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平成25年2月28日判決言渡同日判決原本交付裁判所書記官
平成21年(ワ)第10811号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成24年12月27日
判決
原告P1
原告株式会社
T・WorldCompany
上記2名訴訟代理人弁護士髙橋司
同中村克宏
同禿祥子
同訴訟代理人弁理士福島三雄
同高崎真行
同補佐人弁理士面谷和範
被告株式会社STBヒグチ
同訴訟代理人弁護士山田庸男
同平山芳明
同中世古裕之
同二宮誠行
同中村和洋
同西村勇作
同増田広充
同三好吉安
同大森剛
同小津充人
同梁栄文
同松尾友寛
同松嶋依子
同林友宏
同長井健一
同訴訟復代理人弁護士犬飼一博
同補佐人弁理士柳舘隆彦
主文
1被告は,別紙方法目録2記載の方法を使用してはならない。
2被告は,別紙方法目録2記載の方法により製造した別紙物件目録1記載の
製品を販売してはならない。
3被告は,別紙方法目録2記載の方法により製造した別紙物件目録1記載の
歯ブラシ及びそれらの半製品(別紙方法目録2記載の方法により製造した放
射状羽根を具備したもの)を廃棄せよ。
4被告は,別紙物件目録3記載の歯ブラシ用放射状羽根の製造装置を製造,
又は,譲渡してはならない。
5被告は,被告本店所在地に存する別紙物件目録3記載の歯ブラシ用放射状
羽根の製造装置を廃棄せよ。
6被告は,原告P1に対し,112万9184円及びこれに対する平成21
年8月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
7被告は,原告株式会社T・WorldCompanyに対し,3617万7203円
及びうち別紙遅延損害金起算日一覧表の損害額欄記載の各金額に対する同一
覧表の遅延損害金起算日欄記載の各日から支払済みまで年5%の割合による
金員を支払え。
8原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
9訴訟費用は,これを5分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの
負担とする。
10この判決は,第1項,第2項,第4項,第6項及び第7項に限り,仮に執
行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告ら
(1)被告は,別紙方法目録1又は同目録2記載の方法を使用してはならない。
(2)被告は,別紙方法目録1又は同目録2記載の方法により製造した別紙物
件目録1記載の製品を販売してはならない。
(3)被告は,別紙方法目録1又は同目録2記載の方法により製造した別紙物
件目録1記載の歯ブラシ及びそれらの半製品を廃棄せよ。
(4)被告は,別紙物件目録2又は同目録3記載の歯ブラシ用放射状羽根の製
造装置を製造,又は,譲渡してはならない。
(5)被告は,被告本店所在地に存する別紙物件目録2又は同目録3記載の歯
ブラシ用放射状羽根の製造装置を廃棄せよ。
(6)被告は,原告P1に対し,2400万円及びこれに対する平成21年8
月5日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5%の割合による金員を
支払え。
(7)被告は,原告株式会社T・WorldCompanyに対し,5億8252万03
20円及びこれに対する平成21年8月5日(訴状送達の日の翌日)から支
払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(8)訴訟費用は被告の負担とする。
(9)仮執行宣言
2被告
(1)原告らの請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告らの負担とする。
第2事案の概要
1前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者
原告株式会社T・WorldCompany(以下「原告T・World」という。)は,
歯ブラシの製造及び販売等を目的とする株式会社であり,平成19年11月
9日に設立された。原告P1はその代表取締役である。また,原告P1は,
平成13年から平成18年ころまでの間,株式会社TC・Dental(以下「T
C・Dental」という。)の代表取締役として歯ブラシの製造及び販売等を
行っていた(甲56,弁論の全趣旨)。
被告は,各種機械工具の製造及び販売,各種船舶,自動車部品の製造及び
販売,化学繊維を原料とする各種ブラシの製造及び販売,歯ブラシの製造及
び販売等を目的とする株式会社である。
(2)原告P1の特許権
ア本件特許権
原告P1は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許に係る明
細書及び図面をあわせて,それぞれ「本件明細書」という。)に係る特許
権(以下「本件特許権」という。)を有している。
特許番号特許第3981290号
発明の名称回転歯ブラシの製造方法及び製造装置
出願日平成14年4月1日
登録日平成19年7月6日
特許請求の範囲
【請求項2】
多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体の製造方法であって,
多数の素線を束状に集合させてなる素線群を台座に設けた挿通孔から外
方に一定量突出させる第1の工程と,この素線群の突出端の中央にエア
を吹き込んで素線群を放射方向に開く第2の工程と,開かれた素線群を
台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する第3の工程と,溶着
された中央部分の中心部を切除する第4の工程とからなる回転ブラシの
ブラシ単体の製造方法。
【請求項3】
多数枚を重ねて回転ブラシを形成するためのブラシ単体の製造装置で
あって,多数の素線を束状に集合させてなる素線群を通す挿通孔を設け
た台座と,素線群を掴んで台座の挿通孔から一定量突出させて保持する
チャックと,素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方
向に開くノズルと,開かれた素線群を台座に固定する押え体と,素線群
を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する溶着機と,溶着機
による溶着部分の中心部を切除する切除手段とを備えている回転ブラシ
のブラシ単体の製造装置。
イ構成要件の分説
本件特許の請求項2及び請求項3に係る発明(以下,それぞれ「本件特
許方法発明」「本件特許装置発明」といい,併せて「本件各特許発明」と
いう。)は,次のとおり構成要件に分説することができる。
【本件特許方法発明】
A多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体の製造方法であって,
B多数の素線を束状に集合させてなる素線群を台座に設けた挿通孔から
外方に一定量突出させる第1の工程と,
Cこの素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開
く第2の工程と,
D開かれた素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する
第3の工程と,
E溶着された中央部分の中心部を切除する第4の工程とからなる
F回転ブラシのブラシ単体の製造方法
【本件特許装置発明】
G多数枚を重ねて回転ブラシを形成するためのブラシ単体の製造装置で
あって,
H多数の素線を束状に集合させてなる素線群を通す挿通孔を設けた台座

I素線群を掴んで台座の挿通孔から一定量突出させて保持するチャック

J素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くノ
ズルと
K開かれた素線群を台座に固定する押え体と
L素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する溶着機

M溶着機による溶着部分の中心部を切除する切除手段と
Nを備えている回転ブラシのブラシ単体の製造装置
ウ独占的通常実施権
原告T・Worldは,平成19年11月9日,原告P1から,本件特許権
につき,独占的通常実施権(以下「本件独占的通常実施権」という。)の
許諾を受けた。
(3)被告の行為
被告は,別紙物件目録1記載の歯ブラシ(以下「被告製品」という。)を
製造,販売している。被告製品は,いずれも,ブラシの毛を放射状に広げた
円形のブラシ単体を重ねてなる円筒状のブラシを柄の先端に,柄と円筒の中
心線が重なるよう,固定させたものである。
被告が被告製品を構成するブラシの製造に使用していた方法(以下「被告
方法」という。)は,本件特許方法発明の構成要件Bを充足する。
また,被告が被告製品を構成するブラシの製造に使用していた装置(以下
「被告装置」という。)は,本件特許装置発明の構成要件H及びIを充足す
る。
2原告の請求
原告らは,被告方法及び被告装置が,それぞれ本件各特許発明の技術的範囲
に属すると主張し,
(1)原告P1は,被告に対し,本件特許権に基づき,別紙方法目録1又は同
目録2記載のとおりに特定される被告方法の使用の差止め,被告方法により
製造した被告製品の販売差止め及び廃棄,別紙物件目録2又は同目録3記載
のとおりに特定される被告装置の製造等差止め及び廃棄を求めるとともに,
本件特許権侵害の不法行為に基づき,損害賠償として2400万円及びこれ
に対する平成21年8月5日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法
所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求め,
(2)原告T・Worldは,被告に対し,本件独占的通常実施権侵害の不法行為
に基づき,損害賠償として28億7867万5200円の一部である5億8
252万0320円及びこれに対する平成21年8月5日(訴状送達の日の
翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を
求めている。
3争点
(1)被告方法は本件特許方法発明の技術的範囲に属するか(争点1)
(2)被告装置は本件特許装置発明の技術的範囲に属するか(争点2)
(3)本件特許は,特許無効審判により無効とされるべきものか(争点3)
アサポート要件違反(特許法36条6項1号)(争点3-1)
イ実施可能要件違反(特許法36条4項)(争点3-2)
ウ進歩性欠如(特許法29条2項)(争点3-3)
(4)原告T・Worldの損害(争点4)
(5)原告P1の損害(争点5)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告方法は本件特許方法発明の技術的範囲に属するか)について
【原告らの主張】
被告製品の製造で使用されてきた被告方法は,別紙方法目録1記載のとおり
特定されるが,同目録の構成1は構成要件Bに,同構成2は構成要件Cに,同
構成3は構成要件Dに,同構成4は構成要件Eにそれぞれ相当し,上記被告方
法は,本件特許方法発明の各構成要件を充足する。
被告が主張するように,被告方法が同目録2記載のとおりに特定されたとし
ても,本件特許方法発明の各構成要件を充足し,いずれにせよ,その技術的範
囲に属する。
被告が,被告方法の構成要件充足性を争う点(後記【被告の主張】)につい
ては,以下のとおり主張する。
(1)「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体の製造方法」(構成
要件A)及び「回転ブラシのブラシ単体の製造方法」(構成要件F)につい

ア「回転ブラシ」は,「●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●」を多数枚重ねて形成される円筒状のブラシを意味している。「回転」
というのは,回転させて使用することが可能な構造・形状であること,つ
まり,回転し得るブラシであることを意味するにとどまり,実際に回転す
るか否かを問うものではない。この点,「回転ブラシ」は,当該「回転ブ
ラシ」を「柄に回転可能に取り付け」た「回転歯ブラシ」と明確に区別さ
れるべきである。
そもそも本件特許方法発明は,柄に取り付ける前のブラシ単体を製造す
る方法の発明であり,製造されたブラシ単体が柄にどのように取り付けら
れるかなどの使用目的,態様を限定するものでないことは明らかである。
イ被告製品のブラシ部分は,被告方法によって製造されるブラシ単体を多
数枚重ねたものであるが,当該ブラシ部分は,円筒状であり,回転し得る
ブラシといえる。また,歯ブラシそのものを見ても,ブラシ部分は,その
断面中心部に対して直線棒状の柄が突き刺された状態で固定され,柄を回
転させることによってブラシが回転し,ブラシの外周面全体で歯を磨くこ
とができる構成となっている。この点,被告製品の商品パッケージにおけ
る「回転させずに横磨きか縦磨きで磨いて下さい。」との記載も,消費者
がブラシを回転させて磨くことが可能であることを前提としたものといえ
る。
したがって,被告方法は,「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラ
シ単体の製造方法」「回転ブラシのブラシ単体の製造方法」といえ,構成
要件A及び同Fを充足する。
(2)「この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開
く第2の工程」(構成要件C)について
被告は,被告方法においてエアを用いるのは,糸束の広がる方向を誘導す
るためであり,糸束を「放射状方向」に開くためには用いておらず,糸束を
「放射状方向」に開くのは,下降してくる溶着ヘッド(ホーン)であると主
張する。
しかし,「放射方向に開く」(構成要件C)ことと,被告の主張の趣旨と
考えられる「平面的かつ放射状(シート状)にする」こととは異なる。「放
射方向に開く」とは,平面的な放射状にまで開くことを意味するのではなく,
一塊(一本)となった素線群を少しでも放射方向に傾け,逆円錐状になれば
足りると解される。
そして,被告方法においても,エアが素線群の突出端に吹き込まれ,こ
れにより素線群を逆円錐状に開いており,「エア」により「素線群を放射方
向に開」いているといえるのであるから,構成要件Cを充足する。
(3)「開かれた素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する
第3の工程」(構成要件D)について
ア被告は,被告方法での糸押さえによる固定は,付着防止のためであり,
溶着のための固定ではないと主張する。
しかし,本件特許方法発明は,「開かれた素線群を台座に固定した状態
で素線群の中央部分を溶着する」(構成要件D)としており,固定の目的
を限定していない。すなわち,どのような目的であれ,「固定した状態で
の溶着」という客観的動作があれば足りると解される。
被告方法において糸押さえ(羽根を押さえる機構)が存在し,これによ
り糸を押さえて羽根が溶着ヘッド(ホーン)に付着して加工ベッドから離
れるのを防止し,加工ベッドから動かないようにしていることは証拠上明
らかで,被告もこのこと自体は争うものではないのであるから,「固定」
との要件を充足することは明白である。
なお,被告方法での糸押さえがスプリング構造をとっているのは,単な
るくっつき防止のための器具ではなく,糸束を押さえる目的の器具だから
である。
イまた,構成要件Dは「固定した状態で···溶着する」であり,「固定し
た後···溶着する」とはされていないのであるから,これを充足するため
には,例え短時間であったとしても「固定状態で溶着」がなされていれば
足り,溶着前に固定することまでは要求されていないと解される。
被告方法は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,糸押さえ
機構により糸束を「固定した状態で」「溶着」がなされていることは明ら
かである。
(4)「溶着された中央部分の中心部を切除する第4の工程」(構成要件E)
について
ア被告は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,構成要件Eの充足性を
否定する根拠としている。
しかし,被告方法の採用する超音波溶着では,対象物が液状化してドロ
ドロになるということはない。加熱ではなく摩擦により表面部分のみを溶
融し,振動体の発振が止まれば直ちに固化するのであるから,溶融後に一
定の時間をかけて冷却・固化させるかのような被告の主張は誤導である。
このような前提で考えると,被告が「分離開始」として特定する時点は,
分離器具が上限定位置に来たというだけのことで,素線を分離しているわ
けではない。●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,そのよう
な時期に分離器具を退避させれば対象物は再び一体化してしまい,分離が
果たされない。
また,仮に溶着されていない素線群の中心部が切除されるとすれば,超
音波溶着過程を通じて素線が固体のままであることから,切除された素線
はバラバラの状態となり,一体の円形羽根にはならないが,被告方法によ
り製造されたブラシ単体は一体の円形羽根である。溶着された中央部分の
中心部を切除していることの証左といえる。
したがって,「溶着」と「分離」との時間的前後関係につき被告の主張
は誤っており,構成要件Eの充足性を否定する根拠にはならない。
イまた,「溶着された中央部分の中心部を切除する」との文言は,切除箇
所を「溶着された中央部分の中心部」と特定する趣旨であり,溶着と切除
が同時である場合を除外するものではない。このことは,本件特許装置発
明が,「溶着機による溶着部分の中心部を切除する切除手段」を備えてい
るとされており,「溶着」と「切除」が同時である構成を排除していない
ことからも明らかである。
したがって,仮に被告の主張を前提としても,被告方法は構成要件Eを
充足する。
ウ加えて,被告は,溶着工程と同時に,中央部分とそれ以外の羽根の部分
とを分ける工程を行っていることから,その工程は「分離」と言うべきで,
「切除」とは異なる旨主張しているが,中央部分とそれ以外の羽根の部分
とを分ける工程は「切除」と同義といえる(被告自身も,当初の主張では,
「分離」ではなく,「カット」「切除」という文言を用いていた。)。
また,被告は,分離器具が刃物でないことも,「切除」ではない根拠と
して挙げるが,1つの固体を2つに切り離すことに違いはなく,その器具
が刃物か否かによって,「切除」への該当性が左右されるものではない。
(5)各工程の独立性と時間的前後
本件特許方法発明は,第1から第4までの4つの工程からなる製造方法と
して規定されているが,各工程が独立しているとか,各工程が時間的に重な
り合ってはならないなどの記載はない。そのため,構成要件充足性の判断に
おいては,被告方法が本件特許方法発明の各工程,構成要件を備えていれば
それで足り,各工程が独立しているか,時間的な重なりがあるかは,その判
断を左右しない。
【被告の主張】
被告製品の製造で使用されてきた被告方法は,別紙方法目録2記載のとおり
であるが,以下のとおり,本件特許方法発明の構成要件A及びCからFまでを
充足せず,その技術的範囲に属するものではない。
(1)「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体の製造方法」(構成
要件A)及び「回転ブラシのブラシ単体の製造方法」(構成要件F)につい

ア本件特許方法発明における「回転ブラシ」は,回転に関する修飾語を付
与されており,単に「ブラシ単体を多数枚重ねて形成される円筒状のブラ
シ」などではなく,柄に対して回転することを積極的に意図した円筒状ブ
ラシである。このことは,本件明細書のみならず,本件特許の出願前に公
知となっていた同一技術分野の文献において,柄の先端部に円筒状ブラシ
を有する歯ブラシは,その円筒状ブラシが回転を意図するものと回転を意
図しないものとが明確に区別されていたこと,柄に対して回転することが
意図された円筒状ブラシには,回転に関する修飾語が付く場合もあれば付
かない場合もある一方,回転に関する修飾語が付いた円筒状ブラシは,例
外なく柄に対して回転することを意図したものであることからも明らかで
ある。
イところが,被告方法で製造されたブラシ単体は,これを重ねてブラシを
形成するものの,そのブラシは歯ブラシの柄に直接固定され,回転するこ
とは予定されていない。
したがって,被告方法は,「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラ
シ単体の製造方法」(構成要件A)あるいは「回転ブラシのブラシ単体の
製造方法」(構成要件F)とはいえず,これら構成要件を充足しない。
(2)「この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開
く第2の工程」(構成要件C)について
ア「放射方向」とは,ブラシ単体が二次元的,平面的な物体であるから,
常識的には中心コア部外周面からその周囲全周へ向かう方向を意味する。
本件明細書でも,「放射方向」は,素線群の中心線に直角な全周方向とい
う常識的な意味で使用されており,漠然とした素線群の外周方向を意味す
るものとしての記載は存在しない。
したがって,本件特許方法発明の第2の工程は,素線群の突出端の中央
にエアを吹き込むことで,素線群を単に外周方向へ開くものではなく,素
線群の線先が素線群の中心線に直角な全周方向に向くまで素線群を完全開
放する,つまり,線先が全周方向へ向くまでエアを吐出し続ける素線群完
全開放工程と解すべきである。
イこれに対し,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
したがって,被告方法は,構成要件Cも充足しない。
(3)「開かれた素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する
第3の工程」(構成要件D)について
ア「開かれた素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する
第3の工程」との文言及び本件明細書の記載からは,開かれた素線群を,
溶着前に「押え体」の下降により台座に固定することを必須の構成として
いるものと解される。
イしかし,被告方法では,開かれた糸束を溶着前に加工ベッドへ固定する
という工程は存在しない。被告方法では,溶着ヘッド(ホーン)の発振に
より糸束を放射状に均一かつスムーズに開放するが,溶着前に糸束を押さ
えて固定してしまうと,かかる発振による効果を得ることができないので
ある。
この点,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●
したがって,被告方法は,構成要件Dも充足しない。
(4)「溶着された中央部分の中心部を切除する第4の工程」(構成要件E)
について
ア文言上溶着の工程が過去形で表現されていることに加え,本件明細書の
記載からは,溶着工程である第3の工程が終了した後に,中心部切除工程
である第4の工程が開始されることが明らかである。仮に百歩譲って,溶
着工程が終了しないうちに第4の工程である中心部切除工程が開始される
場合が本件方法発明の技術的範囲に含まれるとしても,溶着工程が終了す
るより前に切除工程が終了することまでは,到底許容されるものではない。
ところが,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
本件特許方法発明と被告方法との最も顕著な相違点といえ,被告方法が
構成要件Eを充足しないことは明らかである。
イまた,本件特許方法発明における第4の工程は,「中心部を切除」する
ものであるのに対し,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
したがって,被告方法は,「中心部を切除」するものではなく,構成要
件Eを充足しないことはより明白である。
(5)各工程の独立性と時間的前後
ア方法の発明は,通常複数の工程からなるが,各工程の単なる寄せ集めで
はなく,複数の工程が経時上,機能上,有機的に組み合わさって完成され
るため,各工程の相互間の経時的,機能的な関連も「方法」の特許発明で
は重要な構成要素である。
本件特許方法発明の第2から第4までの各工程(構成要件C~E)では,
第3及び第4の各工程で前工程における操作が過去形で表現されているほ
か,本件明細書における各工程の説明や,前工程と経時的に一部でも重複
してもよい旨示唆する記載がないことに照らしても,上記各工程は独立し
ており,前工程が完結した後に後工程が開始されるという順序であること
が必要と解される。
イところが,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●。すなわち,本件特許方法発明の構成要件Cか
ら同Eまでのような時間的前後関係のある3つの独立した工程を有してい
ないのであり,それら構成要件を充足せず,その技術的範囲に属しないこ
とは明らかである。
2争点2(被告装置は本件特許装置発明の技術的範囲に属するか)について
【原告らの主張】
被告製品の製造で使用されてきた被告装置は,別紙物件目録2記載のとおり
特定されるが,被告が主張するように同目録3記載のとおりに特定されたとし
ても,次のとおり本件特許装置発明の各構成要件を充足し,その技術的範囲に
属する。
(1)「回転ブラシを形成するためのブラシ単体の製造装置」(構成要件G)
及び「回転ブラシのブラシ単体の製造装置」(構成要件N)について
前記1【原告らの主張】(1)での主張と同様の理由により,被告装置は,
構成要件G及びNを充足する。
(2)「ノズル」(構成要件J)について
前記1【原告らの主張】(2)での主張と同様の理由により,被告装置は,
構成要件Jを充足する。
(3)「開かれた素線群を台座に固定する押え体」(構成要件K)及び「素線
群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する溶着機」(構成要件
L)
前記1【原告らの主張】(3)での主張と同様の理由により,被告装置は,
構成要件K及びLを充足する。
(4)「溶着機の溶着部分の中心部を切除する切除手段」(構成要件M)につ
いて
前記1【原告らの主張】(4)での主張と同様の理由により,被告装置は,
構成要件Mを充足する。
【被告の主張】
被告製品の製造で使用されてきた被告装置は,別紙物件目録3記載のとおり
であるが,以下のとおり,本件特許装置発明の構成要件G,J,K,L,M及
びNを充足せず,その技術的範囲に属するものではない。
(1)「回転ブラシを形成するためのブラシ単体の製造装置」(構成要件G)
及び「回転ブラシのブラシ単体の製造装置」(構成要件N)について
前記1【被告の主張】(1)での主張と同様の理由により,被告装置は,
「回転ブラシのブラシ単体の製造装置」には当たらず,構成要件G及びNを
充足しない。
(2)「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くノ
ズル」(構成要件J)について
ア本件特許装置発明における「ノズル」は「素線群の突出端の中央にエア
を吹き込んで素線群を放射方向に開く」ものであるが,ここにおける「放
射方向」の意味については,前記1【被告の主張】(2)アで主張したとお
り,素線群の中心線に直角な全周方向であって,漠然とした素線群の外周
方向ではない。そのため,「ノズル」は,素線群の突出端の中央にエアを
吹き込んで素線群を単に外周方向へ開くものではなく,素線群の突出端の
中央にエアを吹き込んで素線群を素線群の中心線に直角な全周方向に開く
ものと解される。
イこれに対し,被告装置における溶着ヘッド40は,前記1【被告の主
張】(2)イで主張したとおりのものであるため,上記「ノズル」には該当
しない。
そのため,被告装置は,本件特許装置発明の構成要件Jを充足しない。
(3)「開かれた素線群を台座に固定する押え体」(構成要件K)について
ア本件特許装置発明における「押え体」は,「開かれた素線群を台座に固
定する」(構成要件K)ものであるが,構成要件の配列,前後の構成要件
との関連性,更には本件特許方法発明との単一性の点から,「押え体」は,
放射方向に開かれた素線群を溶着に際して台座に固定するものであり,開
かれた素線群を,溶着が始まった後に台座に固定し始めるものは含まれな
いと解すべきである(開かれた素線群を,溶着が始まった後に台座に固定
し始めても,溶着上は何らのメリットも得られない。)。
イところが,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
したがって,被告装置には,本件特許装置発明における「押え体」は存
在しておらず,構成要件Kを充足しない。
(4)「素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する溶着機」
(構成要件L)について
ア本件特許装置発明では,「溶着機」とは別に,それより前の構成要件と
して「開かれた素線群を台座に固定する押え体」を備えていることが求め
られている。本件特許装置発明は,装置発明とはいえ,その「押え体」は,
「ノズル」によって放射状に開かれた素線群の中央部を「溶着機」が溶着
するのに先立って,その放射状に開かれた素線群を台座に固定するもので
あることは,構成要件相互の前後関係や本件明細書の記載内容,更には本
件特許方法発明との関連性からして明らかである。そのため,「溶着機」
は「素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する」もので
あるが,ここで「素線群を台座に固定した状態」とするのは「溶着機」で
はなく,「押え体」でなければならない。
イしかし,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●,本件特許装置発明とは,手法的にも機能的にも明確
に相違する。そのため,被告装置における溶着ヘッド40は,本件特許装
置発明における「溶着機」には当たらない。
なお,被告装置も,放射状の糸材21を加工ベッド30に固定するくっ
つき防止治具80を具備するが,これは,●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
したがって,被告装置は本件特許装置発明の構成要件Lを充足せず,そ
の技術的範囲に属しない。
(5)「溶着機の溶着部分の中心部を切除する切除手段」(構成要件M)につ
いて
「切除手段」は,「溶着機による溶着部分の中心部を切除する」ものとさ
れているが,被告装置が備えているのは,前記1【被告の主張】(4)イで主
張したとおりの分離治具70,すなわち,●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●。結果として,環状ディスク
部11の内周面は「切断面」ではなく,「成形面」となる。
このように,被告装置における分離治具70は,本件特許装置発明におけ
る「切除手段」とは,糸束からの羽根の分離という大局的な目的を同じくす
るものの,溶着機による溶着部分の中心部を切断しない,切断のための刃物
を使用しないという点で,「切除手段」とは相違する。
よって,被告装置は,構成要件Mも充足しない。
3争点3-1(サポート要件違反(特許法36条6項1号))について
【被告の主張】
原告らは,本件特許方法発明について,第3の工程及び第4の工程が重複す
る場合をも含むと主張するが,上記工程が重複するような構成は,本件明細書
には記載されておらず,その示唆すらない。また,原告らは,本件特許方法発
明について,エアで素線群を開くノズルと切除を行う切除手段が別部材で,切
除手段が下側から切除することをも含むと主張するが,そのような構成は,本
件明細書に記載はなく,その示唆すらない。そのため,本件特許方法発明は,
サポート要件(特許法36条6項1号)に違反しているといえる。
本件特許装置発明は,本件特許方法発明を物の発明としただけであるから,
全く同じ理由により,サポート要件に違反している。
したがって,本件特許は,特許法123条1項4号により無効にされるべき
であり,本件特許権に基づく権利行使は,同法104条の3により許されない。
【原告らの主張】
本件明細書には,当業者が認識できるように本件各特許発明の一実施形態を
記載しているが,工程が重複する構成を除外する記載はない。また,本件明細
書の段落【0006】及び【0010】の記載からは,ノズルと切除手段とが
同一の部材である必要がないことは明らかである。
したがって,本件各特許発明につき,サポート要件違反はない。
4争点3-2(実施可能要件違反(特許法36条4項))について
【被告の主張】
原告らは,「溶着ヘッド(ホーン)40が素線を台座とで挟んで密着した位
置にあるときに少しでも切除している」被告方法までも,本件特許方法発明に
含まれると主張する。
しかし,本件明細書に記載された唯一の実施形態では,台座2の上側にある
溶着機6と切除手段7が互いに物理的に阻害し合う結果,溶着機6が素線群を
台座2との間に挟んで密着した位置にあるとき,切除手段7を進入させる隙間
が一切ないため,切除を行うことはできない。そのため,本件明細書の記載か
らは,原告らの主張する上記方法を実施することはできない。
よって,本件明細書は,当業者が発明の実施をすることができる程度に明確
かつ十分に記載したものとはいえず,実施可能要件(特許法36条4項)に違
反している。
したがって,本件特許は,特許法123条1項4号により無効にされるべき
であり,本件特許権に基づく権利行使は,同法104条の3により許されない。
【原告らの主張】
特許法施行規則(様式29)の14ホは,「特許を受けようとする発明の属
する技術の分野における通常の知識を有するものがその実施をすることができ
るように,発明をどのように実施するかを示す発明の実施の形態を記載し,必
要があるときは,これを具体的に示した実施例を記載する。その発明の実施の
形態は,特許出願人が最良と思うものを少なくとも一つ掲げて記載(す
る。)」と規定しており,明細書に全ての実施形態を記載すべきとはされてい
ない。この点,本件明細書には,当業者が認識できるように本件各特許発明の
一実施形態が記載されているのであるから,実施可能要件(特許法36条4
項)を満たしているといえる。
5争点3-3(進歩性欠如(特許法29条2項))について
【被告の主張】
(1)本件特許方法発明
ア本件特許方法発明と乙10発明との対比
特開2002-85158号公報(乙10。以下「乙10文献」とい
う。)には,放射状に固定されたブラシ毛(素線群)につき,溶着によっ
て内周部を一体にするという発明(以下「乙10発明」という。)が開示
されており,本件特許方法発明との対比では,構成要件A,同D及び同F
が一致する一方,構成要件B,同C及び同Eにおいて相違している。
イ相違点に係る構成を開示する文献
上記相違点のうち,構成要件B及び同Eについては,特開平11-56
478号公報(乙11。以下「乙11文献」という。)にて,発明の名称
を「ブラシの製造方法」とする発明(以下「乙11発明」という。)の構
成として,また,構成要件Cについては,特開平7-294747号公報
(乙12。以下「乙12文献」という。)にて,発明の名称を「光コード
の前処理装置及び加工方法」とする発明(以下「乙12発明」という。)
の構成として,それぞれ開示されている。
(2)本件特許装置発明
ア本件特許装置発明と乙10発明との対比
本件特許装置発明と乙10発明とを対比すると,構成要件G,同H,同
K,同L及び同Nが一致する一方,構成要件I,同J及び同Mにおいて相
違している。
イ相違点に係る構成を開示する文献
上記相違点のうち,構成要件I及び同Mは乙11発明の構成として,ま
た,構成要件Jは乙12発明の構成として,それぞれ開示されている。
(3)容易想到性
以下の事情からすれば,本件各特許発明は,乙10発明に,乙11発明及
び乙12発明の前記各構成を適宜組み合わせることで,当業者が容易に想到
することができたものといえ,しかも,格別に有利な作用効果も認められな
いのであるから,進歩性は否定されるべきである。
ア技術分野
本件各特許発明と乙11発明は,いずれも歯ブラシに関する発明であり,
技術分野は完全に一致する。
一方,乙10発明は,工業用ブラシの製造方法及び製造装置に関するも
のではあるが,関連する技術分野といえる。
イ作用,機能の共通性
本件各特許発明が掲げる工程の自動化,効率化といった課題は乙10か
ら乙12までの発明でも共通しており,各発明の作用効果も共通している。
ウ示唆
乙10から乙12までの文献には,前記(1)イ,(2)イで述べた事項が
記載されており,本件各特許発明に想到するために十分な示唆がされてい
るといえる一方,組み合わせを阻害する技術的要因は格別見当たらない。
(4)小括
以上によると,本件特許は,特許法123条1項2号により無効とされる
べきものであり,本件特許権に基づく権利行使は,同法104条の3により
許されない。
【原告らの主張】
(1)本件特許方法発明と乙10発明との相違点
ア本件特許方法発明と乙10発明は,構成要件B,同C及び同Eだけでな
く,構成要件Dにおいても相違する。すなわち,構成要件Dである第3の
工程において,溶着対象は,「開かれた素線群」(すなわち「多数の素
線を束状に集合させたもの」が開かれた状態のもの)であるが,乙10
発明における溶着対象は,単に多数の素線を放射状に横に並べただけの
もので,素線群を開いた状態のものではない。
イ乙10発明は,製品型に具材を並べて,各具材を溶着するという極め
て単純な製造方法であり,本件特許方法発明とは,素線群の状態,素線
群を放射方向に開く方法,溶着の仕方・部位,切除の有無といった全て
の工程において相違している。
また,製造されるブラシ単体を見ても,乙10発明は,本件特許方法
発明と比べ,均一性,溶着部分の強度に劣るものといえる。
(2)本件特許装置発明と乙10発明との相違点
本件特許装置発明と乙10発明とは,構成要件I,同J及び同Mのみな
らず,構成要件H,同K及び同Lにおいても相違している。
すなわち,本件特許装置発明は,「多数の素線を束状に集合させてなる
素線群を通す挿通孔を設けた台座」(構成要件H)を有するが,乙10発
明の下部治具32はこれには当たらない。また,本件特許装置発明は,
「開かれた素線群を台座に固定する押え体」(構成要件K)を有するが,
乙10発明では「開かれた素線群」を観念できないことから,同発明の上
部治具33は「押え体」に当たらない。さらに,本件特許装置発明は,
「素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する溶着機」
(構成要件L)を有するものの,乙10発明のように放射状に配置された
多数の素線を溶着しているわけではないのである。
(3)容易想到性
そもそも乙10発明は,本件各特許発明と全く異なっており,これに乙
11発明及び乙12発明を適用しても,本件特許方法発明や本件特許装置
発明の構成に至るものではない。
そして,このように相違点が多岐にわたることに加え,乙10から乙1
2までの発明の技術分野が互いに異なっていること,単に各工程について
の知識があったとしても,これらを組み合わせて1つの製造方法とする発
想がなければ,本件各特許発明の構成には至らないこと,乙11発明と本
件各特許発明とでは素線群を突出させる目的や突出させる先,さらに切除
部位や方法,切除の形状が大きく異なっていること,乙10にはブラシ毛
の開放工程がないため,乙12発明を組み合わせる動機がないことからす
れば,乙10発明に,乙11発明や乙12発明を組み合わせ,本件各特許
発明の構成へと至るとの動機付けに欠けるといえる。
したがって,乙10発明に乙11発明及び乙12発明を組み合わせるこ
とで,本件各特許発明を容易に想到できたとは到底いえない。
6争点4(原告T・Worldの損害)について
【原告T・Worldの主張】
原告T・Worldは,特許法102条1項,同2項及び同3項によって算定
される金額のうち,最も高い金額をもって,本件独占的通常実施権侵害に
よって自身が被った損害の額と主張する。
(1)損害の発生
ア特許発明の実施
原告T・Worldは,「コロコロブラシ」との名称の歯ブラシ(以下「原
告製品」という。)を製造,販売しているが,その回転ブラシのブラシ
単体の製造に用いている装置(以下「原告装置」という。)は,本件特
許装置発明の実施品であるし,その製造方法(以下「原告方法」とい
う。)は,本件特許方法発明の実施である。
イ原告製品と被告製品の競合
原告製品と被告製品は,いずれも「歯ブラシ」の範疇に属する商品で
ある。そして,両製品とも,一般歯ブラシ(植毛型)とはブラシ構造,効
能効果,価格の点で一線を画しており,円形シートを利用した,今までに
ない歯ブラシとして,「一般歯ブラシより歯垢除去に優れること」,「歯
茎マッサージ」,「舌苔除去」という効能効果をうたい,一般歯ブラシよ
りも高い価格で販売しているといった点で共通しており,被告自身も両製
品の類似性を認めている。また,消費者層として,医療・介護の場面も含
め広く老若男女を対象とする点でも共通する。
したがって,原告製品と被告製品とが競合することは明らかであるが,
以下,被告の主張(後記【被告の主張】(1)イ)に反論する。
(ア)製品の構造
被告は,原告製品と被告製品とで構造に差異があることを理由に競合
を否定する。しかし,被告製品の特徴は,一般の植毛歯ブラシと異なり,
「円形シート」を利用した「360°ブラシ」であることに加え,一般
歯ブラシに比して大量かつ高密度の毛を実現したところにある。これは
原告製品と共通する特徴であり,両製品は競合するものといえる。
(イ)製品の効果,使用方法
原告製品は,一般歯ブラシに比して歯垢除去力が高く,一般歯ブラシ
に代替し得るものなのであるから,被告製品とも競合する。
短時間で力を込めてゴシゴシ磨くことは,歯の磨き方として適切では
ない。原告製品と被告製品は,いずれも歯ブラシであり,使用方法は歯
磨きである。消費者はどのような磨き方にせよ,よく歯が磨ける歯ブラ
シを求めることが通常であり,その磨き方が縦磨きか横磨きかによって
歯ブラシを選択するものではない。そのため,両製品における磨き方の
違いは,競合の有無とは何ら関係がない。
(ウ)顧客層(一般消費者の消費行動)
被告は,現在の原告製品と被告製品の販売数量の違いから,原告製品
は日用品でないが,被告製品は日用品であり,競合しない旨主張するが,
販売数量の多寡によって日用品か否かが決まるわけではない。原告製品
の販売数量が,平成16年当時に比べて減少したことは認めるが,これ
は安い被告製品の市場流入によるものである。そのため,現在の販売数
量を比較すれば,被告製品の販売数量が多いのは当然であり,競合との
関係では全く意味がない。また,原告製品が大手卸,小売店で販売され
ていないのは,被告製品の市場流入による価格競争に負け,やむを得ず
店舗販売から撤退を余儀なくされたためであり,顧客層の違いを意味す
るものではない。
(2)特許法102条1項
ア原告製品の単位数量当たりの利益の額
原告製品は,本件各特許発明の実施品であるが,その単位数量当たりの
利益の額は,販売価格から変動費を差し引いた限界利益として算定される。
(ア)販売価格
原告製品の小売価格は,販売店毎に異なるが,概ね●●●●円である
ところ,原告から代理店等への卸価格は,その●●%から●●%であり,
平均すると●●●円となる。
(イ)材料費について
原告製品の1本当たりの直接材料費は以下のとおりであり,合計●●
●●円である(被告は,金型等初期費用を上乗せすべき旨主張するが,
そういった初期費用は変動費に当たらない。)。
①ブラシのグリップ(ABS樹脂)●●●●●円(甲37)
②ブラシ●●●●円(甲38)
③スリーブ(ブラシの中心筒)●●●●円(甲39)
④パッケージ(プリスター台紙)●●●●円(甲40)
⑤パッケージ作業料●●●●●円(甲41)
(ウ)製造人件費について
原告T・Worldには原告装置が●●台存在し,1日当たり約●●●●
本の歯ブラシ製造が可能である。そして,原告装置の稼働には特段の専
門的知識は必要とされず,●●台の稼働であれば,●人のパート従業
員で十分可能である。
パート従業員の時給を800円とすると,原告製品1本当たり必要な
人件費は●●●●円となる。
〔計算式〕●×800×●÷●●●●=●●●
(エ)動力費について
原告T・Worldに備え付けられた原告装置●●台を稼働させた場合,
月額動力費は●●●●●●円となる。そして,●●台で月25日間稼働
させた場合,●●●●●●●本の歯ブラシ製造が可能であることから,
歯ブラシ1本当たりの動力費は●●●●円となる。
〔計算式〕●●●÷●●●●=●●●
なお,原告T・Worldの製造工場は,原告P1の親族所有建物を使用
しているため,家賃などの費用は発生しない。
(オ)販売経費
①パンフレット外注費
パンフレットは,原告製品の効果効能や取扱説明が記載されたもの
であり,商品1本当たり1枚を添付するが,その追加発注に係る費用
1枚当たり●●●●円は,変動費といえる。
②出荷専用箱及び出荷送料
原告が用いる段ボール(幅450㎜×奥行300㎜×高さ346
㎜)の単価は188円であり,同段ボールにはブリスターパッケー
ジを200本の梱包が可能であるから,1本当たりの出荷専用箱費
用は0.9円(=188円÷200本)となる。
また,一般に段ボール(サイズ110~140)の発送料は65
0円とされているが,送料が取引先負担となることもあることを考
慮すれば,1本当たりの出荷送料が3.25円(=650円÷20
0本)を上回ることはない。
③販売人件費
一方,原告T・Worldでは,個別代理店・販売店に対する営業を役
員が行うため,営業のための人件費は必要ない。また,クレーム対応
等についても,これまで現場従業員で十分に対応してきた。そのため,
変動費といえる販売人件費はない。
(カ)小括
以上より,原告製品の単位数量当たりの利益の額は,販売価格●●●
円から変動費の合計●●●●●●円を差し引いた限界利益●●●●●●
円である。
イ被告製品の譲渡数量
被告製品の無償を含めた譲渡数量は,月15万本であるところ,平成1
9年11月9日から平成23年11月8日までの48か月間における譲渡
数量の合計は720万本である。
ウ寄与度
本件各特許発明の寄与度は少なくとも80%である。
被告は,被告製品につき,ブラシ毛の意匠,ハンドル(柄)の意匠,羽
根に関する特許発明などがその売上げに大きく貢献している旨主張する。
しかし,被告製品の広告宣伝においては,「円形シートを利用した36
0°歯ブラシであること」から複雑な歯の形にフィットする,「大量かつ
高密度毛を実現したこと」から強力なブラッシング力が認められるといっ
た記載があり,被告主張の登録意匠及び特許発明が,被告製品の売上げに
貢献しているとはいえない。
エ「販売することができないとする事情」(特許法102条1項ただし
書)
被告の主張(後記【被告の主張】(2)エ)に対し,前記(1)イで主張
した点に加え,以下のとおり反論する。
(ア)類似商品
被告は,類似商品の存在を挙げるが,類似商品のうち回転タイプの
歯ブラシで実際の販売実績があるのは,商品名を「クルン」とする歯ブ
ラシだけである。そして,「クルン」は,原告P1の有する別の特許権
を侵害する製品であるが,ほとんど売れず,市場に出回ることはなかっ
た。
一方,被告が円筒タイプの類似商品として挙げるものは,原告と競合
するほどに市場には出回っていないか,ブラシ単体(円形シート)を利
用する点において,原告の有する特許権を侵害している。このような侵
害品を持ち出して,被告が自らの侵害を正当化することは許されない。
(イ)価格
原告製品の上代価格は1500円であり,他社の類似製品と比較して
大きな差はないし,いくらか値引きをして販売することが通常であるこ
とも考えれば,原告製品の価格が著しく高額とはいえない。原告製品は,
被告製品が市場に出回る前の平成15年当時,3000円という価格設
定をしていたにもかかわらず,テレビショッピングにて上半期売上1位
を記録するなどヒット商品として順調に売上げを伸ばしていたことを考
えればなおさらである。
この点,被告は,被告製品との価格差を指摘するが,正規の実施料を
支払わず,特許権侵害という違法行為により安く価格を設定していなが
ら,これを正規の価格と比較することは公平ではない。
オ実施能力
前記アで主張したとおり,原告T・Worldは,●●台の原告装置によ
り,1日●●●●本,1か月(25日計算の場合)で少なくとも●●●●
●●●本の原告製品の製造が可能である。
カ小括
原告製品の単位数量当たりの利益は●●●●●●円であるから,平成1
9年11月9日から平成23年11月8日までの間の損害額(特許法10
2条1項)は,合計●●●●●●●●●●●●円と算定される(当初,原
告T・Worldは,単位数量当たりの利益を●●●●●円と主張していた
が,これを●●●●●●円と改めたので,当裁判所において,これに従っ
た修正をした。)。
〔計算式〕48×150,000×●●●●×0.8=●●●●●●
原告T・Worldは,上記金額の一部である5億8252万0320円
の支払を求める。
また,仮に被告主張の販売し得ない事情を考慮したとしても,原告T・
Worldの被った損害は少なくとも上記5億8252万0320円を下ら
ない。
(3)特許法102条2項
ア被告は,平成19年11月9日から平成23年11月8日までの間に,
被告製品を平均単価400円で少なくとも平均月15万本を製造,販売し
た。被告製品販売による利益率は15%と見積もられるが,被告製品に対
する本件各特許発明の寄与度は少なくとも80%である。
そのため,被告が侵害行為によって得た利益は3億4560万円であり,
これが原告の被った損害の額であると推定される。
〔計算式〕400×48×150,000×0.15×0.8=345,600,000
イ被告製品の販売による利益
被告は,被告製品の販売による利益はないと主張するが,損益状況に
関する資料開示はなされず,到底信用できない。この点,被告の主張す
るとおり,被告装置を改造したのだとすれば,そのための莫大な費用・
労力をかけるだけの利益を得ていた証左である。
材料費については,原告製品の柄がABS樹脂であるのに対し,被告
製品の柄は,一般にその半値であるポリプロピレン樹脂であり,また,
被告製品は大量生産のため材料仕入値を安く抑えることが可能である。
その他両製品が類似することからして,被告製品1本当たりの限界利益
は50円から70円までの範囲内と推測される。
ウその他被告の主張に対する反論は,前記(2)と同様である。
(4)特許法102条3項
ア被告は,平成19年11月9日から平成23年11月8日までの間に,
被告製品を平均単価400円で少なくとも365万1145本販売した。
後記イのとおり,本件各特許発明につき,相当な実施料率は10%で
あることから,特許法102条3項に基づく原告の損害の額は,1億4
604万5800円となる。
〔計算式〕400×3,651,145×0.1=146,045,800
イ相当実施料率
実施料率に関する特許庁や発明協会の調査結果を踏まえ,被告製品が
不当に安い価格設定をしていること,本件各特許発明がパイオニア発明
である上,製品の中核を成す発明として,利用率が極めて高いこと,被
告製品1本当たりの利益が小売価格の35%とも考えられること,本件
特許が平成34年3月末まで存続することからして,実施料率としては
10%が相当である。
【被告の主張】
(1)損害の不発生
ア特許発明の不実施
原告製品のパッケージには,本件特許とは別の特許(特許第40377
39号)及び登録意匠(意匠登録第1066543号)が表示されている
ものの,本件特許の記載はない。そして,パッケージに表示された特許の
発明内容は,素線群を放射方向に開く手法をエアではなく,コーンとして
いる点で本件各特許発明と相違している。そのため,原告製品は,パッ
ケージに表示された特許に係る発明を実施してはいても,本件各特許発明
を実施するものではないから,損害賠償請求の前提たる損害が発生してい
ない。
また,原告T・Worldは,原告製品販売のための営業活動を一切行って
おらず,不実施に等しい状況にあるから,この観点からしても,そもそも
損害は発生していないというべきである。
イ原告製品と被告製品の非競合
さらに原告製品と被告製品とは,以下のとおり市場において競合してお
らず,「侵害製品がなかったならば,原告製品の販売量が増加するとの関
係」が認められないから,この観点からも損害の発生は認められない。
(ア)製品の構造
原告製品は,回転ブラシ,柄部材及び回転ブラシ用支軸の3つの部材
から構成され,横磨きするときにブラシが自由に回転する回転タイプの
歯ブラシであるのに対し,被告製品は,円筒状ブラシと柄の2つの部材
から構成され,横磨きするときにブラシが自由に回転しない円筒タイプ
の歯ブラシである。マスメディアも,両者が別タイプの商品であること
を前提とした報道をしている。
(イ)製品の効果,使用方法
被告製品のような円筒タイプは,一般歯ブラシと同様の強いブラッシ
ング力を発生させるのに対し,原告製品のような回転タイプは,そのよ
うな強いブラッシング力を発生させない。被告製品が一般の歯ブラシに
代替することができることとは対照的に,原告製品はそのような代替品
にはなり得ず,両者が競合することはない。
(ウ)顧客層(一般消費者の消費行動)
原告製品は,(イ)で述べた特色により,日用品という範疇に含まれな
いため,日用品のように沢山の一般消費者には購入されず,一般の歯ブ
ラシとは別の2本目として,主に歯茎・舌のマッサージ用として購入さ
れる。一方,被告製品は,日用品である一般歯ブラシに代替し得るので,
日用品を購入する沢山の一般消費者に購入される。そのため,両者は,
対象とする顧客層に明らかな差異があり,やはり競合は認められない。
(エ)類似商品の存在及び価格
原告製品と同じ構造・効果を有する回転タイプ及び被告製品と同じ構
造・効果を有する円筒タイプいずれの歯ブラシにも多数の類似品が存在
する。そのため,原告製品と被告製品とが仮に競合していたとしても,
被告製品の代替品としては,同じ効果を有する他社の円筒タイプ歯ブラ
シを選択されるはずである。原告製品の価格は,1500円から300
0円であり,一般歯ブラシの価格帯(100~200円)はもちろん,
円筒タイプ歯ブラシの価格帯(1260円以下)を大きく上回っている
のであるから,なおさらである。
このような観点からも,被告製品がなかったならば,原告製品の販売
数量が増加するとの関係は一切認められない。
(2)特許法102条1項
ア原告製品の単位数量当たり利益
歯ブラシ1本当たりの限界利益が●●●●●●円とする原告の主張は否
認する。理由は以下のとおりである。
(ア)原告製品の小売価格が1500円であり,卸売価格がその●●%から
●●%であり,平均すると●●●円となることについては,いずれも不
知。
(イ)材料費
ブラシのグリップが1本当たり●●●●●円であることは否認する。
数百万円すると思われる金型の償却費用も上乗せすべきである。
ブラシ材料費が1本当たり●●●●円であることも否認する。ブラシ
材料の歩留まりが100%であることはあり得ず,材料費は●●●●円
より高くなるはずである。
スリーブ(ブラシの中心筒)が1本当たり●●●●円であることは,
否認する。金型の償却費用が上乗せされるべきである。
パッケージ(プリスター台紙)が1本当たり●●●円であることは,
否認する。版下の抜き型の償却費用が上乗せされるべきである。
パッケージ作業料が1本当たり●●●●円であることは,不知。
(ウ)人件費
人件費が1本当たり●●●●円であることは否認する。●●台の製造
機械をフル稼働するとの前提が,まず現実的には考えられない。
また,製造機械●●台を稼動させるとなれば,その作業内容からして,
機械に精通した者を当たらせる必要があるため,時給800円というわ
けにはいかないし,●名という従業員数では対応しきれない。
(エ)動力費
動力費が1本当たり●●●●円であることは否認する。これについて
も,●●台の製造機械を月25日間フル稼働させるという前提が現実的
でない。
(オ)販売経費
パンフレット制作外注費が1枚当たり●●●●円であることは不知。
パンフレット作成においても,通常は版代がかかる。
原告が販売人件費を支出していないことは認める(これこそが,まさ
に原告製品の販売数量が一時を除いて低迷している理由であり,被告製
品の販売による影響ではないことを表わしている。)。
(カ)その他原告T・Worldが挙げていない費用
スリーブ(ブラシの中心筒)を包み込むように両サイドに存在する透
明な部品2つの費用,原告製品を入れるプラスチックのケース及び小箱
の費用,通常出荷専用の内箱及び外箱に関する初期費用としての版代や
購入費,製造機械の償却費用,機械●●台の設置場所の費用,電源(●
●台もの機械を稼動させるには一般家庭用電源では無理なので電源容量
を上げる工事が必要である。),コンプレッサー(エアシリンダを使用
しているので必ず必要なものである。),光熱費等を,さらに控除すべ
きである。
イ被告製品の販売数量
平成19年7月から平成23年8月までの被告による被告製品の有償譲
渡数及び返品数は,以下のとおりであり,そのほか平成21年4月から9
月までの期間に約●●●●●●●本を無償譲渡した。
譲渡数返品数
平成19年●●●●●●●本●●●●本
(7月~12月)
平成20年●●●●●●●●本●●●●●●本
平成21年●●●●●●●●本●●●●●●本
平成22年●●●●●●●本●●●●●●本
平成23年●●●●●●●本●●●●●●本
(1月~8月)
合計●●●●●●●●本●●●●●●●本
ウ寄与度
被告製品にとって重要な構造は,円形シート(ブラシ単体)や円形シー
トを重ね合わせた円筒状ブラシではなく,円筒状ブラシを支軸を介さずに
柄に直接固定させて,円筒状ブラシの回転軸が原告製品とは90度異なる
点にある。このことは被告製品のパッケージなどで一貫して宣伝してきた
ことでもあるし,また,被告製品のパッケージに表示された登録意匠が全
体意匠であり,ブラシ単体やブラシの部分意匠でないことからも窺われる。
ところが,本件各特許発明は,もっぱら回転ブラシのブラシ単体の製造方
法及び同製造装置に関するもので,上記構造とは全く関係がない。
また,被告製品は,ブラッシングの力が強いからこそ一般歯ブラシに代
替し,消費者に購入されたのであるから,その作用効果と関係し,かつ,
被告製品のパッケージにも記載がされている別の特許(特許第40003
55号,4673802号)及び登録意匠(意匠登録第1231194号,
1322549号)こそ,大量販売に大きく貢献したものといえる。
しかも,ブラシの製造方法及び製造装置については,さらに新たな代替
技術が開発されており,陳腐化した本件各特許発明に価値がないことは明
らかである。
したがって,本件各特許発明の寄与度は低く,損害額は減額されるべき
である。
エ「販売することができないとする事情」(同条1項ただし書)
前記(1)で主張した被告の営業活動,価格差などの事情は,仮に原告
T・Worldの損害発生自体が否定できないとしても,「販売することがで
きないとする事情」(同条1項ただし書)に該当し,原告T・Worldの損
害額は大きく減額されるべきである。
オ実施能力
原告T・Worldには,元々被告のような大規模な生産能力はなく,本来
的に得られるべきであった利益はわずかしかない。
(3)特許法102条2項
ア被告の得た利益
被告製品は,平成21年6月8日まで,製造を被告が,販売を別会社の
株式会社STBヒグチ(以下「STBヒグチ」という。)が行っていたが,
同日に被告がSTBヒグチを吸収合併し,商号も現在のとおりに変更した。
この合併の前後を問わず,被告製品の製造販売に係る損益は赤字状態だっ
たもので,被告がこれによって利益を得ていたということはない。
イ特許法102条2項に基づく損害額の算定に当たっても,前記(2)で主
張したのと同様の事情による減額がされるべきである。
(4)特許法102条3項
相当実施料率を10%とする根拠はなく,到底認められない。
「国有特許権等(経済産業省所管)の実施権設定について」でも,プラス
チック製品の実施料の基準値は2.46%である(少なくとも実施料率が2.
46%であることを認める趣旨ではなく,あくまで実施料率の算定にあたっ
ての参考資料として主張するにとどまる。)。
また,相当実施料率を判断する上でも,前記(1)から(3)までにおいて主
張した事情が考慮されるべきである。
7争点5(原告P1の損害)について
【原告P1の主張】
原告P1は,平成19年7月6日以降本件特許権を有するところ,同日から
原告T・Worldに独占的通常実施権を許諾した平成19年11月9日までの4
か月間,被告の特許権侵害行為により,実施料相当分の損害を被った(特許法
102条3項)。
原告P1の被った損害は,被告製品の単価を400円,被告製品の各月製
造・販売量が15万本,相当実施料率10%とし,2400万円となる。
〔計算式〕400×150,000×4×0.1=24,000,000
【被告の主張】
前記6【被告の主張】(4)で述べたとおり,相当実施料率を10%とする根
拠はなく,到底認められない。
第4当裁判所の判断
1争点1(被告方法は本件特許方法発明の技術的範囲に属するか)について
次のとおり,被告方法は,本件特許方法発明の構成要件を全て充足し,その
技術的範囲に属する。
(1)本件明細書の記載
本件明細書には,以下の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】
本発明者は,以前に歯に付着したプラークの除去及び歯茎のマッサージに好
適な回転歯ブラシとその製造方法を提案した(特開平12―83736号公
報)。その内容は,素線群からシート状のブラシ単体を形成し,このブラシ
単体を多数枚重ねて回転ブラシを作成し,これを柄に回転可能に取り付ける
ものであり,具体例として下記の方法が開示されている。
すなわち,ナイロンなどの多数の素線を束状に集合させてなる素線群の一端
を加熱溶着することにより半球形状の溶着部を形成し,この後溶着部を加圧
して扁平状とする。これに続いて,扁平部の軸孔となる部分をカットして,
さらに加圧することにより素線群の全体を略円形とし,かつ扁平部を略円形
とする。この後,扁平部の両端を溶着などにより接合させて環状部を形成し,
シート状のブラシ単体を製作する。そして,このようにして得られたブラシ
単体の環状部を接合してブラシ単体の複数個を連結することにより,ローラ
状の回転ブラシを形成する。この回転ブラシは,柄部材の一端に支軸を介し
て回転自由に支持させて回転歯ブラシとされる。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで,以上のように製作される回転ブラシは,そのブラシ単体の厚みを
均一とするには熟練を要し,ブラシ単体の厚みが不均一の場合は回転ブラシ
の毛足密度が不均一となる。しかも,工程数が多く複雑な工程を要するので,
一貫した連続製造が困難で回転歯ブラシの製造コストも高くなる。
【0004】
そこで,本発明は,回転歯ブラシを構成するブラシ単体を高度な熟練を要す
ることなく,しかもできるだけ工程数少なく効率良く製造できるブラシ単体
の製造方法とその装置を提供し,ひいては回転歯ブラシを量産化可能とする
製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解するための手段】
上記目的を達成するため,本発明の回転歯ブラシの製造方法は,ブラシ単体
を多数枚重ねて形成した回転ブラシを柄部材に回転可能に取り付けてなる回
転歯ブラシの製造方法であって,
多数の素線を束状に集合させてなる素線群を台座に設けた挿通孔から外方に
一定量突出させ,この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放
射方向に開き,開かれた素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を
溶着し,溶着された中央部分の中心部を切除してブラシ単体を形成し,
該ブラシ単体を多数枚同一中心に重ね合わせて回転ブラシを形成した後,該
回転ブラシを柄部材に取り付ける回転歯ブラシの製造方法である。
そして,本発明にかかる回転ブラシのブラシ単体の製造方法は,多数枚を重
ねて回転ブラシを形成するブラシ単体の製造方法であって,多数の素線を束
状に集合させてなる素線群を台座に設けた挿通孔から外方に一定量突出させ
る第1の工程と,この素線群の突出側の中央部にエアを吹き込んで素線群を
放射方向に開く第2の工程と,開かれた素線群を台座に固定した状態で素線
群の中央部分を溶着する第3の工程と,溶着された中央部分の中心部を切除
する第4の工程とからなることを特徴とする。
【0006】
以上の方法では,各工程を画一的に処理することが可能となり,高度な熟練
を要することなく均一な厚さのブラシ単体の製作を可能とする。素線群をノ
ズルからのエアを用いて放射方向に開くことにより,ブラシ単体を構成する
素線同士の重なりがほとんどなくなり,均一な厚さのブラシ単体の製作がで
きた。ブラシ単体の製作速度を早くした場合にも素線を傷付けるおそれが少
なくなり,このため,素線群の開きを高速度で行うことが可能となって,ブ
ラシ単体の高速度による効率良い製造を可能とする。放射方向に開いた素線
群の中央部分を溶着後,溶着された中央部分の中心部を切除するので中心部
の形状を均一に仕上げることが可能であり,均一なブラシ単体の製造ができ
る。また,素線群を放射方向に開く工程を,素線群の突出端の中央部にエア
を吹き込んで行うことにより,素線群を開くのと中心部を切除するのとを同
じ部材で行うことが可能となり,装置の簡素化及び操作系の簡素化を可能と
した。そして,これにより回転歯ブラシの均質化及び量産化が可能となった。
【0007】
また,本発明にかかる回転ブラシのブラシ単体の製造装置は,多数枚を重ね
て回転ブラシを形成するためのブラシ単体の製造装置であって,多数の素線
を束状に集合させてなる素線群を通す挿通孔を設けた台座と,素線群を掴ん
で台座の挿通孔から一定量突出させて保持するチャックと,素線群の突出端
の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くノズルと,開かれた素線
群を台座に固定する押え体と,素線群を台座に固定した状態で素線群の中央
部分を溶着する溶着機と,溶着機による溶着部分の中心部を切除する切除手
段とを備えている。
【0008】
この装置を用いることにより,本発明の方法を容易に実施できて,所期の目
的を達成できる。」
(2)被告方法
証拠(甲12~14,乙1,16,21~40,43~45[枝番を含
む。])及び弁論の全趣旨によれば,被告方法は,別紙方法目録2記載のと
おりに特定されることが認められるため,以下,これを前提に本件特許方法
発明の各構成要件への充足性を検討する(なお,後に検討する点を除き,各
構成要件への充足性については,争いがない。)。
(3)構成要件A及びFの充足性
ア特許請求の範囲の記載
本件特許方法発明は「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体
の製造方法」についての発明であるが,「ブラシ単体」と「回転ブラシ」
は,前者を多数枚重ねることで後者になるという関係にある。そして,
「回転ブラシ」との文言からは,当該ブラシにつき,「回転が可能な形
状」であることを求めていると解されるが,実際の用途が,歯ブラシの柄
に取り付けられた状態で「回転するブラシ」に限定されるかは必ずしも明
確ではない。
イ本件明細書の記載
本件明細書には,「ブラシ単体を多数枚を重ねて形成した回転ブラシを
柄部材に回転可能に取り付けてなる回転歯ブラシの製造方法」との記載が
あり(段落【0005】),「回転ブラシ」と「回転歯ブラシ」は,前者
を柄部材に「回転可能に取り付け」ることで後者になるという関係にある
ことが読み取れる。そのため,「回転歯ブラシ」であるか否かは,「回転
ブラシ」が歯ブラシの柄に取り付けられた状態で「回転」するかどうかに
よって決せられる,つまり,柄への取り付け方次第では「回転ブラシ」が
回転しないことも想定されているものと解される。
また,本件明細書の記載によれば,本件特許方法発明は,素線が放射状
に広がる円形の「ブラシ単体」を,高度な熟練を要することなく,できる
だけ少ない工程数で効率良く製造する方法に関するものであることが認め
られる。このような本件特許方法発明の作用効果及び技術的意義から考え
ると,「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体」につき,その
形状が回転に適した円形であることは必須と解されるものの,柄への取り
付け方を,ブラシが回転する構造に限定すべき合理的理由を見出すことは
できない。
ウ被告の主張について
この点,被告は,「回転ブラシ」とは,柄に対して回転することを積極
的に意図した円筒状ブラシのことであり,そのような取り付けを想定して
いない被告方法で製造されるブラシは,「多数枚を重ねて回転ブラシを形
成するブラシ単体」ではない旨主張する。
しかし,既に上記ア及びイで論じたことに加え,本件特許方法発明の技
術的意義に照らせば,「回転ブラシ」の文言は,当該ブラシ及びブラシ単
体の用途を被告主張のように限定する趣旨とは解されず,その主張は採用
できない。
エ小括
以上より,「回転ブラシ」は回転に適した円筒形のブラシであり,「ブ
ラシ単体」は,これを「多数枚を重ね」ることで,上記形状の「回転ブラ
シ」を形成できるもの,すなわち,素線が放射状に広がる円形のブラシを
意味する一方,柄へ回転可能に取り付けるものであることまでは求められ
ていないと解するのが相当である。
オ被告方法の充足性
被告方法で製造される「放射状羽根」(甲6の2,甲20,乙43)は,
まさに素線が放射状に広がった円形のブラシであり,前記エのとおり解さ
れる「ブラシ単体」(構成要件A,F)に該当するといえる。
したがって,被告方法は,構成要件A(「多数枚を重ねて回転ブラシを
形成するブラシ単体の製造方法」)及び構成要件F(「回転ブラシのブラ
シ単体の製造方法」)をいずれも充足する。
(4)構成要件Cの充足性
ア特許請求の範囲の記載
一般に「放射方向」とは,一点からまっすぐ四方八方へと向かう方向を
意味する文言である。そのため,「素線群の突出端の中央にエアを吹き込
んで素線群を放射方向に開く」(構成要件C)とあるのは,「多数の素線
を束状に集合させてなる素線群」(構成要件B)につき,その突出端の中
央にエア,つまり,空気を吹き込むことで,上記のように束状になってい
る素線群を,その中心部を基点に四方八方の方向へ開くことを意味すると
解される。
一方で,「放射方向」とは,あくまでエアの吹き込みによって素線群の
開く「方向」を示しているにとどまり,被告が主張するように,エアの吹
き込みによって,素線群の中心線に直角な全周方向にまで開くことを求め
ているとは解されない。
イ本件明細書の記載
本件明細書の記載によれば,「多数の素線を束状に集合させてなる素線
群」をその中心線に直角となるよう開くことで,円形状のブラシ単体を形
成するものであるが,その工程でエアを用いるのは,「エアを用いて放射
方向に開くことにより,ブラシ単体を構成する素線同士の重なりがほとん
どなくなり,均一な厚さのブラシ単体の製作ができ(る)」(段落【000
6】)ため,つまり,素線の広がる方向のばらつきをなくし,全方向に万
遍なく分散させることに技術的意義があるといえる。このような目的を達
するためには,エアは,素線群をその中心線からいくらかの角度開かせる
まで利用されれば足りる一方,中心線に直角な全周方向に開くまでエアを
利用することが必須とはいえない。かかる観点から考えても,「素線群の
突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く」とは,エアの
吹き込みによって,素線群が四方八方の方向に万遍なく分散する程度の角
度開かせることを求めてはいるものの,素線群の中心線に直角な角度に開
くまでエアが利用されることを求めていると解する合理的理由はない(本
件明細書の図5においても,本件特許方法発明の実施例において,素線群
の開放をエアのみではなく,エア吹き出し口であるノズルの物理的な押さ
えつけ作用を利用していることが窺われる。)。
ウ小括
以上から,「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方
向に開く」とは,「多数の素線を束状に集合させてなる素線群」につき,
その突出端の中央にエアを吹き込むことで,素線群がその中心部を基点に
四方八方の方向に万遍なく分散する程度の角度に開くことを意味すると解
される。
エ被告方法の充足性
被告方法では,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
前記ウのとおり解釈される構成要件Cを充足するものといえる。その後,
溶着ヘッドが,糸束20の中心線に直角な角度まで開放するとしても,こ
の充足性を左右するものではない。
(5)構成要件Dの充足性
ア特許請求の範囲の記載
「開かれた素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する第
3の工程」(構成要件D)との文言からは,素線群の中央部分を溶着する
という一定の時間的幅のある工程において,開かれた素線群が台座に固定
した状態であることが求められていると解されるが,それ以上に,溶着の
開始前に,当該固定の状態を達していなければならないというような時間
的前後関係が必須であるとまで読み取ることはできない。
イ本件明細書の記載
本件明細書においても,素線群の固定を溶着の開始前に達していなけれ
ばならないとする記載や示唆はない。この点,本件明細書中に示された
【発明の実施の形態】において,押え体5による素線群の固定が,溶着の
開始前に行われている(段落【0026】,【0027】)が,あくまで
実施例であり,被告の主張するような時間的前後関係を必須とする根拠に
はできない。
ウ小括
以上からすると,「開かれた素線群を台座に固定した状態で素線群の中
央部分を溶着する第3の工程」は,素線群の中央部分を溶着するという一
定の時間的幅のある工程の中で,開かれた素線群が台座に固定した状態で
あることが求められてはいるものの,溶着の開始前に,当該固定の状態を
達していなければならないというような時間的前後関係を必須とするもの
ではないと解するのが相当である。
エ被告方法の充足性
被告方法においては,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●,溶着の工程中に,「開かれた素線群を台
座に固定した状態」に達しているといえる。この点,被告は,くっつき防
止治具の目的は,糸材の固定ではなく,溶着及び中心部の分離完了後に放
射状羽根が溶着機のホーンにくっつくことを防止することにある旨主張す
るが,くっつき防止治具が客観的に見て上記固定の効果を奏している以上,
充足性を否定する根拠となるものではない。
したがって,被告方法は,構成要件Dを充足する。
なお,被告方法によると,溶着ヘッド40自体も,加工ベッド30上に
おいて,糸材21を放射状に押し広げており,「開かれた素線群を台座に
固定し」ているといえる。
(6)構成要件Eの充足性
ア特許請求の範囲の記載
(ア)「溶着」と「切除」との時間的前後関係を考えるに,「溶着された中
央部分の中心部を切除する第4の工程」(構成要件E)とあり,「切
除」の対象となるのは,「溶着された中央部分の中心部」である。この
ような文言(「溶着」が「された」(過去形)となっていること)から
は,「溶着」と「切除」との間には一定の時間的前後関係は求められて
いると解するのが自然であり,切除箇所を特定する趣旨にとどまるとい
う原告の主張をそのまま採用することはできない。
一方,被告は,「溶着」も「切除」も一定の時間的幅をもった「工
程」であるにもかかわらず,あえて「溶着」の終点という時点と「切
除」の始点という時点を取りだし,その点と点との間に時間的前後関係
が求められており,両工程の時間的な重なり合いは一切認められないと
主張するが,このような主張も,上記文言から読み取ることは困難であ
る。
そして,「溶着」の工程は,その文言及び技術常識(甲16~18,
乙42の1~3)から「溶かす」段階と「着ける」段階に大別されると
解されるが,「溶かす」段階ではあるものの,「着ける」段階が開始さ
れていない段階で「切除」の工程を終えるような場合は,「溶かした」
部位を切除したとはいえても,「溶着された」部位を切除したとは言い
難い。そのため,「溶着された中央部分の中心部を切除する」は,少な
くとも,「着ける」段階が開始される前に,「切除」の工程を終えてし
まうような場合は含まれないものと解される。
他方,「溶かす」段階のみならず,「着ける」段階にも入った後(溶
着が完了していなくても),「切除」の工程を終える場合には,「溶
着」が一定程度なされた部位を「切除」しているという意味において,
「溶着された中央部分の中心部を切除する」に含まれると解することが
できる。
(イ)また,構成要件Eにおける「切除」は,その文言から,素線群の中央
部分の中心部を「切って除く」ことを意味すると解されるが,その手法
として,刃物など「切除」に用いる道具を限定しているとは読み取れな
い。
イ本件明細書の記載
(ア)本件明細書には,「放射方向に開いた素線群の中央部分を溶着後,溶
着された中央部分の中心部を切除するので中心部の形状を均一に仕上げ
ることができる。」との記載(段落【0006】)がある。ここでは,
「切除」が行われるのは,「溶着後」と記載されている。
しかし,ここで切除を溶着「後」としている目的は,上記のとおり,
中心部の切除後の形状を均一に仕上げることにあり,そのための手段と
して,放射方向に開いた素線群の中央部分が溶着されている状態での切
除を必要としているものである。このような当該技術の目的及び手段に
照らすと,本件特許方法発明における「切除」の時期につき,上記目的
を達することができる限りは,「溶着」の工程をすべて終えた後になさ
れることを必須とする理由はなく,「溶着」の工程が上記目的を達せら
れる程度に進んだ時期であれば足りると解される(上記技術的意義に照
らせば,「切除」の時点については,切除部位の形状を仕上げる時点,
すなわち,「切除」の終期が問題にされるべきである。)。
したがって,本件明細書の上記記載は,「溶着」工程と「切除」工程
との時間的前後関係について,両工程が時間的に重なり合う場合を除外
する趣旨ではないと解される。
(イ)本件明細書の他の記載からも,「切除」の意味を,被告の主張するよ
うに限定的に解すべき根拠を見出すことはできない。「切除」が,放射
状に広がった素線群中心部を除去することで,素線群と物理的に独立し
たブラシ単体を形成する工程であることからすると,その目的を達する
ように中心部を除去する手法であれば,「切除」から除外されるべき技
術的理由はないというべきである。
ウ小括
以上によれば,構成要件Eの「溶着された中央部分の中心部を切除す
る」とは,「切除」工程の始期については「溶着」工程の開始後,「切
除」工程の終期については,「溶着」工程のうち「着」の開始後であるこ
と以上に,時間的前後関係を限定するものではないと解するのが相当であ
る。また,「切除」の意味についても,放射状に広がった素線群中心部を
除去することで,素線群と物理的に独立したブラシ単体を形成する手法で
あれば足り,刃物を使用する場合に限定されるものではないと解される。
エ被告方法の充足性
(ア)被告方法
一般に超音波溶着とは,超音波振動によって,熱可塑性樹脂である対象
物を摩擦熱で溶融し,振動停止後に固化を生じさせるという溶着方法であ
り(甲16~18,乙42の1~3),溶着時間が通常1秒以下とされる
ほど短いことなどに利点がある(甲17,18,乙42の1・2)。被告
方法は,このような超音波溶着を採用しており,具体的には,●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●。
(イ)「切除」の手法
被告方法では,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●被告は,被告方法では,●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●刃物などを使用した切除を行っ
ていないと主張する。しかし,前記ア,イのとおり,構成要件Eの「切
除」は,手法を特段限定しているわけではなく,構成要件Eの充足を否定
する根拠にはならない。
(ウ)「切除」の開始・終了時期
そして,被告方法における「切除」の手法において,その工程の始期は,
「溶着」工程の開始後である(前記(ア))。
また,その工程の終期は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●「溶着」工程の終期よりも前の時点で「切除」が
終了しているように見えなくもない。しかし,被告方法では,●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●。
そもそも被告方法では,上記のような「切除」の手法を採る以上,●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●。
このように考えると,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●。
以上より,被告の主張を考慮しても,被告方法は,「溶着された中央部
分の中心部を切除する」との工程を有しているというべきであり,構成要
件Eを充足する。
(7)各工程の時間的前後に関する被告の主張について
被告は,本件特許方法発明における第1から第4までの各工程は独立して
おり,前工程が完結した後に後工程が開始されるという順序であることが必
要であると主張する。
しかし,既に論じたように,各工程の時間的前後関係自体は定められてい
るということはできるが,前工程の終了後に後工程が開始され,工程間の時
間的重複が一切許されないとする根拠は見出し難いし,本件明細書に記載さ
れた技術的事項からも,そのように限定的に解する合理的理由を見出すこと
はできない。また,本件明細書上の実施例のみから,そのような解釈が導か
れるものでもない。
したがって,被告の上記主張も採用できない。
(8)小括
以上より,被告方法は,本件特許方法発明の各構成要件を充足する(構成
要件Bの充足性については争いがない。)もので,その技術的範囲に属する
といえる。
2争点2(被告装置は本件特許装置発明の技術的範囲に属するか)について
次のとおり,被告装置は,本件特許装置発明の構成要件を全て充足し,そ
の技術的範囲に属する。
(1)被告装置
証拠(甲12~14,乙1,16,21~40,43~45[枝番を含
む。])及び弁論の全趣旨によれば,被告装置は,別紙物件目録3記載のと
おりに特定されることが認められるため,以下,これを前提に本件特許装置
発明の各構成要件への充足性を検討する(なお,後に検討する点を除き,各
構成要件への充足性については,争いがない。)。
(2)構成要件G及びNの充足性
前記1(3)で論じたとおり,「回転ブラシ」は回転に適した円筒形のブラ
シであり,「ブラシ単体」は,これを「多数枚を重ね」ることで,上記形状
の「回転ブラシ」を形成できるもの,すなわち,素線が放射状に広がる円形
のブラシを意味する一方,柄へ回転可能に取り付けるものであることまでは
求められていないと解するのが相当であり,この点本件特許方法発明と別異
に解すべき理由はない。
そして,被告装置で製造される「放射状羽根」は,まさに素線が放射状に
広がった円形のブラシであり,上記のとおり解される意味での「ブラシ単
体」といえる。
したがって,被告装置は,「回転ブラシを形成するためのブラシ単体の製
造装置」(構成要件G)及び「回転ブラシのブラシ単体の製造装置」(構成
要件N)の各要件を充足する。
(3)構成要件Jの充足性
前記1(4)で論じたところによれば,「素線群の突出端の中央にエアを吹
き込んで素線群を放射方向に開くノズル」(構成要件J)とは,素線群の突
出端の中央にエアを吹き込むことのできるノズルで,素線群がその中心部を
基点に四方八方の方向に万遍なく分散する程度の角度まで開かせるものを意
味すると解される。
そして,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●から,被
告装置は,上記のとおり解釈される構成要件Jを充足する。
(4)構成要件Kの充足性
前記1(5)で論じたところによれば,「開かれた素線群を台座に固定する
押え体」(構成要件K)は,「素線群を台座に固定した状態で素線群の中央
部分を溶着する溶着機」(構成要件L)との文言を考慮しても,素線群の中
央部分を溶着するという一定の時間的幅のある工程の中で,開かれた素線群
を台座に固定した状態とする「押え体」を意味する一方,溶着の開始前に,
当該固定の状態を達しているとの時間的前後関係を必須とするものではない
と解するのが相当である。
そして,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,溶着の工程中に,
「開かれた素線群を台座に固定する」ものとして,上記「押え体」に当たる
といえる。
したがって,被告装置は,構成要件Kを充足する。
なお,前記1(5)で述べたとおり,溶着ヘッド40自体も,「押え体」に
当たるということができる。
(5)構成要件Lの充足性
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●。溶着ヘッド40が
「素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する溶着機」に当
たることは明らかである。
したがって,被告装置は,構成要件Lを充足する。
(6)構成要件Mの充足性
前記1(6)で論じたところによれば,「溶着機の溶着部分の中心部を切除
する切除手段」(構成要件M)とは,放射状に広がった素線群中心部を除去
することで,素線群と物理的に独立したブラシ単体を形成する手法であれば
足り,刃物を使用する場合に限定されるものではないと解される。また,
「溶着」と「切除」と時間的関係についても,「切除」工程の始期が,「溶
着」工程のうち「溶ける」段階の後であり,「切除」工程の終期が,「溶
着」工程のうち「着ける」段階の開始後であることを必要とする限りにおい
て両工程の前後関係を求めるとは解されるものの,それ以上に時間的前後関
係が限定されると解すべき根拠はない。
そして,被告装置の分離治具70は,垂直な円筒体のもので,前記1(6)
のとおり,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,中心部を刃物に
よって切断するものではないが,上記のとおり解される「切除手段」に当た
るといえる。また,被告装置において,「切除」工程の終期は,少なくとも,
「溶着」工程のうち「着ける」段階の開始後であると認められることも前記
1(6)で論じたとおりである。
したがって,被告装置は,構成要件Mも充足する。
(7)小括
以上より,被告装置は,本件特許装置発明の各構成要件を充足する(構成
要件H及びIの充足性については争いがない。)もので,その技術的範囲に
属するといえる。
3争点3-1(サポート要件違反(特許法36条6項1号))について
(1)被告は,本件各特許発明が,第3の工程である「溶着」と第4の工程で
ある「切除」とが一部でも時間的に重なる場合をも含むのであれば,本件明
細書に記載がない事項であるため,サポート要件に違反する旨主張する。
この点,本件各特許発明が,「溶着」と「切除」の各工程が時間的に一部
重なり合う場合をも含むという解釈は,本件明細書の記載を参酌し,これと
も整合するものであることは前記1及び2で論じたとおりである。そのため,
本件各特許発明が,本件明細書に記載された範囲を超えたものとはいえない。
(2)また,本件各特許発明は,エアで素線群を開く部材とその中心部の切除
を行う部材とが別である場合や,切除が素線群の下側から行われる場合を含
むものであるが,被告は,これらについても本件明細書に記載がない事項で
あるため,サポート要件違反になる旨主張する。
この点,本件明細書に「素線群を放射方向に開く工程を,素線群の突出端
の中央部にエアを吹き込んで行うことにより,素線群を開くのと中心部を切
除するのとを同じ部材で行うことが可能となり,装置の簡素化及び操作系の
簡素化を可能とした。そして,これにより回転歯ブラシの均質化及び量産化
が可能となった。」(段落【0006】),「エアの噴出と溶着部分の中心
部の切除の両方の作用を1つの部材によって行うのが好ましい。」(段落
【0010】)といった記載があり,エアの吹込みを行う部材と切除を行う
部材とを同一にすることを好ましい実施形態としていることは確かである。
しかし,発明の構成をかかる実施形態に限定する趣旨は読み取れず,むしろ,
部材を異にする場合をも想定した記載と理解される。そして,切除を行う部
材がエアの吹き込みを行う部材と別である場合には,切除が,エアの吹き込
みと同様に素線群の上側から行われなければならない必然性はなく,他にそ
の方向を限定する記載は本件明細書上見当たらない。
そのため,この点についても,本件各特許発明が,本件明細書に記載され
た範囲を超えていることにはならない。
(3)他にも本件各特許発明が,本件明細書に記載された範囲を超えていると
認めるべき理由はなく,サポート要件違反に係る被告の主張は採用できない。
4争点3-2(実施可能要件違反(特許法36条4項))について
被告は,本件明細書に記載された実施例では,溶着中に切除を行うことは
できず,そのため本件明細書からは,溶着と切除が時間的に一部重なり合う
被告方法及び被告装置を実施することはできない旨主張する。
しかし,明細書には,当業者が実施可能な程度に明確かつ十分な記載こそ
求められるものの,特許請求の範囲に含まれる全ての実施形態の記載が求め
られているわけではない。
本件明細書には,前記1(1)で認定した記載に加え,段落【0013】か
ら【0043】までにかけて本件各特許発明の実施例が記載され,原材料,
その処理工程,生産物並びに製造装置の構成及び各工程における動作状況な
どについて,図面を引用しつつ詳細な説明がされている(甲2)。これら記
載は,当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分なものとい
え,これを否定すべき理由はない。
また,前記1及び2で論じたところに照らせば,「溶着」の工程と「切
除」の工程が一部重なり合う場合でも,切除部位の形状を均一に仕上げると
の目的が達せられることは,本件明細書に接した当業者が十分認識でき,そ
のような製造方法及び製造装置を実施することは可能であるから,実施可能
要件違反とすべき具体的理由があるわけでもない。
したがって,実施可能要件違反に係る被告の主張は採用できない。
5争点3-3(進歩性欠如(特許法29条2項))について
(1)乙10発明の内容
ア本件特許の出願(平成14年4月1日)前の平成14年3月26日に公
開された乙10文献には,ロール型ブラシの製造方法につき,以下の記載
がある。
「【0035】次に,リングブラシ11の製造方法を図6に基づいて説明
する。
【0036】図6(a)は治具31を示し,治具31は下部治具32と上部
治具33とから構成されている。下部治具32は円板状で,上面が波状の
波状部34と,この波状部34の外周部に設けられた周壁部35と,波状
部34の中央部に上方へ突出して設けられた円柱部36とから構成されて
いる。そして,円柱部36の外周に周壁部35によって囲まれる円環状の
凹陥部37が形成されている。さらに,円柱部36の外周壁には円柱の中
心を挟んで対称的にV字状溝38が軸方向に亘って設けられている。また,
上部治具33は下部治具32の凹陥部37を塞ぐように円環状に形成され,
その下面は波状部34に対応して波状に形成されている。
【0037】前述のように構成された治具31を用い,同図(b)に示すよ
うに,下部治具32の凹陥部37に一定の長さに切断されたブラシ毛13
aを多数本引き揃えた状態で放射状に配置し,多数本のブラシ毛13aの
基端部13bを円柱部36を囲むように均一に配置する。
【0038】この状態で,同図(c)に示すように,上部治具33を凹陥部
37の開口を塞ぐように嵌合すると,上部治具33によって多数本のブラ
シ毛13aが上方から押さえ付けられ,多数本のブラシ毛13aの基端部
は密接状態となる。
【0039】この状態で,ブラシ毛13aの基端部13bを矢印で示すよ
うに加熱手段,例えば鏝,バーナ等によって加熱すると,ブラシ毛13a
はポリアミド系,ポリエステル系の化学繊維によって形成されているため,
溶融して各ブラシ毛13aの基端部13bが一体に結合するとともに,溶
融した樹脂の一部が円柱部36のV字状溝37の内部に流れ込んで固化す
る。
【0040】そして,溶融部が冷却固化した後,下部治具32から取り出
すと,同図(d)に示すように,ブラシ毛13aがその基端部13bで一体
に結合された内周部12及び内周部12から放射状に突出するブラシ部1
3となり,基端部13bは溶融した樹脂によってリング部12が形成され
るとともに,内周部12の内周面には溶融した樹脂の一部が円柱部36の
V字状溝37に流れ込んで形成された突起部14が形成される。」
イ上記アの記載によれば,乙10文献には,「放射状に配置されたブラシ
毛を溶着によって内周部を一体にするロール型ブラシの製造方法」との発
明(乙10発明)が開示されているものと認められる。
(2)本件特許方法発明
ア本件特許方法発明と乙10発明との対比
本件特許方法発明と乙10発明とを比較すると,乙10発明における
「リングブラシ」「ブラシ毛」は,それぞれ本件特許方法発明における
「ブラシ単体」「素線群」に相当するところ,両者は,「多数枚を重ねて
回転ブラシを形成するブラシ単体の製造方法」(構成要件A),「回転ブ
ラシのブラシ単体の製造方法」(構成要件F)であり,「開かれた素線群
を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する」(構成要件D)工
程を有する点で一致するものの,乙10発明は,「多数の素線を束状に集
合させてなる素線群を台座に設けた挿通孔から外方に一定量突出させる第
1の工程」(構成要件B),「この素線群の突出端の中央にエアを吹き込
んで素線群を放射方向に開く第2の工程」(構成要件C)及び「溶着され
た中央部分の中心部を切除する第4の工程」(構成要件E)をいずれも備
えておらず,これらの点で相違する。
イ上記相違点に係る構成(構成要件B及び同E)は,乙11文献記載の技
術的事項を組み合わせることで容易に想到できるか
(ア)乙11文献
本件特許の出願(平成14年4月1日)前の平成11年3月2日に公
開された乙11文献には,「歯と歯ぐきの境目等の清掃性に優れ,かつ,
歯ぐきの当たり心地にも優れるブラシの製造方法」として,以下の記載
がある。
「【請求項1】複数の刷毛束を導入して各刷毛束の先端間に高低差を
付与した後,各刷毛束の刷毛先端に丸め加工を施した後,ハンドルの
ヘッド部に植設することを特徴とするブラシの製造方法。」
「【発明の属する技術分野】この発明は,ブラシの製造方法,特に,歯
ブラシの製造に適した製造方法であって,詳しくは,刷毛の先端に刷毛
束や刷毛束内の刷毛位置等に応じて異なる形状の丸め加工を施すことが
でき,刷掃性に優れたブラシを製造できるブラシの製造方法に関す
る。」
「【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため,請求項1に記
載の発明にかかるブラシの製造方法は,複数の刷毛束を導入して各刷毛
束の先端間に高低差を付与した後,各刷毛束の刷毛先端に丸め加工を施
した後,ハンドルのヘッド部に植設することを特徴とする。」
「【0011】刷毛束は,所定の長さに切断されたもの,あるいは,巻
回リール等に巻き取り保持されたものであって,上述のナイロン等の熱
可塑性樹脂等からなる多数の刷毛を有する。この刷毛束は,巻回リール
に巻き取り保持されたものを例にとれば,ヘッド部に植設される本数と
同数あるいは倍数(規定数)がそれぞれ巻回リール等に巻き取り保持さ
れて毛束送り装置等で引き出される。毛束送り装置は,通常,規定数の
刷毛束を走行可能かつ挟着可能な一対のチャック部を備え,一方のチ
ャック部により刷毛束を挟着するとともに他方のチャック部により刷毛
束を挿通可能に保持し,一方のチャック部を他方のチャック部に対して
一方向に移動させて刷毛束を送り出し,また,少なくとも1つのチャッ
ク部により刷毛束を挟着して刷毛束を固定保持する。」
「【0015】刷毛束の切断には,周知の切断装置を用い,複数の刷毛
束を一体的(同時に)切断する。そして,刷毛束を切断した後は,前述
の公報等に周知の方法でヘッド部に刷毛束を植設する。例えば,切断さ
れた各刷毛束の切断端を加熱板や熱風,あるいは,赤外線等で結着し,
次いで,前述したようなインモールド等の方法で1組の刷毛束をヘッド
部に植設する。」
「【実施の形態】」
「【0021】この実施の形態は,図1aに示すように,先ず,図外の
巻回リールから複数状の刷毛束1を引き出し,これら刷毛束1を2つの
毛束送り装置10と毛束保持装置20を通し,各刷毛束1の先端を成形
型30に導いて刷毛束1の長さ,すなわち,刷毛束1毎の高低差δ
(図2参照)を付与する。この高低差δは,通常,1㎜程度の値が採
用される。なお,図示しないが,刷毛束1は,熱可塑性樹脂等の多数の
刷毛を有し,巻回リール等に巻回保持されて巻回リールから引き出され
る。
【0022】図示を割愛するが,毛束送り装置10と毛束保持装置20
は,1つあるいは複数の歯ブラシのヘッド部に植設する刷毛束と同数
(例示は4)の送り通路,該送り通路内に突没して送り通路内の刷毛束
1を締着するシャッタ等を有する。これら毛束送り装置10および毛束
保持装置20は,各送り通路にそれぞれ刷毛束1を走行可能に挿通し,
送り通路内の刷毛束1をシャッタにより締着し,少なくとも一方が図示
しないアクチュエータにより刷毛束1の送り方向(矢印)に往復駆動さ
れて刷毛束を成形型30に送り出す。」
「【0026】続いて,図1dに示すようにカッタ60を保持装置20
側の送り装置10に沿わせ移動させて各刷毛束1を切断し,この後に,
図1eに示すように刷毛束1の切断端を加熱板70により加熱溶融させ
て結着し,各刷毛束1についてそれぞれ刷毛を溶融固着する。そして,
これら4本の刷毛束1を前述したインモールド等により歯ブラシのヘッ
ド部Hに植設して歯ブラシTが完成する。」
(イ)構成要件Bに係る相違点の記載
被告は,乙11文献に記載されている「刷毛束1を2つの毛束送り装
置10と毛束保持装置20を通し」が,本件特許方法発明と乙10発明
との相違点である「多数の素線を束状に集合させてなる素線群を台座に
設けた挿通孔から外方に一定量突出させる第1の工程」(構成要件B)
に相当する旨主張する。
しかし,乙11文献の開示するブラシの製造方法は,本件特許方法発
明の「素線群」に相当する「刷毛束1」を,「毛束送り装置10」と
「毛束保持装置20」に設けた孔に通す工程を含んでいるものの,当該
孔が「台座に設けた挿通孔」に相当するとはいえない。すなわち,本件
特許方法発明において「台座」は,「溶着」の工程において,「開かれ
た素線群」が固定される部位であり(構成要件D),構成要件Bはかか
る「台座」に挿通孔が設けられていることを求めている。ところが,乙
11文献で開示されているブラシの製造方法は,円形のブラシではなく,
植毛ブラシに係るものであるため,「刷毛束1」を放射状に広げたり,
押さえつけたりする工程はなく,それら工程での物理的な土台ともいう
べき「台座」に相当する部位の存在が,そもそも想定されていない。こ
の点,乙11文献における「毛束送り装置10」と「毛束保持装置2
0」は,これらに備え付けられたシャッタにより,「刷毛束1」を締着
するものではあるが,これら部位の上で「刷毛束1」が広げられたり,
押さえつけられたりするわけではなく,「台座」と呼び得るものではな
い。
したがって,乙11文献には,本件特許方法発明における「台座に設
けた挿通孔」に相当する記載はなく,「多数の素線を束状に集合させて
なる素線群を台座に設けた挿通孔から外方に一定量突出させる第1の工
程」(構成要件B)が開示されているとはいえない。
(ウ)構成要件Eに係る相違点の記載
また,被告は,乙11文献に記載されている「カッタ60を保持装置
20側の送り装置10に沿わせ移動させて各刷毛束1を切断し」が,本
件特許方法発明と乙10発明との相違点である「溶着された中央部分の
中心部を切除する第4の工程」(構成要件E)に相当する旨主張する。
しかし,乙11文献の開示するブラシの製造方法は,本件特許方法発
明の「素線群」に相当する「刷毛束1」を切除する工程を含んではいる
ものの,「溶着された中央部分の中心部」という部位を切除していると
はいえない。すなわち,本件特許方法発明(構成要件E)は,円形のブ
ラシ単体の製造方法であることを前提に,「素線群」のうち,「溶着さ
れた中央部分の中心部」という特定の部位の切除を求めている。ところ
が,乙11文献で開示されているブラシの製造方法は,円形のブラシで
はなく,植毛ブラシに係るものであるため,「刷毛束1」において「溶
着された中央部分の中心部」に相当する部位は存在せず,そのような部
位を切除するなどという工程は想定されていない。
したがって,乙11文献は,「溶着された中央部分の中心部を切除す
る第4の工程」(構成要件E)を開示するものとはいえない。
(エ)容易想到性
以上のとおり,乙11文献には,本件特許方法発明と乙10発明の相
違点である構成要件Bも構成要件Eも開示されているわけではないので
あるから,乙10発明に乙11文献に記載されている技術的事項を組み
合わせても,本件特許方法発明の構成要件B及び同Eの構成に至るもの
ではない。
また,乙11文献は,ブラシの製造方法に係る発明を開示するもので,
乙10発明及び本件特許方法発明と技術分野としての共通性はあるもの
の,乙10発明及び本件特許方法発明のように円形のブラシの製造方法
に係るものではない。乙11文献の「刷毛束1を2つの毛束送り装置1
0と毛束保持装置20を通し」や「カッタ60を保持装置20側の送り
装置10に沿わせ移動させて各刷毛束1を切断し」との各工程は,植毛
ブラシの製造を前提としており,乙11文献に接した当業者がこれら工
程を円形のブラシの製造方法に適用することを容易に着想するとは考え
にくい。しかも,乙10文献及び乙11文献には,構成要件Bや構成要
件Eの工程を備えることで解決される技術的課題の記載や示唆があるわ
けでもない。そのため,乙10発明に乙11文献記載の技術的事項を組
み合わせるとの動機付けにも欠けるといえる。
したがって,乙10発明に,乙11文献に記載の技術的事項を組み合
わせることで,本件特許方法発明の構成要件B及び同Eに容易に想到で
きるものとはいえない。
ウ構成要件Cは,乙12文献記載の技術的事項を組み合わせることで容易
に想到できるか
(ア)乙12文献
本件特許の出願(平成14年4月1日)前の平成7年11月10日に
公開された乙12文献には,「光コードの前処理装置及び加工方法」と
して,以下の記載がある。
「【請求項1】光コードを把持して所定の加工位置に位置決めするア
クチュエータと,前記アクチュエータで位置決めされる光コードに対設
される第1および第2,第3,第4の各々4対の機械的切断刃を実装す
る一対の開閉機構と,前記開閉機構とは別に位置して一対の熱切断刃を
支持する開閉機構と,前記光コードのケブラを揉みほぐす機構と,前記
光コードのケブラを気体流で放射状に位置決めした後に成形するケブラ
整形機構と,前記第1および第2,第3,第4の機械的切断刃に付着し
た切断材料を除去するブラシからなる光コードの前処理装置。」
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,ビニール被覆(PVC),高張力体の
ケブラ,ナイロン被覆,プライマリコート,光ファイバーより構成され
た光コードの端部に,光コード接続用の光コネクタ部品を装着する光コ
ネクタ組立て作業工程において,光コードのビニール被覆・高張力体の
ケブラ・ナイロン被覆,光ファイバーを,組立状態の光コネクタ形状に
対応する任意の長さに切断加工し,さらにケブラを整形するまでの前処
理工程と呼ぶ作業を自動化する光コードの前処理装置と加工方法に関す
る。」
「【0016】
【作用】上述した解決手段によると,前処理装置への光コードの供給を
自動化し,さらに前処理装置で扱う機能の拡大を図ると共に,従来の各
工程に対応する機構よりも作業の信頼性が高く,機構部の保守性および
切断刃の寿命にも優れたものとすることができる。」
「【0042】ケブラ整形部はケブラ整形部品23と該ケブラ整形部品
23に連結された気体ガイド用チューブ24で構成される。ケブラ19
がケブラ整形部品23に位置決めされると,ケブラ整形部品23から連
結して気体が流出する。
【0043】ケブラ19をもつ光コード2は,ロート状の吹き出し口を
持つケブラ整形部品23のロート状の開口部にアクチュエータで挿入・
退出を繰り返すと,ケブラは図6に示すような放射状に整形される。
【0044】このケブラの放射状の整形工程は,光コネクタ自動組立工
程の後工程で必要とされる整形作業であり,本前処理モジュールで取り
扱う工程とした。以上で述べたように光コード2はアクチュエータとハ
ンド3でビニール被覆剥離,ケブラ切断,ケブラ揉みほぐし,ケブラ整
形,ナイロン被覆剥離,光ファイバー切断の各機構部に位置決め加工後,
光コードを最初の設置位置に戻す。」
「【0046】以上説明した各機構部の内,光コードのアクチュエータ
機構100を除いた実装状態を示すものが図8である。以上のように,
本発明による光コードの前処理装置は,光コードを把持して所定の加工
位置に位置決めするアクチュエータと,該アクチュエータで位置決めさ
れる光コードに対設される第1および第2,第3,第4の各々4対の機
械的切断刃を実装する一対の開閉機構と,該開閉機構とは別に位置して
一対の熱切断刃を支持する開閉機構と,光コードのケブラを揉みほぐす
機構と,ケブラを気体流で放射状に展開した後に整形するケブラ整形機
構と,前記第1および第2,第3,第4の機械的切断刃に付着した切断
材料を除去する機構(ブラシ)からなる構成とした。」
(イ)構成要件Cに係る相違点の記載
乙12文献の「ケブラ」「気体流」は,本件特許方法発明の「素線
群」「エア」にそれぞれ相当するといえ,乙12文献における「ケブラ
を気体流で放射状に展開」(段落【0046】)するとの工程は,本件
特許方法発明と乙10発明の相違点である「この素線群の突出端の中央
にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く第2の工程」(構成要件
C)に一致するといえる。
(ウ)容易想到性
しかし,乙12文献は,光コードの前処理装置及び加工方法に関する
発明を開示するものであり,ブラシの製造方法に関する乙10発明や本
件特許方法発明とは技術分野を異にしていることが明らかである。
また,本件特許方法発明の構成要件Cは,素線同士の重なりを減らし,
ブラシ単体の厚さを均一にするための工程であるが,そのような技術的
課題は乙10文献に開示も示唆もない上,乙12文献における「ケブラ
を気体流で放射状に展開」する工程も,そのような技術的課題を解決す
るためのものとは認められない。
したがって,乙10発明に,乙12文献に記載の技術的事項を組み合
わせ,本件特許方法発明の構成要件Cに想到するための動機付けに欠け
ており,この観点からも,本件特許方法発明は容易に想到できるものと
はいえない。
(3)本件特許装置発明
ア本件特許装置発明と乙10文献との対比
被告は,乙10文献には,本件特許装置発明との対比で,「多数枚を重
ねて回転ブラシを形成するためのブラシ単体の製造装置であって」(構成
要件G),「多数の素線を束状に集合させてなる素線群を通す挿通孔を設
けた台座」(構成要件H),「開かれた素線群を台座に固定する押え体」
(構成要件K),「素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶
着する溶着機」(構成要件L),「を備えている回転ブラシのブラシ単体
の製造装置」(構成要件N)の各構成に一致する製造装置が開示されてい
る旨主張する(他の構成要件が相違することは被告も認めている。)。
しかし,乙10文献には,「下部治具32の凹陥部37に一定の長さに
切断されたブラシ毛13aを多数本引き揃えた状態で放射状に配置」(段
落【0037】)との記載はあるものの,「下部治具32」には,「多数
の素線を束状に集合させてなる素線群を通す挿通孔」に相当する部位はな
く,これをもって「多数の素線を束状に集合させてなる素線群を通す挿通
孔を設けた台座」(構成要件H)に相当する構成が開示されているとはい
えない。
また,乙10文献には,「上部治具33を凹陥部37の開口を塞ぐよう
に嵌合すると,上部治具33によって多数本のブラシ毛13aが上方から
押さえ付けられ,多数本のブラシ毛13aの基端部は密接状態となる。」
(段落【0038】)「この状態で,ブラシ毛13aの基端部13bを矢
印で示すように加熱手段,例えば鏝,バーナ等によって加熱すると,ブラ
シ毛13aはポリアミド系,ポリエステル系の化学繊維によって形成され
ているため,溶融して各ブラシ毛13aの基端部13bが一体に結合す
る」(段落【0039】)との記載があり,ブラシ製造の工程として,
「固定した状態で素線群の中央部分を溶着する」(構成要件L)に相当す
る開示があることは確かである。しかし,本件特許装置発明における「ブ
ラシ単体の製造装置」は,溶着も含め,ブラシ単体の製造に係る複数の工
程を1つの製造装置で行うことを特徴とするにもかかわらず,乙10文献
は,「下部治具32」などと構成上の一体性があるわけではないバーナ等
の道具を利用して「溶着」を行うとしているのであるから,「溶着機」
(構成要件L)に相当する構成を備えた製造装置が開示されているとはい
えない。
したがって,乙10文献は,少なくとも本件特許装置発明の構成要件H,
同I,同J,同L及び同Mの各構成を開示するものではない。
イ容易想到性
そして,乙10文献で開示されているとはいえない構成要件のうち,
「多数の素線を束状に集合させてなる素線群を通す挿通孔を設けた台座」
(構成要件H)及び「溶着機による溶着部分の中心部を切除する切除手
段」(構成要件M)は,乙11文献にも開示されておらず,乙11文献に
記載の技術的事項を適用することで,これら構成に容易に想到すると認め
られないことは,前記(2)イで論じたのと同様の理由による。
また,前記(2)ウで論じたのと同様の理由により,乙12文献に記載の
技術的事項を適用し,「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群
を放射方向に開くノズル」(構成要件J)の構成に想到することも容易と
は認められない。
したがって,その余の相違点について検討するまでもなく,乙10文献
に記載の発明に,乙11文献及び乙12文献に記載の技術的事項を適用す
ることで,本件特許装置発明に容易に想到することができるとはいえない。
(4)小括
以上より,進歩性欠如を理由に本件特許が無効とされるべきものである旨
の被告の主張は採用できない。
6争点4(原告T・Worldの損害)について
(1)本件各特許発明の実施及び損害の発生
ア原告T・Worldによる本件各特許発明の実施
被告は,本件各特許発明の不実施を理由に原告T・Worldの損害発生
は認められない旨主張しており,その前提として,原告製品の製造,販
売が行われていること自体を争っている。
しかし,証拠(甲55,59~63)及び弁論の全趣旨によれば,原
告T・Worldが,平成19年11月9日の本件独占的通常実施権の許諾
を受けて以降,継続的に原告製品の製造,販売をしてきたことが認めら
れる。
さらに,被告は,原告製品の製造には,本件各特許発明が使用されて
いない旨指摘するところ,確かに,原告製品のパッケージには,本件特
許ではなく,発明の名称をロール歯ブラシとする別の特許(甲45)が
表示されている(甲11)。そして,同特許では,素線群を放射方向に
開く手段として,本件各特許発明のようにエアではなく,コーンを使用
する製造方法やそのような方法で製造されたブラシ単体,回転ブラシな
どが発明の内容となっている。
しかし,証拠(甲44,48~51)及び弁論の全趣旨によれば,少
なくとも原告T・Worldが本件独占的通常実施権の実施許諾を受けた平
成19年11月9日以降において,原告製品の製造に使用されている原
告方法及び原告装置は,素線群を放射方向に開く手段として,コーンで
はなく,エアを使用しており,それぞれ本件各特許発明の実施と認めら
れ,この認定を妨げるに足りる証拠はない。
したがって,本件各特許発明は実施されており,不実施を前提とする
被告の主張は採用できない。
イ市場における製品の競合(損害の発生)
原告製品と被告製品は,いずれも一般消費者を需用者として想定した
歯ブラシであり,ブラシ部分が回転自在に取り付けられているか否かの
違いこそあるものの,一般的な歯ブラシと違って円筒形のブラシを備え
るという形状的な特徴のみならず,歯垢駆除,歯茎マッサージによる歯
周病予防といった効能まで共通にしている(甲23,24,甲27の
1~3,甲28)のであるから,両者が歯ブラシの市場で競合する製品
であることは明らかである。
したがって,具体的な構造,使用方法や値段などを理由に,競合自体
を否定し,原告の損害発生は認められないとする被告の主張は採用でき
ない。
(2)特許法102条1項
ア被告製品の譲渡数量
特許法102条1項は,特許権又は専用実施権侵害の場合に,侵害者
がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは,その譲渡数量に,特
許権者又は専用実施権者がその侵害行為がなければ販売することができ
た物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を,特許権者又は専用
実施権者が受けた損害額とすることができる旨規定するが,原告T・
Worldのような独占的通常実施権者が受けた損害額を算定するに当たっ
ても,同規定は類推適用されるものと解される。そして,本件で被告製
品は,物を生産する方法である本件特許方法発明の侵害行為により生じ
た物であるから,「侵害の行為を組成した物」に当たる(特許法100
条2項)一方,原告製品は「侵害行為がなければ販売することができた
物」に当たるから,被告方法によって製造された被告製品の譲渡数量に,
原告製品の単位数量当たりの利益の額を乗じることで,推定損害額を算
定することができる(本件特許装置発明に係る特許権の侵害による損害
の額はこれに包含されるものと解するのが相当である。)。
そこで,まず原告T・Worldが本件独占的通常実施権を得た平成19
年11月9日以降,被告方法によって製造された被告製品の譲渡数量を
検討する(原告T・Worldは,平成23年11月8日までの販売による
損害賠償を請求しているが,被告は,平成23年8月26日,被告装置
の設計変更を終了したことから,被告方法によって製造された被告製品
の譲渡数量については,平成23年8月末日までのものを対象とす
る。)。
(ア)証拠(乙69~82[枝番を含む。])及び弁論の全趣旨によれば,
本件特許権の設定登録がされた同年7月5日から被告装置の設計変更が
終了した平成23年8月26日の属する同月末日までの間,被告方法に
よって製造された被告製品の有償譲渡数量は●●●●●●●●本であり,
返品数●●●●●●●本を差し引き,平成21年4月から9月までの無
償譲渡●●●●●●●本を加えると,●●●●●●●●本であったこと
が認められる。
(イ)一方,証拠(乙70の1~5,75)及び弁論の全趣旨によれば,上
記(ア)のうち,原告T・Worldが本件独占的通常実施権を得た平成19
年11月9日よりも前の有償譲渡数量は●●●●●●●本であり,返品
数●●●●本を差し引くと,●●●●●●●本であったことが認められ
る。
(ウ)上記(ア)及び(イ)より,原告T・Worldが本件独占的通常実施権を得
た平成19年11月9日以降の譲渡数量(●●●●●●●本の無償譲渡
を含む。)は,●●●●●●●●本である。
イ原告製品の単位数量当たり利益
(ア)販売価格
証拠(甲59~63)及び弁論の全趣旨によれば,原告製品1本当た
りの小売価格は1500円であるが,卸売価格は平均して●●●円で
あったと認めるのが相当であり,これを妨げるに足りる証拠はない。
(イ)費用
特許法102条1項の規定する「利益」は,販売価格から変動費を控
除した限界利益を意味すると解されるところ,原告製品1本当たりの変
動費は以下のとおりである。
①材料費●●●●●円(甲37~41)
これに反する被告の主張は,十分な根拠を有するものではなく,
上記認定を妨げるに足りない。
②人件費●●●●円
原告T・Worldには原告装置が●●台備え付けられている(甲4
4)が,原告はこれら●●台の原告装置を稼働させることによって1
日当たり●●●●本の歯ブラシ製造が可能である,人員としては●
人のパート従業員(時給800円)で十分であるとの前提で,上記
金額を算定している。
〔計算式〕●×800×●÷●●●=●●●
本件明細書(甲2)及び弁論の全趣旨から窺われる原告装置の作
業効率などからして,限界利益の算定であることを考慮すると,上
記計算過程に特段不合理な点はなく,上記金額をもって原告製品1
本当たりの人件費(変動費部分)と認めるのが相当である。
一方,原告装置が故障したり,調整が必要となったりした場合へ
の対応に専門的知識や経験を有するものが要されることは被告指摘
のとおりだが,本件特許発明の発明者である原告代表者自身による
対応が可能であるから,別途の変動費が発生するとは認められない。
③動力費●●●円
原告装置●●台を稼働させた場合,月額動力費は●●●●●●円
であり(甲42),これを超える費用が発生すると認めるに足りる
証拠はない。そして,これら●●台を1か月のうち25日間稼働さ
せた場合,●●●●●●●本(●●●●本×25日)の歯ブラシ製
造が可能であることから,原告製品1本当たりの動力費は●●円と
なる。
〔計算式〕●●●÷(●●●×25)=●●●
④パンフレット外注費●●●円(甲43)
⑤出荷専用箱0.94円
単価188円の段ボール(幅450㎜×奥行300㎜×高さ34
6㎜)に200本の梱包が可能であるとして,1本当たりの出荷専
用箱費用を0.9円とする原告T・Worldの算定に特段不合理な点は
なく,弁論の全趣旨によりこれを認める(小数点2桁まで算定)。
〔計算式〕188÷200=0.94
⑥出荷送料3.25円
上記段ボールの発送料を650円とし,1本当たりの出荷送料が
3.25円とする原告T・Worldの算定に特段不合理な点はなく,弁
論の全趣旨によりこれを認める。
〔計算式〕650÷200=3.25
⑦広告宣伝などの営業費用
原告製品につき,これら費用が生じているとは窺われない。
⑧被告の主張について
被告は,金型等初期費用も考慮されるべき旨主張するが,そのよ
うな初期費用は変動費に当たらず,採用できない。
(ウ)小括
以上より,原告製品の単位数量当たりの利益の額は,販売価格●●●
円から変動費の合計●●●●●●円を差し引いた●●●●●円と認め
るのが相当である。
ウ「販売することができないとする事情」(特許法102条1項ただし
書)
特許法102条1項は,損害額の推定に当たり,侵害者による「譲渡
数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売
することができないとする事情があるときは,当該数量に相当する数量
に応じた額を控除する」としているが,この規定は,独占的通常実施権
者の損害額推定においても類推適用されると解される。
そこで検討するに,前記アのとおり,被告は平成19年11月9日以
降の約4年間で,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●の
被告製品を譲渡したものであるが,希望小売価格500円(甲27の
2・3)とし,多数の小売店と取引関係を持った(甲33,34)上,
多大な費用をかけての広告宣伝活動(甲9,甲27の1~3,弁論の全
趣旨)も相まって,かかる数量の販売を遂げたものといえる。
これに対し,原告製品は,原告T・Worldが平成19年11月9日に
設立されて本件独占的通常実施権の許諾を得る前から,原告P1が代表
取締役を務めるTC・Dentalによって製造販売され,同日以降は原告
T・Worldのみが製造販売してきたものであるが,両者を通じた原告製品
の販売数量は,おおよそ以下のとおりであった(甲55)。
平成13年●●●●●●本
平成14年●●●●●●本
平成15年●●●●●●●本
平成16年●●●●●●●本
平成17年●●●●●●本
平成18年●●●●●●本
平成19年●●●●本
平成20年●●●●●●本
平成21年●●●●本
平成22年●●●●本
平成23年●●●●●●本
すなわち,原告製品の販売数量は,平成15年の約●●●本,平成1
6年の約●●●本をピークに,平成17年から平成18年にかけては既
に年間●●本台にまで落ち込み,同年には事業が行き詰まりを見せてい
た(甲56)。しかも,本件独占的通常実施権の許諾があった平成19
年11月9日以降(さらにいえば本件特許権の設定登録がされた同年7
月6日以降),原告製品について,小売店での店頭販売は行われていな
い(甲56,弁論の全趣旨)上,それ以前にTC・Dentalによる広告宣
伝(甲23,53)はあったにせよ,上記時期以降,自社インターネッ
トを除いては,テレビCMや雑誌掲載などの目立った広告宣伝活動が行
われたと認めるに足りる証拠はないのである(原告T・World自身,原
告製品において,広告宣伝費が発生していないことを認めている。)。
また,原告製品と被告製品とは,いずれも円筒形のブラシを備えるとの
点で共通するものの,原告製品ではこれが回転自在に取り付けられてい
る一方,被告製品ではブラシの柄に固定されているなど構造上の差異が
ある(甲23~25,甲27の1~3,甲28,31,32)上,具体
的な販売数量が明らかでないものの,原告製品同様に円筒形のブラシ部
が回転自在に取り付けられている歯ブラシ,被告製品同様に円筒形のブ
ラシ部が柄に固定されている歯ブラシともに類似製品が散見される(乙
56~68)のであるから,被告製品が販売されなかったとしても,そ
のすべての顧客が原告製品を購入するとの関係も認め難い。
加えて,原告製品の小売価格は,TC・Dentalが販売していた当時で3
000円,原告T・Worldにおいても1500円と,歯ブラシとしては
相当に高額なのであるから,この一点をしても,被告製品と同じ数量の
販売ができたかは疑わしい。原告P1自身,「●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●という
計画で」あった(甲56)というのであるから,損害額の主張において,
原告製品1本当たりの利益の算定で高い価格設定を前提としている以上,
販売できたであろう数量が少なく認定されることは甘受すべきともいえ
る。
以上からすれば,原告T・Worldが本件独占的通常実施権を得た平成
19年11月9日以降,被告による本件独占的通常実施権の侵害行為が
なかったとしても,原告製品が,被告製品と同じ●●●●●●●●本も
の数量を販売することができないとする事情があったといわざるを得な
い。そして,これら事情に相当する控除数量は,被告の譲渡数量●●●
●●●●●本の80%に当たる●●●●●●●●本と認めるのが相当で
ある。
したがって,被告の侵害行為がなければ販売できたといえる原告製品
の数量は,●●●●●●本と算定される(なお,この数量は1年にして
約●●●本,1月にして約●●●●●●本であり,原告装置●●台を有
する原告T・Worldのあ実施能力を超えるものでないことは明らかであ
る。)。
エ寄与度
以上によれば,被告の侵害行為によって喪失した原告製品の販売数量
に,原告製品1本当たりの利益を乗じれば,原告が失った利益の総額が
導かれるが,そのすべてが本件独占的通常実施権侵害による損害と認め
られるわけではなく,当該利益のうち,本件特許方法発明が寄与した割
合の限りにおいて,本件独占的通常実施権侵害による損害と解するのが
相当である(本件特許装置発明に係る損害についてもこの評価に包含さ
れるものといえる。)。
そこで,原告製品によって原告が得る利益について,本件特許方法発
明の寄与度を検討するに,原告T・World自身も強調するとおり,原告
製品の最大の特徴は,ブラシ単体を多数枚重ねて形成した回転ブラシを
柄部材に回転自在に取り付けている点にあり,かかる構造の有する歯垢
駆除,歯茎マッサージによる歯周病予防・改善などの効能,さらに一般
の歯ブラシとは一線を画するその形態の有する美感が,一般消費者たる
需用者の需要を喚起するものといえる。しかし,本件で被告が侵害した
のは,そういった,回転ブラシやブラシ単体を熟練技術を必要とせず,
効率よく製造する方法及び装置の発明に係る特許権であって,回転ブラ
シやブラシ単体の機能に直接関するものではない。原告製品自体は,原
告P1が別途特許出願した発明(特願平12-83736号,乙45の
1中の丙17。特許査定を受けたかは証拠上明らかでない。)の実施品
であり,本件特許方法発明は,かかる物の発明を前提として,その製造
方法を進歩させたという位置付けにとどまる。また,原告は,上記のよ
うな原告製品の形態について,意匠登録をしており(甲47),原告製
品のパッケージにも当該登録意匠が明記されている(甲11)。なお,
同パッケージには,発明の名称をロール歯ブラシとする別の特許(甲4
5)が表示される一方,本件特許の表示がないのは前記のとおりである。
このように考えると,本件特許方法発明は,原告製品の主要部たる回
転ブラシを構成するブラシ単体の製造方法につき,従来技術と比べ,
「高度な熟練を要することなく,しかもできるだけ工程数少なく効率良
く製造できる」(甲2)技術という意味で,原告製品による利益に一定
の寄与をしているといえるものの,その寄与度は,原告製品自体,すな
わち,その構造上の特徴や作用効果,さらにはその形態の有する美感の
寄与度に比べると相当に低いといわざるを得ない。
したがって,本件特許方法発明の寄与度を10%と認めるのが相当で
ある。
オ小括
以上より,特許法102条1項によって算定される原告の損害額は,
3617万7203円(1円未満切捨て)である。
〔計算式〕●●●×●●●●×0.1=36,177,203
(3)特許法102条2項
特許法102条2項は,特許権又は専用実施権の侵害があった場合に,侵
害者が侵害行為により受けた利益の額を,特許権者又は専用実施権者が受け
た損害額と推定する旨規定しており,同規定も,原告T・Worldのような独
占的通常実施権者が受けた損害額を算定するに当たり,類推適用されるもの
と解される。
原告が請求の拡張申立書(平成23年12月1日付)で主張した,被告製
品の平均単価400円,利益率15%との前提に立つとすると,前記(2)ア
のとおり,被告は,原告T・Worldが本件独占的通常実施権を得た平成19
年11月9日以降,●●●●●●●●本(=●●●●●●●●本-●●●●
●●●本)の被告製品を有償譲渡したものであるから,その利益額は,●●
●●●●●●●●●円となる。
〔計算式〕400×0.15×●●●●=●●●●●●
しかし,原告製品と同様,被告製品においても,最大の特徴にして,その
利益に最も貢献しているのは,円筒状のブラシを柄に固定して取り付けたと
いう構造上の特徴やその作用効果,さらにはその形態の有する美感(当該形
態に係る意匠登録もされており[乙47],被告製品のパッケージにもその
表示がされている[甲15]。)というべきであり,それに比べると,本件
各特許発明の寄与度は,低くならざるを得ない。
これに加え,前記(1)エ及びオで述べた事情を勘案すると,被告の利益額
をもって原告の損害額とする特許法102条2項の推定は,少なくとも90
%の範囲で覆されるというべきである。
そのため,特許法102条2項に基づいた損害額は,原告が請求の拡張申
立書で主張する被告製品の単価及び利益率を前提にしても,2105万99
82円を上回ることはない。
(4)特許法102条3項
特許法102条3項では,特許権又は専用実施権の侵害があった場合に,
その特許発明の実施料相当額をもって損害額とすることができる旨規定して
いるが,同規定は,原告T・Worldのような独占的通常実施権者が受けた損
害額を算定するに当たっても,類推適用されるものと解される。
そこで検討するに,まず前記のとおり,被告は,原告T・Worldが本件独
占的通常実施権を得た平成19年11月9日以降,●●●●●●●●本(=
●●●●●●●●本-●●●●●●●本)の被告製品を有償譲渡したもので
あり,証拠(甲27の2・3)及び弁論の全趣旨によれば,その販売代金は
平均400円であったことが認められる。
そして,本件各特許発明の技術分野,発明の内容に加え,前記(1)でも述
べたとおり,これら発明が,歯ブラシやブラシ単体をより効率的に製造する
方法あるいはその装置に係る発明であることなど諸般の事情を考慮すると,
これら発明の相当実施料率は2%と認めるのが相当である。
したがって,特許法102条3項に基づくと原告の損害額は,●●●●●
●●●円と算定される。
〔計算式〕400×●●●●●×0.02=●●●●●
(5)小括
原告T・Worldは,特許法102条1項,同条2項及び同条3項の各規
定によって算定される金額のうち,最も高い金額をもって,本件独占的通
常実施権侵害によって自身が被った損害の額と主張するところ,以上のと
おり,特許法102条1項の規定によって算定される3617万7203
円が最も高額であるから,同額をもって原告T・Worldの損害ということが
できる。
(6)遅延損害金
原告T・Worldは,被告製品の譲渡時にかかわらず,訴状送達の日の翌日
である平成21年8月5日を遅延損害金の起算日としているが,被告製品は
その後も譲渡されている一方,返品が存在するため,各月毎の正確な譲渡数
を確定することが困難であることから,平成21年及び平成22年の被告製
品譲渡数量に対応する部分は各年末日を,平成23年の被告製品譲渡数量に
対応する部分は被告装置の設計変更終了日である平成23年8月26日を,
それぞれ起算日とすべきである。
そこで,証拠(乙69~82[枝番を含む。])及び弁論の全趣旨から認
定される各年の被告製品譲渡数量を踏まえ,原告T・Worldの請求できる遅
延損害金は,別紙遅延損害金起算日一覧表の損害額欄記載の各金額に対する
同一覧表の遅延損害金起算日欄記載の各日から支払済みまで年5%の割合に
よる金員と算定される。
7争点5(原告P1の損害)について
前記6(3)のとおり,被告は,本件特許権の設定登録がされた平成19年7
月5日から原告T・Worldが本件独占的通常実施権を得た平成19年11月9
日よりも前までの間,●●●●●●●本の被告製品を有償譲渡し,その販売代
金は平均400円であったことが認められる。
そして,本件各特許発明の相当実施料率は2%であるから(前記6(4)),
特許法102条3項に基づき,原告P1の被った損害額は,●●●●●●●●
円と算定される。
〔計算式〕400×●●●●×0.02=●●●●●
8差止め請求について
なお,被告は,平成23年8月26日,被告装置の設計変更を終了したこと
により,その後,別紙方法目録2記載の方法を使用していないことになるが,
装置を元に戻すことが困難であるとは考えにくいことから,上記方法の使用,
同方法により製造した製品の販売,同製品(同方法を使用して製造した放射状
羽根を具備する半製品を含む。)の廃棄を求める請求には理由がある。
また,同様の理由により,別紙物件目録3記載の製造装置についても,その
製造,譲渡並びに同装置の廃棄を求める請求には理由がある。
第5結論
以上の次第で,原告らの請求は,主文の限度で理由があるからこれらを認容
し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとお
り判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田陽三
裁判官松川充康
裁判官西田昌吾
物件目録1
1商品名たんぽぽの種
カラーピンク,ブルー,オレンジ
JANコード4571196890509(単品),4571196890523(24本セット梱包)
2商品名たんぽぽの種キッズ
カラーピンク,ブルー
3商品名たんぽぽの種PROCARE
カラーピンク,ブルー
4商品名デントレディアス・キッズ
カラーピンク,ブルー
5商品名デントレディアスやわらかめ
カラーブラック,レッド,イエロー
6商品名デントレディアスふつう
カラーブラック,レッド,イエロー
7商品名デントレディアス医療やわらかめ
カラーグリーン,イエロー
8商品名デントレディアス医療ふつう
カラーグリーン,イエロー
物件目録2
被告が被告工場内にて占有する,別紙模式縦断面図に基づき次の構成を有する製
造装置
1●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
2●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●
3●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●
4●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●
5●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●
6●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
7を備えている放射状羽根の製造装置
物件目録3
被告が被告工場内にて占有する製造装置であり,別紙模式縦断面図に基づき次の
構成を有する製造装置。
1●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●
2●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●
3●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●
4●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●
5●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●
6●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
7を備えている放射状羽根の製造装置
方法目録1
別紙模式縦断面図に示すように
1●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●
2●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●
3●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●
4●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
5●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●
6●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
7●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
8●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
9●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●
10●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●放射状羽根が構造される。
方法目録2
別紙模式縦断面図に示すように
1●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●
2●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●
3●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
4●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
5●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●
6●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●
7●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
8●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●
9●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●
10●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
11●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
12●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●
13●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●
14●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●放射状羽根が構造される。
模式縦断面図
遅延損害金起算日一覧表
被告製品譲渡数量損害額(円)遅延損害金起算日
平成19年
平成20年●●●●12,605,269平成21年8月5日
平成21年●●●●11,080,073平成21年12月31日
平成22年●●●●8,362,832平成22年12月31日
平成23年●●●●4,129,029平成23年8月26日
計●●●●36,177,203

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