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平成22年4月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10326号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年3月2日
判決
原告ファミリー株式会社
訴訟代理人弁理士角田嘉宏
同古川安航
同山田久就
被告特許庁長官
指定代理人鈴木洋昭
同高木彰
同黒瀬雅一
同小林和男
主文
1特許庁が訂正2009−390072号事件について,平成21
年9月11日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成12年1月17日,発明の名称を「マッサージ機」とする発明
について特許出願をし,平成21年1月23日設定登録(特許第424987
2号)を受け,同年5月27日,特許請求の範囲の訂正(以下「本件訂正」と
いう。)を内容とする訂正審判請求(訂正2009−390072号事件)を
した。
特許庁は,平成21年9月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年9月28日,原告
に送達された。
2特許請求の範囲と訂正事項
(1)特許請求の範囲
本件発明に係る特許請求の範囲の請求項1,2の記載は,次のとおりであ
る(このうち,請求項2に係る発明を「本件訂正前発明2」という。)。
「【請求項1】マッサージ機本体(2)と,使用者にマッサージを施すよう
に当該マッサージ機本体(2)に設けられていると共に使用者の身長方向に
移動自在な施療子(14)と,当該施療子(14)を操作して任意の位置に
位置決めすることができる位置操作部(49,50)を有する操作装置(4
0)と,を備えたマッサージ機において,
前記位置操作部(49,50)の操作によって決められた施療子(14)
の位置をマッサージの基準位置として記憶する記憶部(39)を備え,
前記施療子(14)の位置決めを行うための一定の時間を設定しておき,
その時間内に前記施療子(14)を移動させ,その時間が経過した時点での
前記施療子(14)の位置を検出しその位置を基準位置として自動的に前記
記憶部(39)に記憶させることを特徴とするマッサージ機。
【請求項2】
前記基準位置は肩位置であることを特徴とする請求項1に記載のマッサー
ジ機。」
(2)訂正事項
ア訂正事項1:特許請求の範囲の減縮
請求項1の「位置操作部(49,50)」を「上昇スイッチ(49)及
び下降スイッチ(50)」に訂正する(訂正後の請求項1の発明を「本件
訂正後発明1」という。)。
イ訂正事項2:特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明
請求項2の「前記基準位置は肩位置であることを特徴とする請求項1に
記載のマッサージ機。」を「マッサージ機本体(2)と,使用者にマッサ
ージを施すように当該マッサージ機本体(2)に設けられている共に使用
者の身長方向に移動自在な施療子(14)と,当該施療子(14)を操作
して任意の位置に位置決めすることができる位置操作部(49,50)を
有する操作装置(40)と,前記位置操作部(49,50)の操作によっ
て決められた施療子(14)の位置をマッサージの基準位置として記憶す
る記憶部(39)と,を備え,
施療子(14)を移動させた後,前記操作装置(40)への所定の操作
を施すと,その所定の操作が行われたときの前記施療子(14)の位置を
基準位置として検出する,マッサージ機において,
前記所定の操作を行わなくとも,前記施療子(14)を移動させて位置
決めを行うために予め設定された一定の時間が経過すると,前記施療子
(14)の位置を検出しその位置を基準位置として自動的に前記記憶部
(39)に記憶させ,
前記基準位置は肩位置であることを特徴とするマッサージ機。」に訂正
する(訂正後の請求項2の発明を「本件訂正後発明2」という。)。
3審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件訂正前発明2と本件訂正後
発明2を対比すると,①本件訂正前発明2は,施療子の位置決めを行うための
一定の時間を設定しておき,その時間内に施療子を移動させ,その時間が経過
した時点での施療子の位置を基準位置としているのに対し,②本件訂正後発明
2は,操作装置への所定の操作を施すと,その所定の操作が行われたときの施
療子の位置を基準位置とし,また,所定の操作を施さないと,施療子を移動さ
せて位置決めを行うために予め設定された一定の時間が経過すると,施療子の
位置を検出しその所定位置を基準位置とするものであり,本件訂正後発明2に
おいては,操作装置への所定の操作を施す場合には,一定の時間が経過した時
点での施療子の位置を検出しその位置を基準位置とするものでないから,本件
訂正後発明2は,本件訂正前発明2の「一定時間経過による基準位置検出」に
「所定操作による基準位置検出」が単に付加されたものではなく,特許請求の
範囲を減縮するものではなく,また,本件訂正前発明2は特段不明瞭な記載や
誤記を含むものではないから,明瞭でない記載の釈明や誤記又は誤訳の訂正で
もなく,さらに,本件訂正後発明2は本件訂正前発明2とは明らかに異なる構
成であると共に,その下位概念発明とはいえず,本件訂正前発明2を別異の発
明に実質上変更するものであるというものである。
第3取消事由に係る原告の主張
審決には,以下のとおり,(1)特許法126条1項1号(特許請求の範囲の
減縮)の解釈適用の誤り(取消事由1),(2)特許法126条4項(実質上特
許請求の範囲を拡張,変更することの禁止)の解釈適用の誤り(取消事由2)
がある。
1特許法126条1項1号(特許請求の範囲の減縮)の解釈適用の誤り(取消
事由1)
(1)本件訂正後発明2は,一定の時間が経過した場合に,施療子の位置を検
出するマッサージ機,及び,操作装置への所定の操作を施した場合に施療子
の位置を検出するマッサージ機のうち,いずれか一方のマッサージ機である
という択一的な発明でないことは明らかである。本件訂正後発明2は,一定
の時間が経過した場合に施療子の位置を検出し,かつ,操作位置への所定の
操作を施した場合に施療子の位置を検出する1つのマッサージ機を示してい
る。すなわち,本件訂正前発明2である「一定時間経過による基準位置検出
に基づく制御」を行う機能を備えたマッサージ機の中から,さらに「所定操
作による基準位置検出に基づく制御」を行う機能を備えたマッサージ機へと
範囲を絞るものである。
よって,本件訂正は,択一的記載要素の追加には該当せず,発明特定事項
の直列的付加に該当し,特許請求の範囲を減縮するものである。
(2)審決は,本件訂正前発明2は,「一定時間経過による基準位置検出」を
する構成であるのに対し,本件訂正後発明2は,「所定操作による基準位置
検出」を行った場合,もはや「一定時間経過による基準位置検出」を行わな
い構成であるから,特許請求の範囲の減縮に当たらないとしている。
確かに,「所定操作による基準位置検出」と「一定時間経過による基準位
置検出」は時間的に同時に行われることはないが,だからといっていずれか
一方の機能が失われるわけではなく,本件訂正後発明2は,あくまで一定の
時間が経過した場合に施療子の位置を検出し,かつ,操作装置への所定の操
作を施した場合に施療子の位置を検出する1つのマッサージ機を示してい
る。審決の判断は誤りである。
2特許法126条4項(実質上特許請求の範囲を拡張,変更することの禁止)
の解釈適用の誤り(取消事由2)
(1)択一的記載要素の追加に当たる訂正とは,訂正前には「Aはa1であ
る」としていたものを,訂正後には「Aはa1又はa2である」とするよう
な場合をいう。この場合,訂正後の特許請求の範囲には,「a1」という構
成を備えた発明と「a2」という構成を備えた発明の2つの発明が含まれる
ことになり,特許請求の範囲に含まれる発明の内容が実質的に拡張すること
になるから,第三者に不測の不利益を与え,訂正は認められないとされてい
る。
一方,発明特定事項の直列付加に当たる訂正とは,訂正前には「A」とい
う構成を備えた発明を,訂正後には「A+B」という構成を備えた発明とす
るような場合をいう。このような訂正は,第三者に不測の不利益を生じさせ
ず,特許請求の範囲の減縮に当たるため,訂正は認められる。
本件訂正は,発明特定事項を付加するものであって,特許請求の範囲を拡
張するものではない。
(2)被告の反論に対し
被告は,訂正後発明2は訂正前発明2に新たな目的を追加したものである
から,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものであると主張する。
一般に,特許請求の範囲の減縮の場合には,減縮によって構成を限定した
ことに基づく効果が顕在化するから,その効果を発明の具体的な目的として
把握するならば,特許請求の範囲を減縮するすべての訂正が新たな目的を追
加したことになり,特許法126条1項1号を無意味なものとすることにな
るから,目的の範囲の逸脱を実質上の変更とみる解釈は採用すべきでない。
仮に,目的の追加を実質的変更とみるとの解釈に立ったとしても,当該目
的が,明細書に記載がなく,また,記載から推知もできないような場合に限
り「目的の範囲を逸脱」に当たると解すべきである。本件訂正前発明2は,
「一定時間経過による基準位置検出に基づく制御」を行うことによって基準
位置決定スイッチの操作(所定操作)が不要になるという目的・効果を有す
るものであり,この目的・効果がより明確に導かれるように,「所定操作に
よる基準位置検出に基づく制御」の構成を加えたものが本件訂正後発明2で
あるから,本件訂正は明細書には記載もなく推知もできないような目的に変
更されているとはいえず,実質的変更には当たらない。
以上のとおり,本件訂正は適法な訂正であり,審決の判断は誤りである。
第4被告の反論
1特許法126条1項1号(特許請求の範囲の減縮)の解釈適用の誤り(取消
事由1)に対し
(1)本件訂正前発明2は,基準位置を記憶部に記憶させることに関して,
「一定時間経過による基準位置検出に基づく制御」のみを行う発明である。
他方,本件訂正後発明2は,「操作装置への所定の操作を施す場合に『所
定操作による基準位置検出に基づく制御』を行うこと」と,「前記操作装置
への所定の操作を行わない場合に『一定時間経過による基準位置検出に基づ
く制御』を行うこと」を択一的に行う発明である。このうち,「所定操作に
よる基準位置検出に基づく制御」を行う場合は,「一定時間経過による基準
位置検出に基づく制御」を行わない。
したがって,本件訂正後発明2は,本件訂正により,新たに上記「所定操
作による基準位置検出に基づく制御」との構成要件を追加することによっ
て,基準位置の決定を択一的に行えるようにしたものであり,特許請求の範
囲の減縮には当たらない。
(2)本件明細書の発明の詳細な説明の記載によっても上記の点は明らかであ
る。
ア本件明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
「【0011】・・・
さらに他の側面から見た本発明は,マッサージ機本体に使用者の身長方向
に移動自在に設けられた位置決め体を備えていると共に当該位置決め体の
移動が制御部からの指令でコントロールされるマッサージ機であって,位
置決め体の基準位置を決定する操作を行うための基準位置決定操作部が設
けられ,前記制御部は,当該基準位置決定操作部が操作されたときの位置
決め体の位置を基準位置として検出することを特徴とするマッサージ機で
ある。
【0012】
この場合,移動自在な位置決め体が,ある位置にあるときに,基準位置決
定操作部を操作することで,その位置が制御部によって基準位置として検
出される。基準位置が,例えば肩位置であれば,肩位置に施療子があると
きに決定操作部を操作すれば,その位置が肩位置として検出され,制御部
は,その肩位置の情報に基づいてマッサージを行うことができる。
なお,基準位置決定操作部は,基準位置を決定するためだけの専用スイッ
チとすることもできるが,例えば,マッサージの開始スイッチなど他の機
能のスイッチと兼用することもできる。マッサージ開始スイッチと兼用し
た場合,開始スイッチを操作することで,記憶部に基準位置が検出される
と共にマッサージが開始される。
【0013】
さらに,位置操作部や基準位置決定操作部は,物理的に存在するスイッチ
である必要はなく,例えば,タッチパネル方式の画面の指示に基づいてパ
ネル上に触れるものなどであってもよい。
また,記憶部へ基準位置を記憶させるには,例えば,肩位置設定のための
一定の時間を設定しておき,その時間内に位置決め体を移動させ,その時
間が経過した時点での位置決め体の位置を基準位置として自動的に記憶部
に記憶させるということもできる。この場合基準位置決定スイッチの操作
が不要になる。」(下線部は被告が付したものである。)
イ前記のとおり,本件明細書には,基準位置決定操作部について,専用ス
イッチとすること,マッサージの開始スイッチなど他の機能のスイッチと
の兼用とすること,パネル上に触れること,一定の時間を設定しておきそ
の時間が経過した時点での位置決め体の位置とすることが記載されてい
る。そのうち,専用スイッチとすること,マッサージの開始スイッチなど
他の機能のスイッチとの兼用すること及びパネル上に触れることが「所定
操作による基準位置検出に基づく制御」に関する記載であり,一定の時間
を設定しておきその時間が経過した時点での位置決め体の位置とすること
が「一定時間経過による基準位置検出に基づく制御」に関する記載である
ことは明らかである。
また,本件明細書には,「肩位置設定のための一定の時間を設定してお
き,その時間内に位置決め体を移動させ,その時間が経過した時点での位
置決め体の位置を基準位置として自動的に記憶部に記憶させるということ
もできる。この場合基準位置決定スイッチの操作が不要になる。」と記載
され,基準位置決定スイッチの操作をすると,「一定時間経過による基準
位置検出に基づく制御」を行わないことが示されている。
以上のとおり,本件明細書には,基準位置決定操作部について,「所定
操作による基準位置検出に基づく制御」と「一定時間経過による基準位置
検出に基づく制御」とが同等のものかつ同時に行わないものとして記載さ
れている。
そうすると,本件訂正前発明2は,「所定操作による基準位置検出に基
づく制御」に関するものを除外し,「一定時間経過による基準位置検出に
基づく制御」に関するもののみを選択したものである。
他方,本件訂正後発明2は,「一定時間経過による基準位置検出に基づ
く制御」と,「所定操作による基準位置検出に基づく制御」との両方を択
一的に有する構成としたものである。
したがって,本件訂正後発明2は,本件訂正前発明2の「一定時間経過
による基準位置検出に基づく制御」を行うものに「所定操作による基準位
置検出に基づく制御」を行うものを択一的に追加したものである。
2特許法126条4項(実質上特許請求の範囲を拡張,変更することの禁止)
の解釈適用の誤り(取消事由2)に対し
(1)本件訂正は,前記1のとおり,本件訂正前発明2に択一的記載の要素を
追加するものであり,特許請求の範囲を拡張,変更するものである。
(2)また,本件訂正は,本件訂正前発明2にはない新たな目的を追加するも
のである。
すなわち,本件訂正前発明2は,訂正前明細書の【0013】に「記憶部
へ基準位置を記憶させるには,例えば,肩位置設定のための一定の時間を設
定しておき,その時間内に位置決め体を移動させ,その時間が経過した時点
での位置決め体の位置を基準位置として自動的に記憶部に記憶させるという
こともできる。」と記載されていているように,一定の時間が経過した時点
での位置決め体の位置を基準位置として自動的に記憶部に記憶し,しかも基
準位置決定スイッチの操作を不要にしようとするものである。
これに対し,本件訂正後発明2は,訂正前明細書の【0009】に「使用
者が位置操作部を手動操作して,任意の位置に施療子を位置決めできるの
で,例えば,自分の肩の位置に施療子を位置決めすれば,その位置が肩位置
として記憶部に記憶される。このとき,手動で位置決めすることで,正確な
肩位置の設定が行える。」と記載されているように,使用者が位置操作部を
手動操作して位置決めすれば,その位置が基準位置として記憶部に記憶さ
れ,一定の時間が経過するまで待つことなく,所望時に検出し,直ちにマッ
サージを開始しようとするものである。
そうすると,本件訂正後発明2は,「所定操作による基準位置検出に基づ
く制御」との構成要件を追加することにより,「使用者が位置操作部を手動
操作して位置決めすれば,その位置が基準位置として記憶部に記憶され,直
ちにマッサージを開始することができる」という,本件訂正前発明2にはな
い新たな目的を追加するものであって,本件訂正前発明2を別異の発明に実
質上変更するものである。
審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,審決が,本件訂正後発明2について「操作装置への所定の操作を
施す場合に『所定操作による基準位置検出に基づく制御』を行うこと」及び「前
記操作装置への所定の操作を行わない場合に『一定時間経過による基準位置検出
に基づく制御』を行うこと」を択一的に行う発明であるとして,本件訂正前発明
2を減縮したものではないなどとした点には誤りがあり,同誤りは,審決の結論
に影響を及ぼすものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
本件訂正前発明2と本件訂正後発明2の各特許請求の範囲(以下,便宜上「発
明の技術的範囲」との語を用いる場合がある。)について対比する。
1事実認定
(1)本件訂正前発明2について
本件訂正前発明2は,以下のとおりである。これを構成ごとに分説する
と,以下のとおりとなる(注請求項1を引用する形式を書き改めた。)。
アマッサージ機本体(2)と,使用者にマッサージを施すように当該マッ
サージ機本体(2)に設けられていると共に使用者の身長方向に移動自在
な施療子(14)と,当該施療子(14)を操作して任意の位置に位置決
めすることができる位置操作部(49,50)を有する操作装置(40)
と,を備えたマッサージ機において,
イ前記位置操作部(49,50)の操作によって決められた施療子(1
4)の位置をマッサージの基準位置として記憶する記憶部(39)を備
え,
ウ前記施療子(14)の位置決めを行うための一定の時間を設定してお
き,その時間内に前記施療子(14)を移動させ,その時間が経過した時
点での前記施療子(14)の位置を検出しその位置を基準位置として自動
的に前記記憶部(39)に記憶させることを特徴とする
エ前記基準位置は肩位置であることを特徴とするマッサージ機。
(2)本件訂正後発明2について
本件訂正後発明2は,次のとおりである。これを構成ごとに分説すると,
以下のとおりとなる。
アマッサージ機本体(2)と,使用者にマッサージを施すように当該マッ
サージ機本体(2)に設けられていると共に使用者の身長方向に移動自在
な施療子(14)と,当該施療子(14)を操作して任意の位置に位置決
めすることができる位置操作部(49,50)を有する操作装置(40)
と,
イ前記位置操作部(49,50)の操作によって決められた施療子(1
4)の位置をマッサージの基準位置として記憶する記憶部(39)と,を
備え,
ウ施療子(14)を移動させた後,前記操作装置(40)への所定の操作
を施すと,その所定の操作が行われたときの前記施療子(14)の位置を
基準位置として検出する,マッサージ機において,
エ前記所定の操作を行わなくとも,前記施療子(14)を移動させて位置
決めを行うために予め設定された一定の時間が経過すると,前記施療子
(14)の位置を検出しその位置を基準位置として自動的に前記記憶部
(39)に記憶させ,
オ前記基準位置は肩位置であることを特徴とするマッサージ機。
(3)本件明細書の記載
本件明細書の発明の詳細な説明欄には,次の記載がある。なお,本件訂正
において,発明の詳細な記載欄に係る訂正事項はない。
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は肩位置等の身体の位置を
設定できるマッサージ機に関するものである。
【0002】【従来の技術】使用者の身長に応じて適切なマッサージを行う
ため,使用者毎に異なる肩位置を予め測定等する技術が各種提案されてい
る。例えば,椅子型のマッサージ機において,背もたれ内の施療子を自動的
に上から下に移動させ,施療子が肩に当たったときに施療子にかかる負荷を
検出し,負荷が検出された位置を肩位置として自動的に検出するものがある
(従来技術1)。
【0003】また,シンプルなものでは,肩位置の自動検出を行うのではな
く,予め用意された幾つかの肩位置の候補の中から,使用者が手動操作で自
分の肩の位置に合う候補を選択するものもある(従来技術2)。
【0004】【発明が解決しようとする課題】従来技術1は,簡単に肩位置
が得られるので,一見すると便利であるようにも思えるが,実際には,肩位
置を正確に検出できないという問題がある。すなわち,使用者が背中を丸め
て前かがみになっている場合には,肩が背もたれ部から離れており,肩位置
まで施療子が下りてきても施療子が肩に当たらない。この場合,施療子が身
体と接触するのは肩よりかなり下の位置となり,そのような位置を肩位置と
して誤って検出してしまう可能性がある。」(1頁16行∼2頁17行)
「【0006】このように,従来技術1では,肩位置の検出が自動的に行わ
れるため,肩位置検出が行われていることへの使用者の意識が希薄になり,
肩位置を正確に検出できるように使用者が姿勢を正すということが殆ど期待
できず,結局,正確に肩位置を検出できない。
一方,従来技術2では,使用者が手動操作で自分の肩の位置に合う肩位置
候補を選択するものであるから,使用者が肩位置設定に積極的に関与し,従
来技術1のような問題は少ない。
【0007】しかし,予め設定された幾つかの肩位置候補の中から選択する
のでは,使用者の肩位置にピッタリする肩位置候補があるとは限らず,その
場合,最も近い肩位置候補を選択することになり,肩位置の正確さに欠け
る。
【0008】【課題を解決するための手段】本発明は,このような問題に鑑
みてなされたものであって,より正確に肩位置を設定できるようにするため
に,以下の技術的手段を採用した。すなわち,本発明は,マッサージ機本体
と,使用者にマッサージを施すように当該マッサージ機本体に設けられてい
ると共に使用者の身長方向に移動自在な施療子と,当該施療子を手動操作で
任意の位置に位置決めすることができる位置操作部と,を備えたマッサージ
機において,前記位置操作部の手動操作によって決められた施療子の位置を
基準位置(例えば肩位置)として記憶する記憶部を備えていることを特徴と
するマッサージ機である。
【0009】かかる構成によれば,使用者が位置操作部を手動操作して,任
意の位置に施療子を位置決めできるので,例えば,自分の肩の位置に施療子
を位置決めすれば,その位置が肩位置として記憶部に記憶される。このと
き,手動で正確に位置決めすることで,正確な肩位置の設定が行える。ここ
で,本発明は,「肩位置の設定」だけでなく,身体の他の位置を設定するこ
とにも応用できる。例えば,腰位置を基準位置として設定し,腰を中心とし
たマッサージを正確に行ったり,肩位置と腰位置の双方を基準位置として設
定できるようにすることで,身体のより正確な形状が得られ,より適切なマ
ッサージの実現が可能になる。(以上,2頁27行∼3頁5行)
【0010】・・・また,他の側面から見た本発明は,マッサージ機本体
と,使用者の身長方向に移動自在に当該マッサージ機本体に設けられた位置
決め体と,当該位置決め体を手動操作で任意の位置に位置決めすることがで
きる位置操作部と,を備えたマッサージ機であって,前記位置操作部の手動
操作によって決められた位置決め体の位置を基準位置として記憶する記憶部
を備えていることを特徴とするマッサージ機である。
【0011】これは,基準位置を決めるための位置決め体は,マッサージを
行う施療子とするのが好適であるが,施療子ではない位置決め用の位置決め
体を設けても良いとの趣旨である。さらに他の側面から見た本発明は,マッ
サージ機本体に使用者の身長方向に移動自在に設けられた位置決め体を備え
ていると共に当該位置決め体の移動が制御部からの指令でコントロールされ
るマッサージ機であって,位置決め体の基準位置を決定する操作を行うため
の基準位置決定操作部が設けられ,前記制御部は,当該基準位置決定操作部
が操作されたときの位置決め体の位置を基準位置として検出することを特徴
とするマッサージ機である。
【0012】この場合,移動自在な位置決め体が,ある位置にあるときに,
基準位置決定操作部を操作することで,その位置が制御部によって基準位置
として検出される。基準位置が,例えば肩位置であれば,肩位置に施療子が
あるときに決定操作部を操作すれば,その位置が肩位置として検出され,制
御部は,その肩位置の情報に基づいてマッサージを行うことができる。な
お,基準位置決定操作部は,基準位置を決定するためだけの専用スイッチと
することもできるが,例えば,マッサージの開始スイッチなど他の機能のス
イッチと兼用することもできる。マッサージ開始スイッチと兼用した場合,
開始スイッチを操作することで,記憶部に基準位置が検出されると共にマッ
サージが開始される。
【0013】さらに,位置操作部や基準位置決定操作部は,物理的に存在す
るスイッチである必要はなく,例えば,タッチパネル方式の画面の指示に基
づいてパネル上に触れるものなどであってもよい。また,記憶部への基準位
置を記憶させるには,例えば肩位置設定のための一定の時間を設定してお
き,その時間内に位置決め体を移動させ,その時間が経過した時点での位置
決め体の位置を基準位置として自動的に記憶部に記憶させるということもで
きる。この場合基準位置決定スイッチの操作が不要になる。」(以上,3頁
6行,3頁12行∼43行)
2判断
(1)本件訂正前発明2及び本件訂正後発明2は,いずれも,マッサージ機に
おいて,より正確に肩位置を設定できるようにするために,マッサージ機本
体と,使用者にマッサージを施すように当該マッサージ機本体に設けられて
いると共に使用者の身長方向に移動自在な施療子と,当該施療子を操作して
任意の位置に位置決めすることができる位置操作部とを備え,前記位置操作
部の操作によって決められた施療子の位置を基準位置(肩位置)として記憶
する記憶部を備えていることを特徴とするマッサージ機である。
そして,本件訂正後発明2は,本件訂正前発明2に対して,「施療子(1
4)を移動させた後,前記操作装置(40)への所定の操作を施すと,その
所定の操作が行われたときの前記施療子(14)の位置を基準位置として検
出する,マッサージ機において,」(本件訂正後発明2のウ)との構成が付
加されたものである。
ところで,特許請求の範囲の記載において「構成」が付加された場合,付
加された後の発明の技術的範囲は,付加される前の発明の技術的範囲と比較
して縮小するか又は明りょうになることは,説明を要するまでもない。本件
において,本件訂正後発明2記載の特許請求の範囲に属するマッサージ機
は,構成アないし構成オのすべてを具備するものに限定される。本件訂正前
発明2では,何らの限定がされていなかったものに対して,本件訂正後発明
2では,「施療子(14)を移動させた後,前記操作装置(40)への所定
の操作を施すと,その所定の操作が行われたときの前記施療子(14)の位
置を基準位置として検出する,マッサージ機において,」との構成を有する
ものに限定されたのであるから,これに伴って,その技術的範囲が縮小する
か又は明りょうになることは,当然である。
(2)この点,被告は,本件訂正後発明2は,「所定操作による基準位置検出
に基づく制御」を行うと,もはや「一定時間経過による基準位置検出に基づ
く制御」を行わないから,本件訂正前発明2と比較して択一的記載であり,
特許請求の範囲の減縮に当たらないと主張する。
被告の主張は,発明の技術範囲の解釈についての誤りに由来するものであ
って,到底採用できるものではない。
確かに,マッサージ機の使用者(ユーザ)は,本件訂正後発明2の構成ウ
に係る操作方法を選択することによって,構成エ〔前記施療子(14)を移
動させて位置決めを行うために予め設定された一定の時間が経過すると,前
記施療子(14)の位置を検出する構成〕に係る機能を選択することなく,
位置決めをすることができる。しかし,ユーザが,そのような位置決め方法
を選択することが可能であることは,本件訂正後発明2において,はじめて
可能となるものではなく,本件訂正前発明2においても同様であり,本件訂
正後発明2と本件訂正前発明2とは,その点に関する相違はない(任意の位
置に基準位置を決定することのできる位置操作部が存在することは,本件訂
正前発明2においても同様である。)。
使用者(ユーザ)にとって,本件訂正後発明2の構成ウを選択することに
よって,構成エで示す機能を選択しないことがあり得ることは,本件訂正後
発明2において,構成エを具備しないマッサージ機が,発明の技術的範囲に
含まれること,すなわち,技術範囲が拡大することを意味するものではな
い。
この点の被告の主張は,その前提において採用できない。
3小括
以上のとおりであり,本件訂正は,特許請求の範囲を減縮するものではな
く,また,明りょうでない記載の釈明等に該当せず,本件訂正後発明2は本件
訂正前発明2と異なる発明に実質上変更するものであるとした審決の判断は,
誤りである。なお,任意の位置への位置決めは,肩位置の正確性を期するとい
う本件明細書に記載された目的に沿うものであって,新たな目的を追加したも
のとはいえない。本件訂正は,特許法126条4項にも違反しない。被告は,
その他,縷々主張するが,いずれも理由はない。原告の取消事由は,いずれも
理由がある。
以上によれば,審決の判断は誤りであるから,これを取り消すこととし,主
文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
齊木教朗
裁判官大須賀滋は,填補につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官
飯村敏明

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