弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人島内龍起、同前田弘、同沢邦夫、同島内保夫の上告理由第一点、第二
点および第五点について。
 論旨は、本件の候補者の氏名および党派別を誤つて記載した一覧表(以下これを
誤氏名等表という。)の掲示された投票記載所を使用した選挙人の数は、当日この
記載所のある内町第投票所において右の違法な掲示が発見されるまでに投票ずみで
あつた一一八〇名を、同投票所内にある記載所の数で除した一四八名を超えるもの
ではなく、原審が右誤氏名等表により影響を受けた投票者の数は最高一一八〇名を
限度として確定しえないとした判断には、採証法則違背、理由齟齬、審理不尽の違
法がある、と主張する。
 しかし、本件において、誤氏名等表の掲示された記載所の使用者の数が、所論の
ように、一四八名を超えないものであることについては、いまだその論証あるもの
とすることができず、原審が「右誤氏名等表により影響を受けた投票者の数は最高
一一八〇名を限度として確定し得ないもの」とした判断に、所論採証法則違背、理
由齟齬、審理不尽の違法があるとは認められない(なお、所論のうち、原審の判断
には立証責任の分配を誤つた違法があるとする部分があるが、所論の点につき、原
審は、前記の記載所を使用しなかつた者で誤氏名等表を閲覧した者が皆無とは断定
しえないとするにとどまるから、この点についても、なんら所論の違法はない。)。
 論旨は採用できない。
 同第三点、第四点および第六点について。
 論旨は、(一)本件の誤氏名等表の掲示により影響を受けた投票者の数一四八名を
超えないことを前提として、右掲示の違法が当選無効の原因になるにすぎないとす
る上告人の主張を排斥した原審の判断に、判断遺脱または理由齟齬の違法があると
主張し、また、(二)本件において右掲示の違法は当選無効またはいわゆる選挙の人
的一部無効の原因となるにすぎず、これを本件第一開票区に関する選挙無効の原因
となるとした原審の判断には、公職選挙法の解釈適用の誤りまたは理由齟齬の違法
があると主張する。
 しかし、本件誤氏名等表の掲示により影響を受けた投票者の数が一四八名を超え
ないものであるとする所論の採用し難いことは、さきに説示したとおりで、(一)の
所論はその前提を欠く。そして、選挙争訟における選挙無効の原因とは、選挙の規
定に関する違反があつて、それが選挙の結果に異動を及ぼす虞れがあることをいい、
選挙の規定の違反とは、選挙の管理執行の手続に関する規定の違反をいうものであ
ることは、当裁判所の判例とするところであつて(昭和二三年(オ)第一三号同年
六月二六日第二小法廷判決、民集二巻七号一五九頁等)、本件誤氏名等表の掲示が
選挙の管理執行の手続に関する規定(公職選挙法一七五条の二)の違反として、右
にいう選挙の規定の違反にあたることはいうまでもなく、本件選挙において最下位
当選者と最高位落選者との得票差が一票であることは、原審の確定するところであ
るから、本件誤氏名等表の掲示の違法が選挙の結果に異動を及ぼす虞れのあること
が明らかで、このことは、右の違法掲示により影響を受けた投票者の数が、原審認
定のように、最高一一八〇名を限度として確定しえないものであると、また所論の
ように、一四八名を超えないものであるとによつて、なんら異なるところはない。
したがつて、原審が本件において選挙無効の原因があるとした判断は、正当である。
 論旨は、この場合、いわゆる選挙の人的一部無効が認められるべきであると主張
するが、がんらい、公職選挙は選挙区を単位として行なわれるものであるから、一
般に選挙区の選挙の無効は全部無効であり、ただ、選挙区内における選挙が二以上
の開票区に分かれて執行された場合において、ある開票区かぎりの選挙の管理執行
の違法があつたときは、その開票区に関する選挙部分のみが無効とされることがあ
るにすぎない(昭和三三年(オ)第四〇五号同年八月八日第三小法廷判決、裁判集
(民事)三三号七五頁。なお、昭和四〇年(行ツ)第一一〇号同四一年四月二八日
第一小法廷判決、同八三号四七一頁参照)。公職選挙法二〇五条一項にいう「選挙
の……一部の無効」とは、このような選挙の地域的一部無効をいうのであつて、再
選挙によつても当選に異動を生ずる虞れのない者の区別に関する同条二項以下の規
定も、右の地域的一部無効を前提とするものである。所論のように、ひろく一般的
な人的一部無効を認める見解は、実定法上の根拠を欠き、当裁判所の従前の見解が
これを採用し難いとするにあつたことは、前記判例に徴して明らかであつて、いま
これを変更する必要を認めない。
 論旨は、本件において第一開票区の選挙を無効とすることの不合理なる所以を種
々主張するけれども、本件誤氏名等表の掲示の違法は、候補者の選択を誤らせるも
ので、ほんらい特定の候補者に投ぜられるべきであつた票が他の候補者または非候
補者に投ぜられることとなる結果、その影響の範囲はとうてい正確に把握し難いこ
ととなるのである。すなわち、これを立候補した者の間に限つていつても、掲示の
誤記に基づく甲候補者の得票の増加は、他の候補者のうちの何びとかの得票の減少
を、また、右の誤記に基づく甲候補の得票の減少は他の候補者のうちの何びとかの
得票の増加を示すものといえる(昭和三九年(行ツ)第一六号、同年一二月一〇日
第一小法廷判決、民集一八巻一〇号二〇五五頁)のであつて、しかも本件誤氏名等
表に含まれる非立候補者との関係を勘案すれば、その影響の範囲はいよいよ測り難
いものといわざるをえない。本件誤氏名等表により影響を受けたと見られる投票者
の数は、最高一一八〇名を限度として確定しえないものであり、これが投票に及ぼ
した影響の測り難いことは右のとおりであつて、本件誤氏名等表の掲示の違法を過
小に評価することは許されない。
 原判決に所論の違法はなく、論旨はすべて採用し難い。
 同第七点および第八点について。
 選挙が地域的な一部について無効とされ、再選挙が必要とされる場合に、再選挙
によつてもなお当選を失う虞れのない者を区分するための計算方法は、公職選挙法
二〇五条三項以下に規定される。論旨は、選挙の規定違反の影響が当該開票区にお
ける投票の全部に及ばないときは、同条三項以下の規定は適用されず、同法二〇九
条の二の規定に準じた計算方法により当選を失う虞れのない者を区分すべきである
といい、本件において、原判決によれば最高限一一八〇票となる問題の投票は、選
挙の規定違反のあつた第一開票区における他の投票の分散の割合(各候補者別の得
票の割合)に応じて、各候補者間に分散するものと推定すべきである、と主張する。
 しかし、本件において、問題の一一八〇票は第一開票区における他の投票と混同
されて、右の一一八〇票、また従つてこれを除く「他の投票」の分散(各候補者別
の得票)の割合は、まつたく不明であり、また、この点を別としても、同法二〇九
条の二を援用する所論は、選挙の地域的一部無効の場合につき当選を失う虞れのな
い者の区分の方法を定めた同法二〇五条三項以下の明文の規定を無視した独自の見
解というほかはない。
 原判決に所論の違法はなく、論旨はすべて採用できない。
 同第九点について。
 選挙の一部が無効とされるときは、その無効とされた部分について再選挙が行な
われることとなるが、全体の一部について、これを他から切り離して再選挙するも
のである以上、再選挙自体にある程度の不自然さが伴うことは避け難いところであ
る。しかし、法は、選挙の全部を無効とするよりも、なお、これを地域的な一部に
とどめて、その無効とされた部分についてのみ再選挙の執行をすることをよしとす
るのであつて、選挙無効の原因が存する場合に、つねに選挙の全部を無効とするこ
とによつて生ずる結果の不合理性を考えれば、再選挙に伴う不自然さの故をもつて、
選挙の地域的一部無効の制度を非難することはできない。論旨は、要するに、再選
挙に伴う不自然さを挙げて、本件においては、当選無効または人的一部無効のみが
認められるべきであるというのであるが、かかる主張の採用し難いことは、第四点
および第六点について説示したとおりである。
 原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 同第一〇点について。
 論旨は原判決に憲法の違背があるというが、その実質は公職選挙法二〇五条の解
釈を争うにとどまり、同条一項の規定にいう「選挙の……一部の無効」とは、選挙
の地域的一部無効をいい、同条二項以下の規定は、これを前提としたもので、所論
のように、ひろく一般的な人的一部無効を認めたものでないことは、前述のとおり
である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、
裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    関   根   小   郷

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