弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を死刑に処する。
押収してあるペティナイフ1本(平成25年押第2号の1)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
第1被告人は,平成23年11月頃に当時の妻と共に福島県会津若松市に移住
した後,実際には職に就くことはなかったのに,妻には就職したと嘘の報告
をし,妻の着物等を無断で質入れするなどして得た金を元手に外国為替オプ
ション取引を行っても思うように利益を出せず,金員に窮して,住んでいた
借家も明け渡さざるを得なくなった。被告人は,平成24年7月13日頃か
ら,同県大沼郡a町内の空き家の敷地を無償で借り受け,同所に駐車した自
動車内で妻と生活するようになったが,住宅の購入を望んだ妻に対し,まと
まった金員を手に入れる当てもないのに,同月26日までには勤め先から家
屋の購入資金等が借りられるなどと嘘を重ねた。多額の金員を手に入れる方
途に思いを巡らせていた被告人は,同月23日頃,付近の民家に押し入って
家人に預貯金を引き出させるなどの方法により現金を強奪することを決意し
た。
被告人は,金品強奪の目的で,平成24年7月26日午前5時20分頃,
福島県大沼郡a町b字cd番地eA方に,無施錠の勝手口から侵入し,同所
において,B所有又は管理の現金1万円及びキャッシュカード2枚等24点
在中の財布1個(時価合計約6000円相当)を盗取した上,起床してきた
A(当時55歳)に対し,持っていた刃体の長さ約12.3センチメートル
のペティナイフ(平成25年押第2号の1)を突き付け,「お金を出してく
ださい」と言って脅迫し,その反抗を抑圧して金品を強奪しようとしたが,
Aがこれに応じなかったため,殺意をもって,その頸部を同ナイフで突き刺
し,さらに,Aが被告人につかみかかるなどして抵抗したことから,その頸
部や項部等を同ナイフで多数回突き刺すなどし,よって,Aを右項部刺創に
よる上位頸髄離断により即死させて殺害した。被告人は,引き続き,同所に
おいて,Aが刺されるのを目の当たりにしたその妻B(当時56歳)に電話
をかけようとする素振りが見られたことから,Bに対し,その側頭部を同ナ
イフで突き刺し,「違うだろ」「お金はどこ」「カード出して」と言うなど
の暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧してBからC所有のネックレス4本等7
点(時価合計約1万0600円相当)を強奪し,さらに,Bが119番通報
をしたことに気付いて,Bも殺害するしかないと決意し,その頸部を同ナイ
フで数回突き刺し,よって,その頃,同所において,Bを左右頸静脈切断に
よる失血により死亡させて殺害した。
第2被告人は,業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時場所に
おいて,前記ペティナイフ1本を携帯した。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為のうち,住居侵入の点は刑法130条前段に,A及び
Bに対する各強盗殺人の点はいずれも同法240条後段に,判示第2の所為は銃
砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22条にそれぞれ該当するが,判示
第1の住居侵入とA及びBに対する各強盗殺人との間にはそれぞれ手段結果の関
係があるので,刑法54条1項後段,10条により結局以上を1罪として刑及び
犯情の最も重いBに対する強盗殺人罪の刑で処断することとし,各所定刑中判示
第1の罪については死刑を,判示第2の罪については懲役刑をそれぞれ選択し,
以上は同法45条前段の併合罪であるが,判示第1の罪につき死刑を選択したの
で,同法46条1項本文により他の刑を科さないで,被告人を死刑に処し,押収
してあるペティナイフ1本(平成25年押第2号の1)は,判示第1の各強盗殺
人の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項
本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を
適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1被告人は,多額の金員を入手する目的で民家に押し入り,家人2名を殺害し
て金品を強奪したのであり,金を得るために他人の生命をないがしろにした本
件犯罪の性質は,それ自体極めて悪質性が高い。
2被告人は,Aに対し,十分な殺傷能力のあるペティナイフで,頸部,頭部等
の身体の枢要部分に集中して多数回の攻撃を加え,重大な傷害を負ったために
もはや抵抗できない状態になったAにとどめを刺すべく,その項部を同ナイフ
で強く突き刺し,容赦なく絶命させている。
被告人は,Aを殺害した後も,なお多額の金員を手に入れるという目的を達
するため,Bの側頭部をペティナイフで突き刺すなどして,キャッシュカード
等の暗証番号を聞き出し,Bが119番通報したことを知ると,その殺害をも
決意し,Bが救急車を呼ぶよう懇願するのも聞き入れず,Bの頸部を同ナイフ
で複数回突き刺し,ためらうことなく致命傷となる傷害を負わせている。
このように,被害者らを殺害した態様は,執拗にして冷酷かつ残虐というほ
かない。
被告人は,B殺害後,折り返しかかってきた消防からの電話にも平然と対応
して犯行の発覚を免れようとし,本件被害品であるキャッシュカード等を使用
して何度も残高照会等を行い,現金の引出しを図るなどもしており,犯行後の
行動も芳しくない。
なお,弁護人は,Aにつかみかかられる前にその頸部をペティナイフで突き
刺した時点では被告人に殺意はなかった旨主張し,被告人の公判供述もこれに
沿うものであるが,被告人は,Aと数十センチメートルの距離で対峙する位置
関係で,ペティナイフの刃先をAの頭部ないし頸部の付近に向けて突き出し,
約9.8センチメートルの深さまで突き刺しているから,確定的とまではいえ
ないにしても,この時点でAに対する殺意はあったと認められる。
32名の被害者の尊い命が奪われた結果は誠に重大である。
殺害されなければならない理由など一切ないのに,就寝中に自宅に侵入して
きた被告人により,突如として無惨な死を強いられた被害者らの苦痛や無念さ
は察するに余りある。
理不尽な凶行により被害者らを失った遺族の悲嘆は深く,被告人に対する処
罰感情が極めて厳しいのも当然である。
農村地域の小規模な集落で夫婦が惨殺された事件として,本件が地域社会に
大きな衝撃を与えたことは想像に難くなく,その社会的影響も見過ごすことは
できない。
4被告人は,妻と共に住む家屋の購入資金等を入手するために犯行を決意した
というのであるが,その動機は利欲的で,あまりにも身勝手というほかない。
実際には無職で収入の当てがなかったにもかかわらず,勤務先から家屋の購
入資金の援助が得られるなどと妻に嘘をついたことから,多額の金員を入手す
る必要に迫られたという経緯にも,酌むべき事情は見当たらない。
5家人に暴行脅迫を加え,金融機関の窓口で多額の現金を引き出させて強奪す
るなどといった計画内容は実現の見込みが高いとは考えられず,犯行に向けた
周到な準備行為や下見行為もないことなどに鑑みれば,被告人が家人の殺害を
前提とした具体的な犯行方法まで企図していたとは認め難いものの,被告人は,
家人を殺害しないで大金を入手する手立てを講じることもなく,ペティナイフ
を携帯して被害者方に侵入した上,同所で探し出した包丁をも手にした上で強
盗に着手していることなどからすれば,家人に抵抗されるなどした場合には殺
害行為に出ることも当然想定していたと認められる。
現に,被告人は,強盗の犯行に着手後,抵抗され,あるいは通報されたこと
を理由に,被害者らを冷酷かつ残虐な態様で殺害しているのであって,家人殺
害の計画性が高いとはいえないことにより,被告人に対する非難の程度が大き
く減ぜられることにはならない。
6以上のように,本件の罪質が極めて悪質で,被害者ら殺害の態様が冷酷かつ
残虐であること,犯行の結果が誠に重大であること,遺族の被害感情も峻烈で,
社会的影響も大きいこと,犯行に及んだ動機にも酌むべきものがないことに鑑
みると,本件が周到な準備に基づくものではなく,家人殺害の計画性が高いと
はいえないことに加えて,被告人が四十代半ばまで前科なく人生を送り,被告
人なりの反省の弁を述べていて,更生の余地が全くないとはいえないことなど
の事情を十分に考慮しても,なお被告人の刑事責任は極めて重大である。
死刑が人の生命を奪う究極の刑罰であり,誠にやむを得ない場合に選択が許
されることを踏まえ,慎重を期して検討しても,被告人に対しては,死刑をも
って臨むのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑死刑,ペティナイフの没収)
平成25年3月27日
福島地方裁判所郡山支部
裁判長裁判官有賀貞博
裁判官古玉正紀
裁判官今村あゆみは,転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官有賀貞博

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