弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人栗原孝和の上告理由について。
 原審の適法に確定したところによれば、上告人は、受取人兼第一裏書人株式会社
D物産、被裏書人兼第二裏書人E実業株式会社、被裏書人上告人A支店との記載の
ある約束手形及び受取人兼第一裏書人株式会社D物産、被裏書人兼第二裏書人F、
被裏書人兼第三裏書人E実業株式会社、被裏書人上告人A支店との記載のある約束
手形各一通の所持人であるが、右各手形は、被上告人が受取人欄にG電機商品販売
株式会社と記載して振り出したもので、同会社営業所において保管中窃取され、そ
の後何者かによつて受取人欄の記載が株式会社D物産と変造されたというのであり、
原判決は、右事実関係に基づき、変造手形の振出人は変造前の原文言によつて責任
を負うもので、変造手形を変造後に取得した手形権利者は、振出人に対して手形法
一六条による裏書の連続を主張するのみでは足らず、正当な手形債権の取得原因を
主張立証すべきものである旨判断している。
 思うに、手形法一六条一項にいう裏書の連続は、裏書の形式によりこれを判定す
れば足り、約束手形の受取人欄の記載が変造された場合であつても、手形面上、変
造後の受取人から現在の手形所持人へ順次連続した裏書の記載があるときは、右所
持人は、振出人に対する関係においても、同法七七条一項一号、一六条一項により、
右手形の適法な所持人と推定されると解するのが、相当である。同法七七条一項七
号、六九条によれば、変造前の約束手形署名者である振出人は、変造前の原文言に
従つて責任を負うのであるが、右規定は、手形の文言が権限のない者によりほしい
ままに変更されても一旦有効に成立した手形債務の内容に影響を及ぼさない法理を
明らかにしたものであるにすぎず、手形面上、原文言の記載が依然として現実に残
存しているものとみなす趣旨ではないから、右規定のゆえをもつて、振出人に対す
る関係において裏書の連続を主張しえないと解することは相当でなく、当裁判所昭
和三六年(オ)第一一九八号同四一年一一月一〇日第一小法廷判決・民集二〇巻九
号一六九七頁は、本件と事案を異にし、右のように解する妨げとなるものではない。
 したがつて、前記事実関係によれば、本件各手形は、受取人から上告人へ至る裏
書の連続において欠けるところがなく、上告人は、同法一六条一項によりその適法
な所持人と推定されるから、他に手形債権の取得原因を主張立証することなく、振
出人である被上告人に対して手形上の権利を行使しうるものというべきである。そ
れゆえ、右と見解を異にし、上告人が正当な手形債権の取得原因を主張立証すべき
ものであることのみを理由に上告人の請求を排斥した原判決には、前記手形法の規
定の解釈適用を誤つた違法があり、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明ら
かであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、手形法一六
条一項による推定を覆すべき事情の有無について更に審理を尽くさせる必要がある
から、本件を原審に差し戻すのが、相当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己

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