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平成23年3月4日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第6368号損害賠償等請求事件(第1事件)
平成21年(ワ)第17073号著作権侵害差止等請求事件(第2事件)
平成21年(ワ)第41398号出版権確認等請求事件(第3事件)
口頭弁論終結日平成22年11月5日
判決
東京都国立市<以下略>
第1事件原告・第2事件被告・第3事件被告
財団法人生長の家社会事業団
訴訟代理人弁護士内田智
東京都港区<以下略>
第1事件被告・第3事件原告株式会社日本教文社
訴訟代理人弁護士脇田輝次
東京都渋谷区<以下略>
第2事件原告生長の家
東京都渋谷区<以下略>
第2事件原告X
上記両名訴訟代理人弁護士田中美登里
同田中伸一郎
同相良由里子
同外村玲子
同佐竹勝一
同水沼淳
東京都文京区<以下略>
第2事件被告・第3事件被告株式会社光明思想社
訴訟代理人弁護士内田智
主文
1第1事件被告は,第1事件原告に対し,50万円及びこれに対す
る平成21年3月12日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
2第1事件原告のその余の請求,第2事件原告らの請求及び第3事
件原告の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを10分し,その6を第1事件原告・第2事件
被告・第3事件被告の負担とし,その3を第1事件被告・第3事件
原告の負担とし,その余を第2事件原告らの負担とする。
4この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1第1事件
(1)第1事件被告は,第1事件原告に対し,2740万円並びに内金100
万円に対する平成21年3月12日(訴状送達の日の翌日)から支払済み
まで年5分の割合による金員及び内金2640万円に対する同年9月18
日(「請求の趣旨変更(追加的拡張)申立」と題する書面送達の日)から
支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2)第1事件被告は,別紙謝罪広告目録1記載の内容及び掲載条件による謝
罪広告を,読売新聞,朝日新聞,毎日新聞,日本経済新聞及び産経新聞の
各全国版に各1回,第1事件被告が発行する月刊誌3誌(「光の泉」,「
白鳩」及び「理想世界」あるいはこれらの後継誌)に各2回それぞれ掲載
せよ。
2第2事件
(1)第2事件被告らは,別紙第2書籍目録1記載の書籍を出版,販売,頒布
してはならない。
(2)第2事件被告らは,その保有する前項の書籍を廃棄せよ。
(3)第2事件被告財団法人生長の家社会事業団は,第2事件原告生長の家に
対し,第2事件原告生長の家が別紙第1書籍目録1記載の書籍の著作権を
有することを確認する。
(4)第2事件被告財団法人生長の家社会事業団は,別紙第2書籍目録2記載
の各書籍について,第2事件原告生長の家の承諾なく,その出版権の設定
及び消滅を行ってはならない。
(5)第2事件被告らは,第2事件原告生長の家に対し,300万円及びこれ
に対する平成21年6月11日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
(6)第2事件被告らは,別紙謝罪広告目録2記載の内容及び掲載条件による
謝罪広告を,第2事件原告生長の家の発行する機関誌「聖使命」並びに月
刊誌「生長の家相愛会」,「生長の家白鳩会」及び「生長の家青年会」(
あるいはこれらの各誌の後継誌)に掲載せよ。
3第3事件
(1)第3事件被告財団法人生長の家社会事業団は,第3事件原告に対し,第
3事件原告が別紙第3書籍目録1ないし34記載の各書籍について出版権
を有することを確認する。
(2)第3事件被告らは,別紙第3書籍目録1ないし15,31ないし34記
載の各書籍を出版,販売,頒布してはならない。
(以下,特に断りのない限り,第1事件原告・第2事件被告・第3事件被
告を「原告社会事業団」,第1事件被告・第3事件原告を「被告日本教文
社」,第2事件原告生長の家を「原告生長の家」,第2事件原告Xを「原
告X」,第2事件被告・第3事件被告を「被告光明思想社」といい,ま
た,原告社会事業団及び被告光明思想社を併せて「原告社会事業団ら」,
原告生長の家及び原告Xを併せて「原告生長の家ら」という場合があ
る。)
第2事案の概要
第1事件は,財団法人である原告社会事業団が,①亡Aが戦前に創作した
多数の著作物の集合体としての「生命の實相」の著作権は,亡Aが原告社会
事業団の設立者として行った寄附行為の寄附財産であって,原告社会事業団
に帰属しているところ,上記「生命の實相」に属する書籍をそれぞれ復刻し
た復刻版である別紙第1書籍目録1記載の書籍(以下「本件①の書籍1」と
いう。)及び同目録2記載の書籍(以下「本件①の書籍2」といい,これと
本件①の書籍1を併せて「本件①の各書籍」という。)について,被告日本
教文社との間で著作権使用(出版)契約を締結したが,印税(著作権使用
料)に未払がある,②本件①の書籍1の著作権者は原告社会事業団であるの
に,被告日本教文社が原告社会事業団に無断で本件①の書籍1に真実と異な
る著作権表示を行ったことが不法行為を構成するなどと主張して,被告日本
教文社に対し,著作権使用(出版)契約に基づき,印税の支払を求めるとと
もに,民法723条に基づき,謝罪広告の掲載を求めた事案である。
第2事件は,宗教法人である原告生長の家及び亡Aの遺族である原告X
が,①亡Aが戦前に創作した著作物である「生命の實相<黒布表紙版
>」(全20巻)及び本件①の書籍1について,原告生長の家が,亡Aを相
続した共同相続人から著作権(共有持分)の遺贈及び売買による譲渡を受け
たから,当該著作権は原告生長の家に帰属する,②別紙第2書籍目録1記載
の書籍(以下「本件②の書籍1」という。)は,第2事件被告ら(原告社会
事業団及び被告光明思想社)が「生命の實相<黒布表紙版>」の第16巻
として出版された「神道篇日本国の世界的使命」から「第1章古事記講
義」を抜き出し,別の題号を付して共同で出版したものであるところ,第1
6巻は戦後に「生命の實相」として出版された書籍から亡Aによって削除さ
れているから,第2事件被告らによる本件②の書籍1の出版は,原告生長の
家の著作権(複製権)を侵害するとともに,亡Aが存命であればその著作者
人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為(著作権法60条)に該当
し,これにより亡Aの声望が害された,③原告生長の家と原告社会事業団
は,別紙第2書籍目録2記載の各書籍(以下「本件②の各書籍2」と総称
し,同目録2記載のそれぞれの書籍については,同目録2記載(1)の書籍を「
本件②の書籍2(1)」,同目録2記載(2)の書籍を「本件②の書籍2(2)」など
という。)について,原告生長の家がこれらの出版その他の利用の管理を決
定する旨の合意をしたなどと主張し,原告生長の家及び原告Xにおいて原告
社会事業団及び被告光明思想社に対し,著作権法112条1項,2項(原告
Xにつき更に同法116条1項)に基づき,本件②の書籍1の出版等の差止
め及び廃棄を,民法723条又は著作権法115条及び116条1項に基づ
き,別紙謝罪広告目録2記載の謝罪広告の掲載を,原告生長の家において原
告社会事業団及び被告光明思想社に対し,不法行為に基づく損害賠償を,原
告生長の家において原告社会事業団に対し,原告生長の家が本件①の書籍1
の著作権を有することの確認を,上記合意に基づき,本件②の各書籍2につ
いて原告生長の家の承諾なく,その出版権の設定及び消滅を行うことの禁止
を求めた事案である。
第3事件は,被告日本教文社が,別紙第3書籍目録記載の各書籍(以下「
本件③の各書籍」と総称し,同目録記載のそれぞれの書籍については,同目
録1記載の書籍を「本件③の書籍1」,同目録2記載の書籍を「本件③の書
籍2」などという。)について,原告社会事業団との間の出版契約に基づい
て出版権の設定を受けたのに,原告社会事業団及び被告光明思想社が,被告
日本教文社に無断で,本件③の書籍31ないし34について出版及び販売を
行い,本件③の書籍1ないし15について出版を行うおそれがあるなどと主
張して,原告社会事業団に対し,被告日本教文社が本件③の各書籍の出版権
を有することの確認を,原告社会事業団及び被告光明思想社に対し,著作権
法112条1項に基づき,本件③の書籍1ないし15,31ないし34の出
版等の差止めを求めた事案である。
1争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の
全趣旨により認められる事実である。)
(1)当事者
ア原告社会事業団(第1事件原告・第2事件被告・第3事件被告)は,
宗教的信念に基づき諸種の社会事情による困窮家庭の援護,これに伴う
社会福祉施設の経営,その他社会情勢の変遷に応じて社会の福利を図る
ための文化科学的研究の助成又は社会事業を営む世界各国団体との親善
提携等により社会厚生事業に社会文化事業の発展強化を図ることを目的
とする財団法人である。
イ被告日本教文社(第1事件被告・第3事件原告)は,各種書籍及び雑
誌の刊行等を目的とする株式会社である。
ウ原告生長の家(第2事件原告)は,人類公明化のため,生長の家教規
に基づき,「生長の家」の教義をひろめ,教化道場及び礼拝施設を備え
て,儀式行事を行い,信者を教化育成すること,教規に定める教区に設
立する教化部並びに道場及び伝道本部を包括し,その宣布する教義を判
釈し,儀式行事を正しく行わせる等,布教事項を統一することその他法
人の目的を達成するための業務及び事業を行うことを目的とする宗教法
人である。
「生長の家」は,昭和5年に亡Aによって創始された宗教であり,原
告生長の家は,昭和27年5月30日に宗教法人法に基づいて設立され
た,単位宗教団体を包括する包括宗教法人である(丙4,弁論の全趣
旨)。
エ原告X(第2事件原告)は,亡Aと亡Bとの間の子である。なお,亡
Aは昭和60年6月17日に死亡し,亡Bは昭和63年4月24日に死
亡した。
オ被告光明思想社(第2事件被告・第3事件被告)は,書籍及び雑誌の
刊行等を目的とする株式会社である。
(2)「生命の實相」と題する書籍の出版等
ア亡Aは,昭和5年に創刊された月刊雑誌「生長の家」に数々の論文等
の言語の著作物を発表してきた。
亡Aが,これらの著作物の内容を整理し,順序立て,説明を補うなど
して編纂した書籍が,「生命の實相」の題号を付して,次のとおり出版
された。
(ア)戦前
①「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)
初版発行昭和7年1月1日
②「久遠の實在」(副題「生命の實相第2巻」)
初版発行昭和8年12月25日
③「生命の實相<黒布表紙版>」(全20巻)
初版発行昭和10年1月25日から昭和16年12月25日
④「生命の實相<革表紙版(地・水・火・風・空・教・行・信・證)
>」(全9巻)
初版発行昭和10年10月1日から昭和14年3月15日
⑤「生命の實相<豪華大聖典>」(全1巻)
初版発行昭和11年11月22日
⑥「生命の實相<縮刷中聖典>」(全1巻)
初版発行昭和12年6月1日
⑦「生命の實相<ビロード表紙版>」(全9巻)
初版発行昭和13年3月20日から昭和14年3月15日
⑧「生命の實相<菊版>」(全13巻)
初版発行昭和14年5月20日から昭和16年10月15日
⑨「生命の實相<人造羊皮版>」(全9巻)
初版発行昭和14年11月20日から昭和15年6月20日
⑩「生命の實相<満州版(乾・艮・兌・離)>」
初版発行昭和18年8月15日から昭和20年5月5日
(イ)戦後
①「生命の實相<新修特製版・普及版>」(各全20巻)
初版発行昭和24年11月10日から昭和28年4月25日
②「生命の實相<地の巻>」(全1巻)
初版発行昭和28年11月20日
③「生命の實相<水の巻>」(全1巻)
初版発行昭和30年3月5日
④「生命の實相<布装携帯版>」(全40巻)
初版発行昭和31年11月10日から昭和35年5月15日
⑤「生命の實相<豪華版>」(全20巻)
初版発行昭和35年6月15日から昭和37年1月10日
⑥「生命の實相<頭注版>」(全40巻)
初版発行昭和37年5月5日から昭和42年1月20日
⑦「生命の實相<新装携帯版>」(全40巻)
初版発行昭和42年3月1日から昭和45年6月10日
⑧「生命の實相<愛蔵版>」(全20巻)
初版発行昭和45年10月15日から昭和48年12月15日
⑨本件①の書籍1(「初版革表紙生命の實相復刻版」)
初版発行昭和57年5月1日(甲4)
⑩本件①の書籍2(「初版革表紙生命の實相第2巻『久遠の實在
』復刻版」)
初版発行昭和59年3月1日
イ(ア)本件①の書籍1は,昭和7年1月1日に発行された「生命の實相
<革表紙版>」(全1巻)(前記ア(ア)①)を復刻した復刻版であ
り,本件①の書籍2は,昭和8年12月25日に発行された「久遠の
實在」(副題「生命の實相第2巻」(前記ア(ア)②)を復刻した復刻
版である。
「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)(前記ア(ア)①)は,月
刊雑誌「生長の家」に逐次発表された初期の1年半分を系統立て秩序
立てて1巻に合本・編纂したものであり,「久遠の實在」(副題「生
命の實相第2巻」(前記ア(ア)②)は,同誌の昭和7年分から昭和8
年分を同様に1巻に合本・編纂したものである(甲17,20,弁論
の全趣旨)。
(イ)被告日本教文社は,別紙1の「版数」欄,「出版日」欄及び「製
本部数」欄記載のとおり,昭和57年5月1日から平成20年5月1
日までの間,本件①の書籍1の初版ないし19版を出版し,別紙2
の「版数」欄,「出版日」欄及び「製本部数」欄記載のとおり,昭和
59年3月1日から同年5月25日までの間,本件①の書籍2の初版
ないし3版を出版した(甲4ないし6,17,20,乙7,弁論の全
趣旨)。
ウ本件①の書籍1の18版(発行日・平成12年5月1日)及び19
版(発行日・平成20年5月1日)の奥付には,「byA1,Ph.D.」,「
ⒸC1,X1,1932」との記載(以下「本件表示」という。)及び「〈検
印省略〉」との記載がある(甲5,6,17)。
一方,本件①の書籍1の初版(発行日・昭和57年5月1日)の奥付
には,「理長」の文字の印影の検印(以下「本件検印」という。)が押
印されているが,本件表示及び「〈検印省略〉」の記載はない(甲4,
弁論の全趣旨)。
(3)原告社会事業団の寄附行為の記載事項及び「生命の實相」に係る著作権
登録
ア(ア)原告社会事業団は,平成16年法律第147号による改正前の民
法34条(以下「民法旧34条」という。)に基づいて,亡Aが設立
者として寄附行為(以下「本件設立行為」という。)を行い,東京都
長官の許可を受けて,昭和21年1月8日に設立された(甲13,1
4の4,乙2)。
原告社会事業団の書面としての寄附行為である「財団法人生長の家
社曾事業団寄附行為」(以下「本件寄附行為」という。)には,次の
ような規定がある(甲14の6,乙2)。
「第五條本団ノ資産ハ左ニ掲クルモノヨリ成ル
一.基本資産
イ.國債券額面(略)
ロ.株式拂込金額(略)
ハ.土地二十町二十歩(略)
ニ.A著作「生命の實相」ノ著作権
二.流動資産
イ.本団設立當初ニ於ケル現金並ニ基金
ロ.基本資産ヨリ生スル收入
ハ.寄附金品
ニ.其ノ他收入」
「第七條基本資産及ビ基金ハ他ノ資産ト区別シテ此ヲ管理シ其ノ元
資ハ之を保存スルモノトス
基本資産ハ社曾環境ノ自然的変化ニヨル減價滅失等ニヨルホ
カ,人為的ニハ消費又ハ消滅セシムルコトヲ得ズ
基金ハ評議員三分ノ二以上ノ同意ヲ得ルニ非ザレバ之ヲ費消ス
ルコトヲ得ズ」
「第九條本団ノ経費ハ流動資産ヲ以テ之ヲ支辨ス」
(イ)昭和30年5月12日ころされた主務官庁の認可による変更後の
本件寄附行為(以下「昭和30年変更後の本件寄附行為」という。)
には,次のような規定がある(乙20,弁論の全趣旨)。
「第五条本団の資産は左に掲ぐるものより成る。
一.別紙財産目録に記載の財産
二.A著『生命の実相』等の著作権
三.資産から生ずる収入
四.事業より生ずる収入
五.寄附金品及び補助金,助成金
六.其の他の収入」
「第六条本団の資産を分けて基本資産及び通常資産の二種とする。
前条第一項の財産の内,基本資産の部に記載された財産並びに基
本資産と指定して寄附された財産及び理事会の決議により基本資
産に繰入れた財産を本団の基本資産とする。
前項以外の財産を通常資産とする。
基本資産は社曾環境の自然的変化に起因する減価滅失等による外
これを処分することはできない。
但し止むを得ない理由あるときは,理事会の決議により且主務官
庁の承認を得てその一部を処分することができる。」
「第八条本団の事業遂行に要する経費は,通常資産を以て支弁す
る。」
イ昭和63年4月27日,「著作者」を亡A,「著作物の題号」を「生
命の實相」,「著作物が最初に公表された年月日」を「昭和7年1月1
日」とする著作物について,亡Aから原告社会事業団への著作権の移転
登録(以下「本件著作権登録」という。)がされた(甲1の2,1の
3)。
本件著作権登録の「登録の原因及びその発生年月日並びに登録すべき
権利に関する事項」欄には,「昭和二一年一月八日に下記の者の間に著
作権(著作権法第二七条及び第二八条に規定する権利を含む)の譲渡が
あった。」,「譲渡人A」及び「譲受人財団法人生長の家社会事業
団」との記載がある。
(4)原告社会事業団と被告日本教文社との間の著作権使用(出版)契約書
原告社会事業団と被告日本教文社は,昭和49年1月31日,「著作者
名」を亡A,「権利者」を原告社会事業団,「使用者」を被告日本教文社
とし,「著作者名」及び「題名」をもって表示せられる著作物を出版する
ために,当該著作物を使用することを許諾する旨の「著作権使用(出版)
契約書」と題する契約書(以下「昭和49年契約書」という。)に調印し
た(甲3)。
昭和49年契約書(甲3)の「題名」欄には「別紙一覧表の通り」との
記載があり,この「別紙一覧表」として添付された「版権所有出版物一覧
表(49.1.31現在)」には,「印税率10%」との記載があるほ
か,「書名」欄及び「初版年月」欄に「生命の実相全巻(各種各
判)」,「昭7.1」との記載がある。
(5)被告光明思想社による書籍の出版等
被告光明思想社は,本件②の書籍1及び本件③の書籍31ないし34を
出版し,これらを販売している。
2争点
(1)第1事件の争点は,①本件①の各書籍の著作権が亡Aの本件設立行為(
寄附行為)により出捐のあった寄附財産に含まれ,原告社会事業団の設立
により亡Aから原告社会事業団へ移転したかどうか(争点1−1),②原
告社会事業団と被告日本教文社間の本件①の各書籍についての著作権使
用(出版)契約に基づく原告社会事業団の被告日本教文社に対する印税請
求権の発生の有無(争点1−2),③原告社会事業団の上記②の印税請求
権の消滅時効の成否(争点1−3),④被告日本教文社が本件①の書籍1
に真実と異なる著作権表示を行ったことによる不法行為の成否及び原告社
会事業団の謝罪広告掲載請求の可否(争点1−4)である。
(2)第2事件の争点は,①原告生長の家による本件①の書籍1及び本件②の
書籍1の著作権の取得の有無及び原告生長の家による出版等の差止請求の
可否(争点2−1),②亡Aの死後の人格的利益の侵害行為の有無及び原
告Xによる出版等の差止請求の可否(争点2−2),③原告生長の家らに
よる謝罪広告掲載請求の可否(争点2−3),④原告社会事業団らが賠償
すべき原告生長の家の損害額(争点2−4),⑤原告生長の家と原告社会
事業団間における原告生長の家が本件②の各書籍2の出版その他の利用の
管理の決定を行う旨の合意の成否(争点2−5)である。
(3)第3事件の争点は,①原告社会事業団が被告日本教文社に対し本件③の
各書籍について出版権(著作権法79条)を設定したかどうか(争点3−
1),②原告社会事業団による著作権使用(出版)契約の解約の成否(争
点3−2)である。
第3争点に関する当事者の主張
1第1事件
(1)争点1−1(原告社会事業団の設立による本件①の各書籍の著作権の移
転の有無)
ア原告社会事業団の主張
(ア)亡Aは,「生命の實相」の著作権を含む寄附財産を出捐する本件
設立行為(寄附行為)を行い,昭和21年1月8日,東京都長官から
設立の許可を受けて原告社会事業団が成立した。
これにより「生命の實相」の著作権は,亡Aから原告社会事業団へ
移転し,「基本資産」を組成する財産として原告社会事業団に帰属す
るに至った。
このことは,原告社会事業団の本件寄附行為5条の「一.基本資
産」中に「ニ.A著作「生命の實相」ノ著作権」と規定されているこ
と,亡Aが作成した昭和22年8月1日付け證明書(甲2。以下「本
件證明書」という。)に「A著作「生命の實相」ノ著作権」を昭和2
1年1月8日原告社会事業団へ寄附行為をしたことを証明する旨の記
載があること,亡Aが作成し,東京都知事に提出した昭和22年8月
25日付け「寄附財産移転終了届」(甲21)に本件證明書が添付さ
れていることから明らかである。
そして,本件證明書には,寄附行為の対象を「「生命の實相」ノ著
作権」として,何らの留保も条件も付されていないし,その著作権の
一部を除外する旨の文言も見当たらない。
また,昭和21年1月8日当時,亡A及び「生長の家」関係者にお
いて,「生命の實相」といえば,昭和7年1月に正にその書名によっ
て発行された「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)(前記争いの
ない事実等(2)ア(ア)①)及びその続編たる「久遠の實在」(副題「生
命の實相第2巻」)(同②)を指すのみならず,昭和10年1月から
新たに編輯されて昭和16年12月に全巻完結し,昭和20年ないし
昭和21年当時広く頒布されていた「生命の實相<黒布表紙版
>」(全20巻)(同③)に含まれる内容(素材である個々の論文等
の著作物及びこれを編集した編集著作物)全てを指していた。
したがって,本件設立行為の寄附財産である上記著作権の対象著作
物である「生命の實相」(以下「本件生命の實相」という。)の範囲
は,亡Aが戦前に著作し,「生命の實相」の題号が付された著作物全
てであり,その中核は,「生命の實相<革表紙版>」(全1
巻),「久遠の實在」(副題「生命の實相第2巻」)及び「生命の實
相<黒布表紙版>」(全20巻)に含まれる内容全てであると解す
べきである。
しかるに,本件①の書籍1は,「生命の實相<革表紙版>」(全
1巻)を復刻した復刻版,本件①の書籍2は,「久遠の實在」(副
題「生命の實相第2巻」)を復刻した復刻版であって,いずれも本件
生命の實相に含まれる著作物であるから,本件①の各書籍の著作権
は,原告社会事業団に帰属する。
(イ)これに対し被告日本教文社は,後記のとおり,亡A相続人代表者
の亡Cと原告社会事業団間の昭和63年3月22日付け確認書(乙
1,丙7。以下「本件確認書」という。)をもって,本件設立行為の
寄附財産の対象とされた本件生命の實相の範囲を,本件確認書末尾
の「著作物の表示」と題するリスト記載のとおり,「生命の實相(頭
注版全四十巻)」及び「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」に限ること
を確認したが,その確認された範囲には,本件①の各書籍は含まれて
おらず,また,そもそも亡Aが本件設立行為により出捐(移転)した
のは,本件生命の實相の「著作権収入を取得する権利であって,本件
生命の實相の著作権そのものではない旨主張する。
しかし,本件確認書は,原告社会事業団が亡Aから著作権の譲渡を
受けた本件生命の實相その他の著作物について著作権登録をする手続
に関して作成されたものにすぎず,その後,本件確認書を登録原因証
書として,これらの著作物について,昭和63年4月27日に亡Aか
ら原告社会事業団への著作権登録(本件著作権登録等)がされてい
る。
本件確認書のリストは,上記のとおり,上記著作権登録のために必
要とされたリストであるところ,上記リストにある「生命の實相(頭
注版全四十巻)」及び「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」は,本件生
命の實相の範囲に含まれ,本件①の各書籍と重複する内容を含むもの
であるから,本件①の各書籍の書名そのものが上記リストに記されて
いないことに大きな意味などない。亡A相続人代表者の亡Cと原告社
会事業団間の昭和63年3月22日付け覚書(丙8。以下「本件覚
書」という。)は,本件確認書のリスト記載の各著作物の著作権譲渡
年月日を記載したものであるが,「生命の實相(頭注版全四十巻)」
及び「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」については,著作権譲渡の年
月日として原告社会事業団が設立された「昭和二一年一月八日」と記
載されているのであるから,その設立時点で,当事者間であるいは社
会通念上で理解される「生命の實相」の著作物としての内容ないし範
囲のものの著作権が原告社会事業団に帰属していたことについて,亡
A氏の相続人も確認し,その旨の著作権登録が行われたというべきで
ある。
また,亡A作成の設立趣意書(甲15の3)中の「恒久的流動資金
として,「生命の實相」の著作権收入を寄附行為す。」(3枚目)と
の表示により解釈される亡Aの合理的意思は,社会通念に従い通常の
意義で理解される言葉のとおり,「著作権」についての通常の寄附行
為であり,著作権収入を取得する権利の寄附行為ではない。このこと
は,原告社会事業団が原告生長の家や海外諸国の組織に対し本件生命
の實相に含まれる著作物の複製・頒布について無償許諾を行っている
事実からも明らかである(甲35ないし39,丙17)。
なお,原告社会事業団の基本資産については,理事会の決議及び主
務官庁の承認を得て一部の処分を行うことができるにすぎず(昭和3
0年変更後の本件寄附行為6条4項),これらの手続を経ることな
く,基本資産を構成する本件生命の實相の著作権の範囲を本件確認書
によって処分したり,変更したりすることはできない。
したがって,被告日本教文社の上記主張は失当である。
イ被告日本教文社の主張
本件①の各書籍の著作権は,原告社会事業団に帰属していない。その
理由は,以下のとおりである。
(ア)本件寄附行為5条の「一.基本資産」中の「ニ.A著作「生命の
實相」ノ著作権」にいう「著作権」とは,著作権そのものではなく,
著作権収入を取得する権利と解すべきである。
a亡Aは,原告社会事業団の設立趣意書(甲15の3)に「恒久的
流動資金として,「生命の實相」の著作権收入を寄附行為す。」と
明記している。
また,そもそも昭和5年に亡Aによって自費出版された月刊雑
誌「生長の家」は,宗教としての「生長の家」の教化活動の発端と
なったものであり,同誌に掲載された亡Aの著作物を順次編纂して
出版され続けた「生命の實相」と題する書籍の各版は,「生長の
家」の宗教思想を集大成したものとして,「生長の家」の文書伝道
活動の根幹をなしてきたものであり,「生長の家」の聖典である。
この流れを受け継いで戦後新たに編纂して次々と発行されるであ
ろう「生命の實相」各版の著作権の全てを,宗教活動を直接の目的
としない原告社会事業団に対し,丸ごと寄附するなどということは
あり得ないことである。
亡Aの真意は,亡Aが設立者として自ら願い出た上記設立趣意書
に記載されているとおり,聖典である「生命の實相」の著作権を構
成する権利のうちの印税収入(著作権収入)を取得する権利を原告
社会事業団に寄附し,それにより原告社会事業団の財政基盤を確立
させるところにあったことは明らかである。
bこのことは,「生命の實相」をはじめとする亡Aの著作物の出版
や印税の支払について,亡Aが原告社会事業団に対して執ってき
た,一貫した対応からしても疑問の余地のないところである。
すなわち,戦後に新たに編纂して発行された「生命の實相」と題
する書籍は,いずれも亡A自身が戦後における新たな方針の下に亡
Aの他の著作物と同様に自ら編纂して,その出版を決定したもので
ある。そして,それらの「生命の實相」は,「いつ」,「何(如何
なる版)を」,「どのような内容で」,「どれだけ」出すか,本文
やカバー,扉,見返しに至る全ての資材の選定,並製本にするか,
上製本にするか,箱をつけるか否か,46判にするか新書判にする
か等その判型に至る造本の全て,本文活字の大きさ,見出しのポイ
ントの決定,装幀の細部に至るまで,亡A自身が一々被告日本教文
社に指示していたものであり,その指示の下に被告日本教文社が出
版を行い,その印税は原告社会事業団が受け取るという関係にあっ
た。
それにもかかわらず,本件寄附行為5条において,原告社会事業
団の基本資産として,「A著作「生命の實相」ノ著作権」と記載さ
れているのは,行政上の取扱いとして,寄附行為の対象について「
著作権収入」から「著作権」へ表現を変更するよう指導があったこ
とによるものと推測するほかない。
cしたがって,関係者の間においては,亡Aによって原告社会事業
団に寄附された著作物の「著作権」とは,実質的には著作権収入を
取得する権利であり,出版に関する管理権は著作者である亡Aに留
保されていると理解されていたと解するのが,実態に即した合理的
な解釈である。
(イ)本件寄附行為5条の「一.基本資産」中の「ニ.A著作「生命の
實相」ノ著作権」にいう「生命の實相」(本件生命の實相)には,本
件①の各書籍は含まれない。
a原告社会事業団が設立された昭和21年1月8日当時,編集著作
物としての「生命の實相」には,前記争いのない事実等(2)ア(ア)記
載の各書籍が存在していた。しかし,その当時,上記各書籍は,い
ずれも出版停止状態にあり,在庫も存在していなかったものであ
り,現実に印税の発生が見込まれていた「生命の實相」と題する著
作物は何も存在していなかった。
したがって,亡Aが原告社会事業団の設立趣意書(甲15の3)
において「著作権收入を寄附行為す」とした「生命の實相」とは,
戦後新たな編集方針の下に出版され,現実に印税が発生する「生命
の實相」であって,戦後再版する計画がなく,印税の発生する余地
のないものは,初めからその対象から除外されていたものと解する
ほかない。
しかるに,本件①の各書籍は,「生命の實相」発刊50年の記念
のため,戦前に編纂発行された「生命の實相」<革表紙版>(全1
巻)と「久遠の實在」(副題「生命の實相第2巻」)をそれぞれ復
刻した復刻版であって,戦後新たに編纂発行された「生命の實相」
とは出版の性質を全く異にするものであるから,本件生命の實相に
含まれない。
そうすると,本件①の書籍1の印税については,本来原告社会事
業団に寄附されるべきものではなかったのであるが,亡Aは,当時
の原告社会事業団の財政状況を見て,その印税の一部を原告社会事
業団に振り分けることを決定したのであり,本件①の書籍2につい
ては,原告社会事業団の財政の安定状況を見て,原告社会事業団に
は振り分けないこととしたものである。
b亡Aの著作物の著作権が誰に帰属するかについては,亡Aの生前
は,全て亡Aの判断に俟つものであった。また,昭和30年変更後
の本件寄附行為5条の「財団を構成する資産」について,「生命の
實相」の著作物を「生命の實相等」の著作物と変更されたが,その
著作物の具体的な表示がされていないため,原告社会事業団に帰属
する「生命の實相」以外の著作物は全く特定されていない状態にあ
った。
昭和60年6月17日に亡Aが死去した後は,亡Aの遺産とすべ
き著作物を特定するとともに,原告社会事業団,原告生長の家等に
どの著作物が帰属するかを明確にすることが現実的な課題として必
要となった。
そこで,亡Aの相続人である亡B,亡C及び原告Xの代表者であ
る亡Cと原告社会事業団は,原告生長の家の理事長立会いの下で,
昭和63年3月22日付け確認書(本件確認書)及び同日付け覚
書(本件覚書)を作成した。
本件確認書末尾の「著作物の表示」と題するリストには,編集著
作物として多数多種類存在する「生命の實相」のうち,原告社会事
業団に著作権が帰属する「生命の實相」として,「生命の實相(頭
注版全四十巻)」及び「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」が明記特
定されているのであるから,本件確認書によって,本件確認書に記
載されていない本件①の各書籍をはじめとする他の「生命の實相」
の著作権は,原告社会事業団に帰属しないものとして確認されたも
のである。
また,本件確認書において表示された各著作物について亡Aから
原告社会事業団への著作権譲渡の年月日を記載した本件覚書によっ
て,同様の確認がされたものである。
もっとも,本件①の各書籍に編集されている個々の著作物は,「
生命の實相(頭注版全四十巻)」及び「生命の實相(愛蔵版全二十
巻)」に分散して編集され(ただし,一部の著作物については収録
されていない。),その内容の一部が含まれているものの,それぞ
れ編集・構成において全く異なった独立した著作物として存在して
いるのであるから,その内容の一部がこれらの全集に含まれている
からといって本件①の各書籍の著作権が原告社会事業団に帰属する
ことになるわけではない。
さらに,本件確認書作成後,原告社会事業団に著作権が帰属する
ことが確認された著作物について著作権登録がされているが,それ
は対外的な関係における著作権の帰属を明確にするために行われた
ものであって,著作権登録をするために本件確認書を作成したもの
ではない。
なお,本件覚書には,「生命の實相(頭注版全四十巻)」及び「
生命の實相(愛蔵版全二十巻)」の著作権譲渡の年月日として,「
昭和21年1月8日」と記載されている。しかし,「昭和21年1
月8日」当時,「生命の實相(頭注版全四十巻)」及び「生命の實
相(愛蔵版全二十巻)」は,未だ発行されていなかったものであっ
て,何故本件覚書に上記のような日付の記載がされるに至ったのか
は不明であるが,時間の前後関係からして,この後新たに編集し発
行された著作物という意味でこの日付を付されたものと解される。
(2)争点1−2(本件①の各書籍についての著作権使用(出版)契約に基づ
く印税請求権の発生の有無)
ア原告社会事業団の主張
(ア)原告社会事業団と被告日本教文社は,昭和49年1月31日,原
告社会事業団が著作権を有する亡Aを著作者とする昭和49年契約書
添付の「別紙一覧表」(「版権所有出版物一覧表(49.1.31
現在)」。以下「添付一覧表」という。)記載の著作物について,原
告社会事業団が被告日本教文社に対し上記著作物を出版するための独
占的排他的使用権を設定し,原告社会事業団が被告日本教文社に対し
出版時に定価の10%を印税として支払う旨の著作権使用(出版)契
約(以下「本件昭和49年契約」という。)を締結した。
(イ)本件昭和49年契約の対象著作物を掲記した添付一覧表には「生
命の実相全巻(各種各判)」,初版年月「昭7.1」との記載があ
るところ,この「生命の実相全巻(各種各判)」は,昭和7年1月
から本件昭和49年契約当時までに出版された「生命の實相」の題号
の書籍の「各種各判」の全てを意味するから,「生命の實相<革表
紙版>」(全1巻)(初版発行昭和7年1月1日)及び「久遠の實
在」(副題「生命の實相第2巻」)(初版発行昭和8年12月25
日)がこれに含まれる。
そうすると,被告日本教文社は,「生命の實相<革表紙版>」(
全1巻)を復刻した復刻版である本件①の書籍1及び「久遠の實
在」(副題「生命の實相第2巻」)を復刻した復刻版である本件①の
書籍2を出版したときは,本件昭和49年契約に基づき,原告社会事
業団に対し,約定の印税支払義務を負うというべきである。
(ウ)a被告日本教文社が昭和57年5月1日から平成20年5月1日
までの間に出版した本件①の書籍1の初版ないし19版についての
本件昭和49年契約に基づく印税額は,別紙1の「印税額」欄記載
のとおり合計2820万円となるところ,原告社会事業団は,別紙
1の「支払額」欄記載のとおり,被告日本教文社から,合計128
0万円の支払を受けたが,「未払額」欄記載の合計1540万円が
未払である。
b被告日本教文社が昭和59年3月1日から同年5月25日までの
間に出版した本件①の書籍2の初版ないし3版についての本件昭和
49年契約に基づく印税額は,別紙2の「印税額」欄記載のとおり
合計1200万円となるところ,「未払額」欄記載のとおり,全額
が原告社会事業団に未払である。
cよって,原告社会事業団は,本件昭和49年契約に基づき,被告
日本教文社に対し,本件①の各書籍の未払印税合計2740万円(
前記a及びbの合計額)並びに内金100万円(別紙1の本件①の
書籍1の18版及び19版の未払額)に対する平成21年3月12
日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅
延損害金及び内金2640万円(別紙1の本件①の書籍1のその余
の未払額及び別紙2の本件①の書籍2の未払額の合計額)に対する
同年9月18日(「請求の趣旨変更(追加的拡張)申立」と題する
書面送達の日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による
遅延損害金の支払を求める。
イ被告日本教文社の主張
本件①の各書籍は,昭和49年契約書の対象とされておらず,被告日
本教文社と原告社会事業団が本件①の各書籍について出版契約あるいは
著作権使用(出版)契約を締結した事実は存在しない。
被告日本教文社による本件①の各書籍の出版は,いずれもその著作権
者である亡Aとの口頭あるいは黙示の合意により成立した出版契約に基
づくものであって,原告社会事業団主張の本件昭和49年契約に基づく
ものではない。
昭和49年契約書の添付一覧表は,同契約書作成当時,被告日本教文
社から原告社会事業団に印税が支払われていた著作物を対象として作成
されたものであって,過去に出版された書籍は対象となっていない。ま
た,出版契約において,出版を予定していない書籍を契約の対象とする
ことも通常あり得ないことである。
添付一覧表に何故「生命の實相」の初版年月が「昭7.1」と記載さ
れたのか,今ではその詳細は不明であるが,昭和7年1月に「生命の實
相<革表紙版>」(全1巻)が出版された当時,原告社会事業団は設
立されておらず,また,昭和49年契約書作成時においても,同書籍が
再版されていたわけでもないから,上記の初版年月の記載があるからと
いって同書籍が昭和49年契約書の対象となっていたと解することは許
されない。
なお,被告日本教文社は,別紙1の「支払額」欄記載のとおり,本件
①の書籍1の出版印税の一部を原告社会事業団に支払っているが,これ
は,前記(1)イ(イ)aのとおり,亡Aが当時の原告社会事業団の財政状況
に配慮し,一時的に,亡Aの厚意により,その印税の一部を原告社会事
業団に振り分けることを決定したことから,それに従って支払ったもの
にすぎず,本件①の各書籍が昭和49年契約書の対象となっていたこと
を理由とするものではない。
したがって,本件①の各書籍について被告日本教文社が本件昭和49
年契約に基づいて印税支払義務を負うとの原告社会事業団の主張は,理
由がない。
(3)争点1−3(印税請求権の消滅時効の成否)
ア被告日本教文社の主張
(ア)被告日本教文社の原告社会事業団に対する印税の支払時期は,原
則として発行月の月末締め翌月20日払(20日が休日の場合はその
翌営業日),印税が1000万円を超える高額の場合は,月末締めで
翌月20日と翌々月20日の2回に分けて支払うことを慣例としてい
た。
そうすると,仮に本件①の各書籍の各版について原告社会事業団が
主張する印税請求権が発生したとするならば,その印税の支払時期
は,版ごとに発行月の翌月20日(20日が休日の場合はその翌営業
日)であると解すべきである。
(イ)原告社会事業団主張の未払額のうち,本件①の書籍1の初版,2
版,5版,7版,9版ないし18版及び本件①の書籍2の初版ないし
3版についての印税請求権は,別紙1及び別紙2記載の各「支払期
日」欄記載の日から既に商事債権の消滅時効期間である5年が経過し
ているから,消滅時効が完成している。
被告日本教文社は,本訴において,上記消滅時効を援用する。
イ原告社会事業団の主張
(ア)被告日本教文社主張の原告社会事業団に対する印税の支払時期に
関する慣例については,特に争わない。
しかし,被告日本教文社主張の本件①の各書籍の印税請求権の消滅
時効の起算日に関する主張は否認する。その理由は,以下のとおりで
ある。
著作権の使用形態である「出版」とは,「複製」と「頒布」とで一
つの行為が構成されており,実際に販売(頒布)されときに著作権者
への印税の支払を行うのが自然であり,現在の出版界の実務慣行にお
いても出版社から著作権者への印税支払の方法がいわゆる発行印税か
ら,いわゆる売上印税に移行しつつあると言われているようである。
本件①の書籍2については,昭和59年発行の本が現に流通に置か
れ,頒布されており,「出版」が継続しているといえるから,印税請
求権の消滅時効は進行しない。
また,本件①の書籍1についても,1冊でも流通に置かれていれ
ば,「出版」が未だ継続中であり,同様に,印税請求権の消滅時効は
進行しない。
(イ)継続的取引関係にある事業者間においては,仮に消滅時効が完成
する事態が生じても本来支払うべき金額を請求されれば支払うのが普
通である。原告社会事業団は,出版社として長年の付き合いがあり,
信頼関係もあった被告日本教文社を信頼していたものであるが,その
長年の間にわたり,被告日本教文社から,原告社会事業団の本件①の
各書籍の印税に未払がある事実を明らかにされることはなかった。
したがって,被告日本教文社による本件①の各書籍の印税請求権に
ついての消滅時効の援用は,著作権を尊重すべき立場にある出版社と
してあるまじき反社会的態度であり,信義則に反し,権利の濫用に当
たり許されないというべきである。
(4)争点1−4(謝罪広告掲載請求の可否)
ア原告社会事業団の主張
本件①の書籍1の奥付には,初版以来,著作権者である原告社会事業
団の理事長印が検印として押印され,これにより原告社会事業団が著作
権者であることの表示がされてきたものであり,原告社会事業団におい
ては,本件①の書籍1の著作権者の表示につき真実に反した内容に変更
されたり,不当な表示をされない権利ないし法的利益を有している。
ところが,被告日本教文社は,原告社会事業団に無断で,本件①の書
籍1の18版及び19版の奥付に「byA1,Ph.D.」,「ⒸC1,X1,19
32」との記載(本件表示)及び「〈検印省略〉」との記載をし,著作権
者の表示を一方的に変更し,原告社会事業団における最も基本的かつ重
要な財産である本件生命の實相の著作権が原告社会事業団には帰属して
いない旨の積極的な偽りの表示ないし不当な表示をし,原告社会事業団
の上記権利ないし利益を侵害している。
しかも,被告日本教文社は,明確な故意に基づいて,積極的に原告社
会事業団に本件①の書籍1の著作権が帰属しないと断言した上で,真実
に反した本件表示を行っているのであるから,被告日本教文社の行為は
不法行為を構成するというべきである。
原告社会事業団が被告日本教文社の上記不法行為によって被った損害
は,日本中に本件①の書籍1の読者が存在すること及び行為の悪質な性
質等に鑑み,謝罪広告によって,本件①の書籍1の読者及び広く社会に
向けて被告日本教文社が自らの非を認めて原告社会事業団に謝罪するこ
とによって救済されるべきである。
よって,原告社会事業団は,民法723条に基づき,被告日本教文社
に対し,別紙謝罪広告目録1記載の謝罪広告の掲載を求める。
イ被告日本教文社の主張
(ア)前記(1)イのとおり,本件①の各書籍の著作権は,原告社会事業団
に帰属していないから,原告社会事業団の謝罪広告掲載請求の主張
は,その前提を欠くものとして失当である。
(イ)被告日本教文社が本件①の書籍1について本件表示をした経緯
は,以下のとおりである。
亡Aが昭和60年6月17日に死亡した後の同年12月ころ,亡A
の相続人である亡B,亡C及び原告Xは,その遺産目録(乙12)を
作成した。上記遺産目録の№64及び№71には,本件①の各書籍が
亡Aの遺産として掲記されている。被告日本教文社は,その旨の報告
を受けて,本件①の書籍1の12版において「ⒸC2,1982Printedi
nJapan」との表示(乙7)に奥付を変更した。
その後,被告日本教文社は,昭和63年4月24日に亡Bが死亡し
たのに伴い,本件①の書籍1の18版及び19版において本件表示に
奥付を変更した。
このように被告日本教文社は,本件①の書籍1の著作権の相続の経
過に合わせて奥付を変更しているに過ぎず,本件表示が不当な表示と
非難される理由はない。
2第2事件
(1)争点2−1(原告生長の家による本件①の書籍1及び本件②の書籍1の
著作権の取得の有無等)
ア原告生長の家の主張
(ア)a亡Aは,戦前に出版された「生命の實相<革表紙版>」(全
1巻)及び「生命の實相<黒布表紙版>」(全20巻)の各書籍
を著作した。
亡Aは,昭和60年6月17日に死亡した。亡Aの相続人は,妻
である亡B,子である原告X,養子である亡Cの3名である。な
お,亡Cは,原告Xの夫である。
亡B,原告X及び亡Cは,亡Aの死亡に伴う相続により,「生命
の實相<革表紙版>」(全1巻)及び「生命の實相<黒布表紙
版>」(全20巻)の著作権を取得した。
b亡Bは,昭和63年4月24日に死亡した。亡Bの相続人は,子
である原告X,養子である亡Cの2名である。
原告X及び亡Cは,亡Bの死亡に伴う相続により,亡Bの「生命
の實相<革表紙版>」(全1巻)及び「生命の實相<黒布表紙
版>」(全20巻)の著作権の共有持分を取得した。
c亡Cは,平成18年3月8日,自筆証書によって,亡Cの有する
著作権全部を原告生長の家に遺贈する旨の遺言をし,平成20年1
0月28日に死亡した。
原告生長の家は,上記遺言の効力が生じた平成20年10月28
日,亡Cの「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)及び「生命の
實相<黒布表紙版>」(全20巻)の著作権の共有持分を上記遺
贈により取得した。
d原告生長の家は,平成22年7月12日,原告Xから,原告Xの
有する「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)及び「生命の實相
<黒布表紙版>」(全20巻)の著作権の共有持分を買い受け
た。
e以上の経過により,原告生長の家は,「生命の實相<革表紙版
>」(全1巻)及び「生命の實相<黒布表紙版>」(全20巻)
の著作権の共有持分全部を取得し,単独の著作権者となった。
したがって,「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)及び「生
命の實相<黒布表紙版>」(全20巻)の著作権は,原告生長の
家に帰属する。そして,本件①の書籍1は,「生命の實相<革表
紙版>」(全1巻)を復刻した復刻版であるから,その著作権も原
告生長の家に帰属する。
(イ)これに対し原告社会事業団らは,後記のとおり,亡Aが生前に行
った本件設立行為により「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)及
び「生命の實相<黒布表紙版>」(全20巻)を含む本件生命の實
相の著作権を寄附財産として出捐(移転)し,これが原告社会事業団
に帰属するに至ったから,亡B,原告X及び亡Cは,「生命の實相
<革表紙版>」(全1巻)及び「生命の實相<黒布表紙版>」(全
20巻)の著作権を相続していない旨主張する。
しかし,亡Aによる本件設立行為の寄附財産の対象とされた本件生
命の實相には,「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)及び「生命
の實相<黒布表紙版>」(全20巻)が含まれていない。また,原
告社会事業団と亡Aの相続人代表者亡Cとの間の昭和63年3月22
日付け本件確認書及び本件覚書によって,亡Aから原告社会事業団へ
著作権が譲渡された本件生命の實相は,「生命の實相<頭注版
>」(全40巻)と「生命の實相<愛蔵版>」(全20巻)のみで
あることが明確に確認されている。
これらの理由の詳細は,前記1(1)イの「被告日本教文社の主張」と
同旨である。
したがって,原告社会事業団らの上記主張は失当である。
(ウ)a以上のとおり,「生命の實相<黒布表紙版>」の著作権は原
告生長の家に帰属するところ,原告社会事業団は,原告生長の家の
許諾を得ずに,被告光明思想社と共同で,「生命の實相<黒布表
紙版>」第16巻「神道篇日本国の世界的使命」の「第1章古
事記講義」を抜き出し,「古事記と日本国の世界的使命−甦る『生
命の實相』神道篇」との別の題号を付して本件②の書籍1を出版
し,その販売,頒布を行っている。
原告社会事業団らによる上記行為は,原告生長の家が有する「生
命の實相<黒布表紙版>」の著作権(複製権)の侵害行為に当た
る。
よって,原告生長の家は,原告社会事業団らに対し,著作権法1
12条1項,2項に基づき,本件②の書籍1の出版等の差止め及び
廃棄を求める。
b同様に,本件①の書籍1の著作権は原告生長の家に帰属するもの
であるが,原告社会事業団はこれが自己に帰属すると主張して争っ
ているから,原告生長の家は,原告社会事業団に対し,本件①の書
籍1の著作権を有することの確認を求める。
イ原告社会事業団らの主張
亡Aが生前に行った本件設立行為により「生命の實相<革表紙版
>」(全1巻)及び「生命の實相<黒布表紙版>」(全20巻)を含
む本件生命の實相の著作権を寄附財産として出捐(移転)し,これが原
告社会事業団に帰属するに至ったものであり,亡B,原告X及び亡C
は,亡Aの死亡に伴う相続により,「生命の實相<革表紙版>」(全
1巻)及び「生命の實相<黒布表紙版>」(全20巻)の著作権を取
得していない。
その理由の詳細は,前記1(1)アで述べたとおりである。
したがって,原告生長の家の「生命の實相<革表紙版>」(全1
巻)及び「生命の實相<黒布表紙版>」(全20巻)の著作権の取得
の主張は,その前提を欠くものであって,失当である。
なお,原告生長の家は,原告社会事業団及び被告光明思想社が共同で
本件②の書籍1を出版した旨主張するが,原告社会事業団は,被告光明
思想社に本件②の書籍1の出版の許諾を行ったが,その出版行為を行っ
ていない。
(2)争点2−2(亡Aの死後の人格的利益の侵害行為の有無)
ア原告Xの主張
(ア)原告Xは,亡Aの子であり,遺族である。
前記(1)ア(ウ)aのとおり,本件②の書籍1は,亡Aの死亡後,原告
社会事業団らが亡Aの著書「生命の實相<黒布表紙版>」の第16
巻として出版された「神道篇日本国の世界的使命」から「第1章
古事記講義」を抜き出し,別の題号である「古事記と日本国の世界的
使命−甦る『生命の實相』神道篇」を付して共同で出版したものであ
るところ,第16巻は戦後に「生命の實相」として出版された書籍か
ら亡Aによって削除され,その出版を許さなかった著作物であるか
ら,原告社会事業団らによる本件②の書籍1の出版は,著作者である
亡Aが存命であればその著作者人格権(同一性保持権)の侵害となる
べき行為に該当し,亡Aの意を害するものであるから,著作権法60
条に違反する。
(イ)よって,原告Xは,亡Aの遺族として,著作権法116条1項,
112条1項,2項に基づき,原告社会事業団らに対し,本件②の書
籍1の出版等の差止め及び廃棄を求める。
イ原告社会事業団らの主張
本件②の書籍1は,被告光明思想社が原告社会事業団の許諾を得て出
版した書籍であって,原告社会事業団は本件②の書籍1の出版行為を行
っていない。
本件②の書籍1の題号「古事記と日本国の世界的使命−甦る『生命の
實相』神道篇」のうち,「古事記と日本国の世界的使命」との部分は,
既に戦前の各版として発行されたときに使用されていた神道篇の副題又
は古事記講義の題号に基づくものであり,また,上記題号は,「生命の
實相」神道篇の内容を明らかにしたものであって,亡Aの思想的中核に
忠実なものといえるから,被告光明思想社が上記題号を使用して本件②
の書籍1を出版したことは著作者である亡Aの意を害しないと認められ
る場合(著作権法60条ただし書)に該当する。
また,本件②の書籍1の内容は,もともと昭和10年11月に亡Aが
連続講義として第1回生長の家指導者講習会で行われた内容につき,月
刊雑誌「生長の家」で昭和11年4月から連載されたものであり(甲2
9の2),それ自体の内容で完結した一体性のあるものである。戦前
の「生命の實相<黒布表紙版>」の第16巻の中から,その部分を分
離しても亡Aの意に反する性質のものとはいえない。現に当該部分
は,「驀進日本の心と力」(丙55)という戦前の単行本として,独立
して出版されたことがある。
さらに,当該部分は,亡Aの意に反して戦後の全集版から漏れること
となった部分であり,むしろ当該部分が新しい読者に読まれるに至った
ことこそ亡Aの本意である。
したがって,当該部分を「生命の實相<黒布表紙版>」の第16巻
から分離した内容の本件②の書籍1に上記題号を付して出版すること
は,亡Aが存命であればその著作者人格権(同一性保持権)の侵害とな
るべき行為に該当するものではない。
したがって,原告Xの請求は,その前提を欠くものであって,理由が
ない。
(3)争点2−3(謝罪広告掲載請求の可否)
ア原告生長の家らの主張
(ア)「生命の實相」を含む亡Aの著作の出版その他の利用は,「生長
の家」の布教活動の根幹であり,「文書伝道」をその布教の特徴とす
る「生長の家」の包括宗教法人である原告生長の家が,その目的であ
る布教事項の統一のために管理している。
しかるに,本件②の書籍1は,亡Aが戦後の「生命の實相」より削
除し,その出版を許さなかった著作物であり,原告社会事業団らによ
る本件②の書籍1の出版行為は,「生長の家」の布教活動を不当に妨
害するものであり,原告生長の家の名誉をも侵害するものである。
(イ)前記(2)ア(ア)のとおり,原告社会事業団らによる本件②の書籍1
の出版は,著作者である亡Aが存命であればその著作者人格権(同一
性保持権)の侵害となるべき行為に該当し,亡Aの声望を害するもの
である。
(ウ)よって,原告生長の家らは,原告生長の家においては民法723
条,原告Xにおいては著作権法116条1項,115条に基づき,名
誉回復のための措置として,原告社会事業団らに対し,別紙謝罪広告
目録2記載の謝罪広告の掲載を求める。
イ原告社会事業団らの主張
原告生長の家らの主張は争う。
原告社会事業団らは,原告社会事業団の基本資産である本件生命の實
相の著作権を有効に利用しているだけであり,また,思想,信教及び表
現の自由を確保するために,自らの権利を行使しているにすぎず,原告
生長の家の布教活動を妨害するものではない。
また,本件②の書籍1の出版によって,亡Aの声望が害されることな
どあり得ない。
(4)争点2−4(原告生長の家の損害額)
ア原告生長の家の主張
(ア)前記のとおり,原告社会事業団らによる本件②の書籍1の出版,
販売及び頒布は,原告生長の家の著作権(複製権)を侵害し,かつ,
原告生長の家の名誉を毀損する不法行為を構成する。
原告生長の家が原告社会事業団らの上記不法行為により被った損害
は,次のとおり,合計300万円を下らない。
a印税相当額の損害
本件②の書籍1の販売単価は1800円で,出版,販売,頒布さ
れた数量は2000部を下回らないところ,その印税率は10%以
上である。
したがって,原告生長の家の印税相当額の損害は,34万円の半
額である17万円を下らない。
b慰謝料
原告社会事業団らの上記不法行為は,「生長の家」の創始者であ
る亡Aの人格を害し,更に布教を妨害して,包括宗教法人である原
告生長の家の名誉,信用を毀損するものであり,その慰謝料額は,
183万円を下らない。
c弁護士費用相当額の損害
本件が複雑な事案における権利侵害という事案の性質上,原告生
長の家の弁護士費用相当額の損害は,100万円を下らない。
(イ)よって,原告生長の家は,原告社会事業団らに対し,不法行為に
よる損害賠償として,300万円(上記(ア)aないしcの合計額)及
びこれに対する平成21年6月11日(訴状送達の日の翌日)から支
払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ原告社会事業団らの主張
原告生長の家の主張は争う。
(5)争点2−5(本件②の各書籍2の著作権についての管理合意の有無)
ア原告生長の家の主張
(ア)「生長の家」の聖典である「生命の實相」の「頭注版」(全40
巻)と「愛蔵版」(全20巻)を含む本件②の各書籍2は,いずれ
も「生長の家」の教義に関わるものであり,布教活動の根幹であるた
め,亡Aの生前はその決定のとおりに,亡Aが亡くなった後は,「生長
の家」の布教事項の統一を行う包括宗教法人である原告生長の家の決
定のとおりに本件②の各書籍2の出版その他の利用が行われてきた。
特に亡Aが亡くなった後,原告社会事業団と原告Xを含む亡Aの相
続人代表者亡Cとの間の昭和63年3月22日付け本件確認書及び同
日付け本件覚書によって,本件②の各書籍2の著作権が原告社会事業
団に帰属することが明確に確認されている。
その後,原告生長の家と原告社会事業団は,本件②の各書籍2が「
生長の家」の教義に関わり,その布教活動の根幹となっていること,
亡Aがこれらの書籍を原告社会事業団に寄附したのはその印税収入を
もって原告社会事業団の行う社会厚生事業の運営費用とすることがそ
の目的であり,出版その他の利用は本件寄附行為の目的となっていな
いこと,これらの書籍の出版その他の利用は「生長の家」の布教事項
の統一を行う包括宗教法人である原告生長の家の決定によるべきとの
共通の理解の下で,昭和63年5月10日,原告生長の家において本
件②の各書籍2の出版その他の利用の管理の決定を行うことを確認的
に合意(以下「本件合意①」という。)した。
原告生長の家の理事会において,本件合意①に沿う議事内容が全員
一致で可決されているところ(丙9の議事4),出席した当時の原告
生長の家の理事のうち,D,E,F及びGはいずれも当時7人であっ
た原告社会事業団の理事を兼務しており,また,以後の全ての出版契
約はこの決議のとおりに運用されており,原告社会事業団がこの決議
事項に合意したことは明らかである。
(イ)しかるに,原告社会事業団が被告日本教文社に対して本件②の各
書籍2の出版契約の終了通知及び被告光明思想社に本件②の書籍2(33
)ないし(36)(本件③の書籍31ないし34と同一)の出版を行わせる
行為は,本件合意①に違反する。
(ウ)よって,原告生長の家は,本件合意①に基づき,原告社会事業団
に対し,本件②の各書籍2について,原告生長の家の承諾なく,その
出版権の設定及び消滅を行うことを禁止することを求める。
イ原告社会事業団の主張
原告生長の家主張の本件合意①をした事実は存在しない。
本件合意①は,原告社会事業団が原告生長の家の包括的な管理統制を
受けるがごとき内容のものであり,原告社会事業団は,このような合意
など全くしていない。独立して運営される財団法人が,自らの基本資産
の運用・利用をするに際して,他団体による管理を受けることなどあり
得ないことである。
原告社会事業団は,亡Aの生前はその意向を尊重し,亡Aが亡くなっ
た後には原告生長の家の方針を尊重してはきたが,自らが著作権を有す
る著作物の「出版その他の利用について」は,独立した財団法人におけ
る基本資産の利用として自ら決定してきたものである。
原告社会事業団は,「財団法人生長の家社会事業団著作権管理規
定」(甲28)に基づき,本件②の各書籍2の出版につき著作権の利用
許諾を行っている。
3第3事件
(1)争点3−1(本件③の各書籍についての出版権の設定の有無)
ア被告日本教文社の主張
(ア)被告日本教文社,原告生長の家及び原告社会事業団は,昭和63
年3月22日付け本件確認書が作成された時期と同時期に,亡Aが行
っていた本件確認書の「著作物の表示」のリストに記載された各書籍
の出版に関する指揮・監督を,原告生長の家が全面的に引き継ぎ,爾
後の出版については原告生長の家が一元的に管理すること,被告日本
教文社は原告生長の家の指示の下にその出版を行うこと,原告社会事
業団は,上記各書籍の出版によって発生する著作権収入を取得し,こ
れを基本資産として社会福祉事業を行うこと,上記各書籍の出版はす
べて被告日本教文社において行うことを内容とする合意(以下「本件
合意②」という。)をした。
(イ)a被告日本教文社と原告社会事業団の代理人原告生長の家は,本
件合意②に基づいて,別紙3記載の「契約締結日」欄記載の日に,
本件③の書籍1ないし30,32について,原告社会事業団が被告
日本教文社に独占的排他的な出版権を設定し,被告日本教文社が原
告社会事業団に対し定価の10%の印税を支払う旨の出版使用許諾
契約(以下「本件各出版使用許諾契約」と総称する。)を締結し
た。
ところで,本件各出版使用許諾契約に係る各契約書(乙8,9,
21の1ないし105)には,「著作権法第63条に基づき許諾す
る。」(1条1項)との条項があるが,著作権法63条は,著作物
の利用を他人に許諾できることを定めた規定であり,この規定に基
づいて契約されたというだけで,本件各出版使用許諾契約が排他的
独占的なものではなくなるということにはならない。出版許諾に排
他的独占的な効力があるかどうかは,契約書に直接その旨を定める
文言がない場合でも,契約締結の背景,事情,経緯,当事者の認識
等を踏まえて解釈されるべきものである。
しかるに,被告日本教文社の本件③の書籍1ないし30,32に
ついての出版権は,著作者であり,編者でもある亡Aから,原告社
会事業団の設立前から被告日本教文社に直接与えられた固有の権利
であって,そのことは,昭和49年契約書にも被告日本教文社の排
他的独占的出版権が明示されているとおり,戦後も一貫して亡Aの
意思が貫かれている。
また,本件各出版使用許諾契約に係る各契約書には,「期間満了
の3ヵ月前までに,甲(代理人を含む),乙いずれかから文書をも
って終了する旨の通告がない限り,この契約と同一条件で,順次自
動的に同一期間づつ延長せられるものとする。」(3条),「本著
作物の改訂版又は増補版の発行については,甲(代理人を含む)乙
協議のうえ決定する。」(8条),「甲は,本著作物に係る著作権
を,寄附行為に基づき基本財産として保全し,宗教法人「生長の
家」以外の第三者には著作権管理を委任しないものとする。」(1
2条2項)との条項がある(上記条項中,「甲」は原告社会事業
団,「乙」は被告日本教文社,「代理人」は原告生長の家であ
る。)。
上記各契約書の3条及び8条において「甲(代理人を含む)」と
記載されているのは,使用許諾期間の終了の通告,改訂版,増補版
の発行等において,「甲」の意思表示のほかに,「代理人」と表示
された原告生長の家の意思表示が必要であることを意味するもので
ある。12条2項も,「生長の家」に著作物の出版に関する管理権
があることを前提とするものである。
そして,亡A死亡後の同人の著作物の出版については,本件確認
書において原告社会事業団に著作権が帰属するとされた著作物を含
め,全ての著作物の出版が原告生長の家の役員会における審議事項
とされ,その承認の下に出版がされてきており,原告社会事業団
は,これについて直接的な関与は全くしていないのが,出版の実態
である。
このように本件各出版使用許諾契約に係る各契約書には,「使用
許諾の存続期間」,「改訂版・増補版の発行」等の条項において,
亡Aの意思を受け継ぐ原告生長の家の管理権が規定され,被告日本
教文社の出版許諾について極めて大きな保護がされている。
これらの事情を総合すれば,本件各出版使用許諾契約に基づいて
被告日本教文社に付与されている出版許諾は,独占的排他的なもの
と解すべきであるから,被告日本教文社は,本件③の書籍1ないし
30,32について独占的排他的な出版権(著作権法79条)を有
する。
b本件各出版使用許諾契約の契約期間は3年であるが,順次自動更
新されており(前記aの各契約書3条),直近の更新日は,別紙3
の「更新時期」欄記載の日のとおりである。
これに対し原告社会事業団らは,後記のとおり,原告社会事業団
は,平成19年6月19日付け通告書及び平成20年2月29日付
け回答書をもって,本件③の各書籍に係る出版使用許諾契約につい
て期間満了をもって終了する旨の更新拒絶の意思表示をし,その結
果,上記「更新時期」欄記載の日に出版使用許諾契約が終了してい
る旨主張する。
しかし,被告日本教文社は,昭和63年3月22日付け本件確認
書が作成される以前から,亡Aの指示により一貫して本件確認書に
記載された各書籍の出版権を独占的に保持してその出版を行ってお
り,本件確認書作成後は,本件③の各書籍の出版・管理等に関する
権限を引継いだ原告生長の家の指示の下に,本件③の各書籍の出版
を継続しているものである。このように長期にわたり継続する出版
契約関係は,法的にも充分に尊重,保護されるべきものであり,被
告日本教文社における重大な契約違反等の正当な事由のない限り,
一方的に更新を拒絶することは信義誠実の原則からしても許されな
いものである。
また,本件各出版使用許諾契約に係る各契約書3条は,期間満了
により契約を終了させる場合には,原告社会事業団の代理人である
原告生長の家を含めた文書による通告を必要とすると定めている
が,更新拒絶について原告生長の家からは何の意思表示もされてい
ない。
かえって,原告社会事業団単独の更新拒絶の通告は,本件③の各
書籍の出版等の管理者である原告生長の家の意思に反してされたも
のであることは明らかであり,この点においても,本件各出版使用
許諾契約に定める更新拒絶の要件を欠如するものであり,いずれも
効力が認められない。
したがって,原告社会事業団らの上記主張は理由がない。
(ウ)原告社会事業団と被告日本教文社は,昭和49年1月31日,昭
和49年契約書をもって,本件③の書籍31,33及び34につい
て,原告社会事業団が被告日本教文社に対し独占的排他的使用権(出
版権)を設定する旨の著作権使用(出版)契約を締結した。
したがって,被告日本教文社は,本件③の書籍31,33及び34
について独占的排他的な出版権を有する。
(エ)原告社会事業団は,平成21年6月ころから,被告日本教文社及
び原告生長の家の承諾を得ることなく,被告日本教文社が独占的排他
的な出版権を有する本件③の書籍31ないし34について,被告光明
思想社に出版を行わせ,これらを販売している。
また,原告社会事業団は,被告日本教文社が独占的排他的な出版権
を有する本件③の書籍1ないし15についての出版を予定している。
したがって,被告日本教文社は,原告社会事業団らに対し,本件③
の書籍1ないし15,31ないし34の出版等の差止めを求める必要
性がある。
(オ)よって,被告日本教文社は,原告社会事業団に対し,被告日本教
文社が本件③の各書籍について出版権を有することの確認を求め,原
告社会事業団らに対し,著作権法112条1項に基づき,本件③の書
籍1ないし15,31ないし34の出版等の差止めを求める。
イ原告社会事業団らの主張
(ア)原告社会事業団が被告日本教文社主張の本件合意②をした事実は
ないし,また,本件合意②に基づいて本件各出版使用許諾契約を締結
した事実もない。
(イ)a原告社会事業団と被告日本教文社は,本件③の書籍1ないし3
0,32について各出版使用許諾契約書を作成して使用許諾契約を
締結したが,その許諾の内容は,同各契約書に「著作権法63条に
基づき」と明示されているとおり,著作権法79条の出版権の設定
ではなく,同法63条に基づく使用許諾に過ぎないから,独占的排
他的なものではない。なお,上記各出版使許諾契約書16条におい
て,「従前の昭和49年1月31日付著作権使用(出版)契約書の
うち,本著作物に関する内容は,この契約に継承されるものとし,
従前の契約書のうち本著作物に係る事項は,この契約の成立と同時
に効力を失う。」と規定されており,上記各書籍については,本件
昭和49年契約で規定されていた排他的独占的な出版使用権は消滅
している。
上記各出版使用許諾契約書の「使用許諾の存続期間」(3条)
や「改訂版・増補版の発行」(8条)等の条項には,被告日本教文
社が主張するように「甲(代理人を含む)」との記載があるが(乙
21の1),この記載は,本人である原告社会事業団及び委任を受
けた代理人が規定された通告や協議等をすることができる当然のこ
とを規定しているに過ぎない。法律行為の当事者本人(原告社会事
業団)「とともに」,単なる契約締結のための代理人に過ぎない原
告生長の家による意思表示が,原告社会事業団の意思表示に加えて
必要とする規定など全く存在していない。そもそも委任した本人の
意思に反して,代理人が被告日本教文社の主張する行動などできる
はずがない。
bなお,原告社会事業団は,被告日本教文社に対し,平成19年6
月19日付け通告書(乙22の6)をもって,本件③の各書籍に係
る出版使用許諾契約について期間満了をもって終了する旨の更新拒
絶の意思表示をし,さらに,平成20年2月29日付け回答書(乙
22の11)をもって,予備的に再度,本件③の各書籍に係る出版
使用許諾契約について更新拒絶の意思表示を行った。その結果,本
件③の各書籍に係る出版使用許諾契約は,別表3の「更新時期」欄
記載の日にそれぞれ終了している。
(2)争点3−2(解約の成否)
ア原告社会事業団らの主張
(ア)前記1(2)ア(ア),(イ)及び(ウ)aのとおり,被告日本教文社は,
本件昭和49年契約に基づき,原告社会事業団に対し,本件①の書籍
1の未払印税として合計1540万円の支払義務を負っていた。
(イ)原告社会事業団は,平成21年1月14日到達の内容証明郵便を
もって,被告日本教文社に対し,昭和49年契約書の約款12条の規
定に基づき,2週間以内に本件①の書籍1の印税の未払額を支払うよ
う催告するとともに,期限までに支払がないときは,本件昭和49年
契約を将来に向かって解約する旨の意思表示をした。
しかるに,被告日本教文社は,上記期限である平成21年1月28日
までに本件①の書籍1の印税の未払額を原告社会事業団に支払わなかっ
た。
したがって,本件昭和49年契約は上記期限の翌日である平成21年
1月29日以降効力を失ったから,被告日本教文社は,本件③の書籍3
1,33及び34について本件昭和49年契約に基づき独占的排他的な
出版権を有するものとはいえない。
イ被告日本教文社の主張
原告社会事業団らの主張は争う。原告社会事業団主張の本件昭和49
年契約に基づいて被告日本教文社の原告社会事業団に対する本件①の各
書籍の印税支払義務は発生していない。
その理由の詳細は,前記1(2)イと同旨である。
第4当裁判所の判断
1第1事件について
(1)争点1−1(原告社会事業団の設立による本件①の各書籍の著作権の移
転の有無)
ア原告社会事業団は,亡Aが設立者として行った寄附行為(本件設立行
為)の寄附財産である「「生命の實相」ノ著作権」の対象著作物であ
る「生命の實相」(本件生命の實相)の範囲は,亡Aが戦前に著作
し,「生命の實相」の題号が付された著作物全て(素材である個々の論
文等の著作物及びこれらを編集した編集著作物全て)であり,本件①の
書籍1は,本件生命の實相に属する「生命の實相<革表紙版>」(全
1巻)を復刻した復刻版,本件①の書籍2は,本件生命の實相に属す
る「久遠の實在」(副題「生命の實相第2巻」)を復刻した復刻版であ
って,いずれも本件生命の實相に含まれる著作物であるところ,本件生
命の實相の著作権は,原告社会事業団の設立により亡Aから原告社会事
業団へ移転したから,本件①の各書籍の著作権は,原告社会事業団に帰
属する旨主張する。
(ア)そこで検討するに,前記争いのない事実等と証拠(甲2,14の
5,15の3,21)及び弁論の全趣旨によれば,①原告社会事業団
は,民法旧34条に基づいて,亡Aが設立者として本件設立行為(寄
附行為)を行い,東京都長官の許可を受けて,昭和21年1月8日に
設立された財団法人であること,②原告社会事業団の書面としての寄
附行為である本件寄附行為(「財団法人生長の家社曾事業団寄附行
為」)には,「A著作「生命の實相」ノ著作権」(5条1号の「
ニ.」)が「基本資産」として,「基本資産ヨリ生スル收入」(5条
2号の「ロ.」)が「流動資産」としてそれぞれ掲記されており,ま
た,基本資産は,社会環境の自然的変化による減価滅失等による外,
人為的には消費又は消滅せしめることを得ない旨(7条2項),原告
社会事業団の経費は流動資産をもって支弁する旨(9条)の条項があ
ること,③亡Aが作成した昭和22年8月1日付け本件證明書(甲
2)に「A著作「生命の實相」ノ著作権」を昭和21年1月8日原告
社会事業団へ寄附行為をしたことを証明する旨の記載があり,本件證
明書は,亡Aが東京都知事に提出した昭和22年8月25日付け「寄
附財産移転終了届」(甲21)に添付されていること,④亡A作成
の「設立趣意書」(甲14の5,15の3)中には,「恒久的流動資
金として,「生命の實相」の著作権收入を寄附行為す。」との記載が
あることが認められる。
上記認定事実を総合すると,亡Aが保有していた亡Aを著作者とす
る「生命の實相」の著作権は,亡Aが行った本件設立行為の寄附財産
であって,昭和21年1月8日に原告社会事業団が設立されたことに
より,亡Aから原告社会事業団へ移転し,原告社会事業団の「基本資
産」となったことが認められる。
そして,「生命の實相」の著作権の対象である著作物の利用を許諾
することにより得られる著作権使用料は,「基本資産ヨリ生スル收
入」として「流動資産」に該当すること,原告社会事業団の本件寄附
行為には,「基本資産」は人為的には消費又は消滅せしめることがで
きず,原告社会事業団の経費は「流動資産」をもって支弁する旨規定
されていること(上記②)からすれば,亡A作成の「設立趣意書」中
の「恒久的流動資金として,「生命の實相」の著作権收入を寄附行為
す。」との記載(上記④)は,「基本資産」である「生命の實相」の
著作権から得られる著作権使用料(著作権収入)を「恒久的流動資
金」と表現し,亡Aが「生命の實相」の著作権を「基本資産」を組成
する寄附財産として出捐することを「著作権収入」という観点から比
喩的に説明したものと理解するのが自然である。
したがって,原告社会事業団は,昭和21年1月8日,亡Aから,
亡Aを著作者とする「生命の實相」の著作権の移転を受けたものと認
められる。
(イ)次に,原告社会事業団の設立によりその「基本資産」となっ
た「「生命の實相」ノ著作権」の対象著作物である「生命の實相」(
本件生命の實相)の範囲について判断する。
前記争いのない事実等と証拠(甲29の3,56,丙4)及び弁論
の全趣旨によれば,①亡Aは,昭和5年に創刊された月刊雑誌「生長
の家」に数々の論文等の言語の著作物を発表し,同誌に掲載した個々
の著作物の内容を整理し,説明を補うなどした素材を順序立て,系統
立てて自ら編纂した編集著作物を「生命の實相」の題号を付して出版
社を通じて出版してきたこと,②亡Aが昭和5年に創始した「生長の
家」と称する宗教において,「生命の實相」は万里共通の宗教真理を
開示する「鍵」と位置づけられ,「生命の實相」の題号を付した書籍
は,聖典として,「生長の家」の「文書伝道」による布教活動の最も
重要な部分を構成していること,③戦前に「生命の實相」の題号を付
した書籍として,「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)(初版発
行昭和7年1月1日),「久遠の實在」(副題「生命の實相第2
巻」)(初版発行昭和8年12月25日),「生命の實相<黒布表
紙版>」(全20巻)(初版発行昭和10年1月25日から昭和16
年12月25日),「生命の實相<革表紙版(地・水・火・風・空・教
・行・信・證)>」(全9巻)(初版発行昭和10年10月1日から昭
和14年3月15日),「生命の實相<豪華大聖典>」(全1
巻)(初版発行昭和11年11月22日),「生命の實相<縮刷中
聖典>」(全1巻)(初版発行昭和12年6月1日),「生命の實相
<ビロード表紙版>」(全9巻)(初版発行昭和13年3月20日
から昭和14年3月15日),「生命の實相<菊版>」(全13
巻)(初版発行昭和14年5月20日から昭和16年10月15
日),「生命の實相<人造羊皮版>」(全9巻)(昭和14年11
月20日から昭和15年6月20日)及び「生命の實相<満州版(
乾・艮・兌・離)>」(初版発行昭和18年8月15日から昭和20
年5月5日)の10書籍が出版されたことが認められる。
上記認定事実によれば,亡Aが本件設立行為を行った昭和21年1
月8日当時,亡Aが月刊雑誌「生長の家」に発表した著作物を素材と
し,これらを亡A自らが編集した編集著作物である「生命の實相」の
題号を付した書籍は,戦前に10書籍(上記③)が出版されており,
それぞれの書籍はそれぞれの題号(版名を含む。)により識別できる
ものと認められる。
しかるに,本件寄附行為には,「A著作「生命の實相」ノ著作
権」(5条1号の「ニ.」)と規定されているのみで,「生命の實
相」の範囲を限定する文言や条項は存在せず,また,亡A作成の本件
證明書及び設立趣意書にもこれを限定する記載がないこと(前記(ア)
②,③),昭和21年1月8日当時,「生長の家」の聖典としての「
生命の實相」が上記10書籍のうちの特定の書籍を指していたことを
うかがわせる証拠はないことに照らすならば,本件生命の實相は,上
記10書籍の著作物全てであると解するのが相当である。
そして,本件①の書籍1は,上記10書籍のうちの「生命の實相
<革表紙版>」(全1巻)を復刻した復刻版,本件①の書籍2は,同
じく「久遠の實在」(副題「生命の實相第2巻」)を復刻した復刻版
であって,いずれも本件生命の實相に含まれる著作物の複製物である
といえるから,本件①の各書籍の著作権は,原告社会事業団の設立に
より,原告社会事業団に帰属したものと認められる。
イこれに対し被告日本教文社は,本件寄附行為5条の「A著作「生命の
實相」ノ著作権」にいう「著作権」とは,著作権そのものではなく,著
作権収入を取得する権利と解すべきであり,また,ここにいう「生命の
實相」(本件生命の實相)とは,戦後新たな編集方針の下に出版され,
現実に印税が発生する「生命の實相」と解すべきであるところ,本件①
の各書籍は,戦前に編纂発行された書籍の復刻版であって,戦後新たに
編纂発行された「生命の實相」とは出版の性質を全く異にするものであ
り,本件生命の實相に含まれないから,本件①の各書籍の著作権は,原
告社会事業団に帰属していない旨主張する。
しかし,被告日本教文社の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)被告日本教文社は,①亡Aの真意は,亡A作成の「設立趣意書」
中の「恒久的流動資金として,「生命の實相」の著作権收入を寄附行
為す。」と記載されているとおり,「生長の家」の聖典である「生命
の實相」の著作権を構成する権利のうちの印税収入を取得する権利を
原告社会事業団に寄附し,それにより原告社会事業団の財政基盤を確
立させるところにあったものであって,亡Aが宗教活動を直接の目的
としない原告社会事業団に対し,「生長の家」の聖典である「生命の
實相」の著作権を丸ごと寄附するなどということはあり得ないこと,
②戦後に新たに編纂して発行された「生命の實相」と題する書籍は,
いずれも亡A自身が戦後における新たな方針の下に亡Aの他の著作物
と同様に自ら編纂して,その出版を決定し,その指示の下に,被告日
本教文社が出版及び印税の支払を行い,その印税を原告社会事業団が
受け取ってきたことからすれば,本件寄附行為5条において,原告社
会事業団の基本資産として,「A著作「生命の實相」ノ著作権」と記
載されているのは,行政上の取扱いとして,寄附行為の対象につい
て「著作権収入」から「著作権」へ表現を変更するよう指導があった
ことによるものと推測するほかないことを根拠として挙げて,本件寄
附行為5条の「A著作「生命の實相」ノ著作権」にいう「著作権」と
は,著作権そのものではなく,著作権収入を取得する権利である旨主
張する。
aしかし,亡A作成の「設立趣意書」中の上記記載部分は,前記ア(
ア)認定のとおり,原告社会事業団の「基本資産」である「生命の實
相」の著作権から得られる著作権使用料(著作権収入)を「恒久的
流動資金」と表現し,亡Aが「生命の實相」の著作権を「基本資
産」を組成する寄附財産として出捐することを「著作権収入」とい
う観点から比喩的に説明したものと理解するのが自然であるから,
上記記載部分をもって,本件寄附行為5条の「A著作「生命の實
相」ノ著作権」にいう「著作権」とは,著作権そのものではなく,
著作権収入を取得する権利であるということはできない。
仮に亡Aが本件生命の實相の著作権そのものではなく,著作権収
入を取得する権利のみを寄附財産とする意思であったとすれば,本
件寄附行為や本件證明書にそのように記載してしかるべきである
が,本件寄附行為及び本件證明書にはそのような記載はない。
また,亡Aが本件設立行為を行った当時,亡Aに寄附財産の対象
について「著作権収入」から「著作権」へ表現を変更するよう行政
指導があったことを認めるに足りる証拠はない。
bさらに,①「生長の家」の聖典である「生命の實相」の著作権が
亡Aから原告社会事業団へ移転された場合であっても,宗教団体と
しての「生長の家」は,原告社会事業団の許諾を得て著作物を利用
したり,出版された書籍を布教活動に使用したりすることができる
こと,②亡Aは,本件設立行為を行った当時,「生長の家総裁」の
地位にあり(甲15の3),しかも,本件寄附行為27条に亡Aが
原告社会事業団の理事長に就任することが規定され,現に就任して
いること(甲14の6,弁論の趣旨)に照らすならば,亡Aが,本
件設立行為を行った当時,「生命の實相」の著作権を原告社会事業
団に移転した場合に「生長の家」の布教活動に支障をきたす事態と
なるおそれがあることを想定していたものとは認め難く,また,そ
のような事態にならないようにするために,亡Aにおいて「生命の
實相」の著作権収入を取得する権利のみを原告社会事業団に帰属さ
せる意思を有していたことを認めるに足りる証拠はない。
また,前記争いのない事実等と弁論の全趣旨によれば,原告社会
事業団の設立後,被告日本教文社から,「生命の實相」の題号を付
した書籍として,「生命の實相<新修特製版・普及版>」(各全
20巻)(初版発行昭和24年11月10日から昭和28年4月2
5日),「生命の實相<地の巻>」(全1巻)(初版発行昭和2
8年11月20日),「生命の實相<水の巻>」(全1巻)(初
版発行昭和30年3月5日),「生命の實相<布装携帯版>」(
全40巻)(初版発行昭和31年11月10日から昭和35年5月
15日),「生命の實相<豪華版>」(全20巻)(初版発行昭
和35年6月15日から昭和37年1月10日),「生命の實相
<頭注版>」(全40巻)(初版発行昭和37年5月5日から昭和
42年1月20日),「生命の實相<新装携帯版>」(全40
巻)(初版発行昭和42年3月1日から昭和45年6月10
日),「生命の實相<愛蔵版>」(全20巻)(初版発行昭和4
5年10月15日から昭和48年12月15日)が発行され,これ
らの書籍は,戦前に発行された「生命の實相」に収録された論文等
について亡Aが新たに編纂したものであることが認められるが,こ
のことや原告社会事業団がこれらの書籍の印税の支払を受けたこと
は,本件生命の實相の著作権そのものが原告社会事業団に帰属して
いることと何ら矛盾するものではない。
c以上によれば,被告日本教文社が,本件寄附行為5条の「A著
作「生命の實相」ノ著作権」にいう「著作権」とは,著作権そのも
のではなく,著作権収入を取得する権利であることの根拠として挙
げる諸点は,いずれも採用することができない。
(イ)被告日本教文社は,①原告社会事業団が設立された当時,戦前に
出版された10書籍は,いずれも出版停止状態にあり,在庫も存在し
ていなかったから,本件寄附行為5条の「A著作「生命の實相」ノ著
作権」にいう「生命の實相」(本件生命の實相)とは,戦後新たな編
集方針の下に出版され,現実に印税が発生する「生命の實相」と解す
べきであること,②亡Aの死亡後,亡Aの相続人である亡B,亡C及
び原告Xの代表者である亡Cと原告社会事業団は,原告生長の家の理
事長立会いの下で,昭和63年3月22日付け本件確認書及び同日付
け本件覚書を作成し,本件確認書によって,原告社会事業団に著作権
が帰属する「生命の實相」は,「生命の實相(頭注版全四十巻)」及
び「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」のみであり,本件①の各書籍を
はじめとする他の「生命の實相」の著作権は原告社会事業団に帰属し
ないことが確認されたことを根拠として挙げて,本件寄附行為5条
の「A著作「生命の實相」ノ著作権」にいう「生命の實相」(本件生
命の實相)には,戦前に編纂発行された書籍の復刻版である本件①の
各書籍は含まれない旨主張する。
aしかし,前記ア(イ)認定のとおり,本件寄附行為には,「A著
作「生命の實相」ノ著作権」(5条1号の「ニ.」)と規定されて
いるのみで,「生命の實相」の範囲を限定する文言や条項は存在せ
ず,また,亡A作成の本件證明書及び設立趣意書にもこれを限定す
る記載がないことに照らすならば,本件生命の實相は,本件設立行
為当時,既に出版されていた「生命の實相」の題号を付した10書
籍の著作物全てであると解するのが相当である。
被告日本教文社が主張するように上記10書籍がその当時出版停
止状態にあり,在庫も存在していなかったという事情があったとし
ても,そのような事情は,上記10書籍の著作物の複製物が作成停
止状態にあったことや当該複製物の在庫がないことを示すものにす
ぎず,上記認定を左右するものではない。
b次に,証拠(甲1,60ないし63,乙1,26,丙7,8(以
上枝番のあるものは枝番を含む。)及び弁論の全趣旨を総合すれ
ば,①亡Aは,昭和60年6月17日に死亡し,その相続人は,妻
である亡B,子である原告X及び養子である亡Cの3名であったこ
と,②亡A相続人代表者亡Cと原告社会事業団は,昭和63年3月
22日付け本件確認書及び同日付け本件覚書を作成したこと,③本
件確認書(乙1,丙7)には,亡B,亡C及び原告Xと原告社会事
業団は,原告生長の家代表役員(理事長)H立会いの下で,「一,
A先生の著作にかかる末尾記載の著作物に関する著作権は,著作権
法第二七条に定める翻訳権・翻案権等および同法第二八条に定める
二次的著作物利用に関する原著作者の権利を含めて全てA先生より
財団法人生長の家社会事業団に基本財産と指定して寄附され,現在
財団法人生長の家社会事業団に帰属していること。」,「二,著作
権法第七七条第一号に定める著作権移転の登録について,登録義務
者として必要な一切の件につき財団法人生長の家社会事業団理事長
I(代理人J)に,委任する。」ことを確認する旨の記載があり,
また,本件確認書末尾の「著作物の表示」と題するリストには,3
7に及ぶ「題号」の著作物が掲記され,その中に「生命の實相(頭
注版全四十巻)」及び「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」の記載が
あること,④本件覚書(丙8)には,本件確認書末尾の「著作物の
表示」と題するリストに掲記された各著作物について,亡Aから原
告社会事業団への「著作権譲渡の年月日」が記載され,「生命の實
相(頭注版全四十巻)」及び「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」に
ついてはいずれも「昭和二一年一月八日」と記載されていること,
⑤本件確認書及び本件覚書を登録原因証書として,昭和63年4月
27日,「著作者」を亡A,「著作物の題号」を「生命の實
相」,「著作物が最初に公表された年月日」を「昭和7年1月1
日」とする著作物について,亡Aから原告社会事業団への著作権の
移転登録(本件著作権登録)がされ,本件著作権登録の「登録の原
因及びその発生年月日並びに登録すべき権利に関する事項」欄に
は,「昭和二一年一月八日に下記の者の間に著作権(著作権法第二
七条及び第二八条に規定する権利を含む)の譲渡があった。」,「
譲渡人A」及び「譲受人財団法人生長の家社会事業団」との記
載があること,⑥本件確認書末尾の「著作物の表示」と題するリス
トに掲記された他の題号の著作物(甲60,61)についても昭和
63年4月27日又は同年5月16日に亡Aから原告社会事業団へ
の著作権(共有持分を含む。)の移転登録がされたことが認められ
る。
以上を前提に検討するに,本件確認書によれば,亡A相続人代表
者亡Cと原告社会事業団は,本件確認書をもって,本件確認書末尾
の「著作物の表示」と題するリストに掲記された「生命の實相(頭
注版全四十巻)」及び「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」の著作権
が亡Aから原告社会事業団に基本財産と指定して寄附され,昭和6
3年3月22日現在原告社会事業団に帰属している旨確認したこと
が認められる。
しかし,一方で,「生命の實相<頭注版>」(全40巻)の初
版は昭和37年5月5日から昭和42年1月20日まで発行さ
れ,「生命の實相<愛蔵版>」(全20巻)の初版は昭和45年
10月15日から昭和48年12月15日まで発行されたものであ
るのに(前記(ア)b),亡A相続人代表者亡Cと原告社会事業団間
の昭和63年3月22日付け本件覚書には,本件確認書末尾の「著
作物の表示」と題するリストに掲記された「生命の實相(頭注版全
四十巻)」及び「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」の著作物の「著
作権譲渡の年月日」は,上記各初版が発行される前の「昭和二一年
一月八日」と記載されている。
加えて,昭和63年4月27日にされた亡Aから原告社会事業団
への本件著作権登録においては,著作権の譲渡があった「著作物の
題号」を「生命の實相」,「著作物が最初に公表された年月日」
を「昭和7年1月1日」とする登録がされ,「著作物の題号」に
は,「(頭注版全四十巻)」及び「(愛蔵版全二十巻)」との限定
がなく,また,「著作物が最初に公表された年月日」の「昭和7年
1月1日」は,原告社会事業団は未だ設立されておらず,当該最初
の公表日は,「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)の初版発行
日(前記ア(イ)③)と同一日であること,本件確認書には,本件確
認書末尾の「著作物の表示」と題するリストに掲記された「生命の
實相(頭注版全四十巻)」及び「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」
以外の「生命の實相」の題号を付した書籍(著作物)の著作権につ
いて,亡Aの相続人に帰属する旨の記載も,原告社会事業団に帰属
しない旨の記載もないことを併せ考慮すると,亡A相続人代表者亡
Cと原告社会事業団との間において,本件確認書末尾の「著作物の
表示」と題するリストに掲記された「生命の實相(頭注版全四十
巻)」及び「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」は,「生命の實相
<頭注版>」(全40巻)(初版発行昭和37年5月5日から昭和
42年1月20日)及び「生命の實相<愛蔵版>」(全20
巻)(初版発行昭和45年10月15日から昭和48年12月15
日)のみを意味するものと理解し,本件確認書によって,本件①の
各書籍をはじめとする他の「生命の實相」の著作権は原告社会事業
団に帰属しないことを確認したものと認めることはできない。
仮に亡A相続人代表者亡Cと原告社会事業団がそのような限定を
する趣旨であったのであれば,本件確認書にその旨明記し,著作権
登録においても,著作権の譲渡があった「著作物の題号」及び「著
作物が最初に公表された年月日」の登録をそのような限定の趣旨が
明確になるような登録手続を行ってしかるべきである。
c以上によれば,被告日本教文社が,本件寄附行為5条の「A著
作「生命の實相」ノ著作権」にいう「生命の實相」(本件生命の實
相)には,戦前に編纂発行された書籍の復刻版である本件①の各書
籍は含まれないことの根拠として挙げる諸点は,いずれも採用する
ことができない。
ウ以上のとおり,原告社会事業団は,原告社会事業団の設立により,亡
Aから,本件生命の實相の著作権の移転を受けたものであって,本件①
の各書籍は,いずれも本件生命の實相に含まれる著作物を復刻した復刻
版であって,当該著作物の複製物であるといえるから,本件①の各書籍
の著作権は原告社会事業団に帰属するというべきである。
(2)争点1−2(本件①の各書籍についての著作権使用(出版)契約に基づ
く印税請求権の発生の有無)
ア原告社会事業団は,原告社会事業団と被告日本教文社は,昭和49年
1月31日,原告社会事業団が被告日本教文社に対し原告社会事業団が
著作権を有する本件①の各書籍を含む著作物を出版するための独占的排
他的使用権を設定し,原告社会事業団が被告日本教文社に対し出版時に
定価の10%を印税として支払う旨の著作権使用(出版)契約(本件昭
和49年契約)を締結し,被告日本教文社は,別紙1及び2のとおり,
本件①の各書籍の書籍を出版したから,本件昭和49年契約に基づい
て,原告社会事業団に対し,別紙1及び2の「未払額」欄記載の印税の
支払義務を負う旨主張する。
(ア)そこで検討するに,前記争いのない事実等と証拠(甲3,16)
及び弁論の全趣旨を総合すれば,①原告社会事業団と被告日本教文社
は,昭和49年1月31日,「著作者名」を亡A,「権利者」を原告
社会事業団,「使用者」を被告日本教文社とし,「著作者名」及び「
題名」をもって表示せられる著作物を出版するために,当該著作物を
使用することを許諾する旨の「著作権使用(出版)契約書」と題する
契約書(昭和49年契約書)に調印したこと,②昭和49年契約書に
は,「権利者」は,「著作者名」及び「題名」をもって表示せられる
著作物を出版するために,「使用者」に限って,当該著作物を使用す
ることを許諾する旨の条項(約款1条),「使用者がこの契約に基づ
いて,表記の著作物の使用権を独占し排他的に出版するものとする。
故に権利者はこの契約の存続する限り同一又は明らかに類似と認めら
れる他の著作物を使用者の許諾なくしては自らまたは他人をして他に
転載もしくは出版することができないものとする。」との条項(約款
2条),「権利者は著作物がこの契約の成立以後最初に公刊せられた
年(第一公刊年)の翌年から起算して三カ年を経過したときは,この
契約の存続期間中であってもこれを全集その他の編集物に集録し,又
は全集その他の編集物の一部を分離して別途にこれを出版することが
できる。」,「前項の規定にかかわらず著作者が死亡した場合には,
権利者は契約した著作物を全集その他の編集物に集録して別途に出版
することができる。」との条項(約款10条),「(自動延長条項)
この契約は当事者いずれか一方より廃棄の通告がない限り,順次自動
的に表記の契約期間ずつ延長せられるものとする。」との条項(約款
18条)があること,③昭和49年契約書添付の添付一覧表(「版権
所有出版物一覧表(49.1.31現在)」)には,「印税率10
%」との記載があるほか,「書名」欄及び「初版年月」欄に「生命の
実相全巻(各種各判)」,「昭7.1」との記載があること,④被
告日本教文社作成の原告社会事業団宛ての昭和43年4月1日付け「
印税支払に関する出版状況報告」と題する書面(甲16。以下「昭和
43年報告書」という。)の本文には,「貴財団はA先生の著作物の
うち一部その著作権をお持ちになっておられますが,長年にわたり重
版を続けているものや一時出版を休止しているものもありますので,
今後の印税のお支払を明確にする為に先生より譲渡を受けられた全著
作物について只今までの出版状況を別紙の通り御報告申し上げま
す。」との記載があり,昭和43年報告書添付の「出版継続中(4
3.4.1現在)」と題する別紙中には,「書名」欄に「生命の實相
全巻(各種各判)」,その「初版年月日」欄に「昭7.1.1」,そ
の「印税支払開始」欄に「昭20.11設立時より」との記載がある
ことが認められる。
(イ)上記①ないし③の認定事実によれば,原告社会事業団と被告日本
教文社は,昭和49年1月31日,昭和49年契約書をもって,原告
社会事業団が被告日本教文社に対し原告社会事業団が著作権を有する
添付一覧表に掲記された著作物を出版するための独占的排他的使用権
を設定し,原告社会事業団が被告日本教文社に対し出版時に定価の1
0%を印税として支払う旨の契約を締結したことが認められる。
そして,上記③及び④の認定事実と前記(1)アの認定事実を総合すれ
ば,昭和49年契約書の添付一覧表中に掲記された「生命の実相全
巻(各種各判)」,初版年月日「昭7.1」は,昭和7年1月1日以
降に出版された「生命の實相」と題する書籍の各種各判に係る著作物
であって,昭和49年1月31日現在において原告社会事業団が著作
権を有していたものを意味するものと解されるから,本件①の書籍1
の復刻の元となった「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)(初版
発行昭和7年1月1日),本件①の書籍2の復刻の元となった「久遠
の實在」(副題「生命の實相第2巻」)(初版発行昭和8年12月2
5日)はこれに含まれるものと認められる。
したがって,原告社会事業団の主張するとおり,原告社会事業団と
被告日本教文社は本件昭和49年契約を締結したものと認められる。
しかるに,被告日本教文社は,別紙1の「版数」欄,「出版日」欄
及び「製本部数」欄記載のとおり,昭和57年5月1日から平成20
年5月1日までの間,本件①の書籍1の初版ないし19版を出版し,
別紙2の「版数」欄,「出版日」欄及び「製本部数」欄記載のとお
り,昭和59年3月1日から同年5月25日までの間,本件①の書籍
2の初版ないし3版を発行したのであるから(前記争いのない事実等(
2)イ(イ)),被告日本教文社は,本件昭和49年契約に基づいて,原
告社会事業団に対し,別紙1及び2の「印税額」欄記載の印税の支払
義務を負ったものと認められる。
イこれに対し被告日本教文社は,被告日本教文社による本件①の各書籍
の出版は,いずれもその著作権者である亡Aとの口頭あるいは黙示の合
意により成立した出版契約に基づくものであって,原告社会事業団主張
の本件昭和49年契約に基づくものではない,昭和49年契約書の添付
一覧表は,同契約書作成当時,被告日本教文社から原告社会事業団に印
税が支払われていた著作物を対象として作成されたものであって,過去
に出版された書籍は対象となっていないから,本件①の各書籍の復刻の
元となった著作物は含まれないなどと主張する。
しかし,被告日本教文社の主張は,理由がない。
すなわち,前記(1)認定のとおり,本件①の各書籍の著作権は,原告社
会事業団の設立により,亡Aから原告社会事業団へ移転されたものであ
って,本件①の各書籍の各初版が出版された当時,亡Aは著作権者でな
かったというべきであるから,被告日本教文社主張の亡Aとの口頭ある
いは黙示の合意により成立した出版契約は,その前提を欠くものであ
る。
また,前記ア(ア)認定のとおり,昭和49年契約書の添付一覧表中に
掲記された「生命の実相全巻(各種各判)」,初版年月日「昭7.
1」は,昭和7年1月1日以降に出版された「生命の實相」と題する書
籍の各種各判に係る著作物であって,昭和49年1月31日現在におい
て原告社会事業団が著作権を有していたものを意味するものと解される
から,本件①の各書籍の復刻の元となった著作物は含まれないとの被告
日本教文社の主張は,採用することができない。
ウ以上のとおり,被告日本教文社は,本件昭和49年契約に基づいて,
原告社会事業団に対し,別紙1及び2の「印税額」欄記載の印税の支払
義務を負ったものと認められる。
しかるに,被告日本教文社が,原告社会事業団に対し,別紙1の「支
払額」欄記載のとおり,本件①の書籍1の初版,3版,4版,6版及び
8版について合計1280万円の印税を支払ったが,別紙1及び2の「
未払額」欄記載の金員(合計2740万円)については支払をしていな
いことは,当事者間に争いがない。
被告日本教文社は,上記「未払額」欄記載のうち,合計2740万円
のうち,本件①の書籍1の19版の未払分50万円を除く,2690万
円について消滅時効の予備的主張をしているので,更に進んで判断す
る。
(3)争点1−3(印税請求権の消滅時効の成否)
ア被告日本教文社は,被告日本教文社の原告社会事業団に対する印税の
支払時期は,原則として月末締め翌月20日払(20日が休日の場合は
その翌営業日),印税が1000万円を超える高額の場合は,月末締め
で翌月20日と翌々月20日の2回に分けて支払うことを慣例としてい
たから,原告社会事業団の被告日本教文社に対する本件①の各書籍の印
税請求権の消滅時効については,各版の支払期日である発行月の翌月2
0日(20日が休日の場合はその翌営業日)から順次時効期間が進行
し,本件①の書籍1の初版,2版,5版,7版,9版ないし18版及び
本件①の書籍2の初版ないし3版に係る印税請求権(合計2690万
円)については,別紙1及び2の「支払期日」欄記載の日から商事債権
の消滅時効期間である5年が経過しているから,消滅時効が完成した旨
主張する。
(ア)そこで検討するに,被告日本教文社の原告社会事業団に対する印
税の支払時期は,原則として発行月の月末締め翌月20日払(20日
が休日の場合はその翌営業日),印税が1000万円を超える高額の
場合は,月末締めで翌月20日と翌々月20日の2回に分けて支払う
ことを慣例としていたこと(当事者間に争いがない。)からすれば,
原告社会事業団の被告日本教文社に対する本件①の各書籍の印税請求
権の支払期日は,被告日本教文社主張のとおり,別紙1及び2の「支
払期日」欄記載の日(ただし,別紙1の版数「1」(初版)の支払期
日は,「昭和57年6月21日」)と認めるのが相当である。
そして,原告社会事業団は,上記支払期日から本件①の各書籍の印
税請求権を行使することができるから,当該支払期日を起算点として
消滅時効がそれぞれ進行するものと解される。
しかるに,原告社会事業団の被告日本教文社に対する本件①の各書
籍の印税請求権は,商行為である出版に関する行為(商法502条6
号)によって生じた債権であることから商事債権に該当するものと認
められ,その消滅時効期間は5年となるところ,本件①の書籍1及び
本件①の書籍2に係る印税請求権のうち,本件①の書籍1の初版,2
版,5版,7版,9版ないし18版及び本件①の書籍2の初版ないし
3版に係る印税請求権については,別紙1及び2の「支払期日」欄記
載の日から商事債権の消滅時効期間である5年が経過しているから,
消滅時効が完成したものと認められる。
(イ)これに対し原告社会事業団は,「出版」とは,「複製」と「頒
布」とで一つの行為が構成されており,実際に販売(頒布)されとき
に著作権者への印税の支払を行うのが自然であることからすれば,本
件①の各書籍が1冊でも流通に置かれていれば,出版が継続している
といえるから,原告社会事業団の被告日本教文社に対する本件①の各
書籍の印税請求権の消滅時効は進行しない旨主張する。
しかし,本件①の各書籍が流通に置かれていることは,原告社会事
業団が本件①の印税請求権を行使することの法律上の障害となるもの
とはいえず,原告社会事業団の主張は,独自の見解として採用するこ
とができない。
イ(ア)被告日本教文社が本訴において消滅時効を援用したことは当裁判
所に顕著である。
そうすると,原告社会事業団の本件①の各書籍の印税請求権(別紙
1及び2の「未払額」欄記載の合計2740万円)のうち,被告日本
教文社が消滅時効を援用した合計2690万円については,時効によ
り消滅したものと認められる。
(イ)これに対し原告社会事業団は,出版社として長年の付き合いがあ
り,信頼関係もあった被告日本教文社から,長年の間にわたり,被告
日本教文社が原告社会事業団に支払うべき本件①の各書籍の印税に未
払がある事実を明らかにされることはなかったのであるから,被告日
本教文社による本件①の各書籍の印税請求権についての消滅時効の援
用は,著作権を尊重すべき立場にある出版社としてあるまじき反社会
的態度であり,信義則に反し,権利の濫用に当たり許されない旨主張
する。
しかし,前記ア(ア)認定のとおり,被告日本教文社の原告社会事業
団に対する印税の支払時期は,原則として月末締め翌月20日払(2
0日が休日の場合はその翌営業日),印税が1000万円を超える高
額の場合は,月末締めで翌月20日と翌々月20日の2回に分けて支
払うことを慣例としていたこと,原告社会事業団は,本件昭和49年
契約に基づき被告日本教文社に対して出版状況を問い合わせて確認す
ることが可能であったにもかかわらず,第1事件の訴え提起に至るま
でそのような確認を行った形跡はうかがわれないことに照らすなら
ば,被告日本教文社の消滅時効の援用が権利の濫用に当たるとまでは
認められない。
ウ小括
したがって,原告社会事業団の本件昭和49年契約に基づく本件①の
各書籍の印税請求は,50万円(本件①の書籍1の19版の未払分)の
支払を求める限度で理由があるが,その余の請求は理由がない。
(4)争点1−4(謝罪広告掲載請求の可否等)
ア前記(2)の認定事実と前記争いのない事実等(2)ウを総合すると,被告
日本教文社は,本件昭和49年契約に基づいて出版した著作権者を原告
社会事業団とする本件①の書籍1について,原告社会事業団の許諾を得
ずに,原告社会事業団の理事長を表す「理長」の文字の印影の検印(本
件検印)が押印されていた初版の奥付を変更し,18版及び19版の奥
付において,「byA1,Ph.D.」,「ⒸC1,X1,1932」との記載(本件
表示)及び「〈検印省略〉」の記載をしたものと認められる。
万国著作権条約3条1項は,著作権者の許諾を得て発行されたすべて
の著作物の複製物に最初の発行時から,「Ⓒ」の記号,「著作権者の
名」及び「最初の発行の年」によって構成される著作権表示を付さなけ
ればならない旨規定している。本件表示は,ここにいう著作権表示に該
当するものと認められる。
我が国の著作権法においては,著作権の発生に何らかの方式の履行を
要件としていないので,著作権表示は,著作権の発生とは関係のない事
実上の行為であるが,「Ⓒ」の記号は,一般的に著作権の存在を示すマ
ークとして使用されており,著作権の存在についての注意喚起や情報提
供の役割を果たしていることは公知の事実である。
そうすると,著作権者から出版権を設定された出版社においては,著
作権者の表示につき正しい表示をすべき注意義務が出版契約における契
約上の付随的な義務として生ずるものと解され(なお,昭和49年契約
書の約款13条は,「使用者は権利者のために,万国著作権条約加盟の
方式国,例えば米国に於いて著作権を取得し且つ保全するため,同条約
第三条に基づきⒸ表示など権利保全のため必要な措置をとるものとす
る。」と規定している。),また,著作権者において著作物の複製物に
正しい著作権表示がされることは法律上保護に値する利益に当たるもの
と認めるのが相当である。
しかるに,本件表示は,本件①の書籍1の著作権者が「C1,X1」(
亡C及び原告X)であることを示すものであるところ,本件①の書籍1
の18版及び19版が発行された当時,本件①の書籍1の著作権者は原
告社会事業団に帰属していたのであるから,本件表示は,誤った著作権
表示に当たるというべきである。
そして,被告日本教文社が,本件検印が押印されていた本件①の書籍
1の初版の奥付を変更し,18版及び19版の奥付において本件表示を
行うに際しては,原告社会事業団の意思を確認し,あるいはその許諾を
得るべき注意義務があったのに,これを怠り,本件表示をしたことは,
本件昭和49年契約の付随的な注意義務に違反する債務不履行に当たる
とともに,原告社会事業団の法律上保護に値する利益を侵害する不法行
為を構成するものと認められる。
イところで,不法行為の被侵害利益としての「名誉」(民法710条,
723条)とは,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について
社会から受ける客観的評価をいい,「名誉毀損」とは,この客観的な社
会的評価を低下させる行為をいうものと解される(最高裁昭和61年6
月11日大法廷判決・民集40巻4号872頁,最高裁平成9年5月2
7日第三小法廷判決・民集51巻5号2024頁参照)。
しかるに,財産権である著作権の帰属を表示する著作権表示が正しく
されていないからといって直ちに著作権者の社会的評価が低下するもの
とはいえないし,本件において,被告日本教文社が本件①の書籍1の1
8版及び19版の奥付に本件表示をしたことによって,原告社会事業団
の社会的評価が低下したことを認めるに足りる証拠はない。かえって,
原告社会事業団代表者Kは,多くの信徒に事実を知っていただき,著作
権の帰属を明確にしたいという思いから謝罪広告を求めている旨供述し
ており,この供述内容に照らしても本件表示によって原告社会事業団の
社会的評価が低下したものとはうかがわれない。
そうすると,原告社会事業団の民法723条に基づく謝罪広告掲載請
求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
(5)まとめ
以上のとおりであるから,原告社会事業団(第1事件原告)の請求は,
本件①の書籍1の未払印税50万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日
であることが記録上明らかな平成21年3月12日から支払済みまで年5
分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
2第2事件について
(1)争点2−1(原告生長の家による本件①の書籍1及び本件②の書籍1の
著作権の取得の有無等)
ア(ア)原告生長の家は,亡Aの死亡に伴う相続により,「生命の實相
<革表紙版>」(全1巻)及び「生命の實相<黒布表紙版>」(全
20巻)の著作権を取得した亡Aの相続人から遺贈及び売買によりこ
れらの著作権を取得した旨主張する。
しかしながら,前記1(1)認定のとおり,亡Aが生前に行った本件設
立行為の寄附財産である本件生命の實相の著作権は,原告社会事業団
の設立により,亡Aから原告社会事業団へ移転したものであり,「生
命の實相<革表紙版>」(全1巻)及び「生命の實相<黒布表紙
版>」(全20巻)は,本件生命の實相に含まれるものであるから,
その著作権は,亡Aから原告社会事業団へ移転したものと認められ
る。
したがって,「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)及び「生命
の實相<黒布表紙版>」(全20巻)の著作権は,亡Aの相続財産
に当たらないから,原告生長の家の上記主張は,その前提を欠くもの
であり,理由がない。
(イ)これに対し原告生長の家は,第1事件の被告日本教文社の主張(
前記第3の1(1)イ)と同旨の理由により,本件設立行為の寄附財産で
ある本件生命の實相には,「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)
及び「生命の實相<黒布表紙版>」(全20巻)は含まれていない
から,その著作権は,亡Aから原告社会事業団へ移転していない旨主
張する。
しかし,被告日本教文社の上記主張に理由がないことは前記1(1)イ
で判断したとおりであるから,原告生長の家の上記主張も,理由がな
い。
イしたがって,「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)及び「生命の
實相<黒布表紙版>」(全20巻)の著作権が原告生長の家に帰属す
ることを前提とする原告生長の家の本件②の書籍1の出版等の差止請
求,本件①の書籍1の著作権の確認請求及び本件②の書籍1の複製権侵
害の不法行為に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するま
でもなく,いずれも理由がない。
(2)争点2−2(亡Aの死後の人格的利益の侵害行為の有無)
ア原告Xは,本件②の書籍1は,亡Aの死亡後,原告社会事業団らが亡
Aの著書「生命の實相<黒布表紙版>」の第16巻として出版され
た「神道篇日本国の世界的使命」から「第1章古事記講義」を抜き
出し,別の題号である「古事記と日本国の世界的使命−甦る『生命の實
相』神道篇」を付して共同で出版したものであるところ,第16巻は戦
後に「生命の實相」として出版された書籍から亡Aによって削除され,
その出版を許さなかった著作物であるから,原告社会事業団らによる本
件②の書籍1の出版は,著作者である亡Aが存命であればその著作者人
格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為に該当し,亡Aの意を害す
るものであるから,著作権法60条に違反する旨主張する。
(ア)そこで検討するに,前記争いのない事実等,前記1(1)の認定事実
と証拠(甲3,16,29の2,丙1,55)及び弁論の全趣旨を総
合すれば,①原告Xは,昭和60年6月17日に死亡した亡Aの子で
あり,その遺族であること,②本件②の書籍1(丙1)は,「生命の
實相<黒布表紙版>」の第16巻として出版された「神道篇日本
国の世界的使命」から「第1章古事記講義」を抜き出したものであ
り,その題号は「古事記と日本国の世界的使命−甦る『生命の實相』
神道篇」であること,③「生命の實相<黒布表紙版>」(全20
巻)は,原告社会事業団の基本資産である本件生命の實相に含まれ,
その第16巻の著作権は,原告社会事業団に帰属すること,④本件②
の書籍1は,原告社会事業団の許諾に基づいて,被告光明思想社が平
成20年9月27日に初版を発行したものであること,⑤戦後,亡A
の生前に発行された「生命の實相」と題する書籍には,「生命の實相
<黒布表紙版>」の「第16巻神道篇」の内容は掲載されていない
こと,⑥本件②の書籍1の内容は,昭和10年11月に亡Aが連続講
義として第1回生長の家指導者講習会で行われた内容につき,月刊雑
誌「生長の家」で昭和11年4月から連載されたものであって(甲2
9の2),それ自体の内容で完結した一体性のあるものであり,当該
部分は,戦前に株式會社光明思想普及會が「驀進日本の心と力」(丙
55)という題号の単行本として独立して出版されたことがあること
が認められる。
一方で,亡Aが「生命の實相<黒布表紙版>」の第16巻「神道
篇日本国の世界的使命」の「第1章古事記講義」の部分を戦後発
表しない意思であったことを認めるに足りる証拠はない。
かえって,甲25(神示講義「秘められたる神示」昭和36年11
月22日初版発行)には,「アメリカ軍を中心とする占領軍が日本に
上陸して来て,神道と称う民族信仰を政府が利用して國民を戦争にあ
ふつたのであるから,日本神道はよろしくないといふやうな進駐軍総
司令部の意向であるといふので,『生命の實相』の第十六巻に収録さ
れてあつた『古事記』の講義なども発禁の運命を甘受しなければなら
なかつた。私は,日本國家の前途を思ひ,日本民族に課せられた運命
を思ひ,泣くに泣けない悲しみの中に,眠られぬ幾夜を過ごしてゐ
た(後略)」(6頁∼7頁)との記載があり,また,甲26(「生長
の家五十年史」)には,「例へばこの期間中の昭和二十四年十一月よ
り『生命の實相』全二十巻が復刊されることになつたのであるが,復
刊するにあたつて,「天皇」及び「日本国」の実相と使命が説かれて
ゐる箇所は,削除されねばならなかつた。とりわけ“神道篇”は「古
事記講義」が収録されてゐたために,GHQの検閲を受ける前に全集
から取除かれ,“宗教戯曲篇”に変更されることになつた。」(38
2頁)との記載がある(判決注・原文の一部の漢字を常用漢字で表
記)。
(イ)また,本件②の書籍1の題号は,「古事記と日本国の世界的使命
−甦る『生命の實相』神道篇」であり,「生命の實相<黒布表紙版
>」第16巻「神道篇日本国の世界的使命」の「第1章古事記講
義」の篇名及び章名と一致していないが,「甦る」の2文字が加わっ
たこと以外は,使用されている用語も同一で,これを並べ替えたもの
であることに照らすならば,本件②の書籍1を上記題号とすること
は,亡Aが存命であれば,その意に反する題号の改変には当たらない
ものと認められる。
イ上記認定事実を総合すれば,亡Aを著作者とする「生命の實相<黒
布表紙版>」の第16巻「神道篇日本国の世界的使命」の中の「第1
章古事記講義」の部分について,題号を「古事記と日本国の世界的使
命−甦る『生命の實相』神道篇」として本件②の書籍1を出版すること
は,「亡Aの意を害しない」(著作権法60条ただし書)ものと認めら
れる。
したがって,本件②の書籍1の出版が著作者である亡Aが存命であれ
ばその著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為に該当する
との原告Xの上記主張は採用することができない。
(3)争点2−3(謝罪広告掲載請求の可否)
ア前記(2)認定のとおり,本件②の書籍1の出版が著作者である亡Aが存
命であればその著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為に
該当するものではないから,原告Xの謝罪広告掲載請求は,理由がな
い。
イ次に,原告社会事業団は,本件②の書籍1は,亡Aが戦後の「生命の
實相」より削除し,その出版を許さなかった著作物であり,原告社会事
業団らによる本件②の書籍1の出版行為は,「生長の家」の布教活動を
不当に妨害するものであり,原告生長の家の名誉をも侵害するものであ
る旨主張する。
しかしながら,前記(2)認定のとおり,本件②の書籍1を出版すること
は,亡Aの意を害しないものと認められるから,原告生長の家の上記主
張は,その前提を欠くものである。
また,本件②の書籍1の出版が原告生長の家における現在の布教活動
の方針に反するとしても,本件②の書籍1の著作権者である原告社会事
業団が被告光明思想社に出版の許諾を行い,被告光明思想社がその許諾
に基づいてこれを出版することは,著作権法上著作権あるいは出版権に
基づく権利行使として認められているものであり,原告社会事業団及び
被告光明思想社の上記行為が「生長の家」の布教活動を不当に妨害する
ものと認めることはできない。
したがって,原告生長の家の謝罪広告掲載請求は,その余の点につい
て判断するまでもなく,理由がない。
また,原告生長の家の本件②の書籍1の出版による名誉毀損を理由と
する損害賠償請求も理由がない。
(4)争点2−5(本件②の各書籍2の著作権についての管理合意の有無)
ア原告生長の家は,原告生長の家と原告社会事業団は,昭和63年5月
10日,本件確認書によって原告社会事業団に著作権名義が帰属するこ
とが確認された本件②の各書籍2について,原告生長の家においてその
出版その他の利用の管理の決定を行うことを確認的に合意(本件合意
①)した旨主張する。
しかしながら,原告生長の家の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)原告生長の家と原告社会事業団との間においては,原告生長の家
主張の本件合意①の客観的な裏付けとなる合意書等の書面は作成され
ていない。
(イ)原告生長の家は,本件合意①の根拠として,本件②の各書籍2
が「生長の家」の教義に関わり,その布教活動の根幹となっているこ
と,亡Aがこれらの書籍を原告社会事業団に寄附したのはその印税収
入をもって原告社会事業団の行う社会厚生事業の運営費用とすること
が目的であり,著作物の出版その他の利用は本件寄附行為の目的とな
っていないこと,原告生長の家と原告社会事業団との間において,本
件②の各書籍2の出版その他の利用は「生長の家」の布教事項の統一
を行う包括宗教法人である原告生長の家の決定によるべきとの共通の
理解があったことを主張する。
しかし,亡Aが本件設立行為(寄附行為)により本件生命の實相の
著作権を原告社会事業団に移転し,その著作権から得られる著作権使
用料(著作権収入)を「恒久的流動資金」として原告社会事業団の経
費を支弁する意思であったことは前記1(1)認定のとおりであり,ま
た,本件寄附行為(甲14の6)に規定する原告社会事業団が行う「
事業」(4条)には,著作物の出版は含まれていないが,これらのこ
とから直ちに原告生長の家と原告社会事業団との間で上記著作物の出
版その他の利用は「生長の家」の布教事項の統一を行う包括宗教法人
である原告生長の家の決定によるべきものとの共通の理解があったと
いうのは論理の飛躍があるというべきである。
かえって,原告社会事業団は,本件第1事件の訴え提起前に,原告
生長の家と事前に協議することなく,「生命の實相頭注版」のリニ
ューアルをした書籍の出版を検討することを被告日本教文社に独自に
求めていたこと(乙22の1ないし10,原告社会事業団代表者K)
に照らすならば,原告社会事業団において上記著作物の出版その他の
利用は原告生長の家の決定によるべきものと理解していたものとは認
め難い。
(ウ)次に,原告生長の家は,原告生長の家の理事会において,本件合
意①に沿う議事内容が全員一致で可決されているところ(丙9の議事
4),出席した当時の原告生長の家の理事のうち,D,E,F及びG
はいずれも当時7人であった原告社会事業団の理事を兼務しており,
また,以後の全ての出版契約はこの決議のとおりに運用されており,
原告社会事業団がこの決議事項に合意したことは明らかである旨主張
する。
そこで検討するに,前記争いのない事実等と証拠(乙8,9,21
の1ないし105,丙6,9)及び弁論の全趣旨を総合すると,①昭
和63年5月10日の原告生長の家の定例理事会で,原告社会事業団
に帰属する著作権の管理に関し,「1,社会事業団が別紙1の著作
物(判決注・本件確認書の末尾記載の各書籍)に関して,各出版毎に
一点ずつ管理することを本部に委任する形態にする。」,「2,社会
事業団と教文社の間で締結している現行の出版契約に,本部が社会事
業団からの受任者として新たに加わる形態に変える。」との事項につ
いて全員賛成で原案どおり可決されたこと,②当該定例理事会に出席
した原告生長の家の理事のうち,D,E,F及びGの4名は,いずれ
も,当時7名であった原告社会事業団の理事を兼務していたこと,③
原告社会事業団と被告日本教文社は,昭和63年5月10日付けの「
生命の實相<頭注版>」に関する出版使用許諾契約を皮切りに,本
件②の各書籍2のそれぞれについて逐次出版使用許諾契約を締結した
ことが認められる。
そして,上記各出版使用許諾契約に係る各契約書及び委任状(乙
8,9,21の1ないし105)によれば,原告生長の家は,原告社
会事業団の委任を受けて,原告生長の家の代理人として被告日本教文
社との間で上記各出版使用許諾契約の締結を行ったことが認められ
る。
しかるに,上記各出版使用許諾契約における原告生長の家の立場は
あくまで原告社会事業団の代理人であること,上記各出版使用許諾契
約に係る各契約書中には,原告社会事業団の著作物に対する固有の管
理権を制限ないし制約する明文の定めはないことからすると,昭和6
3年5月10日の原告生長の家の定例理事会の議決や同日以降の上記
各出版使用許諾契約を理由として,本件②の各書籍2についての出版
その他の利用の管理の決定を行う権限が原告生長の家に委譲され,原
告社会事業団がこれを行うことができなくなったものと認めることは
できない。なお,上記各出版使用許諾契約に係る契約書中には,「期
間満了の3ヵ月前までに,甲(代理人を含む),乙いずれかから文書
をもって終了する旨の通告がない限り,この契約と同一条件で,順次
自動的に同一期間づつ延長せられるものとする。」(3条),「本著
作物の改訂版又は増補版の発行については,甲(代理人を含む)乙協
議のうえ決定する。」(8条)の条項があるところ(上記条項中,「
甲」は原告社会事業団,「乙」は被告日本教文社,「代理人」は原告
生長の家である。),上記条項中の「甲(代理人を含む)」にい
う「(代理人を含む)」との文言は,原告生長の家が契約当事者本人
である原告社会事業団の「代理人」として3条所定の通告をしたり,
8条所定の「本著作物の改訂版又は増補版の発行」についての協議を
行う場合があることを意味するものと解される。上記文言を根拠とし
て「本著作物」の出版その他の利用の管理の決定を行う権限を原告社
会事業団が原告生長の家に委譲したものと解釈したり,「本著作物の
改訂版又は増補版の発行」に際し,原告生長の家の承認あるいは何ら
かの意思表示を要すると解釈したりすることは,文理上明らかに困難
である。
(エ)証人Fの供述中には,昭和61年から平成4年まで,原告社会事
業団の理事と原告生長の家の理事を兼務していたが,本件確認書で原
告社会事業団に著作権が帰属すると確認された著作物についての出版
等管理を原告社会事業団が直接やっていたとは認識していないし,実
際もそうではないと思う,著作物の出版は,被告日本教文社が出版計
画書を作って,「総裁先生」に御承認をいただいて出版される,原告
生長の家の組織は全国で様々な行事をやっており,その行事にテキス
トとして聖典を使う必要があるので,事前に計画段階から原告生長の
家の本部がかかわって出版計画書が出来上がり,先生の御許可をいた
だいて出版する,このような形で出版されることについて,原告社会
事業団から異議が出されたことは一度もない旨の供述部分及びこれに
沿う陳述書(丙49)の記載部分がある。
しかし,他方で,証人Dの供述中には,原告社会事業団の理事を務
めていた当時,生命の實相の著作権の名義は原告社会事業団のものだ
が,形ばかりのもので,原告社会事業団は印税収入を受ける権利だけ
を有しているというような話は全く聞いたこともなく書類を見たこと
もない,出版物はたくさんあるので,その中で聖典という扱いを受け
ていた「A先生あるいはB先生,C先生,X先生,4先生」,このも
のに関しては教団の本部がどうこう言うものではないという認識であ
り,「生命の實相」に関してそれをどうこうするというような考え方
は,おそらく誰も持っていなかったと思う旨の供述部分があること,
証人Lの供述中には,被告日本教文社で第二編集部長,その後の社長
の時代でも,生命の實相の著作権は原告社会事業団に帰属しているけ
れども出版に関するすべてのことは原告生長の家が決めるということ
は一回も経験していない旨の供述部分があることに照らすと,亡Aあ
るいは亡Cから,本件②の各書籍2の著作物の出版等に際し承認を得
たり,その承認した内容について原告社会事業団が異議を述べなかっ
たという事実があったとしても,そのことは,著作権者である原告社
会事業団において,著作者であり,かつ,「生長の家」の初代総裁の
亡Aあるいは第2代総裁の亡Cの意向を尊重していたということを示
すものにすぎず,そのことから直ちに原告生長の家が本件②の各書籍
2についての出版その他の利用の管理の決定を行う権限を有していた
ということはできない。
公益法人として主務官庁の指導監督を受ける立場にある原告社会事
業団の基本資産を構成する財産(著作権)についてそのような重大な
制約を設けるのであれば,原告社会事業団と原告生長の家との間でそ
の制約の内容を書面化してしかるべきであるが,前記(ア)のとおり,
そのような書面は作成されていない。
他に原告生長の家主張の本件合意①が成立したことを認めるに足り
る証拠はない。
イしたがって,原告生長の家の本件合意①に基づく原告社会事業団に対
する本件②の各書籍2の出版権の設定及び消滅を行うことの禁止請求
は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
(5)まとめ
以上のとおり,原告生長の家及び原告X(第2事件原告ら)の請求は,
いずれも理由がない。
3第3事件について
(1)争点3−1(本件③の各書籍についての出版権の設定の有無)
ア被告日本教文社,原告生長の家及び原告社会事業団は,昭和63年3
月22日付け本件確認書が作成された時期と同時期に,亡Aが行ってい
た本件確認書の「著作物の表示」のリストに記載された各書籍の出版に
関する指揮・監督を,原告生長の家が全面的に引き継ぎ,爾後の出版に
ついては原告生長の家が一元的に管理すること,被告日本教文社は原告
生長の家の指示の下にその出版を行うこと,原告社会事業団は,上記各
書籍の出版によって発生する著作権収入を取得し,これを基本財産とし
て社会福祉事業を行うこと,上記各書籍の出版はすべて被告日本教文社
において行うことを内容とする合意(本件合意②)をし,被告日本教文
社と原告社会事業団の代理人原告生長の家は,本件合意②に基づいて,
別紙3記載の「契約締結日」欄記載の日に,本件③の書籍1ないし3
0,32について,原告社会事業団が被告日本教文社に独占的排他的な
出版権を設定し,被告日本教文社が原告社会事業団に対し定価の10%
の印税を支払う旨の出版使用許諾契約(本件各出版使用許諾契約)を締
結した旨主張する。
しかしながら,原告生長の家の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)まず,被告日本教文社主張の本件合意②の事実を認めるに足りる
証拠はない。
(イ)次に,証拠(乙8,21の1ないし26,21の28)及び弁論
の全趣旨によれば,本件③の書籍1ないし30,32について各出版
許諾契約書を作成して使用許諾契約を締結したことが認められる。
しかし,上記各使用許諾契約における許諾の内容が独占的排他的な
出版権を設定するものであることを認めるに足りる証拠はない。かえ
って,上記各出版使用許諾契約に係る契約書1条に,「甲は,乙に対
し,この契約の表記の記載事項と約款に従い,本著作物に係る著作権
を出版使用することを,著作権法第63条に基づき許諾する。」との
規定があり,同規定中に「著作権法63条に基づき」と明示されてい
るとおり,上記各使用許諾契約における許諾は,著作権法79条の出
版権を設定する内容のものではなく,同法63条に基づく利用許諾に
過ぎないというべきであるから,独占的排他的なものであるとはいえ
ない。
(ウ)したがって,本件③の書籍1ないし30,32について独占的排
他的な出版権の設定を受けたとの被告日本教文社の主張は採用するこ
とができない。
以上によれば,被告日本教文社の本件③の書籍1ないし30,32
に関する出版権確認請求及び出版等の差止請求は,その余の点につい
て判断するまでもなく,理由がない。
イ被告日本教文社は,原告社会事業団と被告日本教文社は,昭和49年
1月31日,昭和49年契約書をもって,本件③の書籍31,33及び
34について,原告社会事業団が被告日本教文社に対し,独占的排他的
使用権(出版権)を設定する旨の著作権使用(出版)契約を締結した旨
主張する。
原告社会事業団と被告日本教文社は,昭和49年1月31日,昭和4
9年契約書をもって,原告社会事業団が被告日本教文社に対し原告社会
事業団が著作権を有する添付一覧表に掲記された著作物を出版するため
の独占的排他的使用権を設定し,原告社会事業団が被告日本教文社に対
し出版時に定価の10%を印税として支払う旨の契約を締結したこと
は,前記1(2)認定のとおりである。
そして,本件③の書籍31,33及び34については,昭和49年契
約書の添付一覧表の「書名」欄に同名の書籍がそれぞれ記載されている
こと(甲3)からすれば,被告日本教文社は,本件昭和49年契約に基
づいて,本件③の書籍31,33及び34について独占的排他的な出版
権を取得したものと認められる。
原告社会事業団は,本件昭和49年契約の債務不履行による解約の主
張をしているので,更に進んで判断する。
(2)争点3−2(解約の成否)
ア被告日本教文社は,本件昭和49年契約に基づき,原告社会事業団に
対し,本件①の書籍1の未払印税として合計1540万円の支払義務を
負っていたことは,前記1(2)認定のとおりである。
証拠(甲3,10ないし12)及び弁論の全趣旨によれば,①昭和4
9年契約書の約款12条は,「(権利者よりの解約申入れ)」との見出
しの下に,「その他使用者がこの契約上の義務を履行しない場合に於い
て権利者が一定の期間を定めて履行を催告し,その期間内に使用者が履
行しないとき」は,権利者は,「この契約の効力を将来に向かって失わ
しめることができる」旨規定していること,②原告社会事業団は,平成
21年1月14日到達の内容証明郵便をもって,被告日本教文社に対
し,昭和49年契約書の約款12条の規定に基づき,2週間以内に本件
①の書籍1の印税の未払額を支払うよう催告するとともに,期限までに
支払がないときは,本件昭和49年契約を将来に向かって解約する旨の
意思表示をしたこと,③被告日本教文社は,上記期限である平成21年
1月28日までに本件①の書籍1の印税の未払額を原告社会事業団に支
払わなかったことが認められる。
上記認定事実によれば,本件昭和49年契約は,原告社会事業団の解約
により催告期限の翌日である平成21年1月29日以降効力を失ったもの
というべきである。
イ以上によれば,被告日本教文社は,本件③の書籍31,33及び34に
ついて本件昭和49年契約に基づき独占的排他的な出版権を有するものと
はいえない。
したがって,被告日本教文社の本件③の書籍31,33及び34に関
する出版権確認請求及び出版等の差止請求は,その余の点について判断
するまでもなく,理由がない。
(3)まとめ
以上のとおり,被告日本教文社(第3事件原告)の請求は,いずれも理
由がない。
4結論
以上のとおり,原告社会事業団(第1事件原告)の請求は,被告日本教文
社に対し,50万円及びこれに対する平成21年3月12日から支払済みま
で年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容
し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,原告生長の家及び原
告X(第2事件原告ら)の請求及び被告日本教文社(第3事件原告)の請求
はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決す
る。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官大西勝滋
裁判官上田真史
(別紙)第1書籍目録
1題号「初版革表紙生命の實相復刻版」
著者A
初版発行昭和57年5月1日,定価1万円
2題号「初版革表紙生命の實相第2巻『久遠の實在』復刻版」
著者A
初版発行昭和59年3月1日,定価1万円
(別紙)第2書籍目録
1題号「古事記と日本国の世界的使命−甦る『生命の實相』神道篇」
著者A
発行所株式会社光明思想社
2(1)題号「聖経甘露の法雨(大型)」
著者A
(2)題号「聖経甘露の法雨(中型)」
著者A
(3)題号「聖経天使の言葉」
著者A
(4)題号「聖経続々甘露の法雨」
著者A
(5)題号「聖経日々読誦三十章経」
著者A
(6)題号「聖経聖使命菩薩讃偈」
著者A
(7)題号「聖経大日本神国観」
著者A
(8)題号「聖経新仮名合本聖経」
著者A
(9)題号「聖経特大型合本聖経」
著者A
(10)題号「聖経四部経」
著者A
(11)題号「聖経手帳型甘露の法雨」
著者A
(12)題号「聖経宝蔵合本聖経」
著者A
(13)題号「聖経英文甘露の法雨」
著者A
(14)題号「聖経顯浄土成佛教」
著者A
(15)題号「聖経手帳型四部経」
著者A
(16)題号「聖経手帳型合本聖経」
著者A
(17)題号「聖経特別版甘露の法雨」
著者A
(18)題号「聖経龍宮住吉宮聖経」
著者A
(19)題号「聖経記念版続々甘露の法雨」
著者A
(20)題号「生命の實相(頭注版全四十巻)」
著者A
(21)題号「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」
著者A
(22)題号「眞理(第一巻∼第十巻)」
著者A
(23)題号「青年の書」
著者A
(24)題号「人生読本」
著者A
(25)題号「生活読本」
著者A
(26)題号「女の教養」
著者A
(27)題号「ひかりの語録」
著者A
(28)題号「光明の生活法」
著者A
(29)題号「生長の家とは如何なるものか」
著者A
(30)題号「新仮名版甘露の法雨講義」
著者A
(31)題号「信仰の活人剣」
著者A
編集M
(32)題号「あなたは無限能力者」
著者A
編集M
(33)題号「生活改善の鍵」
著者A
(34)題号「無限供給の鍵」
著者A
(35)題号「希望実現の鍵」
著者A
(36)題号「人生調和の鍵」
著者A
(37)題号「『生命の實相』に学ぶ」
著者A,N
(別紙)第3書籍目録
1題号「聖経甘露の法雨(大型)」
著者A
2題号「聖経甘露の法雨(中型)」
著者A
3題号「聖経天使の言葉」
著者A
4題号「聖経続々甘露の法雨」
著者A
5題号「聖経日々読誦三十章経」
著者A
6題号「聖経聖使命菩薩讃偈」
著者A
7題号「聖経大日本神国観」
著者A
8題号「聖経特大型合本聖経」
著者A
9題号「聖経四部経」
著者A
10題号「聖経手帳型甘露の法雨」
著者A
11題号「聖経宝蔵合本聖経」
著者A
12題号「聖経顯浄土成佛教」
著者A
13題号「聖経手帳型四部経」
著者A
14題号「聖経手帳型合本聖経」
著者A
15題号「生命の實相(頭注版全四十巻)」
著者A
16題号「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」
著者A
17題号「眞理(第一巻∼第十巻)」
著者A
18題号「新版真理(第一巻∼第十巻)」
著者A
19題号「青年の書」
著者A
20題号「人生読本」
著者A
21題号「あなたも私も光の子」
著者A
22題号「伸びよ生命の子」
著者A
23題号「みんな一つの生命」
著者A
24題号「運命をひらく鍵」
著者A
25題号「太陽のように明るく」
著者A
26題号「生活読本」
著者A
27題号「女の教養」
著者A
28題号「ひかりの語録」
著者A
29題号「光明の生活法」
著者A
30題号「生長の家とは如何なるものか」
著者A
31題号「生活改善の鍵」
著者A
32題号「無限供給の鍵」
著者A
33題号「希望実現の鍵」
著者A
34題号「人生調和の鍵」
著者A
(別紙)謝罪広告目録1
謝罪広告
当社が出版致しました,「初版革表紙生命の實相復刻版」(A著)一
八版及び同一九版におきまして,真実と反した著作権者の表示をしたこと
を認め,著作権者である財団法人生長の家社会事業団に多大なご迷惑をお
かけしたことを深くお詫び申しあげます。
平成年月日株式会社日本教文社
財団法人生長の家社会事業団殿
掲載条件
大きさ二段抜き
左右七センチメートル
子持掛囲み
見出し二倍明朝体
本文一倍明朝体
掲載場所全国版朝刊社会面
(別紙)謝罪広告目録2
1.記載内容
「生長の家殿
私ども,財団法人生長の家社会事業団と株式会社光明思想社は,貴宗教法人が
X先生と共に著作権を有する「生命の實相黒布表紙版」に関しまして,その
第16巻神道篇の一部を抜き出し,勝手に「古事記と日本国の世界的使命−甦
る『生命の實相』神道篇」との題号を付し,出版して,貴法人らの著作権を侵
害し,多大なご迷惑をお掛けしましたことにつき,ここにお詫び申し上げま
す。
財団法人生長の家社会事業団
理事K
株式会社光明思想社
代表取締役O」
2.掲載条件
(1)大きさ等:(天地)7㎝×(左右)7㎝
12ポイント
(2)掲載場所:
機関紙「聖使命」は,第1頁の下段。
月刊誌「生長の家相愛会」,「生長の家白鳩会」及び「生長の家青年会」(あ
るいは各誌の後継誌)は,表紙,裏表紙以外の原告生長の家の指定すると
ころ。

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
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弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
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興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
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なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
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学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
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お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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独立支援は3名

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