弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人尾崎正吾の上告理由について
 所得税法(以下「法」という。)において、退職所得とは、「退職手当、一時恩
給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」に係る所
得をいうものとされている(三〇条一項)。そして、法は、右の退職所得につき、
その金額は、その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額
の二分の一に相当する金額とする(同条二項)とともに、右退職所得控除額は、勤
続年数に応じて増加することとして(同条三項)、課税対象額が一般の給与所得に
比較して少なくなるようにしており、また、税額の計算についても、他の所得と分
離して累進税率を適用することとして(二二条一項、二〇一条)、税負担の軽減を
図つている。このように、退職所得について、所得税の課税上、他の給与所得と異
なる優遇措置が講ぜられているのは、一般に、退職手当等の名義で退職を原因とし
て一時に支給される金員は、その内容において、退職者が長期間特定の事業所等に
おいて勤務してきたことに対する報償及び右期間中の就労に対する対価の一部分の
累積たる性質をもつとともに、その機能において、受給者の退職後の生活を保障し、
多くの場合いわゆる老後の生活の糧となるものであつて、他の一般の給与所得と同
様に一律に累進税率による課税の対象とし、一時に高額の所得税を課することとし
たのでは、公正を欠き、かつ社会政策的にも妥当でない結果を生ずることになるこ
とから、かかる結果を避ける趣旨に出たものと解される。従業員が退職に際して支
給を受ける金員には、普通、退職手当又は退職金と呼ばれているもののほか、種々
の名称のものがあるが、それが法にいう退職所得にあたるかどうかについては、そ
の名称にかかわりなく、退職所得の意義について規定した前記法三〇条一項の規定
の文理及び右に述べた退職所得に対する優遇課税についての立法趣旨に照らし、こ
れを決するのが相当である。かかる観点から考察すると、ある金員が、右規定にい
う「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」にあたるというた
めには、それが、(1) 退職すなわち勤務関係の終了という事実によつてはじめて
給付されること、(2) 従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対
価の一部の後払の性質を有すること、(3) 一時金として支払われること、との要
件を備えることが必要であり、また、右規定にいう「これらの性質を有する給与」
にあたるというためには、それが、形式的には右の各要件のすべてを備えていなく
ても、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、右「退職に
より一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要
とすると解すべきである。
 これを本件についてみると、原審の適法に確定したところによると、(一) 上告
人の従業員給与規程一五条は、「退職金は左の場合に支給する。」と規定し、「四、
勤務年数が会社設立後又は本人の就職後満五か年、爾後満五か年を加算した時期が
到来した場合」との事由を掲げており、本件係争の退職金名義の金員は、右規定に
基づいて支払われたものである、(二) 右の規定が設けられたのは、昭和四〇年こ
ろ、中小企業が営業を停止し退職金を支払わずに従業員を解雇する事例が相次いで
起こつたところから、同年一二月ころ、上告人の従業員労働組合から上告人に対し、
三年の期間ごとに退職金に相当する金員を支払つてほしい旨の申入れをし、設立後
五年未満であつた上告人が、遡及支払手続を要しない五年間で勤務期間を区切り、
就職後五年ごとに退職金名義で手当を支給するために、給与規程を改正したもので
あり、これにより、営業停止による解雇の場合の退職金の支払を実質上前払の形で
保障し、併せて、営業停止の際の退職金支払に要する経理上の負担を軽減すること
としたものである、(三) 右改正された給与規程には、退職金の財源確保として中
小企業退職金共済制度による掛金をすることとするほか、退職金の算定について定
めた規定(一六条)が存し、また、「第一五条第四項により退職金を支給した場合
は従来の在職年数は打切り既往の在職年数は在職年数には算入しないものとする。
第一五条第四項の場合は第一六条に規定する中小企業退職金共済制度による退職金
は支給せず、爾後に継続するものとする。」との規定(一七条)が存する、(四) 
しかし、五年の勤務期間を経過して本件退職金名義の金員の支給を受けた者は、そ
の機会に自らの意思で退職する者を除いては、改めて再入社のために一般の入社の
場合における所要の手続等を経ることもなく、従来のままの就労を継続している、
(五) また、右の者の賃金その他の労働条件も、従前のそれと全く変ることがなく、
年次有給休暇については、新たに入社した者に対しては、その入社年度にはこれを
与えないものとしているのに、五年の勤務期間を経過して退職金名義の金員の支給
を受けた者に対しては、右期間経過後の初年度には、未使用有給休暇日数の次年度
繰越が打切られるのみで、六日分の休暇が与えられることとされている、(六) 中
小企業退職金共済制度については、新たに入社した者の掛金は就職後満一年を経過
してからこれを払い込むこととしているのに、五年の勤務期間を経過して退職金名
義の金員の支給を受けた者については、右期間経過後の初年度から掛金を払い込ん
でおり、また、右勤務期間を経過した者で右制度による退職金の受給申請をした者
はなく、この関係では従前の勤務期間は通算するものとして取り扱われている、(
七) 従業員として身分を失う事項を定めた就業規則一七条の規定中には、給与規
程により五年ごとに退職金名義の金員を受領した者がその際に従業員としての身分
を失う旨の定めはなく、また、同一八条では、「従業員の停年は満五五歳とする。」
旨を定めて、定年までの身分を保障している、というのである。
 右事実によると、上告人がその従業員に対し五年の勤務期間を経過するごとに支
給する退職金名義の金員は、少なくとも、既往の右の期間における勤務に対する報
償ないしその間の労務の対価の一部の後払という趣旨以外に特段の趣旨を有するも
のではないということができるが、他方において、右金員の支給を受けた従業員は、
一たん退職したうえ再雇用されるものではなく、従前の雇用契約がそのまま継続し
ているものとみるべきであり、また、右金員支給の基礎となる五年の期間は、その
経過によつて勤務関係を確定的に終了させるという意図から設けられたものではな
く、むしろ、将来勤務関係が確定的に終了する際に支給される退職金を実質的に前
払いするための計算の便宜上定められたものにすぎず、五年という年数にそれ以上
に特段合理的な根拠があるわけではないとみるべきであつて、これらの点を考慮す
ると、右金員は、前記(1)の要件である、勤務関係の終了という事実によつてはじ
めて給付されること、という要件を欠くことは明らかであつて、法三〇条一項にい
う「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」にはあたらないも
のというべきであり、また、実質的にみても、右の要件の要求するところに適合し
課税上右の給与と同一に取り扱うことを相当とするものということは困難であつて
同条同項にいう「これらの性質を有する給与」にもあたらないと解するのが相当で
ある。
 もつとも、このように解した場合には、上告人の従業員は、確定的に退職し雇用
関係から最終的に離脱する際に支給される退職金を除いては、勤続満五年ごとに支
給される退職金名義の金員につき、課税上優遇措置を受けられないことになるが、
上告人及びその従業員が前記のような給与方式を選択した以上、このような結果と
なるのはやむをえないことというべきである。また、退職金の支払の確保及び右支
払時における経理上の負担の軽減を図るためであれば、他に方法がないわけではな
いから、単に実際上の必要があるということから、本件退職金名義の金員の性質に
つき前記と異なる解釈をとるのは、相当でないといわなければならない。
 以上のとおりであるから、本件退職金名義の金員にかかる所得は、法三〇条一項
所定の退職所得にはあたらないというべきである。これと同旨の原審の判断は、正
当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    牧       圭   次
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    鹽   野   宜   慶
            裁判官    宮   崎   梧   一
            裁判官    大   橋       進

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