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平成18年2月13日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成16年(ワ)第345号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成17年12月20日
判決
原      告  日本メドラッド株式会社
訴訟代理人弁護士    加   藤   幸   江
同           小   林   章   博
被     告    シーマン株式会社
被      告    スーガン株式会社
上記被告両名訴訟代理人弁護士
田   中       等
同           名   倉   啓   太
同           藤   本   一   郎
同           川   井   一   将
同           四   宮   章   夫
被      告    吉川化成株式会社
訴訟代理人弁護士    土   田   泰   弘
 主文
1 被告シーマン株式会社は,原告に対し,8152万5638円及びこ
れに対する平成16年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告に生じた費用の18分の17,被告シーマン株式会
社に生じた費用の6分の5,被告スーガン株式会社に生じた費用及び被告吉川化成
株式会社に生じた費用は原告の負担とし,原告及び被告シーマン株式会社に生じた
その余の費用は,同被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告らは,原告に対し,連帯して,5億1474万0581円及びこれに対
する平成16年1月27日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 原告は,米国法人の親会社から医療機器である造影剤自動注入装置(インジ
ェクター)及びその付属品を輸入販売するに当たり,従前,被告シーマン株式会社
(以下「被告シーマン」という。)との間で販売代理店契約を締結し,上記付属品
のうち注射筒(シリンジ)については,被告スーガン株式会社(以下「被告スーガ
ン」といい,被告シーマンと被告スーガンを併せて「被告シーマンら」という。)
を介して被告シーマンに販売していたが,同契約は,期間満了により終了した。
 他方,被告シーマンは,同契約の終了前に,被告吉川化成株式会社(以下
「被告吉川化成」という。)に対し,原告のインジェクター用のシリンジを製造し
て供給するよう依頼し,上記契約の終了後に,同シリンジの製造承認後,被告吉川
化成から被告スーガンを介してその販売を受け,顧客に対して販売した。
 そこで原告は,本件において,①被告シーマンが上記契約の有効期間内に被
告吉川化成に上記シリンジの製造供給を委託したことは上記契約11条2項に違反
し,また同契約終了後1年以内に上記シリンジを販売したことは同契約11条3項
(a)に違反する,②被告スーガンも被告シーマンが上記契約上負う義務と同様の義
務を負うところ,同契約終了後1年以内に上記シリンジを販売したことは同契約1
1条3項(a)に違反する,③被告吉川化成が上記シリンジを製造したことは原告に
対する不法行為を構成するとして,被告シーマン及び同スーガンに対しては債務不
履行に基づき,被告吉川化成に対しては不法行為に基づき,連帯して5億1474
万0581円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年1
月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求めた。
2 前提事実(いずれも当事者間に争いがないか,後掲証拠又は弁論の全趣旨に
より明らかに認められる。)
(1) 当事者
ア 原告は,医療機器の販売,輸入,保守点検及び修理を行うことを目的と
する株式会社であり,アメリカ合衆国ペンシルベニア州ピッツバーグに本拠をお
く,MedradInc.(以下「メドラッド本社」という。)を親会社とする。
イ 被告シーマン及び被告スーガンは,ともに医療機器の販売,据付,修理
を行うことを目的とする株式会社である。また,被告スーガンは,被告シーマンの
関連会社であり,被告スーガンと被告シーマンは,本店所在地及び代表取締役など
の役員の構成を同一としている。
ウ 被告吉川化成は,プラスチック製品の製造販売を目的とする株式会社で
ある。
(2) メドラッド製インジェクターとシリンジ
ア メドラッド本社は,血管に造影剤を注入するシステムを装備する医療機
器である造影剤自動注入装置(インジェクター)と,このインジェクターに装備さ
れ,造影剤を充填したうえ血管への注入を行う注射筒(シリンジ)等の付属品を製
造し,原告はそれを輸入販売している。このシリンジは,1回の使用ごとに廃棄さ
れる(以下,このインジェクターを「メドラッド製インジェクター」,このシリン
ジを「原告シリンジ」という。)。
イ 原告シリンジには,150FT(ないし150FTJ)と150FTQ
の2種類があり,後者にはチューブ(QFT200)が同梱されているという相違
がある。
ウ なお,メドラッド製インジェクターに適合するシリンジには,従前か
ら,原告シリンジのほかに,米国クアー社が製造し,日本では日本ゼオン株式会社
が輸入元として,ゼオンメディカル株式会社が販売元として販売してきたものがあ
る(乙1及び2)。
(3) 原告と被告シーマン間の販売代理店契約
 原告と被告シーマンとは,平成9(1997)年7月1日,メドラッド製
インジェクター及びその付属部品等(その中には原告シリンジが含まれる。以下,
上記インジェクターとその付属部品等を併せて「メドラッド製品」という。)の販
売に関して,次の条項を含む販売代理店契約(以下「本件契約」という。)を締結
した。
第1条(販売権の授与)
1 原告は,本契約に定める条件に従い,被告シーマンを,日本国内にお
ける,メドラッド製品の販売代理店として任命し,被告シーマンはこれを引き受
け,原告から購入するメドラッド製品を販売する。
2 被告シーマンは,日本国内において,メドラッド製品について,独占
的に販売する権利を有する。
第2条(販売権に付随する義務)
3 被告シーマンが販売するメドラッド製品は,全て原告から購入するも
のとする。(以下略)
4 被告シーマンまたはその関連会社は,本契約の有効期間中,本契約書
の日付の時点で現に販売するもの,被告シーマンの現在の仕入先が被告シーマンに
対し現在及び今後販売するもの,及び原告が書面により承諾したものを除き,メド
ラッド製品と直接または間接的に競合しまたはこれと明らかに類似する製品を販
売,流通その他の態様で取り扱ってはならず,または,その役員もしくは従業員に
よるそのような行為を容認してはならない。
第6条(品質保証等)
2 被告シーマンは,原告の書面による事前の承諾がない限り,メドラッ
ド製品に変更を加えて販売してはならない。
第8条(技術指導)
1 原告は,被告シーマンが本契約上の義務の履行をするに必要な技術情
報,マニュアル類を無償で提供する。
2 両当事者が,被告シーマンの本契約上の義務の履行のために必要と判
断する場合には,原告は両当事者の合意する場所において,被告シーマンに対し,
メドラッド製品の技術指導を行うものとする。(以下略)
第10条(商標権の使用)
1 本契約に従ったメドラッド製品の販売に必要な限度において,原告
は,被告シーマンに対し,日本国内において,原告またはその関連会社が有する商
標…の通常実施権を無償で付与する。
第11条(技術開発等)
1 原告またはその関連会社と被告シーマンが行なう既存のメドラッド製
品の変更もしくは改良,または新製品もしくは新技術の共同開発作業については,
別途原告またはその関連会社と被告シーマンの間で定める一般開発契約の条項に従
う。
2 被告シーマンは,原告の書面による事前の承諾がない限り,単独で既
存の製品の変更または改良もしくはこれに類似するメドラッド製品に関する技術開
発活動を行わない。
3 被告シーマンが,原告の承諾を得て今後単独で開発し,かつ共同開発
作業に属さない既存のメドラッド製品または新製品に関する技術の知的所有権は,
以下の条件のもとに,被告シーマンがこれを所有するものとする。
(a) 被告シーマンは,本契約の期間及びその終了後1年間,日本または
その他の国での使用のため,その技術または知的所有権に基づく,メドラッド製品
またはメドラッド製品と競合する製品を,第三者に販売してはならない。
(b) 被告シーマンは,原告に対し,そのような技術または知的所有権
を,その技術に対する特許権の付与の時点から2年間または本契約(延長された場
合を含む)の終了時点のいずれか遅い時点までの間,被告シーマンと原告の相互に
受諾可能な条件にて,買い受けまたはこれを使用する権利を取得するために誠実に
交渉する独占的な権利を付与する。
4 既存のメドラッド製品または新製品に関する共同開発作業から生じた
技術の知的所有権の帰属については,別途原告またはその関連会社と被告シーマン
との間で定める一般開発契約の条項に従う。
5 被告シーマンは,本契約の日付の時点において,メドラッド製品に関
して,被告シーマンが所有する知的所有権または技術が,別紙5に記載する以外存
在しないことを確認する。原告は,メドラッド製品の日本国外での販売のために他
に優先してこのような知的所有権または技術を取得または使用する権利を有する
が,両当事者は信義誠実の原則に基づき合理的な相互に受諾可能な経済的補償に関
する取り決めについて協議決定するものとする。(以下略)
第13条(期限の利益喪失,契約の解除)
2 (略)被告シーマンが,第11条第3項の規定に違反する場合には,
原告は損害を受けたものとみなし,直ちに差し止め請求その他の法的手続きを取る
ことができることを被告シーマンは了解する。
第14条(期間)
 本契約の有効期間は,本契約の日付から満4年間とする。但し,期間
満了の1年前迄に,原告または被告シーマンから書面による終了の意思表示がない
場合,本契約は,自動的に更に1年間継続されるものとし,以後も同様とする。
第15条(契約終了後の処理)
3 原告と被告シーマンは,以下の事項については,本契約終了後も,各
条項に定める期間,なおその効力を有するものであることを,念のため,相互に確
認する。
(a) 第11条第3項の(a)及び(b)並びに同条第5項に定める権利義

(4) 原告,被告シーマン及び被告スーガン間の覚書
 原告,被告シーマン及び被告スーガンは,原告と被告シーマンとの間で締
結した上記本件契約を踏まえて,原告シリンジについて,平成9(1997)年7
月1日付けで,下記内容の覚書を締結した(以下「本件覚書」という。)。
ア 原告シリンジに関しては,原告は,被告シーマン及び被告スーガンの要
請に基づき,本件契約の定めにかかわらず,下記取引経路で売渡すこととする。
  原告 ―(売)→ スーガン ―(売)→ シーマン
イ 有効期間中であっても,本件契約が事由の如何を問わず終了したとき
は,本覚書も同時に自動的に終了する。
(5) 本件契約の終了
 原告は,被告シーマンに対して,平成11(1999)年12月10日,
本件契約を終了させる旨通知し,同書面は被告シーマンに送達された。したがっ
て,本契約は,平成13(2001)年6月30日の契約期間満了により終了し
た。
 これにより原告は,同年7月1日以降,自ら原告シリンジの販売を行っ
た。
(6) 被告シリンジの販売
ア 被告シーマンは,本件契約の終了前から,メドラッド製インジェクター
用のシリンジ(以下「被告シリンジ」という。)について,被告吉川化成に製造供
給を依頼し,本件契約の終了後(具体的な時期については争いがある。)から,被
告スーガンを介して供給を受け,日本国内において販売している。
 被告シリンジには,NSP150とNSP150Dの2種類があり,前
者が原告シリンジの150FTに相当し,後者が150FTQに相当する。
イ 被告吉川化成は,厚生労働省に対し,この被告シリンジの製造承認申請
を平成13年4月26日に行い,同年10月11日に承認を得た。
ウ 被告シリンジは,次の3点で原告シリンジと異なっている。
(ア) 被告シリンジの透明度は,原告シリンジの透明度よりも高い。
(イ) 被告シリンジでは,原告シリンジと異なり,ルアーロックをチュー
ブ等の接続時に緩めても,シリンジからの脱落が少なくとも起こりにくい。
(ウ) シリンジのノズルに装着されるキャップが,被告シリンジでは,原
告シリンジに比べて細く,かつ長くなっている。
3 争点
(1) 被告シーマンによる債務不履行の成否
ア 本件契約11条2項違反
イ 本件契約11条3項(a)違反
(2) 被告スーガンによる債務不履行の成否
(3) 被告吉川化成の不法行為の成否
(4) 損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(被告シーマンの本件契約11条2項違反)について
【原告の主張】
(1) 本契約11条2項違反その1
ア 被告吉川化成はプラスチック製品の製造販売を目的とする会社として昭
和25年2月6日に設立されたものであって,シリンジの製造について技術情報を
有していなかったのであるから,被告シリンジの開発は被告シーマンが行ったもの
であり,その時期は,被告シリンジの製造承認申請前の,本契約の有効期間中であ
る。
イ この点を被告シリンジの製造に至る経過に関する被告らの主張を前提に
具体的に述べると,次のとおりである。
(ア) 被告らの主張は,被告シリンジの製造に至る経過が次のようなもの
であったことで一致している。
a 平成11年夏ころ,被告吉川化成は,被告シーマンより,原告シリ
ンジを見せられ,これと同一品のシリンジの製造の可否及び試算見積りについて尋
ねられた。
b 同年冬ころ,被告吉川化成は,被告シーマンに対し,シリンジの製
造が可能であること及び試算見積りを呈示した。
c 平成12年8月,被告シーマンは,被告吉川化成にシリンジの製造
を依頼し,被告吉川化成は正式にシリンジ製造を受注し,両社にシリンジ製造につ
いての合意が成立した。被告シーマンは,被告吉川化成に対し,平成13年6月末
の契約終了後にシリンジを製造し,継続供給するよう依頼した。
d その後,被告シーマンは,被告吉川化成に対して,シリンジ先端の
ルアーロックがぐらつかないものや,キャップがより長いものをユーザーは求めて
いるとの指摘をした。被告吉川化成は,サンプルであった原告シリンジについて,
かかる指摘に応える変更を加えた。また,被告シリンジは,上記2点に加え,透明
度の点においても既存の原告シリンジと異なる。
 このように,被告シーマンは,プラスチック製品の製造メーカーで
ある被告吉川化成に対し,原告シリンジのサンプルを示して競合品の製造を委託し
た。
(イ) 被告吉川化成は,被告シーマンの依頼を受け,示されたサンプルに
基づき,その有するプラスチック製品製造の技術をもって,労務や設備を提供し
て,依頼内容に応えた製品を,物理的に製造しているにすぎない。被告吉川化成に
対しシリンジの競合品の製造を委託した被告シーマンこそが,シリンジの競合品を
製造した主体,あるいは,競合品製造という技術開発活動を行った主体と評価され
るべきものである。
(ウ) そして,このように被告吉川化成に対し,原告シリンジのサンプル
を示して競合品の製造を委託することは,本件契約11条2項が禁止する「既存の
製品の変更または改良もしくはこれに類似するメドラッド製品に関する技術開発活
動」に当たり,被告シーマンは同項に違反する行為を行った。
(2) 本件契約11条2項違反その2
ア 被告シリンジには,前記のような原告シリンジからの変更点がある。
(ア) これらの変更点のうち,透明度が高いとの点は,インジェクターを
使用する際医療現場において,異物の混入や気泡の確認が容易になることに関する
ものである。また,ルアーロックは,造影剤を充填後,チューブを装着して,これ
を固定するものであり,それが外れないか少なくとも外れにくいようになってい
る。さらに,キャップが細く,かつ長くなっている点は,シリンジのインジェクタ
ーへの装着のし易さに関連するものである。
(イ) 被告らは,このうち,ルアーロックとキャップの変更点について,
被告シーマンが被告吉川化成に対し,シリンジ先端のルアーロックがぐらつかない
ものや,キャップがより長いものが求められているという代理店や消費者の声を伝
えたことを認め,被告吉川化成が,被告シーマンの指摘に応えて,既存のメドラッ
ド社製シリンジに各変更を加えたとしている。
また,透明度の高さの変更点については,この点はインジェクターを
使用する際の異物の混入や気泡の確認などに関連する重要な点であること,被告シ
ーマンらは,パンフレットにおいて,「透明度が高く,気泡の確認が容易です」と
わざわざ謳っていること,プラスチック製品専門の製造メーカーである被告吉川化
成が,依頼主である被告シーマンからサンプルを呈示されているにもかかわらず,
その透明度を違えた製品を製造することは考えにくいことから,やはり被告シーマ
ンが消費者の声を被告吉川化成に指摘し,透明度を高くするよう指示したと考える
のが自然である。
(ウ) このように被告シーマンが,原告シリンジのサンプルを示したう
え,既存のメドラッド製品の技術を基礎としながら,このような変更又は改良を加
えた競合品の製造を,原告との本件契約の有効期間中に,プラスチック製造メーカ
ーである被告吉川化成に依頼,発注することは,本件契約11条2項に定める「メ
ドラッド製品に関する技術開発活動」に当たり,被告シーマンは同項に違反する行
為を行った。
【被告シーマンらの主張】
(1) 被告シーマンが被告吉川化成に対して,被告シリンジの製造供給を依頼し
た経緯は,次のとおりである(原告による被告らの主張の引用は正確でない。)。
ア 被告シーマンは,被告吉川化成に対し,平成11年1月ころから,原告
シリンジのための附属部品であるチューブの製造委託をしていた。被告吉川化成
は,例えば,ニブロ株式会社の製造する人工透析機器の部品を約20年間も継続し
て製造供給する等実績のある医療用樹脂部品のメーカーであった。またこのころ,
被告吉川化成からは,シリンジについても是非製造させて欲しい旨の申し出もあっ
たが,この時は,原告との本件契約期間中であり,かつ,まだ契約が終了するとい
う事態にも至っていなかったため,断っている。
イ その後,同年夏ころ,被告吉川化成より,重ねて営業活動があった。
この時,被告シーマン側の担当者が,熱心な被告吉川化成の営業マンの
話を聞き,その顔を立てるために,そもそも原告シリンジと同じシリンジを作れる
のか,という質問を行った。被告吉川化成の担当者は,被告吉川化成の営業活動と
して,同年冬ころ,製造が可能な旨と,その場合の費用見積りを提出した。なお,
このやりとりの間,被告シーマン及び被告スーガンは,被告吉川化成に対し,シリ
ンジの製造に関し,何らの技術情報の提供を行っていない。
ウ ところが,平成11年12月に原告より,本件契約終了の通告があっ
た。そこで,被告シーマンは,平成12年8月ころ,被告吉川化成より,原告シリ
ンジと同様のシリンジの製造が可能であり,かつ,ある単価をもって被告吉川化成
製造のシリンジを販売することが可能である旨の見積りが伝えられた。かかる提案
に対し,被告シーマンは,その提案を口頭にて承諾した。このように被告シーマン
は,本件契約の終了後に被告吉川化成からメドラッド製インジェクターに使用可能
な被告吉川化成製シリンジを購入することを合意したにすぎず,被告吉川化成にシ
リンジの製造を委託したものではない。
エ この後,被告吉川化成が金型の製造(ただし,この時点における金型
は,完全に原告シリンジと同一形態による金型とされていた)に取りかかり,平成
12年9月下旬ころ,金型が完成した後に,被告吉川化成の吉田弘樹は,素材メー
カーから取り寄せた数種類の既存のポリプロピレン素材を使用して試作品を製作し
た。その結果,シリンジの成型性(粘度のバランスが取れていてうまく細部にわた
り製品が製作できるか),強度(衝撃やインジェクターの操作に耐えられるか)な
どのバランスを考慮して,平成16年9月下旬ころ,既存の素材の中から現在の素
材を選定したものであって,この間,特に被告シーマンからは,顧客の意見を伝え
るということもしておらず,素材の選定過程に被告シーマンは全く関与していな
い。
なお,被告シーマンの社内記録等によれば,被告シーマンが被告吉川化
成から初期試作品であるシリンジを初めて見せられたのは,平成12年10月20
日のことである。
オ 被告吉川化成は,こうして製作した初期の試作品にて,平成12年末こ
ろに,厚生労働省の薬事法上の医療器具製造承認申請に必要な滅菌に関する試験を
開始し,平成13年2月ころには,承認申請に必要な試験実績がほぼ整い,同年4
月ころに厚生労働省への製造承認申請を行えるよう準備を進めた。そして,このこ
ろ,より細部に関する仕様について,補正や修正を行うこととし,被告シーマンの
従業員であるP1は,同年2月13日の被告シーマン・被告吉川化成の従業員の参
加する会議において,顧客や代理店がキャップは長くして欲しいと言っている,と
いう発言を行った。かかる意見を聞いた被告吉川化成のP2は,同年2月27日,
納期を同年3月15日と指定した上で,キャップの長さを当初の約39ミリ(原告
シリンジと同じ)から,約46ミリに延長した金型の修正を被告吉川化成社内で指
示した。
カ また,平成13年3月26日の被告シーマン・被告吉川化成の従業員の
参加する会議において,被告シーマンの従業員であるP3が,ルアーロックが外れ
にくい方がよいとの顧客の声があることを紹介した。この点について,被告吉川化
成のP2は,その会議の場で,ルアーロック部分の具体的な形状変更案を提案し
た。
 その後,被告吉川化成のP2は,同年6月5日に,ルアーロックの形状
を変更した金型の作成指示を,納期を同月14日と指定した上で行った。
キ その後,同年10月11日に厚生労働省から被告シリンジの製造承認が
された後,被告シーマンは,同年11月下旬に,被告吉川化成に対し,被告シリン
ジのフォーキャスト(今後数か月の出荷数量に対する予想見積書)を提出し,これ
を受けて被告吉川化成は,一部サンプル品を同年12月に,通常商品については平
成14年1月に出荷した。
(2) 本件契約11条2項違反の主張について
ア 本件契約11条2項は,「既存の製品の変更または改良もしくはこれに
類似するメドラッド製品に関する」「技術開発活動」を禁止するものであり,「技
術開発活動」とは無関係に,変更・改良の一切を禁じる趣旨ではなく,例えば「技
術開発活動」を伴わない「既存製品の変更」は何ら禁止されていない。これは,同
条項の文言がかかる解釈を排斥しないことのみならず,本件契約の締結の意思決定
を原告の側で行うために原告側で作成された本件契約の英訳文(甲2の2)の該当
箇所の文言からも明らかである。
 また,本件契約2条4項との関係を見ても,同条項は本件契約期間中に
被告シーマンの行うことができない販売・流通行為を規定する競業避止義務の規定
であるが,そこでは,競合品について「販売,流通その他の態様で取り扱ってはな
らない」と規定するのみであって,その余の企画行為・準備行為などは一切禁じら
れていない。
 このように,「技術開発活動」に基づかない企画行為・準備行為につい
ては,2条4項,11条2項に規制されず,原則通り,自由に行い得ると解される
ものである。
イ ところでここにいう「技術開発活動」の意義については,技術とは無関
係な単なる知恵や工夫,単純な形状・形態・素材の変更といったものは含まれず,
メドラッド製品に関する「特許権を取得可能な発明に係る技術」の開発活動に限ら
れると解するのが合理的である。
 なぜなら,①本件契約11条全体の標題として「技術開発等」との標題
が付され,同条各項における「技術」は,「知的所有権」としばしば等位に取り扱
われている(3項(b),5項など),②本件契約11条3項は,「メドラッドの承
諾を得て今後単独で開発する場合」の「技術の知的所有権」の帰属に関する規定で
あるが,この「メドラッドの承諾」とは,同条2項の「メドラッドの書面による事
前の承諾」を意味すると思われ,そうであれば,同条2項と3項は同じ内容の「技
術」について記載されていると読むのが自然である,③本件契約11条3項(b)及び
5項では,被告シーマンが保有する「技術」又は「知的所有権」は,それらが原告
によって取得・使用される場合に,対価が支払われるような水準に達するものであ
ることが想定されていること,④本件契約11条5項が対象とする「知的所有権ま
たは技術」は,本件契約別紙5に記載されているものに限られることが規定されて
いるが,そこに記載されているものは,特許登録申請が実際に行われたもの(別紙
5の1~5番)か,又は,かつて被告シーマンとメドラッド本社との間で守秘義務
契約を締結した上で開発し,メドラッド製品に附属させて販売したオプション製品
(別紙5の6~9番)に限られている,⑤本件契約2条4項からして,被告シーマ
ンは,他社製競合品は契約終了後ただちに取り扱うことができ,11条3項からし
て,自社製競合品であっても「その技術または知的所有権」に基づかない製品であ
れば,契約終了後ただちに販売することが可能なのであるから,他社製競合品の販
売を契約期間中に準備・交渉することも,「その技術または知的所有権」に基づか
ない自社製品の企画行為を契約期間中に行うことも何ら制限する必要がないはずで
あるが,11条2項の「技術開発活動」を同3項の「その技術または知的所有権」
よりも広く解釈してしまうと,他社製品は,契約終了後自由に販売できるのに,自
社製品は,契約期間中は(その「技術開発活動」に該当する限り)準備できない場
合があるという結果となり,不均衡であるからである。
 そしてまた,仮に以上の解釈によらない場合であっても,以上の各点を
考慮すれば,「技術」とは一切関係のない単なる知恵や,形状・素材の選定・変
更,「開発」とはいえない既存の技術の流用やコピー製品の製造は,いずれも「技
術開発活動」に該当しないと解するべきである。
ウ 本件で被告シーマンが行ったのは,「サンプルのシリンジを被告吉川化
成に示し」「シリンジ継続供給の依頼をしたこと」,「被告吉川化成によるシリン
ジの継続供給を承諾したこと」,「顧客の要望2点を被告吉川化成に提供したこ
と」に限られ,いかなる意味においても,これらは,本件契約11条2項にいう
「変更または改良もしくはこれに類似するメドラッド製品に関する『技術開発活
動』」に該当しない。単なる本契約終了後の販売に向けられた,企画・準備行為に
過ぎない。
 原告は,被告シーマンこそが被告シリンジを製造した主体であると主張
する。しかし,本件では,「製造」の全課程が,被告シーマンらとは資本・役員・
取引関係など全く関係がなく独立した企業体である被告吉川化成によって行われて
おり,被告シーマンは,その製造過程には何ら関与していない。また,本契約終了
後のシリンジの継続供給の依頼に伴い,具体的な「技術開発活動」の指導や,特許
権その他の知的財産権の供与をしたこともなく原材料の指定,仕入先の指定等もな
い。そもそもの供給依頼の経緯も,被告吉川化成による営業活動に伴うものであ
る。したがって,原告の上記主張は失当である。
 また,仮に被告吉川化成による被告シリンジの製造行為を被告によるも
のと同視するとしても,被告吉川化成は,本件契約とは無関係に自らが既に保有す
る「プラスチック製品製造の技術」によって,大量生産品・消耗品であり,何らの
特許権に基づかない「大きな注射筒」を製造したに過ぎず,その製造行為は,本件
契約11条2項にいう「技術開発活動」に該当しない。また,原告シリンジと被告
シリンジとの3点の相違点についても,これが仮に被告シリンジの有利な点となる
としても,技術的事柄とは関係のない物体の形状や素材の変更があるにすぎないか
ら,「技術開発活動」とは無関係である。
【被告吉川化成の主張】
 原告の主張は不知ないし争う。
2 争点(1)イ(被告シーマンの本件契約11条3項(a)違反)について
【原告の主張】
(1) 本件契約において,被告シーマンは,メドラッド製品の独占的販売権を付
与され(同1条2項),それのみならず,原告は,被告シーマンに対し,ノウハ
ウ,マニュアルの無償提供(同8条),商標の通常使用権を付与する(同10条)
こととなっている。被告シーマンは,日本国内における販売代理店として,メドラ
ッド本社において,メドラッド製品に関する技術指導まで定期的に受けている(同
8条2項)。被告シーマンは,これらによって,メドラッド製品自体の特質を十分
に知り得るのであって,だからこそ,原告は,企業秘密の保持,ノウハウの保持,
そして,メドラッド社製の医療用機器を購入する原告の顧客を,元販売代理店が,
契約中に知り得た知識,技術を基礎に競合品を製造したり,販売することによって
争奪することを防ぐため,契約終了後1年間という合理的な期間内について,競合
品の販売を禁止したのである。
 ところで,契約期間終了後,被告シーマンは,メドラッド本社からメドラ
ッド製品そのものを購入することはないのであるから,原告にとって,販売を防ぐ
べき対象となる製品は,被告シーマンが,販売代理店契約継続中に知り得た情報や
ノウハウ,技術を基礎にして製造し,販売することとなる同等品,競合品である。
本件契約11条3項(a)に定める「その技術または知的所有権に基づくメドラッド
製品またはメドラッド製品と競合する製品」は,上記の趣旨であり,被告シーマン
が第三者に製造委託し,販売する競合品は,まさに同条項に該当するものである。
実際,規定の文言についても,「知的所有権」に基づくものとして記載されておら
ず,「技術または知的所有権」とされている。
 さらに本件契約15条3(a)の規定は,本件契約終了後も,11条3項
(a)に定める権利義務は,同条項に定める期間,なおその効力を有するものである
としている。これは,被告シーマンは,11条3項(a)により,契約終了後1年
間,競合品の販売を禁止されていることを端的に表しているのである。
 そして,被告シーマンは,本件契約が終了した平成13年7月から3か月
後となる,厚生労働省の製造申請許可が下りた同年10月以後,本件シリンジの販
売を行ったのであるから,本件契約11条3項(a)に違反した。
(2) 仮に本件契約11条3(a)において使用している「技術」という用語が,
既存のメドラッド製品と全く同一の競合品を製造する場合には,これに該当せず,
これに一定の技術的な変更が加えられたことが前提であると解釈するとしても,被
告シーマンは,被告吉川化成に対し,前記のとおり原告シリンジに変更を加えた競
合品の製造を委託した以上,被告シーマンが,既存のメドラッド製品に関する技術
に基づくメドラッド製品との競合品を販売したものと評価されるものであるから,
やはり被告シーマンは本件契約11条3項(a)に違反した。 
【被告シーマンらの主張】
(1) 本件契約11条3項は,被告シーマンが開発した技術の知的所有権の帰属
に関する条項であることは,柱書きからも明らかであり,同条(a),(b)は,その
帰属に関する単なる条件を定めているに過ぎない。したがって,同(a)は,この規
定によって,何らかの被告シーマンの本契約終了後の販売行為を直接禁止しようと
いう趣旨ではない。
(2) また,仮に一定の被告シーマンによる販売行為を11条3項(a)が直接規
制するものであると解釈するとしても,先に争点(1)アで述べたところからして,
同(a)で被告シーマンが制限される「販売」は,被告シーマンが既存のメドラッド製
品または新製品に関し本件契約中に行った,「特許権を取得可能な発明に係る技
術,または特許権」に基づくメドラッド製品・競合品の販売に限られるものと解す
るべきである。
(3) 本件で被告シーマンが販売した被告シリンジは,何らの特許権・特許権を
取得し得る技術に基づかずに製造されたものであるから,仮に11条3項(a)が一
定の販売行為を直接禁止する規定であると解釈するとしても,被告シリンジの販売
は,11条3項(a)に違反するものではない。
【被告吉川化成の主張】
 原告の主張は不知ないし争う。
3 争点(2)(被告スーガンの債務不履行)について
【原告の主張】
(1) 本件覚書は,被告シーマンの要請により締結されたものであって,原告
は,被告シーマンの関連会社として被告スーガンが被告シーマンと同一の条件にて
原告製品を販売することを許諾したものである。したがって,被告スーガンは,原
告と被告シーマンとの間の販売代理店契約の各条項と同内容の権利義務を有するも
のである。
(2) 被告スーガンは,被告シリンジを,遅くとも平成13年10月ころから,
被告吉川化成から仕入れて被告シーマンに対して販売しているのであるから,被告
スーガンは,本件契約11条3項(a)に違反する行為を行った。
【被告シーマンらの主張】
 争う。被告スーガンは,被告シリンジの開発には関与しておらず,本件契約
終了後に,被告吉川化成より被告シリンジを購入して,被告シーマンに対し本件シ
リンジを販売する商社機能を営んでいるだけであるから,本件契約11条3項(a)
に違反していない。
4 争点(3)(被告吉川化成の不法行為)について
【原告の主張】
(1) 被告吉川化成は,被告シリンジについて,被告シーマンから技術情報の提
供を受けて開発したものであるが,被告シーマンから原告シリンジに手を加えたシ
リンジについて製造を委託された際,被告吉川化成は,当該依頼が正当な権利に基
づくものではないことを知っていた。
(2) 仮に知らなかったとしても,被告シーマンがシリンジの製造を被告吉川化
成に委託する前準備として,被告吉川化成の名前で厚生労働省に製造承認申請する
ように仕向けたことからして,当該シリンジの製造が不当なものであることに思い
至るべきであったのであり,知らなかったことに過失がある。
(3) したがって,被告吉川化成が被告シリンジを製造して被告シーマン及び被
告スーガンに販売した行為は,原告に対する不法行為を構成する。
【被告吉川化成の主張】
(1) 原告の主張は否認ないし争う。
(2) 被告吉川化成が被告シーマンにシリンジを供給するようになった経緯は次
のとおりである。
ア 平成10年末に,被告吉川化成はそれまで取引のなかった被告シーマン
を訪れ飛び込みの営業を行った。それが功を奏し,翌平成11年1月,被告吉川化
成は,原告シリンジに適合するチューブの安定供給先を探していた被告シーマンか
ら,同製品の製造を受注することになり,両者の取引が始まった。このころ,被告
吉川化成は被告シーマンに対し,シリンジについても製造したい旨申し出たが,他
社からの供給があるので契約できないと断られている。
イ そして,平成11年夏ころ,被告吉川化成は取引の拡大を欲し,被告シ
ーマンに再度受注を働きかけたところ,被告吉川化成は,被告シーマンからシリン
ジのサンプルを見せられ,サンプルと同様のシリンジの製造の可否及び試算見積り
について尋ねられた。同年冬ころ,被告吉川化成は,自社が保有する技術力,設備
能力に鑑みシリンジの製造が可能であることを被告シーマンに伝え,試算見積りを
提示した。しかし,被告シーマンと原告の本件契約があることから,その後,いっ
たんシリンジ製造の話は途絶え,被告吉川化成は被告シーマンからの回答を待つこ
とになった。
ウ 翌平成12年8月ころ,被告シーマンから改めて受注の可否を尋ねられ
た被告吉川化成は,受注できる旨回答した上,被告シーマンにシリンジ製造の見積
書を提示した。被告シーマンもこの見積りを了承し,これにより被告吉川化成が被
告シーマンの依頼の下にシリンジ製造を行うことの合意が成立し,被告吉川化成は
金型の設計に着手することとなった。
エ 被告吉川化成がシリンジの金型設計に着手した後,被告シーマンから被
告吉川化成に対して,シリンジ先端のルアーロックがぐらつかないものやキャップ
がより長いものをユーザーは求めているとの指摘があった。そこで,被告吉川化成
は,自ら有する知識・技術を駆使して,上記指摘に応える変更を加えた。
 また,被告吉川化成は,より上質のシリンジを作成すべく,メドラッド
社製以外の他社製品の素材等を参考にしてシリンジ本体の素材の選択を行った。こ
れにより結果的に透明度の高い素材が選択された。被告シーマンの了承も得られた
ため,かかる素材を用いて製造が行われることとなった。
オ 被告吉川化成が,被告シーマンから数量を指示した上での具体的な注文
を受けたのは,平成13年8月から同年9月にかけてである。その注文の内容は,
被告吉川化成が厚生労働省による製造承認を取得したら,まずサンプル品1000
個,次に製品1万個を製造するという内容であった。
その後,被告吉川化成は製造承認を取得し,平成13年12月ころ,予定
通り,まずサンプルを1000個出荷し,翌平成14年1月ころ,製品1万個を出
荷した。
(3) 被告吉川化成は,国内における本件シリンジの特許がないことを確認した
うえで本件シリンジを製造している。また,原告と被告シーマン間の事情を調査す
る方法はなく,特許の有無の確認以外に被告吉川化成がなしうる調査は存在しな
い。よって,被告吉川化成には過失がない。
5 争点(4)(損害額)について
【原告の主張】
(1) 原告の得べかりし売上個数について
ア 平成13年7月1日から平成14年6月30日までの分
(ア) 被告シーマンは,本件契約11条3項(a)に基づき,同契約が終了
した平成13年6月30日から1年間,平成14年6月30日までは,メドラッド
製品またはメドラッド製品と競合する製品を第三者に販売することを禁止されてい
た。にもかかわらず,被告シーマンは,前記被告シリンジを同期間内に販売した。
(イ) 被告シリンジは,メドラッド製インジェクターに装備するものであ
るが,メドラッド製インジェクターには,その専用のシリンジが装着され,他社製
インジェクター用のシリンジとの間に互換性は一切ない。
 また,シリンジは1回の使用ごとに廃棄されるものであって,メドラ
ッド製品であるインジェクターが納入された各医療機関において,継続的にシリン
ジの供給を要し,原告の販売数量は一定している性質を有するものである。
(ウ) 平成12年度1年間における,原告シリンジの販売実績は,35万
9531個である。
(エ) 原告は,メドラッド製インジェクター本体の販売を順調に拡大して
おり,これに伴う原告シリンジについての売上げ伸び率は,4・5%である。した
がって,原告は,平成13年度において,平成12年度の販売実績である35万9
531個に上記売上げ伸び率を乗じた,37万5710個(半期においては18万
7855個)の推定売上個数を売り上げたはずであり,平成14年度においては,
39万2618個(半期においては19万6309個)の推定売上個数を売り上げ
たはずである。
(オ) 上記過去の販売実績及び推定売上個数に比し,平成13年7月1日
から平成14年6月30日までの原告による実販売個数は27万3628個であ
り,推定売上個数よりも11万0536個減少している。そして,(イ)で述べた事
実からすれば,この減少個数分は,明らかに被告シーマン又は被告スーガンが契約
違反によって売り上げた,被告シリンジの売上個数であると推定され,原告に同数
量販売相当額の損害が生じたものといえる。
イ 平成14年7月1日から平成15年12月末日までの分
(ア) 被告シーマンは,原告との本件契約11条2項に違反し,同契約期
間中において,メドラッド製インジェクターに装備するシリンジの開発に着手し
た。しかし,通常,医療用器具の開発には,少なくとも1年,その後の厚生労働省
の許可の取得には約半年の期間を要するのであって,被告シーマンは,早くとも被
告シリンジの販売を,本件契約が終了した平成13年6月30日から1年半を経由
した,平成15年12月末以前になし得たことはなかったものである。したがっ
て,原告には,平成14年7月1日以降,平成15年12月末までの間において
も,損害が発生している。
(イ) 原告の推定売上個数は,平成14年度は,上記のとおり39万26
18個(半期においては19万6309個),平成15年度は,上記売上げ伸び率
を乗じ,41万0286個(半期においては20万5143個)である。
 この推定売上個数に比し,平成14年7月1日から平成15年12月
末日までの原告による実販売個数は28万1715個であり,推定売上個数よりも
合計32万4880個減少しているから,原告に同数量販売相当額の損害が生じた
ものといえる。
(2) 原告シリンジの1本当たりの販売利益について
ア 原告シリンジの1本あたりの販売価格は1815円,製造原価は平成1
5年6月末日までは676円,同年7月1日以降12月末日までは507円である
ので,原告シリンジ1本当たりの販売利益額は,平成15年6月末日までは113
9円,同年7月1日以降12月末日までは1308円である。
 仮に原告シリンジのうち150FTと150FTQを格別に考えるとす
ると,①150FTは,定価が2500円,実販売価格が2000円(2割程度の
値引),仕入価格が664円であるから,1本当たりの販売利益は1336円とな
り,②150FTQは,定価が2800円,実販売価格が2240円(2割程度の
値引),仕入価格が688円であるから,1本当たりの販売利益は1552円とな
る。
 なお,本件契約終了後の平成13年7月から同年12月まで原告シリン
ジの全販売実績は,甲第31及び32号証のとおりである。被告シーマンらは,そ
の中で,原告シリンジとチューブの内訳価格が記されていないものについて,原告
がチューブの単価を100円として算定している点を非難するが,そのような扱い
をする場合というのは,顧客から150FTQをセット価格で購入したいが,顧客
から商品としては個別に受け取りたいと希望した場合に,請求書の販売商品として
は150FTとチューブを個別に記載するが,それぞれの販売価格,特にチューブ
の販売単価が1本当たり100円であることを明記したくないという原告の営業政
策によるものである。
イ また仮に経費を考慮するとすれば,次のとおりである。
(ア) メドラッド本社から原告までの輸送コスト
 原告は,メドラッド本社からコンテナによる海上輸送により計画的に
原告シリンジを輸入している。輸入に際してはシリンジだけを単独で輸入するので
はなく,他のメドラッド製品と一緒にコンテナ詰めを行い輸入している。そこで,
シリンジ1本当たりの輸送コストについては,コンテナ1個当たりに占めるシリン
ジの箱の容量をもとに算出した(1コンテナでシリンジ256個を輸入した平成1
7年1月のケース(甲34)で計算)。
1コンテナあたりの体積:59m


シリンジ1箱の体積:0.075m

1コンテナ中のシリンジの容積が占める割合
0.075m

×256個 / 59m

 = 約32.54%
1コンテナの輸送費:250,736円
シリンジ1箱あたりの輸送費:
250,736(円)×32.54% / 256(箱)
= 318.7円
       シリンジ1本あたりの輸送費:
318.7円 / 50(本)= 6.37円   
(イ) 原告から各顧客への輸送コスト
 シリンジ1箱あたりの輸送費は,発送先の地域により次のとおり異な
る。以下ではその平均額で算出した。
 シリンジ1箱あたりの輸送費(甲30)
北海道   1530円,東北    1017円
関東甲信越  910円,中部北陸   810円
関西     447円,中国     810円
四国     910円,九州     910円
沖縄    1368円
以上の平均額968円
968(円) / 50(本)=19.36円
(ウ) その他費用について
 原告は,原告シリンジを計画的に輸入しており(すでに述べたとお
り,シリンジは消耗品であり,各病院における過去の使用実績から使用される本数
が予測される。),原告が在庫として保管する期間はほとんどない。また,原告
は,原告が販売するメドラッド製品すべてを同一の倉庫で保管しているので,仮に
保管すべき原告シリンジの個数が増加したとしても,倉庫保管費用が追加的に発生
することはない。
 また,シリンジの販売先はメドラッド製インジェクター納入先病院に
限られており,シリンジを使用した病院自身が必要に応じて原告に対してシリンジ
の注文を行うという性格のものであり,シリンジ販売のために特別の広告宣伝は行
っていない。
 したがって,以上のほかにシリンジの販売にかかるコストとして考慮
すべきものはない。
(3) まとめ
 上記(1)及び(2)アからすると,原告の損害額は,別紙「損害額計算表」の
とおり,合計5億1474万0581円となる。
【被告シーマンらの主張】
 原告の主張は否認し,争う。
 仮に被告シーマンが被告吉川化成に対し,原告シリンジから3点の相違点を
有する被告シリンジの製造供給を依頼したことが,本件契約11条2項に違反する
とした場合,それによる損害額に関する主張は,次のとおりである。
(1) 被告シリンジが有する3点の相違点は,透明度が若干上がったからといっ
て医療上の効用が増すわけでも,機械の性能が上がるわけでもなく,キャップの長
さやルアーロックの外れにくさも,それだけで大幅な売上増をもたらすだけの機能
的優位性を築くものではないから,それらがシリンジ本体の性能を向上させるもの
ではない。被告シリンジが浸透した真の理由は,従前から20年以上,メドラッド
製品の販売に携わってきた被告シーマンが長年の取引関係により築いた信頼によっ
て商圏を維持したからに他ならない。
 他方,被告シーマンは,原告シリンジと同一のコピー製品を本件契約の終
了後の平成13年7月1日から販売することは何ら妨げられていなかったし,メド
ラッド製のインジェクターに適合するシリンジは,従前から,原告シリンジのほか
に,クアー社製シリンジがあるが,被告シーマンは,クアー社その他別途他社から
輸入したシリンジを,本件契約終了後の平成13年7月1日から販売することは何
ら妨げられてはいなかった。
 そうすると,これら些細な3点の相違点がなくても,あっても,被告シー
マンは,同様の売上げを上げることができた可能性が極めて高く,些細な3点の相
違点との相当因果関係のある原告の損害などない。少なくとも,これら3点の相違
点があったために原告シリンジの売上げが減少したという関係にはない。
 実際のところ,原告も,平成15年4月から,被告シリンジと同じ前記3
点の改良を行ったシリンジの販売を開始しているが,被告シーマンのシリンジの販
売数の推移は平成15年4月以降もほとんど変化のない数字であり,その販売数字
に大きな変化を見出せないか,むしろ漸増している。これは,3点の改良はユーザ
ーの購入の動機付けに全く影響していない事実を示すとともに,本件で被告シーマ
ンが平成14年1月から3点の改良シリンジの販売をしたことと,そのことが原告
のシリンジの販売実績を減じさせたものではない,すなわち因果関係がないといえ
るのである。
(2) また,仮に3点の相違点の存在により,原告の販売機会が逸失するという
損害が存在したとしても,3点の相違点の実現には,何らの技術を要するものでは
なく,極めて容易である。すなわち,透明度の点については,素材の選定自体は何
らの作業を要するものではなく,極めて短期間に行うことができるし,キャップを
長くし,ルアーロックを外れにくくするために必要な作業は,金型を削り直すこと
くらいであり,1か月の期間も要せずして可能である。また,これらの変更によ
り,厚生労働省に対する製造承認申請やそのための試験をやり直す必要はない。
ア そうすると,今般,たまたま3点の作出行為が契約終了前であったが,
これが契約終了後であったとしても,当該行為自体はせいぜい1か月の作業であ
り,かつ,その行為は,設計・試作過程のうち契約終了後に行われても差し支えが
ないのであるから,平成14年1月からの販売は,何ら影響を受けずに出荷できた
ということができる。
イ また被告は急げば,前記3点程度の改良行為と厚生労働省の許可など
は,契約終了後の平成13年7月から着手したとしても,併せて6か月あれば通過
できたのであり,そうであるから平成14年1月からの販売は,もとより可能であ
った期日である。
以上よりすれば,結局,3点の相違点の作出が債務不履行であり,かつ,
3点の相違点によって原告の損害が生じたとしても,その債務不履行と,損害との
間には,やはり相当因果関係は認められない。
(3) 仮に3点の相違点の作出によって原告に損害が生じたとしても,その点に
関する被告シーマンの行為といえるものが発生するのは,キャップの変更や,ルア
ーロックの変更に関する,顧客の声の伝達である。それ以前は,完全に原告シリン
ジと同一のコピー品を製造する意思で試作品を準備していたのである。そうである
とすれば,損害算定の基礎となる期間は,キャップやルアーロック部分の変更に関
する最初の会議であった平成13年2月13日より前の部分は含まれない。
なお,3点の相違点のうち,透明性の点に関する素材の選定は,被告シー
マンはそれに関与していないが,仮にこれが被告シーマン自身の債務不履行である
としても,その行為は,最も早くて平成12年9月21日であって,それ以前の部
分について損害算定期間とすることは,一層妥当とはいえない。
(4) さらに,被告シリンジにおける3点の相違点の作出行為は,継続供給の依
頼から厚生労働省の製造承認までの約14か月のある特定の時期でなければならな
いという種類の性質のものではなく,かつせいぜい1か月程度で完成するものであ
る。そうすると,たまたまかかる作出行為が前であれば,損害算定期間が長くな
り,後であれば,損害算定期間が短くなるというのは,論理的にみて相当といえな
い。
 したがって,損害算定の期間として算入が許される期間は,仮にあるとし
ても,当該債務不履行行為に実質要した期間が限度である。
(5) 仮に3点の相違点の作出によって原告に損害が生じたとしても,損害額の
算定に当たって,被告シーマンによる被告シリンジの売上個数を基礎とするのは不
当である。長年原告シリンジを一手専属に国内販売していた被告シーマンは,その
販売ルート,販社の状況,ユーザー,ユーザーの希望並びにその各ルートでの販売
単価を熟知しており,その長年築き上げてきた知識と営業力を使えば,ほとんど問
題なく実際の販売実績と同数の被告シリンジの販売数を上げ得たと推量されるから
である。
(6) 原告シリンジ1本当たりの利益の額について
ア 原告シリンジの販売価格について
 原告シリンジの販売価格として原告が主張するところは,何ら立証がなさ
れていない。
 原告は,甲第31及び32号証によって,原告シリンジの全販売価格を明
らかにしたというが,それによれば,150FTの平均販売価格は1711円,1
50FTQの平均販売価格は1764円とされている。しかし,被告は,原告持参
の平成13年12月の1か月分だけの請求書を検証したが,原告が,被告シリンジ
とチューブ(定価は600円である)と2つの商品を合わせて売っている場合に
は,その2つの商品の合計金額のみが請求書に表示されており(例えば1500円
と),これが原告の勝手な評価割付計算では,その定価600円のチューブをわず
かに100円としてのみ評価して捉え,シリンジの単価を作出しているのである。
仮に定価からディスカウントするなら,複数商品があるときはやはり按分比例して
各商品から控除しないと不公正,不公平である。
イ 直接経費の控除について
(ア) 原告主張のメドラッド本社から原告までの輸送コストについては,原
告が提出する甲第34号証によっては,1コンテナ当たりの体積や,1コンテナに
シリンジの容積が占める割合などが全く明らかでない。
 また,原告は,輸送価格について,単なる海上運賃のみを控除している
が,それ以外にも通関料,取扱料,配送諸掛料などすべてのものがコンテナ輸送に
必要なのであるから,原告の輸送経費は甲第34号証記載の運賃料合計を分母たる
数字として計算する必要がある。
(イ) 原告から各顧客への輸送コストについては,原告は,原告シリンジ1
箱の重量(約5.6kg~5.7kg)を料金表(甲30)に当てはめると,平均額は
1170円となる。
(ウ) 原告が原告シリンジを販売するには,物流委託費(入荷費,出荷費,
保管費,管理費,在庫の保管費)が必要となるから,シリンジ1本当たり6.59
円(乙22の1)を控除すべきである。
ウ 間接経費の控除について
 原告の損害額を算定するに当たっては,直接経費(包装費,広告費,倉庫
代,運送費など)を控除せねばならないことは当然ではあるが,一般企業が通常負
担している一般管理費・間接経費(不動産賃借料,人件費,各種公租公課,通信
費,リース代,一般営業費など)などを,全く考慮しないのは不当である。よっ
て,原告の損害額の算定に当たっては,販売価格から仕入価格を控除した売上総利
益から,販売費,一般管理費,営業外損益及び特別損益を控除した利益を算定すべ
きである。
【被告吉川化成の主張】
 原告の主張は不知ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)ア(被告シーマンの本件契約11条2項違反)について
(1) 前記前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告シリンジ
が製造供給されるに至る経過について,次の事実が認められる(なお,括弧内はそ
の事実認定の補足説明である。)。
ア 被告吉川化成は,従前から,人工透析機器の部品等の医療用樹脂部品を
製造供給してきたメーカーであったが,被告シーマンは,平成11年1月ころ以
降,被告吉川化成から,原告シリンジのための付属部品であるチューブの製造供給
を受けるようになった。
 このころ,被告吉川化成は,被告シーマンに対し,メドラッド製インジ
ェクター用のシリンジについても製造供給したいと申し出たが,被告シーマンは,
原告との本件契約が存したことから,これを断っていた。
イ 同年夏ころ,被告吉川化成は,取引拡大のため,被告シーマンに対し,
再びシリンジの製造供給を働きかけた。それに対し,被告シーマンの担当者は,被
告吉川化成の担当者に対し,原告シリンジを示し,それと同様のシリンジの製造の
可否について尋ねた。
(被告シーマンらは,このとき担当者が被告吉川化成に対してシリンジの
製造の可否について尋ねたのは,被告吉川化成の熱心な営業担当者の顔を立てるた
めであったと主張する。確かに,この時期は未だ原告と被告シーマンの本件契約の
解消が顕在化していない時期であり,被告シーマンが殊更に原告シリンジの競合品
の製造供給を依頼しようとする動機も見出し難いから,被告シーマンらの上記主張
は,十分にあり得ることである。また,このことからすると,被告シーマンがこの
とき尋ねたのはシリンジの製造の点のみであるとの被告シーマンらの主張も,十分
あり得ることであると考えられる。)
 そこで被告吉川化成は,同年冬ころ,被告シーマンに対し,技術力や設
備能力に照らして原告シリンジと同様のシリンジの製造が可能である旨を伝え,そ
の場合の費用見積りを提示した。
ウ 翌平成12年8月ころ,被告シーマンは,既に平成13年6月末をもっ
て原告との間の本件契約が終了することになっていたことから,被告吉川化成に対
し,改めて原告シリンジと同様のシリンジの製造の可否を尋ねた。そこで被告吉川
化成は,被告シーマンに対し,製造が可能である旨を回答したうえで,見積書を提
出した。これを受けて,被告シーマンは,被告吉川化成に対し,本件契約終了後の
原告シリンジと同様のシリンジの製造供給を依頼し,被告吉川化成はそれを承諾し
た。
(このときの経緯について,被告シーマンらは,このときも被告吉川化成
の側からシリンジの製造が可能な旨を伝えてくるとともに,見積書を提出してきた
と主張する趣旨のように思われる。しかし,①この点について被告吉川化成は,被
告シーマンから受注の可否を尋ねられたと主張していること,②このときには,既
に原告と被告シーマンの本件契約の終了は確定しており,被告シーマンには契約終
了後の対処方を考える動機が十分にあること,③先の平成11年夏冬ころと異な
り,このときは,被告シーマンは被告吉川化成に対してすぐにシリンジの製造供給
を依頼していることからして,このときは,本件契約終了後のシリンジ販売を考え
た被告シーマンの側から,被告吉川化成に対して積極的にシリンジの製造の可否を
尋ねたものと認めるのが相当である。)
エ そこで,被告吉川化成は,原告シリンジと同様のシリンジの金型設計を
行ったうえ,同年9月下旬ころ,素材メーカーから取り寄せた数種類の既存のポリ
プロピレン素材を使用して試作品を製作し,使用するポリプロピレン素材を選定し
た。被告吉川化成は,原告シリンジに使用されたポリプロピレン素材が具体的にど
のようなものであるかを知らなかったが,原告シリンジよりも上質のシリンジを製
造すべく,他社製品の素材を参考にして,使用するポリプロピレン素材を決定し,
最終的に透明度の高い素材が選択された。
 そして,同年10月20日,被告吉川化成は,被告シーマンに対し,試
作品を提示し,被告シーマンはそれを了承した。
(原告は,被告シリンジにおいて透明度の高い素材が選択された点につい
て,被告シーマンが消費者の声を被告吉川化成に伝えたことによるものだと主張す
るが,被告シーマン及び被告吉川化成は,ルアーロックやキャップの点とは異な
り,共にこの点は被告吉川化成が独自の検討の上で選択したものであると主張して
おり,他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。)
オ そこで,被告吉川化成は,同社製シリンジの製造承認申請の準備にとり
かかり,同年12月末ころに,滅菌に関する試験を行った。
カ 翌平成13年2月13日,被告シーマンの従業員は,同被告と被告吉川
化成の従業員の参加する会議において,顧客や代理店がキャップは長くして欲しい
と言っているとの指摘をした。そこで,被告吉川化成では,その旨の金型の修正指
示を行った(乙7)。
キ 同年3月26日,被告シーマンの従業員は,同被告と被告吉川化成の従
業員の参加する会議において,ルアーロックが外れにくいほうがよいとの顧客の声
があることを紹介した。そこで,被告吉川化成では,後の同年6月にその旨の金型
の修正指示を行った(乙8)。
ク 同年4月26日,被告吉川化成は,厚生労働省に対し,被告シリンジの
製造承認申請を行った。
ケ 同年6月30日,原告と被告シーマンとの間の本件契約が期間満了によ
り終了した。
コ 同年10月11日,厚生労働省は,被告シリンジの製造承認をした。
サ そこで被告シーマンは,同年11月下旬,被告吉川化成に対し,被告シ
リンジのフォーキャスト(今後数か月の出荷数量に対する予想見積書)を提出し,
これを受けて被告吉川化成は,一部サンプル品を同年12月に,通常商品について
は翌平成14年1月に出荷し,被告シリンジの販売が開始された。
(2) 以上に基づき検討する。
ア 本件契約11条2項は,「被告シーマンは,原告の書面による事前の承
諾がない限り,単独で既存の製品の変更または改良もしくはこれに類似するメドラ
ッド製品に関する技術開発活動を行わない。」と規定しているが,この英訳文(甲
2の2)を参酌すると,被告シーマンが主張するとおり,「既存の製品の変更また
は改良」は「技術開発活動」の一つとして位置づけられているものと解される。
イ ところで,本件契約11条は,その全体のタイトルが「技術開発等」と
されているが,その1項及び2項と,3項ないし5項とでは,その規定する事柄が
同一ではない。すなわち,1項では原告と被告シーマンとが行う共同開発作業につ
いては別途定める一般開発契約による旨を定め,2項では被告シーマンは原告の事
前の承諾なく単独で技術開発活動を行わない旨を定めており,このように1項及び
2項では,メドラッド製品をめぐる技術開発活動のあり方全体を規定対象としてい
る。これに対し,3項では被告シーマンが単独で開発した技術の知的所有権の所有
関係を定め,4項では共同開発から生じた技術の知的所有権の帰属を定め,5項で
はシーマンが所有する知的所有権又は技術を原告が使用する場合の経済的補償等の
ルールを定めており,このように3項ないし5項では,メドラッド製品に関する技
術ないし知的所有権の所有又は帰属とその使用関係を規定対象としている。
 このような1項及び2項と3項ないし5項の規定する対象の差異に鑑み
ると,3項ないし5項については,「所有」や「帰属」といった,独占の対象とな
るような「技術」ないし「知的所有権」が対象とされているとはいい得るが,1項
及び2項が規定する「共同開発」や「技術開発」を,被告が主張するように3項な
いし5項の「技術」ないし「知的所有権」と同義に解するのは相当でない。また,
被告シーマンはメドラッド製品の独占的販売代理店であり,メドラッド製品に関す
る技術指導を原告から受けたり(本件契約8条),メドラッド製品に対する顧客か
らの要望等に直に接する立場にあり,そのような被告シーマンに対して本件契約の
有効期間中の利益相反行為を禁止することには合理性があるから,独占の対象にな
らないような技術開発であっても,広くこれをこれを禁止することに合理性があ
る。そうすると,2項にいう「技術開発活動」とは,文言どおり,「既存の製品の
変更又は改良もしくはこれに類似する」ものであれば足りると解するのが相当であ
る。
 この点について被告シーマンらは,本件契約上,被告シーマンは,本件
契約2条4項の反対解釈として契約終了前から他社製競合品の販売準備を行うこと
ができることとの間の不均衡を主張する。しかし,被告シーマンの上記のような立
場(原告からの技術指導やメドラッド製品に対する顧客の要望等に直に接する立
場)からすると,被告シーマンが本件契約の有効期間中に原告の承諾なくメドラッ
ド製品の変更や改良を行うことは,同被告のような立場になく,この立場を利用し
た情報も持たない他社が製造している他社製競合品について単なる販売準備を行う
ことに比べて,原告に対する利益相反性がより強いといえる。したがって,被告シ
ーマンが本件契約期間中に既存のメドラッド製品の変更や改良を行うことができな
いとしても,他社製競合品の販売準備をできることとの間に不均衡があるとはいえ
ない。
 他方,原告は,被告シーマンが原告シリンジの競合品の製造準備をする
ことがおよそ11条2項に違反するという趣旨の主張をする。しかし,同条項は,
その文言上,原告シリンジの完全なコピー製品を製造することまでを禁止するもの
でないことは明らかであるから,原告のこの主張は採用できない。
ウ これを本件での被告シリンジについて見ると,前提事実記載のとおり,
被告シリンジは,原告シリンジと比べて,①透明度を高くしている,②ルアーロッ
クをチューブ等の接続時に緩めても,シリンジからの脱落が少なくとも起こりにく
くしている,③シリンジのノズルに装着されるキャップを細く,かつ長くしてい
る,という点において技術上の相違がある。
(ア) このうち①の透明度の向上の点は,原材料として使用するポリプロ
ピレン素材の差によるものであるが,前記認定のとおり,被告吉川化成は,原告シ
リンジよりも上質のシリンジを製造すべく素材の選択を行ったのであり,また,被
告シリンジのパンフレット(甲4)では,被告シリンジのセールスポイントの一つ
として,「透明度が高く,気泡の確認が容易です。」と謳われていることが認めら
れる。そうすると,透明度の向上の点は,単に素材を適当に選択した結果にすぎな
いというものではなく,シリンジの品質の向上のために工夫して選択されたもので
あると認められるから,この点の変更は,11条2項の「既存の製品の変更又は改
良もしくはこれに類似する」「技術開発活動」に当たるというべきである。
(イ) 次に,②のルアーロックが脱落しにくくしている点は,先に認定し
たように,被告シーマンが被告吉川化成に対してその旨の顧客からの声を伝えたこ
とにより変更されるに至った点であり,被告シリンジのパンフレット(甲4)で
は,被告シリンジのセールスポイントの一つとして,「ルアーロックをチューブ等
の接続時にゆるめてもシリンジからの脱落はおこりません。」と謳われていること
が認められる。そうすると,ルアーロックの点は,シリンジの一部形状の変更にと
どまるものではあるが,顧客からの要望に応えて,シリンジの品質を向上させるた
めに工夫してなされたものと認められるから,この点の変更は,11条2項の「既
存の製品の変更又は改良もしくはこれに類似する」「技術開発活動」に当たるとい
うべきである。
(ウ) 次に,③のキャップが細く,かつ長くしている点は,先に認定した
ように,被告シーマンが被告吉川化成に対してその旨の顧客からの声を伝えたこと
により変更されるに至った点であるから,原告が主張するようなインジェクターへ
の装着のし易さなど,シリンジの品質を向上させるために工夫してなされたものと
推認される。したがって,この点の変更も,シリンジの一部形状の変更にとどまる
ものではあるが,11条2項の「既存の製品の変更又は改良もしくはこれに類似す
る」「技術開発活動」に当たるというべきである。
(エ) 以上に対し被告シーマンらは,上記①ないし③のいずれの点につい
ても,何ら特別の「技術」は用いられていないから,11条2項の「技術開発活
動」に当たらないという趣旨の主張をするが,それらの変更点は,いずれも製品の
品質を向上させるための技術的な工夫であるから,たとえそれを実現するための手
法が特殊なものではなかったとしても,なお11条2項の「既存の製品の変更又は
改良もしくはこれに類似する」「技術開発活動」に当たるというに妨げはないとい
うべきである。
 以上によれば,被告シリンジは,11条2項が規定する「既存の製品の
変更又は改良もしくはこれに類似する」「技術開発活動」に係るものであるといえ
る。
エ ところで,被告シーマンらは,被告シリンジを製造したのは被告吉川化
成であり,被告シーマンは,「技術開発活動」の指導や原材料の指定等,何ら製造
過程に関与していないから,被告シーマンが「技術開発活動」を行ったわけではな
いと主張する。
 しかし,本件で被告吉川化成がシリンジを開発し,製造したのは,被告
シーマンがそれを依頼したことによるものである。前記認定事実によれば,確かに
被告吉川化成がシリンジの製造に携わるようになった発端は,同被告が被告シーマ
ンに対してシリンジの製造の発注を働きかけたことにあるが,被告シーマンも当初
はそれを断っていたのであり,被告シーマンがそのような態度に出ている限り,被
告吉川化成もシリンジの開発,製造に取りかかることはなかったのである。また,
先に認定した平成12年8月ころの経緯からすると,被告シーマンは,その当時,
平成13年6月末で本件契約が終了することが確定した状況下で,契約終了後もメ
ドラッド製インジェクター用のシリンジを販売することを考え,その開発,製造
を,かねてから営業活動を展開してきていた被告吉川化成に依頼することとし,こ
れにより初めて被告吉川化成はシリンジの開発,製造に取りかかったのであり,そ
の後の開発経過を見ても,被告吉川化成は,製品内容について被告シーマンの承認
を求め,また被告シーマンから伝えられた顧客の要望(被告シーマン側がこれを伝
えた趣旨が,シリンジの製品内容に係る提案にあることは明らかである
。)に従っている。これらの諸点からすると,被告シリンジの開発,製造作業自体
を現実に行ったのは被告吉川化成であるとしても,それは,被告シーマンからの依
頼に基づき,同被告向けのシリンジを,同被告の意向を確認しながらそれに沿うよ
うに行ったものといえるのであり,これを被告シーマンの側から見れば,被告シー
マンは,自らシリンジを開発する代わりに,被告吉川化成にシリンジを開発,製造
させたものといえる。そして,これを法的に評価すれば,被告シリンジの開発,製
造行為は,被告吉川化成が,被告シーマンの手足として行ったもので,本件契約1
1条2項との関係では,被告シーマン自身を開発,製造行為の主体として把握する
のが相当である。
 被告シーマンらは,あたかも被告シーマンは被告吉川化成が独自に開発
した既製品を購入したにとどまるかのような主張をするが,以上で指摘した諸点に
照らして,採用することができない。
オ 以上よりすれば,被告シーマンは,本件契約の契約期間中に,被告吉川
化成に対し,前記3点で原告シリンジからの変更点を有する被告シリンジの開発,
製造をさせた点で,本件契約11条2項に違反したものというべきである。
 なお,この被告シーマンによる債務不履行行為の時期について検討す
る。 前記認定した被告シリンジの開発経過からすると,平成12年8月に被告シ
ーマンが被告吉川化成にシリンジの開発,製造を依頼した時点では,原告シリンジ
と同様のものを製造するということが依頼されたにとどまり,原告シリンジに変更
を加えることは,その依頼後に順次行われていったものであると認められる。そし
て,前記のとおり被告シーマンが原告シリンジの完全なコピー製品を製造すること
は本件契約11条2項の禁止するところではなく,被告シリンジの開発が同項違反
を構成する趣旨は,前記3点の変更を行った点にある。このことから,被告シーマ
ンらは,被告シーマンによる債務不履行行為の時期は,当初の開発,製造の依頼時
点ではなく,その後の変更承認や変更提案の時点であるとの趣旨の主張をする(争
点(4)に関する被告シーマンらの主張(3))。
 しかし,被告シーマンによる当初の依頼は,原告シリンジと同様のもの
を開発,製造するというにとどまり,原告シリンジの完全なコピー製品を一切の変
更を加えずに製作するという厳密な依頼をしたことは何ら窺えない。また,被告シ
ーマンは,依頼の約2か月後に,被告吉川化成が独自に透明度の高いポリプロピレ
ン素材を選択した試作品を提供した際にも,原告シリンジから変更を加えることに
難色を示したことも何ら窺えず,かえって,ルアーロックやチューブの変更点につ
いては,自ら顧客の要望を紹介してその変更を提案し,しかも透明度とルアーロッ
クの変更点については,被告シリンジのパンフレットにおいて被告シリンジのセー
ルスポイントとして強調することまでしている。このような被告シーマンの態度か
らすると,被告シーマンは,被告吉川化成に対するシリンジの開発,製造依頼の当
初から,原告シリンジから製品内容を変更することを許容し,被告吉川化成がより
良い製品を開発するのであればそれを受け入れるという意向を有していたものと推
認される。これに加え,前記のとおり被告吉川化成による被告シリンジの開発,製
造行為が被告シーマンの手足として行われたものと評価されることを併せ考える
と,被告吉川化成による被告シリンジの開発,製造行為は,その全体が被告シーマ
ンを主体とするものと評価するのが相当であり,被告シーマンによる被告吉川化成
に対するシリンジの開発,製造依頼に始まる全過程が,被告シーマンの債務不履行
行為を構成するものと把握するのが相当である。
2 争点(1)イ(被告シーマンの本件契約11条3項(a)違反)について
 前提事実記載のとおり,本件契約11条3項は,既存のメドラッド製品また
は新製品に関する技術の知的所有権を,被告シーマンが,「原告の承諾を得て」,
単独で開発した場合に関するものであるが,本件における被告シリンジの開発が,
原告の承諾を得てしたものでないことは弁論の全趣旨から明らかであるから,本件
契約11条3項は本件に適用されないというべきである。
 したがって,その余について判断するまでもなく,被告シーマンによる本件
契約11条3項(a)違反は認められない。
3 争点(2)(被告スーガンの債務不履行)について
 原告が主張する被告スーガンの責任原因は,同被告が本件契約11条3項
(a)と同じ義務を負い,それに違反したという点にあるところ,先に争点(1)イにつ
いて述べたように,本件契約11条3項は本件に適用されないから,その余につい
て判断するまでもなく,被告スーガンの債務不履行の主張は理由がない。
4 争点(3)(被告吉川化成の不法行為)について
 先に争点(1)アで認定したところによれば,被告吉川化成が行った行為は,被
告シーマンからシリンジの開発,製造を依頼され,これに応じて被告シリンジの具
体的な開発,製造作業を行った上で,被告スーガンを介して被告シーマンに販売し
たが,この被告シリンジの開発は被告シーマンが原告に対して負う本件契約11条
2項に違反するものであったということであると認められる。そして,被告シリン
ジの開発が,原告の有する何らかの知的財産権を侵害するといった事情は何ら認め
られないから,それが何らかの違法性を有するとすれば,それが被告シーマンによ
る債務不履行行為と評価されるという点に尽きる。そうすると,被告シリンジの開
発,製造に携わった被告吉川化成の行為について何らかの違法性が問題になるとす
れば,それは,被告シーマンによる債務不履行行為に加功したという点にのみある
といえ,被告吉川化成の不法行為として原告が主張するところは,結局,被告吉川
化成が被告シーマンによる債務不履行行為に加功したことが,原告が被告シーマン
に対して有する債権侵害としての不法行為を構成するとの趣旨に帰することにな
る。
 しかし,被告シーマンが原告に対して負う本件契約11条2項の義務は,両
者間の契約上存するにすぎず,通常は,第三者たる被告吉川化成からその義務の存
在を認識することができないうえ,認識したとしても,そのような契約や義務には
拘束されない。そして,被告吉川化成が被告シーマンからプラスチック製品の開
発,製造の依頼を受けて,それを受注し,製造供給するという行為過程は,通常の
営業活動と何ら変わるところがないから,たまたま発注元である被告シーマンが契
約上特別の義務を負っていたというだけで,製品開発,製造供給を受注したにすぎ
ない被告吉川化成も法的責任を問われるというのでは,同被告の営業活動の自由を
余りに制約し過ぎることになる。
 したがって,本件の被告吉川化成のような第三者に対して,この種の債権侵
害について不法行為責任を問えるのは,同被告が,発注元である被告シーマンが原
告に対して契約上特別な義務を負うことを知っており,自己の行為が被告シーマン
による債務不履行行為に加功することになることを認識しながらあえて同被告を教
唆もしくは同被告と通謀して加功行為を行う場合に限られると解するのが相当であ
る。
 そうすると,本件では,被告吉川化成がこのような教唆もしくは通謀をした
ことはおろか,債務不履行に加功することになるとの認識を有していたと窺わせる
事情すら何ら存しないから,被告吉川化成に不法行為が成立すると認めることはで
きない。
5 争点(4)(損害額)について
(1)ア 前記のとおり,被告シーマンは本件契約11条2項に違反する行為をし
たものであるが,同項は,本件契約の有効期間中の「既存の製品の変更又は改良も
しくはこれに類似する」「技術開発活動」を禁止するものであり,本件契約終了後
の同行為は何ら禁止されるものではない。そうすると,被告シーマンの本件契約1
1条2項違反の行為と相当因果関係を有する損害とは,「技術開発活動」を本件契
約の有効期間中(つまりその終了前)に行ったことによる損害ということになる。
そして,被告シーマンが上記違反行為を本件契約の終了後に行った場合であって
も,被告シリンジの開発,製造を了すれば,被告シリンジは自由に市場で販売され
てしまうのであり,それ以後の原告シリンジの売上げが影響を受けることは避けら
れないのであるから,被告シーマンが本件契約の終了前に上記違反行為を行ったこ
とと相当因果関係を有する損害とは,結局,本件契約の終了後に同じ行為を行った
場合と比べて,被告シリンジが市場に投入される時期が繰り上がり,その繰上期間
中の原告シリンジの売上げが減少し,原告の利益が逸失したというものであるとい
うことができる。
 ところで,本件での被告シリンジの開発,製造の経過を見ると,先に争
点(1)アで認定したとおり,平成12年8月に被告シーマンが被告吉川化成に製造を
依頼してから,平成13年10月11日に製造承認がされるまでに約14か月を要
しており,実際に被告シリンジの販売が開始された平成14年1月までだと約17
か月を要していると認められる。これらの点に鑑みると,被告シーマンが被告シリ
ンジの開発,製造を被告吉川化成に行わせて市場に投入するのには,短くとも14
か月を要するものと認めるのが相当である。そうすると,本件契約は平成13年6
月末に終了したから,それ以後に被告シリンジの開発,製造に着手した場合には,
被告シリンジの市場への投入は早くとも14か月を経過した平成14年9月である
と認められる。したがって,被告シーマンは,本件契約の終了前に被告吉川化成に
被告シリンジの製造,開発を行わせたことにより,実際の販売開始時期である平成
14年1月から同年8月までの8か月だけ,早期に販売を開始することができたと
いうことができ,この間に被告シリンジの販売のために原告シリンジの売上げが減
少し,それにより原告が逸失した利益の額をもって原告が被った損害額ということ
になる。
イ この点について原告は,被告シリンジの販売が平成13年10月から開
始されたことを前提に,平成15年12月末までの逸失利益を損害として主張す
る。
 しかし,被告シリンジが平成14年1月より前に販売されたことを認め
るに足りる証拠はない。また,原告は被告シリンジの開発に1年半を要するはずで
あると主張するが,被告シリンジの実際の開発期間は,製造承認までが約14か月
で,実際の販売までが約17か月なのであるから,原告の主張を採用することはで
きず,控えめに見ても14か月間を要するという限度でのみ認定し得るにとどまる
というべきである。
 したがって,損害算定期間に関する原告の主張は,先にアで述べた以上
には採用することはできない。
ウ 他方,被告シーマンらは,損害算定期間について種々の主張をするので
検討する。
(ア) まず被告シーマンらは,被告シーマンの債務不履行の要点である前
記3点の変更は,技術的には些細な変更にすぎず,1か月程度もあれば行うことが
できるものであるし,その変更のために改めて製造承認申請やそのための滅菌試験
をやり直す必要もないものであるから,先に原告シリンジの完全なコピー製品を製
作して製造承認申請を行い,その傍らで本件契約の終了後に前記3点の変更を行っ
ていたとしても,やはり平成14年1月に被告シリンジを販売することができたか
ら,被告シーマンが本件契約の終了前に前記3点の変更をしたために被告シリンジ
をより早く発売できたという関係はないとの趣旨の主張をする(争点(4)に関する被
告シーマンらの主張(2)ア)。
 この主張は,因果関係の有無を判断するに当たり,単に原因行為を取
り除いて,その場合の結果状態を想定するのではなく,それに新たな仮定的事情を
付加した上で,その場合の結果状態を想定するものであるから,このような主張が
認められるためには,少なくとも,その主張に係る新たな仮定的事情が存在したで
あろうことが,高度の蓋然性をもって証明される必要があると解するべきである。
 本件では,シリンジの製造承認申請に必要な滅菌試験を行うために
は,製品のサンプルを製造する必要があり,そのためには原材料に使用するポリプ
ロピレン素材を選定する必要があるが,弁論の全趣旨によれば,被告吉川化成も被
告シーマンも,原告シリンジの製造に使用されるポリプロピレン素材がいかなる種
類のものであったのかを知らなかったと認められる。そうすると,被告吉川化成が
原告製品の完全なコピーサンプルを製造しようとした場合には,種々のポリプロピ
レン素材を試した上で,原告シリンジに使用されているのと同じポリプロピレン素
材を同定することが必要となったはずであり,この作業には種々の試行錯誤を必要
としたはずであると考えられる。そして,例えば,単に原告シリンジと同一の形状
のシリンジを製作するというような場合であれば,形状の同一性の有無は外観上明
らかなことであるから,形状と寸法を正確に測定し,それを基に金型を設計し,製
作すれば,同一の形状の製品を製作し得るであろうと容易に推察されるが,ポリプ
ロピレン素材のような化学原材料を同定するという場合には,相当の試行錯誤を要
すると考えられ,しかもそうした結果としても,実際になされた製造承認の時期ま
でに原告シリンジに使用されているポリプロピレン材料を同定し切ることができた
という保証があるとは直ちにはいえない。
 そうすると,被告シーマンないし被告吉川化成が,原告シリンジの完
全なコピー製品を製作して,実際と同じ時期に製造承認申請を行ったであろうとい
うことについて,これを認めるに足りないことに帰するから,被告シーマンらの上
記主張は採用できない。
(イ) また被告シーマンらは,前記3点の変更や製造承認は,本件契約の
終了後に急いで行えば,平成14年1月までに行うことができたと主張する(争
点(4)に関する被告シーマンらの主張(2)イ)
 しかし,被告シーマンは,被告吉川化成にシリンジの開発,製造を依
頼した平成12年8月の時点で,既に平成13年6月に本件契約が終了することを
認識していたのであり,本件契約の終了から被告シリンジの発売までの空白時間が
長くなるほど営業上不利になることは自明のことであるから,被告シーマンとして
は,極力その空白時間が短くなるよう努めたはずである。しかし,実際に被告シリ
ンジが発売されたのは,本件契約が終了した6か月以上経過した後であったのであ
るから,被告シリンジの開発,製造を6か月程度で行うことができたとの被告シー
マンらの上記主張は採用できず,前記のとおり控えめに見ても14か月を要したも
のと認めるのが相当である。
(ウ) また被告シーマンらは,被告シーマンの行為が本件契約11条2項
違反とされるのは,前記3点の変更を行った点にあるのだから,それらの変更をし
た時点以後の期間のみを,さらにはそれらの変更に要する期間のみを,契約に違反
した開発行為を行うのに要した期間として捉えるべきであるとの趣旨の主張をする
(争点(4)に関する被告シーマンらの主張(3)(4))。
 しかし,被告シーマンによる被告吉川化成に対するシリンジの開発,
製造依頼に始まる全過程を,被告シーマンの債務不履行行為を構成するものと把握
するのが相当であることは先に述べたとおりである。
(2)ア そこで次に,平成14年1月から同年8月までの8か月間に,被告シリ
ンジが販売されたことによって,原告シリンジの売上げがどの程度減少したかを検
討する。
 本件で原告シリンジ及び被告シリンジは,共にメドラッド製インジェク
ター用のシリンジであり,前提事実記載のとおり,同インジェクターに適合するシ
リンジとしては,他にクアー社製シリンジが存するのみである。また,同じく前提
事実記載のとおり,これらシリンジは,1回の使用ごとに廃棄する使い捨ての消耗
品である。これらの点からすると,これらのシリンジを購入する顧客は,メドラッ
ド製インジェクターを治療上使用する医療機関であり,それら医療機関は,その行
う治療回数に応じてシリンジを購入するものと考えられる。
 そうすると,これら顧客たる医療機関は,仮に被告シリンジが存在しな
い場合には,原告シリンジかクアー社製シリンジを購入する以外にないから,上記
8か月間についても,被告シリンジが販売されていなければ,被告シリンジを購入
した医療機関は,原告シリンジかクアー社製シリンジを購入したはずである。そし
てその場合に,被告シリンジを購入した顧客のうちの,どれだけが原告シリンジを
購入したはずであるかを厳密に認定し得る証拠は存しないが,①原告シリンジは,
インジェクターのメーカー自身である原告が製造販売している純正品であること,
②本件当時のクアー社製シリンジの市場シェアは,原告の主張では約2%(原告準
備書面1の3頁),被告シーマンらの主張では少なくとも10%弱(被告シーマン
ら準備書面(1))とされていること,③前記8か月間に被告シリンジを購入した顧客
の主体は,従前から被告シーマンと営業的つながりがあり,従前から原告シリンジ
を購入していた医療機関であると考えられるが,このような医療機関が,従前何の
営業上のつながりもないゼオンメディカル株式会社から,従前全く使用していない
クアー社製シリンジを購入して使用する可能性は高くないと考えられることからす
ると,前記8か月間に医療機関が被告シリンジを購入したうちの,少なくとも90
%は,被告シリンジが販売されていなければ原告シリンジを購入したものと推認す
るのが相当である。
そして,弁論の全趣旨によれば,前記8か月間の被告シリンジの販売個
数は次のとおり,NSP150Dが合計5万個,NSP150が合計3万9950
個と認められるから,この期間中,被告シリンジが販売されていなければ,原告
は,少なくともそれらの90%に当たる150FTQを4万5000本,150F
Tを3万5955本販売することができたものと推認される。
          NSP150D   NSP150
  平成14年1月  1450個     1300個  (小計27
50個)
  平成14年2月  4100個     2250個  (小計63
50個)
  平成14年3月  4300個     4750個  (小計90
50個)
  平成14年4月  7850個     5000個(小計1万28
50個)
  平成14年5月  6800個     6300個(小計1万31
00個)
  平成14年6月  8000個     5350個(小計1万33
50個)
  平成14年7月  9350個     8050個(小計1万74
00個)
  平成14年8月  8150個     6950個(小計1万51
00個)
  合計     50,000個   39,950個(総計8万99
50個)
イ この点について原告は,原告シリンジの売上量が毎年4.5%ずつ増大す
ることを前提にして,原告が販売できたはずの原告シリンジの本数を主張するが,
そのような事情を認めるに足りる証拠はないから,原告主張の損害額の算定方式は
採用することができない。
ウ 他方,被告シーマンらは,その従前からの営業力に鑑みると,仮に被告シ
ーマンが前記3点の変更点のある被告シリンジを販売しなかったとしても,本件契
約に抵触しない原告製品の完全なコピー製品やクアー社製シリンジを販売していれ
ば,上記と同様の売上げを上げることができたから,被告シーマンが前記3点の変
更をした被告シリンジを販売したために原告シリンジの売上げが減少したという関
係にはないと主張する(争点(4)に関する被告シーマンらの主張(1))。
 しかしこの主張も,因果関係の有無を判断するに当たり,単に原因行為を
取り除いて,その場合の結果状態を想定するのではなく,それに新たな仮定的事情
を付加した上で,その場合の結果状態を想定するものであるから,このような主張
が認められるためには,少なくとも,その主張に係る新たな仮定的事情が存在した
であろうことが,高度の蓋然性をもって証明される必要があることは先に述べたの
と同様であるところ,まず被告シーマンが原告シリンジの完全なコピー製品を前記
8か月の時期に販売することができたことについては,前記のとおり,これを認め
るに足りない。
 また,クアー社製シリンジを販売することについても,前提事実記載のと
おり,クアー社製シリンジは,日本ゼオン株式会社が輸入元となり,ゼオンメディ
カル株式会社が販売元となって独占的に販売しているものであることから,果たし
て前記8か月の時期に,それまで原告シリンジの独占的販売代理店であった被告シ
ーマンが,上記のような本数のクアー社製シリンジを,本件契約11条のような特
段の取引条件の拘束なく販売できたのかについては疑問があり,やはりそれを認め
るに足りないといわざるを得ない。
 したがって,被告シーマンらの上記主張は採用できない。
(3) 次に原告が原告シリンジを販売していれば得られたであろうシリンジ1本
当たりの利益の額を検討する。
ア 原告シリンジの1本当たりの売上額について
(ア) 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a 原告は当初,本件契約が終了し,原告自身が原告シリンジの販売を
開始した平成13年7月から,被告シリンジが販売される直前の同年12月までの
間の原告シリンジの販売価格実績について,その全部を開示せず,甲第11ないし
22号証(枝番を含む)に記載されたもののみを開示した。
b これに対し被告シーマンらは異議を唱えて,上記期間中の全販売実
績を開示するよう求め,平成17年5月31日付けで,その旨の文書提出命令を申
し立てるに至った。
c これに対し原告は,必要性がないとの意見を述べたが,当裁判所か
らの提案もあり,平成17年7月29日の第15回弁論準備手続期日において,原
告は上記期間中の全販売実績として甲第31及び32号証を提出し,同期日での協
議の結果,その裏付けとなる請求書類のうちの平成13年12月分について,期日
外で被告代理人が確認・検証する作業を行うこととなり,同作業は平成17年9月
27日に実施された。
d その結果,被告シーマンらは,150FTについて,別紙Aで○及
び●を付した請求書については,同時に販売された150FTとチューブ(QFT
200)の内訳価格が不明であるのに,原告はチューブの単価を100円として算
定した上で,150FTの単価を算出していると指摘したが,それ以外は意見がな
いと主張した(なお,別紙Aのうち,○を付したものについては,甲第38ないし
43号証によれば,各請求書において150FTとチューブの内訳価格が記載され
ていると認められるから,結局,内訳価格が記載されていないものは●を付した取
引のみであると認められる(以下,このように請求書上,内訳価格が明記されてい
ない取引を「内訳不明取引」という。)。)。
(イ) 以上の経過を勘案すると,甲第31及び32号証は,内訳不明取引
を除き,平成13年7月から同年12月までの間の原告シリンジの販売実績を開示
したものとして,信用することができるというべきである。
 ところで,内訳不明取引につき原告は,150FTとチューブの内訳
価格を記載していないのは,それらの取引においては,顧客からは,150FTに
チューブを同梱した150FTQのセット価格での注文がなされたが,商品として
は150FTとチューブを同梱ではなく個別で受け取りたいという希望があったた
め,請求書上はそれぞれを各別に記載したものだと主張し,甲第36号証にもこれ
に沿う記載がある。
 そこで検討するに,この点については,①原告が別紙Aの内訳不明取
引のうち最初の5取引について提出した請求書(甲37の各号)では,150FT
とチューブの取引数がいずれも同数とされていること,②被告シーマンらが期日外
で確認・検証した請求書のうち,このように内訳価格が記載されていないものは,
150FTの分にしかなく,150FTQの請求書については何らそのような指摘
がなされていないことからして,これを信用することができるというべきである
が,上記のような事情からすると,それらの取引は,150FTの販売価格の資料
として用いるのは合理的ではなく,150FTQの販売価格の資料として用いるこ
ととするのが合理的である。
(ウ) そこで,原告シリンジの1本当たり販売価格を具体的に算定する。
a 150FTについて
 甲第31号証のうち,被告が確認・検証した平成13年12月の販
売実績について,内訳不明取引を含めた全体の平均販売価格を算出すると,別紙A
のとおり,1本当たり1705円となる。他方,それらから内訳不明取引を除外し
たものの平均販売価格を算出すると,別紙Bのとおり,1本当たり1746円とな
る(このように平均販売価格が上昇するのは,内訳不明取引の平均販売価格が,別
紙Cのとおり1本当たり1369円と低額になっていることによるものであ
る。)。このように,平成13年12月分については,上記(イ)の方針に従って1
50FTの平均販売価格を算出すると,内訳不明取引を除外しない場合に比べて,
平均販売価格は2.4%上昇することになる(1746÷1705=1.02404)。
 そうすると,平成13年12月以外の期間についての内訳不明取引
の詳細は明らかではないが,他にそれを認定するための適切な証拠も存しない本件
においては,他の期間の内訳不明取引の状況も平成13年12月と同様であると想
定した上で,平成13年7月から12月までの150FTの平均販売価格は,甲第
31号証による内訳不明取引を含めたすべての取引の平均販売価格である1711
円に,1.024を乗じた1752.06円とするのが合理的である。
b 150FTQについて
 甲第32号証のうち,被告が確認・検証した平成13年12月の販
売実績について,平均販売価格を算出すると,別紙Dのとおり,1本当たり174
6円となる。他方,前記(イ)の方針に従い,それらに上記内訳不明取引を加えたも
のの平均販売価格を算出すると,別紙Eのとおり,1本当たり1683円となる
(ただし,上記内訳不明取引を加えるに当たっては,甲第31号証記載の各内訳不
明取引の単価に原告が控除したチューブ代100円を加算する修正を施した。)。
このように,平成13年12月分については,上記(イ)の方針に従って150FT
Qの平均販売価格を算出すると,内訳不明取引を加算しない場合に比べて,平均販
売価格は3.61%下落することになる(1683÷1746=0.96391)。
 そうすると,先に150FTについて述べたのと同様に,他の期間
の内訳不明取引の状況も平成13年12月と同様であると想定した上で,平成13
年7月から12月までの150FTQの平均販売価格は,甲第32号証による内訳
不明取引を含めないすべての取引の平均販売価格である1764円に,0.963
9を乗じた1700.32円とするのが合理的である。
イ 控除すべき経費の額について
(ア) 本件での原告の逸失利益の額は,得べかりし売上額から,その輸入
販売に必要となった費用を控除することによって算定されるものであるが,ここで
算定目標とするのは原告が前記数量を輸入販売していた場合に追加的に得られるで
あろう利益の額であるから,得べかりし売上額から控除すべき費用についても,原
告が前記数量を追加的に輸入販売した場合に追加的に必要となったと認められる費
用のみを控除すべきものと解するのが相当である。
(イ) 直接経費について
a 仕入費用について
 証拠(甲8及び9)によれば,150FTの仕入費用は1本当たり
664円,150FTQの仕入費用は1本当たり688円であると認められる。
b 輸入経費について
 証拠(甲34)及び弁論の全趣旨によれば,メドラッド本社から原
告シリンジを含むメドラッド製品を輸入するに際して必要となった輸入費用は,平
成16年12月25日到着分に係る輸入の場合には,海上運賃25万0736円に
通関料等を含めて35万7586円を要したことが認められる。原告は,このうち
海上運賃のみを控除すべき費用として主張するが,海上運賃以外の通関料等が,原
告シリンジを輸入するのに必要とならなかったとは認め難いから,これらすべての
輸入経費を控除の対象とするのが相当である。
 ところで,原告の主張によれば,このときの輸入では,原告シリン
ジ256本のほか,他のメドラッド製品も併せて輸入したということである。そこ
で,上記輸入経費のうち原告シリンジに要する分を算定する必要があるところ,原
告は,海上運賃につき,コンテナの体積に占める原告シリンジ256箱分の体積の
割合に基づいて原告シリンジに要する分を算定する主張をしている。しかし,原告
は,被告シーマンらからの求めにかかわらず,コンテナの体積等に関する証拠を提
出しようとしないから,この原告の主張をそのまま採用することはできない。
 そこで,一般的に想定される海上コンテナの大きさや乙第21号証
の各号から窺われる原告シリンジ1箱当たりの体積等を勘案して,上記輸入費用の
うちの70%を原告シリンジの輸入に要するものと認めるのを相当とする。そうす
ると,この輸入の際に原告シリンジの輸入に要した経費は25万0310.2
円(357,586×0.7)であり,原告シリンジ1箱当たり977.77円(250,310.2÷
256),原告シリンジ1本当たり19.55円(977.77÷50)となる。
c 原告から顧客への国内輸送費について
 証拠(乙21の各号)によれば,原告シリンジ1箱の重量は約5
kg強であると認められるところ,これを運送会社の料金表に当てはめると,各地域
への配送料は,争点(4)に関する原告の主張(2)イ(イ)のとおりであり,その平均額
は968円であると認められる。したがって,原告シリンジ1本当たりの国内輸送
費は,19.36円(968÷50)となる。
d 物流委託費について
 被告は,直接経費として,上記以外に物流委託費(入荷費,出荷
費,保管費,管理費,在庫の保管費)が必要になると主張する。被告がここで物流
委託費と呼んでいるのは,乙第22号証の各号によると,商品の倉庫保管と入出庫
に要する費用のことであると解されるが,弁論の全趣旨によれば,原告はメドラッ
ド本社から輸入する製品をすべて同一の倉庫で保管していると認められるから,前
記数量程度の原告シリンジを追加的に輸入販売したからといって,倉庫関係費用が
追加的に発生することはないと推認される。
 したがって,物流委託費については,控除すべき対象とはならな
い。
(ウ) 間接経費について
 被告は,上記の直接経費のほかに,販売費及び一般管理費,営業外損
益及び特別損益を控除すべきであると主張する。
 しかし,先に述べたとおり,原告の逸失利益を算定するに当たって
は,原告が前記数量を追加的に輸入販売した場合に追加的に必要となったと認めら
れる費用のみを控除すべきものであるところ,営業外損益や特別損益は,製品を追
加的に輸入販売するのに追加的に要するものであるとは認められない。
 また,販売費及び一般管理費は,当該製品の販売状況や追加的な販売
量によっては,製品を追加的に輸入販売するのに追加的に必要になる場合があるこ
とは否定できない。しかしまず,本件での原告シリンジの主たる顧客は既にメドラ
ッド製インジェクターを有する医療機関であり,そこからは必要になるたびに原告
に対して発注がなされるのであるから,原告が原告シリンジを販売するのに特別の
営業活動を必要とするものではないと考えられる。また,甲第35号証によれば,
本件の損害算定対象期間である平成14年1月から8月までの原告シリンジの売上
数は,1か月当たり2万本前後で推移しており,その8か月間の合計では約16万
本になるところ,他方でこの期間中に被告シリンジが販売されなければ販売できた
であろう原告シリンジの本数は,前記のとおり150FTQが4万5000本,1
50FTが3万5955本で,合計8万0955本と,上記原告シリンジの売上量
の約半分である。加えて,原告は,原告シリンジのみを取り扱っているのではな
く,インジェクター本体のほか,消耗品だけでも33種類の製品を輸入販売してい
る(甲10)。これらの事情を勘案すると,本件においては,前記数量の原告シリ
ンジを追加的に輸入販売した場合に,上記直接経費以外に必要となる販売費及び一
般管理費はなかったものと推認するのが相当である。
(エ) 以上によれば,原告が原告シリンジを追加的に販売するのに必要と
なる経費は,150FTは702.91円(664+19.55+19.36),150FTQは7
26.91円(688+19.55+19.36)となる。
ウ したがって,原告シリンジ1本当たりの利益額は,150FTは104
9.15円(1752.06-702.91),150FTQは973.41円(1700.32-
726.91)となる。
(4) 以上よりすれば,原告の逸失利益の額は,150FTについては3772
万2188円(1049.15×35,955),150FTQについては4380万3450
円(973.41×45,000)で,合計8152万5638円となり,これが原告が被った
損害額となる。
5 よって原告の本件請求は,被告シーマンに対して8152万5638円及び
これに対する訴状送達の日の翌日である平成16年1月27日から支払済みまで年
5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,主文のとおり
判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
  裁判長裁判官山   田   知   司
              裁判官高   松   宏   之
              裁判官守   山   修   生

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