弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人らの請求を棄却する。
     訴訟費用は原審当審ともに被上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人萩原博司の上告理由その一及び坂東宏の上告理由第一点の(一)、(
二)について。
 論旨は、原判決が本件市議会義員選挙において公職選挙法一七三条、一七四条(
昭和三七年法律第一一二号による改正前)の規定による候補者の氏名及び党派別掲
示に候補者Dの所属党派自由民主党を無所属と誤記して掲示した事実をもつて、同
法二〇五条一項にいう選挙の規定違反と認めながら、しかもこれを選挙の結果に異
動を及ぼす虞ある場合にあたらないと判断したのは、同項の解釈を誤り、当裁判所
の従来の裁判例の趣旨に副わないものがあるというにある。
 原判決の本件掲示の誤記をもつて選挙の結果に異動を及ぼす虞のないものとした
判断は、要するに現在の市町村における首長及び議会議員の選挙は、国会議員の選
挙に比していまだいわゆる政党化は浸透せず、選挙民にはむしろ候補者が一党一派
に偏するのを好まない傾向すらあり、本件選挙においても、D候補の所属党派自由
民主党を無所属と誤つて掲示されたことは、投票獲得のみの見地からすれば、右D
候補に対して不利益に作用したものとは必らずしも無条件に推定しがたく、特段の
事情のないかぎり、むしろ反対に利益を及ぼしたとも考ええられぬことはなく、本
件誤記によつて同人の落選をきたす原因となる投票数の減少があつたことは直ちに
推測できず、その間に相当因果関係は軽々には成立しないとの推定を前提とするも
のであり、かつこれに加えて、この候補者氏名等の掲示制度の選挙人に与える効果
は、現在すでに無力化し、仮にその掲示の一部に誤記があるとしても、それが敏感
に反映して選挙の結果を左右するものとは到底認めがたく、かかる影響の稀薄化の
傾向は、本件違法の影響の判断についても考慮すべきものとしたのである。
 しかしながら、もともと選挙において、個々の選挙人の候補者の選択、投票意思
の決定がいかなる要因によつて行われるかは、各人各様であつて、仮に市町村の公
職の選挙が国会議員選挙の場合に比していわゆる政党化はいまだよく浸透していな
いとしても、市町村における公職の選挙の候補者についても、その所属政党を重視
する選挙人のあることは否定しえず、しかも本件のような掲示の党派別に誤記のあ
る場合に、それによつて投票意思の決定に影響を被つた選挙人がどれだけあつたか、
そのうちに掲示の誤記を信じて誤記された候補者に投票した選挙人とその候補者に
投票を避けた選挙人がそれぞれどれだけあつたかは、すべてその実数を把握しうる
ものではないのである。のみならず本件において掲示の誤記に基づくD候補の得票
の増加は、他の候補者のうちの何びとかの得票の減少を、また右誤記に基づくD候
補の得票の減少は、他の候補者のうちの何びとかの得票の増加を示すものといえる
のであるから、、仮に誤記による右D候補の得票数の減少がその増加数に及ばない
としても、右誤記のために他の候補者中の何びとかの得票数の増減を生じ、当落に
影響を及ぼす虞の存することは、当然併せて考えなければならないところである。
ことに、原判決によれば、本件選挙における当落得票差は僅か三票にすぎず、本件
誤記の違法が当落に異動を及ぼす可能性も濃厚なものが推測される。しかるに、原
判決はこの点に思いを致さず、相当因果関係なる観念を使用し、この面における影
響をD候補の落選の反射作用として抽象的に考えられるにとどまるものとして、こ
れを考慮せず、掲示の誤記のD候補の当落に及ぼす関係をのみ判断すれば足りるも
のと解し、右違法が選挙の結果を左右するものとは認められないとしたことは、公
職選挙法二〇五条一項の解釈を誤つた違法あることを免れない(昭和二九年九月二
四日第二小法廷判決、民集八巻九号一六七八頁参照)。また候補者氏名等の掲示制
度の選挙人に与える効果の無力化の傾向を論ずることによつて、その掲示誤記の違
法が選挙の結果に異動を及ぼす虞はないとする議論も容認しがたい。何となれば、
参議院全国選出議員選挙以外の選挙については候補者氏名及び党派別の掲示を要し
ないとする現行法の改正は、本件選挙後に施行されたものであつて、その掲示を要
することを規定した旧法のもとに行われた本件選挙における掲示規定違反の違法が
選挙の結果に異動を生ずるものであるか否かの問題に、なんらかかわりのないもの
であるからである。要するに、本件選挙の無効を認めた上告人の裁決は正当であつ
て、論旨は理由があり、原判決は破棄せらるべきものといわなければならない。
 上告代理人萩原博司の上告理由その二及び同坂東宏の上告理由第一点の(三)に
ついて。
 論旨は、本件選挙において候補者氏名及び党派別掲示に所属党派を誤記された候
補者Dの死亡をもつて、本件選挙の効力に関する争訟の利益の消滅事由と認め、こ
れを上告人の裁決の取消しの理由としたことは、公職選挙法二〇五条一項の解釈適
用を誤つたものというにある。
 原判決の右の判断は、本件選挙における掲示の誤記は、誤記されたD候補の当落
にのみ影響し、同人の個人的利益を害したにとどまり、他の候補者ことに当選者に
は具体的な関係をもつものではなく、結局本件選挙を無効とするのは、D候補の利
益を主たる目的とするものと理解し、従つて、本件訴訟の係属中における同人の死
亡は、選挙を無効とする実質的な理由ないし必要をほとんど全部消滅させるものと
判断したのによるものである。
 しかし、本件掲示の誤記の影響の及ぶところをD候補の当落にのみ限定しうるも
のとした判断の失当なことは、さきに説示したとおりであるのみならず、選挙争訟
はいわゆる民衆争訟に属し、自由公正を欠く違法な選挙の結果を排除する公益上の
要請から認められた制度であつて、候補者や特定の選挙人の権利利益の保護救済を
直接その目的とするものでないことは多言を要しないところである。従つて、本件
選挙の違法が、選挙の結果に異動を及ぼす虞の認められる以上、選挙は無効とせら
るべく、訴訟の係属中にD候補の死亡があつたとしても、すでになされた裁決にも、
本件訴訟の利益にも、なんら影響するところはないのであつて、同人の死亡によつ
て実質的に争訟の利益が失われるものと解した原判決の判断は、到底容認しがたく、
論旨はこの点についても理由のあるものといわなければならない。
 よつて、本件上告のその余の論旨につき判断するまでもなく、原判決は破棄を免
れず、上告人の裁決は正当と認めることができるから、民訴四〇八条一号によつて
破棄自判すべきものとし、訴訟費用の負担につき、同法九六条、八九条、九三条を
適用し、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小廷法
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎

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