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平成17年(行ケ)第10577号特許取消決定取消請求事件
平成19年2月15日判決言渡,平成18年12月18日口頭弁論終結
判決
原告日本ペイント株式会社
訴訟代理人弁理士目次誠,宮崎主税
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人脇村善一,原健司,唐木以知良,田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部
分がある。
第1原告の求めた裁判
「特許庁が異議2003−73382号事件について平成17年6月1日にした
決定を取り消す」との判決。。
第2事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,特許異議の申立てを受けた特許
庁から本件特許を取り消す旨の決定を受けたため,同決定の取消しを求めた事案で
ある。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件特許(甲5)
特許権者:日本ペイント株式会社(原告)
発明の名称:熱線遮蔽板」「
特許出願日:平成10年8月31日
設定登録日:平成15年9月5日
特許番号:第3468698号
(2)本件手続
特許異議事件番号:異議2003−73382号
訂正請求日:平成16年10月25日(甲6。以下「本件訂正」といい,甲6の
訂正明細書を「本件訂正明細書」という)。
異議の決定日:平成17年6月1日
決定の結論:訂正を認める。特許第3468698号の請求項1ないし4に係「
る特許を取り消す」。
決定謄本送達日:平成17年6月20日(原告に対し)
2本件発明の特許請求の範囲の記載(本件訂正後のもの。請求項の番号に応じ
て「本件発明1」などという)。
【請求項1】780∼2100nmの波長域における日射反射率が8.0%以上で
あり,かつ可視領域の波長400∼700nmのいずれの波長においても,その波
長での反射率が10%以下であるFe−Cr系,Cr−Co系,またはFe−Cr
−Co系の焼成顔料からなる黒色顔料を含み,バインダー成分として,ポリエステ
ル樹脂またはアクリル樹脂を,硬化剤成分としてメラミン樹脂及び/またはブロッ
クイソシアネートを含む熱線遮蔽塗料で,アルミ板,亜鉛メッキ鋼板,またはアル
ミ亜鉛メッキ鋼板から選ばれる金属基材を被覆した熱線遮蔽板。
【請求項2】前記黒色顔料が,CoOを0∼30重量%,CrOを20∼5023
重量%,FeOを0∼60重量%(合計で100重量%以下とする)を含有する23
焼成顔料である請求項1に記載の熱線遮蔽板。
【請求項3】前記黒色顔料を全顔料の0.1重量%以上含む請求項1または2に
記載の熱線遮蔽板。
【請求項4】前記金属基材が,アルミ板またはアルミ亜鉛メッキ鋼板である請求
項1∼3のいずれか1項に記載の熱線遮蔽板。
3決定の理由の要点
決定は,本件訂正を認めた上で,本件発明1ないし4は,いずれも刊行物11な
いし14に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項
の規定により特許を受けることができないとした。
(1)引用刊行物(刊行物11∼14以外の記載は省略)
刊行物11(本訴甲1:機能性顔料応用技術,第1章無機顔料の研究開発動向の3複合)「」
酸化物系顔料,15∼28頁,株式会社シーエムシー,1991年6月18日発行
刊行物12(本訴甲2:塗料原料便覧」改訂6版,249-250頁,1993年8月30日,社団法)「
人日本塗料工業会発行
刊行物13(本訴甲3:特開平1−121371号公報)
刊行物14(本訴甲4:特開昭55−71548号公報)
(2)本件発明1について
ア本件発明1と刊行物11に記載された発明との対比
「刊行物11には,複合酸化物系顔料は焼成顔料の一種であること,Fe−Cr系蓄熱防止
顔料(複合酸化物顔料)が記載され「図1.3.7(判決注:以下「引用図」という)にダ,。
ークブラウン色塗料を弁柄と黒顔料で調色する際に,黒顔料としてFe−Cr系顔料を使用し
たものと,カーボンブラックを用いたものとの比較データを示す」と「黒顔料としてFe−。,
Cr系焼成顔料を使用した蓄熱防止用塗料(引用図参照」が記載されている。)
熱線遮断塗料と蓄熱防止塗料とは,塗料として同じ機能を有するものといえ,引用図で示さ
れる結果は「黒色顔料としてFe−Cr複合酸化物顔料を含む蓄熱防止用塗料を塗布したも,
の」による分光反射率を測定したものであると認められるので,その塗布したものを引用発明
として本件発明1と対比する。
Fe−Cr系の焼成顔料からなる黒色顔料を含む熱線遮断塗料で被覆する点で両者は一致す
るが(i)本件発明1では,黒色顔料が「780∼2100nmの波長域における日射反射,,
.,,率が80%以上でありかつ可視領域の波長400∼700nmのいずれの波長においても
その波長での反射率が10%以下である」のに対して,引用発明ではその点が明示されていな
い点(ii)本件発明1では「塗料のバインダー成分として,ポリエステル樹脂またはアクリ,,
ル樹脂を,硬化剤成分としてメラミン樹脂及び/またはブロックイソシアネートを含む」のに
対して,引用発明では,塗料バインダー成分,硬化剤成分についての記載がない点(iii)本,
願発明1では,アルミ板,亜鉛メッキ鋼板,またはアルミ亜鉛メッキ鋼板から選ばれる金属基
材を被覆した熱線遮断板であるのに対して,引用発明には被覆する基材の材質・形状が記載さ
れていない点で相違する」。
イ相違点についての判断
(ア)相違点(i)について
「刊行物11には「Fe−Cr系蓄熱防止顔料」として引用発明の黒顔料であるFe−C,
r系焼成顔料(複合酸化物系顔料)が示されており,それが赤外部の反射率が高いことも記載
されていることから,引用発明のFe−Cr系顔料も当然本件発明1での規定を満たすものと
推認されるが,さらに検討する。
異議3は「一般に,各波長における混合物の分光反射率はそれぞれの化合物の分光反射率,
との間に加成性が成り立つので,引用図のスペクトル図より,各波長における弁柄とFe−C
r系複合酸化物顔料の混合物の分光反射率から弁柄の分光反射率を差し引くことにより,各波
。」。長におけるFe−Cr系複合酸化物の分光反射率を読み取ることができると主張している
これに対して特許権者は上記主張に対し弁柄の銘柄によって分光反射率が602,,,「,.
%のもの,あるいは30.7%のものがあるから,近赤外領域でのFe−Cr系複合酸化物顔
料の分光反射率は求められない」旨主張している。
その点を検討すると「加成性」が成立する点では,両者に意見の相違はない。,
とすれば,刊行物11の引用図に「弁柄+Fe−Cr系複合酸化物顔料」に対する比較対照
資料として示された「弁柄+カーボンブラック(ここでカーボンブラックは可視域から赤外」
域全般の光を吸収するものである)の分光反射率を考慮すれば,Fe−Cr系複合酸化物顔料
の分光反射率に対する寄与率は十分に大きいものといえる。
異議3の,引用発明記載のFe−Cr系複合酸化物顔料の日射反射率に関する「刊行物11
には,引用図に引用発明の塗料の分光反射率が掲載されており,780∼1300nmまでの
測定値しかないが,仮に1300nm∼2100nmの分光反射率を0としても,Fe−Cr
系複合酸化物顔料の日射反射率は,約26%と計算できる」との主張に対する特許権者の「弁
柄の反射率が高い」との主張を採用しても,なお,上記したように「加成性」を考慮すれば,
引用図からみて8%未満となるものとはいえないというのが自然である。
可視領域については,引用図からみて,弁柄との混合物の分光反射率が最大10%付近であ
,,,るから引用発明の黒顔料は可視領域の波長400∼700nmのいずれの波長においても
その波長での反射率が10%以下の条件を満たすものといえる」。
(イ)相違点(ii)について
「刊行物13には,太陽熱遮蔽塗料が記載され,ビヒクルとして「ポリエステル樹脂,ア,
クリル樹脂1種以上(本件発明1のバインダー成分に相当)を主成分とし,必要に応じブロッ
クイソシアネートまたはメラミン樹脂1種以上(同硬化剤に相当)を組み合わせたもの(同」
請求項7)が開示されており,これらのバインダー及び硬化剤を同用途の遮蔽塗料に用いる点
に格別の困難性はない」。
(ウ)相違点(iii)について
「刊行物13には,亜鉛メッキ鋼板,刊行物14には,表面化成処理施した鋼板,亜鉛鉄板
またはアルミニウム板に適用することが記載されており,金属基材の材質・形状の選択は目的
に応じて適宜なし得る程度の事項といえる。
そして,本件発明1の効果をみても,引用発明と同等のものが窺えるにすぎない。
したがって,本件発明1は,刊行物11ないし14に記載の発明に基づいて当業者が容易に
なし得たものであるから,本件発明1に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してなさ
れたものである」。
(3)本件発明2について
「本件発明2は,本件発明1の黒色顔料を,CoOを0∼30重量%,CrOを20∼523
0重量%,FeOを0∼60重量%(合計で100重量%以下とする)を含有する焼成顔料23
と限定しているが,刊行物11,12にそのような黒色顔料が記載されている。
そして,本件発明2の効果をみても,引用発明と同等のものが窺えるにすぎない。
したがって,本件発明2は,刊行物11ないし14に記載の発明に基づいて当業者が容易に
なし得たものであるから,本件発明2に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してなさ
れたものである」。
(4)本件発明3について
「刊行物11には,弁柄に黒色顔料を加えダークブラウンの塗料とすることが示されている
から,引用発明においても,黒色顔料を全顔料の0.1重量%以上含むものといえる。
そして,本件発明3の効果をみても,引用発明と同等のものが窺えるにすぎない。
したがって,本件発明3は,刊行物11ないし14に記載の発明に基づいて当業者が容易に
なし得たものであるから,本件発明3に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してなさ
れたものである」。
(5)本件発明4について
「金属基材が,アルミ板またはアルミ亜鉛メッキ鋼板であるものは,刊行物13,14に記
載されている。
そして,本件発明4の効果をみても,引用発明と同等のものが窺えるにすぎない。
したがって,本件発明4は,刊行物11ないし14に記載の発明に基づいて当業者が容易に
なし得たものであるから,本件発明4に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してなさ
れたものである」。
(6)結論
「以上のとおり,本件発明1ないし4に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してさ
れたものであるから,同法113条2号に該当し,取り消されるべきである」。
第3原告の主張の要点
1本件発明1について
1-1相違点(i)の判断の誤り
刊行物11の引用図に記載された塗料の分光反射率に基づき「特(1)決定は,,
許権者の弁柄の反射率が高いとの主張を採用してもなお上記したように加『』,,『
成性』を考慮すれば,引用図からみて8%未満となるものとはいえないというのが
自然である」と判断した。。
しかしながら,刊行物11の引用図が示しているのは「塗料(塗膜)の分光反,」
射率であり「塗料」の日射反射率から,本件発明1のような「顔料」の日射反射,
率がそのまま導き出されるものでないことは,本件訂正明細書の表1からも明らか
である。例えば,同表の参考例9の黒色顔料Cの日射反射率は3.4%であるが,
これを用いた塗膜の日射反射率は19.1%であり,実施例4の黒色顔料Aの日射
.,.。,反射率は108%であるがその塗膜の日射反射率は198%であるしかも
刊行物11の引用図の分光反射率測定の対象となっている塗料は,弁柄を併用して
いるものであり,弁柄には日射反射率の高いものがあるから,弁柄を併用した塗料
の日射反射率から,Fe−Cr系複合酸化物顔料の日射反射率を求めることはでき
ない。
被告は,刊行物13に基づき,日射反射率が「高い」というのは,90%程度を
いうと指摘する。しかしながら,刊行物13の太陽熱遮蔽顔料の色相は,白色であ
り,白色顔料の反射率は,もともと相対的に高いものであるから,白色顔料におい
て「高い」とされる反射率が90%以上を意味するものであるとしても,黒色顔料
における「高い」とされる反射率が導き出されるものではない。実際のところ,本
件訂正明細書において用いられている実施例の黒色顔料の日射反射率は10.8%
であり,刊行物13における「高い」とされる反射率90%以上よりも相当に低い
ものである。
また,被告は,乙1の赤外線反射塗料の赤外部における反射率も20%を大きく
超えていると主張するが,これは「塗料」の反射率であり「顔料」の反射率では,
ない。このような「塗料」の反射率に基づき「顔料」の反射率を求めることはで,
きない。また,乙1及び刊行物11に示されている反射率は「分光反射率」であ,
り,本件発明1のような「日射反射率」ではない「分光反射率」は,各波長毎の。
反射率を示すものであるのに対し,本件発明1における「日射反射率」は,本件訂
正明細書の段落【0009】に記載されているとおり,太陽光の780∼2100
nmの波長域における各波長の強度によりウェート付けした反射率である。したが
って,乙1及び刊行物11の反射率と,本件発明1における反射率とは,明らかに
異なる。
(2)被告は,刊行物11の引用図に記載された塗料に含まれる顔料の日射反射
率が8%以上であるといえないとしても,相違点(i)の構成は,刊行物11等に基
づいて容易に想到し得ると主張する。しかし,本件発明1の熱線遮蔽板は,780
∼2100nmの波長域における日射反射率が8.0%以上である黒色顔料を含む
熱線遮蔽塗料を,特定の金属基材の上に塗布して熱線遮蔽板とすることにより,温
度上昇を大幅に減少することができるという特有の効果を発揮するものである。し
たがって,本件発明1に係る顔料の上記日射反射率には臨界的な意義があり,当業
者が適宜選択し得るものということはできない。
(3)以上のとおり,決定の相違点(i)の判断は誤りである。
1-2相違点(ii)の判断の誤り
決定は「刊行物13には,太陽熱遮蔽塗料が記載され,ビヒクルとして『ポリ,,
エステル樹脂,アクリル樹脂1種以上(本件発明1のバインダー成分に相当)を主
成分とし,必要に応じブロックイソシアネートまたはメラミン樹脂1種以上(同硬
化剤に相当)を組み合わせたもの(同請求項7)が開示されており,これらのバ』
インダー及び硬化剤を同用途の遮蔽塗料に用いる点に格別の困難性はない」と判。
断した。
,(),しかしながら刊行物13甲3の太陽熱遮蔽塗料組成物に用いられる顔料は
酸化ジルコニウム,酸化イットリウム,酸化インジウムなどの白色系顔料であり,
本件発明1のように黒色顔料を用いるものではない(3頁左上欄11∼13行。)
したがって,刊行物13のバインダー及び硬化剤を本件発明1と同様の用途の遮
蔽塗料に用いる点に格別の困難性はないとした決定の判断は,誤りである。
1-3相違点(iii)の判断の誤り
決定は「刊行物13には,亜鉛メッキ鋼板,刊行物14には,表面化成処理を,
施した鋼板,亜鉛鉄板またはアルミニウム板に適用することが記載されており,金
属基材の材質・形状の選択は目的に応じて適宜なし得る程度の事項といえる。そし
て,本件発明1の効果をみても,引用発明と同等のものが窺えるにすぎない」と。
判断した。
しかしながら,本件発明1の熱線遮蔽板は,780∼2100nmの波長域にお
ける日射反射率が8.0%以上である黒色顔料を用い,この黒色顔料を含む熱線遮
蔽塗料を,アルミ板,亜鉛メッキ鋼板,又はアルミ亜鉛メッキ鋼板から選ばれる金
属基材の上に塗布し,熱線遮蔽板とするものであり,これらの特定の黒色顔料を含
む熱線遮蔽塗料を,特定の金属基材の上に塗布して熱線遮蔽板とすることにより,
温度上昇を大幅に減少することができるという特有の効果を発揮するものである。
このような本件発明1の効果は,本件訂正明細書の表1,2から明らかである。
表1,2に記載された各実施例又は参考例と比較例の基板裏面温度の差を比較する
と,実施例1∼6の熱線遮蔽板(780∼2100nmの波長域における日射反射
率が10.8%である黒色顔料を用いた熱線遮蔽塗料でアルミ板又は亜鉛メッキ鋼
板を被覆したもの)においては,それぞれ対応する比較例(実施例1と比較例1な
どとの温度差が8℃∼12℃と大きな温度差になっているこれに対し参考例7)。,
(ポリカーボネート板を基板として用いたもの)においては3℃の温度差になって
いるまた日射反射率が34%の黒色顔料を用いアルミ板を被覆した参考例9。,.,
においても3℃の温度差になっている。このことは,日射反射率が8.0%以上の
黒色顔料を用い,特定の金属基材と組み合わせると,温度上昇を大幅に減少できる
ことを示している。本件発明1のこのような特有の効果はいずれの引用刊行物にも
記載されていない顕著なものである。
実施例又は参考例の日射反射率と,これに各対応する比較例の日射反射率との差
を表す「反射率差」は,実施例においては7∼13.3%の範囲であり,基板にポ
リカーボネート板を用いた場合は12.7%であり,日射反射率が3.4%の黒色
顔料を用いた参考例9と比較例1では5.4%である。参考例7と9とを比較する
と,どちらも同じ温度差3℃であるが,ポリカーボネート板の場合には,反射率差
が大きいにもかかわらず温度差が小さくなっている。ポリカーボネート板は熱伝導
率が低いので,比較例の基板裏面温度が50℃と低い状態になっているが,このよ
うな熱伝導率の影響をなくすため,温度低減率(温度差/比較例の基板裏面温度)
で評価すると,ポリカーボネート板を用いた場合には6.0%の低減率となり,日
射反射率3.4%の黒色顔料を用いた参考例9の場合,3.9%の温度低減率とな
る。
さらに,実施例又は参考例との反射率差の影響をなくすため「温度低減率/反,
射率差」の比率で評価すると,実施例1∼6においては,1.74∼0.89の範
囲であるのに対し,ポリカーボネート板を用いた参考例7では0.47となり,日
射反射率が3.4%の黒色顔料を用いた参考例9では0.72となる。温度低減率
では,基板裏面温度の絶対的な大きさの影響を受けないようにして評価しており,
この場合でもポリカーボネート板を用いた参考例7の「温度低減率/反射率差」が
低い値を示しているのは,基板の違いによって(すなわちポリカーボネートでは)
本件発明1の効果が得られないことを裏付けるものである。
基板により上記のような差異が生じるのは,780∼2100nmのような波長
の長い光が塗膜に照射された場合,一部の光は,塗膜面で反射されずに,そのまま
透過し,基板表面に到達し,その基板表面で透過光の一部が反射するため,同じ塗
膜を形成した場合においても,基板によって熱線遮蔽効果が異なるからであると推
測される。
,。被告は基板裏面温度と塗膜の日射反射率とが相関関係を有していると主張する
確かに,塗膜の日射反射率と基板裏面温度の上昇にはある程度の相関関係があるの
は当然であり,塗膜の日射反射率を同一にすれば,基板裏面温度もほぼ同程度にな
るのは当然である。しかしながら,本件発明1の作用効果は,同程度のL値を有す
る塗膜において,日射反射率が8.0%以上の黒色顔料を用いることにより,高い
日射反射率の塗膜が得られ,基板裏面温度を低減することができるというものであ
る。したがって,L値の異なる塗膜を比較することは何ら意味がないのであり,こ
の点を前提としない被告の主張は失当である。
以上のとおり,相違点(iii)についての決定の判断は,特定の黒色顔料と基板と
,。を用いる相乗効果を看過したものであり誤りであるから取り消されるべきである
2本件発明2について
前記のとおり,決定は本件発明1の認定及び判断を誤っているので,本件発明1
の従属項である本件発明2についても,その判断を誤っていることになる。
3本件発明3について
前記のとおり,決定は本件発明1の認定及び判断を誤っているので,本件発明1
の従属項である本件発明3についても,その判断を誤っていることになる。
4本件発明4について
決定は,金属基材がアルミ板又はアルミ亜鉛メッキ鋼板のものは,刊行
物13,14に記載されていると認定しているが「アルミ亜鉛メッキ鋼板」は,,
()()。,刊行物13甲3及び刊行物14甲4のいずれにも記載されていないまた
前記のとおり,決定は本件発明1の認定及び判断を誤っているので,本件発明1の
従属項である本件発明4についても,その判断を誤っていることになる。
第4被告の主張の要点
1本件発明1について
1-1相違点(i)の判断について
(1)刊行物11の「3.6.4Fe−Cr系蓄熱防止顔料」には「Fe−,
Cr系複合酸化物系顔料も赤外部の反射率が高く,蓄熱防止用として検討されてい
る。図1.3.7にダークブラウン色塗料を弁柄と黒顔料で調色する際に,黒顔料
としてFe−Cr系顔料を使用したものと,カーボンブラックを用いたものとの比
較データを示す(23頁下から4∼1行)との記載があり,Fe−Cr系複合酸。」
化物顔料は黒色であること及び赤外部の反射率が高いことが開示されている。
刊行物11に記載された赤外部とは,可視領域(波長400∼700nm)より
波長が長い700nmを超える波長の領域をいうところ,刊行物11には780
∼2100nmの波長域における日射反射率が8.0%以上という明示の記載はな
い。
しかしながら,例えば,刊行物13(甲3)には,紫外線及び近赤外域において
太陽輻射熱反射率が「高い(2頁右下欄5∼6行)顔料及びこれを含む太陽熱遮」
蔽塗料が開示され,その反射率について「380nm以下および780nm以上の
可視光以外での反射率が90%以上(3頁左上欄5∼6行)と記載されている。」
刊行物13の塗料は,刊行物11の蓄熱防止用顔料又は塗料と同類のものであり,
その顔料の太陽輻射熱反射率は,本件発明1の日射反射率と同様の方法により算出
されるものであるから,刊行物11に記載された日射反射率と同等のものと認めら
れる。そうすると,蓄熱防止用顔料又は塗料において光の反射率が「高い」という
場合には,90%のような値を指すのであり,刊行物11の「赤外部の反射率」も
「高い」ものである以上,その顔料の日射反射率が8.0%は超えることは明らか
である。
また,乙1は「赤外線反射塗料」に関する文献であり,刊行物11に記載され,
た「蓄熱防止用塗料」とほぼ同等の塗料について開示するものである。乙1には,
「ここで述べる赤外線反射塗料は・・・,太陽からの熱線(赤外線)を効率よく反
射する機能を持っている(27頁左欄下から9∼6行「図1に今回開発した,」),
透明赤外線反射塗料の吸収スペクトル・・を示す(同頁右欄18∼20行)と記。」
載されるとともに,赤外線を効率よく反射する塗料とされる「本報告の赤外線反射
塗料」のグラフが示され,その塗料の赤外線領域の吸収率が示されている。反射率
は,概ね100から吸収率を除した値と考えられるから,同グラフには,その赤外
部における反射率が20%を大きく超えることが示されているということができ
る。
(2)仮に,刊行物11の引用図に記載されたFe−Cr系複合酸化物顔料の日
射反射率を8.0%以上と認定できないとしても,以下のとおり,本件発明1は特
許を受けることができない。
そもそも,顔料の日射反射率が高ければ,熱線が内部に透過しないので,基板裏
面温度は低くなるから,蓄熱防止用として用いる場合に日射反射率の高い顔料を用
。,,,,いるのは当然のことであるそして本件発明1はFe−Cr系Cr−Co系
又はFe−Cr−Co系顔料の成分等についてこれを特殊なものとすることによっ
.。,,て「80%以上」という数値を規定したわけではないそうすると本件発明1は
単に,蓄熱防止用として性能の良いFe−Cr系複合酸化物系顔料を選択したこと
を示すのに「8.0%以上」という数値を規定したものにすぎず,「8.0%以上」とい
う数値には,それ以上の技術的意義はない。
232顔料として日射反射率が108%の黒色顔料AFeO50重量%Cr,.(,
,),O25重量%CoO25重量%のスピネル構造を有する焼成顔料であっても3
同504%の黒色顔料Bアゾメチンアゾ系黒色有機顔料であっても同34.(),.
%の黒色顔料C(CuO/CrO/MnO)であっても,同0.6%の黒色顔2323
料X(カーボンブラック顔料)であっても,基板裏面温度は,顔料の日射反射率に
は関係なく,塗膜の日射反射率に依存している。また,塗膜の日射反射率以外の要
素(黒色顔料日射反射率,塗膜のL値,塗膜の光沢及び塗膜の膜厚)と基板裏面温
度には,明確な相関関係は認められない。亜鉛メッキ鋼板及びポリカーボネート板
についても測定結果からでは十分ではないが,塗膜の日射反射率と基板裏面温度と
が負の関係を有しているものと考えられ,基板の裏面温度は,各塗膜の日射反射率
と,基板が有する特性,すなわち,熱容量,熱伝導率,日射反射率等とによって決
まるものと考えられる。これらの結果をみれば,本件発明1の効果は,顔料の日射
反射率とは関係なく決まるものであり,その値を8.0%以上とすることについて
臨界的意義があるということはできない。
また,本件発明1の本件特定顔料を配合した塗膜の日射反射率は,その配合割合
や併用するその他の顔料の種類にも依存して広範囲に調整され得るものであり,本
件黒色顔料の全顔料における配合割合の下限は01%本件訂正明細書の段落0.(【
015)であるから,その日射反射率は,例えば比較例4の13%程度さらにそ】
れ以下ともなり得ると考えられその場合の基板裏面の温度はアルミ基板の場合8,,
0℃超にもなると予想される。本件発明1には,このようなものまでも包含される
のであるから,本件発明1は,特許請求の範囲に記載されたすべての範囲において
格別顕著な技術的効果を奏するものでもない。
以上のとおり,本件発明1の顔料の日射反射率を8.0%以上とすることには臨
界的意義はなく,蓄熱防止用としてFe−Cr系複合酸化物系顔料を選択したこと
以上の技術的意味はないのであるから,相違点(i)に係る構成は,当業者であれば
容易に想到し得たものである。
1-2相違点(ii)の判断について
原告は,刊行物13の顔料が白色顔料であることを指摘し,決定の相違点(ii)の
判断は誤りであると主張する。
たしかに,刊行物13(甲3)の太陽熱遮断顔料の色相は白であるといえるが,
この顔料は,例えば「C)モル比1対1の酸化チタンと酸化マグネシウムを16(
00℃で焼成し得た化合物を,粉砕し平均粒径12μの粉末を得た。この物質の可
視光以外の領域での反射率が91%であり,全領域での太陽輻射反射率が,86%
であった(4頁16∼20行)との記載があるように2種以上の金属酸化物から」
なる焼成顔料を含むものであり,刊行物11のFe−Cr系複合酸物系顔料と同じ
金属複合酸化物系顔料である。したがって,ビヒクル(バインダーと硬化剤)の選
択が,顔料の色の相違によって左右されるものではないことは明らかである。
そうすると,相違点(ii)の判断において,決定が色相の相違に触れることなく,
刊行物13に記載されたバインダー及び硬化剤を同用途の遮蔽塗料に用いる点に格
別の困難性はないとした点に誤りはない。
1-3相違点(iii)の判断について
原告は,決定は相違点(iii)の判断に当たり本件発明1の効果を看過したもので
あると主張する。
しかしながら,本件訂正明細書に記載された各実施例,参考例,比較例の全塗膜
の日射反射率と基板裏面温度を比較検討すると,基板裏面の温度の上昇の程度は,
基板が金属であるときは,金属の種類や,塗膜中の黒色顔料自体の日射反射率等よ
りも,塗膜の日射反射率の相違により大きく影響されることがわかる。他方,金属
に比べると,ポリカーボネートの熱伝導率は非常に小さい,すなわち,断熱効果が
大きいので,熱が裏面へ到達しにくいことも予想され,本件訂正明細書の図1によ
れば,基板がポリカーボネートの場合は,同じ日射反射率の塗膜であっても,基板
,。が金属である場合に比べて基板裏面温度の上昇の程度が小さいことが認められる
そうすると,基板裏面温度の上昇の程度は,主として,塗膜の日射反射率,さらに
基板が金属であるかポリカーボネートであるかどうかに依存するものであり,特定
顔料と特定基材との組合せに依存するものとはいえない。
原告は,同等のL値で日射反射率を高めることが本件発明1の目的のひとつであ
ると主張するが,この主張は,本件訂正明細書の記載に基づくものではない。黒色
顔料で日射反射率が小さいカーボンブラックと,同じ黒色顔料で日射反射率が大き
いFe−Cr系等の焼成顔料を塗膜に含有させた場合,塗膜としてのL値が同等で
あれば,日射反射率が大きいFe−Cr系等の焼成顔料を含有する塗膜の方が熱線
反射が大きく,その結果,基板の温度上昇は抑制され,基板裏面温度の上昇度が低
くなることは当然である。原告は,カーボンブラックを従来の黒色顔料であるとし
て,上記焼成顔料と比較しているが,本件出願前に公知であった刊行物11には,
Fe−Cr系複合酸化物焼成顔料を蓄熱防止用塗料に用いることが記載されている
から,このようなFe−Cr系複合酸化物焼成顔料を含む塗料と本件発明1に係る
蓄熱防止用塗料とを比較すべきである。
,「」「」,原告は反射率差及び温度低減率/反射率差なる指標に依拠しているが
これは,本件訂正明細書に記載も示唆もされていないものであるから,かかる主張
は,本件訂正明細書の記載に基づかない主張である。しかも,実施例1∼6は同一
の黒色顔料Aを含有する塗膜を用い,比較例1∼6も同一の黒色顔料Xを含有する
,,塗膜を用いている上に上記実施例及び比較例は基板も同一であるにもかかわらず
測定された基板裏面温度から算出された「温度低減率/反射率差」は,1.00か
ら1.74まで大きく異なっている。これは,塗膜の日射反射率と基板裏面温度に
ついての個々のデータが誤差を含むからであると考えられ,このようなデータに基
づいて,本件発明1の特定の黒色顔料と特定の金属基板とを組み合わせることに格
別の作用効果はあるということはできない。
2本件発明2について
本件発明1についての決定の判断には誤りはないのであるから,それに基づいて
本件発明2についての判断が誤りであるということはできない。
3本件発明3について
本件発明1についての決定の判断には誤りはないのであるから,それに基づいて
本件発明3についての判断が誤りであるということはできない。
4本件発明4について
本件発明1についての決定の判断には誤りはないのであるから,それに基づいて
本件発明4についての判断が誤りであるということはできない。
決定の本件発明4についての記載のうち「金属基材が,アルミ板またはアルミ,
,,(,)。」亜鉛メッキ鋼板であるものは刊行物1314甲34に記載されている
との部分は,相違点(iii)の対比・判断における「刊行物13には,亜鉛メッキ鋼
板,刊行物14には,表面化成処理施した鋼板,亜鉛鉄板またはアルミニウム板に
適用することが記載されており」との記載と同趣旨であることは明らかである。
したがって,本件発明4についての決定の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1本件発明1について
1-1相違点(i)の判断の誤り
(1)決定は,相違点(i)を「本件発明1では,黒色顔料が『780∼2100,
nmの波長域における日射反射率が8.0%以上であり,かつ可視領域の波長40
0∼700nmのいずれの波長においても,その波長での反射率が10%以下であ
る』のに対して,引用発明ではその点が明示されていない点」と認定した。
その上で,決定は,①各波長における混合物の分光反射率はそれぞれの化合物の
分光反射率との間に加成性が成り立つこと,②刊行物11には「Fe−Cr系蓄,
熱防止顔料」としてFe−Cr系焼成顔料が示されており,その赤外部の反射率が
高いと記載されていること,③刊行物11の引用図の「弁柄+カーボンブラック」
の分光反射率と対比すれば,同図の「弁柄+Fe−Cr系複合酸化物顔料」におけ
る「Fe−Cr系複合酸化物顔料」の分光反射率に対する寄与率は十分に大きいと
いえることなどを根拠に,刊行物11の顔料の日射反射率は8%以上であると判断
した。
これに対し,原告は,決定の上記判断は誤りであると主張するので,以下,検討
する。
アまず,刊行物11(甲1)には,以下の記載がある。
(a)「3.1はじめに
複合酸化物系顔料は焼成顔料の一種であり,弁柄(FeO)や酸化チタン(TiO)の232
ように単一金属の酸化物ではなく,二種以上の金属酸化物の複合体からなる一種の顔料であ
る(15頁3∼5行)。」
(b)「3.2複合酸化物系顔料の種類
複合酸化物系顔料の色は他の無機顔料の発色と同様,それに含まれる元素によって決定され
る。
複合酸化物系顔料の構成元素を色に影響を与えるものから見て分類するとおおむね次のよう
に表される。
(1)顔料の成分として常に色を与える元素
Cr,Co,Ni,Fe,Mn,Cuなど
・・・
複合酸化物系顔料には,必ず(1)のグループの元素が含まれており,またその発色はそれ
ぞれの元素のイオンの価数と配位数,およびその組み合わせにより決定される。
複合酸化物系顔料は各種金属の組み合わせとその配合比を変えることにより数多くの種類の
顔料が得られる(15頁15∼28行)。」
(c)「3.6.4Fe−Cr系蓄熱防止顔料
黒色顔料として汎用的に使用されているカーボンブラックを始め,黒色顔料の多くは可視域
から赤外域全般の光を吸収する性質を有する。
夏場のエネルギー節減から室内の温度を高くしない方策はいろいろな面から検討されている
が,赤外域の反射率の高い顔料を着色材として使用する方法も有効である。このような特性を
有する顔料としてはアゾメチンアゾ系やペリレン系の有色顔料が知られているが,Fe−Cr
系複合酸化物系顔料も赤外部の反射率が高く蓄熱防止用として検討されている図137,。..
にダークブラウン色塗料を弁柄と黒顔料で調色する際に,黒顔料としてFe−Cr系顔料を使
,。」()用したものとカーボンブラックを用いたものとの比較データを示す23頁18∼32行
(d)「図1.3.7
(23頁)」
,,,イ上記記載のとおり刊行物11には室内の温度が高くなることを防ぐため
赤外域の反射率の高い顔料を着色材として使用する方法が有効であることが開示さ
れ,とりわけ,Fe−Cr系複合酸化物系顔料は赤外部の反射率が高いことが記載
されている。また,刊行物11の引用図には「蓄熱防止用塗料の分光反射率」と,
して「弁柄+Fe−Cr系複合酸化物顔料」と「弁柄+カーボンブラック」の分光
反射率が対比して示され,780nm以上の波長域における「弁柄+Fe−Cr系
複合酸化物顔料」の分光反射率は「弁柄+カーボンブラック」の分光反射率より,
も相当程度高い数値を示している。
しかしながら刊行物11の上記記載及び引用図は本件発明1と異なり①顔,,,「
料」ではなくて「塗料」を対象にするものであり,②「Fe−Cr系複合酸化物顔
料」と「カーボンブラック」のいずれについても弁柄が加えられており,③反射率
が「日射反射率」ではなく「分光反射率」である(引用図に分光反射率の数値が記
載されていることに照らすと,刊行物11の「反射率」との言葉も分光反射率を意
味するものと考えられる。。)
したがって,刊行物11には「弁柄及びFe−Cr系複合酸化物顔料からな,
り,780∼1300nmの波長域における分光反射率が8.0%以上である蓄熱
防止用塗料」は開示されているが「780∼2100nmの波長域における日射,
反射率が8.0%以上であるFe−Cr系の焼成顔料からなる黒色顔料」が直接的
に開示されているということはできない。
ウそこで,次に,刊行物11の記載及び引用図から,刊行物11には「780
∼2100nmの波長域における日射反射率が8.0%以上であるFe−Cr系の
焼成顔料からなる黒色顔料」が実質的に記載されているということができるかどう
かについて検討する。
(ア)本件訂正明細書には,日射反射率の算出方法に関し,以下の記載がある。
(a)「・・・日射反射率は,JISA5759に記載された反射率であり,太陽光の78
0∼2100nmの波長域における各波長の強度によりウエイト付けした反射率である・・。
・(段落【0009)」】
(b)「塗膜の評価得られた試験片上の塗膜について,ハンターの色差計によりL値を測定
し,スガ試験機社製光沢計UGK−5Kにより光沢を測定した。また,分光反射スペクトルを
測定し,日射反射率を算出した。分光反射スペクトルは,高反射率の硫酸バリウム系白色塗料
を基準(反射率100%)として,試験片の塗膜の反射スペクトルを分光光度計(島津製作所
製,UV−3101)を用いて測定した。図4は,実施例1及び比較例1の各塗膜の反射スペ
クトルを示す図である。以上のようにして測定された分光反射スペクトルに基づき,黒色顔料
の日射反射率と同様にして,塗膜の日射反射率を算出した。以上の測定結果を表1及び表2に
示す(段落【0036)。」】
(イ)上記記載によれば,本件発明1における「780∼2100nmの波長域
における日射反射率」は「太陽光の780∼2100nmの波長域における各波,
長の強度によりウエイト付けした反射率」であって,測定した分光反射スペクトル
の反射率から,JISA5759に従い算出されるものであると認められる。そ
うすると,分光反射率は,日射反射率の算出に使用される測定値ではあるが,日射
反射率とは異なる指標であるということができる。
ただし,分光反射率は日射反射率の算出に使用される測定値であるから,刊行
物11の塗料の分光反射率に基づいて,顔料の日射反射率を算出することができる
かどうかが問題となるが,前記判示のとおり,刊行物11の引用図に示されている
のは「蓄熱防止用塗料」の分光反射率であり,塗料には,顔料以外に,樹脂,硬化
剤,添加剤等が含まれている。刊行物11の引用図には「塗料」の分光反射率が,
記載されているが「顔料」の分光反射率の数値が記載されておらず,顔料等の配,
合割合も明らかではないから,仮に,塗料における顔料等の分光反射率に加成性が
成り立つとしても,引用図に示された塗料の分光反射率の値から「Fe−Cr系複
合酸化物顔料」の分光反射率を正確に算出することはできない。また,本件発明1
の表1,2を見ても,顔料の日射反射率と塗膜の日射反射率は相当程度異なってい
ることは,原告の指摘するとおりである。
なお,刊行物11の引用図においては,成分の異なる2種類の塗料が対比して表
示されているので,その差に基づいて含有成分の分光反射率を算出することも考え
られる。しかしながら,刊行物11の引用図における2種類の塗料の対比から「F
e−Cr系複合酸化物顔料」の分光反射率を算出するには,両者の塗料の顔料以外
の配合成分が同一であり,同図の塗料における顔料等の配合成分の分光反射率につ
いて加成性が成立し,両者の塗料の顔料等の配合割合が同一であることが前提とな
るが,刊行物11からはこれらの点は明らかではない。
エ被告は,刊行物13(甲3)に「紫外線および近赤外域で高い太陽輻射熱反
射率を有する(2頁右下欄5∼6行)顔料について「380nm以下および78」
0nm以上の可視光以外での反射率が90%以上(3頁左上欄5∼6行)との記」
載があることから,刊行物11の「Fe−Cr系複合酸化物系顔料も赤外部の反射
率」が「高く」とは90%程度をいうものであり,その日射反射率が8%を超える
ことは明らかであると主張する。
しかしながら,刊行物13の太陽熱遮断顔料は「350nmから2100nm,
の全領域での反射率が85%以上が好ましく(3頁左上欄6∼8行)と記載され」
ているとおり,可視全領域の光の反射率が高いものであるから,その色相は白であ
ると考えられる。そうすると,刊行物13の顔料の反射率の数値が相対的に大きい
のは当然であり,同刊行物の顔料の日射反射率が「90%以上」であるからといっ
て,その数値から刊行物11の黒色顔料の反射率を推知することはできないという
べきである。
また,被告は,乙1の赤外線反射塗料の反射率が20%を大きく超えるものであ
ることを理由として,刊行物11の顔料の日射反射率が8%未満ということは考え
られないと主張する。しかしながら,乙1の「赤外線反射塗料」は,顔料ではなく
塗料であり,塗料の反射率から顔料の反射率を推知することはできない。
オ以上によれば,刊行物11の記載及び引用図に基づいて,刊行物11記載の
Fe−Cr系複合酸化物系顔料の日射反射率が8%以上であると認定することはで
きない。
(2)しかしながら,前記判示のとおり,刊行物11には「夏場のエネルギー節,
減から室内の温度を高くしない方策はいろいろな面から検討されているが,赤外域
の反射率の高い顔料を着色材として使用する方法も有効である。このような特性を
有する顔料としてはアゾメチンアゾ系やペリレン系の有色顔料が知られているが,
Fe−Cr系複合酸化物系顔料も赤外部の反射率が高く,蓄熱防止用として検討さ
。」,,,れていると記載され引用図には700nm∼1300nmの範囲において
黒色顔料としてFe−Cr系顔料を使用したものの方が,カーボンブラックを用い
たものよりも高い分光反射率を有することが図示されているすなわち刊行物11。,
には,室内の温度が高くなることを防止するため,赤外部の反射率が高いFe−C
r系複合酸化物系顔料を用いることが示唆されている。
他方,本件発明1は「建築物の屋根や外壁等に塗装することができる熱線遮蔽,
塗料に関するもの,さらには太陽熱遮蔽塗料に関するもの(段落【0001)」】
であり「建築物の屋根や外壁等に塗装することができる黒色顔料を含む熱線遮蔽,
塗料で被覆された熱線遮蔽板を提供すること(段落【0007)を目的とするも」】
のである。
このように,刊行物11記載の蓄熱防止用塗料と,本件発明1で用いられる熱線
遮蔽塗料とは,塗料として共通する機能・目的を有するとともに,赤外部の反射率
の高い黒色顔料を含有する点でも共通するものであるから,本件発明1の熱線遮蔽
板において,赤外部において高い反射率を有するFe−Cr系の焼成顔料からなる
黒色顔料を含有させることは,当業者であれば容易に想到し得る事項であるという
ことができる。
(3)そこで,さらに進んで,本件発明1の構成のうち「780∼2100nm,
の波長域における日射反射率が8.0%以上」であることの意義について,検討す
る。
ア本件訂正明細書には,以下の記載がある。
0001【発明の属する技術分野】本発明は,建築物の屋根や外壁等に塗装する(a)「【】
ことができる熱線遮蔽塗料に関するもの,さらには太陽熱遮蔽塗料に関するものである。
【0002【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】建築物の屋根等においては,】
汚れを目立たなくする必要があることから,濃彩色系塗料が使用されることが多い。しかしな
がら,濃彩色系塗料は一般に太陽光を吸収し易く,このため室内の温度が上昇し易い」。
(b)「0007】本発明の目的は,建築物の屋根や外壁等に塗装することができる黒色顔【
料を含む熱線遮蔽塗料で被覆された熱線遮蔽板を提供することにある」。
(c)「0009】本発明の熱線遮蔽塗料において用いる黒色顔料の780∼2100nm【
の波長域における日射反射率は3.0%以上であり,好ましくは8.0%以上である。日射反
射率は,JISA5759に記載された反射率であり,太陽光の780∼2100nmの波
長域における各波長の強度によりウエイト付けした反射率である。日射反射率が上記範囲より
,,,も小さいと十分な熱線遮蔽性が得られず建築物の屋根や外壁等に塗装する塗料とした場合
室内温度の上昇を十分に低減することができない。
【0010】本発明の熱線遮蔽塗料は,上記のように太陽光における各波長の強度を考慮し
た日射反射率を有する黒色顔料を含むものであるので,特に太陽熱遮蔽塗料として優れた効果
を発揮し得るものである」。
(d)「0015】本発明の熱線遮蔽塗料において,上記黒色顔料の含有量は,特に限定さ【
れるものではなく,使用する顔料の種類や性質に応じて適宜調整されるが,全顔料の0.1重
量%以上含まれることが好ましい。特に,上記焼成顔料を黒色顔料として用いる場合には,全
顔料の1.0重量%以上含まれることが好ましい。
【0016】また,本発明において用いる黒色顔料は,400∼700nmの各波長におけ
る反射率が10%以下である。このような黒色顔料を用いることにより,真の黒色に近い黒色
系塗料とすることができる」。
(e)0044表1及び表2の結果から明らかなように実施例判決注:正確には実「【】,(「
施例及び参考例)で用いた黒色顔料A及びCは,780∼2100nmの波長域における日」
射反射率が3.0%以上であり,これらの黒色顔料を配合した塗膜の日射反射率も,比較例の
。,,()塗膜に比べ高い値となっているまた各実施例の塗膜を用いた場合基板裏面試験片裏面
及び箱内の温度は,比較例の場合に比べ低い温度となっている。特に,箱内の温度は3℃程度
低い温度となっている。この温度差は,住居,倉庫等の建築物に適用されると居住空間の快適
性及び室内の冷房効率からは無視できない程大きい値である。従って,実施例の塗膜は,優れ
た熱線遮蔽性または太陽熱遮蔽性を有していることがわかる。
【0045【発明の効果】本発明の熱線遮蔽塗料は,黒色顔料を有し,かつ優れた熱線遮】
蔽性を有している。従って,建築物の屋根や外壁等に塗装し,良好な熱線遮蔽性または太陽熱
遮蔽性を発揮することができる塗料である」。
イ上記記載によれば,本件発明1の熱線遮蔽塗料において用いる黒色顔料
の780∼2100nmの波長域における日射反射率は3.0%以上,好ましく
は8.0%以上であるとされ,日射反射率が上記範囲よりも小さいと,十分な熱線
遮蔽性が得られず,建築物の屋根や外壁等に塗装する塗料とした場合,室内温度の
上昇を十分に低減することができないとされている。しかしながら,本件訂正明細
書には,Fe−Cr系の焼成顔料からなる黒色顔料の780∼2100nmの波長
.,「.」域における日射反射率を80%とすることについて好ましくは80%以上
と記載されているにすぎず,同数値が臨界的意義を有する旨の説明はなされていな
い。
ウ原告は,本件発明1の基板裏面温度について,実施例及び参考例と比較例と
の差を対比すると,日射反射率が10.8%である黒色顔料を用いた熱線遮蔽塗料
を用いるとともに基板としてアルミ板または亜鉛メッキ鋼板を用いた実施例1∼6
では,それぞれ対応する比較例との温度差が8∼12℃であるのに対し,日射反射
率が10.8%である黒色顔料を用いるとともに基板としてポリカーボネート板を
用いた参考例7,日射反射率が3.4%の黒色顔料を用いるとともに基板としてア
ルミ板を用いた参考例9では,温度差が3℃であることを指摘し,本件発明1は,
日射反射率が8.0%以上の黒色顔料を用い,かつ特定された基板を用いることに
より温度上昇の大幅な減少という顕著な効果が得られるのであるから,780
.,∼2100nmの波長域における日射反射率を80%以上とすることについては
臨界的な意義があると主張する。
(ア)そこで,本件訂正明細書に記載された実施例,参考例,比較例をさらに検
討すると,同明細書には,熱線遮蔽性に関する試験方法及び評価に関して,以下の
記載がある。
(a)「0028】【
【発明の実施の形態】
黒色顔料
黒色顔料として,以下の顔料を準備した。
【0029・黒色顔料A(無機系)…FeO50重量%,CrO25重量%,CoO】2323
25重量%のスピネル構造を有する焼成顔料。
・黒色顔料B(有機系)…アゾメチンアゾ系黒色有機顔料。
・黒色顔料C(無機系)…CuO/CrO/MnO系焼成顔料。2323
・黒色顔料X(カーボン系)…カーボンブラック顔料,商品名「MA−100,三菱カーボ」
ン社製。
・黒色顔料Y(カーボン系)…カーボンブラック顔料,商品名「FW−200,デグサ…社」
製」。
「0037】熱線遮蔽性の評価(b)【
上記の試験片について,図2に示す試験装置を用いて熱線遮蔽性を評価した。図2に示すよう
に試験片1を発泡スチロール箱7の上面に塗膜が上になるようにして嵌め込み試験片1,,,,
の上方に設けた白熱灯2により試験片1を加熱し,試験片1の裏面に設置した温度センサー3
及び試験箱7内に設置した温度センサー4により温度を測定し,記録計5で測定温度を記録し
た。また,白熱灯2は,電源6により点灯させた。
【0038】試験片としては,寸法320mm×230mmを用いた。試験箱7としては,厚
さMが30mmで寸法が350×250×250mmの発泡スチロール箱を用いた白熱灯2,。
と試験片1の塗膜との間の距離Lを150mmとした。
【0039】記録計5としては,サーモレコーダーRT−10(タバイエスペック社製)を用
い,白熱灯2としては,東芝レフランプ「RF110V200W(東芝社製)を用いた。ま」
た,室温は24±1℃に保った。
【0040】図1は,以上のようにして得られた実施例1及び実施例2の測定温度結果を示す
図である。図1に示されるように,試験片裏面及び試験箱内の温度は,時間の経過と共にほぼ
一定の温度に到達しており,試験片裏面において,実施例1の塗膜は比較例1に対し10℃程
度低い温度となっている。また,試験箱内においても実施例1の塗膜は比較例1に対し3℃程
度低い温度となっている。
【0041】表1及び表2には,各試験片について一定温度に達した時点における温度を示し
ている。
【0042】
【0043】
0044表1及び表2の結果から明らかなように実施例で用いた黒色顔料A及びCは78【】,,
0∼2100nmの波長域における日射反射率が3.0%以上であり,これらの黒色顔料を配
合した塗膜の日射反射率も,比較例の塗膜に比べ高い値となっている。また,各実施例の塗膜
を用いた場合,基板裏面(試験片裏面)及び箱内の温度は,比較例の場合に比べ低い温度とな
っている。特に,箱内の温度は3℃程度低い温度となっている。この温度差は,住居,倉庫等
の建築物に適用されると居住空間の快適性及び室内の冷房効率からは無視できない程大きい値
である。従って,実施例の塗膜は,優れた熱線遮蔽性または太陽熱遮蔽性を有していることが
わかる」。
(イ)上記記載のとおり,本件訂正明細書の表1には,本件発明1に係る塗料を
用いた実施例1∼6,黒色顔料及び金属基板の組合せが実施例のものと異なる参考
例7∼9が記載され,表2には,実施例のものと比べて黒色顔料は異なるが同一の
色相(L値)となるように作製された比較例1∼8が記載されている。そして,実
2施例1∼6のうち,実施例1∼5は,日射反射率10.8%の黒色顔料A(Fe
O50重量%,CrO25重量%,CoO25重量%のスピネル構造を有323
する焼成顔料)を配合した塗料を用い,基板をアルミ板としており,実施例6は,
実施例1∼5と同じ黒色顔料Aを用い,基板を亜鉛メッキ鋼板としている。他方,
参考例7は,基板としてポリカーネート板を使用した点,参考例8及び9は,黒色
顔料として黒色顔料B(アゾメチンアゾ系黒色有機顔料)及び黒色顔料C(CuO
/CrO/MnO系焼成顔料)を使用した点で実施例1∼5と異なる。2323
表1,2に示された上記試験結果によれば,実施例1∼6と各対応する比較例1
∼6との基板裏面温度の差は8∼12℃であり,基板が本件発明1と異なる参考
例7,黒色顔料が本件発明1と異なる参考例9は,それぞれ比較例7及び8との同
温度差が3℃であると認められるので,実施例1∼6の同温度差は,参考例7,9
のものよりも大きいということができる。そうすると,実施例1∼6の熱線遮蔽板
は,参考例よりも良好な熱線遮蔽性を有しているということができる。
しかしながら,実施例1∼6は,黒色顔料の日射反射率を10.8%とするもの
であり,参考例9は,日射反射率を3.4%とするものであるが,その結果からは
黒色顔料の日射反射率を高くする方が望ましいということはできるとしても,8.
0%という日射反射率に臨界的意義があると認めることはできない。
また,そもそも,実施例,参考例と比較例は,塗膜の色相(L値)を同一条件と
して対比したものであるが,L値を同一にするために,黒色顔料を配合する比率が
異なる結果,実施例,参考例の塗膜の日射反射率は,比較例の塗膜の日射反射率よ
りも高くなっている。塗膜における赤外部の日射反射率が高ければ,基板裏面温度
及び箱内温度の上昇を抑制する効果が大きいことは容易に予想できるところ,
表1,2に開示された実施例,参考例と比較例のうち,基板を同一とするものにつ
いて,塗膜の日射反射率と基板裏面温度を対比検討すると,塗膜の日射反射率が高
いものほど基板表面温度は低くなっており,全体としては,基板裏面温度は,塗膜
の日射反射率に対し負の相関の傾向を示していると認められる。一方,顔料の日射
反射率と基板裏面温度について,同様に対比しても,全体の傾向は明らかでない。
そうすると,基板裏面温度の増減に直接的な影響を及ぼす要因は,顔料の日射反
射率というよりむしろ,主に塗膜の日射反射率であると解するのが自然であり,塗
料に含まれる顔料の日射反射率を「8.0%以上」とすることにより格段の効果を
奏するということはできない。
(4)以上によれば「780∼2100nmの波長域における日射反射率が8.,
0%以上」である黒色顔料を含むという相違点(i)に係る構成は「8.0%以上」,
という数値に格段の臨界的意義が認められない以上,当業者であれば,刊行物11
に基づいて容易に想到し得たものというべきである。
1-2相違点(ii)の判断の誤り
(1)決定は,相違点(ii)を「本件発明1では「塗料のバインダー成分として,,
ポリエステル樹脂またはアクリル樹脂を,硬化剤成分としてメラミン樹脂及び/ま
たはブロックイソシアネートを含む」のに対して,引用発明では,塗料バインダー
成分,硬化剤成分についての記載がない点」と認定した上で,本件発明1のバイン
ダー成分は,刊行物13に開示されており,これらのバインダー及び硬化剤を本件
発明1の遮蔽塗料に用いる点に格別の困難性はないと判断した。
アこの点について,刊行物13には,以下の記載がある。
(a)「1)ビヒクルおよび顔料を主成分とする塗料において,粒径50μ以下の太陽熱遮蔽(
塗料を塗料固形分中2∼60重量%含むことを特徴とする太陽熱遮蔽塗料組成物(特許請求。
の範囲の請求項1)
(2)太陽熱遮蔽顔料が酸化ジルコニウム,酸化イットリウム,または酸化インジウムのいず
れか1種以上である特許請求の範囲第1項記載の太陽熱遮蔽塗料組成物。
(3)太陽熱遮蔽顔料が有機あるいは無機皮膜0.01μ以上で被覆された物質である特許請
求の範囲第1項記載の太陽熱遮蔽塗料組成物。
(4)太陽熱遮蔽顔料が酸化ジルコニウム,酸化インジウム,酸化チタン,或いは酸化珪素の
いずれか1種以上と酸化マグネシウム,酸化イットリウム,酸化バリウム,酸化カルシウム或
いは酸化亜鉛のいずれか1種以上との化合物である特許請求の範囲第1項記載の太陽熱遮蔽塗
料組成物。
・・・・・
(7)ビヒクルがポリエステル樹脂,シリコン変性ポリエステル樹脂,弗素含有樹脂またはア
クリル樹脂1種以上を主成分とし,必要に応じブロックイソシアネートまたはメラミン樹脂1
種以上を組み合わせたものである・・・太陽熱遮蔽塗料組成物(特許請求の範囲)。」
(b)「太陽熱遮蔽顔料以外の顔料としては,とくに限定されるものではないが,白色顔料と
してはルチル型酸化チタンを用いるのが好ましく,着色顔料としては二酸化マンガン,カーボ
ンブラックなど一般に使用されるものを用いることができる(3頁右下欄4∼9行)。」
(c)「C)モル比l対lの酸化チタンと酸化マグネシウムを1600℃で焼成し得た化合(
物を,粉砕し平均粒径12μの粉末を得た。この物質の可視光以外の領域での反射率が91%
であり,全領域での太陽輻射反射率が,86%であったこの物質を顔料Cとした(4頁右上。」
欄16行∼左下欄1行)
(d)「塗料の作成)(
①第1表に示す割合でアクリディックA−801(大日本インキ化学工業(株)製アクリル
ポリオール)をビヒクルに用い太陽熱遮蔽顔料,着色顔料を添加し,所定の色相になるように
カーボンMA−100(三菱化成(株)製カーボンブラック)を加え,キシレン,メチルイソ
ブチルケトン1対1の混合溶剤を用いて20分間分散処理後20∼30ボイズになるように調
製した(4頁左下欄19行∼右下欄7行)。」
イ上記記載によれば,刊行物13には,太陽熱遮蔽塗料組成物のビヒクルとし
て,ポリエステル樹脂,アクリル樹脂1種以上を主成分とし,必要に応じブロック
イソシアネート又はメラミン樹脂1種以上を組み合わせたものが記載されていると
認められる。塗料のビヒクルは,通常,顔料を除く塗料成分(バインダー成分と硬
化剤成分)を意味するところ,刊行物13記載の「ポリエステル樹脂,アクリル樹
」「」,,脂とブロックイソシアネートまたはメラミン樹脂は各成分の性質からみて
本件発明1におけるバインダー成分と硬化剤成分に該当することは明らかである。
したがって,本件発明1で用いるバインダー成分及び硬化剤成分は,刊行物13の
記載に基づいて当業者が容易に選択できたものであると認められる。
(2)これに対して,原告は,刊行物13に用いられる太陽熱遮蔽顔料は,白色
,,,系顔料であって本件発明1のように黒色顔料ではないと主張するところ確かに
刊行物13記載の塗料に配合される太陽熱遮蔽顔料には,白色系のものが例示され
ているが,刊行物13の太陽熱遮熱顔料は,複数の金属酸化物からなる焼成顔料を
含み,それ以外に白色顔料及び着色顔料を混合し,所定の色相になるようにカーボ
ンブラックを配合したものである。
他方,本件訂正明細書には「0015】本発明の熱線遮蔽塗料において,上記,【
黒色顔料の含有量は,特に限定されるものではなく,使用する顔料の種類や性質に
応じて適宜調整されるが,全顔料の0.1重量%以上含まれることが好ましい。特
に,上記焼成顔料を黒色顔料として用いる場合には,全顔料の1.0重量%以上含
まれることが好ましい「0017・・・本発明の塗料組成物中の顔料は黒色。」,【】
顔料以外,特に限定されず,塗料分野で通常使用される塗料に単独,もしくは混合
して使用してもよい。通常,下記に示す着色顔料を含有させて色相を調製(調色)
して用いる」と記載されており,本件発明1の塗料に配合される顔料は黒色顔料。
に限られないことが開示されている。そして,黒色顔料は「0.1%以上」とされ
ているのであるから,その他の色の顔料を黒色顔料よりも多く配合する場合も包含
される。
このように,本件発明1の塗料と刊行物13記載の塗料は,いずれも反射率の高
い熱線遮断顔料に加えて,他の顔料を配合し,所望の色相になるよう調整している
のであって,熱線遮断塗料において,バインダー成分及び硬化剤成分の選択は,熱
線遮蔽顔料の色の相違によって左右されるものではないことは明らかである。
したがって,刊行物13記載の「バインダー及び硬化剤成分を同用途の遮蔽塗料
に用いる点に格別の困難性はない」と判断した決定に誤りはなく,原告の主張を採
用することができない。
1-3相違点(iii)の判断の誤り
原告は,実施例1∼6と比較例1∼6(いずれも基板がアルミ板)の温度差が,
参考例7と比較例7(いずれも基板がポリカーボネート板)の温度差より大きいこ
となどを指摘し,決定は,相違点(iii)の判断に当たり,本件発明1が特定の黒色
顔料を含む塗料と特定の金属基材とを組み合わせることに特徴を有することを看過
していると主張する。
(1)しかしながら,参考例7(比較例7)の基板に用いられているポリカーボ
ネートは,その熱伝導率がアルミニウム又は鉄のものと比べて1/100∼1/1
000という極めて低い範囲にあり(乙3,加熱に対する温度変化の度合いが小)
さくなるから,同じ加熱条件のもとでは,参考例7(比較例7)で得られる温度及
び温度差のいずれについても実施例の場合よりも小さくなることは十分に予想され
る参考例7及び比較例7の基板裏面温度と箱内温度がアルミ板を用いた実施例1。,
∼6(比較例1∼6)と比べ低くなっているのは,それぞれの基板の熱伝導率が異
なることによるものであり,塗料と金属基材の組合せによるものということはでき
ない。
(2)原告は「反射率差」及び「温度低減率/反射率差」本件,なる指標を用い,
発明1の特定顔料と特定基板とを組み合わせた実施例1∼6が1.00∼1.74
であるのに対し,参考例7が0.47,参考例9が0.72と低い数値となってい
るのは,本件発明1が特定の黒色顔料と金属基板の組合せにより顕著な熱線遮蔽効
果を奏することを示すものであると主張する。
を用いて熱線遮蔽性を評価することは,本件訂正明細書に記載しかし,上記指標
された事項ではなく,それが熱線遮蔽塗料に係る技術分野における周知慣用の評価
「反射率差」は,塗膜の日射反射手法であることを示す的確な証拠もない。また,
るところ,前記判示のとおり,塗膜の日射反射率は,基板裏率を対比するものであ
面温度に大きく影響するものであり,黒色顔料の日射反射率と基板裏面温度には必
「反射率差」及び「温度低減率/反ずしも相関関係は認められないのであるから,
射率差」特定の黒色顔料と金属基板の組合せが奏する効果を正なる指標を用いて,
。確に評価することはできないというべきである
さらに,実施例1∼5及び比較例1∼5は,いずれも同じアルミ板を用いたもの
であり,実施例1∼6は黒色顔料Aを含有する塗料を用いる点で,比較例1∼6は
黒色顔料Xを含有する塗料を用いる点で共通しているにもかかわらず,実施例1
∼6に係る上記指標は,1.00∼1.74という範囲でばらついており,このこ
とに照らしても,上記指標の数値により特定の黒色顔料と基板との組合せが奏する
効果を正確に評価することができるかどうかは疑問である。
(3)以上によれば,本件発明1は,熱線遮蔽板において熱線遮蔽性を改良し室
内温度の上昇を抑制するために,それに適した塗料と基板を別個に選択したものに
すぎず,その選択による効果は予期し得る範囲内のものというべきである。したが
って,相違点(iii)についての決定の判断に誤りがあるということはできない。
本件発明2について2
前記判示のとおり本件発明1について決定の判断に誤りはないから本件発明1,,
についての決定の判断の誤りを前提として本件発明2の判断の誤りをいう原告の主
張には理由がない。
本件発明3について3
前記判示のとおり本件発明1について決定の判断に誤りはないから本件発明1,,
についての決定の判断の誤りを前提として本件発明3の判断の誤りをいう原告の主
張には理由がない。
本件発明4について4
前記判示のとおり,本件発明1について決定の判断に誤りはないから,本(1)
件発明1についての決定の判断の誤りを前提として本件発明4の判断の誤りをいう
原告の主張には理由がない。
(2)原告は,金属基材としてアルミ板又はアルミ亜鉛メッキ鋼板が刊行
物13,14に記載されているとの決定の認定は誤りであると主張する。
「試験片の作成)塗料1,2,3,4,5,6,7,1ア刊行物13には,(
0,11,12,13を厚さ1mmの軟鋼板に乾燥膜厚50μになるようにスプレ
ーし20℃で2週間乾燥し,試験片を得た。
また,塗料8,9,14,15は,厚さ0.6mmの亜鉛メッキ鋼板にバーコー
ターで乾燥膜厚20μになるように塗布し,230℃で60秒加熱乾燥し試験片を
得た(5頁左上欄19行∼右上欄第7行)との記載がある。また,刊行物14に。」
は「塗膜形成材と太陽輻射熱反射材として粒径5∼300μの粒度範囲にあり,,
且1.75以上の屈折率を有する水に不溶または難溶なる無色または淡色の透明無
機化合物細粒,ならびに塗膜形成材固形分に対して,顔料容積濃度で,3∼38%
の白色顔料とを包含する被覆用組成物を,表面化成処理を施した鋼板,亜鉛鉄板ま
たはアルミニウム板上に塗布し,強制乾燥することを特徴とする遮熱性化粧金属板
の製造法(特許請求の範囲「この発明は夏期の太陽熱を高率に反射する化粧。」),
金属板の製造法に関するものである(1頁左欄14∼15行)との記載がある。」
イ刊行物13,14の上記記載によれば,塗料を被覆する金属基材として,刊
行物14に「表面化成処理を施した鋼板,亜鉛鉄板またはアルミニウム板」が記載
されているから,刊行物14においては,本件発明4の金属基材のうち「アルミ,
板」は記載されているということができる。そうすると「金属基材が,アルミ板,
またはアルミ亜鉛メッキ鋼板であるものは,刊行物13,14に記載されている」
,,,との決定の認定は不正確な面もないわけではないが少なくとも刊行物14には
本件発明4の「アルミ板」に相当する「表面化成処理を施したアルミニウム板」が
記載されているということができる。
さらに「アルミ亜鉛メッキ鋼板」については,乙2に「高耐食性を目的とした,,
溶融めっき鋼板が使用されるようになり,溶融めっきの需要は現在大きく伸びてい
る。現在実施されている主な溶融めっきは,亜鉛,亜鉛−アルミニウム,アルミニ
ウム,鉛−スズめっきである(165頁8∼11行「2)溶融亜鉛−アルミ」),(
ニウムめっきこれは溶融亜鉛めっきよりもさらに耐食性,耐候性のある溶融めっ
」(,「」きとして使用されている169頁11∼13行)と記載され亜鉛めっき鋼板
と並んで記載されるように,防錆性付与のための表面処理が施された鋼板として周
知の金属基材である。そうすると,本件発明4の金属基材をアルミ亜鉛めっき鋼板
に限定することは,当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
以上によれば,本件発明4について決定の判断に誤りがあるということはできな
い。
5結論
よって,原告主張の取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却され
るべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
石原直樹
裁判官
佐藤達文

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