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判決言渡平成21年11月5日
平成21年(行ケ)第10081号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年10月29日
判決
原告コーニンクレッカフィリップス
エレクトロニクスエヌヴィ
訴訟代理人弁理士伊東忠彦
同大貫進介
同山口昭則
同伊東忠重
被告特許庁長官
指定代理人岩井健二
同藤内光武
同小池正彦
同岩崎伸二
同酒井福造
主文
1特許庁が不服2006−17213号事件について平成20年11月1
1日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,原告が,名称を「オーディオ−ビジュアル表示システム」(変更後
の名称は「オーディオ−ビジュアル表示を与えるシステム」)とする発明につ
いて国際特許出願をしたところ,日本国特許庁から拒絶査定を受けたので,こ
れを不服として審判請求をし,平成18年9月7日付けでも特許請求の範囲の
変更等を内容とする手続補正をしたが,同庁から請求不成立の審決を受けたこ
とから,その取消しを求めた事案である。
2争点は,上記補正後の請求項1に係る発明(本願発明)が下記引用文献に記
載された発明(引用発明)との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),
である。

杉原明・花村剛・富永英義「ビットストリーム更新器を用いた動画像階層符
号化」社団法人テレビジョン学会・テレビ学技報18巻15号71頁∼78頁,
1994年(平成6年)2月25日発行(以下,この文献を「引用文献」とい
い,これに記載された発明を「引用発明」という。甲1,乙1)
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告(旧名称「フィリップスエレクトロニクスネムローゼフェンノート
シャップ」)は,1994年(平成6年)3月18日の優先権(欧州特許
庁)を主張して,1995年(平成7年)3月10日,名称を「オーディオ
−ビジュアル表示システム」とする発明について国際特許出願(PCT/I
B95/00155。日本における出願番号は特願平7−525069号)
をし,平成7年11月17日日本国特許庁に翻訳文(請求項の数11。甲5。
国内公表公報は特表平8‐510631号)を提出し,その後平成17年8
月5日付けで発明の名称を「オーディオ−ビジュアル表示を与えるシステ
ム」と変更するとともに特許請求の範囲の変更等も内容とする補正(第1次
補正。請求項の数10,甲7)をしたが,拒絶査定を受けたので,これに対
する不服の審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2006−17213号事件として審理し,そ
の中で原告は平成18年9月7日付けで特許請求の範囲の変更等を内容とす
る補正(第2次補正,以下「本件補正」という。請求項の数7。甲4)をし
たが,特許庁は,平成20年11月11日,上記補正を認めた上「本件審判
の請求は,成り立たない。」との審決をし(出訴期間として90日附加),
その謄本は平成20年11月25日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件補正後の特許請求の範囲は,上記のとおり請求項1∼7から成るが,
このうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の内容は以下の
とおりである。
・【請求項1】
基本部分及び少なくとも補足部分を有する時間進行オーディオ−ビジュ
アル表示を与えるシステムであって,前記基本部分及び前記補足部分をそ
れぞれ記録する機能的に識別し得る2個の記録媒体と,前記基本部分と前
記補足部分とをオーディオ−ビジュアル表示に併合する併合手段とを具え
るシステムにおいて,
前記補足部分は,前記オーディオ−ビジュアル表示の時間進行を保持し
ながら,前記基本部分のみで実現できるオーディオ−ビジュアル表示の品
質を向上させ,
前記基本部分を含む記録媒体は,前記併合手段の近くに配置され,
前記補足部分を含む記録媒体は,通信回路網の伝送ラインを介して前記
併合手段にリンクされていることを特徴とするシステム。
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明は上記引用発明に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたから特許を受けることができない(特許法29条
2項),というものである。
イなお,審決は,上記判断をするに当たり,引用文献に記載された発明
(引用発明)の内容を以下のとおり認定した上,本願発明と引用発明との
一致点及び相違点を次のとおりとした。
・<引用発明の内容>
「基本ビットストリーム及び付加ビットストリームを有する動画像情報
の映像,音声表示を与えるシステムであって,前記基本ビットストリー
ム及び前記付加ビットストリームをそれぞれ蓄積する機能的に識別し得
る蓄積メディアと,前記基本ビットストリームと前記付加ビットストリ
ームとを映像,音声表示のためのビットストリームに加工,合成する更
新処理器とを具えるシステムにおいて,
前記付加ビットストリームは,前記映像,音声表示の動画像情報を保
持しながら,前記基本ビットストリームのみで実現できる映像,音声表
示を高画質化させ,
前記基本ビットストリーム及び前記付加ビットストリームを含む蓄積
メディアは,前記更新処理器の近くに配置されているシステム。」
・<一致点>
本願発明と引用発明は,
「基本部分及び少なくとも補足部分を有する時間進行オーディオ−ビジ
ュアル表示を与えるシステムであって,前記基本部分及び前記補足部分
をそれぞれ記録する機能的に識別し得る記録媒体と,前記基本部分と前
記補足部分とをオーディオ−ビジュアル表示に併合する併合手段とを具
えるシステムにおいて,
前記補足部分は,前記オーディオ−ビジュアル表示の時間進行を保持
しながら,前記基本部分のみで実現できるオーディオ−ビジュアル表示
の品質を向上させるシステム。」である点で一致する。
・<相違点>
本願発明では,基本部分及び補足部分を「2個の」記録媒体に記録す
るとともに,前記基本部分を含む記録媒体は,前記併合手段の近くに配
置され,前記補足部分を含む記録媒体は,通信回路網の伝送ラインを介
して前記併合手段にリンクされているのに対し,引用発明では,基本部
分及び補足部分を「2個の」記録媒体に記録するとはいえず,前記基本
部分及び前記補足部分を含む記録媒体は,前記併合手段の近くに配置さ
れている点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べるとおり誤りがあるので,違法とし
て取り消されるべきである。
ア取消事由1(引用発明認定の誤り)
審決は,「上記(1)イ及び図6‐4によれば,刊行物1(判決注:引用
文献)のシステムでは,前記基本ビットストリーム及び前記付加ビットス
トリームを含む蓄積メディアは,前記更新処理器の近くに配置されている
といえる。」(6頁1行∼3行)として,引用発明の内容につき「前記基
本ビットストリーム及び前記付加ビットストリームを含む蓄積メディアは,
前記更新処理器の近くに配置されているシステム」であると認定した。
しかし,審決のいう上記(1)イの部分,すなわち引用文献の「6.ビット
ストリーム更新スケーラビリティの適用例」欄の記載(甲1,乙1,75
頁)及び図6‐4(甲1,乙1,76頁)に,蓄積メディアである情報セ
ンタ(InformationCenter)が更新処理器(BitstreamEnhancer)の近く
に配置されているという記載や描写はない。情報センタと更新処理器との
配置関係に関する記載としては,「情報センタから,要求された画像デー
タ(複数のビットストリーム)が一度更新処理器へ送られる」(75頁2
9行∼30行)との記載があるが,この記載は情報センタが更新処理器の
近くに配置されていることを意味しない。また,引用文献の記載のうち,
審決が引用した「6.ビットストリーム更新スケーラビリティの適用例」
欄の記載(75頁)以外の部分にも,情報センタが更新処理器の近くに配
置されているという記載はない。一方,引用文献には,情報センタが更新
処理器の遠くに配置されているという記載もない。したがって,引用発明
では情報センタが更新処理器の近くに配置されているか否か不明であると
いうのが正しい理解であり,審決の引用発明の認定には誤りがある。
イ取消事由2(本願発明と引用発明の相違点認定の誤り)
上記アのとおり,引用発明では情報センタが更新処理器の近くに配置さ
れているか否か不明であるというのが正しい理解であることからすれば,
本願発明と引用発明は,「本願発明では,基本部分及び補足部分を『2個
の』記録媒体に記録するとともに,前記基本部分を含む記録媒体は,前記
併合手段の近くに配置され,前記補足部分を含む記録媒体は,通信回路網
の伝送ラインを介して前記併合手段にリンクされているのに対し,引用発
明では,前記基本部分及び前記補足部分を含む記録媒体は,前記併合手段
の近くに配置されているか否か不明である点」とすべきであり,審決の認
定した本願発明と引用発明の相違点には誤りがある。
ウ取消事由3(相違点についての判断の誤り)
(ア)審決は,引用発明において基本部分及び補足部分を含む記録媒体が併
合手段の近くに配置されているとの誤った前提に基づき,周知技術及び
周知の課題を適用することにより,基本部分を含む記録媒体は利用者端
末側に配置され,拡張部分を含む記録媒体は通信回路網の伝送ラインを
介してリンクされている本願発明の構成を採用することは,当業者が格
別の困難性なく想到し得たことである旨判断した。
しかし,引用発明においては基本部分及び補足部分を含む記録媒体が
併合手段の近くに配置されているか否か不明であり,記録媒体をどこに
配置するかについては問題としていない。このように記録媒体をどこに
配置すべきかについて全く問題としていない引用発明に対して,周知技
術等を頼りに記録媒体の配置に関する技術事項を適用することは,格別
の困難性なくなし得たことではない。それにもかかわらず審決は,本願
発明から得た,いわば後知恵に基づく記録媒体の配置に関する技術事項
を引用発明に対して適用することは困難なく想到し得たとして本願発明
の進歩性を誤って否定したものであり,誤りがある。
(イ)審決は「ディジタル情報を利用者に提供する場合,ネットワークやC
D−ROM等の任意の経路を用いることは周知・・・であるから,ディ
ジタル情報を提供する経路は,提供されるディジタル情報の性質,特性
や,経路の性質,コスト等を考慮して適宜選択すべきものである。」
(8頁6行∼10行)とした。
しかし,本願発明は,基本部分を含む記録媒体は利用者端末側に配置
され,補足部分を含む記録媒体は通信回路網の伝送ラインを介してリン
クされているという具体的な構成を備えているものであり,単に記録媒
体をコスト等を考慮して適宜配置したというものではないのであるから,
「任意の経路を用いることは周知である」という上位概念的な周知性に
基づいて本願発明の下位概念的技術的構成の進歩性を否定することはで
きない。
(ウ)審決は,「通信回線ネットワークの負荷を減らすことは周知の課題で
ある」(8頁10行∼11行)とした。
しかし,本願発明の課題は,通信ネットワークの負荷を減らすことで
はなく,利用者が初めにサービスプロバイダから無料又は低価格で供給
された基本部分記録媒体を再生することによって低解像度,低品質のオ
ーディオ−ビジュアル表示を視聴することができ,さらに所望する場合
には高価な費用を支払って外部にある補足部分記録媒体から補足的情報
を得ることによってより完全なオーディオ−ビジュアル表示を視聴する
ことができるようにすることである。また,引用文献にも,記録媒体を
どこに配置すれば通信ネットワークの負荷を減らせるのかという課題は
示されていない。
したがって,通信ネットワークの負荷を減らすことは周知の課題であ
るからという理由で,記録媒体の配置が不明である引用発明から,基本
部分を含む記録媒体は利用者端末側に配置され,補足部分を含む記録媒
体は通信回路網の伝送ラインを介してリンクされているように構成する
ことが容易に想到できるという審決の判断は誤りである。
(エ)審決は,「刊行物1発明において,通信回線ネットワークの負荷を減
らすため,基本部分又は補足部分の一方をCD−ROM等の記録媒体で
提供し,他方を通信回線ネットワークを介して提供することは,本願優
先日当時の通信回線ネットワークの普及状況,及び,動画像が一般的に
大容量であることを考慮すれば,当業者が格別の困難性なくなし得たこ
とであ」る(8頁11行∼16行)とした。
しかし,引用発明は,基本部分及び補足部分の双方を単一の記録媒体
に記録しているのであり,本願発明のように基本部分及び補足部分を2
個の異なった記録媒体にそれぞれ記録しているわけではない。審決は,
引用発明において基本部分と補足部分とを分離することの動機や理由を
示しておらず,また基本部分を含む記録媒体は利用者端末側に配置され,
補足部分を含む記録媒体は通信回路網の伝送ラインを介してリンクされ
ているように構成することが容易であるとする合理的な理由も示してい
ない。前記のとおり,通信回線ネットワークの負荷減少は本願発明とは
無関係な事項であり,理由にならない。基本部分及び補足部分の双方を
単一の記録媒体に記録している引用発明の構成に基づいて,それらをわ
ざわざ分離して,一方をCD−ROM等の記録媒体で提供し,他方を通
信回線ネットワークを介して提供することは容易であるとする審決の判
断は誤りである。
(オ)審決は,「基本部分及び補足部分を別々の2個の記録媒体にそれぞれ
記録することや,基本部分と補足部分とを併合する併合手段を利用者端
末側に配置することは,刊行物1発明において上記のような構成とする
際,当業者が普通に採用し得る構成,配置であると認められ,また,当
該構成,配置による格別の効果も認められない」(8頁21行∼25
行)とした。
aしかし,まず,「上記のような構成」にすること自体に困難性があ
る。
b次に,引用発明に基本部分及び補足部分を別々の2個の記録媒体に
それぞれ記録することの動機は存在せず,審決は別々の2個の記録媒
体にそれぞれ記録することが容易であるとする論理を示していない。
cまた,審決は,基本部分と補足部分とを併合する併合手段を利用者
端末側に配置することは容易である旨認定しているが,引用発明にお
いては,引用文献記載の図6−4(甲1,乙1,76頁)が示すよう
に,併合手段(更新処理器)は通信回線ネットワークを介して利用者
端末に接続されており,利用者端末から離れて配置されている。この
ような引用発明に,基本部分と補足部分とを併合する併合手段を利用
者端末側に配置するようにすることの動機は存在せず,基本部分と補
足部分とを併合する併合手段を利用者端末側に配置するようにするこ
とは決して容易ではない。
dさらに,本願発明の構成によれば,利用者は初めにサービスプロバ
イダから無料又は低価格で供給された基本部分記録媒体を再生するこ
とによって低解像度,低品質のオーディオ−ビジュアル表示を視聴す
ることができ,さらに所望する場合には高価な費用を支払って外部に
ある補足部分記録媒体から補足的情報を得ることによってより完全な
オーディオ−ビジュアル表示を視聴することができるという効果をも
たらすことが可能である。このような効果は,引用発明からは得られ
ないし,また引用文献にはこのような効果の開示も示唆もない。審決
は,本願発明のこのような顕著な効果を看過しているから,本願発明
の構成,配置による格別の効果も認められないとした判断には誤りが
ある。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)∼(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)取消事由1に対し
引用文献の「6.ビットストリーム更新スケーラビリティの適用例」欄の
記載(甲1,乙1,75頁)及び図6‐4(甲1,乙1,76頁)によれば,
蓄積メディアを含む情報センタ(InformationCenter)は通信ネットワーク
(CommunicationsNetwork)を介さずに更新処理器(BitstreamEnhancer)
に接続され,一方,利用者端末(Terminal)は通信ネットワーク(Communic
ationsNetwork)を介して更新処理器(BitstreamEnhancer)に接続されて
いるので,更新処理器(BitstreamEnhancer)は利用者端末(Terminal)に
比べ蓄積メディアの近くに配置されていることは明らかである。したがって,
審決の「前記基本ビットストリーム及び前記付加ビットストリームを含む蓄
積メディアは,前記更新処理器の近くに配置されている」(6頁1行∼3
行)との認定に誤りはない。
(2)取消事由2に対し
上記のとおり,審決に引用発明認定の誤りはないから,本願発明と引用発
明の相違点認定にも誤りはない。
(3)取消事由3に対し
ア(ア)につき
相違点判断の前提となる引用発明の認定及び相違点の認定につき,審決
に誤りがないことは前記(1)(2)のとおりである。
また,引用発明において,更新処理器は利用者端末に比べ蓄積メディア
の近くに配置されているので,蓄積メディア(基本部分及び補足部分を含
む記録媒体)は更新処理器(併合手段)の近くに配置されているといえ,
引用発明は,記録媒体の配置を全く問題にしていないとはいえない。
イ(イ)につき
原告は,本願発明は「単に記録媒体をコスト等を考慮して適宜配置した
というものではない」と主張する。しかし,本願明細書にはいかなる事情
を考慮して本願発明のような構成としたかにつき何ら説明がなく,原告の
上記主張は本願明細書の記載に基づくものではないから,理由がない。
ウ(ウ)につき
審決が周知の課題として認定した通信回線ネットワークの負荷を減らす
ことが本願発明の課題や引用発明の課題に示されていないとしても,その
ことは,相違点にかかる構成を当業者が容易になし得たものとして,進歩
性を否定した論理が誤りであるとする理由にはならない。なぜなら,当業
者にとって自明ともいえる周知の課題を考慮することは,引用文献にその
周知の課題の直接的な記載がなくても,特段困難ではないからである。
また,原告は,本願発明は,利用者が初めにサービスプロバイダから無
料又は低価格で供給された基本部分記録媒体を再生することによって低解
像度,低品質のオーディオ−ビジュアル表示を視聴することができ,さら
に所望する場合には高価な費用を支払って外部にある補足部分記録媒体か
ら補足的情報を得ることによってより完全なオーディオ−ビジュアル表示
を視聴することができるようにすることを課題としていると主張する。し
かし,本願明細書によれば,本願発明は,本願発明の課題を解決するため
の手段として,補足部分がオーディオ−ビジュアル表示の時間進行を保持
しながら,基本部分のみで実現できるオーディオ−ビジュアル表示の品質
を向上させることを特徴とするものであり,この場合,ユーザは,はじめ
にサービスプロバイダから,例えば無料又は低価格で低解像度の低品質の
オーディオ−ビジュアル表示の基本部分が提供され,ユーザはより高価な
費用を支払って補足部分すなわちより完全なオーディオ−ビジュアル表示
を購入することを希望するか否かを決定するというものであるところ,原
告が本願発明の課題と主張する上記事項は,本願明細書では本願発明の課
題を解決するための手段の一つとして記載されているにすぎない。原告の
上記主張は,本願発明の課題についての独自の解釈,見解に基づくもので
あり,理由がない。
さらに,審決は,通信ネットワークの負荷を減らすことは周知の課題で
あるという理由のみから進歩性を否定する判断をした訳ではなく,原告の
主張は審決の趣旨を正解したものではなく,理由がない。
エ(エ)につき
(ア)引用文献の「6.ビットストリーム更新スケーラビリティの適用例」
欄(甲1,乙1,75頁)には「まず情報センタに画像情報を・・・情
報を複数に分割して蓄積しておく。・・・利用者からの要求する画像情
報の依頼(解像度選択も含む)がネットワークを経由して情報センタに
送信される。情報センタから,要求された画像データ(複数のビットス
トリーム)が一度更新処理器へ送られる。・・・」と記載されており,
ここでいう「情報を複数に分割して蓄積」とは,引用文献の「3.ビッ
トストリーム更新スケーラビリティ」欄(乙1,73頁∼74頁)等の
記載も参酌すれば,動画像を階層符号化して作成した複数のビットスト
リーム(基本ビットストリームと付加ビットストリーム)を複数に分割
して,それぞれ情報センタの蓄積メディアに蓄積することを意味してい
る。そして,蓄積メディアに蓄積された基本ビットストリーム(基本部
分)と付加ビットストリーム(補足部分)は,要求に応じそれぞれ読み
出すことから,基本部分と補足部分はそれぞれ別々に読み出すことが可
能なように記録されていることが認められる。また,「情報を複数に分
割して蓄積しておく」ことにおいて,それぞれを蓄積する蓄積メディア
すなわち記録媒体そのものを分けて別々の記録媒体に蓄積(記録)する
ことについて,技術的に阻害事由も困難性もない。
してみると,引用発明の基本部分と補足部分を別々の2個の記録媒体
に記録することは,当業者が適宜に採用し得る設計的事項である。
(イ)また,審決で説示されているとおり,ディジタル情報を利用者に提供
する場合,ネットワークやCD−ROM等の任意の経路を用いて提供す
ることは周知であるところ,たとえば,ネットワークを介することなく
(CD−ROM等の)記録媒体から提供すること,又は,ネットワーク
を介して記録媒体から提供することも,その周知の提供形態に含まれる
ことは容易に首肯し得ることである。
よって,別々の2個の記録媒体に記録した基本部分と補足部分からそ
れぞれの情報を提供するに当たって,ネットワークを介することなく記
録媒体から提供する形態を採用すること,又は,ネットワークを介して
記録媒体から提供する形態を採用することは,格別の困難性を伴うもの
ではない。
(ウ)そして,審決で説示されているとおり,引用発明において基本ビット
ストリームである基本部分は通常の視聴を可能にする部分,すなわち頻
繁に利用される部分に該当し,付加ビットストリームである補足部分は
高画質化のために必要に応じて呼び出す拡張部分,すなわち,たまにし
か利用されない部分に該当することは,引用文献の「3.ビットストリ
ーム更新スケーラビリティ」欄(甲1,乙1,73頁∼74頁)及び
「5.ビットストリーム更新スケーラビリティの特徴」欄(甲1,乙1,
75頁)の記載内容から明らかである。
したがって,頻繁に利用される基本部分とたまにしか利用されない補
足部分に対して,ネットワークを介することなく記録媒体から提供する
形態,又は,ネットワークを介して記録媒体から提供する形態を採用す
るに当たり,上記頻繁に利用される基本部分を通信回線ネットワークを
介することなく記録媒体から提供し,上記たまにしか利用されない補足
部分を通信回線ネットワークを介して記録媒体から提供することは,動
画像データが一般的に大容量であること,及び,通信回線ネットワーク
の負荷を減らすことは周知の課題であることを鑑みれば,当業者が容易
になし得ることである。
(エ)以上のとおりであるから,基本部分を含む記録媒体を利用者端末側に
配置し,拡張部分(補足部分)を含む記録媒体を通信回路網の伝送ライ
ンを介してリンクされているようにすることは,当業者が格別の困難性
なく想到し得たことであり,審決の判断に誤りはない。
オ(オ)につき
(ア)aにつき
基本部分を含む記録媒体を利用者端末側に配置し,補足部分を含む記
録媒体を通信回路網の伝送ラインを介してリンクされているようにする
ことが当業者が格別の困難性なく想到し得ることであることは,上記エ
で主張したとおりである。
(イ)bにつき
基本部分と補足部分を別々の2個の記録媒体に記録することが当業者
であれば容易に想到し得ることであることは,上記エで主張したとおり
である。
(ウ)cにつき
基本部分を含む記録媒体は利用者端末側に配置され,拡張部分(補足
部分)を含む記録媒体は通信回路網の伝送ラインを介してリンクされて
いるようにすれば,併合手段(更新処理器)は,必然的に利用者端末側
に配置されることは明らかであるから,併合手段を利用者端末側に配置
することの動機は存在し,併合手段を利用者端末側に配置することは何
ら困難なことではない。なお,引用発明では更新処理器(併合手段)を
情報センタ側に配置しているが,更新処理器を情報センタ側以外に配置
することまでを排除する特段の理由はなく,更新処理器の配置は利便性
等を考慮して当業者が適宜決め得る設計的事項である。
(エ)dにつき
「無料又は低価格」,「高価な費用」については本願発明を特定した
請求項1には何ら記載も示唆もされておらず,原告の主張は請求項1の
記載に基づくものではなく,理由がない。
また,動画情報に対する料金は適宜決め得るものであるところ,引用
発明において,基本部分を「無料又は低価格」とし,補足部分を「高価
な費用」とすれば,本願発明と同様の効果が得られる。
カ小括
審決は,本願発明と引用発明との課題の相違及び本願発明の格別な効果
を看過したものではなく,かつ,本願発明と引用発明との構成の相違につ
き正解をせずに誤って容易想到であると判断したものでもないから,違法
として取り消すべき理由はない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下原告主張の取消事由について検討する。
2取消事由1(引用発明認定の誤り)について
(1)本願発明の意義
ア本件補正後の明細書(甲4)には,以下の記載がある。
・【発明の属する技術分野】
「本発明は,基本部分及び少なくとも補足部分を有する時間進行オーデ
ィオ−ビジュアル表示を与えるシステムであって,基本部分及び補足部
分をそれぞれ記録する機能的に識別し得る2個の記録媒体と,基本部分
と補足部分とを併合する併合手段とを具えるオーディオ−ビジュアル表
示を与えるシステムに関するものである。」(段落【0001】)
・【従来技術】
「このようなシステムは,フランス国特許出願第2596605号明細
書から既知である。この特許出願明細書において,このシステムは種々
の支店をそれぞれ有するチェーンストアで市販されるビデオシステムを
有している。チェーンストアの支店においては,ビデオテープである第
1の記録媒体が併合手段の近くに配置されている。別の記録手段も,別
の位置に配置され電話回線を介して併合手段にリンクされている。この
併合手段により発生したオーディオ−ビジュアル表示は伝送され,その
店の人目につく位置に配置されたビデオスクリーン上に表示される。ビ
デオテープには,しばしば変更されない基本部分が存在する。この基本
部分は,例えばこのチェーンストアで販売されている製品のビデオ画像
が含まれている。別の記録媒体には,一時的に用いられるように意図さ
れた補足部分が記録されている。この補足部分は,例えば販売品に関す
るテキストが含まれる。基本部分は,ある態様で補足部分と併合される。
補足部分が記録されている記録媒体は,チェーンストアの全ての支店か
ら情報と共に供給され得る中央位置に配置されている。この記録媒体は,
補足部分だけでなくコマンドも含み,このコマンドに応じて基本部分と
補足部分が併合される。補足部分及びコマンドは,店が閉店した時,例
えば販売時間が終了した時に,併合手段に伝送される。その後,例えば
朝,店が開店する前に,基本部分と補足部分とがコマンドに応じて併合
され,その後,オーディオ−ビジュアル表示が行なわれる。前記特許出
願明細書に記載されているビデオシステムは,固定的であり,コマーシ
ャルのようなオーディオ−ビデオ表示中のしばしば変化するデータを変
更するように構成されているにすぎない。この変更は,全補足部分が受
信されるまで行なわれない。」(段落【0002】)
・【発明が解決しようとする課題】
「本発明の目的は,より高い自由度を有すると共に,ユーザに対するよ
り多い可能性を達成し得る冒頭部で述べたシステムを提供することにあ
る。」(段落【0003】)
・【課題を解決するための手段】
「この目的を達成するため,冒頭部で述べたシステムは,補足部分が,
前記オーディオ−ビジュアル表示の時間進行を保持しながら,基本部分
のみで実現できるオーディオ−ビデオ表示の品質を向上させることを特
徴とする。この場合,ユーザはビデオフィルムのようなオーディオ−ビ
ジュアル表示の品質を向上させることが可能になる。ユーザは,はじめ
にサービスプロバイダから,例えば無料又は低価格で低解像度の低品質
のオーディオ−ビジュアル表示の基本部分が提供され,ユーザはより高
価な費用を支払って補足部分すなわちより完全なオーディオ−ビジュア
ル表示を購入することを希望するか否かを決定する。」(段落【000
4】)
・「本発明によるシステムの実施例は,基本部分を含む記録媒体が併合手
段の近くに配置され,補足部分を含む記録媒体が通信回路網の伝送ライ
ンを介して併合手段にリンクされていることを特徴とする。この通信回
路網は,例えば公衆電話回路網とする。補足部分を含む記録媒体は,例
えばプロバイダにより制御されるデータバンク内に配置される。データ
バンクに記録されている補足部分は,本発明によるシステムの複数のユ
ーザにより電話回線を介してアクセスすることができる。」(段落【0
005】)
・「本発明によるシステムの別の実施例は,併合手段が,基本部分と補足
部分とをリアルタイムで併合するように構成されていることを特徴とす
る。この結果,オーディオ−ビジュアル表示は,ユーザによる要求が
あった後,直ちに供給され得る。」(段落【0006】)
・【発明の実施の形態】
「図面を参照して,本発明を詳細に説明する。」(段落【0012】)
・「図1は,本発明によるシステムを示す。このシステムは,例えばマル
チメディアのデータをオーディオ−及びビデオに処理できるCD−iと
する。しかし,本発明は,このシステムに限定されるものではない。こ
のシステムは,基本部分d1を含む第1の記録媒体S1と,補足部分d
2を含む第2の記録媒体S2とを有する。補足部分を用いて,基本部分
により実現できるオーディオ−ビジュアル表示品質を向上させる。この
オーディオ−ビジュアル表示は,例えばビデオフィルムとする。これら
基本部分及び補足部分は,既知の相関を有している。制御手段2の制御
のもとで,基本部分及び補足部分を第1及び第2の読出し手段r1及び
r2によりある速度で読み出す。この結果,基本部分に属するデータを
含む第1のデータストリームds1,及び補足部分に属するデータを含
む第2のデータストリームds2が発生する。これらデータストリーム
ds1及びds2を,必要に応じて2個のデータストリーム間の遅延差
を相殺する同期手段3に供給する。同期手段及び制御手段は一緒になっ
て,データストリームの制御を行なう。同期手段は,第1及び第2のデ
ータストリームをモニタし,制御情報ci1を制御手段2に送る。この
制御情報に応じて,制御手段2はSTARTコマンドにより読出し手段
に対してデータの読出しの開始を指示する。このSTARTコマンドは,
記録媒体に記録されているデータの位置に関する位置情報を含んでおり,
STOPコマンドはあるデータの読出しを停止させる。2つのデータス
トリームは,併合手段1に供給される。同期手段及び併合手段は,制御
情報ci2を交換する。この情報は,例えば基本部分及び補足部分に属
するどのデータが,ある特定の瞬時において併合手段に供給されるかを
示す。併合手段は,基本部分及び補足部分を信号“sign”に併合する。
この信号は,テレビジョンセット5に表示するために供給されるビデオ
信号である。」(段落【0013】)
・「このシステムは,複数の構成要素に副分割される。CD−iプレーヤ
である装置6において,データストリームはオーディオ−ビジュアル表
示を表わす信号に併合される。この信号は,テレビジョンセット5に表
示される。さらに,このシステムは,第2の記録媒体S2が存在するデ
ータバンクを具える。このデータバンク7は,装置6とは異なる位置に
あり,電話回線t1により装置6に接続される。」(段落【001
4】)
・図面(国内書面,甲5)
【図1】本発明によるシステムを示す図
イ上記記載によれば,本願発明はオーディオ−ビジュアル表示を与えるシ
ステムに関するものである。従来技術のシステムは,基本部分を記録した
記録媒体(ビデオテープ)が利用者端末側(チェーンストアの支店)に併
合手段に近接して配置され,また,補足部分が記録された別の記憶媒体が
別の位置(チェーンストアの全ての支店に供給しうる位置)中央に配置さ
れ,電話回線を介して併合手段にリンクされており,例えば支店が閉店し
た時,補足部分が併合手段に伝送されて基本部分と補足部分とが併合され,
その後オーディオ−ビジュアル表示が行われるものであったが,オーディ
オ−ビデオ表示中のしばしば変化するデータを変更するものにすぎず固定
的であり,また,この変更は,補足部分全体が受信されるまで行なわれな
いという課題があった。そこで,本願発明は,この課題を解決するため,
オーディオ−ビジュアル表示を基本部分及び補足部分に分けて2個の記録
媒体に記録し,基本部分を含む記録媒体は併合手段の近くに配置し,補足
部分を含む記録媒体は通信回路網の伝送ラインを介して併合手段にリンク
させ,併合手段により基本部分と補足部分とを時間進行を保持しながらオ
ーディオ−ビジュアル表示に併合してオーディオ−ビジュアル表示の品質
を向上させることにより,ユーザは,初めにサービスプロバイダから低解
像度の低品質のオーディオ−ビジュアル表示の基本部分が提供され,希望
する場合に補足部分を購入してより完全なオーディオ−ビジュアル表示を
することが可能となる効果が得られるようにしたものであることが認めら
れる。
(2)引用発明の意義
ア引用文献(甲1,乙1)には,以下の記載がある。
・「1.はじめに
汎用的な動画像標準符号化方式(MPEGPhase2以下MPEG2)において
様々なアプリケーションへの適用を考慮し,画像フォーマット,画像品
質,ランダムアクセス,順逆方向の高速再生などのトリックモード,ス
ケーラビリティなどの要求条件がある。その中でもスケーラビリティ機
能は,将来の高品質なサービスを考えた場合,重要な機能の一つである。
スケーラビリティ機能は,送信されてきた符号化ビット列からある一部
分を取り出して再生できる機能として考えられており,受信側の要求に
応じて,空間・時間解像度や量子化の精度が自由に選択することが可能
である。・・・」(72頁1行∼7行)
・「2.ビットストリームスケーラビリティの問題点
ビットストリームスケーラビリティによる,スケーラビリティ機能の
実現にはハードウェアの実用化やリアルタイム通信を考慮した場合,符
号化・復号構造の複雑化,処理量の増大といった問題を抱えている。こ
こで一般的な階層復号方式を図2−1に示し,ビットストリームスケー
ラビリティの問題点を整理する。
階層符号化・復号器の低解像度用復号器でなんらかの復号処理をしな●
ければ高解像度画像を再生することができず処理が複雑である。高解
像度画像を再生する場合,図2−1より,低解像度復号器で一度復号
処理したデータを用いて,高解像度復号器でDCT係数間あるいは原
画像レベルでの処理が必要である。
復号器での処理量の負担が多くなる。低解像度復号器での処理に加え,●
さらに高解像度復号器にて逆DCTの計算あるいは動き補償予測など
の演算で処理が増える。
スケーラビリティ機能を有する符号化方式では付加情報(階層符号化●
用のヘッダ情報)が必要となるため若干符号化効率が低下する。
以上の問題点についてユーザの使い易さの観点から考えると,画像復
号器として簡易な復号器であることが望まれ,簡易な(ノンスケーラブ
ルな)復号器においても解像度選択が可能であることが理想であると考
える。
本稿では,スケーラビリティを主に空間・時間解像度選択および互換
性を有する符号化方式と考え,新たなスケーラビリティ方式として,そ
の機能を外部処理的に行う方式を提案する。その方式を“ビットストリ
ーム更新スケーラビリティー(UpdatableScalability)”と呼ぶ。」
(72頁13行∼73頁3行)
・「3.ビットストリーム更新スケーラビリティ
本提案方式では,スケーラビリティ機能の実現法として,符号化,復
号の処理の間にスケーラビリティ機能のためのビットストリームの更新
処理器を新たに考える。ビットストリーム更新スケーラビリティの概念
を図3−2に示す。
ビットストリーム更新スケーラビリティの処理について符号化器,更
新処理器,復号器の順に説明する。
動画像更新用階層符号化器での処理●
この符号器で,基本ビットストリームおよび付加ビットストリームを
作成する。基本ビットストリームは符号化ビットストリームとして核
となるものであり,付加ビットストリームは,基本ビットストリーム
に対し高画質化のための付加情報であると定義する。
更新処理器での処理●
この処理器においてスケーラビリティ機能を実現する。また,画像情
報の更新の処理をこの処理器で行なう。
処理としては,基本ビットストリームと付加ビットストリームを基に
ビットストリーム情報の加工・合成を行ない,要求解像度を満たすビ
ットストリームを作成する。ここで作成されたビットストリームは,
低解像度用ビットストリームよりも,解像度として向上した高解像度
用ビットストリームである。
復号器での処理●
それぞれの解像度用に作成されたノンスケーラブルなビットストリー
ムをノンスケーラブルな復号器にて復号する。
復号器で扱うビットストリームは,汎用的な標準方式に沿ったビット
ストリームである必要があるが,符号器と更新処理器間でやりとりされ
るビットストリームに関しては特に標準のビットストリームである必要
はない。
ここで提案したスケーラビリティ方式は,解像度の選択機能を更新処
理器という外部的な処理器によって実現する。」(73頁4行∼74頁
12行)
・「6.ビットストリーム更新スケーラビリティの適用例
将来の通信,蓄積メデイアを用いたシステムとして,ディジタル情報
化された映像,文書,音声などの情報を情報センタから利用者に配送す
る情報分配システムを考える。このシステムにおける解像度選択機能の
実現を,ビットストリーム更新スケーラビリティを用いて考える。アプ
リケーション例を図??に示す。
まず情報センタに画像情報をビットストリーム更新スケーラビリティ
によって,情報を複数に分割して蓄積しておく。
解像度要求には通信ネットワークを利用し,利用者とセンタ間でオン
デマンド型の画像通信を行なう。画像の伝送形態としては次の手順が考
えられる。
利用者からの要求する画像情報の依頼(解像度選択も含む)がネット
ワークを経由して情報センタに送信される。情報センタから,要求され
た画像データ(複数のビットストリーム)が一度更新処理器へ送られる。
更新処理器において,複数のビットストリームを加工・合成して,非階
層のビットストリームを作成する。
更新処理器で作成された非階層のビットストリームが利用者へ送られ
る.利用者は非階層のビットストリームを非階層の復号器にて復号再生
し,要求した映像を見る。」(75頁19行∼33行)
・図面
図6‐4:適用例
イ上記記載によれば,引用文献(甲1,乙1)には,汎用的な動画像標準
符号化方式のスケーラビリティ機能により受信側の要求に応じて解像度を
自由に選択するに当たり,ノンスケーラブル(非階層)な復号器,すなわ
ちスケーラビリティ機能を持たない簡易な復号器においても解像度選択を
可能とすることを課題とし,その解決手段として,符号器で基本ビットス
トリーム及び基本ビットストリームに対し高画質化のための付加情報であ
る付加ビットストリームを作成し,更新処理器により基本ビットストリー
ムと付加ビットストリームを基にビットストリーム情報の加工・合成を行
ない,要求された解像度を満たす高解像度のノンスケーラブルなビットス
トリームを作成し,これをノンスケーラブルな復号器にて復号する方式,
すなわち解像度の選択機能を更新処理器という外部的な処理器によって実
現するスケーラビリティ方式が提案されており,その適用例として,ディ
ジタル情報化された映像,文書,音声などの情報を情報センタから利用者
に配送する図6−4に示される情報分配システムが記載されていることが
認められる。
そして,図6−4の情報分配システムは,蓄積メディアを用いたシステ
ムであって,情報センタに画像情報を複数に分割して蓄積しておき,利用
者から解像度選択を含む画像情報要求が通信ネットワークを経由して情報
センタに送信されると,情報センタから要求された画像データ(複数のビ
ットストリーム。例えば,基本ビットストリームと付加ビットストリー
ム)が一旦更新処理器へ送られ,更新処理器で複数のビットストリームを
加工・合成してノンスケーラブルなビットストリームを作成し,通信ネッ
トワークを経由して利用者に送り,利用者はノンスケーラブルなビットス
トリームをノンスケーラブルな復号器にて復号再生するという構成により,
解像度選択機能を実現するものであることが認められる。
(3)引用発明において情報センタが更新処理器の近くに配置されているかにつ

原告は,審決が引用発明の内容につき「前記基本ビットストリーム及び前
記付加ビットストリームを含む蓄積メディアは,前記更新処理器の近くに配
置されているシステム」であると認定したことは誤りであると主張するが,
「近くに配置」の意義が技術的に明確ではないため,まずこの点を検討する。
前記第3,1(2)(発明の内容)記載のとおり,本願発明は,2個の記録
媒体と併合手段との配置に関し,「前記基本部分を含む記録媒体は,前記併
合手段の近くに配置され,前記補足部分を含む記録媒体は,通信回路網の伝
送ラインを介して前記併合手段にリンクされている」との構成要件を備える。
そして,本願明細書(甲4)の記載を参照すると,前記のとおり段落【00
13】,【0014】に記載された事項及び図1には,CD−iプレーヤで
ある装置6は基本部分d1を含む第1の記録媒体S1及び併合手段1を備え,
また,データバンク7は補足部分d2を含む第2の記録媒体S2を備え,装
置6とデータバンク7とが電話回線t1により装置6に接続された構成が記
載されており,電話回線t1を基準にした場合,一方の側に基本部分d1を
含む第1の記録媒体S1及び併合手段1が配置され,他方の側に補足部分d
2を含む第2の記録媒体S2がリンクされているといえる。したがって,本
願明細書の記載を斟酌すると,前記構成要件における「前記基本部分を含む
記録媒体は,前記併合手段の近くに配置され」は「前記補足部分を含む記録
媒体は,通信回路網の伝送ラインを介して前記併合手段にリンクされてい
る」と対応する関係にあり,「前記併合手段の近くに配置され」とは,基本
部分を含む記録媒体が通信回路網の伝送ラインを基準にして併合手段側にあ
ることを意味していると理解できる。
一方,引用文献(甲1,乙1)の図6−4を参照すると,通信ネットワー
ク(CommunicationsNetwork)を基準にした場合,画像情報の基本ビットス
トリームと付加ビットストリームが蓄積される情報センタ(「Information
Center」)は更新処理器(BitstreamEnhancer)側にあることが記載されて
いる。
そして,本願発明における通信回路網の伝送ライン(電話回線t1)は引
用発明における通信ネットワーク(CommunicationsNetwork)に該当すると
考えられることに照らすと,引用発明は,本願発明の前記構成要件における
「前記基本部分を含む記録媒体は,前記併合手段の近くに配置され」の意味
と対比すれば,基本ビットストリーム及び付加ビットストリームを含む情報
センタの蓄積メディアは更新処理器の近くに配置されているということがで
きるから,審決における引用発明の認定に誤りはなく,原告主張の取消事由
1は援用できない。
3取消事由2(本願発明と引用発明の相違点認定の誤り)について
前記2のとおり,審決の引用発明の認定に誤りがない以上,審決が相違点に
ついて「刊行物1発明では,前記基本部分及び前記補足部分を含む記録媒体は,
前記併合手段の近くに配置されている」と認定した点に誤りがあるということ
もできないから,原告主張の取消事由2も援用できない。
4取消事由3(相違点についての判断の誤り)について
(1)引用発明から本願発明を容易に想到することができるかにつき
ア審決は,本願発明と引用発明の相違点として,「本願発明では,基本部
分及び補足部分を『2個の』記録媒体に記録するとともに,前記基本部分
を含む記録媒体は,前記併合手段の近くに配置され,前記補足部分を含む
記録媒体は,通信回路網の伝送ラインを介して前記併合手段にリンクされ
ているのに対し,刊行物1発明では,基本部分及び補足部分を『2個の』
記録媒体に記録するとはいえず,前記基本部分及び前記補足部分を含む記
録媒体は,前記併合手段の近くに配置されている点。」(7頁32行∼8
頁3行)を認定しているところ,この相違点は,本願発明の構成要件に対
応させれば,本願発明が次の2つの構成要件を備えることによる相違点と
いうことができる。
①「前記基本部分及び前記補足部分をそれぞれ記録する機能的に識別
し得る2個の記録媒体」
②「前記基本部分を含む記録媒体は,前記併合手段の近くに配置され,
前記補足部分を含む記録媒体は,通信回路網の伝送ラインを介して前
記併合手段にリンクされている」
そこで,引用発明において,上記構成要件①,②を備える構成とするこ
とが当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する
者)にとって容易に想到し得たことといえるかを検討する。
イ前記2(2)のとおり,引用文献(甲1,乙1)に記載されたスケーラビ
リティ方式は,動画像情報から基本ビットストリーム及び付加ビットスト
リームを作成し,受信側の要求に応じて基本ビットストリームと付加ビッ
トストリームを基に要求された解像度を満たすビットストリームを作成す
るものであり,引用文献には,その適用例である情報分配システムにおい
て「まず情報センタに画像情報をビットストリーム更新スケーラビリティ
によって,情報を複数に分割して蓄積しておく。」(75頁24行∼25
行)と記載されている。これらのことから,引用文献には,動画像情報の
基本ビットストリーム及び付加ビットストリーム,すなわち基本部分及び
補足部分を分割して記憶することが記載されているといえる。
しかし,動画像情報を複数に分割して蓄積することが基本ビットストリ
ーム及び付加ビットストリームをそれぞれ別の記録媒体に蓄積することを
一義的に意味するものではなく,また,引用文献には,基本ビットストリ
ーム及び付加ビットストリームをそれぞれ2個の記録媒体に分けて蓄積す
る構成とする解決課題ないし動機は記載されていないから,上記記載のみ
によっては,引用発明において前記構成要件①の構成を採用することが容
易に想到し得たということはできない。
ウ次に前記構成要件②「前記基本部分を含む記録媒体は,前記併合手段の
近くに配置され,前記補足部分を含む記録媒体は,通信回路網の伝送ライ
ンを介して前記併合手段にリンクされている」は,基本部分と補足部分と
がそれぞれ別の記録媒体に分けて蓄積されていること,すなわち前記構成
要件①を前提としているが,仮に,これを前提とした場合,引用発明にお
いて前記構成要件②の構成を採用することが容易想到といえるかについて
引用発明は,前記2(2)のとおり,ノンスケーラブル(非階層)な復号
器,すなわちスケーラビリティ機能を持たない簡易な復号器において解像
度選択を可能とすることを課題とするものであり,そのため,引用文献の
図6−4に示される情報分配システムは,情報センタから送られる基本ビ
ットストリームと付加ビットストリームを更新処理器において加工・合成
してノンスケーラブルなビットストリームを作成した上で,通信ネットワ
ークを経由して利用者に送るよう構成されており,これにより利用者はノ
ンスケーラブルな復号器により復号再生することができるものである。
そうすると,引用発明は,利用者側の複合器がスケーラビリティ機能を
持たないことを前提としており,基本ビットストリームと付加ビットスト
リームを含む記録媒体が更新処理器側に配置されていることは必須の構成
であるから,基本ビットストリーム(基本部分)と付加ビットストリーム
(補足部分)とがそれぞれ別の記録媒体に蓄積されていたとしても,利用
者側に更新処理器(本願発明の併合手段に相当)を配置することやその一
方を利用者側に配置し他方を通信ネットワーク(本願発明の伝送ラインに
相当)を通じて利用者側にリンクする構成とすることは排除されていると
いうべきであり,前記構成要件②の構成を採用することが引用文献に記載
された課題から容易に想到し得たということはできない。
エなお,引用文献(甲1,乙1)には,「2.ビットスケーラビリティの
問題点」(72頁13行∼73頁3行)の欄に,ビットストリームスケー
ラビリティには,階層符号化・復号器の低解像度用復号器で何らかの復号
処理をしなければ高解像度加増を再生することができず処理が複雑である
こと,復号器での処理量の負担が多くなること等の問題があったことが記
載されており,上記引用発明の課題認識に至る過程で,利用者側の復号器
が更新処理器の機能を備えた構成が示唆されているということもできる。
しかし,この場合においても,前記イのとおり,基本ビットストリーム及
び付加ビットストリームをそれぞれ別の記録媒体に分けて蓄積する構成と
する解決課題ないし動機は存在せず,仮に,基本ビットストリーム及び付
加ビットストリームがそれぞれ別の記録媒体に分けて蓄積されていたとし
ても,その一方を利用者側に配置し他方を通信ネットワークを通じて利用
者側にリンクする構成とする解決課題ないし動機も存在しないのであるか
ら,前記構成要件①,②の構成を採用することが容易に想到し得たという
ことはできない。
オ以上のとおりであるから,引用発明から本願発明の構成に至ることが当
業者にとって容易に想到し得たことであるということはできない。
(2)被告の主張に対する判断
ア本件発明と引用発明の相違点について,審決は前記第3,1(3)(審決
の内容)のとおり判断しており,また,被告は原告の主張に対する反論に
おいても同様の主張をしている。
(森亮一・河原正治「歴史的必然としての超流通」イ確かに,乙3
情処シンポジウム論文集94巻1号67頁∼76頁・1994年〔平・
成6年〕2月17日発行)には,「情報提供者は,任意の経路(放送,C
D−ROM,ネットワークなど)を用いて,大量かつ安全に情報を提供す
ることができる。」(68頁左欄18行∼20行)と記載されており,デ
ィジタル情報を利用者に提供する場合,ネットワークやCD−ROM等の
任意の経路を用いることが周知ということができ,また,通信回線ネット
ワークの負荷を減らすことは当業者の技術常識から周知の課題といえる可
能性はある。
しかし,ディジタル情報を利用者に提供する場合,任意の経路を用いる
ことが周知であるとしても,引用発明から「前記基本部分を含む記録媒体
は,前記併合手段の近くに配置され,前記補足部分を含む記録媒体は,通
信回路網の伝送ラインを介して前記併合手段にリンクされている」構成を
採ることが当業者にとって容易に想到し得たということはできないことは
前記(1)のとおりであり,審決の判断はその前提において誤りがある。
ウまた,仮に,引用発明において基本ビットストリーム(基本部分)及び
付加ビットストリーム(拡張部分)をそれぞれ2個の記録媒体に分けて蓄
積する構成とすることが当業者が容易に想到し得る構成であり,更新処理
器を通信ネットワークの置かれた位置から見て利用者側に配置することに
困難性がないとしても,通信回線ネットワークの負荷を減らすことが周知
の課題であるのであれば,前記2個の記録媒体の両方を更新処理器側に配
置すれば,動画像情報を通信回線ネットワークを介して伝送する必要がな
く,通信回線ネットワークの負荷がより少なくなるのであるから,前記周
知の課題から「前記基本部分を含む記録媒体は,前記併合手段の近くに配
置され,前記補足部分を含む記録媒体は,通信回路網の伝送ラインを介し
て前記併合手段にリンクされている」構成が一義的に導かれるとはいえな
い。
エしたがって,引用発明においては,基本部分及び補足部分を別々の2個
の記録媒体にそれぞれ記録することや,基本部分と補足部分とを併合する
併合手段を通信ネットワークから見て利用者端末側に配置することが当業
者が容易に採用し得る構成又は配置であるということはできず,本願発明
は引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたもとした審決の判断には誤りがある。
オなお,被告は,原告が主張する本願発明の効果(利用者は初めにサービ
スプロバイダから無料又は低価格で供給された基本部分記録媒体を再生す
ることによって低解像度,低品質のオーディオ−ビジュアル表示を視聴す
ることができ,さらに所望する場合には高価な費用を支払って外部にある
補足部分記録媒体から補足的情報を得ることによって,より完全なオーデ
ィオ−ビジュアル表示を視聴することができるという効果)につき,かか
る効果は基本部分を記録した記録媒体と補足部分を記録した記録媒体の,
配置にかかわらず得られる効果であり,本願発明の構成によって初めて奏
するものとはいえない上,本願発明には「無料又は低価格」・「高価な費
用」について記載も示唆もされておらず,原告の主張は請求項1の記載に
基づくものではなく,また,動画情報に対する料金は適宜決められるもの
であるから,引用発明においても本願発明と同様の効果が得られることは
明らかであると主張する。
しかし,前記のとおり,引用発明においては,基本部分及び補足部分
を別々の2個の記録媒体にそれぞれ記録することや,基本部分と補足部分
とを併合する併合手段を利用者端末側に配置することが当業者が容易に想
到し得る構成又は配置であるということができないのであるから,たとえ,
原告が主張する効果が本願発明の構成特有のとはいえず,また,記録媒体
の価格や視聴料金が適宜決められるものであるとしても,審決の判断に誤
りがあるとする結論を左右するものではない。
5結語
以上によれば,原告主張の取消事由3は理由がある。
よって原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官真辺朋子

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