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平成23年2月28日判決言渡
平成22年(ネ)第10051号損害賠償請求控訴事件(原審東京地方裁判所
平成18年(ワ)第24088号)
口頭弁論終結日平成22年12月16日
判決
控訴人・被控訴人(第1審原告)株式会社ハイパーキューブ
訴訟代理人弁護士高橋省
被控訴人・控訴人(第1審被告)兼解散会社株式会社インデックス承継人
株式会社インデックス
(変更前の商号株式会社インデックス・ホールディングス)
被控訴人(第1審被告)Y
上記2名訴訟代理人弁護士日野修男
主文
1控訴人・被控訴人(第1審原告)の控訴について
本件控訴を棄却する。
2被控訴人・控訴人(第1審被告)の控訴について
(1)原判決中,被控訴人・控訴人(第1審被告)敗訴部分を取り消す。
(2)控訴人・被控訴人(第1審原告)の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審とも控訴人・被控訴人(第1審原告)の負担とする。
事実及び理由
被控訴人・控訴人(第1審被告)株式会社インデックス・ホールディングスは,
当審係属中の平成22年10月1日,被控訴人・控訴人(第1審被告)株式会社イ
ンデックスを合併し,同社は解散したため,被控訴人・控訴人(第1審被告)株式
会社インデックス・ホールディングスが被控訴人・控訴人(第1審被告)株式会社
インデックスの訴訟手続を受け継ぎ,被控訴人・控訴人(第1審被告)インデック
ス・ホールディングスは,同年12月1日,「株式会社インデックス」に商号変更
した。
本判決における当事者の表記については,以下のとおりとする。すなわち,合併
前の被控訴人・控訴人(第1審被告)株式会社インデックス・ホールディングスを
「被告ホールディングス」と,合併後の被控訴人・控訴人(第1審被告)兼解散会
社株式会社インデックス承継人株式会社インデックスを「被告ホールディングス」
と,合併前の株式会社インデックスを「インデックス」と,控訴人・被控訴人(第
1審原告)を「原告」と,それぞれ表記する。
第1控訴の趣旨
1原告の控訴の趣旨
(1)原判決中,原告敗訴部分を取り消す。
(2)(主位的請求)
ア被告ホールディングス及び被告Yは,原告に対し,更に連帯して33億
7913万3423円及び下記の(ア)から(イ)を控除した金員を支払え。
(ア)別紙1「損害金額」の通し番号1ないし115記載の各「⑯月別損害
額合計」欄記載の金額に対する各「⑰遅延損害金起算日」欄記載の日か
ら,及び,3500万円に対する平成18年11月8日から,それぞれ
支払済みまで年5分の割合による金員。
(イ)115万円に対する平成20年10月24日から支払済みまで年5分
の割合による金員。
イ被告Yは,原告に対し,550万円及びこれに対する平成18年11月
8日から支払済みまで年5分の金員を支払え。
ウ訴訟費用は第1,2審とも被告らの負担とする。
エ仮執行宣言
(3)(予備的請求)
ア被告ホールディングスは,原告に対し,33億4528万3423円及
び別紙1「損害金額」の通し番号1ないし115記載の各「⑯月別損害額
合計」欄記載の金額に対する各「⑰遅延損害金起算日」欄記載の日から,
それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ被告Yは,原告に対し,500万円及びこれに対する平成12年4月1
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ウ訴訟費用は第1,2審とも被告らの負担とする。
エ仮執行宣言
2被告ホールディングスの控訴の趣旨
(1)原判決中,被告ホールディングス敗訴部分を取り消す。
(2)原告の請求をいずれも棄却する。
(3)訴訟費用は第1,2審とも原告の負担とする。
第2事案の概要
以下,略語,用語については,当裁判所も原判決と同一のものを用いる。ま
た,別紙言語対比表,別紙データベース対比表及び別紙数値・記号対比表は,
原判決のものを引用する。
本件は,原告が被告らに対して,携帯端末又はパソコン向けコンテンツ配信
用ソフトウェアに関連して,被告らの行為が,原告の有する著作権,著作者人
格権侵害の不法行為又は債務不履行を構成するなどと主張して,損害賠償金の
支払を求めた事案である。
原審における主位的請求は,以下のとおりである。原告は,被告らに対し,
別紙第1ソフトウェア目録記載のソフトウェアについて,著作権(複製権,翻
案権,公衆送信権(送信可能化権を含む。))侵害,著作者人格権(同一性保
持権,氏名表示権)侵害若しくはプログラム著作権のみなし侵害(著作権法1
13条2項)の不法行為又は著作物の利用許諾契約違反の債務不履行に基づい
て,損害賠償金33億8028万3423円(弁護士費用3000万円を含
む。)及びこれに対する不法行為後の日(月ごとの計算)又は訴状送達日の翌
日である平成18年11月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金の連帯支払を求め,さらに,被告Yに対し,著作権(複製権,翻
案権,公衆送信権(送信可能化権を含む。))侵害の不法行為又は著作物の利
用許諾契約違反の債務不履行に基づいて,損害賠償金550万円及びこれに対
する訴状送達日の翌日である平成18年11月8日から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(なお,被告Yに対する損害
賠償金550万円の請求のうち,50万円についての請求原因は明らかでな
い。)。
予備的請求は,以下のとおりである。原告は,被告ホールディングス及びイ
ンデックスに対しては,上記ソフトウェアを使用して,法律上の原因なく利得
したとの不当利得返還請求権に基づいて,不当利得金合計33億4528万3
423円の返還及び同不当利得金に対する受益後の日(月ごとの計算)から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による法定利息の支払を,被告Yに対して
は,不当利得金500万円の返還及び同不当利得金に対する受益開始の日であ
る平成12年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による法定利
息の支払を,それぞれ求めた。
原判決は,原告が作成したと推認される別紙美術対比表1及び2の左欄のも
の(原告カラー画像)には創作性が認められ,同表1∼4の右欄のもの(被告
カラー画像)は,原告カラー画像と同一のものであって,原告の著作権が及ぶ
から,被告ホールディングス及びインデックスは,「恋愛の神様(NTTドコ
モ)」,「恋愛の神様(KDDI)」及び「恋愛の神様(ソフトバンク)」の
配信サービスを行うに際し,平成17年4月1日から平成20年10月24日
までの間,被告カラー画像を公衆送信した点について期間制限違反が認められ,
原告カラー画像に係る原告の公衆送信権(送信可能化権を含む。)を侵害した
不法行為責任を負うとして,原告の主位的請求につき,被告ホールディングス
及びインデックスに対し,損害賠償金38万円及びこれに対する平成20年1
0月24日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支
払を,インデックスに対し,損害賠償金77万円及びこれに対する平成20年
10月24日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払
を求める限度で認容したが,その余の主位的請求及び予備的請求はいずれも棄
却した。
原告並びに被告ホールディングス及びインデックスは,それぞれ敗訴部分を
不服として,控訴の趣旨記載の判決を求めた。原告は,当審において,次の①
及び②を追加主張した(これらの追加主張は明確でないものの,予備的請求に
関するものと解される。)。
①不法行為(法的保護に値する利益侵害)に基づく損害賠償請求
②不正競争防止法に基づく損害賠償請求
1前提となる事実
次のとおり,付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第2章
事案の概要」の「第2前提となる事実」(原判決5頁16行目から43頁2
行目)記載のとおりであるから引用する。
原判決31頁12行目の「が存する。」を削り,行を改めて,次のとおり挿
入する。
「(ⅵ)*GetVenusSeizaName関数及び*GetMarsSeizaName関数(乙90の292
頁∼293頁。以下「守護星を求めるプログラム」ともいう。)が存する。」
2争点
次のとおり,当審における争点を付加するほか,原判決の「事実及び理由」
欄の「第2章事案の概要」の「第3争点」(原判決43頁4行目から44
頁14行目)のとおりであるから引用する。
(1)プログラムの創作性及び翻案権侵害等の有無
(2)美術(画像)の著作物性
(3)不法行為(法的保護に値する利益侵害)に基づく損害賠償責任の有無
(4)不正競争防止法に基づく損害賠償責任の有無
(5)消滅時効
3争点に関する当事者の主張
次のとおり,当審における主張(当事者が,原審においても主張したが,当
審において特に主張した点を含む。)を付加するほか,原判決の「事実及び理
由」欄の「第2章事案の概要」の「第4争点に関する当事者の主張」(原
判決44頁16行目から138頁1行目)のとおりであるから引用する。ただ
し,原判決128頁11行目から12行目に「原告プログラムを著作権侵害に
よって作成されたものと知って使用し,」とあるのを,「原告プログラムに関
する著作権を侵害して違法に作成されたプログラムであることを知って,これ
を使用し,」に改める。
(1)プログラムの創作性及び翻案権侵害等の有無
ア原告の主張
プログラムの創作性が認められるためには,①指令(ステップ)の表現
自体,その指令の組合せ,その表現順序のみならず,サブルーチンやモジ
ュールの表現の選択,配列,組合せからなるプログラム全体に選択の幅が
あること,②当該表現がありふれた表現でなく,作成者の個性が表れてい
ることが必要である。プログラムを表現する手段として存在する「プログ
ラム言語」で書かれたプログラムは,その全体が「プログラムの著作物」
となり,プログラムの一部であるスペース,改行,段落,変数,関数,括
弧等は,プログラム言語による「指令」として,プログラムの創作性判断
の対象となる。また,プログラムの内容がわずかな命令の組合せのみであ
るとか,規約に従っただけの部分であるなどの場合を除き,表現者の個性
が何らかの形で発揮されていれば,プログラムの創作性が認められるべき
である。なお,本件において,原告が作成したプログラムには,プログラ
ム言語としてPHP言語が使用されているが,平成10年当時,類を見な
かった「携帯端末用占いコンテンツ」の創作に当たり,その表現にPHP
言語を選択すること自体が非常に特殊であったから,PHP言語で表現さ
れたプログラムが「ありふれた表現手法」とはいえない。
また,プログラムの翻案の成否については,プログラムを,規約の異な
るプログラム言語に変換した場合でも,各ステップの表現自体,その組合
せ,その表現順序,サブルーチンやモジュールの表現自体,その選択,配
列,組合せが類似であれば,新プログラムは,旧プログラムの翻案物とさ
れるべきである。先行プログラムのプログラム言語が変更された後行プロ
グラムでは,言語の規約に合わせて記述やアルゴリズムも変更される場合
がある。確かに,アルゴリズムの決定は,プログラム著作物において重要
であるといえるが,原著作物のプログラム言語を規約に合わせて機械的に
翻訳したにすぎないときは,後行プログラムは旧プログラムに依拠した翻
案物になると解すべきである。
以下,個別のプログラムの創作性及び翻案権侵害等の有無について述べ
る。
(ア)星座を求めるプログラム
(表現の内容)
「②恋愛の神様」及び「②−1旧恋愛の神様」の星座を求めるプログ
ラムの表現の内容は,別紙プログラム対比表1のとおりである。
(創作性)
星占いの星座を求めるという目的に対しては,ユーザーに星座を聞く
方法,生年月日からホロスコープを作る方法などがあるから,「②恋愛
の神様」の星座を求めるプログラムが目的とする「生年月日から星座を
求める」処理は,ありふれたものではなく,同プログラムには創作性が
認められるべきである。
(翻案等の有無)
変数名の前に$を付けるのは,「②恋愛の神様」で用いられるPHP
言語の規約であり,「②−1旧恋愛の神様」で用いられるC言語の変数
名に$は使用できないため,この部分は変換しなくてはならない。この
「機械的変換」の際に,変数名$mをmonthに,$dをdayに,$sをseiza
に変更すれば,先頭行を除いて,同じものとなる。
また,先頭行は関数(サブルーチン)定義であり,PHP言語とC言
語では定義方法が違う(言語規約による)部分なので,書き換えが必要
である。書き換えの際,関数名としてはFgetseizaがGetSeizaNoに変
更されているが,違いは頭のFを削除して後ろにNoをつけただけで,ge
tseizaの部分は同じである。
「②−1旧恋愛の神様」の星座を求めるプログラムは,「②恋愛の神
様」の星座を求めるプログラムとほぼ同じであって,前者は後者の複製
又は翻案(以下「翻案等」という。)に当たる。
(イ)日干計算のプログラム
(表現の内容)
「②恋愛の神様」及び「②−1旧恋愛の神様」の日干計算のプログラ
ムの表現の内容は,別紙プログラム対比表1のとおりである。
(創作性)
「②恋愛の神様」の日干計算のプログラムは,四柱推命による占いで
使用されるものであるが,四柱推命は有名な占いではなく,「ドコモ向
けの占いサービス」のコンテンツに入れる必然性はないにもかかわらず,
原告の選択により,四柱推命による占いを作成したものである。
また,プログラムに使用されているZellerの公式は,プログラマーが
誰でも知っているほど有名なものではなく,日干計算のために一般的に
使用されるものでもないから,Zellerの公式を応用してプログラムを記
述したことによって,創作性を否定されるべきではない。
したがって,創作性が認められるべきである。
(翻案等の有無)
「②−1旧恋愛の神様」の日干計算のプログラムを作成したプログラ
マーは,Zellerの公式を知らず,「②恋愛の神様」の日干計算のプログ
ラムの数式の意味が理解できず,苦心して読み取ろうとした形跡がプロ
グラム上に残されており,そのコメントにあるように「一応この式に準
じてみる」として,「②恋愛の神様」の日干計算のプログラムの数式を
そのまま翻案したのである。すなわち,「②−1旧恋愛の神様」の日干
計算のプログラムは,「②恋愛の神様」の日干計算のプログラムを機械
的に処理しただけのものであり,翻案等に当たる。
(ウ)九星を求めるプログラム
(表現の内容)
「②恋愛の神様」及び「②−1旧恋愛の神様」の九星を求めるプログ
ラムの表現の内容は,別紙プログラム対比表1のとおりである。
(創作性)
「②恋愛の神様」の九星を求めるプログラムは,九星気学で使用され
るものであるが,九星気学は有名な占いではなく,「ドコモ向けの占い
サービス」のコンテンツに入れる必然性はないにもかかわらず,原告の
選択により,九星気学による占いを作成したものである。
したがって,このプログラムは,プログラム全体の目的にとってあり
ふれたものではなく,創作性が認められるべきである。
(翻案等の有無)
「②恋愛の神様」及び「②−1旧恋愛の神様」の九星を求めるプログ
ラムは,関数名がFgetkyuseiとGetKyuseiでFを除いて類似である。
2つのテーブル変数が利用されているが,d25とd23という名称であ
り,一致する。テーブル内容となるデータについても一致する。
データ数値の直後にカンマ「,」を付け,その後ろは文字空白を入れ
るというルールも同一である。ただし,「②−1旧恋愛の神様」の九星
を求めるプログラムは,データ10個ごとに改行が入れられ,続く行で
はインデントが行われているが,「②恋愛の神様」の九星を求めるプロ
グラムは1行で書かれている。
変数名shunbun,offが使い方も含めて一致する。決定的なのは,変
数名のshunbunである。立春を間違えて「春分」と名づけたこの変数名
は,アルゴリズムを理解していればこれが春分ではなく立春であること
は明白であり,「②恋愛の神様」の九星を求めるプログラムの記述を,
「②−1旧恋愛の神様」の九星を求めるプログラムにおいて機械的にコ
ピーしていることの証左となる。
したがって,「②−1旧恋愛の神様」の九星を求めるプログラムは,
「②恋愛の神様」の九星を求めるプログラムの翻案等に当たる。
(エ)年月日を得るプログラム
(表現の内容)
「②恋愛の神様」及び「②−1旧恋愛の神様」の年月日を得るプログ
ラムの表現の内容は,別紙プログラム対比表1のとおりである。
(創作性)
「②恋愛の神様」の年月日を得るプログラムは,8桁で入力された生
年月日を,年,月,日に分離するものであり,星占い,四柱推命,九星
気学で使用されているが,いずれについても,生年月日を利用者に入力
されること自体が必須ではなく,選択の余地があることである。したが
って,このプログラムは,「ドコモ向けの占いサービス」という目的に
とってありふれたものではなく,創作性が否定されるべきではない。
(翻案等の有無)
「②恋愛の神様」及び「②−1旧恋愛の神様」の年月日を得るプログ
ラムの関数名は,FgetymdとGetYmdで,Fを除けば類似性がある。内部
で使用される変数も,年をy,月をm,日をdと表現しており,共通す
る。
両プログラムで返り値が異なるのは,言語の規約により,PHP言語
では可能な「複数の返り値」を,C言語では返せないためである。引数
が異なるのは,C言語では上記のような「複数の返り値」を返したい場
合に,特殊な方法で引数を使用するためである。「②−1旧恋愛の神
様」の年月日を得るプログラムで引数に見える「short*y,short*m,
short*d」は実は返り値であり,PHP言語の返り値であるarray($y,
$m,$d)と同じ意味を持っている。つまり,表記方法は異なるが,文字
列を1つ引数に取り,数値で年月日を返すプログラムということになり,
引数と返り値は一致する。これらは言語の規約により,翻案の際に制約
を受けただけである。
「②恋愛の神様」の年月日を得るプログラムではsubstr命令を使用し
ているが,「②−1旧恋愛の神様」で用いられるC言語にはこれに相当
する命令がないため,substrの動作である「1文字単位で文字をコピー
する」に置き換えて作成している。しかも,その際,str[4]=0という操
作は,「一時的に」渡されただけの引数を,プログラム全体にわたって
「永久に」書き換えてしまう処理であり,予測不能な動作を引き起こす
可能性があるため,行ってはならないにもかかわらず,これを行ってい
ることから,後者のプログラムが,PHP言語のプログラムを見てコピ
ーしたものであることがうかがわれる。
したがって,「②−1旧恋愛の神様」の年月日を得るプログラムは,
「②恋愛の神様」の年月日を得るプログラムの翻案等に当たる。
(オ)画像タグを生成するプログラム
(表現の内容)
「②恋愛の神様」及び「②−1旧恋愛の神様」の画像タグを生成する
プログラムの表現の内容は,別紙プログラム対比表1のとおりである。
(創作性)
「②恋愛の神様」の画像タグを生成するプログラムは,複数用意され
た画像のうち,どの画像を出力するかを決めるものであるが,ユーザー
が求めれば,カラー端末でも白黒画像を表示することが可能となる処理
が入っており,このような処理は原告の発案で追加された。アイデアや
アルゴリズムは著作権法の保護の対象ではないが,アルゴリズムを表現
したプログラム表現には創作性が認められ,保護の対象とされるべきで
ある。
(翻案等の有無)
「②恋愛の神様」及び「②−1旧恋愛の神様」の画像タグを生成する
プログラムは,関数が作成された目的が類似しており,引数も画像ファ
イルを置くディレクトリの位置,ファイル名を分けて渡すという点で類
似する。
「②恋愛の神様」の画像タグを生成するプログラムでは,ファイルの
位置を「ディレクトリ名」と「ファイル名」の2つに分離して関数に渡
し,関数内で結合してpath(ファイルに至るための道筋を示すもの)を
作成しているにもかかわらず,引数として渡されるディレクトリ名を受
け取る変数の名称はpathである。これは,作成当初の名残であり,その
後,変数名であるpathをそのままディレクトリ名に流用し,新たにファ
イル名を示すfnを追加した。つまり,「②恋愛の神様」の画像タグを生
成するプログラムのように,ディレクトリ名を示すのに「path」を使用
しているのは,変数名と内容の一致からすれば「間違い」であるが,
「②−1旧恋愛の神様」の画像タグを生成するプログラムは,間違いを
そのままコピーしている。
したがって,「②−1旧恋愛の神様」の画像タグを生成するプログラ
ムは,「②恋愛の神様」の画像タグを生成するプログラムの翻案等に当
たる。
(カ)守護星を求めるプログラム
(表現の内容)
「②恋愛の神様」及び「②−1旧恋愛の神様」の守護星を求めるプロ
グラムの表現の内容は,別紙プログラム対比表1のとおりである。
(創作性)
「②恋愛の神様」の守護星を求めるプログラムは,相性占いで使用す
るプログラムであるが,相性占いは,その性質上,相手がいなければ占
えず,個人が携帯電話で使用する占いサービスのコンテンツに入れる必
然性はない占いであるにもかかわらず,原告の選択により,作成したも
のである。したがって,このプログラムは,「ドコモ向けの占いサービ
ス」という目的にとってありふれたものではなく,創作性が認められる
べきである。
(翻案等の有無)
a記述上の類似部分は次のとおりである。
(a)関数に対する引数の数と渡し方
4つの引数が渡され,先頭から順に,守護星のデータを収めたテ
ーブル,求めたい年,月,日である。
(b)年月日を示す変数
「②恋愛の神様」の守護星を求めるプログラムでは,ymdが使
用されるのに対し,「②−1旧恋愛の神様」の守護星を求めるプロ
グラムでは,yearmonthdayが使用され,英単語から想像される文
字や単語として,類似性はある。
(c)変数j及びs
「②恋愛の神様」の守護星を求めるプログラムでは,PHP言語
の規約により,変数名の頭に$が付けられているが,そのほかは同
一である。
変数sの行に書かれたaquariusとの記述は,「②恋愛の神様」の
守護星を求めるプログラムではsに設定される文字列であり,「②
−1旧恋愛の神様」の守護星を求めるプログラムではただのコメン
トであるが,記述自体は一致する。
(d)変数jsの設定行およびその次の空行の並び順
空行がいくつも入っているプログラムなら,空行の存在は偶然か
もしれないが,両プログラムとも,これが唯一の空行である。
(e)最後にreturnでsを返していること
return自体は,関数の「返り値」を明示する命令であり,関数の
最後に置かれることが多いため,規約といえるが,両プログラムと
も,return命令には()をつける必要がないのに付けられており,
その中は変数sのみが書かれている。
(f)繰り返し処理部分で使用されているfor
PHP言語でもC言語でも,一定回数の繰り返しはプログラム上
よく行われるため,作りやすいように特化された命令がforである。
forは,直後の括弧の中にセミコロン(;)で区切って3つの式
(繰り返し直前に実行される式,繰り返し条件,繰り返しの中で実
行される式)を書く。ただし,「②−1旧恋愛の神様」の守護星を
求めるプログラムは,forを使用しているにもかかわらず,3つの
式のうち,繰り返し直前に実行される式が書かれていない。
bアルゴリズム上の類似部分
アルゴリズムは著作権法の保護対象外であるが,「記述が変化した
翻案物」の類似部分は次のとおりである。
(a)変数jを設定する式
年*10000+月*100+日は,年月日を8桁の整数表現に直す
アルゴリズムにおいて類似する。
(b)変数sに最初に設定される値
両プログラムは変数sに最初に設定される値として「aquarius」
を設定している。
(c)forで繰り返される処理の中身
守護星を求めるためのテーブルの構造は,「②恋愛の神様」の守
護星を求めるプログラムではPHP言語でしか使用できないデータ
形式を使用しているのに対し,「②−1旧恋愛の神様」の守護星を
求めるプログラムではC言語でしか使用できないデータ形式に改め
られているが,その処理内容は,いずれも「テーブルから日付を取
り出し,jと比較した上で,繰り返しを強制的に終了するか,変数
sにテーブルに書かれた星座を取り出すかを選ぶ」処理である。
したがって,「②−1旧恋愛の神様」の守護星を求めるプログラムは,
「②恋愛の神様」の守護星を求めるプログラムの翻案等に当たる。
(キ)メインメニュープログラムのモジュールの選択・配列
(創作性)
「②恋愛の神様」のメインメニュープログラムのモジュールの選択・
配列の表現は,モジュールの構成,ユーザー関数の定義,タイトルロゴ
画像を表示させること,メインメニュープログラムからメニュー項目の
一つを選択し,「0〔恋神メニューへ〕」を選択することで回帰的にメ
インメニュープログラムが再実行されるように記述されていること,メ
ニューを一層化していること,占いの種類及び占い事項の中から一定の
ものを選択していること,占い以外の項目としてプレゼント等を選択し
ていることなどから,表現選択の幅が十分にある中で,ありふれたもの
とはいえず,作成者の個性が表れたものとして創作性が認められるとい
うべきである。
(翻案等の有無)
「②恋愛の神様」と「②−1旧恋愛の神様」のメインメニュープログ
ラムのモジュールの選択・配列は,メニュープログラムのメニュー項目
の選択,そのメニュー項目を選択した場合に実行される各プログラムの
モジュールの機能につき,以下のとおり,相当程度類似しており,メニ
ュープログラムと各占い等プログラムにおけるモジュールの選択・配列
が一致している。
a全てのプログラムの中で最初に実行されるプログラムである点,外
部ファイルを読み込んで初期設定を行うモジュールが割り当てられて
いる点,タイトルやメニューを表示するモジュールが割り当てられて
いる点,選択したメニューに応じて各プログラムを実行させるモジュ
ールが割り当てられている点で全てのプログラムの中における構成上
の役割が同一である。
b両プログラムは,次の点で同一である。
(a)「□2000年∼の恋愛」(「②恋愛の神様」),「72000年∼の恋
愛」(「②−1旧恋愛の神様」)のメニューを選択すると,西洋占
星術・四柱推命・九星気学の3種類のうち月替わりの1種類に基づ
いて西暦2000年からの5年間の恋愛運を占うプログラムが実行され
る点
(b)y2k.php3とy2k.cの各占いプログラムは,四柱推命の判断要素で
ある誕生年・月・日・時間のうち誕生日のみを使用して占いをする
プログラムである点
(c)「1恋専毎日ホロスコ」(「②恋愛の神様」)と「1恋専毎日ホ
ロスコ」(「②−1旧恋愛の神様」)を選択すると,西洋占星術に
よる当日の恋愛運を占うプログラムが実行される点
(d)いずれも「2今月の運命」のメニューを選択すると,西洋占星
術・四柱推命・九星気学の3種類のうち月替わりの1種類に基づい
て今月の恋愛運を占うプログラムが実行される点
(e)destiny.php3とdestiny.cで四柱推命占いを行う場合,そこで用
いられる四柱推命とは,誕生日・月・日・時間の全てを判断要素に
用いる厳格な意味での四柱推命ではなく,最も重要な要素とされて
いる誕生日のみを使用する点
(f)「4合コンでゴン」(「②恋愛の神様」)と「5合コンでゴン」
(「②−1旧恋愛の神様」)のメニューを選択すると,最大10人
ずつからなる男女の全ての組合せにつき星座と血液型に基づいた相
性を占うプログラムが実行される点
(g)「52人の未来」(「②恋愛の神様」)と「3タロットのお告
げ」(「②−1旧恋愛の神様」)のメニューを選択すると,ランダ
ムに選択されるタロットカード1枚により男女の未来の関係を占う
プログラムが実行される点
(h)「6片思いの行く末」(「②恋愛の神様」)と「4神秘ルーン石
占い」(「②−1旧恋愛の神様」)のメニューを選択すると,ラン
ダムに表示されるルーン1個により片思い相手との未来の関係占う
プログラムが実行される点
(i)「7あの人との相性」(「②恋愛の神様」)と「6あの人との相
性」(「②−1旧恋愛の神様」)のメニューを選択すると,生年月
日から決まる守護星により男女2人の相性を占うプログラムが実行
される点
(j)「3今月のプレゼント」(「②恋愛の神様」)と「開運プレゼン
ト」(「②−1旧恋愛の神様」)のメニューを選択すると,プレゼ
ントの応募・当選者発表を行うプログラムが実行される点
(k)「8お読みください」(「②恋愛の神様」)と「お読みくださ
い」(「②−1旧恋愛の神様」)を選択すると,利用規約・免責事
項を表示したりメール受付を行うプログラムが実行される点
(l)「9無料!心理テスト」(「②恋愛の神様」)と「無料!心理テ
スト館」(「②−1旧恋愛の神様」)を選択すると,会員登録して
いなくても利用できる心理テストを行うプログラムが実行される点
(m)「*登録コーナー」(「②恋愛の神様」)と「登録コーナー」
(「②−1旧恋愛の神様」)を選択すると,有料会員登録・解約・
プロフィール登録・画面表示色設定などを行うプログラムが実行さ
れる点
したがって,「②−1旧恋愛の神様」のメインメニュープログラムの
モジュールは,「②恋愛の神様」のメインメニュープログラムのモジュ
ールの翻案等に当たる。
(ク)占いサンプルに関するモジュールの選択・配列
(創作性)
占いの種類ごとに用意された占いサンプルの更新を予定している場合
は,占いサンプルを外部のデータファイルとするのが効率的であるが,
更新を予定していない場合は,プログラム中に直接記述して表示するよ
うに設計する構成も可能であり,処理時間の短縮につながる。また,見
本のためだけに用いる占いサンプルを作成しないで,有料会員が閲覧す
る占い結果本文をランダムに表示することでサンプルに代える構成も可
能である。そのような中で,「②恋愛の神様」のプログラムでは,占い
サンプルを外部のデータファイルとするモジュール構成をとり,プログ
ラム本体を簡潔にして,プログラムを読みやすくしている。
したがって,「②恋愛の神様」の占いサンプルに関するモジュールの
選択・配列は,複数の表現が可能であって,選択の幅が十分にある中で,
ありふれたものとはいえず,作成者の個性が表れたものとして創作性が
認められるべきである。
(翻案等の有無)
「②恋愛の神様」と「②−1旧恋愛の神様」のプログラムは,いずれ
もアクセスした者が有料会員登録しているかを判別した上で,登録して
いない場合は占いのサンプル文書を表示するようになっている点,見本
のためだけに用いる占いサンプルを作成した上で,それをプログラム本
体に取り込まず外部のデータファイルとする構成をとる点で類似する。
したがって,「②−1旧恋愛の神様」の占いサンプルに関するモジュ
ールは,「②恋愛の神様」の占いサンプルに関するモジュールの翻案等
に当たる。
(ケ)有料会員登録に関するモジュールの選択・配列
(創作性)
「②恋愛の神様」の有料会員登録に関するモジュールの選択・配列に
ついて,登録と解約処理について同じプログラム内で記述した上で実行
時に内部で振り分けなくても,登録と解約で異なるプログラムを作成し
た上で,登録時には登録用プログラムを実行し,解約時には解約用プロ
グラムを実行するように構成することも可能であるが,「②恋愛の神
様」のプログラムは,登録と解約を同じプログラムで統一的に行うこと
で,メモリの節約と変更などの保守が容易になるような工夫をしている。
このように,「②恋愛の神様」の有料会員登録に関するモジュールの
選択・配列は,複数の表現が可能であって,表現選択の幅が十分にある
中で,ありふれたものとは言えず,作成者の個性が表れたものとして創
作性が認められるべきである。
(翻案等の有無)
「②恋愛の神様」のプログラムでは,メインメニューから「*登録コ
ーナー」を選び,登録コーナーから「1マイメニュー登録」を選択した
場合,及び未登録ユーザーがメインメニューから占い項目を選択して,
リンク先プログラムが表示する占いサンプルの下部に表示される「有料
ゾーン」の「1マイメニュー登録」を選択した場合に,mymenu.php3が
実行される。そして,mymenu.php3では登録と解約の処理を行うモジュ
ールが記述され内部的に処理を振り分けている。登録時には利用規約等
を表示し登録意思を確認する手続きへ進み,解約時には解約意思の確認
をする手続きへ進む。
「②−1旧恋愛の神様」のプログラムでも,メインメニューから「□
登録コーナー」を選び,登録コーナーから「2マイメニューの登録」を
選択した場合,及び未登録ユーザーが占いサンプルを見て「1マイメニ
ュー登録」を選択した場合に,join.cppが実行される。そして,join.c
ppには登録と解約の処理を行うモジュールが記述されている。
このように有料会員登録に関するモジュールの選択・配列は,両プロ
グラムで類似している。
したがって,「②−1旧恋愛の神様」の有料会員登録に関するモジュ
ールは,「②恋愛の神様」の占い有料会員登録に関するモジュールの翻
案等に当たる。
(コ)メインメニュープログラム
(表現の内容)
「②恋愛の神様」及び「②−1旧恋愛の神様」のメインメニューのプ
ログラムの表現の内容は,別紙プログラム対比表2のとおりである。
(創作性)
「②恋愛の神様」のプログラムのindex.php3における後記a∼fの部
分の各指令又はモジュールの表現自体,その組み合わせ,表現順序には
選択の幅がある。また,「②恋愛の神様」のプログラムの同部分の各指
令又はモジュールの表現自体,その組み合わせ,表現順序はありふれた
表現ではなく,作成者の個性が表れているものである。したがって,上
記類似部分に関する「②恋愛の神様」のメニュープログラムindex.php3
の表現には創作性があるというべきである。
(翻案等の有無)
「メインメニュー」は,ユーザーがアクセスした際に最初に表示され
る画面であり,「メインメニュー」を動かすプログラムが,「②恋愛の
神様」のプログラムのindex.php3と「②−1旧恋愛の神様」のプログラ
ムのmain.cである。両プログラムは,以下の点で共通する。
a各種初期化処理
送信文字コードを決定し,環境変数HTTP_USER_AGENTを使用して,
アクセスしてきた機種を識別するものである。携帯電話以外からのア
クセスは機種名を「PC」とする。
bメニュー表示データの定義
メニュー表示に使用するデータを定義する。メニューデータは項目
毎に,項目番号,URL,表示内容の3からなる。
c表示開始
htmlの表示を開始する。「恋愛の神様」というタイトルをhtmlの
「タイトル」タグとして表示する。
dロゴ画像の表示
5種類のロゴ画像から1種類をランダムに表示する。画像には2∼
6の番号が付けられ,乱数によって2∼6の数値を発生させて選択し
ている。
eメニュー表示
上記bで定義されたデータを使用し,メニュー表示を行う。メニュ
ーデータで定義された数だけ繰り返し処理を行い,1項目ずつ,先頭
に携帯電話絵文字による項目番号,表示文字列にURLのリンクをつけ
る形で表示する。
f表示終了
画面表示を終了するための処理である。
したがって,「②−1旧恋愛の神様」のメインメニューのプログラム
は,「②恋愛の神様」のメインメニューのプログラムの翻案等に当たる。
(サ)「今月の運命」のプログラム
(表現の内容)
「②恋愛の神様」及び「②−1旧恋愛の神様」の「今月の運命」のプ
ログラムの表現の内容は,別紙プログラム対比表2のとおりである。
(創作性)
「②恋愛の神様」のプログラムのdestiny.php3と「②−1旧恋愛の神
様」のプログラムのdestiny.cの類似部分(後記a∼h)の各モジュー
ルの表現自体,その組み合わせ,表現順序には選択の幅がある。また,
両プログラムの上記類似部分の各指令又はモジュールの表現自体,その
組み合わせ,表現順序はありふれたものではなく,作成者の個性が表れ
ているものである。
したがって,上記類似部分に関する「②恋愛の神様」のプログラムの
destiny.php3の表現には創作性があるというべきである。
(翻案等の有無)
「②恋愛の神様」の「今月の運命」は,占いデータが外部に準備され,
西洋占星術,四命推命,九星気学のいずれかの方法により,月ごとに変
わる運命を占うコンテンツである。この「今月の運命」を動かすプログ
ラムがdestiny.php3である。「②恋愛の神様」のプログラムのdestiny.
php3と「②−1旧恋愛の神様」のプログラムのdestiny.cの類似部分は
以下の点である。
a各種初期化処理
送信文字コードを決定し,環境変数HTTP_USER_AGENTを使用して,
アクセスしてきた機種を識別する。この際,携帯電話以外からのアク
セスは機種名を「PC」とする。
b非会員へのメッセージ処理
非会員がアクセスした際には,外部ファイルで定義される占い文章
のサンプルも表示し,終了する。
c占いデータの読み込み処理
星座番号と星座の名前,十干番号と十干の名前,四柱推命で使用す
る番号と記号,それぞれの対応を配列に定義する。「今月の運命」の,
処理当月の占いデータを格納した外部ファイルが存在するかを確認し,
存在すれば配列に読み込む。存在しない時は,エラー時用のダミーデ
ータを読み込む。
d表示開始処理
htmlの表示を開始する。「今月の運命」というタイトルをhtmlの
「タイトル」タグとして表示する。
e登録ユーザーか未登録ユーザーかを見分ける処理
登録ユーザーの場合,登録された<名前><星座><九星><日干
>を取り出して,hの結果表示処理に移行する。未登録ユーザーの場
合,プロフィール登録を促す表示をした上で,「マイプロフィール登
録を後回しにして今すぐ占うならこちら」と表示し,すぐ下に「生年
月日で占う」とリンク表示する。リンクを選択した場合,生年月日を
たずねる処理gへ移行する。
f生年月日が入力された後の処理
生年月日の入力が明らかにおかしい場合は,「生年月日が正しくあ
りません。再入力してください。」と表示し,⑦の生年月日をたずね
る処理に移行する。生年月日が正しい場合は,この生年月日を元に,
星座,日干,九星を得て,hの結果表示処理へ移行する。
g生年月日の入力フォームを表示する処理
上記eおよび上記fに続く処理である。「西暦生年月日」の表示と,
入力のためのフォームと,「占う」と書かれたボタンを表示させる。
ボタンを押すと,生年月日のチェック処理へ移行する。
h占い結果を表示する処理
上記cで読み込まれた月々の占いデータにより,「西洋占星術」な
ら「星座」と表示し,星座と星座を示す画像を表示する。「四柱推
命」なら「日干」と表示し,日干を表示する。「九星気学」なら「主
星」と表示し,九星を表示する。その後,「今月の恋愛運」の表示の
後に,運勢の本文を表示する。さらに「他の人を占う」ためのリンク
を表示する。他の人を占うリンクは,生年月日をたずねる処理を表示
する。
したがって,「②−1旧恋愛の神様」の「今月の運命」のプログラム
は,「②恋愛の神様」の「今月の運命」のプログラムの翻案等に当たる。
(シ)「相性占い」のプログラム
(表現の内容)
「②恋愛の神様」及び「②−1旧恋愛の神様」の「相性占い」のプロ
グラムの表現の内容は,別紙プログラム対比表2のとおりである。
(創作性)
「②恋愛の神様」のプログラムのaisho.php3と「②−1旧恋愛の神
様」のプログラムのaisho.cの類似部分(後記a∼n)の各指令又はモ
ジュールの表現自体,その組み合わせ,表現順序には選択の幅があり,
さらに,各モジュールの組み合せ,表現順序にも選択の幅がある。また,
両プログラムの上記類似部分の各指令及びモジュールの表現自体,その
組み合わせ,表現順序はありふれた表現ではなく,作成者の個性が表れ
ているものである。よって,上記類似部分に関する「②恋愛の神様」の
プログラムのaisho.php3の表現には創作性があると認めるべきである。
(翻案等の有無)
「②恋愛の神様」の「相性占い」は,男女の生年月日から,火星星座,
金星星座を得て,その組合せにより相性を表示する占いである。「相性
占い」を動かすプログラムがaisho.php3である。「②恋愛の神様」のプ
ログラムのaisho.php3と「②−1旧恋愛の神様」のプログラムの
aisho.cの類似部分は以下の点である。
a各種初期化処理
送信文字コードを決定し,環境変数HTTP_USER_AGENTを使用して,
アクセスしてきた機種を識別する。この際,携帯電話以外からのアク
セスは機種名を「PC」とする。
b非会員へのメッセージ
非会員がアクセスした際には,外部ファイルで定義される占い文章
のサンプルを表示し,終了する。
c占いデータの読み込み1
相性占いに使用する,火星星座・金星星座と生年月日の関係,およ
び相性占いの結果を定義する外部データファイルを読み込み,配列に
定義する。
d占いデータの読み込み2
星座番号と星座の名前の対応を配列に定義する。
e表示開始
htmlの表示を開始する。「相性占い」というタイトルをhtmlのタ
イトルタグなどを表示する。
f登録ユーザーか未登録ユーザーかを見分ける処理
「あなたと気になるあの人の相性を,守護星の位置から占います。
(女性は金星,男性は火星)」と表示する。登録ユーザーの場合,登
録された<名前><生年月日><性別>を取り出して,⑧相手の生年
月日の入力処理へ進む。未登録ユーザーの場合,プロフィール登録を
促す表示をした上で,「マイプロフィール登録を後回しにして今すぐ
占うならこちら」と表示し,すぐ下に「生年月日で占う」とリンク表
示する。リンクは,2人の生年月日で占う処理へ移行する。
g相手の生年月日が入力された後の処理
前回実行時にhで表示された生年月日入力で入力された,相手の生
年月日が正しいか確認する。正しくなければ,相手の生年月日の入力
処理を使用して再入力させる。正しければ,占い前にデータを取得す
る処理へ移行する。
h相手の生年月日の入力フォームを表示する処理
「西暦年月日」と表示し,自由入力のフォームを表示する。最後に
「占う」と書かれたボタンを表示する。ボタンは,相手の生年月日の
チェック処理へリンクする。
i占い前にデータを取得する処理
会員が登録した名前,生年月日,性別をデータベースから得て,l
占い結果表示の処理へ移行する。
j男女の生年月日が入力された後の処理
前回実行時にkで表示された生年月日入力で入力された,男女の生
年月日がそれぞれ正しいかを確認する。正しくなければ,「●性の生
年月日が正しくありません。再入力してください」(●は女,男のい
ずれか)と表示して,kの処理へ移行する。正しければ,lの処理へ
移行する。
k男女の生年月日の入力フォームを表示する処理
「女性:西暦年月日(例:19780309)」と書いて自由入力のフォー
ムを表示し,「男性:西暦年月日(例:19780309)」と書いて自由入
力のフォームを表示する。最後に「占う」と書かれたボタンを表示す
る。ボタンは,2人の生年月日のチェック処理へリンクする。
l占い結果表示の処理
占いを行い,結果を表示する処理である。男性女性の生年月日で,
cで読み込んだ火星星座・金星星座と生年月日の関係を定義するデー
タをn守護星座を求める処理で検索し,火星星座,金星星座を得る。
「《2人のデータ》」と表示した後,女性が左,男性が右に来る表の
形で,・名前表示・それぞれの生年月日・「《守護星》」と中央に書
いた行の下に「金星」「火星」の表示・それぞれの守護星座・それぞ
れの守護星座を示す画像を表示する。さらに,「《2人の相性度》」
と書いた下に③で読み込んだ相性占い結果のデータを検索して得られ
る占い結果の「相性度」を表示する。「《2人の相性》」と書いた下
に,同様に得られた占い結果文章を表示する。最後に「他の人を占
う」リンクと,メインメニューに戻るリンクが表示される。「他の人
を占う」は,2人の生年月日で占う処理へのリンクである。
m表示終了
画面表示を終了するための処理である。
n守護星を求めるプログラム
cで読み込んだ火星星座・金星星座と生年月日の関係を定義するデ
ータを使用して,生年月日から「守護星座」を求めるプログラムであ
る。
したがって,「②−1旧恋愛の神様」の「相性占い」のプログラムは,
「②恋愛の神様」の「相性占い」のプログラムの翻案等に当たる。
イ被告らの反論
(ア)星座を求めるプログラム
「②恋愛の神様」の星座を求めるプログラムは,月日から星座を求め
るプログラムであり,このようなプログラムは,プログラミングの基礎
的知識を有する者であれば容易に作成できる,常識的な実用的・慣用的
表現にすぎない。「PHP基礎講座第7章条件分岐-switch文」で
示されているPHP言語による星座を求めるプログラムは,実質的に
「②恋愛の神様」の星座を求めるプログラムと同一であり,いずれも極
めて基本的な命令であるswitch-case文とif-else文とを組み合わせて単
純な条件分岐をするだけの平凡な構文であるから,この部分はありふれ
たものであり,創作性はない。
(イ)日干計算のプログラム
争う。
(ウ)九星を求めるプログラム
争う。
(エ)年月日を得るプログラム
争う。
(オ)画像タグを生成するプログラム
争う。
(カ)守護星を求めるプログラム
争う。
(キ)メインメニュープログラムのモジュールの選択・配列
「モジュールの選択・配列・組合せ」は,プログラムにおける電子計
算機に対する指令の組合せの方法,すなわち「解法」であり,プログラ
ム著作物ではない(著作権法10条3項)。
また,原告は,「機能」,「工夫」についての創作性を主張する。し
かし,機能や工夫は,著作権による保護の対象とされる表現とはいえな
いから,原告の主張は失当である。
(ク)占いサンプルに関するモジュールの選択・配列
上記(キ)と同様である。
(ケ)有料会員登録に関するモジュールの選択・配列
上記(キ)と同様である。
(コ)メインメニュープログラム
「②恋愛の神様」のメインメニュープログラム(index.php3)は,全
体として表現に選択の余地がほとんどなく,わずかに表現の選択の余地
がある部分においても,その選択の幅は著しく狭いものであるから,制
作者の個性を反映させる余地はなく,創作的な表現はない。
「②−1旧恋愛の神様」のメインメニュープログラム(main.c)は,
「②恋愛の神様」のメインメニュープログラムの該当箇所における内容
及び形式を覚知させるに足りるものではないから,翻案等に当たらない。
(サ)「今月の運命」のプログラム
「②恋愛の神様」の「今月の運命」のプログラム(destiny.php)は,
全体として表現に選択の余地がほとんどなく,わずかに表現の選択の余
地がある部分においても,その選択の幅は著しく狭いものであるから,
制作者の個性を反映させる余地はなく,創作的な表現はない。
「②−1旧恋愛の神様」の「今月の運命」のプログラム
(destiny.c)は,「②恋愛の神様」の「今月の運命」のプログラムの
該当箇所における内容及び形式を覚知させるに足りるものではないから,
翻案等に当たらない。
(シ)「相性占い」のプログラム
「②恋愛の神様」の「相性占い」のプログラム(aisho.php)は,全
体として表現に選択の余地がほとんどなく,わずかに表現の選択の余地
がある部分においても,その選択の幅は著しく狭いものであるから,制
作者の個性を反映させる余地はなく,創作的な表現はない。
「②−1旧恋愛の神様」の「相性占い」のプログラム(aisho.c)は,
「②恋愛の神様」の「相性占い」のプログラムの該当箇所における内容
及び形式を覚知させるに足りるものではないから,翻案等に当たらない。
(2)美術(画像)の著作物性
ア原告の主張
原告白黒画像は,平成10年12月ころに原告が作成したものであり,
「ルーンの書」を基に作成されたものではない。その当時,極めて限られ
たスペースの携帯電話画面上に,立体的かつリアルな画像が存在すること
はなく,大きな技術的制約の中で,原告白黒画像における表現を選択する
幅は広いといえる。
また,原告白黒画像及び原告カラー画像は,美術鑑賞のための作品とし
て創作され,言葉の伝達手段としては用いられておらず,印刷文字書体で
はないから,純粋美術の保護範囲下にある。美術表現の幅に大小はあるが,
誰が描いても同一にならざるを得ないとの制約条件がない以上,創作性が
認められる余地はあり,上記画像における表現選択の幅が狭いとしても,
著作物性は認められるべきである。
イ被告らの認否,反論
美的創作物は,制作者が当該作品を専ら鑑賞の対象とする目的で制作し,
かつ,一般的平均人が上記目的で制作されたものと受け取る純粋美術と,
それ以外のものに分類され,前者は著作権法による保護の対象となるが,
後者のうち,制作者が当該作品を実用に供されることを目的として制作し,
又は,一般的平均人が当該作品を実用目的で制作されたものと受け取る応
用美術も,実用性や機能性とは別に,独立して美的鑑賞の対象となるだけ
の美術性を有するに至っているため,一定の美的感覚を備えている一般人
を基準に,純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価
される場合には,「美術の著作物」として,著作権法による保護の対象と
なる場合がある。
原告カラー画像は,純粋美術に当たらないことは明らかであり,かつ,
一般平均人が専ら鑑賞の対象とする目的で制作されたものと受け取るとま
では認めがたいものであるから,純粋美術と同視し得る程度の美的創作性
を具備しているとはいえず,著作権法の保護の対象となる著作物には当た
らないというべきである。
(3)不法行為(法的保護に値する利益侵害)に基づく損害賠償責任の有無
ア原告の主張
被告ホールディングスは,平成12年3月26日から同月27日,原告
のみが設定管理していたパスワードを壊し,原告だけがアクセスできたサ
ーバーに侵入し,原告を排除して,サーバー内の全プログラムを奪取した。
その後,被告ホールディングスは,奪取した「恋愛の神様」ほかのプログ
ラムを複製し,それらを使用して利益を上げた。
原告は,同月1日,子会社である株式会社テルルを設立しており,「恋
愛の神様」のプログラムを使用して,携帯コンテンツプロバイダー業を行
い,被告ホールディングス及びインデックスが得たと同様の利益をできた
と考えられるから,原告は,被告ホールディングスの上記行為により,両
社が得た利益と同額の損害を被った。
仮に,被告ホールディングスの上記行為が,原告の有する著作権の侵害
行為に該当しないとしても,法的保護に値する原告の利益を違法に侵害す
る不法行為に該当するから,被告ホールディングスは原告に対し,不法行
為に基づく損害賠償責任を負う。
イ被告らの認否
原告主張の事実については,不知ないし否認する。
(4)不正競争防止法に基づく損害賠償責任の有無
ア原告の主張
(ア)営業秘密の不正取得行為に基づく損害賠償責任(主位的主張)
原告が,被告ホールディングスの依頼を受けて作成した「恋愛の神
様」ほかの複数のプログラムには,サーバー設定・プログラム(デー
タ・データベース等を含むプログラミングの方法)等の種々の有用な技
術情報が含まれていた。上記プログラムが格納されたサーバーは,原告
の事務所に設置され,原告だけが知るパスワードでアクセスでき,原告
が独占的に管理していた。サーバーは,平成11年7月ころ,被告ホー
ルディングスの事務所内に移転したが,移転後も原告が独占的に管理し,
インターネット回線を経由して遠隔地からサーバーにアクセスしたり,
必要に応じて被告ホールディングスの事務所に赴き,物理的な保守等を
行っていた。上記プログラムは,公知となっておらず,営業秘密に該当
する。
被告ホールディングスは,平成12年3月26日,何らかの方法で上
記サーバーのパスワードを解除し,サーバー内の上記プログラムを自己
の支配下に置き,サーバー設定を変更して原告がアクセスできないよう
にして原告を上記プログラムから排除し,これを不正な手段により取得
した。
原告は,同月1日,子会社である株式会社テルルを設立し,上記プロ
グラムを使用して携帯電話コンテンツサービス事業を行う方針であった
が,被告ホールディングスの上記行為により,それが不可能となり,原
告は,同月26日以降,被告ホールディングスが上記プログラムを使用
して得たと同等の利益を得る機会を失い,損害を被った。その損害額は,
不正競争防止法5条2項により推定されるものである。
なお,原告は,被告ホールディングスに対し,同年6月15日,本件
確認書に基づく合意により,各プログラム1本について使用許諾してい
るが,これは,被告ホールディングスが,同年5月1日に既に営業秘密
を外部に開示していることを秘匿して合意されたことによるものであり,
仮に,原告がこのような事情を知悉していれば,使用許諾をすることは
なかったから,上記合意による使用許諾は錯誤に基づくもので,無効で
ある。
被告ホールディングスの上記行為は,不正競争防止法2条4号にいう
営業秘密の不正取得行為に該当し,被告ホールディングスは,原告に対
し,損害賠償責任を負う。
(イ)営業秘密保有者の不正利用に基づく損害賠償責任1(予備的主張)
仮に,本件確認書に基づき,原告が,被告ホールディングスに対し,
営業秘密に該当する上記(ア)のプログラムを示していたとしても,被告
ホールディングスは,負荷分散装置を導入し,本件確認書で認められた
「1本の使用で維持するための改変」の限度を超えて,上記(ア)のプロ
グラムの複製利用を行った。原告は,被告ホールディングスの上記行為
により,負荷分散装置にかけるための2本目,3本目の追加使用料を交
渉し,請求する機会を失い,かつ,子会社である株式会社テルルを通じ
て上記(ア)のプログラムを使用して携帯電話コンテンツサービス事業を
行って利益を得る機会を失うという損害を被った。その損害額は,不正
競争防止法5条2項により推定されるものである。
被告ホールディングスの上記行為は,同法2条7号にいう営業秘密の
保有者の不正利用に該当し,被告ホールディングスは,原告に対し,損
害賠償責任を負う。
(ウ)営業秘密保有者の不正利用に基づく損害賠償責任2(予備的主張)
仮に,本件確認書に基づき,原告が,被告ホールディングスに対し,
営業秘密に該当する上記(ア)のプログラムを示していたとしても,被告
ホールディングスは,上記(ア)のプログラムを外注先の業者(サザンク
リエイト等)に開示して,上記(ア)のプログラムと同等の動作を行う新
プログラムを作成させ,平成12年9月からこれを稼働させた。原告は,
被告ホールディングスの上記行為により,大幅なプログラム変更の際に,
原告がこれを行い,対価としての開発費を獲得する機会を失い,かつ,
子会社である株式会社テルルを通じて上記(ア)のプログラムを使用して
携帯電話コンテンツサービス事業を行って利益を得る機会を失うという
損害を被った。その損害額は,不正競争防止法5条2項により推定され
るものである。
被告ホールディングスの上記行為は,同法2条7号にいう営業秘密の
保有者の不正利用に該当し,被告ホールディングスは,原告に対し,損
害賠償責任を負う。
(エ)他人の商品表示使用により混同を生じさせた行為に基づく損害賠償責
任(予備的主張)
原告は,携帯電話用プログラムコンテンツ「恋愛の神様」の著作権を
有し,これを稼働させて,平成11年2月22日から「恋愛の神様」の
番組名で公衆配信しており,平成12年7月時点で,同コンテンツ利用
登録者は24万8438人,会員登録をしない利用者を勘案すると利用
者は約10倍の約240万人に上り,「恋愛の神様」という商品表示は
広く認識されるに至っていた。
被告ホールディングスは,平成12年7月から9月以降,「恋愛の神
様」と同一の番組名を使用して,ほぼ同様のコンテンツを,原告が蓄積
した会員登録名簿をそのまま利用して公衆配信を行い,利用者に混同を
生じさせた。
原告は,被告ホールディングスの上記行為により,上記(ウ)と同様の
損害を被った。その損害額は,不正競争防止法5条2項により推定され
るものである。
被告ホールディングスの上記行為は,同法2条1号に該当し,被告ホ
ールディングスは,原告に対し,損害賠償責任を負う。
イ被告らの認否,反論
(ア)営業秘密の不正取得行為に基づく損害賠償責任(主位的主張)
「原告が,被告ホールディングスの依頼を受けて作成した『恋愛の神
様』ほかの複数のプログラムには,サーバー設定・プログラム(デー
タ・データベース等を含むプログラミングの方法)等の種々の有用な技
術情報が含まれていた」ことは不知であり,上記プログラムが「営業秘
密」に該当すること,被告ホールディングスの行為が「営業秘密の不正
取得行為」に該当することについては争う。
原告の損害の事実は不知であり,損害額の主張については争う。
なお,原告は,本件確認書に基づく各プログラム1本の使用許諾は錯
誤により無効である旨主張するが,原告は,本件確認書に基づく合意の
有効を前提として本件訴訟を提起したものであり,その無効を主張する
ことは信義則に反し,許されない。
(イ)営業秘密保有者の不正利用に基づく損害賠償責任1(予備的主張)
原告主張の事実については争う。
(ウ)営業秘密保有者の不正利用に基づく損害賠償責任2(予備的主張)
原告主張の事実については争う。
(エ)他人の商品表示使用により混同を生じさせた行為に基づく損害賠償責
任(予備的主張)
「原告は,携帯電話用プログラムコンテンツ『恋愛の神様』の著作権
を有し,これを稼働させて,平成11年2月22日から『恋愛の神様』
の番組名で公衆配信して」いたとの事実は否認する。「恋愛の神様」は,
インデックスの商品等表示であり,インデックスがこれを使用してサー
ビスの提供を行っていたものである。インデックスがiモードで提供す
る「恋愛の神様」のユーザーは,平成12年12月に30万人を突破し,
遅くともそのときまでに「恋愛の神様」が周知性を獲得したことは明ら
かである。
したがって,被告ホールディングスの行為が不正競争防止法2条1号
に該当するとの原告の主張は失当である。
(5)消滅時効
ア被告らの主張
(ア)著作権侵害に基づく損害賠償請求権に関する消滅時効の援用
原告が,「被告ホールディングスが,株式会社エヌ・ティ・ティ・エ
ムイーからf5ネットワークス社の負荷分散装置であるBIG−IPを
リースで導入し,平成12年5月からこれを稼働させ,同月ころから平
成13年にかけて,南青山に設置されたサーバーをエヌ・ティ・ティ・
コミュニケーションズ株式会社の大手町データセンター(大手町)に順
次移管し,平成14年5月から,ケーブル・アンド・ワイヤレスIDC
株式会社のデータセンターにサーバーを移管しており,大手町で使用す
るサーバー群の回線は1回線のみで,全てのサーバーがBIG−IPの
配下で稼働することになっていることが,原告の何らかの著作権侵害に
当たる」ことを根拠とする損害賠償請求について,被告らは,民法72
4条に基づく消滅時効を援用する。
(イ)著作物の利用許諾契約違反の債務不履行に基づく損害賠償請求権に関
する消滅時効の援用
原告の被告ホールディングスに対する,利用許諾契約違反を根拠とす
る債務不履行に基づく損害賠償請求について,同契約は,商行為に基づ
く債権の債務不履行であり,被告らは,商法523条に基づく消滅時効
を援用する。
(ウ)不法行為(法的保護に値する利益侵害)に基づく損害賠償請求権に関
する消滅時効の援用
上記(3)アにおいて原告が主張する不法行為(法的保護に値する利益
侵害)に基づく損害賠償請求について,被告らは,民法724条に基づ
く消滅時効を援用する。
(エ)営業秘密の不正取得行為に基づく損害賠償請求権に関する消滅時効の
援用
上記(4)ア(ア)において原告が主張する営業秘密の不正取得行為に基
づく損害賠償請求について,被告らは,民法724条に基づく消滅時効
を援用する。
(オ)営業秘密保有者の不正利用に基づく損害賠償請求権に関する消滅時効
の援用
上記(4)ア(イ)及び(ウ)において原告が主張する営業秘密保有者の不
正利用に基づく各損害賠償請求について,被告らは,民法724条に基
づく消滅時効を援用する。
(カ)他人の商品表示使用により混同を生じさせた行為に基づく損害賠償請
求権に関する消滅時効の援用
上記(4)ア(エ)において原告が主張する他人の商品表示使用により混
同を生じさせた行為に基づく損害賠償請求について,原告は,前回の裁
判(東京地方裁判所平成15年(ワ)第16027号)の訴えを提起し
た平成15年7月11日には損害の発生を知り得たものであり,被告ら
は,民法724条に基づく消滅時効を援用する。
イ原告の認否,反論
(ア)著作権侵害に基づく損害賠償請求権に関する消滅時効の援用に対し
被告らが,原告プログラムを負荷分散装置下に置くことにし,平成1
2年5月ころ,外注先に発注してこれを複製し,同年9月まで,複製し
たプログラムを稼働させ,同月以降は新たに「②−1恋愛の神様」のプ
ログラムを負荷分散装置下で稼働させた行為は,原告の「②恋愛の神
様」等の著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)を侵害する。
原告代表者は,被告らの上記侵害行為を,平成17年5月9日,偶然
に雑誌広告(甲2)で初めて知ったものであるから,不法行為の消滅時
効の起算点は,平成17年5月であるが,平成18年10月,本件訴訟
提起により時効は中断している。
(イ)著作物の利用許諾契約違反の債務不履行に基づく損害賠償請求権に関
する消滅時効の援用に対し
被告らは,本件確認書(甲1)に基づく利用許諾契約により,原告が
著作権を有するプログラム1本だけについて,平成17年3月31日ま
で使用を許諾されていたから,同年4月1日以降は違法使用となり,原
告に対し,損害賠償債務を負うことになる。したがって,消滅時効の起
算点は,同日であるが,平成18年10月の本件訴訟提起により,時効
は中断している。
(ウ)不法行為(法的保護に値する利益侵害)に基づく損害賠償請求権に関
する消滅時効の援用に対し
上記(ア)のとおり,原告代表者が,被告らの上記(3)アの不法行為を
初めて知ったのは,平成17年5月であり,平成18年10月の本件訴
訟提起により,時効は中断している。
(エ)営業秘密の不正取得行為に基づく損害賠償請求権に関する消滅時効の
援用に対し
上記(ア)のとおり,原告代表者が,被告らの上記(4)ア(ア)の行為を
初めて知ったのは,平成17年5月であり,平成18年10月の本件訴
訟提起により,時効は中断している。
(オ)営業秘密保有者の不正利用に基づく損害賠償請求権に関する消滅時効
の援用に対し
上記(ア)のとおり,原告代表者が,被告らの上記(4)ア(イ)及び(ウ)
の行為を初めて知ったのは,平成17年5月であり,平成18年10月
の本件訴訟提起により,時効は中断している。
(カ)他人の商品表示使用により混同を生じさせた行為に基づく損害賠償請
求権に関する消滅時効の援用に対し
上記(ア)のとおり,被告らが,原告プログラムを複製し,負荷分散装
置下で稼働させて原告に損害が発生していることを原告代表者が知った
のは,平成17年5月であり,平成18年10月の本件訴訟提起により,
時効は中断している。
第3当裁判所の判断
1次のとおり付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第3章当
裁判所の判断」の「第1争点1(プログラム)について」から「第25争
点25(不当利得について)」まで(原判決138頁3行目から243頁16
行目)のとおりであるから引用する。
(1)原判決138頁5行目から144頁16行目までを削除し,138頁4行
目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「(1)後記のとおり,「②恋愛の神様」の星座を求めるプログラム,日干計算の
プログラム,九星を求めるプログラム,年月日を得るプログラム,画像タグ
を生成するプログラム,守護星を求めるプログラムについて,いずれも創作
性は認められない。」
(2)原判決144頁17行目に「(6)」とあるのを「(2)」に,145頁11
行目に「(7)」とあるのを「(3)」に,同頁12,24及び26行目に
「(6)」とあるのを「(2)」に,同頁23行目に「(8)」とあるのを
「(4)」に,同頁25行目に「(9)」とあるのを「(5)」に,146頁1行
目に「(10)」とあるのを「(6)」に,同頁2及び4行目に「(6)」とあるの
を「(2)」に,同頁3行目に「(11)」とあるのを「(7)」に,各改める。
(3)原判決146頁13行目から149頁10行目までを削除し,146頁1
2行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「ア「②恋愛の神様」の星座を求めるプログラム,日干計算のプログラム,
九星を求めるプログラム,年月日を得るプログラム,画像タグを生成する
プログラム,守護星を求めるプログラムについて,いずれも創作性は認め
られない。したがって,「②−1旧恋愛の神様」の星座を求めるプログラ
ム,日干計算のプログラム,九星を求めるプログラム,年月日を得るプロ
グラム,画像タグを生成するプログラム,守護星を求めるプログラムとの
対比をするまでもなく,複製権又は翻案権侵害はない。」
(4)原判決149頁11,18,20,22,24,26行目及び150頁2
行目に「オ」とあるのを「イ」に,149頁17行目に「カ」とあるのを
「ウ」に,同頁19行目に「キ」とあるのを「エ」に,同頁21行目に
「ク」とあるのを「オ」に,同頁23行目に「ケ」とあるのを「カ」に,同
頁25行目に「コ」とあるのを「キ」に,150頁1行目に「サ」とあるの
を「ク」に,各改める。
(5)原判決150頁3行目から153頁2行目までを削除し,150頁2行目
の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「3「②恋愛の神様」の星座を求めるプログラム,日干計算のプログラム,九星
を求めるプログラム,年月日を得るプログラム,画像タグを生成するプログラ
ム,守護星を求めるプログラムについて,いずれも創作性は認められない。し
たがって,「②−1新恋愛の神様」,「②−2恋愛の神様」,「②−3恋愛の
神様」の星座を求めるプログラム,日干計算のプログラム,九星を求めるプロ
グラム,年月日を得るプログラム,画像タグを生成するプログラム,守護星を
求めるプログラムが,原告のプログラムに係る複製権又は翻案権を侵害するこ
とはない。」
(6)原判決181頁24行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「キ原告は,次の(ア)ないし(エ)記載の事実から,別紙言語対比表の各上欄
の文章を含む「恋愛の神様(NTTドコモ)」内の全ての文章を原告代表
者が創作したと認めるべきことは,次の事実から明らかであると主張する。
(ア)平成10年10月以降,「②恋愛の神様」のプログラム制作中に,原
告代表者と被告ホールディングス担当者との間で交換されたメール文章
によれば,原告代表者が「作るのが楽な占いの方からやろうと思ってる
のですけど。安く作るにしても,はじめてみないと正確にはわからない
というとこがあるんですよね。(中略)難しくて時間がかかりそうな占
いは諦めることにすれば,安くなるでしょうし。」,「占い「心理テス
ト」のプログラムと問題文と回答文を改良しました。」,「サンプルは,
こちらでの占い文の作成が完全に終わっているものの,そちらでのチO
Kもらっていませんので完全にチェック終わり最終画面が決まった後
(後略)」と書き,被告Yが「保守だけでなく占い文とプログラムなど
全部する」,「内容は変えず値引きしていただきたい」,「我々の会社
への先行投資と考えて,今回は一番安く」と書いており(甲39の3,
5,10,67),原告代表者による占い文章作成が示唆される。
(イ)占い文章は,日常生活の事象を平易な口語体を使って一定の文字数で
表現するだけであり,特殊な訓練等は必要なく,文章執筆能力があれば,
独学でも書くことができる。原告代表者は,パソコン通信運営者,雑誌
原稿執筆者,株式会社テルルによる占いプログラムの配信者(占い文章
も新規作成した。)を経験しており,占い文章執筆能力があったことは
明らかである。
(ウ)原告からインデックスに宛てた平成11年1月26日付け見積書(甲
25)には,「貴社出精値引き」との記載があるが,原告が値引きする
代わりに占い文章を担当しないとの作業内容の変更があったならば,そ
のことを見積書上でも明記し,双方で確認するはずである。しかし,上
記見積書には,そのような作業内容の変更を示す記載はない。
(エ)占い文章が保存されたサーバーは,原告の事務所に設置され,「②恋
愛の神様」のプログラム制作に着手後,平成11年2月22日のサービ
スイン時はもとより,その後も原告だけが入力でき,外部からの入力は
一切できない状況であった。また,被告ホールディングスやアカデメイ
アから原告に占い文章の原稿が交付された事実を裏付ける証拠はない。
しかし,上記の諸事情を全て考慮しても,上記(1)から(7)記載の認定
に照らすならば,原告が別紙言語対比表の各上欄の文章を含む「恋愛の神
様(NTTドコモ)」内の全ての文章を原告代表者が創作したとの事実は
到底認められない。」
(7)原判決186頁22行目から187頁19行目までを削除し,186頁2
1行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「原告カラー画像は,後記のとおり,創作性は認められない。」
(8)原判決195頁15行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「原告は,原告会員情報データベースは,自動収集データベースであるとこ
ろ,原告の行った体系的な構成及び最初の数件のデータの作成は,これに基
づいて,10人分のテストデータから自動収集により更新され,データとし
て蓄積されたものであるから,原告会員情報データベースの情報の選択又は
体系的な構成についての創作性が認められるべきであると主張する。
しかし,上記のとおり,原告会員情報データベースの体系的構成が,創作
的な表現であると認めることはできず,また,10人分のテストデータをも
って,情報の選択に関する創作と認めることもできないから,原告の上記主
張は失当である。」
(9)原判決197頁18行目から19行目,同頁26行目から198頁1行目,
同頁6行目から7行目に,それぞれ「並びに前記第1∼第6及び第8までの
認定判断」とあるのを削除し,原判決197頁21行目から22行目,19
8頁3行目から4行目,同頁9行目から10行目に,それぞれ「原告の著作
権が及ぶ被告カラー画像を公衆送信したことが認められる。」とあるのを,
いずれも「被告カラー画像を公衆送信したことが認められるものの,原告カ
ラー画像は,後記のとおり,創作性が認められず,著作物とはいえない。」
に改める。
原判決199頁14行目から18行目を削除し,同頁13行目の後に,行
を改めて,次のとおり挿入する。
「以上から,被告ホールディングス及びインデックスが,「恋愛の神様(N
TTドコモ)」,「恋愛の神様(KDDI)」及び「恋愛の神様(ソフトバ
ンク)」の配信サービスを行うに際し,原告の著作物を利用許諾期間を超え
て使用したことによる著作権侵害は認められない。」
(10)原判決204頁25行目に「前記第2章第2,5(3)イ(ア)のとおりであ
り,」とあるのを,「前記第2章第2,5(3)イ(ア)のとおりである。」に
改め,同頁26行目から205頁19行目までを削除し,同頁20行目の
「また,」とあるのを,「原告プログラムが負荷分散に対応していたとして
も,」に改める。
(11)原判決235頁1行目に「争点16(被告ホールディングスの責任)につ
いて」とあるのを,「まとめ」に改める。
原判決235頁2行目から243頁16行目までを削除する。
原判決235頁1行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「以上のとおりであるから,被告ら又はインデックスが,原告の著作権ない
し著作者人格権を侵害したとする原告主張の事実は何ら認めることができず,
被告らが原告に対し,不法行為責任を負うことはない。
また,被告らの行為は,本件確認書に違反する債務不履行に該当するとす
る原告の主張の根拠たる事実は,不法行為に係る主張の根拠たる事実と同一
である。そして,被告らの行為が不法行為を構成しないことは,前述のとお
りであるから,同様に,債務不履行にも該当しない。
原告の不当利得返還請求(予備的請求)についても,同様に,被告らにお
いて法律上の原因なく利得したとはいえず,原告の請求は認められない。」
2当審において追加された争点について
(1)プログラムの創作性及び翻案権侵害等の有無について
ア著作権法が保護の対象とする「著作物」であるというためには,「思想
又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(同法2条1
項1号)。思想又は感情や,思想又は感情を表現する際の手法やアイデア
自体は,保護の対象とならない。例えば,プログラムにおいて,コンピュ
ータにどのような処理をさせ,どのような指令(又はその組合せ)の方法
を採用するかなどの工夫それ自体は,アイデアであり,著作権法における
保護の対象とはならない。
また,思想又は感情を「創作的に」表現したというためには,当該表現
が,厳密な意味で独創性のあることを要しないが,作成者の何らかの個性
が発揮されたものであることが必要である。この理は,プログラムについ
ても異なることはなく,プログラムにおける「創作性」が認められるため
には,プログラムの具体的記述に作成者の何らかの個性が発揮されている
ことを要すると解すべきである。もっとも,プログラムは,「電子計算機
を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み
合わせたものとして表現したもの」(同法2条1項10号の2)であり,
コンピュータに対する指令の組合せという性質上,表現する記号や言語体
系に制約があり,かつ,コンピュータを経済的,効率的に機能させようと
すると,指令の組合せの選択が限定されるため,プログラムにおける具体
的記述が相互に類似せざるを得ず,作成者の個性を発揮する選択の幅が制
約される場合があり得る。プログラムの具体的表現がこのような記述から
なる場合は,作成者の個性が発揮されていない,ありふれた表現として,
創作性が否定される。また,著作物を作成するために用いるプログラム言
語,規約,解法には,著作権法による保護は及ばず(同法10条3項),
一般的でないプログラム言語を使用していることをもって,直ちに創作性
を肯定することはできない。
さらに,後に作成されたプログラムが先に作成されたプログラムに係る
複製権ないし翻案権侵害に当たるか否かを判断するに当たっては,プログ
ラムに上記のような制約が存在することから,プログラムの具体的記述の
中で,創作性が認められる部分を対比し,創作性のある表現における同一
性があるか否か,あるいは,表現上の創作的な特徴部分を直接感得できる
か否かの観点から判断すべきであり,単にプログラム全体の手順や構成が
類似しているか否かという観点から判断すべきではない。
上記の観点に照らして,以下,個別的に検討する。
イ個別的判断
(ア)星座を求めるプログラム
「②恋愛の神様」のプログラムの一部を構成する星座を求めるプログ
ラムは,生年月日の月と日の値を受け取り,星座を示す整数値を返す関
数を,switch文とif文を用いて月ごとに日付に応じた値を返すように切
り換えることにより表現するものである。同プログラム中の,生年月日
の月と日によって決定される星座を求めるに当たり,上記の計算や処理
を行う点は,作成におけるアイデアであるといえる。「②恋愛の神様」
のプログラムは,上記アイデアを実現するために,基本的な命令である
switch-case文if-else文を組み合わせて単純な条件分岐をする,一般
的,実用的な記述であり,その長さも短いものであるから,作成者の個
性が発揮された表現と評価することはできない。なお,プログラムの作
成当時,多用されていなかったPHP言語を使用したという事情がある
からといって,作成者の個性を認める理由とはならない。
したがって,「②恋愛の神様」の星座を求めるプログラムは,ありふ
れた表現として,創作性がなく,著作物とはいえない。
(イ)日干計算のプログラム
「②恋愛の神様」のプログラムの一部を構成する日干計算のプログラ
ムは,年,月,日の値を受け取り,1月と2月を前年の13番目,14
番目の月として取り扱う処理の後に,年を5倍したものと日の値とを加
算し,閏年数等に基づく補正を行った上で10で割った余りの整数値を
求め,この整数値を,干支を示す数値として返す関数を,if文と算術演
算子を用いて表現するものである。干支を示す数値を求めるために,上
記の計算や処理を行うことは,その際にZellerの公式を応用することも
含めてアイデアであるといえる。同プログラムは,上記アイデアを実現
するための解法を,計算式によりそのまま記述したものであり,その長
さも極めて短いものであるから,作成者の個性が発揮された表現とはい
えない。また,PHP言語を使用したという事情があるからといって,
作成者の個性を認める理由とはならない。
したがって,「②恋愛の神様」の日干計算のプログラムは,ありふれ
た表現として,創作性がなく,著作物とはいえない。
(ウ)九星を求めるプログラム
「②恋愛の神様」のプログラムの一部を構成する九星を求めるプログ
ラムは,年,月,日の値を受け取り,それぞれ38個と3個の要素を有
する2つの整数値配列d25,d23を参照してshunbunという変数に
4,3,5のいずれかを格納した上で,月の値が1又は2で,日が
shunbunより小さい場合にoffという変数に−1(補正値)を格納し,
年の値とoffを用いた特定の算術演算の結果である整数値を九星を示す
数値として返す関数を,for文,if文,算術演算子等を用いて表現する
ものである。九星を求めるための特定の算術演算の結果を用いることは
アイデアであるといえる。同プログラムは,上記アイデアを実現するた
めに,上記のような算術演算の解法をそのまま記述したものにすぎず,
その長さも短いものであるから,作成者の個性が発揮された表現とはい
えない。また,PHP言語を使用したという事情があるからといって,
作成者の個性を認める理由とはならない。
したがって,「②恋愛の神様」の九星を求めるプログラムは,ありふ
れた表現として,創作性がなく,著作物とはいえない。
(エ)年月日を得るプログラム
「②恋愛の神様」のプログラムの一部を構成する年月日を得るプログ
ラムは,文字列を受け取り,文字列からの先頭の4文字を整数値とした
もの,次の2文字を整数値としたもの,さらにその次の2文字を整数値
としたものを,年,月,日に対応する3個の要素を有する整数値配列と
して返す関数である。このプログラムは,文字列を,プログラム言語が
用意する文字列用関数を用いて変数に設定するという単純な内容の構文
にすぎず,その長さも極めて短いものであるから,作成者の個性が発揮
された表現とはいえない。また,PHP言語を使用したという事情があ
るからといって,作成者の個性を認める理由とはならない。
したがって,「②恋愛の神様」の年月日を得るプログラムは,ありふ
れた表現として,創作性がなく,著作物とはいえない。
(オ)画像タグを生成するプログラム
「②恋愛の神様」のプログラムの一部を構成する画像タグを生成する
プログラムは,画像タグに用いる画像を示すパスとファイル名を受け取
り,HTMLのimgタグに含めて出力されるべき画像を指定する情報を,
これらのパスとファイル名の間の部分にユーザーがあらかじめ設定した
情報に基づいて生成された文字列と連接して生成する機能を有する関数
である。複数用意された画像のうち,どの画像を出力するかを決定し,
かつ,ユーザーが求めれば,カラー端末でも白黒画像を表示することを
可能とするために,上記の関数を用いることはアイデアであるといえる。
同プログラムは,上記のアイデアを実現するための関数を,短く,機能
的に記述したものにすぎないから,アイデア自体に個性的な部分がある
としても,プログラムの表現において作成者の個性が発揮されたものと
はいえない。また,PHP言語を使用したという事情があるからといっ
て,作成者の個性を認める理由とはならない。
したがって,「②恋愛の神様」の画像タグを生成するプログラムは,
ありふれた表現として,創作性がなく,著作物とはいえない。
(カ)守護星を求めるプログラム
「②恋愛の神様」のプログラムの一部を構成する守護星を求めるプロ
グラムは,守護星のデータを収めたテーブル,年,月,日の値を受け取
り,年,月,日の値を所定の整数値に変換し,この整数値を用いて守護
星のデータを収めたテーブルを検索して所定の整数値を求め,求めた整
数値から守護星を示す数値として返す関数を,for文,if文を用いて表
現したものである。このプログラムを使用する相性占いをコンテンツに
含めることや,守護星を求めるために上記関数を用いることはアイデア
であるといえる。同プログラムは,上記のアイデアを実現するための関
数を,短く,機能的に記述したものにすぎないから,「aquarius」を初
期値とすることを含め,アイデア自体に独創的な部分があるとしても,
プログラムの表現において作成者の個性が発揮されたものとはいえない。
また,PHP言語を使用したという事情があるからといって,作成者の
個性を認める理由とはならない。
したがって,「②恋愛の神様」の守護星を求めるプログラムは,あり
ふれた表現として,創作性がなく,著作物とはいえない。
(キ)メインメニュープログラムのモジュールの選択・配列
原告が,創作性の根拠として主張する点は,モジュールの構成,ユー
ザー関数の定義,タイトルロゴ画像を表示させること,メインメニュー
プログラムからメニュー項目の一つを選択し,「0〔恋神メニュー
へ〕」を選択することで回帰的にメインメニュープログラムが再実行さ
れるように記述されていること,メニューを一層化していること,占い
の種類及び占い事項の中から一定のものを選択していること,占い以外
の項目としてプレゼント等を選択していることなどであるが,これらは,
アイデアというべきである。同プログラムに,表現上の特徴部分はない。
したがって,著作物とはいえない。
(ク)占いサンプルに関するモジュールの選択・配列
原告は,「②恋愛の神様」のプログラムでは,占いサンプルを外部の
データファイルとするモジュール構成をとり,プログラム本体を簡潔に
して,プログラムを読みやすくしたとして,モジュールの選択・配列に
創作性があると主張するが,上記の点は,アイデアというべきである。
同プログラムに,表現上の特徴部分はない。したがって,著作物とはい
えない。
(ケ)有料会員登録に関するモジュールの選択・配列
原告は,「②恋愛の神様」のプログラムでは,登録と解約を同じプロ
フラムで統一的に行うことで,メモリの節約と変更などの保守が容易に
なるような工夫をしたとして,モジュールの選択・配列に創作性がある
と主張するが,上記の点は,アイデアというべきである。同プログラム
に,表現上の特徴部分はない。したがって,著作物とはいえない。
(コ)メインメニュープログラム
原告は,「②恋愛の神様」のプログラムの一部を構成するメインメニ
ュープログラム(index.php3)は,「②−1旧恋愛の神様」のメインメ
ニュープログラム(main.c)との類似する部分(各種初期化処理,メニ
ュー表示データの定義,表示開始,ロゴ画像の表示,メニュー表示,表
示終了)について,その表現に創作性があると主張する。しかし,「②
恋愛の神様」中の原告の主張に係る部分は,創作性のある部分といえな
いのみならず,前者と後者とは,その表現上の本質的な特徴部分におい
て共通するものではない。
したがって,原告の主張は認められない。
(サ)「今月の運命」のプログラム
原告は,「②恋愛の神様」のプログラムの一部を構成する「今月の運
命」のプログラム(destiny.php)は,「②−1旧恋愛の神様」の「今
月の運命」のプログラム(destiny.c)との類似する部分(各初期化処
理,非会員へのメッセージ,占いデータの読み込み処理,表示開始処理,
登録ユーザーか未登録ユーザーかを見分ける処理,生年月日が入力され
た後の処理,生年月日の入力フォームを表示する処理,占い結果を表示
する処理)につき,その表現に創作性があると主張する。しかし,「②
恋愛の神様」中の原告の主張に係る部分は,創作性のある部分とはいえ
ないのみならず,前者と後者とは,その表現上の本質的な特徴部分にお
いて共通するものではない。
したがって,原告の主張は認められない。
(シ)「相性占い」のプログラム
原告は,「②恋愛の神様」のプログラムの一部を構成する「相性占
い」のプログラム(aisho.php)は,「②−1旧恋愛の神様」の「相性
占い」のプログラム(aisho.c)との類似する部分(各種初期化処理,
非会員へのメッセージ,占いデータの読み込み,表示開始,登録ユーザ
ーか未登録ユーザーかを見分ける処理,相手の生年月日が入力された後
の処理,相手の生年月日の入力フォームを表示する処理,占い前にデー
タを取得する処理,男女の生年月日が入力された後の処理,男女の生年
月日の入力フォームを表示する処理,占い結果表示の処理,表示終了)
につき,その表現に創作性があると主張する。しかし,「②恋愛の神
様」中の原告の主張に係る部分は,創作性のある部分とはいえないのみ
ならず,前者と後者とは,その表現上の本質的な特徴部分において共通
するものではない。(なお,「相性占い」のプログラムの中に存する
「守護星を求めるプログラム」については,上記(カ)で判示したとおり
である。)。
したがって,原告の主張は認められない。
(2)美術(画像)の著作物性
ア原告白黒画像について
原告白黒画像は,別紙美術対比表の3及び4の左欄のとおりであるが,
原判決認定(原判決185頁17行目から186頁20行目)のとおり,
「ルーンの書」(乙48)に描かれたルーン文字及びルーン石の絵にかん
がみて,作成者の思想又は感情が独創的に表現されているとはいい難く,
創作性は認められない。
原告は,作成当時,極めて限られたスペースの携帯電話画面上に,立体
的かつリアルな画像が存在することはなく,大きな技術的制約があった中
での原告白黒画像の創作性は大きいと主張するが,原告主張の点は,画像
表現の創作性に関するものでなく,著作物性についての判断を左右しない。
イ原告カラー画像について
原告カラー画像は,別紙美術対比表の1及び2の左欄のとおりであり,
原告白黒画像に着色を施し,ルーン文字及びルーン石に影を付けたもので
ある。これに伴い,背景色が付加され,ルーン石同士で同じ色の組合せが
生じないようにし,ルーン文字が石に刻まれたような印象がより鮮明にな
ったとはいえるが,ルーン石やルーン文字の形状は原告白黒画像と変わる
ところがなく,また,配色のしかたについても,特段の創意があるとまで
はいえない。そうすると,画像の表現そのものに,「ルーンの書」に描か
れたルーン石の絵や原告白黒画像を離れて,創作が加えられたと評価する
ことはできないから,原告カラー画像に著作物性は認められない。
ウしたがって,原告白黒画像及び原告カラー画像に著作物性は認められな
い。
(3)不法行為(法的保護に値する利益侵害)に基づく損害賠償責任の有無
原告は,被告ホールディングスが,平成12年3月26日から同月27日,
原告のみが設定管理していたパスワードを壊し,原告だけがアクセスできた
サーバーに侵入し,原告を排除して,サーバー内の全プログラムを奪取し,
「恋愛の神様」ほかのプログラムを複製した行為は,原告の著作権を侵害す
るものでないとしても,法的保護に値する利益を違法に侵害する,又は,被
告ホールディングスの上記行為により,同社及びインデックスが得た利益と
同額の損害を被った,と主張する。
しかし,原告主張の「法的保護に値する利益」の内容は明らかでなく,ま
た,被告ホールディングスの行為と損害との因果関係についても,「原告の
子会社である株式会社テルルが,「恋愛の神様」のプログラムを使用して,
両社と同様の利益を得ることができたと考えられる」というだけで,具体的
な主張・立証はない。
したがって,原告の主張は失当である。
(4)不正競争防止法に基づく損害賠償責任の有無
ア営業秘密の不正取得行為に基づく損害賠償責任及び営業秘密保有者の不
正利用に基づく損害賠償責任について
原告は,「被告ホールディングスの依頼を受けて作成した「恋愛の神
様」ほかの複数のプログラムには,サーバー設定・プログラム(データ・
データベース等を含むプログラミングの方法)等の種々の有用な技術情報
が含まれており,上記プログラムが格納されたサーバーは,原告の事務所
に設置され,原告だけが知るパスワードでアクセスでき,原告が独占的に
管理していた。サーバーは,平成11年7月ころ,被告ホールディングス
の事務所内に移転したが,移転後も原告が独占的に管理し,インターネッ
ト回線を経由して遠隔地からサーバーにアクセスしたり,必要に応じて被
告ホールディングスの事務所に赴き,物理的な保守等を行っていた。した
がって,上記プログラムは,営業秘密に該当する。」と主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,採用できない。すなわち,原告
が営業秘密に該当すると主張する「プログラム」がいかなるものかは明ら
かでない。また,被告ホールディングスの依頼により作成され,平成11
年7月以降は同社の事務所内のサーバーに格納されていたプログラムにつ
いて,原告のみがサーバーのパスワードを知り,アクセスできたというだ
けで,直ちに秘密管理性が認められるものではない。
原告は,本件確認書に基づく使用許諾は錯誤により無効であると主張す
るが,原告が錯誤によってプログラムの使用許諾をしたことをうかがわせ
る具体的事情は認められないのみならず,原告は,本件訴訟において,本
件確認書に基づく合意の有効を前提とした主張を行っているから,原告の
主張を採用することはできない。
したがって,上記プログラムが営業秘密に該当することを前提とする原
告の各主張はいずれも失当である。
イ他人に商品表示使用により混同を生じさせた行為に基づく損害賠償責任に
ついて
原告は,「原告が,携帯電話用プログラムコンテンツ「恋愛の神様」の著
作権を有し,これを稼働させて,平成11年2月22日から「恋愛の神様」
の番組名で公衆配信しており,平成12年7月時点で,「恋愛の神様」とい
う商品表示が広く認識されるに至った」と主張する。
しかし,原告自らが「恋愛の神様」の番組名で携帯電話用プログラムコン
テンツの公衆配信を行っていたことを認めるに足りる証拠はない。むしろ,
本件確認書(甲1)は,平成12年3月より前においては,被告ホールディ
ングスが特段の制限なく原告プログラムの複製物の貸与又は複製物の譲渡を
受け,これを利用してコンテンツ配信サービスを行っていたことを前提とし
て,プログラム使用の条件等について定めたものと解すべきである(この点
の詳細につき,原判決201頁1行目から202頁17行目のとおりであ
る。)。
したがって,原告自らが「恋愛の神様」の番組名で携帯電話用プログラム
コンテンツの公衆配信を行っていたことを前提とする原告の主張は失当であ
る。
3小括
以上のとおりであるから,その余の争点について判断するまでもなく,原告
の主張は理由がなく,主位的請求及び予備的請求はいずれも認められない。そ
の他,原告は縷々主張するが,いずれも採用の限りではない。
第4結論
よって,原告の本件控訴は理由がないから棄却し,被告ホールディングスの
控訴は理由があるから,原判決中,被告ホールディングス敗訴部分を取り消し,
原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
齊木教朗
裁判官
武宮英子
別紙第1ソフトウェア目録
次の各移動体通信キャリアのための携帯端末又はパソコン向けコンテンツ配信用
ソフトウェア
①「四次婆」DDIポケット(ウィルコム)
②「恋愛の神様」NTTドコモ
③「プライベートホームページ」IDO(KDDI)
④(欠番)
⑤「ツヴァイ資料請求プログラム」IDO(KDDI)
⑥「リクルートフロムエーアルバイト情報検索プログラム」DDIポケット
(ウィルコム)
⑦「愛と出会いの占い館」IDO(KDDI)
⑧(欠番)
⑨「映画館空席情報」IDO(KDDI)
⑩(欠番)
⑪「四次婆」DION
⑫「ゲームコーナー」DDIポケット(ウィルコム)
⑬「さくま式スゴロク(東海道五十三次及び奥の細道)」NTTドコモ
⑭(欠番)
⑮(欠番)
⑯「ガチャピン・ムック」NTTドコモ
別紙第2ソフトウェア目録
次の各移動体通信キャリアのための携帯端末向けコンテンツ配信用ソフトウェア
②−1「恋愛の神様DX」NTTドコモ
②−2「恋愛の神様DX」KDDI
②−3「恋愛の神様DX」ソフトバンクモバイル
別紙プログラム対比表1
1星座を求めるプログラム
(1)「②恋愛の神様」の星座を求めるプログラム
(2)「②−1旧恋愛の神様」の星座を求めるプログラム
2日干計算のプログラム
(1)「②恋愛の神様」の日干計算のプログラム
(2)「②−1旧恋愛の神様」の日干計算のプログラム
3九星を求めるプログラム
(1)「②恋愛の神様」の九星を求めるプログラム
(2)「②−1旧恋愛の神様」の九星を求めるプログラム
4年月日を得るプログラム
(1)「②恋愛の神様」の年月日を得るプログラム
(2)「②−1旧恋愛の神様」の年月日を得るプログラム
5画像タグを生成するプログラム
(1)「②恋愛の神様」の画像タグを生成するプログラム
(2)「②−1旧恋愛の神様」の画像タグを生成するプログラム
6守護星を求めるプログラム
(1)「②恋愛の神様」の守護星を求めるプログラム
(2)「②−1旧恋愛の神様」の守護星を求めるプログラム
別紙プログラム対比表2
1メインメニュープログラム
(1)「②恋愛の神様」のメインメニュープログラム
(2)「②−1旧恋愛の神様」のメインメニュープログラム
2「今月の運命」のプログラム
(1)「②恋愛の神様」の「今月の運命」のプログラム
(2)「②−1旧恋愛の神様」の「今月の運命」のプログラム
3「相性占い」のプログラム
(1)「②恋愛の神様」の「相性占い」のプログラム
(2)「②−1旧恋愛の神様」の「相性占い」のプログラム

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