考えても,本件数値情報が,その開示により花王の権利,競争上の
地位その他正当な利益を害するおそれのある情報であると認めることはで
きない。
(6)カネカ高砂工業所の個別事情について
アカネカ高砂工業所における製造原価の推計について
証拠(乙15,証人D)によれば,カネカ高砂工業所における苛性ソー
ダ等の電解コストを推計する方法等につき,以下のとおり認められる。
(ア)苛性ソーダ等は,食塩電解装置により食塩水を電気分解して製造す
る。
「」「」,(イ)本件数値情報に含まれる昼間買電及び夜間買電については
電力会社が公表している電力単価を用いてコストを推計する。
(ウ)「上記以外の電力」については,高砂工業所ではすべて自家火力発
電によるものであり,その発電設備は標準的なものであるから,固定費
のうち設備に関する費用は有価証券報告書等及び標準的な数値を用いて
推計する。人件費は,労働統計等により推計する。高砂工業所で用いら
れる燃料等は,そのほとんどが自家火力発電設備内のボイラの燃焼に供
されるから,燃料等の全量がボイラに投入されるものとみなし,統計資
料で燃料等(石炭,A・B・C重油,オイルコークス,都市ガス等)の
単価を調査してボイラの燃料コストを推計する。ボイラで発生する蒸気
は,発電以外の各種の製造工程での熱源等の用に供されるものもあるの
で,有効利用熱量(燃料等の使用による発生総熱量にボイラ効率を乗じ
たもの)と発電利用熱量(自家発電する電力量を熱量に換算し,これを
タービン室効率及び発電機効率で割り戻したもの)の比を用いてボイラ
で発生する蒸気のうち発電に供されるものの割合を算出し,ボイラの燃
料コストに乗じて,自家発電の燃料コストを推計する。
(エ)上記(イ),(ウ)の合計が高砂工業所の総電力コストである。
(オ)食塩電解に用いる電力量は,高砂工業所における苛性ソーダ等の生
産量に業界公知の電力原単位を乗じて推計する(本件数値情報から食塩
電解に用いる電力量が推計できるとは認められない。高砂工業所の。)
苛性ソーダ等生産量は,公刊物に登載されている食塩電解工場の生産能
力に,一般的な稼動率(近年は95%を超えている)を乗じて把握す。
る。
以上により,カネカ高砂工業所における苛性ソーダ及び塩素の電解コ
ストを推計する。
イその余の個別事情について
証拠(甲3の1,7の2,乙15,証人D)によれば,カネカ高砂工業
所のその余の個別事情について,以下の事実が認定できる。
(ア)高砂工業所は,カネカの主力工場であり,苛性ソーダ,各種塩素製
品,塩化ビニルモノマー,塩化ビニル樹脂その他の食塩電解製品及び誘
導体製品を中心に,食品部門やライフサイエンス部門の製品など,合計
約20種類の製品を生産している。高砂工業所の総生産量に占める苛性
ソーダ及び塩素ガスの割合は,約35%である。
(イ)苛性ソーダ等の製造に要する比例費のうち8割程度を原塩及び電力
コストが占めている。なお,ソーダ工業において,電力コストの製造原
価に占める割合は,約3割とされている。
(ウ)カネカは,主に,オーストラリアとメキシコから原塩を輸入してい
るが,輸入先によって価格が異なる上,1回当たりの輸送量によっても
価格は大きく変動する。
(エ)苛性ソーダ等の工場は,コンビナート型と地域型に分類することが
でき,高砂工業所は前者に属する。コンビナート型工場とは,比較的規
,,模が大きく生産した苛性ソーダを海外も含む広域に供給するとともに
塩素を自ら加工するだけでなく,他の工場に対し原料として大量に供給
するものをいう。なお,苛性ソーダ等の工場のうち,コンビナート型工
場(カネカ高砂工業所,東ソー株式会社南陽事業所,株式会社トクヤマ
徳山製造所,旭硝子株式会社千葉工場,鹿島電解株式会社鹿島工場及び
岡山化成株式会社水島工場)は,いずれも第1表の開示に反対の意見を
,,。表明しているがその余の工場の6割は同表の開示に反対していない
(オ)カネカは,その顧客から,コスト低減目標達成への協力を求めると
いう形で,年度ごとに値下げの要求をされる。また,原油価格が下落し
たような場合には,そのことを理由として値下げ要求をされることもあ
る。
ウ本件数値情報の利益侵害情報該当性について
被告は,苛性ソーダ等はいわゆる基礎素材であるから特に価格競争が激
しく,カネカの製造コストが取引先に経年分析されることで不当な値下げ
要求を誘発し,また,競争上も不利益を被ると主張する。
そこで検討するに,まず,高砂工業所における苛性ソーダ等の製造原価
を構成する要素のうち,本件数値情報が推計の資料となる可能性があるの
はエネルギーコストのみであり,これ以外の費用(人件費,原材料費,減
価償却費等)の推計資料になると認めるに足る証拠はない。
そこでエネルギーコストの推計の精度について検討するに前記ア(ウ),,
で認定したとおり,高砂工業所の電力コストを推計するためには,自家発
電の燃料コストを推計する必要がある。しかし,取引先等にとって,燃料
の単価は統計値で把握できるにすぎないから,それを実際の仕入価格とし
て推計の基礎にする場合,前記(2)イ(イ)bで指摘した問題がそのまま当
てはまるし,自家発電のための他の費用(設備費や人件費等)を推計する
についても同様の問題があり,その推計の精度には限界がある。さらに,
苛性ソーダ等の実際の製造原価は,電力コストだけでなく,固定費や他の
比例費との合計値であり(前記イ(イ)認定のとおり,ソーダ工業における
電力コストは製造原価の約3割である,比例費に属する原塩の原価も。)
輸入業者や輸送量によって大きく変動するから(前記イ(イ),製造原価)
の推計は,なおいっそう大きな誤差が伴う。このように,本件数値情報が
開示されることを原因として推計され得るエネルギーコストないし製造原
価は,大きな誤差を内在したものとならざるを得ない。
しかも,ソーダ工業にとって電力コストの削減は重要な課題であり,こ
れまでイオン交換膜法の開発等により電力消費量の削減努力が続けられ,
過去30年間で約30%の削減に成功していること,現在,高省エネルギ
ー型の電極技術「ガス拡散電極」の実用化に向けた努力がされていること
は,いずれも公にされている(乙15の資料3。そうすると,本件数値)
情報が開示され,これによりカネカの買電量や燃料等の種類別使用量が減
少傾向にあることが公にされることになったとしても,そのこと自体は既
に予測されているものというべきである。
また,電力や燃料等の使用量の減少が新たな設備投資を含む環境対策の
,,成果であることやそのような設備投資には相当なコストがかかっており
今後も継続して費用を要すること,その技術内容が企業秘密に属するもの
であることは,取引先にとっても明らかなことである(したがって,カネ
カとしても,電力や燃料等の使用量の減少が直ちに製造原価の減少に結び
付かない旨反論することは,困難ではない。。)
これに加え,苛性ソーダ等の工場のうちの相当数が本件数値情報の開示
(),,に反対していないこと前記イ(エ)カネカの顧客による値引き交渉は
必ずしもカネカ側の減価要因の存在を踏まえた合理的な根拠に基づくもの
ではないと窺われること(前記イ(オ))などを併せ考えれば,高砂工業所
がいわゆるコンビナート型工場であること,苛性ソーダ等がいわゆる基礎
素材であって特に価格競争が激しいことを前提としても,本件数値情報の
開示を原因として,カネカが不当な値下げ交渉にさらされるとか,海外の
企業との競争上も不利益を被るといった危険性が高まる蓋然性が法的保護
に値する程度に存在すると認めることはできないし,証人Dが危惧するよ
うな(同証人33頁,環境対策のための投資もできなくなるという事態)
が生じる蓋然性も認め難い。
エ小括
以上のとおり,本件数値情報の一般的性質にカネカ高砂工業所の個別事
情を併せ考えても,本件数値情報が,その開示によりカネカの権利,競争
上の地位その他正当な利益を害するおそれのある情報であると認めること
はできない。
(7)争点1の結論
以上によれば,本件不開示情報は,いずれもその公開によって当該事業者
の権利,競争上の地位その他の正当な利益を害するおそれのある情報という
ことができない。
3結論
以上のとおりであり,また本件不開示情報が情報公開法5条各号所定の他の
不開示情報に該当するという主張立証はないから,本件一部不開示決定のうち
本件不開示部分を不開示とした部分は,その余の争点を検討するまでもなく違
法であって取消しを免れない。そして,情報公開法3条,5条によれば同部分
については開示の決定をすべきことが明らかであるから,同部分の開示決定義
務付けの請求は,行政事件訴訟法3条6項2号,37条の3第5項に照らして
理由がある。しかし,同決定のうち別紙2不開示情報目録2記載の行政文書の
部分を不開示とした部分の取消しを求める訴え及び同部分の開示決定義務付け
を求める訴えは,その利益がなく不適法である。
よって,原告の請求を主文1項,2項の限度で認容することとし,その余の
訴えは不適法であるから却下することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴
,,,。訟法7条民事訴訟法61条64条本文を適用して主文のとおり判決する
大阪地方裁判所第7民事部
廣谷章雄裁判長裁判官
森鍵一裁判官
伊藤隆裕裁判官
(別紙1)
不開示情報目録1
①株式会社神戸製鋼所加古川製鉄所についての熱管理に関する定期報告書第1表
に記載されている燃料等の使用量,合計GJ及び原油換算kl並びに販売副生燃
料等の量,合計GJ及び原油換算klに関する情報
②同社加古川製鉄所についての電気管理に関する定期報告書第1表に記載されて
いる電気の使用量(昼間買電(夜間買電(上記以外の電気)及び(合計)),),
に関する情報
③住友金属工業株式会社和歌山製鉄所についての熱管理に関する定期報告書第1
表に記載されている燃料等の使用量,合計GJ及び原油換算kl並びに販売副生
燃料等の量,合計GJ及び原油換算klに関する情報
④同社和歌山製鉄所についての電気管理に関する定期報告書第1表に記載されて
いる電気の使用量(昼間買電(夜間買電(上記以外の電気)及び(合計)),),
並びに欄外の記載に関する情報
⑤花王株式会社和歌山工場についての熱管理に関する定期報告書第1表に記載さ
れている燃料等の使用量及び対前年度比並びに販売副生燃料等の量,合計GJ及
び原油換算klに関する情報
⑥同社和歌山工場についての電気管理に関する定期報告書第1表に記載されてい
る電気の使用量(昼間買電(夜間買電)及び(上記以外の電気)並びに対前),
年度比の(昼間買電(夜間買電(上記以外の電気)及び(合計)に関する),),
情報
⑦鐘淵化学工業株式会社(現株式会社カネカ)高砂工業所についての熱管理に関
する定期報告書第1表に記載されている燃料等の使用量,合計GJ,原油換算k
l及び対前年度比並びに販売副生燃料等の量,合計GJ及び原油換算klに関す
る情報
⑧同社高砂工業所についての電気管理に関する定期報告書第1表に記載されてい
る電気の使用量(昼間買電(夜間買電(上記以外の電気)及び(合計)並),),
びに対前年度比の(昼間買電(夜間買電(上記以外の電気)及び(合計)),),
に関する情報

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
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弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
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◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
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