弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人等の負担とする。
         理    由
 上告代理人矢部善夫、同江川六兵衛の上告理由書は末尾に添えた別紙のとおりで
あり、相当錯雑重複しているが、便宜二点三点一点の順序で分析判断する。
 (一)論旨は、本件家屋についてはBとCとの間に賃貸借関係が存在したのであ
つて、BとCとの賃貸借の有無及賃借人Cと居住者Dとの関係が転貸借かまたはそ
の他の法律関係かは、Dの明渡によりBが右家屋につき占有権を取得したかどうか
の判断上重要な問題である、そして右の賃貸借成立につきBは第一審においてした
自白を原審において取消し、Aらはこれに対して異議を述べた、然るに原判決がこ
の賃貸借関係について何らの判断を与えなかつたのは、審理不尽理由不備の違法あ
るものだ、というのである。しかし原判決は、Dが本件家屋に居住して直接にこれ
を占有していたこと、Dの明渡により所有者たるBにその占有が移つたこと、然る
にAらが不法にその占有を侵奪したこと、を認定し、従つてAらはBに対し本件家
屋の明渡義務あり、としたのであつて、右の判断には何らの違法も認められず、本
訴請求の当否の判断としては以上を以て充分である。(占有訴訟であるから本権の
判断は必要でない、以下の論旨についても同様。)
 (二)論旨は、Dの退去によつて賃借人たるCは従来の間接占有から直接占有を
回復し、さらにAらに留守居として本件家屋の使用をさせたのであるから、賃貸人
たるBはAらに対し明渡を求める権利はない、もしそういう権利があるとするなら
ば、転借人が転借家屋を賃貸人に直接に引渡すによつて賃借人の権利は常に侵害さ
れることになり、甚だ不当である、と主張する。しかし、BとCとの間に賃貸借が、
そしてCとDとの間に転貸借または占有補助の関係が存したという事実は、原判決
の認定しないところであるばかりでなく、かりに右三者間に論旨主張どおりの法律
関係が存在したとしても、転借人から賃借物の占有を直接に賃貸人に返したからと
言つて賃借人の権利が失われるものでなく、論旨は理由にならない。(以上論旨第
二点)
 (三)論旨は、Cは本件家屋をBから賃借して使用人の宿舎にあて、DはCの使
用人としてこれに居住していたのだから、DはCの占有補助者(占有代理人)とし
て直接に右家屋を占有し、CはDを代理人とする間接占有者であつた、そしてDが
退去して直接占有を失つたによつてCが当然に直接占有者になつたのだ、と主張す
る。しかし原判決は、昭和一九年七、八月ごろから同二一年三月三日当時までの間
本件家の直接占有者はDであつた事実および昭和二一年三月三日BはDから右家屋
の明渡を受けその直接占有者となつた事実を、それぞれ証拠によつて適法に確定し
た。論旨は結局前記右原判決の適法な認定を非難するものにほかならぬ。
 (四)論旨は、Dの退去後家屋内にCの所有品の残つていた事をCが占有を有す
る根拠とし、またDの退去後Bが右家屋を釘附けしたとしてもそれによつて直接占
有がDからBに移転したと認めることはできない、と主張するが、それらについて
は原判決が反対の認定判断を下したのであつて、その認定判断が実験則に反してい
るものとは思われない。(以上論旨第三点)(なお論旨第一点に対する判断参照)
 (五)論旨は、原判決が本件家屋にAらが入り込んだ当時その占有がBに存して
いたと認定したことを非難し、Bには当時占有権の要素たる「体素」が欠けていた
と主張する一項目として、右家屋の玄関を釘附けにしたのは、Bではなくて、Cだ、
と主張する。しかし原判決はその反対の事実を適法に認定している。
 (六)論旨は、かりにBが玄関を釘附けしたとしても、玄関にはCの標札がかか
げられていたのだから、それはCのため事務管理としてしたものと見るべきだ、と
主張する。しかし玄関にCの標札がかかげられていたという事実は、原審の確定し
なかつた事実である。かりにDの退去後Cの標札がかかげられており、その状態で
Bが右家屋の釘附け等をしたからとて、必ずしもBがCのために事務管理を開始し
たものと認めなければならない理由はなく、さらに一歩をゆずり、論旨主張のとお
り事務管理を認むべきだとしても、そのゆえにBに右家屋の占有がなかつたとは言
えない。
 (七)論旨は、Bは右家屋に錠をかけてその鍵を所持するとか標札や貼紙などで
Bが現に占有することが第三者にもわかるようにしておくとか、いうような方法を
講じなかつた、と指摘する。しかし、さような手段を執らなかつたからとて、必ず
しも所持なしとは言えない。
 (八)論旨は、原判決が認定したところによると、右家屋の裏口には外部からの
侵入を防ぐに足る何らの措置も講じてなかつたというのだから、たといB方が隣家
であつても、所持があつたとは言い得ない、と主張する。しかしB方が隣家である
ため、問題の家屋の裏口を常に監視して容易に侵入を制止し得る状況であり、現に
Aらの侵入に際しBの妻女が制止した事実を原判決が認めたような次第であつて、
Bに本件家屋の所持があつたと言い得る。
 (九)論旨は、かりにBがDの明渡によつて本件家屋を所持するに至つたとして
も、それは賃貸人として賃借人たるCのため一時的管理をしたーすなわちCのため
にする意思を以て所持したーと解すべきで、従つて「自己ノ為メニスル意思」なく、
占有権の要素たる「心素」を欠く、と主張する。しかし、BとCとの間に賃貸借が
あつたかどうかは、(二)に述べたとおり、原判決の認定しないところであるが、
かりに所論の様な賃貸借が有つたとしても、そのゆえにBに「自己ノ為メニスル意
思」がないとは言えない。
 (一〇)要するに原判決認定の事実によれば、Bは昭和二一年三月三日、当時の
占有者Dから本件家屋の引渡を受け「自己ノ為メニスル意思ヲ以テ」これを所持し、
その後同月七日Aらによつて占有を奪われるまでその所持を継続したものであるか
ら、当時Bに本件家屋の占有権があつたとした原判決の判断は正当であり、何ら所
論のごとき違法が存しない。(以上論旨第一点)
 よつて、以上の論旨いずれも理由がないから、民訴四〇一条八九条九五条により、
主文のとおり判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
     最高裁判所第三小法廷
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
 裁判長裁判官長谷川太一郎は退官につき署名押印することができない。
            裁判官    井   上       登

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