弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を千葉地方裁判所木更津支部に差戻す。
         理    由
 本件控訴の趣意は末尾に添付してある弁護人福田力之助作成名義控訴趣意書と題
する書面記載の通りである。
 これに対し当裁判所は左の如く判断する。
 論旨第一点について。
 本件起訴状には被告人の犯罪事実の二として、被告人は昭和二十四年三月六日午
前八時半頃自宅土間において同市警察署巡査A外数名の司法警察職員が被告人が密
造した容疑ある密造濁酒入樽数個を現認し現行犯証拠品として直に差押押收手続を
しようとした折これが執行を免脱する目的を以て突然鉈で樽を壊したり又は横倒し
にしたりして中にあつた濁酒約六斗を放出せしめ以て差押、押收の執行を妨害した
と記載してあり原判決<要旨>も同様の認定をしてこれを刑法第九十六条の二に問擬
している。しかしながら右第九十六条の二の訴因である犯罪事実は債権を保
護するためその強制執行を免るる目的を以て財産を損壊する等の行為を処罰するの
であるからその前提として保護せらるべき債権の存在すること及びその民事訴訟法
による強制執行の施行せらるべきことを必要とするが原判決挙示の証拠によるもそ
の他全記録を精査するも左様な事実は認められないから原判決は破棄せらるべきで
ある。巳にこの点において原判決を破棄する以上爾余の論旨に対する判断は不必要
であるから省略する。次に本件を自判すべきか差戻すべきかについて考察する。前
説明の如く起訴状の二の記載の事実は犯罪の証明がないのであるが右記載の事実中
A巡査等が密造の現行犯ありとして密造濁酒入樽を差押えしようとした時被告人は
突然鉈を以て樽を破壊する等の行動に出たことは認められるから若し被告人におい
てA巡査等に対し暴行又は脅迫を加えた事実がありとすれば刑法第九十五条の訴因
が成立する訳である。しかして右暴行を加えることは必ずしも直接たることを要せ
ず間接の暴行でも足りる。間接の暴行とは直接には物に対して暴行が加えられるの
であるが延いてこれが身体に物理的に感応する底のものをいうのである。刑法第九
十六条の二の犯罪と同第九十五条の犯罪とは訴因は異なるが同一事実の範囲に属す
るものと認められるから訴因の変更又は予備的追加を命じ検察官においてこれに応
じなければそれ迄であるが若し検察官においてこれに応じ右差押に際し直接又は間
接の暴行若しくは脅迫ありとして刑法第九十五条の訴因を維持するならばこの訴因
について審理を為し弁論を尽くして裁判すべきものである。これ等の手続は当審で
為すのが適切でないから本件は原審に差戻し原審をして右措置を為さしむべきを相
当とする。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条第四百条本文に従つて主文の如く判決する。
 (裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

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