弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人ら敗訴部分を破棄する。
     右部分につき、本件を東京高等裁判所に差戻す。
         理    由
 上告人市長代理人兼子一、同若林信夫、同坂上寿夫、同桑田勝利、同海野普吉の
上告理由第一点及び上告人事務所長指定代理人島田信次、同関哲夫、同岡本正の上
告理由第一点ないし第四点について。
 地方税法三四八条二項一二号所定の「民法第三十四条の法人で学術の研究を目的
とするもの」における「学術の研究」とは、日本学術会議法一〇条に定める区分に
よつて示されるような意味における人文科学及び自然科学の学理的研究並びにその
応用に関する研究をいい、右における「目的とするもの」とは、当該法人の定款又
は寄附行為の目的条項に学術の研究を行う趣旨を掲げ、かつ、その組織、運営及び
活動の実体からみて学術の研究という目的に副つていると認められるものを指し、
また、右「学術の研究を目的とする」法人が学術に関する法人(民法三四条参照)
として文部大臣の設立許可を受けたもののみに限定されるものとはいえない旨の原
審の判断は、正当として是認することができる。そして、原審の確定する事実関係
のもとにおいては、被上告人が民法三四条の法人に該当することは明らかであり、
また、被上告人の寄附行為の目的条項に学術の研究を行う趣旨が示されていて、被
上告人がその実体において学術の研究を目的とするものであると認められる旨の原
審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の拳示す
る証拠関係に照らして是認しえないものではなく(なお、原判決は、被上告人が「
その実体において『学術の研究を目的とするもの』であることを妨げないものとい
うべきである。」と判示しているが〔第一審判決五八丁表参照〕、右の「であるこ
とを妨げない」との判示は、「であると認められる」旨の積極的判断を示している
趣旨であることはその判文上容易に看取しうるところである。)、したがつて、被
上告人が地方税法三四八条二項一二号の「民法第三十四条の法人で学術の研究を目
的とするもの」に該当するとした原審の判断は、肯認するに足りる。しかして、地
方税法七三条の四第一項六号の「民法第三十四条の法人で学術の研究を目的とする
もの」の意義も、同法三四八条二項一二号のそれと同義に解すべきことは明らかで
あるから、被上告人が同法七三条の四第一項六号のそれに該当するとした原審の判
断も、肯認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、
独自の見解に立ち、又は、原審の認定に副わない事実を合わせ主張して原判決を論
難するものであつて、すべて採用することができない。
 前示Dらの上告理由第二点について。
 納税義務の成立、内容は、もつぱら法律がこれを定めるものであつて、課税庁側
と納税者側との間の合意又は納税者側の一方的行為によつて、これを動かすことは
できないというべきである。したがつて、仮に、上告人A市長と被上告人との間の
所論合意に所論のごとき約旨が含まれているとしても、そのことのゆえに、同上告
人のした本件の固定資産税及び都市計画税の賦課処分が当然に適法となるものでな
いことは明らかであり、これと同旨の原審の判断は正当である。そうすると、右合
意の趣旨に関する所論につき判断を加えるまでもなく、論旨は採用することができ
ない。
 前示Dらの上告理由第三点及び前示Fらの上告理由第五点について。
 原審において、被上告人は本件の固定資産がすべて地方税法三四八条二項一二号
及び同法七三条の四第一項六号所定の「その目的のため直接その研究の用に供する
固定資産(不動産)」(以下直接研究用資産という。)に当たる旨の主張をしてい
るとみうること明らかであり、右主張に対し、上告人らがこれを争う旨主張したこ
と、及び右争点につき原審が弁論の全趣旨により被上告人の主張を肯定する旨の判
断をしたことは、所論指摘のとおりである。
 ところが、原審において、被上告人が提出した所論成立に争いのない甲第四九号
証には、本件の固定資産がすべて直接研究用資産に該当するとの被上告人の主張と
矛盾するかのような事実の記載があり、また、上告人A市長が提出した成立に争い
のない乙第三二号証にも、右被上告人の主張事実に疑いを生じさせるような記載が
あることを看取することができるから、原審が、これらの書証の存するにもかかわ
らず、本件固定資産のすべてが直接研究用資産に該当するとの被上告人主張を肯定
する判断をするにあたつては、右書証との関連において首肯するに足りる判断の根
拠を示すべき筋合である。しかるに、この点につき、原判決は、単に弁論の全趣旨
により認める旨を説示する外、何ら首肯するに足りる説示をしていないのであつて、
右の判決は理由不備の違法がある場合にあたるものというべきである。それゆえ、
右論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。
 よつて、右各書証の証明力等前記争点に関し、更に、審理を尽させるため本件を
原審に差し戻すこととし、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判
官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一

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