弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
2(1)第1審判決中民法704条後段に基づく損害賠
償請求に係る上告人敗訴部分を取り消す。
(2)前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。
3民法704条後段に基づく損害賠償請求に係る被上
告人の附帯控訴を棄却する。
4訴訟の総費用は,これを4分し,その3を上告人の
負担とし,その余を被上告人の負担とする。
理由
上告代理人前田陽司,同長倉香織の上告受理申立て理由について
1本件は,被上告人が,貸金業者であるA株式会社及び同社を吸収合併した上
告人との間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法1条1項
所定の制限利率を超えて利息として支払われた部分を元金に充当すると,過払金が
発生しており,かつ,それにもかかわらず,上告人が残元金の存在を前提とする支
払の請求をし過払金の受領を続けた行為により被上告人が精神的苦痛を被ったと主
張して,不当利得返還請求権に基づき,過払金合計1068万4265円の返還等
を求めるとともに,民法704条後段に基づき,過払金の返還請求訴訟に係る弁護
士費用相当額の損害賠償108万円とこれに対する遅延損害金の,同法709条に
基づき,慰謝料及び慰謝料請求訴訟に係る弁護士費用相当額の損害賠償105万円
とこれに対する遅延損害金の各支払を求める事案である。
なお,不当利得返還請求権に基づき過払金の返還等を求める部分は,原審におい
てその訴えが取り下げられ,また,民法709条に基づき損害賠償の支払を求める
部分については,同請求を棄却すべきものとした原判決に対する被上告人からの不
服申立てがなく,当審における審理判断の対象とはなっていない。
2原審は,次のとおり判断して,被上告人の民法704条後段に基づく損害賠
償請求を認容すべきものとした。
民法704条後段の規定が不法行為に関する規定とは別に設けられていること,
善意の受益者については過失がある場合であってもその責任主体から除外されてい
ることなどに照らすと,同条後段の規定は,悪意の受益者の不法行為責任を定めた
ものではなく,不当利得制度を支える公平の原理から,悪意の受益者に対し,その
責任を加重し,特別の責任を定めたものと解するのが相当である。したがって,悪
意の受益者は,その受益に係る行為に不法行為法上の違法性が認められない場合で
あっても,民法704条後段に基づき,損害賠償責任を負う。
3しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
不当利得制度は,ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場
合に,法律が公平の観念に基づいて受益者にその利得の返還義務を負担させるもの
であり(最高裁昭和45年(オ)第540号同49年9月26日第一小法廷判決・
民集28巻6号1243頁参照),不法行為に基づく損害賠償制度が,被害者に生
じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者
が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを
目的とするものである(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日
大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照)のとは,その趣旨を異にする。不当
利得制度の下において受益者の受けた利益を超えて損失者の被った損害まで賠償さ
せることは同制度の趣旨とするところとは解し難い。
したがって,民法704条後段の規定は,悪意の受益者が不法行為の要件を充足
する限りにおいて,不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず,悪
意の受益者に対して不法行為責任とは異なる特別の責任を負わせたものではないと
解するのが相当である。
4以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。これと同旨をいう論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を
免れない。そして,上告人が残元金の存在を前提とする支払の請求をし過払金の受
領を続けた行為が不法行為には当たらないことについては,原審が既に判断を示し
ており,その判断は正当として是認することができるから,被上告人の民法704
条後段に基づく損害賠償請求は理由がないことが明らかである。よって,被上告人
の民法704条後段に基づく弁護士費用相当額の損害賠償108万円及びこれに対
する遅延損害金の請求を107万1247円及びこれに対する遅延損害金の支払を
求める限度で認容し,その余を棄却した第1審判決のうち上告人敗訴部分を取り消
し,同部分に関する被上告人の請求を棄却し,上記請求に係る被上告人の附帯控訴
を棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官今井功裁判官中川了滋裁判官古田佑紀裁判官
竹内行夫)

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