弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を無期懲役に処する。
理由
(犯行に至る経緯)
 被告人は,窃盗,詐欺等の犯罪を累行し,二度の服役をした後,昭和五三年一
月,強盗殺人等の犯行を行い,無期懲役に処せられて三度服役した。平成一〇年一
月二九日,岐阜刑務所を仮出獄した被告人は,一か月ほど岐阜市内の更生保護会で
過ごした後,同年三月から東京都足立区内の実母宅に転居し,同年九月からは同区
内にあるeハイツf号室で単身居住し,ゴム製品加工会社などに職を得て生計を立
てていたが,憂さ晴らしに,g駅前にあるスナック「h」に客として通ううち,
「みさお」の源氏名を用いて,アルバイトでホステスをしていた被害者Cを知り,
気取らず,場を盛り上げて楽しませる態度に惹かれて,度々指名した。被害者も,
被告人が銀行の大口の預金者であると言ったり,来店するごとに三,四万円くらい
使うなど羽振りよく振る舞うなどしたところから,被告人を「おいしい客」と考え
て接していたが,同年一〇月下旬ころ,家庭の事情で被害者がアルバイトをやめた
ことから,それ以後,顔を合わせることがないままに日が過ぎていた。
 平成一一年一月九日昼ころ,被告人は,それまでしばらく会っていなかった被害
者を誘い,自宅近くの居酒屋にでも飲みに行こうかと考え,「お年玉をあげる。」
などと言って電話で呼び出し,これに応じた被害者と東武伊勢崎線i駅付近で落ち
合った。しかし,被害者が,三〇分も待たせた上,会うやいなや,余り時間がない
などと言うため,予定していた居酒屋まで行くわけにもいかず,気分を害したもの
の,とりあえず付近の居酒屋に入り,お年玉として二万円を渡すなどして雑談した
が,被害者は,兄と同居中のアパートから引っ越したいとか,自動車の免許を取り
たいが,貯金がないなどという身の上話をした。その後,帰宅しようとして同方向
に向かう被害者とともにタクシーに乗り込み,eハイツ付近で降りたが,被告人が
着替えのためいったんアパートに戻ったところ,道路で待つように言っていた被害
者が玄関に入ってきたため,独り住まいのわびしいアパート暮らしを人に見せたく
ないと考えていた被告人は,「帰れ。」などと言ったが,被害者が直ちに立ち去る
気配を見せないことから,いつまでも玄関先で立ち話をしているわけにもいかない
と考え,被害者を室内に上げてしばらく雑談をしたが,被害者が,先刻の居酒屋で
の話を蒸し返し,生活が大変だ,同居している兄が口うるさいので早く家を出た
い,免許も取りたいなどとした上,「お小遣いくれない。」などと言い出したた
め,待ち合わせに遅刻し,時間がないと言っていながらアパートまでついてきた
上,虫のよい話をすると思い,立腹の末,「何言ってるんだ,時間がないと言って
おいて。帰るなら,帰ればいいじゃないか。」などと言った。
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第一 平成一一年一月九日午後八時三〇分ころ,東京都足立区j町k丁目l番m号
所在のeハイツf号室の被告人方において,帰宅するため玄関で靴を履いていたC
(当時二一歳)に対し,好意から,タクシー代などとして二万円を差し出したが,
同女から「これっぽっち。」などと言われ,渡した二万円をひったくった上,「じ
ゃあ,勝手に帰れ。」と言ったところ,同女が,「馬鹿野郎。」などと言いながら
自己の左頬を叩くなどして,「お金もないくせにうちの店に来て大きな顔をするん
じゃないよ,このくそおやじ。」などと言って罵倒したことから,激昂し,同女が
着ていたコートの襟首を掴むなどして外に押し出そうとしたが,同女が激しく抵抗
したため,警察に通報されて捕まると仮出獄が取り消され,また刑務所に舞い戻ら
なければならなくなるなどと考え,こうなった以上は同女を殺害するほかないもの
と決意し,その頸部を右腕で強く絞めつけ,よって,そのころ,同所において,同
女を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害し,
第二 右殺人の発覚を防ぐため,同月一三日ころから同月一四日ころまでの間,前
記被告人方において,Cの死体を包丁で切断するなどして損壊した上,同月一五日
ころから同月一六日ころまでの間前後数回にわたり,同区j町の荒川左岸及び埼玉
県川口市n町の荒川左岸において,右損壊した死体を同河川に投棄し,もって,死
体を損壊,遺棄し
たものである。
(証拠の標目)
   略
(弁護人の主張に対する判断)
一 被告人は,被害者の殺害態様につき,捜査段階から第四回公判まで,一貫し
て,判示認定のとおり,頸部を強く絞めて窒息死させた旨供述(以下,旧供述とい
う。)していたにもかかわらず,第八回公判において,突如,被害者が被告人方台
所にあった果物ナイフを持ち出して振り回したため,咄嗟にナイフを持った手を掴
み,その刃先を被害者の方に向けて体当たりした結果,ナイフが被害者の左胸の下
辺りに刺さって死亡した旨供述(以下,新供述という。)するに至り,弁護人は,
右被告人の新供述に基づいて,本件については過剰防衛が成立する旨主張するの
で,以下,この点に対する当裁判所の判断を示す。
二 被告人の旧供述の内容は,概ね以下のとおりでる。
1 平成一一年一月九日夜,自宅に上がり込んだ被害者と二〇分くらい雑談をした
が,その中で,被害者は,i町の居酒屋でした話を再び繰り返し,毎日の生活が大
変である旨訴えた上,「兄貴も口うるさいので早く家を出たい。免許も欲しいし,
貯金も全然ない。お小遣いくれない。」などと頼んできた。被害者が,約束の時間
に三〇分も遅刻した上,「o」に飲みに行く時間もないと言っていながら,人に知
られたくなかった自宅までついてきたことなどで気分が悪かったので,「何言って
るんだ,時間がないと言っておいて。帰るなら帰ればいいじゃないか。」などと言
ったところ,被害者は,「帰る。」と言って立ち上がり,玄関で靴を履き始めた。
それを見て,帰りのタクシー代や,今日付き合ってくれたお礼などの意味で,少し
は金をあげようと思い,一万円札二枚を出して,「これで帰れ。」と言ったとこ
ろ,被害者が,「これっぽっち。」と言ったため,頭に来て,それをひったくり,
「じゃあ,勝手に帰れ。」と言った。すると,被害者が,「馬鹿野郎。」などと言
いながら左頬を叩いてきたので,着ていたコートの襟首に両手で掴みかかった。被
害者は,さらに,「お金もないくせにうちの店に来て大きな顔をするんじゃない
よ,このくそおやじ。」などと罵ったので,こちらも,「男の横っ面をはたいてお
いて,ただで済むと思うな,この野郎。」などと言い,下腹辺りに膝蹴りを入れ
た。被害者は,うめき声を上げて一瞬動きが止まったが,すぐに,「この野郎。」
などと大声を挙げて頭などを何度も叩いてきたので,隣近所に聞こえてはまずいと
思い,胸倉を掴んでいる手を突き出すようにして被害者の身体を時計回りに回転さ
せ,背後から口に右手を当てて,「おとなしくしろ。」などと言った。被害者が腕
をひっかくなどして激しく抵抗したため,口を押さえていた手が外れ,右腕が首に
巻き付くような形になったので,そのまま強く力を入れて絞めていると,やがて被
害者の力が抜けて後ろに体重を預けるようにしてきたので,支えきれず尻餅をつい
た。大変なことをしたと思い,身体を揺すったり,心臓マッサージをしてみたりし
たが,息を吹き返すことはなかった。
2 これからどうしようかと考えたが,考えがまとまらず,翌一〇日と一一日の日
中は外出を控え,家の中でじっとしていたが,一一日夕方から夜勤の仕事に出かけ
た。一二日の午前五時半ころ仕事から帰ってくると,死体から尿臭がしたので,衣
類を脱がせ,新聞紙にくるんで自宅近くのゴミ捨て場に出した。一三日の朝になる
と,何ともいえない腐ったようなにおいがし始めたので,かけておいたコートをは
がしてみると,背中の辺りが濃い茶色か紫色に変色していたので,これ以上,ここ
に置いておく訳にはいかないと思ったが,自転車しかないので,それで運べるよう
に,死体をばらばらにしなければならないと思い,一三日と一四日の二日間をかけ
て,包丁を使い,両腕,両下肢,頭部を切り離し,胴体の部分は内蔵を取り出して
肋骨をへし折るなどして解体した。このようにしてばらばらにした死体は,二重に
したゴミ袋六袋に詰めて,一五日と一六日の二日間に分けて,自転車で付近の荒川
河川敷に運び,袋から取り出して川に投棄した。
三 被告人の右旧供述は,捜査当初から第四回公判まで一貫しており,極めて具体
的かつ詳細である上,実際に体験したものでなければ語り得ない迫真性に富んだも
のということができる。法医学の見地においても,また,精神医学の見地において
も,被告人の述べる犯行の経緯,態様に格別の不自然さは認められないことなどに
も照らすと,その信用性は高いということができる。
四 ところで,被告人は,前記のとおり,第八回公判期日において,突如これと異
なる供述をするに至ったが,この新供述のうち,旧供述と大きく異なる点を摘記す
ると,大要以下のとおりである。すなわち,「被害者から,「これっぽっち。」な
どと言われて,殴り合いのような状況となったが,このとき,被害者がたまたまキ
ッチンのカウンター上にあった果物ナイフを右手で掴んで振り回してきたので,左
手に持ったジャンパーでそれを叩き落とそうとした。ジャンパーがナイフの上に被
さったところで,右手で被害者の右手を押さえ,ナイフの刃の向きを被害者の身体
の方へ向け,体当たりするような感じになったところ,刃が被害者の左胸の下辺り
に刺さった。被害者の身体から血が垂れて床に落ち,自分が着ていたシャツやズボ
ンにも血が付いた。死体を仰向けに寝かせた後,玄関先から浴室の前に運んだ。被
害者のコートなど着衣のすべては,荒川河川敷にスコップで穴を掘って埋めた。」
というのである。
五 被告人は,このように供述を変遷させた理由について,刃物を使ったことが分
かると凶悪に思われると考え,刃物を使った事実と,刺し傷の残る遺体のうちの胴
体の部分を捨てた場所や,刺した痕跡が残る衣類を埋めた場所については,捜査機
関に供述しなかったが,公判が進むにつれて,せめて遺品だけでも遺族に返したい
との考えを抱くようになったので,本当のことを言うことにしたなどと供述する。
  しかしながら,その後,被告人は,胴体の部分を捨てた場所について,明確に
供述したのに,捜査官が捜してくれなかったなどと供述をさらに変遷させている
上,荒川河川敷に埋めたとする衣類も,捜査機関と裁判所による二度の検索によっ
ても,一点も発見するに至らないばかりか,検索に出向く都度,指示する場所自体
が異なる有様であり,また,発見された遺体の一部である乳頭のある肉片につい
て,当初,刺し傷を発見されないように,刺し傷のある部分全体をそっくり切り取
ったなどと供述していたのに,その肉片に刺し傷が残っていない理由を追及される
や,刺し傷に沿って切断した旨供述を変更するなど,新供述には随所に辻褄合わせ
の不自然さが伴うことなどにも徴すると,結局,被告人の新供述は,刑責軽減を図
る意図から出た苦し紛れの弁解にすぎないものと断じるほかなく,およそ信用する
ことができないといわねばならない。
六 以上の次第であるから,犯行の経緯,態様については,被告人の旧供述どおり
に認定するのが相当であって,これを前提とする以上,過剰防衛の成否を論じる余
地はなく,弁護人の主張は採用できないことが明らかである。
(法令の適用)
 被告人の判示第一の所為は刑法一九九条に,判示第二の所為は包括して同法一九
〇条にそれぞれ該当するところ,判示第一の罪について所定刑中無期懲役刑を選択
し,以上は同法四五条前段の併合罪であるが,判示第一の罪の刑について無期懲役
刑を選択したので,同法四六条二項本文によりその余の罪については刑を科さない
こととして結局被告人を無期懲役に処し,訴訟費用は,刑事訴訟法一八一条一項た
だし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の事情)
一 本件は,強盗殺人罪により無期懲役の言渡しを受け,約一九年四か月間服役し
て仮出獄を許された被告人が,そのわずか一年足らずの後に犯した殺人,死体損
壊・遺棄の事案である。
二 本件に関する量刑事情を検討するに当たり,まず,被告人の生い立ちから仮出
獄後の生活状況を概観すると,次のような事情を指摘することができる。
1 被告人は,秋田県内で出生し,当時父母が別居中であったことから,姉ととも
に母親の手で養育されたが,母親は生活に追われ,基本的なしつけもなされないま
ま小学生のころ児童養護施設に引き取られ,同施設から中学校に進学した。中学二
年生の時に東京都足立区内に住んでいた父親を頼って母親らとともに転居し,都内
の中学校に転校したが,方言を直すことができず,これを理由にいじめを受けるな
どしたため,次第に不登校の状態となり,不良仲間との交友を深めた末,窃盗等の
非行を行って教護院に送致され,そこで義務教育を修了した。出院後,都内で自転
車組立工として働いたが長続きせず,再び窃盗の非行を反復したことで中等少年院
送致となり,退院後も,正業に就くことなく,的屋等の職を転々とする不安定な生
活を送り,昭和四七年九月には,窃盗や詐欺等の罪で懲役三年の刑を受けて服役
し,さらに,その仮出獄期間中に犯した窃盗罪等により昭和五〇年六月に懲役二年
六月の刑を受けて再び服役した。昭和五二年一一月に仮出獄を許されたが,翌五三
年一月,服役中に知り合った友人の父親方を訪れて借金の申入れをし,これを断ら
れたことから押し問答の末同人の首を絞めて殺害し,現金等を強取するという事件
を引き起こし,同年九月,強盗殺人等の罪により無期懲役に処せられ,岐阜刑務所
に服役した。
2 一九年余り後の平成一〇年一月二九日に岐阜刑務所を仮出獄した被告人は,特
別遵守事項として,他人の金品に手を出さないことや人命の尊さを自覚し,粗暴な
行いをしないことはもとより,仕事のより好みをせず,定職に就いて辛抱強く働く
こと,飲酒を固く慎むことなどを指示され,約一か月間,岐阜市内の更生保護会に
居住した後,同年三月から東京都足立区内の実母宅に転居し,同年四月中旬ころか
らは,同区内のゴム製品加工会社に工員として勤務するようになった。同年九月か
らは,付近のeハイツに転居し,単身生活をしながら工員として働いていたが,同
月中旬ころ,勤務先の社長と口論して退職し,同年一〇月中旬からは,都内の食品
包装会社に勤務するようになった。
3 被告人は,保護司の指導を受けつつ実母宅で生活を始めた直後ころから,仮出
獄の際作業賞与金等として受け取った五〇万円余りの金を資金に,Gと称して,自
宅近くの居酒屋「o」に飲みに行くようになり,そこでDと知り合い,平成一〇年
夏ころからは,g駅前にあるスナック「h」にも客として通うようになり,そこ
で,「みさお」の源氏名を用い,アルバイトでホステスをしていた被害者と知り合
った。被告人は,飲み仲間のDを伴うなどして度々「h」に出かけ,被害者を指名
して遊興し,被害者も,被告人のことを「おじちゃん」とか,「たかちゃん」など
と呼び,親しく言葉を交わす間柄となっていた。
4 被告人は,「h」において,姉の夫が警備員として勤めている銀行の小物をホ
ステスに配るなどして,自分が銀行の大口の預金者であるかのように装い,一回の
飲食に三,四万円くらい費消するなどして羽振りよく振る舞い,ほどなくして仮出
獄時に所持していた作業賞与金を使い果たし,サラ金や姉夫婦から借金を重ねるよ
うになったほか,年末にはそうした借金を整理するのに必要である旨偽って,年金
暮らしの実母からも三〇万円を引き出して生活費に充てるなどして年を越し,新年
早々,被害者を誘って行きつけの「o」に飲みに出かけようと考えたことが発端と
なり,判示の経緯で本件各犯行を犯した。
 このように,被告人は,幼いころから手癖が悪く,成人に達して後も一向に改善
する兆しを見せず,窃盗罪などの前科を重ねた末,昭和五三年九月には遂に強盗殺
人という大罪を犯し,無期懲役に処せられて長期間刑務所に服役することとなった
もので,受刑期間は,通算すると二三年半にも及んでおり,被告人は,成人後の人
生の大半を矯正施設で過ごしてきたということになる。特に右無期懲役刑に服した
際には,自己のそれまでの行状について強い自覚と反省を迫られたはずであるにも
かかわらず,仮出獄後ほどなくして借金をしてまで居酒屋やスナックで羽振りよく
振る舞うなど虚飾に満ちた享楽的な生活を送り,挙げ句の果てに,社会復帰してわ
ずか一年足らずでまたしても人命を奪う大罪を犯したものであって,被告人の犯罪
性向には相当に根深いものがあるといわざるを得ない。
三 そこで,本件犯行の動機,経緯を検討するに,被告人は,「刑務所という所は
規則ずくめで,ちょっとしたことでもいちいちとがめ立てされて懲罰などの処分を
受けることになるので,常に神経をぴりぴりさせ,神経をすり減らしながら気を張
って生活しなければならず,あんな辛い生活には二度と戻りたくなかったので,ふ
だんから,腹が立っても我慢し,酔いつぶれて警察に保護されることもないように
と,いつもそのことばかり念頭に置いて行動していた,犯行当日は,判示犯行に至
る経緯及び弁護人の主張に対する判断の項二記載のとおりの経緯で,警察に通報さ
れると仮出獄が取消しになるなどと考えてやむなく被害者を殺害し,さらに犯行発
覚を恐れて死体の損壊・遺棄に及んだ」旨自供しているところであり,被害者の歓
心を買おうとして甘言,虚言を弄し,いまだ社会経験の乏しい被害者にこれを信じ
込ませた挙げ句,本件を引き起こしたものであって,本件は極めて自己中心的で身
勝手な犯行であるといえる。
四 殺害の態様をみると,被告人は被害者が絶命するまでその頸部を強く絞め続け
たものであって,強固な確定的殺意に基づく冷酷で残忍な犯行であることは明らか
であり,その後の死体損壊・遺棄の犯行についてみても,犯跡を隠蔽するため,遺
体を処分しようとしたものの,自動車を持っていなかったため,自転車で運べるよ
う頭部や両手足を切断した上,胴体の肉を削ぎ,内蔵を取り出して切り刻むなどし
て遺体を損壊し,これらをビニール袋に小分けして入れ,自転車で前後数回にわた
って河川敷に運び,袋から取り出して川に投げ入れて遺棄したというのであり,被
告人の供述する犯行状況は極めて凄惨で,戦慄すら覚えるものであり,悪逆非道と
いうべく,そこには死者に対する畏敬の念は微塵も感じられないといわなければな
らない。
五 被告人は,犯行後,被害者の兄及び友人から被害者の行方を尋ねられた際,タ
クシー代として二万円渡して別れたのでその後のことは分からないなどと言い,ま
た,Dに対し,被害者から電話があったら,小遣いが少なくてごめんねと言ってお
いてくれなどと,被害者がさも生きているかのような話をしたり,「o」の従業員
に対し,自分は関係ない,自分は金を貸しただけで,こっちが被害者だなどと事件
と無関係であることを装うなど,犯跡隠蔽のために様々な虚言を弄しており,公判
開始後においても,前記のとおり,突如供述を変遷させ,あたかも本件が自己の身
を守るためのやむを得ない行為であったかの如き不合理な弁解を言い募り,自己の
刑責を軽減することに汲々とするばかりで,本件について真に反省しているのかど
うか誠に疑わしい言動をしており,犯行後の被告人の情状も全く芳しくない。
六 被害者は,当時,結婚も考えていた交際相手を有する未だ二一歳の若い女性で
あり,前記のような些細な原因から,突然,被告人の手にかかり,結婚して幸せな
家庭を築くなどの夢を実現することなく命を奪われてしまったばかりでなく,無惨
にも遺体をばらばらにされて川に投棄されたものであって,かかる被害者の無念さ
は筆舌に尽くし難いものがある。また,妻と離婚した後,男手一つで,周囲から働
き者で存在感の大きな娘と評されるようになるまで被害者を育ててきた父親の怒
り,悲しみは極めて深く,家業を手伝い,一生懸命働いてくれる気持ちの優しいと
てもよい子だった,できることならこの手で被告人を殺してやりたいなどと供述す
る中に,愛娘の命をこのような形で奪われてしまった肉親のやりきれない気持ちを
くみ取ることができる。また,共にアパート生活を送り,被害者が姿を消した後必
死にその行方を捜した被害者の兄もまた被告人に対する極刑を望んでいるほか,被
害者の交際相手やその友人らも一様に被告人に対する厳罰を望んでいる状況にあ
る。しかしながら,現在に至るまで,被告人及びその家族から被害者の遺族に対す
る実質的な慰謝の措置は何らとられていない。
七 以上の事情を総合すると,被告人を死刑に処すべきであるとの検察官の意見
も,十分傾聴に値するといわなければならない。
  しかしながら,死刑は究極の刑罰であって,犯行の罪質,動機,態様ことに殺
害の手段方法の執拗性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族
の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考
察したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見
地からも極刑がやむを得ないと認められる場合に初めて死刑の選択が許されるもの
であるところ,本件は,被害者一名に対する殺人と死体損壊・遺棄の事案であり,
犯行が,強盗殺人罪等により無期懲役に処せられ,その仮出獄期間中に犯された点
を考慮しても,これまでに死刑が選択された案件と比較すると,一義的に死刑を選
択すべきことが明白である事案とまではいい難い面があり,一から六までに列挙し
た本件に関する悪しき情状事実の中に,被告人にとって有利に斟酌すべき部分が全
くないのかどうかについて,十分慎重に吟味をする必要がある。そこで,検討する
と,
 1 仮出獄後の被告人の生活態度は,先にみたとおりのものであり,検察官はこ
の点をとらえて,被告人には前科である強盗殺人の犯行についての真摯な自覚と反
省がないと糾弾するが,被告人が社会生活になじめず,自立して生計を営むことが
およそ不可能というほかないような日常生活を送っていたことについては,被告人
が生い立ちに恵まれず,家庭において愛情に基づく基本的なしつけを受けることが
ないままに幼少期のかなりの期間を施設で過ごした点や,成人して後もその大半を
刑務所で過ごしてきたことなどを考慮すると,ある程度やむを得ない面があり,そ
の責任を挙げて被告人の自覚と反省の欠如に帰せしめることはできないように思わ
れる。実際,この間,被告人は全く無為徒食の生活を送っていたというわけではな
く,平成一〇年四月中旬から同年九月中旬まではゴム製品のプレス加工会社で働
き,そこを辞めさせられた後も,同年一〇月初めから本件で逮捕されるまでは食品
包装会社での夜勤の仕事を続けており,そこでの仕事ぶりも評価されるものであっ
て,被告人にはなお社会人としてまじめに生きていこうとする意欲も窺われるので
ある。
 2 検察官は,また,本件各犯行は被告人の自堕落で享楽的な生活状況と密接不
可分に結びついた犯行であり,いわば自ら招いた事態であって,責任はすべて被告
人にあるとして被告人を厳しく非難する。本件が発生した原因を考察する際,果た
して被害者が執拗に金を出すよう被告人に迫ったのかどうかについては,被告人の
供述を全面的に信用することに一抹の疑問がないわけでもないが,被害者の兄Eの
供述によると,被害者は,当日,昼ころ電話で話をした後,「おじちゃんとおばち
ゃんの所に行ってお年玉をもらってくる。もうそろそろお金を貯めて家を出る。彼
氏と早く一緒に住みたい。金を貯めて部屋を借りたり,車の免許も欲しい。」など
と話していたというのであり,被告人の供述に出てくる被害者の話とほぼ一致して
いることにかんがみると,右の点に関する被告人の供述は基本的に信用してよいと
考えられる。そうすると,証拠上,本件殺人の犯行は,右の事態に引き続く被害者
の予想外の言動に誘発された偶発的犯行といわざるを得ないのであって,全証拠を
精査しても,被告人が強盗や強姦など何らかの犯罪的意図に基づいて被害者を自宅
に誘い入れたことや,殺害を事前に計画していたことなどを窺わせる証拠は全く見
いだすことはできないというほかない。
 3 検察官は,被告人の性格,行動傾向などについて,冷酷残忍な危険人物であ
り,反社会的な性格と改善更生し難い犯罪性向の発現は著しく,被告人には人間性
のかけらも見られないと非難する。確かに,本件各犯行中,ことに死体損壊・遺棄
の犯行については,検察官の指摘がよく当てはまるともいえるが,しかし,他方,
被告人は,殺人が発覚することにより,仮出獄が取り消されることを恐れ,遺体の
処分に困り果てた結果右犯行を犯したというのであり,いわば追いつめられた心理
状態の中で犯したという側面を否定することはできないのであって,右犯行を犯し
たことから直ちに被告人が冷酷残忍で人間性を欠くと断ずるのは相当でない。
   ところで,被告人の精神鑑定を担当した医師Fは,鑑定書の中で,被告人に
ついて,「意思欠如を中核とし,これに顕示性や爆発性が二次的に加わった異常性
格者であり,自己に無関心であったり,自己の存在を尊重しない相手に対しては心
を閉ざして無関心を装い,強い甘え欲求を抑圧しているが,自己に親切にしてくれ
たり共感してくれたりすると感じられる相手には急激な心理的退行(感情転移)を
起こして激しい依存性や親和欲求を抱き,それが満たされないとみると,極端に強
い攻撃性を爆発させる暴力性を備えた窃盗累犯者によく見られるタイプの人間であ
る。」と説明した上で,「被告人には,典型的な凶悪犯・重大犯罪の累犯者などに
多い情性欠如の兆候は余り認められず,治療者と治療環境に恵まれれば,将来は性
格の矯正も不可能ではない。」としているのであり,当公判廷においても,「攻撃
性のエネルギーが生物学的に低下するということと,人格が次第に成熟してくると
いうことで,爆発性というのは年を取れば取るほど弱くなると考えられる。被告人
の場合も,これから何年間か,理解のある治療者に恵まれ,そのカウンセリングな
どを通して人格の成熟を遂げることができれば,同じような状況にまたなっても,
殺すまでのことはしないだろうという予測はできる。」旨証言しているのであっ
て,被告人の犯罪性向が,検察官が指摘するほどに議論の余地なく改善不可能なほ
どにまで進んでいるものと断じるのは,当を得ない(なお,検察官は,論告中にお
いて,本件各犯行の性格について,嗜虐的,猟奇的側面を指摘するが,証拠上被告
人がそのような意図からこれらの犯行に及んだことを窺わせるものはないといわざ
るを得ない。)。
 4 さらに,検察官は,被告人には本件に対する一片の反省悔悟の情も認められ
ないと断定するが,捜査段階の供述調書によると,被告人は,「被害者がぐったり
するのを見て,取り返しのつかないことをしてしまったと悔やんだが,起こってし
まったことはどうしようもなく,やむを得ず遺体を解体することになったものの,
作業途中,何でこんなことをしなければならない羽目になったのか,自分の人生は
何だったんだという考えが頭を巡り,その後の一〇日間くらいは満足に食事も摂れ
ず,馬鹿なことをしたと自分を責めたことで顔がげっそりやせた」旨供述してお
り,この点は関係人の供述や被告人の精神分析の結果によってもある程度裏付けら
れているのであって,そこに,本件を後悔する被告人の人間的な一面を垣間見るこ
とも不可能ではないし,また,被告人は,当公判廷においても,被害者を殺害した
事実自体は認めて謝罪の言葉を述べてはいるのであって,本件について何らの反省
の態度も示していないわけではないといえる。
八 右七に記載した観点を踏まえ,改めて被告人に科すべき刑の内容について検討
してみると,本件は誠に悪質重大な事案であって,被告人の刑事責任は極めて重い
ということができるが,いまだ極刑を選択することが真にやむを得ない事案とまで
はいうことができないので,被告人に対しては無期懲役刑をもって臨むのが相当で
あると判断した。
 よって,主文のとおり判決する。
平成一三年七月三一日
さいたま地方裁判所第二刑事部
(裁判長裁判官 若原正樹,裁判官 大澤 廣,裁判官 田中邦治)
(注)原文縦書

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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