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裁判例


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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和三九年六月二日建設省告示第一三
七六号をもつてなした木曾川下流改修工事に関する事業認定処分を取消す。訴訟費
用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」 との判決および終局判決前に右認
定処分が違法であることの宣言を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用および認否は、左記のとおり附加す
るほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
控訴代理人の陳述
一、被控訴人のなした前記請求の趣旨記載の事業認定処分(以下本件事業認定処分
と称する)は、起業者が提出した事業認定申請書に基づきなされたものであるが、
右申請書には控訴人の意見書(土地収用法(昭和四二年法律第七四号による改正前
のもの、以下単に法と称する)第一八条第二項第四号によるもの)の添付を欠いて
いたから、本件事業認定処分には、重大且つ明白な瑕疵があり違法であつて、取消
を免れないものである。
二、法第四条は、現に公共の利益となる事業の用に供されている土地等は特別の必
要がなければ他の公益事業のため収用又は使用することができない旨定めている
が、右特別の必要の有無はいわゆる事業認定権者の判断に委されているので、法第
一八条は右土地が起業地内に存するときは、その土地の管理者の意見書を事業認定
申請書に添付することを要するものとして、右事業認定権者が右特別の必要の有無
を右管理者の意見を参考にしながら独断を避け公正且つ妥当に判断すべきことを定
めているのである。けだし、事業の認定があれば、起業地内にある土地は収用委員
会の裁決により収用又は使用され、その結果私権の大宗である土地所有権が消滅す
るという重大な効果を生ずることとなるのであるから、事業認定権者のなす右の判
断に土地管理者の意見を反映させこれを慎重になさしめることは当然であつて、か
ように右意見書の添付は重大な意義を有するものであるから、これを欠く事業認定
申請書に基づきなされた本件事業認定処分が違法であつて、これが取消を免れない
ことは明らかであるといわねばならない。
三、起業者である建設大臣は、起業者と事業認定権者とが共に建設大臣であること
を奇貨として、後に生ずる控訴人への補償を自己に有利に進展せしめようとする不
当な意図により互に通謀して、控訴人が再三右管理者としての意見書を提出する旨
申入れたのに、故意にこれを拒絶ないしは無視して前記のとおり事業認定申請書に
控訴人の意見書を添付しないでこれを被控訴人に提出し、被控訴人は右瑕疵のある
申請書に基づき本件事業認定処分をなしたのである。
証拠関係(省略)
○ 理由
一、本件起業者たる建設大臣が昭和三八年一一月二〇日法第一八条第二項第四号に
基づく法第四条に規定する土地の管理者と称する控訴人の意見書を添付しないで木
曾川下流改修工事に関する事業(以下本件事業という)認定申請書を被控訴人に提
出して事業の認定を申請したところ、被控訴人は昭和三九年一月二〇日起業地が所
在する愛知県海部郡立田村役場をして右事業認定申請書を縦覧に供せしめたうえ、
同年六月二日附建設省告示第一三七六号をもつて本件事業認定処分をなしたことは
当事者間に争いがない。
二、次に、土地収用法にもとづく事業認定処分が行政事件訴訟法上の取消訴訟の対
象となる行政処分であること、および控訴人が本件事業認定処分の取消訴訟を提起
するについて訴訟適格ないし訴の利益を有することについては、当裁判所もこれを
肯定するものであるが、その理由は、原判決理由(原判決一七枚目表一行目から二
〇枚目裏四行目まで(偏注、本書三八頁六行目から四〇頁五行目まで))説示と同
一であるから、ここにこれを引用する。
三、起業者たる建設大臣が本件事業認定申請書に法第一八条第二項第四号に基づく
法第四条に規定する土地の管理者と称する控訴人の意見書を添付しないで、これを
被控訴人に提出して事業の認定を申請したことは前記のとおりである。控訴人は
「右控訴人の意見書の添付を欠いた本件事業認定申請書に基づきなされた本件事業
認定処分は重大かつ明白な瑕疵のある違法な処分であつて取消を免れない」旨主張
するので検討する。
そもそも、法第一八条第一項の事業認定申請書に同条第二項第四号により意見書を
添付しなければならない法第四条に規定する土地の管理者とは、法第四条に規定す
るいわゆる法又は他の法律によつて土地等を収用し、又は使用することができる事
業すなわち公益事業の用に供している土地等についての公益事業の面よりする管理
者を指称するものであり、右土地等につき所有権を有し単に右所有権にもとづき管
理する私法上の面よりする管理者はこれにあたらないものと解するを相当とする。
けだし、法第四条は現に公益事業の用に供している土地等を別の公益事業のために
収用又は使用する必要を生じた場合の措置を定めたもので、この場合特別の必要が
あれば前者の土地等を後者の事業のために収用又は使用することを認めたものであ
るが、法にもとづく事業認定申請にかかる起業地内に既に右のような公益事業の用
に供されている土地等があるときは、起業者はその事業のため右の既に公益事業の
用に供されている土地等を収用又は使用する必要の生ずることがあり得るのであつ
て、この場合これをなしうるかどうかは右のように特別の必要の有無にかかるもの
であるから、法第一八条第二項第四号において事業認定申請書に予め起業地内に存
する法第四条に規定する土地等の管理者の意見書を添付せしめ事業認定権者が右の
特別の必要の有無を判断するための資料を提供させようとしたものであり、私権保
護のために右規定が設けられたものでないと解されるからである。そこで、控訴人
が右の意味における法第四条に規定する土地等の管理者に該当する者であるかどう
かについて検討するに、控訴人は「起業者たる建設大臣が昭和三八年頃から築提工
事を計画した愛知県海部郡立田村地内長良川福原地区内に存する原判決添付目録記
載の土地(以下本件土地と称する)は控訴人の所有に属し、そのうち同目録(1)
ないし(12)の土地はいわゆる輪中堤の一部として堤防の用をなしていて控訴人
が管理し、又輪中堤を構成する土地には樋管およびその隣接地には用排水施設があ
つて共に控訴人が所有管理し、又同目録(13)ないし(16)の土地は突出部分
で堤防の用をなしていて控訴人が管理しているものであるところ、右の本件土地お
よびその地上にある樋管ならびにそれと一体をなす用排水施設が法第三条第二号に
該当するから、控訴人がそれらの管理者として法第一八条第二項第四号の管理者に
該当する」旨主張する。しかし、右主張は要するに本件土地及び控訴人主張の樋
管、用排水施設等が控訴人の所有に属し、控訴人において右所有権にもとづき本件
土地等を管理することを主張するに過ぎず、前説示にいう控訴人が本件土地等につ
き公益事業の面よりする管理者(控訴人の主張によれば法第三条第二号にいう河川
に関する事業を行う面よりする管理者ということになる)であることを主張(又そ
の立証もない)するものでないこと明らかであるから、仮に、控訴人において本件
土地等を所有し、右所有権にもとづき本件土地等を管理しているものとしても、こ
れによつて、控訴人が本件土地等につき法第一八条第二項第四号に定める当該土地
の管理者にあたるものとはなし難い。
してみると、起業者である建設大臣が本件事業にかかる事業認定申請書に起業地内
にある法第四条に規定する土地の管理者と称する控訴人の意見書を添付しないでこ
れを被控訴人に提出したのは相当であつて、これについては何らの違法のかどはな
いものといわねばならないから、本件事業認定処分が控訴人の右意見書を欠く事業
認定申請書に基づきなされた重大且つ明白な瑕疵があるものとして無効であるとす
る控訴人の主張は採用することができない。
四、以上によれば、本件事業認定処分が無効であることを前提とする控訴人の本訴
請求はその余のことを判断するまでもなく失当であることが明らかである。
五、よつて、原判決は相当であつて、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを
棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用
し、主文のとおり判決する。
(裁判官 布谷憲治 福田健次 豊島利夫)
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
原告は、被告が昭和三九年六月二日建設省告示一三七六号をもつてなした木曾川下
流改修工事に関する事業認定処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判
決、終局判決前に右認定処分が違法であることの宣言を各求め、請求の原因として
一、別紙目録記載の土地はもと原告の父Aが所有していたが、その後相続(昭和二
二年一二月二五日右Aの死亡により原告および原告の母Bが相続し、昭和三六年一
二月二九日右Bの死亡により右Bの持分につき原告および原告の子C、Dの三名が
相続)により、原告および原告の子C、Dの三名が共有するところとなつた。
二、右土地のうち別紙目録(1)ないし(12)の各土地は輪中堤の一部をなす部
分であるが、右輪中堤は寛永一二年頃原告の祖先Eが洪水防止の目的で築造し(甲
第七、第八号証)、爾来原告側において私財を投じて復旧工事をなし、治水の目的
に供してきたものであつて、現在もなお原告らにおいて所有管理している堤防であ
る。右輪中堤を構成する右土地上にある樋管およびその隣接地に存在する用排水施
設(水門、貯水槽、ポンプアツプ施設、水路等)は明治時代に原告の父Aが治水、
利水の目的で築造したものであつて、これまた原告らの所有管理に属している。
三、本件土地のうち別紙目録(13)ないし(16)の各土地は突出部分であるが
これは堤防で、原告等の所有管理に属し、右突出堤がなければ年に数回ある出水時
にはその内側の宅地、耕地は上流より激流を直接受け、流亡の危険にさらされるの
みならず、輪中堤に対する流水も強くなるのでその破壊を防禦する機能をも有して
いる。すなわち水位が輪中堤と突出堤とを越えない程度の通常の洪水時には、突出
堤は上流よりの激流が直接輪中堤北部にぶつかりこれを破壊する危険を防止し、ま
たこの突出堤がなければ同激流が輪中堤東方の木曾、長良背割堤との狭窄部分に直
接流入し、それがため水位水勢が高まつて輪中堤が破壊される危険にさらされる
が、突出堤の存在により同狭窄部分へ流入する水量が制限され、さらに前記堤内地
が遊水池として働き水勢もおだやかになつて同部分を通過することとなる。なお、
右突出部分は異常洪水には付近の住民の避難通路としての機能をも併せ有している
四、起業者たる建設大臣は昭和三八年頃から本件土地を含む愛知県海部郡<以下略
>地区内において築堤工事を計画し、そのため本件土地を買収すべく同年九月頃か
ら立入調査を治めた。
五、そのころ原告は起業者に対し本件土地およびその地上にある樋管ならびにそれ
と一体をなす用排水施設が土地収用法第三条第二号に該当するものであるから、同
法第一八条第二項第四号、第四条の規定に従い事業認定申請書に添付するため所有
者管理者として意見書を提出する用意がある旨申し入れた。
六、ところが起業者は原告の意見を添付しないで昭和三八年一一月二〇日本件土地
を含む地域を起業地として本件事業認定を申請し、昭和三九年一月二〇日から愛知
県海部郡立田村役場で右事業認定申請書の縦覧が行われた。そこで原告は同月二七
日土地収用法第二五条に基づき、愛知県知事に対し右事業認定申請書に原告の意見
書の添付を欠くことを指摘し、原告として要請があればただちに意見書を提出する
用意がある旨申し立てた。しかるに被告は原告に対し何んら意見書の提出を求める
ことなく同年六月二日付建設省告示第一三七六号を以つて本件事業認定処分をし
た。
七、原告は昭和三九年七月二日本件事業認定処分に関し異議申立をなし、さらに右
異議申立に対して決定をしない不作為についても異議申立を行なつたところ、被告
は昭和四〇年一〇月一四日本件土地およびその土地上にある樋管ならびにそれと一
体をなす用排水施設につき原告主張の如く意見書の添付を要するものであり、従つ
て本件事業認定処分はこの点に瑕疵があることを認めながら原告の右各異議申立を
いずれも棄却する旨の決定をなし、右決定書は同年一一月一日原告に送達された。
八、被告のなした本件事業認定処分はその事業認定申請書に原告の右意見書の添付
を欠き、土地収用法第三条第二号、第一八条第二項第四号、第四条の規定に違背
し、しかもその際被告が原告の意見書の添付を故意に拒否した事情がある等重大か
つ明白な瑕疵を伴つた違法な処分であるから取消されるべきものである。
九、また起業者たる建設大臣は右違法な事業認定に基づきすでに収用手続を続行し
ているので行政事件訴訟法第三一条第二項の規定により終局判決前に右事業認定処
分が違法であることの宣言を求める。と述べ、尚被告の主張事実一の(一)の点を
否認し、同(二)のうち被告主張のとおり河川区域に認定された点を認め、その余
の点を争い、旧河川法において河川と称するのは流水とその敷地との統合体を指す
のであつて本件土地のような堤防(輪中堤)は右河川とは別個のものと考えられ
る。従つて本件土地に河川法の規定を適用するためにはまず本件土地につぎ河川附
属物の認定が行なわれなければならず、その認定がない以上は被告主張のように河
川区域の認定のみにより右土地の私権が消滅することはありえない。と述べ、同
(三)のうち被告主張のような河川附属物の認定処分のあつたことを認め、その余
の点を争い、原告は現在まで本件土地の相続税、固定資産税を支払つてきており、
被告もこのことを認めて昭和三九年一二月一五日愛知県収用委員会へ本件土地を収
用すべく裁決申請な行つている。なお、被告が私権が消滅していると主張している
本件土地のうち別紙目録(6)、(11)、(12)とその物理的形状を同じく
し、いずれも人為的に築造され輪中堤小段として同様の機能を有している<以下略
>、<以下略>、<以下略>、<以下略>、および<以下略>の各土地(被告の主
張によればこれらの土地はいずれも右河川附属物認定により私権が消滅してい
る。)を被告はいずれも私有地として買収している(甲第一五号証の一ないし四)
と述べ、同(四)のうち原告らが輪中堤を構成する土地を占有していたことを認
め、その余の点を争い、なお、輪中堤については昭和一四年八月四日旧河川法第四
条第二項により河川附属物に認定された後も、原告らの所有権登記は抹消されてい
ないし、また登記用紙も閉鎖されていないので、右日時より同堤が愛知県知事の管
理するところに帰したものとはいいえない。と述べ、同二の点を否認し、同三の点
を争い、土地収用法第四条に規定する土地等は現に供用されている公益の目的が尊
重され、特別の必要がない限り他に収用されることがないことを規定し、それが他
の公益事業の特別の必要により収用できるかどうかを判断する場合にはその土地等
の管理者の意見書を求める等特別に慎重な手続を規定し、当該土地を所有管理する
者の権益を保護しているのであつて、法は起業者または事業認定者が土地等の管理
者に意見書の提出を求めてもその者がその権益を自ら放棄し、意見書を提出しない
場合にのみその提出を強制せずにそのまま事業認定処分が行なえることを規定して
いるにずきないものとみるべきである。しかるに本件の場合被告は土地収用法の規
定により意見書を提出したいという原告の再三の申し入れをことさら拒否し、その
ため起業者が提出した一方的な資料により突出堤の有する公益的機能について全く
誤つた判断の上にたつて本件事業認定を行なつたのであるから、右事業認定は同堤
防を所有管理する原告の権益を全面的に侵奪した重大かつ明白な違法処分である。
と述べ、同四の点を争い、憲法第二九条の私有財産絶対の原則ならびに土地収用法
の精神からみて、私権の保護もその立法理由となつているものとみるべきである。
仮に事業の公益性を比較衡量するものとしても、土地の所有管理者である原告の意
見を聞く必要があり、これを欠く本件事業認定処分は重大な瑕疵がある。なお、現
地の実情にくわしい原告の意見を求められるならば河川敷の土砂の浚渫、現在堤防
の補強等により収用することなく被告の計画する目的を達成する方法がある。と述
べ、同五のうち原告が昭和三九年七月一〇日本件土地の一部について本件事業に着
工することを承諾した点を認め、その余の点を争い、原告は地元民の希望もあつ
て、被告が誠実に収用することを条件として一部土地の使用を認めたものに過ぎ
ず、本件瑕疵を許容したものではなく、原告は昭和三九年七月二日付で本件事業認
定処分の取消を求める旨の不服申立をなしているのであるから、起業者も右処分が
取消される場合のあることを覚悟で事業に着工したものである。と述べ、原告の反
論として昭和一四年八月四日愛知県知事のなした旧河川法第四条第二項にもとづく
河川附属物認定処分はその対象となる物件の表示の仕方が甚だ漠然としており特定
されていないから法律上有効なものと認められず、従つて私権消滅の効果を生じな
いものである。仮りに右河川附属物の認定処分が右の如き表示のままで有効である
としても、旧河川法第四条の支川、派川について区域認定がなければ私権は消滅し
ないのと同様に本件においても「河川に関する規定に従いて」河川附属物の区域の
認定が行われなければ私権消滅の効果は生じないものとみるべきであるが、本件土
地については右のような河川附属物の区域の認定は行われていない。と述べ、被告
の本案前の主張に対する答弁として、事業認定処分がなければ収用委員会が土地収
用の裁決をすることは起こり得ず、従つて公用徴収権の設定という結果も生じない
のであるから、事業認定処分によつて収用委員会の収用の裁決にまで発展する端緒
が作り出され、それによつて土地所有者は一種の法的拘束力(不利益)を受け、事
実上土地の処分を著しく制限されるに至るものであつて、右のように事業認定処分
が土地所有者の法律上の地位に不利益な変動を及ぼすものである以上、それは行政
訴訟の対象となるというべきである。と述べた。
被告は本案前の答弁として本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。との
判決を求め、本案前の主張として、事業認定なる行政行為は行政訴訟の対象となる
行政処分ではないから本件訴は不適法である。即ち
(一) 土地収用法にいう事業認定は起業者に対する関係において、事業が私有財
産の収用を許すだけの公益上の価値があることを認定して起業者に爾後土地収用法
に定める手続(土地細目の公告、協議および収用裁決)を経ることを条件として収
用の目的物を取得しうる機能を付与する行為であるにとどまり、起業者以外の第三
者たる原告に対して何らの法律上の効果をおよぼすものではないから、原告にとつ
ては事業認定は行政訴訟の対象となる行為ではない。
(二) 事業認定が公用徴収手続の基礎となる行政行為であるといつても、それは
公用徴収手続を開始することを認めたにとどまり、公用徴収の対象物は収用委員会
の裁決によつて始めて確定されるのであるから、収用委員会の裁決を争う途がある
以上、それ以前の手続の段階において行政訴訟を認めなければ権利救済が遅きにす
ぎるというわけのものでもなく、また土地細目の公告に伴い形質変更禁止の効果が
生ずるにしても、それは法がその後の手続の円滑な遂行に対する障害を除去するた
め付与した附属的な効果であるから、これを以つて直接に特定の者に向けられた具
体的処分であるとみることは相当ではない。
(三) 事業認定について異議申立、審査請求が認められるのは事業が私有財産の
収用を許すだけの公益上の価値があるかどうかを再検討するためであつて、それは
行政作用の正当性を維持することを目的とし、特定個人の権利救済を目的とするも
のではないから、事業認定について異議申立、審査請求が認められていることを以
つてこれについて行政訴訟の対象たりうる適格性をも付与されているものというこ
とはできない。と述べ、本案につき原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担
とする、との判決を求め、答弁として、請求の原因たる事実一につき本件土地のう
ち別表目録(1)ないし(12)の部分が原告およびその子C、Dら三名の共有に
属することは否認するがその余の点は認める。同二のうち別紙目録(1)ないし
(12)の各土地が輪中堤の一部であつてその土地上に樋管が存することは認める
が、右各土地が原告らの所有管理に属していること、樋管および用排水施設が原告
らの管理に属していることは否認しその余は不知。同三のうち突出部分が堤防であ
ることを否認し、その余の点を認める。堤防といいうるためには河川の機能即ち河
川の流水によつて生ずる公利を増進し、または公害を除却もしくは軽減して河川を
して公共の利益に適合せしめるような効用を有する施設でなければならない。(旧
河川法第四条第二項、新河川法第三条第二項)(一)ところで本件長良川の水位が
東京湾中等潮位二米程度の出水をみると、たとえ流水が突出部分を越えなくても、
流水はその尖端部の低地沿いに堤内地(輪中堤と突出部分とにより囲繞された部
分)に流入し、水位二米をこえる出水の場合には、堤内地は全部冠水するに至るの
であるが、長良川の流量が平均的水位の場合で二五〇〇立方米/秒に達すれば同川
の福原輪中附近の水位は東京湾中等潮位二米をこえる水位をこえるものであるか
ら、該堤内地は必ず冠水する憂目にあうわけであつてこのような状況では突出部分
は堤内地を出水より防禦するという堤防としての効用を果たしているものとはいえ
ない。(二)また突出堤があれば輪中堤に対する流水の勢をそぐといつても輪中堤
によつて流路を狭ばめられた流水が突出部分をこえる水位(東京湾中等潮位四・五
米以上)に達すれば右突出部分を越えて流水の勢に対して突出部分はもはや輪中堤
防禦の効用を果たすものとはいえず、かえつて狭窄部分で水位を高められた水が輪
中堤をこえて堤内に流下するときこそ最も破堤の危険が大きいものであつて、突出
部分は洪水時における輪中堤防禦のためには無用の施設というべきである。同四の
点は認める。同五の点は原告主張のような申入のあつたことは認める。同六の点は
認める。同七のうち原告の意見書の添付を要するものであり本件事業認定処分はこ
の点に瑕疵があることを被告が認めたとの点を否認し、その余の点を認める。ただ
し、決定書の理由中に「当該私有施設について意見書の添附を要するものであり、
従つて本件事業認定にはこの点に瑕疵がある。」 旨の記載があることを認める。
同八のうち本件事業認定申請書に原告の意見書が添付されていなかつた点を認め、
その余の点を争う。と述べ、被告の主張として
一、(一)本件土地のうち輪中堤の一部をなす部分(別紙目録(1)ないし(1
2)の各土地)および同地上にある樋管ならびにこれと一体をなす用水施設の管理
者は原告らではなく、本件事業認定申請書に原告の意見書を添附する必要はない。
(二) 、別紙目録(1)、(4)ないし(6)の各土地の大部分は大正二年一二
月二四日愛知県知事によつて河川区域に認定された土地であつて、同土地について
の原告らの私権は旧河川法第三条によつて消滅したものである。
(三) 前記各土地のうち河川区域に認定されなかつた部分と別紙目録(2)、
(3)、(7)ないし(12)の各土地は昭和一四年八月四日愛知県知事により堤
防として旧河川法第四条第二項にもとづく河川附属物に認定されたものである。
(乙第五号証)而して河川附属物と認定されたものは「命令ヲ以テ特別ノ規定ヲ設
ケタル場合ヲ除ク外総テ河川ニ関スル規定ニ従ウ」ものであるから、同法第三条に
よりこれらの土地についての私権は消滅したものである。
(四) 原告らは輪中堤を構成する土地のうち河川区域に認定された部分について
は、旧河川法第一八条による許可を得て占用していたものであり、その余の部分も
河川法施行規定第一一条により従前の使用目的をもつて占用を許可されたものであ
るが、原告らの右占有の事実は原告らが輪中堤を管理していたことを示すものでは
なく、原告らに輪中堤の占用が許可(みなし占用許可を含めて)されたのは原告ら
の占用目的が輪中堤の管理に支障がなかつたことによるのであつて、輪中堤の維持
管理のための方法として占用が許可されたものではない。而して右輪中堤について
は前記のように昭和一四年八月四日に旧河川法第四条第二項により河川附属物に認
定されたものであるからそれ以降は河川管理者たる愛知県知事が右輪中堤を管理し
ていたものである。(乙第二号証の一、二)また輪中堤を構成する本件土地上にあ
る樋管の管理者は立田村である。(乙第六号証の一ないし七)
二、本件土地のうち突出部分(別紙目録(13)ないし(16)の各土地)は堤防
の用をなしていないもので、土地収用法第四条該当地ではないから原告の意見書の
添附は必要ではない。
三、仮りに突出部分が堤防としての効用を有するものとしても、本件事業認定処分
にはそれを違法として取消さねばならないほどの瑕疵はない。そもそも土地収用法
第一八条第二項第四号が同法第四条該当地の管理者の意見書の添附を要求している
のは同条にいう「特別の必要」の有無を判断する資料とするためであつて、起業者
が同法第四条該当地の管理者に対して意見を求めても意見書の提出がない場合は起
業者は意見書を添附せずに事業認定申請をなすことができ(同法第一八条第三項)
事業認定庁としても同法第四条該当地の管理者に対して意見を求めても意見書を提
出しない場合にはその意見を待たないでただちに処分できるもので(同法第二一条
第一項)、たとえ同法第四条該当地の管理者から意見書の提出があつてもその意見
に拘束されるものではないから、右意見書は単に事業認定処分をなすについての一
応の手続として要求されるにとどまり、これを以つて処分の有効要件としたものと
解することはできない。そうだとするとこれについて原告らの意見を徴しなかつた
ことはその瑕疵が軽微であり、ただちに本件事業認定処分をして取消しうべき違法
のものとならしめるものではない。
四、土地収用法第四条に該当する土地についてはその土地の管理者の意見書の添附
を要するとされているが、これは事実の公益性を比較衡量するためのものであつて
該土地の私権を保護するためのものではないから、意見書の添附のない事業認定申
請であることを看過してなされた事業認定でも当該認定の内容が妥当である以上か
かる手続上の瑕疵は事業認定処分を違法たらしめるものではない。而して本件輪中
堤についてはその管理者の意見書の添附がないけれども、本事業が輪中堤の目的と
する水害防禦の効果が不十分であることから計画されたものであることに鑑み、本
件土地を収用する特別の必要性のあることも明白であり、その事業認定の内容が妥
当であることも明らかであるから右瑕疵は本件事業認定処分自体を違法ならしめる
ものではない。
五、仮りに土地収用法第四条に該当する土地についても私権保護のためその土地の
管理者の意見書を要するとしても、その管理者が事業認定申請にかかる事業のため
にその土地が使用されることを許容するならば意見書の添附がなくてもそれによる
事業認定の瑕疵は治癒されるものといわなければならず、本件について原告は昭和
三九年七月一〇日起業者の懇請に応じて起業者が本件土地について事業を着工する
ことを承諾し、現在ではほとんど工事も竣工している状況であるから、起業者の本
件事業認定申請が土地収用法第一八条第二項第四号に違反していて、これを看過し
てなした被告の事業認定が違法であるとしても、その瑕疵はすでに治癒されたもの
というべきである。と述べ、これに対する原告の反論を争い
一、昭和一四年八月四日愛知県告示第八九四号をもつて「河川法第四条ニ依リ河川
法施行河川木曾川(下流部)、長良川及木曾、長良両河川附属物左ノ通り認定ス
ル」として別表のとおり表示しており、これを以つて特定されたものとみるべきで
ある。
二、そして河川附属物認定なる行為は確認行為に属し堤防たる土地について私権が
消滅するのは河川附属物認定に伴う附随的な効果であつて河川附属物認定そのもの
の効果として発生するものではないから、堤防を河川附属物と認定するにあたつて
は、右堤防が何番地の土地上に築造されているものかを一々明らかにする必要はな
く、どの堤防が河川附属物に認定されたかがわかるように(堤防の同一性を認識し
うる程度に)表示されれば足りるものというべきである。
と述べた。
(証拠省略)
○ 理由
一、本件起業者たる建設大臣が土地収用法(昭和四二年法律第七四号による改正
前、以下同じ)第一八条第二項第四号にもとづく同法第四条に規定する土地の管理
者の意見書として原告の意見書を添附しないで昭和三八年一一月二〇日本件事業認
定を申請し、昭和三九年一月二〇日から愛知県海部郡立田村役場において右事業認
定申請書の縦覧がなされたうえ、被告が同年六月二日附建設省告示第一三七六号を
以つて本件事業認定処分をしたことは当事者間に争いがない。
そこでまず土地収用法にもとづく本件事業の認定が行政事件訴訟法上の取消訴訟の
対象となる行政処分であるかどうかおよび原告が本件取消訴訟につき原告適格ない
し訴の利益を有するかどうかにつき判断すると
(一) およそ土地収用法第一六条以下の各規定により建設大臣または都道府県知
事のする事業の認定は同法によつてなされる公用徴収手続の基礎となるものであ
り、当該事業認定申請にかかる事業が私有財産の収用を許すだけの公益上の価値を
有するものである旨を認定することをその本質的内容とする行政行為であつて、も
とより事業の認定によつて直ちに土地等の収用の範囲を確定するものではなく、起
業者以外の第三者の実体法上の権利ないし法律関係に対し確定的な影響を与えるも
のとはいいえないが、土地収用法にもとづく公用徴収手続は右事業の認定に続き土
地細目の公告(前記改正法律による削除)、協議、収用委員会の裁決等を経た後に
行われる関係にあり、いわば一連の多数の行為を経て始めてその所期の目的を達し
うる性格のものであつて、かような一連の手続を組成する各個の行政行為は当然に
その手続の連鎖の中でそれぞれの性質と効力とを考察しなければならず、そうする
と右事業の認定は起業者のために土地収用法上のその後の各手続が行なわれること
を条件とする起業地内の土地等に対する公用徴収権を創設、設定することを主たる
内容とする行政処分たることをその本質とするものであると解するのが相当であ
る。そして土地収用法第一九条、第二〇条は右事業の認定をなしうるための手続的
および実体的諸要件を明定し、また同法第二六条は事業の認定がなされたときは遅
滞なくその旨を起業者に文書で通知するとともに、起業者の名称、事業の種類及び
起業地を告示しなければならず(第一項)事業の認定は右の告示があつた日からそ
の効力を生ずるものとされ、さらに同法第二五条は事業の認定について利害関係を
有する者は意見書を提出することができる旨規定するとともに同法第一三〇条ない
し第一三一条の二の各規定は事業の認定について行政不服審査法上の不服申立がで
きることを認めることを前提としている規定であることもまた明白である。
そうすると以上の如き事業認定の本質と土地収用法上の右各規定等に徴すれば、関
係諸法規に抵触する違法な事業の認定に対してはそれにつき法律上の利害関係を有
すると認められる者から直接右事業認定自体の取消を訴求しうるものとみるべきで
あり、そうすると本件事業の認定は原則として訴訟事項に制限を設けていない現行
法規の下においては行政事件訴訟法上の取消訴訟の対象となる行政処分であると解
するのが相当である。
(二) そこでつぎに本件取消訴訟において原告が原告適格ないし訴の利益を有す
るかどうかについてみると、原告の本訴請求は要するに、本件土地のうち別紙目録
(1)ないし(12)の各土地は輪中堤の一部を構成するものであり、また本件土
地のうち別紙目録(13)ないし(16)の各土地は突出状をなす堤防を構成する
部分であり、さらに右輪中堤を構成する右各土地には樋管がその隣接地には水門、
貯水槽、ポンプアツプ施設、水路等の用排水施設が存在するが、これらはすべて治
水ないし利水の目的に供されているもので土地収用法第三条第二号に該当し、しか
も右土地およびその地上にある樋管ならびにそれと一体をなす用排水施設はすべて
原告らの所有管理に属しているものであるから同法第一八条第二項第四号、第四条
の規定によつて本件事業認定申請書には右土地の管理者たる原告の意見書の添附を
要するものであるところ、原告が起業者に対し右の意見書を提出する用意がある旨
申し入れたのに拘らず、起業者は原告の意見書を求めることなく、またこれを添附
することなく本件事業認定を申請し被告も右瑕疵を看過してそのまま本件事業認定
処分をしたものであつて違法である。というものであることはその請求自体から明
らかである。ところで土地収用法第一八条第二項第四号によると起業地内に同法第
四条に規定する土地があるときは事業認定申請書に当該土地の管理者の意見書を添
附しなければならず、しかも同条第三項によれば右意見書は起業者が意見を求めた
日から三週間を経過しても、これを得ることができなかつたとぎは添附することを
要しないがこの場合には右意見書を得ることができなかつた事情を疎明する書面を
添附しなければならない旨規定されておりさらに同法第二一条によれば建設大臣又
は都道府県知事は事業の認定に関する処分を行おうとする場合において右第一八条
第三項の規定により意見書の添附がなかつたときは右土地の管理者の意見を求めな
ければならないこととされている。そうすると以上の各規定に徴すれば起業地内の
土地収用法第四条該当の土地の管理者は意見書を起業者に提出する権利を有するも
のと解すべく、従つて右土地の管理者の意見書の提出を求めることなくまた事業認
定申請書にこれを添附しないでした事業認定申請に対してした事業認定処分は右土
地管理者の意見書提出権を侵害したものであるといわなければならない。
してみれば原告は本訴請求につき原告適格ないし訴の利益を有するものと解するの
が相当であり、結局本件訴は適法であるというべきである。
二、そこですすんで本案につき判断する。
(一) まず土地収用法第一八条第二項第四号において、起業地内に同法第四条に
規定する土地があるときは事業認定申請書に当該土地の管理者の意見書を添付すべ
きことが要求されている趣旨についてみると、土地収用法第四条は同法または他の
法律によつて土地等を収用しまたは使用することができる事業の用に供している土
地等は特別の必要がなければ収用しまたは使用することができない旨規定してお
り、これは現に公益事業の用に供されている土地等を別の公益事業の用に供するた
めに収用または使用する必要が生じた場合、すなわちいわゆる収用権の衝突と称せ
られている場合には、原則として現在の公益事業の用途を尊重し維持するため当該
土地を収用の目的物となしえないものとするとともに、現に当該土地が供せられて
いる事業よりも一層重要な公益事業の用に供する特別の必要があるときはそれを収
用の目的物たりうるものとしたものであつて、この場合における「特別の必要」と
は現に当該土地等を使用している収用または使用の可能な事業の公益性と、右土地
を新たに供せんとする収用または使用の認められうる事業の公益性とを比較衡量し
て後者の公益性が前者のそれよりも一層重要であること、換言すれば後者の事業に
よつて得られる公益性が前者の事業の公益性を失うことによつて蒙る損失を補つて
なお余り有ることを意味するものと解せられ、さらにまたこの場合における右「特
別の必要」の有無の点についての判断はもとより抽象的に事業の種類、性質のみに
よつて決せられうべきものではなくして、各個の場合において現に当該土地が供せ
られている個別、具体的事業の公益性と新たに右土地を供せんとする個別、具体的
事業の公益性とを諸般の事情を綜合勘案したうえ比較して個別的、具体的に判断せ
られるべき事柄であるというべきである。たとえ同一の事業であつても各場合によ
つてある事業との比較においては公益上一層重要であるということができてもさら
に他の事業との関係ではその公益性において劣後するということもその性質上当然
ありうるところである。而して起業地内に土地収用法第四条に該当する土地等があ
るときは事業認定庁たる建設大臣または都道府県知事は事業の認定の実体的、積極
的要件として同法第二〇条第四号において明定する当該申請にかかる事業が「土地
を収用し、又は使用する公益上の必要があるものであること」に該当するかどうか
の判断の一環として前記の意味における同法第四条に規定する「特別の必要」も当
然に判断されるべきであるが、同法第二〇条に規定する事業認定の積極的、実体的
要件のうち第一号ないし第三号の各要件に該当するかどうかの判断は右各号の要件
の性質上覊束された判断であるというべきであるも、同条第四号の公益性に関する
判断のみはその本質上事業認定庁の裁量に属するものというべきである。そこで土
地収用法第一八条第二項第四号は起業地内に同法第四条に規定する土地があるとき
は事業認定申請書にその土地に関する調書、図面および当該土地の管理者の意見書
を添附しなければならない旨規定しているところ、右土地の管理者の意見書の添附
を要求している理由は、前述の同法第四条の趣旨に徴すると専ら事業認定庁たる建
設大臣または都道府県知事が現に当該土地が供せられている事業の有する公益性と
新たに右土地を供しようとする事業の有する公益性との大小、軽重をそのそれぞれ
の事業につき具体的に比較衡量したうえ当該事業認定申請にかかる事業がその有す
る公益性の点において同条にいう収用または使用を許すだけの特別の必要があるか
どうかを判断するに当つて当該土地の管理者の意見をも参酌し以つて現に当該土地
が供されている事業の公益性との対比において事業の認定という行政行為の内容を
適正、妥当ならしめるための資料としようとの趣旨に出でたものであつて右土地の
所有者の私権の保護等利害関係人の立場を保護するためのものではないものと解す
るのが相当であり、この理はさらに右「特別の必要性」の判断が前記のとおり同法
第二〇条第四号にいう土地を収用しまたは使用する公益上の必要性の判断の一環と
して申請にかかる事業の公益性の判断をなす権限を有する事業認定庁の権限には属
してないものと解せられること、および同法第一八条第二項第四号が当該土地の所
有者等と規定しないで単に当該土地の管理者と規定していることに照らしても明ら
かであるということができ、而してかようにその利害関係人の立場を保護するため
ではなくして専ら行政行為の内容を適正、妥当ならしめるために意見の聴取を要す
る旨を定めている規定はこれを右行政行為の効力の有効要件とまで解すべきではな
いものというべきである。
(二) ところでさらに同法第一三一条第二項の規定によると、建設大臣は事業の
認定または収用委員会の裁決についての異議申立または審査請求があつた場合にお
いて、事業の認定または裁決に至るまでの手続その他の行為に関して違法があつて
も、それが軽微なものであつて事業の認定または裁決に影響を及ぼすおそれがない
と認めるときは決定または裁決を以つて当該異議申立または審査請求を棄却するこ
とができるものとされているところ、右条項の趣旨とするところは土地収用法がそ
の公用徴収手続の公正、妥当を期するためその手続その他の行為について詳細な規
定を設けているが、他面において往々にして土地収用手続を遂行するうえで右手続
規定に違反する場合も生じやすくなることは否み難いところであつて、しかも前記
のとおり一連の多数の行政行為を経て始めてその所期の行政目的を達成することが
できる土地収用手続においてはかような手続の全体過程の中ではその手続違背が結
果的にみて実質上軽微なもので全体としての手続をくつがえす必要のない場合もあ
るところから、かような手続的瑕疵は手続の経済の見地からその違法性の治癒を認
めたものであると解せられ、従つてこの理はひとり行政不服審査の場合のみならず
行政事件訴訟の場面においてもまた妥当する法原理であると解するのが相当であ
る。
(三) そこで本件についてみると、本件土地が本件事業認定にかかる起業地に含
まれていること、および右土地が木曾川、長良川の二大河川にはさまれた狭窄地帯
であつて右土地のうち別紙目録(1)ないし(12)の各土地が輪中堤の一部をな
す土地であることならびに昭和三八年九月頃原告が起業者に対し本件土地等が土地
収用法第三条第二項に該当するものであるから同法第一八条第二項第四号、第四条
の各規定により事業認定申請書に添附するための所有者管理者として意見書を提出
する用意がある旨申し入れ、つづいて昭和三九年一月二七日同法第二五条にもとづ
き愛知県知事に対し本件事業認定申請書に原告の右意見書の添附を欠くことを指摘
するとともに、要請があれば直ちに右意見書を提出する用意がある旨申し立て、さ
らに本件事業認定処分がなされたのちの昭和三九年七月二日右事業認定処分に対し
異議申立をなしたところ被告が昭和四〇年一〇月一四日右異議申立を棄却する旨の
決定をなし右決定書が同年一一月一日原告に送達されたことは当事者間に争いがな
く、また少くとも右輪中堤が従来から長良川の治水のため堤防としての効用を有し
ているものであつて、右(1)ないし(12)の各土地が土地収用法第四条にいわ
ゆる土地等を収用しまたは使用することができる事業の用に供している土地である
ことは被告において明らかに争わないところである。そうするともし、輪中堤の一
部をなす右(1)ないし(12)の各土地が原告らの管理に属するものであるとす
れば(その管理権については争を存するが)同法第一八条第二項第四号により本件
事業認定申請書には原告らの意見書を添附しなければならない筋合いであり、原告
の意見書の添附を欠いている本件事業認定申請に対し被告がなした本件事業認定は
この点においてその手続規定に違背する瑕疵があるものといわなければならないけ
れども(原告以外に右の管理者が存するとするとその意見書の添附の有無について
も同様のことが言える。)土地収用法第一八条第二項第四号が同法第四条に該当す
る土地の管理者の意見書の添附を要求している前記の趣旨に照らせば、本件事業の
規定に右手続規定の違背があつたとしてもそれは軽微な瑕疵であるというべきであ
る。
(四) そこでつぎに原告の右意見書の添附がなかつたことが本件事業の認定に影
響をおよぼすものであるかどうかについてみると、成立に争いのない甲第一、第二
号証、乙第七号証の一、第一二、第一三号証、証人伊藤滋の証言により真正に成立
したものと認められる甲第一一号証と証人F、同G、同H、同Iの各証言および弁
論の全趣旨を綜合すると(1)原告が本件土地収用手続において不服とするところ
の実質はもつぱら本件土地のうち別紙目録(1)ないし(12)の各土地は輪中堤
の一部をなすもので敷地たる土地とは別個に工作物として正当に補償の対象とされ
るべきでありかつ右輪中堤は原告祖先が築堤し代々原告側において私財を投じて維
持管理してきたもので原告としては深い愛着をもつものであるから右輪中堤の再建
費相当額にいわゆる好感的価値をも加味して補償額が定められるべきであり、また
本件土地のうち別紙目録(13)ないし(16)の各土地は輪中堤に接続する突出
部分として十分に堤防としての効用を有し右輪中堤と同様のものであるから、これ
また輪中堤と同様の補償をなすべきであると原告が主張するものに対し起業者は右
原告の意向と異り堤防は土地の構成部分であるから右輪中堤も土地として補償の対
象とすれば十分であり、また右突出部分を構成する右(13)ないし(16)の各
土地は堤防としての効用を有するものではないから、これも同様に土地として補償
すれば足りるとして本件土地の補償の方法および額につき原告の主張が容れられな
かつたことにあり、本件土地を繞る右補償問題については本件事業認定申請がなさ
れる以前において原告と起業者間とで種々の交渉、意見調整が重ねられたが、結局
のところ右両者間で意見の一致をみることはできず、いわゆる任意買収というかた
ちで右問題の解決がなされるまでに至らなかつたため、右補償の方法およびその額
については土地収用法に規定する手続に則りあつ旋あるいは収用委員会の公正、妥
当なる審議裁決によつて解決することに原告と起業者側双方の意見の一致をみて本
件事業認定申請がなされ、原告がそれにもとづき本件事業の認定をしたこと、そし
て本件土地を除くその余の本件起業地内にある原告ら所有の土地については原告も
起業者側のいわゆる任意買収に応じ、また本件事業の認定後ではあるが右補償問題
については迅速に収用委員会の裁決により解決するよう努力する旨の確約のもとに
原告は起業者側に対し収用委員会の裁決する収用または使用の時期以前においても
本件土地のうち本件事業の内容たる新堤敷となる個所については事業の用に供する
ことを承諾しているなど、原告自身としても本件事業の内容である長良川左岸引堤
計画それ自体には反対ではなく寧ろこれを希望していたこと、(2)他方本件事業
は建設大臣を起業者とする木曾川下流改修計画の一環として木曾川、長良川の両河
川にはさまれた本件土地を含む狭窄地の治水を目的とするものであつて、本件土地
附近の住民も本件引堤計画を従来から要望しており、原告以外の起業地内の土地所
有者らは本件事業認定申請に至る前に任意買収に応じることが確実であつたことが
いずれも認められる。そして以上の各事実に右各証言、各検証の結果、鑑定の結果
その他乙号各証を綜合すれば今次事業の公益性は従前事業の公益性に比して著しく
勝るものであることが明らかであつて原告の前記意見書の添附がなかつたことが本
件事業の認定に影響をおよぼすものとは到底考えることができない。
(五) そして以上の理は前述してきたところから自から明らかな如く本件土地の
うち別紙目録(13)ないし(16)の各土地が構成する突出部分が堤防としての
効用を有し、また本件土地のうち輪中堤を構成する部分の地上にある樋管およびそ
の隣接地に存する用排水施設がともに原告の管理に属するものであるとしても同様
であるということができる。
(六) してみればかりに本件事業認定申請書には土地収用法第一八条第二項第四
号により原告の意見書の添附を要するものであり、右意見書の添附がないまま本件
事業認定処分がなされた瑕疵があつたとしてもそれは本件事業認定処分を取消さな
ければならないほどの違法とまでいうことはできず、また他に本件事業認定処分を
取消すべき違法は見出し難いから、原告の本訴請求は前記原告の管理権ないしその
余の争点につき判断するまでもなく理由がないのでこれを棄却し、民事訴訟法第八
九条により主文のとおり判決する。
(別紙省略)

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