弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人等の負担とする。
         理    由
 上告代理人田代源七郎の上告理由第一点及び第二点について。
 自作農創設特別措置法(以下自創法という)三条によつて農地を買収する場合は、
同法一条の目的を達するために行うのであるから、もとより憲法二九条三項の場合
に当り、所有者に正当な補償をしなければならないこと、この場合の正当な補償と
は、その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基き、合理的に
算出された相当の額をいい、必しも常にかかる価格と完全に一致することを要する
ものでないと解すべきこと、並びに自創法六条三項に定める買収対価はこの正当な
補償に当るものであることは、当裁判所大法廷判決の判示するところである(昭和
二五年(オ)第九八号同二八年一二月二三日判決、集七巻一三号一五二三頁参照)。
従つてこの趣旨に適合する上告人A所有の本件畑の買収対価は、いずれも正当な補
償に当り、これと異る見解に立つ所論はすべて理由がない。
 次に上告人等の本件山林の買収対価について考えてみるに、まず国が自創法に従
い未墾地たる山林を買収する場合は、当時未だいわゆる農地ではないのであるが、
同法三〇条の目的を達するたあ同法三一条によつてこれを行うのであるから、憲法
二九条三項の公共のために用いる場合に当り、従つてその買収対価は同項にいう正
当な補償であることを要するこというまでもない。ところで本件山林は自創法にい
わゆる未墾地に属する農地以外の土地に当るから、その買収対価は自創法三一条三
項、同施行令二五条一項及び「未墾地等の対価算定某準及び損失補償額算定に関す
る件」(昭和二二年四月一七日附二二開第七五五号農林次官依命通牒)により、当
該土地の上に生立する竹木のない場合にあつては、当該土地の近傍類似の農地の時
価に中央農地委員会の定める率(四五パーセント)を乗じて得た額であることは原
判決の判示するとおりであり、またこの四五パーセントの率が成立する算出の過程
と理由は原判決が詳細に説明するとおりである。しかるに未墾地たる山林の価格に
ついていえば、農地の所有権が昭和一三年四月農地調整法施行以来同法の目的を達
するための施策に伴い権利の内容が次第に法令によつて統制され、その価格も自創
法の成立するに及んでほとんど全く自由な市場価格を生ずる余地なきに至つたのと
異り、なお格段の制約を受けず相当に自由な市場価格が成立していたと見るべきで
あるから、農地の買収対価構成の理由が直ちに本件山林の買収対価の理由に当ると
いえないこともちろんである。そこでまずその対価を定める基礎とされた「当該土
地の近傍類似の農地の時価」ということを考えてみるに、前記のように本件のごと
き未墾地たる山林の買収は、結局自創法三〇条に定める自作農創設等の目的のため
に行うのであるから、農地委員会がその買収計画を立てるに当つては、当該土地(
本件は山林)がこの目的に適合する諸条件を具備することを認めた上であり、また
これを買収することが自作農創設のために必要であると認めたためであることはい
うまでもなく(自創法三〇条、三〇条の二、三一条等)、従つてその買収対価は、
その近傍類似の農地の価格を基礎としこれに準ずることがもつとも合理的でありま
た適切であるといわなければならない。そしてここにいう「時価」とは、農地の買
収対価がすでに自創法六条三項により合理的にその最高限を定められているから、
結局この最高限を超えない範囲において成立する価格をいうにほかならないのであ
る。次にこの時価に乗ずる中央農地委員会の定める率(四五パーセント)について
考えてみるに、前記のようにその算出の過程と理由が原判決の説明するとおりであ
るところ、その構成を検討してみると、戦前における未墾地の近傍にある類似農地
の時価と未墾地価格との比率一九パーセントは、農地といえども価格そのものにつ
いては未だ統制のなかつた当時の価格に基くものであり、また終戦後の財産税の基
準となつた数字による比率七一パーセントは、未墾地については全く自由な価格に
基くものであることが認められ、従つてこの両者の中間の数字として算出された四
五パーセントの倍率は、未墾地買収対価を定める基準として当時の自由価格が十分
に考量されていることを認めることができる。従つてまた本件山林の買収対価も、
前記大法廷判決の判示する財産権を公共の用に供する場合の正当な補償に適合し、
憲法二九条三項に違反するところはない。以上のとおりであるから、本件山林の買
収対価についても買収対価が正当な補償に当らないという見解を前提とする所論は
すべて理由がない。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官斎藤悠輔並びに裁判官真野毅及び同岩松三郎の反対意見を除く
外全裁判官一致の意見によるものである。
 裁判官斎藤悠輔の反対意見は、次のとおりである。
 憲法二九条三項にいわゆる「正当な補償」とは、被用私有財産の客観的な経済価
値の補償を意味すること、従つてその財産の自由な取引価格の存する場合の補償に
は、その被用当時の取引価格によるべきを当然とすること、しかし自由な取引価格
なるものが法的に存在しない被買収農地についてはいわゆる自作収益価格を基準と
する相当な経済価値によらざるを得ないものであつて、自創法六条三項本文の規定
は農地買収の一応の標準を示したに過ぎないもので、同条項但書の特別事情をも参
酌して正当な補償を定むべきものであることは、多数説引用の当裁判所大法廷判決
中の私の反対意見で述べたとおりである(民事判例集七巻一三号一五四三頁以下参
照)。されば、本件買収土地中畑の補償についてはかゝる対価を支払うべく、また、
本件買収土地中農地でない未墾地たる山林の取引については、統制がなく、従つて、
自由な取引価格が存するのであるから、右山林買収の対価についてはかゝる取引価
格によるべきものといわなければならない。それ故、本件上告は結局その理由があ
つて、原判決は破棄を免れないものと考える。
 裁判官真野毅及び同岩松三郎の反対意見は、多数説の引用する当裁判所大法廷判
決(判例集七巻一三号一五三五頁以下)中に掲げた各意見のとおりである。なお本
件では原判決判示第一及び第四乃至第七物件目録記載の山林が未墾地として自創法
三一条三項に従い命令の定むるところにより当該土地の近傍類似の農地の時価を参
酌して買収されているのであるが、二の未墾地についてはその買収対価の不当なる
こと一層明らかである。元来この未墾地については多数意見も認めるように、農地
につきその売買が統制され、その価格が公定され、小作料の額も定まり金納とされ
ているというが如き事情は存在しないのである。すなわち、その所有権の内容は何
等、制限されておらず所有者は自由に使用、収益、処分することができるのであつ
て、現に一般に山林の価格は自創法による買収対価に比して相当高価であり、本件
記録中の証人の証言によつても相当高価で売買されている事実が窺い得るのである。
従つてそれら未墾地の所有者が買収によつて経済上多大の損害を被るべきことは明
白であるといわなければならない。未墾地の買収対価が憲法二九条三項にいわゆる
正当な補償といい得るためには、所有者の被るべきかかる経済的損失を完全に補償
するに足るものでなければならない。多数意見は「未墾地たる山林の買収は結局自
創法三〇条に定める自作農創設等の目的のために行うのであるから、農地委員会が
その買収計画を立てるに当つては当該土地(本件は山林)がこの目的に適合する諸
条件を具備することを認めた上であり、またこれを買収することが自作農創設のた
めに必要であると認めたためであることはいうまでもなく(自創法三〇条、三〇条
の二、三一条等)、従つてその買収対価はその近傍類似の農地の価格を基礎として
これに準ずることがもつとも合理的であり、また適切であるといわなければならな
い」と説示するが、それは自作農創設を企劃し土地を買収するものの立場にのみ立
脚し、土地を買収される者の立場を度外視した見解に外ならない。すなわち何等統
制価格の存しない未墾地の買収対価を、統制により著しく自由価格より低価に抑制
されている農地の価格を参酌し、その権衡を保持するよう低価に定めるのでは到底
憲法にいわゆる正当な補償額を算出し得る筈がない。もとより未墾地の買収対価が
農地のそれに比して高価であるということはそれ自体としては不合理であること勿
論であるが、それは農地の買収対価が不当に低価に定められたことに由来するので
ある。それ故、農地の所有者と未墾地の所有者との間における買収上の均衡を考慮
するよりはむしろ未墾地の所有者中買収される者と自由に処分する者との間におけ
る経済上の均衡保持を考慮すべきである。また未墾地の買収対価を高価に定めるこ
とは勢その売渡価格を高価たらしめる虞あることを憂うるものの如くである。しか
し、元来農地制度の改革の如き事業は土地所有者の犠牲において実施すべきもので
はない。正当価格で未墾地を買収しても小作人にこれを安価に売渡すことはもとよ
り可能であり、その差額は国において負担すれば足るのである。この国の負担を節
約するために未墾地の所有者に対し憲法二九条三項の正当な補償を拒否すべき筋合
はない。特に未墾地の所有者は原則として農地の所有者とは異なり、従来小作制度
による利益を享受していたものではないことを思えば、唯買収計画者において一方
的にその目的に適合すると判定したというだけの理由でそれら未墾地の所有者に対
し特段なる犠牲を強要すべき限りでないことは一層明瞭であろう。さらに多数説は
山林が近傍類似の農地の統制価格の四五%とされていることを目して、未墾地買収
対価を定める基準として当時の自由価格が十分に考量されているというけれど単に
自由価格が考量されているというだけでは、必ずしもその対価を正当補償というこ
とのできないこと勿論である。そればかりでなく終戦後の財産税の基準とされた数
字から得た未墾地の近傍にある類似農地の時価と未墾地価格との比率は七一パーセ
ントであるに拘わらず、これを四五パーセントに減率しているのは、未墾地につき、
国が財産税を徴収する場合にはこれを高価に評価し、自らこれを買収する場合には
低価に評価するということに外ならないのであつて、その不合理なこと多言を要し
ない。(立法上も後にこの不合理は反省され現行農地法五一条、同施行令六条によ
ればこの両者の場合における評価を一致せしめているのである。)
 それ故本件上告は少くとも未墾地の買収に関しては一層その理由ありとなさざる
を得ない。本件は破毀差戻を相当とする。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    垂   水   克   己

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛