弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 本件抗告の趣意は、憲法違反、判例違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、
事実誤認の主張であって、刑訴法四三三条の抗告理由に当たらない。
 所論にかんがみ職権をもって判断するに、所論引用の各証拠が同法四三五条六号
にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たらないとした原決定の判断は、
これを是認することができる。その理由は、以下のとおりである。
 一 確定判決の有罪認定とその証拠関係
 1 本件再審請求の対象である第二審判決(以下「確定判決」という)が認定し
た罪となるべき事実の要旨は、次のとおりである。
 (一)申立人は、妻A及びBとのいわゆる三角関係の処置に窮した末、右両名を
殺害して右関係を一挙に清算すればすべてがすっきりするなどと考えるようになっ
ていた折から、昭和三六年三月二六日夜、Aから、その居住する三重県名張市aと
奈良県山辺郡b村にまたがる地区の生活改善グループ「C」の年次総会が同月二八
日に開催されることを聞き、その懇親会の機会をとらえて、かねて買い受けて所持
していた有機燐テップ製剤の農薬ニッカリンTを女子会員用の飲み物に入れて飲ま
せる方法を思い付き、同月二七日夜、自ら作った節付き竹筒に右ニッカリンTを注
入し、新聞紙でふたをして用意しておいた。
 (二)申立人は、同月二八日午後五時二〇分ころ、右竹筒をジャンパーのポケッ
ト内に忍ばせて、同会会長のD方に立ち寄ったところ、その玄関上がり口の小縁に、
当夜の懇親会用の飲み物として、一・八リットル入り瓶詰ぶどう酒(三線ポートワ
イン)一本(以下「本件ぶどう酒」という)及び日本酒二本が用意されていること
を知って、本件ぶどう酒内に所携のニッカリンTを注入しようと決意した。
 (三)そこで、申立人は、たまたま右Dの妻Eの依頼もあったことから、右酒瓶
三本を一人で携え、会場の名張市d地区公民館a分館(以下「公民館」という)に
運び、その囲炉裏の間の流しの前の板敷きに置いたが、一足遅れて入ってきた同会
女子会員Fが雑巾を取りにD方へ引き返し、公民館内に何人も居合わせなくなった
すきに乗じ、妻A及びBを含む女子会員らが本件ぶどう酒を飲み、そのためあるい
は死亡するかもしれないことを十分認識しながら、ひそかに、右板敷き付近におい
て、本件ぶどう酒の包装紙を開け、その瓶の口に装着されていた耳付き冠頭を火挟
みで開け、更にその下に装着されていた四つ足替栓を、自己の歯で噛んで開けた後、
右瓶内に右竹筒内のニッカリンTを四ないし五CCくらい注入した上、四つ足替栓
を元どおりかぶせ、包装紙で包み直して、元の場所に置き、同日午後八時ころ、総
会が終わり懇親会に移った席上に、右ニッカリンTの混入された本件ぶどう酒を出
させ、その全量を、その場に居合わせた女子会員合計二〇名の湯飲み茶わんに分け
つがせてこれを飲ませようとし、その結果、本件ぶどう酒を飲んだA及びBを含む
五名を殺害したほか、一二名には有機燐中毒症の傷害を負わせたにとどまり、残り
三名はこれを飲まなかったため、いずれも殺害の目的を遂げなかった。
 2 そして、確定判決は、その判文に照らし、以下の三つの証拠群を有罪認定の
根拠としていることが明らかである。
 (一)本件ぶどう酒に有機燐テップ製剤の農薬が混入されたのは、C懇親会の開
会と比較的近接した時刻に、公民館の囲炉裏の間においてであり、右囲炉裏の間に
おいて本件ぶどう酒に人目につかず農薬を混入することができたのは、約一〇分間
公民館内にただ一人でいた申立人以外にはないことを裏付ける犯行の場所と機会に
関する情況証拠。
 (二)事件現場の公民館内から押収された四つ足替栓(名古屋高裁昭和四〇年押
第二二号の一九。以下「本件替栓」という)の表面の傷痕に関して申立人の歯牙に
より生じたものと判定したG及びHによる各鑑定書及び各証言、並びに申立人の歯
牙によるものと類似すると判定したIらによる鑑定書及び各証言(以下まとめて「
三鑑定」という)。
 (三)申立人の捜査段階の自白調書(検察官調書九通、司法警察員調書七通)。
 二 三鑑定の証明力の減殺による影響
 1 本件替栓の表面の傷痕に関し、確定判決の言い渡された第二審において取り
調べられた三鑑定を含む各証拠に、再審請求後に提出された各証拠を総合して検討
すると、三鑑定は、右傷痕が申立人の歯牙によって生じたものと特定するに足りる
だけの証明力を失ったという意味において、いずれもその証明力が大幅に減殺され
たことが明らかである。
 2 しかし、本件替栓の表面の傷痕に関する新旧全証拠を総合しても、本件替栓
上の傷痕が人の歯痕であるか、あるいは人の歯痕である可能性が強く、また、それ
が申立人の歯牙によって印象されたとしても矛盾は生じないとした原決定の認定は、
正当として是認することができる。したがって、三鑑定の証明力が右のとおり大幅
に減殺されたからといって、これのみにより直ちに確定判決における有罪認定につ
き合理的な疑いが生ずるものではないし、確定判決の有罪認定の根拠とされた前掲
(一)及び(三)の各証拠群の証明力が否定されるという関係に立つともいえない。
 3 そうすると問題は本件替栓の表面の傷痕に関する証拠の証明力の評価を右の
範囲にとどめ、再審請求後に提出された新証拠と確定判決の言い渡された第二審で
取り調べられたその余の全証拠とを総合的に評価した結果として、確定判決の有罪
認定につき合理的な疑いを生じさせ得るか否かに帰着するということができる(最
高裁昭和四六年(し)第六七号同五〇年五月二〇日第一小法廷決定・刑集二九巻五
号一七七頁最高裁昭和四九年(し)第一一八号同五一年一〇月一二日第一小法廷決
定刑集三〇巻九号一六七三頁参照)。そこで、以下この観点から判断を加える。
 三 犯行の場所と機会に関する情況証拠
 1 本件はぶどう酒瓶の中に有機燐テップ製剤が混入されたことによって生じた
事件であるが、本件ぶどう酒に有機燐テップ製剤が混入したのは、本件ぶどう酒の
製造過程や流通過程ではなく、三奈の会懇親会が開かれた本件事件当日であったこ
とは、関係証拠に照らし明らかである。
 2 犯行の場所
 所論にかんがみその引用する新証拠を含む全証拠を総合的に検討しても、本件ぶ
どう酒に有機燐テップ製剤が混入されたのは、本件事件当日で、かつ、公民館の囲
炉裏の間においてであったとする確定判決の認定は、正当として是認することがで
きる。その理由は、以下のとおりである。
 (一)本件ぶどう酒が瓶詰されていた一・八リットル瓶(名古屋高裁昭和四〇年
押第二二号の一。以下「本件ぶどう酒瓶」という)には、内栓として四つ足替栓、
外栓として瓶口を巻き四つ足替栓を上から押さえる耳付き冠頭がそれぞれ装着され、
更に内栓の四つ足部分と外栓の耳の部分を覆うように一枚の封緘紙が瓶口の周囲に
巻かれて両端が貼り合わされていたものであるところ、内栓の四つ足替栓は、外栓
の耳付き冠頭を外さなければ開けることができないし、封緘紙は、外栓の耳付き冠
頭を外す際に破れる関係にあったことが認められる。そして、本件事件発生後に公
民館の囲炉裏の間及びその周辺から発見押収された本件替栓(押収日は昭和三六年
三月二九日)、耳付き冠頭一個(同号の二、押収日は同日)、包装紙の破片一枚(
同号の三、押収日は同日)及び封緘紙の破片大小各一枚(同号の四、五、押収日は
大が同月三〇日、小が同月三一日)を調査するに、確定判決の認定するとおり、こ
れらはいずれもその印刷文字や模様等からみて、本件ぶどう酒と同一の醸造所で製
造された同銘柄のぶどう酒(三線ポートワイン)の瓶に装着ないし使用されていた
ものであり、とりわけ右封緘紙の破片大と右封緘紙の破片小及び本件ぶどう酒瓶の
瓶口に付着して残っている封緘紙の破片とは、いずれもその破れ目が符合し、印刷
文字や模様が連続していて、右各封緘紙は元来は一体をなしていたものであること
が認められ、加えて本件公民館周辺の徹底的な捜索にもかかわらず、これら以外に
は、本件ぶどう酒瓶に装着ないし使用されたと思われる栓や封緘紙等は発見されな
かったこと、右栓や封緘紙等が発見された当時、犯人や犯行手段といった本件犯行
の実態はほとんど未解明であり、捜査機関による作為の入り込む余地がなかったこ
とは、関係証拠に照らし明らかなところであるから、右栓や封緘紙等はいずれも本
件ぶどう酒瓶に装着ないし使用されていたものと認めることができる。
 (二)そして以上の事実に、前記耳付き冠頭の耳の付け根が鋭く切れ込み、耳の
部分が右切れ込み部分から持ち上がっていると認められることを加味すると、本件
ぶどう酒瓶は、公民館の囲炉裏の間付近において、何者かが耳の部分を持ち上げて
右耳付き冠頭を開栓し、その際、前記封緘紙も破れたものと推認される。しかも、
本件ぶどう酒瓶は、本件事件当日の夕刻、申立人により初めて公民館の囲炉裏の間
に持ち込まれて以降、Cの懇親会が開かれるまでの間、囲炉裏の間から持ち出され
た形跡のないことは、関係証拠により明らかである。そうすると、内栓である四つ
足替栓も、本件ぶどう酒瓶が申立人により囲炉裏の間に持ち込まれた後、同室にお
いて、右耳付き冠頭に引き続き開栓され、その際、本件ぶどう酒に有機燐テップ製
剤が混入されたものと推認することができる。
 三 所論は、本件ぶどう酒瓶が何者かによって別の場所で開栓され、農薬が混入
されてから、元どおりに栓を閉められ、封緘紙も貼り直された後に、公民館の囲炉
裏の間において開宴の際開栓されたと疑うことができ、現にC会員で自ら酒瓶の王
冠を歯で開けたと供述しているJにより再度開栓されたとも考える余地があるから、
前記のような間接事実から犯行場所を特定することはできない旨主張するが、前記
封緘紙の破片を調査しても、貼り合わせ部分を貼り直した痕跡は認められないし、
所論のように本件替栓や本件耳付き冠頭が二度開栓されたことを疑わせる証拠はな
い。また、右Jは、捜査の当初、自分の歯でぶどう酒のギザギザになった口金を抜
いた旨供述していたが、間もなく歯で抜いたのはぶどう酒の口金か日本酒の口金か
はっきりしない旨述べるに至っており、しかも、本件替栓は四つ足替栓であってギ
ザギザの口金はなく、右耳付き冠頭の金具には歯で開けたような痕跡は認められな
いから、Jが開栓したのはギザギザのついた日本酒の王冠であって、本件替栓や右
耳付き冠頭であったとは認められないし、開宴の際ぶどう酒のふたを開けたと当初
から供述しているDは、その栓は替栓であり、手でねじって容易に開けることがで
きた旨述べている。したがって、所論は採用することができない。
 3 申立人以外の者による犯行の機会
 また、新旧全証拠を総合しても、本件ぶどう酒瓶が公民館の囲炉裏の間に持ち込
まれて以降、申立人以外の者が本件ぶどう酒に農薬を人知れずひそかに混入するこ
とは不可能であったとする確定判決の認定は、以下のとおり、正当として是認する
ことができる。(一)申立人は、捜査段階の否認調書(昭和三六年四月二四日付け
検察官調書等)において、C総会開会中に便所に行った際、妻A(本件事件により
死亡)が左手に本件ぶどう酒瓶、右手に白いもので包んだ瓶を持ってぶどう酒瓶に
注ぎ込む格好をしているのを見た旨供述するが、第一審では、Aが囲炉裏のそばに
いたのは見たが、瓶を触っているのは見ていないと供述を変更し(第七回、第八回
各公判期日)、原原審では、Aが本件ぶどう酒瓶に何かを入れようとしているのを
見たことはないと明言している(昭和六一年七月一五日、同年八月二八日)。しか
も、C総会出席者の供述を総合すると、Aは、遅れて公民館を訪れた者に挨拶する
ため会場から囲炉裏の間に出てきた以外、総会開会中に中座しなかったことが認め
られるから、Aが本件ぶどう酒に農薬を注入したものでないことは明らかである。
(二)本件ぶどう酒瓶は、申立人により公民館に持ち込まれてから、囲炉裏の間の
流しの前の板敷きに置かれていたが、C総会が開かれるまでは、そのすぐそばに申
立人が座り、後記のとおり、Fが公民館に戻って以降、他の会員も順次囲炉裏の周
りに集まってきて雑談していたこと、総会開会中は、隣室の会場に着席した会員ら
から、本件ぶどう酒瓶の置かれた板敷き付近が十分見通せたほか、遅れてきた会員
らが会場に入るために順次囲炉裏の間を通る状況にあったこと、懇親会の準備が始
まってからは、囲炉裏の間で男女数人が立ち働きしていたことは、関係証拠から明
らかであって、人知れず本件ぶどう酒瓶に近づき農薬を入れることは不可能であっ
たと認められる。ちなみに、総会出席者の中で、囲炉裏の間に置かれた本件ぶどう
酒瓶にだれかが近づくのに気付いたと供述する者は、申立人以外にはない。
 4 以上の事実を総合すると、本件ぶどう酒瓶が開栓され農薬が混入されたのは、
確定判決の認定するとおり、公民館の囲炉裏の間であり、したがって、本件ぶどう
酒瓶がいつ奥西楢雄方に持ち込まれたかについて検討するまでもなく、申立人以外
の者は本件ぶどう酒に農薬を混入する機会がなく、その実行が不可能であったもの
と認められる。
 5 申立人による犯行の機会
 (一)申立人は有機燐テップ製剤であるニッカリンTを事件発生の前年購入し所
持していたことを自認し、このことは販売者により裏付けられており、他に同地区
内に有機燐テップ製剤を所持していた者は発見されていない。
 (二)C女子会員であったFは、捜査段階から原原審まで一貫して、事件当日の
午後五時ころ自宅を出て、総会の準備のためD方に顔を出した後、公民館に行った
ところ(一回目)、机が汚れていたので、雑巾を取りにD方に戻り、雑巾等を持っ
て再び公民館に赴き、その途中、Kと出会って共に話をしながら公民館に入ったが
(二回目)、申立人が本件ぶどう酒瓶等を運ぶのにFが一足遅れて同行したのは、
一回目の公民館行きであり、Fが公民館を出てから二回目に公民館に行くまでの約
一〇分間は、申立人が公民館に一人でいた旨供述している。Fの右供述は、当時公
民館の前で電気工事をしていたLの捜査段階から原原審までの一連の供述及びD方
で総会の準備をしていたMの捜査段階の供述によって裏付けられており、Kの捜査
段階から原原審までの一連の供述とも符合していて、その信用性は高いと認められ
る。(三)所論は、事件当日における申立人、F及びMの各行動時刻を照合すると、
申立人が坂峰の一回目の公民館行きに同行することはあり得ないとか、F供述には
記憶の取り違えや思い込みがあって信用できないなどと主張し、申立人は、捜査段
階の一時期を除きほぼ一貫して、Fの二回目の公民館行きに同行した旨供述してい
る。しかし、新旧全証拠を総合して検討しても、所論の主張する各人の行動の所要
時間には十分な裏付けのないものが多く、それ自体かなりの誤差を免れ難いもので
あって、各所要時間の設定次第では、申立人が一回目の公民館行きに同行すること
も十分可能となる。しかも、F供述は、前示根幹部分において終始一貫しており、
所論がF供述の信用性に対する疑問として指摘する点は、原決定が説示するとおり、
いずれもF供述の信用性を動揺させるものとはいえない。他方、申立人の右供述は、
F供述ばかりでなく、L、M及びJの前記各供述とも抵触していて信用することが
できないから、所論は採用することができない。(四)そして、右F供述及びこれ
と符合する前記各供述によれば、申立人は、本件ぶどう酒瓶等を公民館の囲炉裏の
間に持ち込んだ後、FがD方に向かい公民館を出発してから戻ってくるまでの約一
〇分間、公民館内に一人でいたと認められる。しかも、前示のとおり、申立人が本
件犯行前に有機燐テップ製剤の農薬であるニッカリンTを購入して所持していたこ
とも考慮すると、申立人は、本件犯行を実行することが可能であり、かつ、その機
会が十分にあったということができる。
 6 以上のとおり、本件事件当日に、公民館の囲炉裏の間において、本件ぶどう
酒に有機燐テップ製剤の農薬が混入されたが、申立人以外の者は本件ぶどう酒に右
農薬を混入する機会がなく、その実行が不可能であったのに対し、申立人はその実
行が可能であり、かつ、その機会が十分にあったと認められるから、以上の情況証
拠によって、申立人が本件犯行を犯したものと認めることができる。
 四 自白の任意性及び信用性
 1 次いで、本件犯行の動機、準備行為、犯行態様、犯行の証拠隠滅工作等につ
いて詳細に供述する申立人の自白について検討を進めるに、所論は、申立人の捜査
段階における自白には任意性に疑いがある旨主張するが、関係する新旧全証拠を総
合的に評価しても申立人の自白の任意性に疑いを生じさせる事由が認められないと
した原決定の判断は、正当として是認することができる。
 2 また、関係証拠によれば、申立人は、身柄が拘束される前に、捜査機関が既
に入手していた資料から創作できるとは考えられないような具体的な自白をしてお
り、その内容も、客観的状況―特に、本件ぶどう酒瓶に付着する封緘紙と囲炉裏の
間付近で発見された大小封緘紙の一体性、付け根の鋭く切れ込んだ耳付き冠頭の存
在、申立人の自白後発見押収された火挟みの存在、本件替栓に付けられた人歯痕と
みられる傷痕―と矛盾なく符合していると認められるのであって、本件替栓表面の
傷痕に関する三鑑定の証明力が大幅に減殺されたことを前提に、所論にかんがみ申
立人の自白の信用性に関する新旧全証拠を慎重に検討しても、申立人の自白の信用
性に疑いを挟ませるような事実は認められないから、申立人の自白の信用性を認め
た原決定の判断も、正当として是認することができる。
 五 結論
 以上要するに、本件替栓の表面の傷痕に関する三鑑定は、再審請求後に提出され
た証拠によって、その証明力が大幅に減殺されたとはいえ、新旧全証拠を総合して
検討すると、犯行の機会に関する情況証拠から、申立人が本件犯行を犯したと認め
ることができ、これに信用性が高いと認められる申立人の自白を総合すれば、確定
判決の有罪認定に合理的な疑いを生ずる余地はないというべきであるから、所論引
用の各証拠が刑訴四三五条六号にいう証拠の明白性を欠くとして本件再審請求を棄
却すべきものとした原決定の判断は、これを是認することができる。
 よって、刑訴法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文
のとおり決定する。
  平成九年一月二八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    大   野   正   男
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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