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平成20年12月25日判決言渡
平成20年(行ケ)第10285号審決取消請求事件
平成20年11月27日口頭弁論終結
判決
原告日本発條株式会社
(審決上の表示日本発条株式会社)
同訴訟代理人弁理士清水定信
被告特許庁長官
同指定代理人安達輝幸
同小林由美子
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007−28623号事件について平成20年6月12日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
原告は,「CIS」の欧文字を横書きしてなる商標について,指定商品を第
9類「配線付きディスクドライブ用サスペンション」として,平成18年10
月4日に商標登録出願(商願2006−92746号,甲1。以下「本願」と
いう。)をしたが,平成19年6月1日付けで,拒絶理由通知を受けたので(
甲2),同年7月17日付け手続補正書(甲4)を提出し,上記指定商品を第
9類「配線付きハードディスクドライブ用サスペンション」と補正したが,同
年9月19日に拒絶査定(甲5)を受けた。これに対し,原告は,同年10月
19日,特許庁に,不服審判を請求したところ(不服2007−28623号
事件),特許庁は,平成20年6月12日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をした。
2審決の内容
審決の内容は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,審決は,本願
に係る商標(以下「本願商標」という。)は,その商標登録出願の日前の商標
登録出願に係る登録第4944086号の商標(以下「引用商標」という。)
と類似するものであり,引用商標の指定商品である第9類「ビデオカメラ・そ
の他の電気通信機械器具,ビデオカメラを用いた遠隔監視装置,監視ビデオカ
メラを操作するためのコンピュータ用プログラムを記憶させた記録媒体・その
他の電子応用機械器具及びその部品,工業用内視鏡及びその部品並びに附属
品」に含まれる商品について使用するものであるから,商標法4条1項11号
に該当し,登録することができないとした。
第3取消事由に係る原告の主張
本願商標と引用商標とは,商品の出所につき誤認混同するおそれがなく,審
決には,商標法4条1項11号該当性の判断の誤りがあるから,取り消される
べきである。
1本願商標と引用商標との対比
⑴外観
本願商標は,標準文字の欧文字で「CIS」と表示されているのに対し,
引用商標は,別紙(引用商標)のとおり「C」と「S」が押し潰され横方向
に延びた格好の欧文字にデザイン化され,しかも「i」は頭部の点が▼形状
にデザイン化されて「CiS」と表示されたものであり,外観が相違する。
⑵称呼及び観念
本願商標と引用商標とはいずれも「シイアイエス」の称呼を共通にすると
の審決の認定に誤りがないことは認める。また,本願商標と引用商標とはい
ずれも観念について比較すべきところがないとの審決の認定に誤りがないこ
とは認める。
2商品の類否
本願商標に係る指定商品は,引用商標に係る指定商品中の「電子応用機械器
具及びその部品」に含まれるとの審決の認定に誤りがないことは認める。
3指定商品に係る取引の実情
本願商標に係る指定商品については,以下の取引の実情があるので,上記の
対比にこれらを併せると,本願商標と引用商標とは類似するとはいえない。
⑴指定商品に関する原告の特許権の存在
本願商標に係る指定商品は,原告が特許権者である特許第2894262
号(甲7の1),特許第2947147号(甲7の2),特許第36054
97号(甲7の3)の実施製品であるから,引用商標の商標権者が製造,販
売等の取引ができるものではなく,本願商標に係る指定商品に引用商標が付
されることはない。したがって,本願商標に係る指定商品は,原告が独占し
ているとの取引の実情があるので,本願商標と引用商標とは商品の出所につ
き誤認混同するおそれはない。
⑵指定商品に関する取引の形態
本願商標に係る指定商品については,ハードディスクドライブを使用して
電子機器を製造したり,ハードディスクドライブを製造したりする企業と直
接取引をしており,一般人が直接取引に関わることがないという取引の実情
がある(甲13,14)。したがって,本願商標と引用商標は,実際の取引
において商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれはない。
⑶指定商品に関する市場の状況
引用商標の商標権者である株式会社シイアイエスは,本願商標に係る指定
商品を製造,販売していないし(甲9),同指定商品は巨額の設備投資と専
門の製造技術が必要なため,今後引用商標の商標権者が,上記指定商品の製
造,販売を開始する可能性はほとんどない(甲10,11の1,2)。
また,原告は,本願商標に係る指定商品について,全世界で30.8%の
シェアを占めており,そのうちの80%が本願商標を付したものであり,本
願商標は指定商品に係る業界では周知となっている(甲10)。
第4被告の反論
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1本願商標と引用商標との対比
⑴本願商標は,「CIS」の文字からなるものであり,引用商標は,別紙(
引用商標)のとおり,ややデザイン化された「CiS」の文字からなること
から,両商標は,共に該構成文字に相応して,「シイアイエス」の称呼を生
ずるものである。また,両商標は,特定の語義を有するものではないから,
一種の造語からなるものといえ,特定の観念は生じない。そして,本願商標
と引用商標とは,共に欧文字3文字の構成からなり,「C」と「S」の文字
を共通にし,第2文字目が大文字の「I」か,小文字の「i」かの違いや,
該構成文字のデザイン化の有無はあるとしても,外観上,近似した印象,連
想等を生じさせるおそれがあることを否定できない。そうすると,その外観
上の相違は微弱なものであって,両商標の類否の判断に大きく影響するもの
ではない。
したがって,本願商標と引用商標とは,外観において相違し,観念につい
ては比較すべきところがないとしても,「シイアイエス」の称呼を共通にす
る,称呼上類似の商標である。
⑵本願商標に係る指定商品「配線付きハードディスクドライブ用サスペンシ
ョン」は,引用商標に係る指定商品中の「電子応用機械器具及びその部品」
に含まれる。
したがって,本願商標と引用商標が「配線付きハードディスクドライブ用
サスペンション」又はこれに類似する商品に使用された場合には,商品の出
所につき誤認混同を生ずるおそれがあるというべきである。
2取引の実情について
商標法4条1項11号における商標の類否に当たって考慮すべき取引の実情
とは,出願商標に係る指定商品のみならず類似商品の取引の実情を含めて理解
すべきであり,また当該商標が現実に使用されている実情のみならず指定商品
一般の恒常的な取引の実情を含めて理解すべきである。
上記の観点から,本件をみると,以下のとおりの理由から,その取引の実情
に照らして,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるというべきであ
る。
(1)原告が指定商品に関する特許を有し,現在原告のみが製造しているとし
ても,当該特許権の消滅後は何人にもその実施が予定されているものである
から,上記事情は本願商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的
な事情であり,商標の類否を判断する際に考慮すべき取引の実情とはいえな
い。
(2)引用商標の商標権者を含む第三者が本願商標に係る指定商品及びこれに
類似する商品の製造を行なう可能性はないとはいえない上,企業における経
営の多角化が一般的に行なわれている実情に鑑みれば,引用商標の商標権者
を含む第三者が現在行なわれているという企業と原告との直接取引に新規参
入する可能性があるといえる。また,現実に原告以外の数社が本願商標に係
る指定商品を製造している実情がある。
(3)本願商標に係る指定商品に類似する商品は,直接取引が行なわれている
商品ばかりでなく,本願商標に係る指定商品について直接取引のみが行なわ
れているという特殊な実情により,誤認混同の実例がなかったとしても,引
用商標をその類似する商品を含む指定商品中の「電子応用機械器具及びその
部品」に使用したときは,本願商標と出所の混同のおそれが生ずるし,本願
商標と引用商標が指定商品又はこれに類似する商品に使用された場合には,
商品の出所につき誤認混同のおそれが生ずる。
⑷引用商標の商標権者が本願商標に係る指定商品及びこれに類似する商品の
製造を行なう可能性はないとはいえない上,他の企業の買収,新規事業への
進出等による企業における経営の多角化は一般的に行なわれているところで
あり,また,本願商標に係る指定商品についてみても,現在でも原告のみな
らず数社が製造しているのであるから(甲10),引用商標に係る商標権者
が現在,本願商標に係る指定商品を製造していないことを理由とする原告の
主張は失当である。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,本願商標は商標法4条1項11号に該当するとした審決に誤りは
なく,原告の請求は理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりであ
る。
1本願商標と引用商標の各構成について
本願商標は,前記第2,1のとおり,「CIS」と標準文字の欧文字3文字
で横書きしてなり,指定商品を第9類「配線付きハードディスクドライブ用サ
スペンション」とするものである。他方,引用商標は,別紙(引用商標)のと
おり,「CiS」の欧文字を横書きしてなり,このうち「C」と「S」が横方
向に長く表記され,「i」は頭部の点が▼形状に表記されているものである。
そして,指定商品は,第9類「ビデオカメラ・その他の電気通信機械器具,ビ
デオカメラを用いた遠隔監視装置,監視ビデオカメラを操作するためのコンピ
ュータ用プログラムを記憶させた記録媒体・その他の電子応用機械器具及びそ
の部品,工業用内視鏡及びその部品並びに附属品」とするものである。
2本願商標と引用商標の類否
本願商標も引用商標も,欧文字の「CIS」を横書きしてなる点で共通す
る。「C」と「S」は,本願商標では,標準文字であるのに対して,引用商標
では,横方向に長く表記されているが,いずれも「C」,「S」と認識し得
る。また「I」は,本願商標では,大文字で表記されているのに対し,引用商
標は,小文字の頭部の点が▼形状に表記されているが,同形状が看者をして強
い印象を与えることはない。以上によれば,本願商標と引用商標とは,外観に
おいて類似する。また,本願商標も引用商標も「シイアイエス」との共通の称
呼が生じる。「CIS」は,格別の観念を生じるものではないと解するのが相
当である(当事者間に争いはない)。
本願商標に係る指定商品「配線付きハードディスクドライブ用サスペンショ
ン」は,引用商標に係る指定商品中の「電子応用機械器具及びその部品」に含
まれる(当事者間に争いはない)。
以上を総合すると,本願商標と引用商標とは,外観及び称呼において類似す
る(特定の観念は生じない。)商標であると判断できる。また,指定商品も共
通する。
3原告の主張に対して
これに対して,原告は,本願商標に係る取引の実情として,①原告が指定商
品に関する特許を有すること,②引用商標の商標権者は,本願商標の指定商品
を製造していないこと,③原告は,本願商標に係る指定商品について,全世界
で30.8%のシエアを占めており,そのうちの80%が本願商標を付したも
のであること等の取引の実情が存するので,これらの実情を併せ考慮すると,
本願商標と引用商標とは出所に誤認混同を生ずることなく,両者は類似すると
はいえないと主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
すなわち,商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情は,当該商標が現
に,当該指定商品に使用されている特殊的,限定的な実情に限定して理解され
るべきではなく,当該指定商品についてのより一般的,恒常的な実情,例え
ば,取引方法,流通経路,需要者層,商標の使用状況等を総合した取引の実情
を含めて理解されるべきである(最高裁判第一小法廷昭和49年4月25日
判決・昭和47年(行ツ)第33号参照)。
原告主張に係る取引の実情は,いずれも,現在の取引の実情の一側面を今後
も変化する余地のないものとして挙げているにとどまるものであって,採用の
余地はない。
本願商標は,引用商標と比較して,類似性の程度が高い点をも考慮するなら
ば,本願商標をその指定商品(類似商品を含む。)に使用した場合には引用商
標との間で出所に混同混同を生ずるおそれがあることは明らかである。原告の
上記主張は,採用できない。
4結論
以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がなく,審決を取り消すべ
きその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官中平健
裁判官上田洋幸
(別紙)引用商標

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