弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1控訴人らの控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人らに対し,各10万円及びこれに対する平成25年2月
20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1本件は,東京朝鮮中高級学校(以下「本件朝鮮学校」という。)を設置,運営
する学校法人東京朝鮮学園(以下「東京朝鮮学園」という。)が,平成22年1
1月30日付けで,文部科学大臣に対し,「公立高等学校に係る授業料の不徴収
及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」(平成22年3月31日法律第
18号。平成25年法律第90号による改正前のもの。以下「支給法」とい
う。)2条1項5号,「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学
支援金の支給に関する法律施行規則」(平成22年文部科学省令第13号。平成
25年文部科学省第3号による改正前のもの。以下「本件省令」という。)1条
1項2号ハ及び「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援
金の支給に関する法律施行規則第1条第1項第2号ハの規定に基づく指定に関
する規程」(平成22年11月5日文部科学大臣決定。以下「本件規程」とい
う。)14条1項(本件当時のもの。)に基づき,本件朝鮮学校につきいわゆる
外国人学校のうち支給法に定める高等学校等就学支援金(以下「就学支援金」
という。)の支給の対象となるもの(以下「支給対象外国人学校」という。)と
して指定することを求める旨の申請(以下「本件申請」という。)をしたとこ
ろ,同大臣から平成25年2月20日付けで,本件省令1条1項2号ハの規定
(以下,単に「規定ハ」という。)を削除したこと,本件規程13条に適合する
と認めるに至らなかったことを理由として,本件朝鮮学校につき支給対象外国
人学校としての指定をしない旨の処分(以下「本件不指定処分」という。)を受
けたことに関し,本件不指定処分がされた時点において本件朝鮮学校の高級部
の生徒であった控訴人らが,規定ハを削除したことは,支給法の委任の趣旨に
反し違法であるから,それを理由とする本件不指定処分も違法である,同大臣
は,本件朝鮮学校について,本件規程13条に違反する具体的事実は確認され
ていないにもかかわらず,政治的外交的理由から本件規程15条による審査会
の意見を聴くことなく本件不指定処分をしたものであるから,このような同大
臣の判断には裁量権の逸脱,濫用があり,本件不指定処分は違法であるなどと
し,それによって控訴人らは憲法26条が保障する教育を受ける権利と結びつ
いた重要な権利である就学支援金の受給資格を取得する権利又は法的利益を侵
害され,精神的苦痛を受けたと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,被控
訴人に対し,損害賠償として,控訴人ら1人につき10万円及びこれに対する
不法行為の日(本件不指定処分の日)である平成25年2月20日から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は,文部科学大臣が,本件朝鮮学校が本件規程13条に適合すると認め
るに至らなかったとして本件不指定処分をしたことには,同大臣の裁量権の範
囲の逸脱又は濫用があるとはいえず,審査会の意見を聴かないで本件不指定処
分をしたことも違法とはいえないから,その余の控訴人らの主張について判断
するまでもなく,本件不指定処分に違法はないとして,控訴人らの本件各請求
をいずれも棄却した。
控訴人らは,これを不服として,本件控訴を提起した。
2関係法令の定め及び支給法に基づく就学支援金制度の概要は,次に補正する
ほかは,原判決の事実及び理由欄の「第2事案の概要」の2(原判決2頁1
0行目から8頁21行目まで,原判決別紙関連法令の定めを含む。)のとおり
であるからこれを引用する。なお,以下においては,各名称の略称は原判決の
表記に従うものとする。
(原判決の補正)
原判決8頁21行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「文部科学省においては,支給法による就学支援金制度に関する事項
は,初等中等教育局財務課高校就学支援室(以下「支援室」という。)
が所管していた。」
3前提事実(証拠を付記しない事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣
旨により容易に認められる。なお,以下,証拠について枝番号を全て挙げる場
合には,枝番号の記載を省略する。)
当事者等(以下において役職を付する場合には,当時のものを指すことと
する。)
ア控訴人らは,本件不指定処分当時,いずれも本件朝鮮学校の高級部に在籍
する生徒であった(弁論の全趣旨)。
イ東京朝鮮学園は,本件朝鮮学校を設置,運営する学校法人であるところ,
本件朝鮮学校は,昭和30年(1955年)に,学校教育法による各種学校
(同法134条1項)の認可(同法134条2項,4条1項前段)を受けて
いる。
東京朝鮮学園は,文部科学大臣に対し,平成22年11月30日付けで,
本件朝鮮学校について規定ハによる支給対象外国人学校としての指定を求め
る本件申請を行った(甲22)。
文部科学大臣は,平成22年11月23日に発生した北朝鮮による大韓民
国延坪島(ヨンピョン島)の砲撃事件を契機に,本件朝鮮学校を含む朝鮮高
級学校(朝鮮中高級学校の高級部を含む。以下同じ。)について,規定ハによ
る支給対象外国人学校としての指定に関する手続を停止した(甲23)。
これに対し,東京朝鮮学園は,平23年1月17日付けで異議の申立てを
したところ,文部科学大臣は,行政不服審査法50条2項により不作為の理
由を「平成22年11月23日の北朝鮮による砲撃が,我が国を含む北東ア
ジア地域全体の平和と安全を損なうものであり,政府を挙げて情報収集に努
めるとともに,不測の事態に備え,万全の態勢を整えていく必要があること
に鑑み,当該指定手続を一旦停止している」と回答した(甲24から2
6)。
その後,本件申請に係る審査等の手続は,平成23年8月頃に再開された。
平成24年12月に衆議院議員総選挙が施行された後,同月26日に開催
された衆議院本会議において安倍晋三衆議院議員が内閣総理大臣に指名され
るなどして,いわゆる第2次安倍内閣(以下,単に「安倍内閣」という。)が
発足し,上記衆議院議員総選挙が施行される前の民主党を中心とする政権
(以下「民主党政権」という。)から自由民主党(以下「自民党」という。)
を中心とする政権(以下「自民党政権」という。)へのいわゆる政権交代がさ
れた(公知の事実。なお,上記民主党政権下の自民党を「野党時代の自民
党」ということがある。)。
安倍内閣において文部科学大臣に就任した下村博文衆議院議員(以下,「下
村文部科学大臣」といい,就任前については「下村衆議院議員」という。な
お,行政機関ないしその長としての文部科学大臣を指す場合には,単に「文
部科学大臣」という。)は,平成24年12月28日,規定ハを削除するとの
方針を明らかにし(甲27),本件省令1条1項2号の改正案を公表した(甲
28)。そして,文部科学大臣は,平成25年2月20日,同年文部科学省令
第3号により本件省令1条1項2号を改正し,規定ハを削除した(甲29。
以下,この改正を「本件省令改正」という。)。
上記平成25年文部科学省令第3号は,同日に公布され,公布の日である
同日から施行された(附則1条)。そして,改正前の規定ハによる指定を受
けている各種学校については,本件省令の規定は当分の間,なおその効力を
有する旨の経過措置が定められた(附則2条)。
また,文部科学大臣は,平成25年2月20日付けで,東京朝鮮学園に対
し,「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に
関する法律施行規則第1条第1項第2号ハに基づく文部科学大臣による指定
について(通知)」と題する書面(以下「本件不指定通知」という。)によ
り,本件朝鮮学校につき支給対象外国人学校としての指定をしない旨の本件
不指定処分をした。なお,本件不指定通知には,本件不指定処分の理由とし
て,①本件省令改正により規定ハを削除したこと(以下「理由①」という。)
及び②本件朝鮮学校の本件規程13条適合性の審査において同条に適合する
と認めるに至らなかったこと(以下「理由②」という。)が挙げられていた。
(甲30)
本件朝鮮学校は,平成25年4月17日付けで,文部科学大臣に対し,本
件不指定処分に対する異議申立てをしたところ,同大臣は,同年10月31
日,本件省令改正は,合憲・適法であり有効である,本件朝鮮学校は本件規
程13条に適合するものとは認めるに至らないとして,上記異議申立てを棄
却したが,決定書には,理由①と理由②の論理的関係性に関し,①指定に係
る審査において,朝鮮高級学校について,本件規程13条に定める基準に適
合するものとは認めるに至らないと判断した,②しかも,その審査の過程に
おいて,強制的に立入調査を実施して書類を押収するなどの権限がなく,指
定の基準を満たすかどうかの審査に限界があることが明らかになったこと及
び,当時指定済みの2校以外に規定ハによる指定を求める外国人学校はな
く,規定ハを存続させる必要性もないことから,本件省令改正をした,そこ
で,理由①及び理由②を並列的に示した本件不指定処分を通知したものであ
るとの記載がされていた。(乙36)。
控訴人らのうち2名は,民事訴訟法132条の2第1項に基づき,被控訴
人に対し,平成25年9月26日付けの書面により,本件不指定処分が違法
であることを理由とする慰謝料請求に係る訴えの予告通知をした上で,同月
30日,本件不指定処分の理由として本件不指定通知に①規定ハの削除及び
②本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったことが挙げられている
ことにつき,本件不指定処分の理由の個数(理由①と理由②の2つであるの
か,これらを併せた1つであるのか。)及び理由②の趣旨(本件朝鮮学校が本
件規程13条に「適合しない」と認めたことが本件処分の理由となるという
趣旨か,本件朝鮮学校が同条に「適合する」と認めるに至らなかったことが
本件処分の理由となるという趣旨か。)を照会した(甲31,32)。
被控訴人は,平成25年10月25日,前者の照会事項については,本件
不指定処分の理由は理由②と理由①の2つである旨を,後者の照会事項につ
いては,文部科学大臣が,本件朝鮮学校につき,本件規程13条に定める
「指定教育施設は,高等学校等就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確
実な充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならない。」との
基準に適合するものとは認めるに至らないと判断したという趣旨である旨
を,それぞれ回答した(甲33)。
4争点及び争点に対する当事者の主張(なお,国家賠償法6条の相互保証の有
無(原判決52頁17行目から同53頁8行目まで)の主張は,当審において
撤回された。)
本件不指定処分の理由について(争点1)
ア控訴人らの主張
本件不指定通知には,本件不指定処分の理由として,理由①及び理由②
が挙げられているところ,被控訴人は,当初は,上記2つが本件不指定処
分の理由であると回答した(甲33)が,本件訴訟において,主な理由は
理由②であり,理由①は念のために記載したなどと主張するに至った。
しかしながら,本件不指定処分の真の理由は,理由①であって,理由②
は後から作出されたもので理由とはなり得るものではない。
このことは,本件不指定処分に係る文部科学省作成の「決裁・供覧」と
題する文書(以下「本件不指定処分に係る決裁・供覧文書」という。乙6
5)の件名欄が「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校就学支
援金に関する法律施行規則第1条第2号ハの規定の削除に伴う朝鮮高級学
校の不指定について」とされていることからも明らかである。
安倍政権は,当初から,朝鮮高級学校を就学支給金の支給対象としない
ことを明らかにしており,下村文部科学大臣は,政治的外交的理由によ
り,本件不指定処分をするために,本件省令改正をしたものである。
すなわち,①自民党政務調査会の文部科学部会,拉致問題対策特別委員
会が,平成22年3月11日,「朝鮮学校は無償化の対象とすべきでない
事を強く表明する決議」をし(甲57),自民党政務調査会の文部科学部
会,外交部会,拉致問題対策特別委員会が,平成23年8月29日に菅直
人首相(当時)が文部科学大臣に対して凍結解除を指示し,本件朝鮮学校
を含む朝鮮高級学校の就学支援金支給対象の審査手続が再開されることに
なったのを受けて,3部会合同会議にて「指示の即時撤回を決議」したこ
と(甲62)などの自民党の諸部会における決議,②下村衆議院議員が,
平成23年9月20日,自民党の機関紙に掲載されたインタビューの中
で,いわゆる拉致問題や朝鮮高級学校が反日教育を行っていることを挙げ
た上で,朝鮮高級学校を就学支援金制度の対象とすべきではないとの見解
を明らかにしていること(甲59),③義家弘介参議院議員らを中心とす
る自民党所属の議員が,平成24年11月16日,朝鮮高級学校への無償
化適用を阻止することを目的として本件省令1条1項2号イ,ロ及びハを
法律上の規定に格上げした上で,同号ハを削除することを内容とする「公
立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関す
る法律の一部を改正する法律案」(甲61。以下「支給法一部改正法案」
という。)を参議院に提出するなど,野党時代の自民党は,朝鮮高級学校
を就学支援金の対象から外すことを意図していた。
そして,「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援
金の支給に関する法律施行規則の一部を改正する省令案の概要」と題する
文書(甲28)や,「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等
就学支援金の支給に関する法律施行令の一部を改正する政令案等に関する
パブリックコメント(意見公募手続)の実施について」と題する文書(甲
63)などの本件省令改正に関する文書は,安倍内閣発足後,極めて短時
間のうちに作成,公表されていることからすると,下村文部科学大臣は,
文部科学大臣への就任後,審査会における審査の状況や文部科学省が集約
した情報に基づく総合的判断を行って本件省令改正を決定したのではな
く,野党時代の自民党の方針を引き継ぎ,政治的外交的判断に基づいて上
記各文書の作成,公表を行ったものといえる。実際に,下村文部科学大臣
は,安倍内閣が発足した2日後である平成24年12月28日の定例記者
会見において,拉致問題に進展がないことなどの政治的外交的理由により
本件不指定処分を事実上決定し,そのために本件省令改正を進めたこと,
審査会での検討が継続していることを認識しつつ本件省令改正が実現した
後に本件不指定処分を行うことを決めていたこと,さらには,これらにつ
いては「政府全体で判断」した結果であることなどを述べている(甲2
7)。
さらに,本件不指定処分が政治的外交的理由の下で行われたことは,当
時の菅義偉官房長官(以下「菅官房長官」という。)が,上記の下村文部
科学大臣の発言につき,「政府全体としての方針であ」る旨の発言をした
こと(甲74)や古屋圭司拉致問題担当大臣(以下「古屋拉致問題担当大
臣」という。)が菅官房長官と同趣旨の発言をしたこと(甲93),メディ
アの一連の報道(甲82,83),又は本件申請に係る審査において,下
村文部科学大臣が審査会の意見を聴かずに不指定とすることを事実上決定
したことからも裏付けられる。
そして,本件省令改正により,経過措置が定められなかったことから,
申請後審理中の事案は,審理の根拠を失うことになるため,本件申請は審
査会の意見を聴くこともなく,十分な審査が行われることがないまま,本
件朝鮮学校につき本件規程13条に適合するとは認められないとして本件
不指定処分をすることが可能となったものである。このように,本件不指
定処分の理由①と理由②は各別のものではなく,理由①こそが真の不指定
処分の理由である(本件省令改正をしないと本件不指定処分が困難であっ
たことは,下村文部科学大臣の発言(甲27)等から明らかである。)。
また,本件省令改正と本件不指定処分は,いずれも平成25年2月2
0日付けでされているところ,本件省令改正による改正後の規定は,公布
された日から施行されるのに対し,本件不指定処分は同日付けであるが,
その効力が生じるのは,本件不指定処分にかかる本件不指定通知が東京朝
鮮学園に到達し,告知された時であるから,早くて翌日の21日である。
したがって,本件不指定処分が効力を生じたときには既に本件省令改正に
より本件規程の根拠規定が削除されていたのであるから,理由②は存在し
ない本件規程との適合性をいうものであって無効であり,本件不指定処分
の理由とはなり得ない。
イ被控訴人の主張
本件不指定処分で挙げられた理由①と理由②は,論理的は両立するもの
ではないが,それぞれが本件不指定処分を理由あらしめるものである。
被控訴人が本件不指定通知に理由①と理由②を並記したのは,文部科学
大臣が本件朝鮮学校を含む各朝鮮高級学校について,本件規程13条に適
合すると認めるに至らないと判断するとともに,規定ハに基づく指定に係
る審査の中で,審査会に強制的な権限がなく,審査についての限界がある
ことが明らかになったこと,朝鮮高級学校以外に規定ハによる申請がなか
ったことから,本件規程の存続に疑問が生じたために本件省令改正を行う
こととし,その結果,規定ハによる指定の仕組みの下では本件朝鮮学校を
含む各朝鮮高級学校が就学支援金の対象校として指定を受けられなくなる
からである。本件不指定処分に先立ち,本件規程13条の適合性と本件省
令改正が並行して検討された経緯に照らせば,本件省令改正と本件不指定
処分が同日にされ,また,理由①及び理由②が並記されているのはむしろ
検討過程の忠実な反映であって何ら問題とされるものではない。なお,
「民事訴訟法第132条の2第1項による回答書」(甲33)において理
由が理由②,理由①の順に記載され,他文書(甲30,乙36,64,6
5)と異なっているのは,訴訟を担当する法務局担当者により作成された
ものであり,訴訟上の主張と平仄を併せたにすぎないのであって,理由の
位置付けを変更するものではない。
控訴人らは,①野党時代の自民党の見解や下村衆議院議員の発言におい
て北朝鮮の拉致問題等を理由に朝鮮高級学校に対する就学支援金の支給に
反対姿勢が示されていたこと,②下村文部科学大臣が,就任後の記者会見
において,拉致問題の進展がないこと等に言及していたこと,③菅官房長
官や古屋拉致問題担当大臣も同趣旨の発言をしていたこと,④文部科学大
臣が審査会の意見を聴かずに本件不指定処分をしたことなどを指摘して,
本件省令改正及び本件不指定処分が政治的外交的理由によりされたもので
あるなどと主張する。
しかしながら,上記①のうち,野党時代の自民党の姿勢は,飽くまで政
権交代前の野党としての姿勢にすぎないのに対し,下村文部科学大臣がし
た本件省令改正や本件不指定処分は,文部科学省という行政機関としての
見解に基づいてその長である文部科学大臣の立場においてされたものであ
り,野党時代の自民党の姿勢とは切り離して考えるべきであるから,野党
時代の自民党の姿勢をもって,直ちに本件省令改正や本件不指定処分が政
治的外交的理由によってされたということはできない。また,下村衆議院
議員の機関紙での発言は,いずれも野党議員としての発言であり,文部科
学大臣として本件省令改正や本件不指定処分をした理由について答えた発
言ではなく,これをもって本件省令改正や本件不指定処分が政治的外交的
理由に基づくものであるということはできない。
上記②及び③に関する控訴人らの主張は,一般論を述べているにすぎな
い下村文部科学大臣らの発言を,本件省令改正や本件不指定処分が政治的
外交的理由によりされたものであるかのように恣意的に引用するものであ
って失当である。かえって,下村文部科学大臣は,本件不指定処分前日の
平成25年2月19日及び本件不指定処分後の同年5月24日の記者会見
において,本件不指定処分が政治的外交的理由によりされたものではな
く,本件規程13条の基準に適合すると認めるに至らなかったことを理由
とする趣旨の発言をしている(乙63,73)。
さらに,上記④についても,審査会の意見は,文部科学大臣の判断要素
の一つにすぎないこと,審査会の議論を考慮して本件不指定処分をしてい
ることからすると,控訴人らの主張する事実をもって,本件不指定処分が
政治的外交的理由によりされたものということはできない。
本件規程は,規定ハの「文部科学大臣が定めるところ」として指定の基
準及び手続等を定めたものであるから,規定ハを削除する本件省令改正に
より,下位法令である本件規程は存立の基礎を失い,理由②が成立しなく
なるのであって,理由①と理由②は両立しない関係にある。本件不指定処
分の理由としてどちらが成り立ち得るかは,本件省令改正の効力発生時期
と本件不指定処分の効力の発生時期により定まる。
そして,本件省令改正後の省令は,平成25年2月20日付けの官報に
よって公布され,同日に対外的効力が発生した。また,本件不指定処分は
東京朝鮮学園に告知されることで効力が発生するところ,本件不指定処分
は同日付けでされ,それ以後に本件不指定通知が東京朝鮮学園に到達した
ものと考えられる。他方,本件不指定処分の決裁は同月15日付けでさ
れ,同月19日,文部科学大臣が記者会見で本件不指定処分に係る通知文
書を同月20日に発出することなどを表明してそれが報道されていた。ま
た,本件不指定通知と同内容の書面が同月19日に東京朝鮮学園にファク
シミリで送信されており,同日には東京朝鮮学園は本件不指定処分を了知
し,効力が生じていたとみることもできる。
したがって,理由①及び理由②のいずれが本件不指定処分の理由となる
かは一概にはいえない。
しかしながら,本件において,本件省令改正と本件不指定処分の効力の
時間的前後関係を確定することが不可欠なものとはいえない。本件不指定
処分の効力発生が本件省令改正の効力に先行した場合,理由②が是認され
れば,控訴人らの請求は理由がないことが明らかであり,本件省令改正の
効力発生が先行した場合でも,本件省令改正が違法とされたときは,改正
がない前提で理由②による本件不指定処分が是認されれば上記と同様であ
り,本件省令改正が有効であれば本件不指定処分が違法となる余地はな
い。本件不指定処分はいずれにせよ理由②が主たる理由であって,本件朝
鮮学校が本件規程13条の基準を満たさないとの文部科学大臣の判断に裁
量権の範囲の逸脱や濫用が認められないのであれば,控訴人らの他の主張
については判断の必要がない。
本件省令改正が支給法2条1項5号の委任の範囲を逸脱するものか否か,
本件省令改正を理由(理由①)とする本件不指定処分は違法か否か(争点
2)
ア控訴人らの主張
規定ハの削除(本件省令改正)が法の委任の趣旨に反すること
a法の委任の趣旨及び仕組み
支給法は,「教育の機会均等に寄与することを目的と」し(同法1
条),「全ての意志ある後期中等教育段階にある生徒の学びを保障」すべ
く制定されたものであり,そのため,支給法は,就学支援金を生徒に代
理して受領する高等学校等の中に,「高等学校の課程に類する課程を置
くものとして文部科学省令で定める」各種学校を定めたのである(同法
2条1項5号)。このように,「高等学校の課程に類する課程」につき,
支給法が本件省令に委任した趣旨は,教育行政についての専門技術的な
知見に基づき,「高等学校の課程に類する課程」を置くか否か(後期中
等教育を行っているか否か)について制度的・客観的な判断基準を設け
ることにより「高等学校の課程に類する課程」を置く学校を適切に認定
し,もって「全ての意志ある後期中等教育段階にある生徒の学びを保
障」することにある。また,支給対象外国人学校の指定手続において
「政治的外交的配慮を行ってはならず」,「教育上の観点から客観的に判
断すべき」であることは,法案審議の段階で正式な政府統一見解として
公に確認され,これを前提に法律が可決成立し,さらに法律制定後も繰
り返し確認されていたのであり,このことは,法の委任の趣旨の確定に
当たって当然に考慮されなければならない。
b重要な権利利益の侵害
支給法は,社会権規約13条2項⒝の遵守(留保の撤回)を目指した
ものであり,支給法に基づく控訴人らの受給資格を取得する権利又は法
的利益は,社会権規約の上記規定を具体化したものであるから,支給法
に基づく控訴人らの権利又は法的利益は,憲法26条が保障する教育を
受ける権利と分かち難く結びついており,教育の機会均等の趣旨に合致
する重要な権利利益であって,この観点からも行政機関の裁量は狭いと
いうべきである。
c規定ハの削除は朝鮮高級学校の生徒が就学支援金を受ける道を閉ざ
すもので支給法の趣旨に反すること
規定ハが設けられたのは,本件省令1条1項2号イ,ロには該当し
ないが,朝鮮高級学校のように,高等学校と同水準の普通教育を行い,
卒業生の大学入学資格も認められている高等学校と同等性を有する学校
が存在するという現実を直視したからである。そして,実際に,Eスク
ール及びF学園が規定ハによって指定されている。
規定ハが削除されれば,本件省令1条1項2号イ,ロに該当しない
朝鮮高級学校は支給法に基づき指定される余地はなくなるから,同校の
生徒は再申請の場合を含めて就学支援金受給の可能性を一切閉ざされる
ことになる。
このような就学支援金受給の可能性を閉ざす省令改正は,「高等学校
の課程に類する課程」を置く学校を適切に認定し,もって「全ての意志
ある後期中等教育段階にある生徒の学びを保障」するという支給法の委
任の範囲を逸脱しており,違法無効である。
d被控訴人の主張が失当であること
被控訴人が本件朝鮮学校を含む朝鮮高級学校について,本件省令1条
1項2号イ,又は同号ロによる指定可能性を主張する点については,
本件省令改正による規定ハの削除により,本件朝鮮学校の生徒が就学
支援金を受給することができなくなったという事実は変わらず,将来
の本件朝鮮学校の学校教育法制上の位置づけの変更可能性は何ら関係
がない。この点を措いても,本件省令1条1項2号イに該当するため
には,日本と北朝鮮との間に国交が回復し,「大使館を通じて日本の高
等学校の課程に相当する課程であることが確認できるもの」となる必
要があり,本件朝鮮学校の生徒らの努力によって解決し得るものでは
なく,本件省令1条1項2号ロに該当するためには,欧米圏の言語に
よる教育を実施して国際的に実績のある学校評価団体による認証を受
ける必要があるところ,本件朝鮮学校が朝鮮語という民族語による民
族教育を行う外国人学校という特質を維持することができなくなるこ
とを意味しており,いずれの主張も失当である。
また,本件規程13条適合性の審査に限界があるとの主張について
は,そもそも本件規程が,指定の申請にあたり提出すべき必要書類
(14条),文部科学大臣の学識経験者等で構成される会議に対する意
見の聴取(15条)を定めるにとどまり,指定に係る審査において,
強制的に立入調査を実施して書類を押収することを予定していないの
であるから失当である。被控訴人の主張は,本来支給法が予定してい
ない事項を調査・審査することを前提とするもので法の趣旨に反す
る。そして,本件朝鮮学校においては,申請に当たり必要書類を提出
し,その後も文部科学省の指示に従って追加書類の提出を行い,担当
者らの訪問を受けるなど,全て本件規程の定めに従い,担当者らの指
示に従って必要な作業を行っており,書類の提出を拒んだり,訪問を
拒んだりしたことはない。さらに,Eスクール及びF学園は規定ハに
よって指定されているところ,これらの学校については審査に支障は
なく,指定の判断に至ったのに対し,本件朝鮮学校についてのみ,ど
のような支障があり得たのかについて被控訴人が具体的な主張立証を
行っていない点からも,実際のところ審査には支障がなかったことを
裏付けるものである。
なお,原審における証人Aは,文部科学省においては,本件省令改正
による規定ハの削除に当たり,支給法の委任の趣旨に反するかどうか
全く検討していない旨を証言しているが,中央省庁である文部科学省
が国会の制定法を無視したということは到底考えられないことから
も,同証言は信用できない。
本件省令改正が政治的外交的理由によりされたこと
支給法の趣旨・目的は,aのとおり,「全ての意志ある」「生徒の
学びを保障」し,「教育の機会均等に寄与する」という点にあり,規定ハ
を設けて「高等学校の課程に類する課程を置く」外国人学校であれば,広
く制度の対象とする制度設計が行われた。このような法の趣旨・目的及び
規定ハへの委任の趣旨からすれば,支給対象外国人学校の指定基準を定め
るに当たって,あるいは具体的な指定手続において,政治的外交的理由に
よって特定の教育施設を排除することは,「高等学校の課程に類する課
程」を置くかどうかという教育上の観点とは無関係の事情を考慮するもの
であって許されない。このことは,支給法の法案審議の過程等で「政府統
一見解」として再三にわたって表明され,これを前提に法律案が審議可決
された上,支給法成立後に文部科学大臣の諮問機関として設置された高等
学校等就学支援金の支給に関する検討会議(以下「検討会議」という。)
が,平成22年8月30日付けで公表した「高等学校の課程に類する課程
を置く外国人学校の指定に関する基準等について(報告)」(甲14。以下
「指定に関する基準等に係る報告」という。)において改めて確認されて
いることからも明らかである。このように,支給対象外国人学校の指定手
続において政治的外交的理由に基づき特定の教育施設を排除してはならな
いことは支給法の立法者意思であるところ,このような確定的解釈基準を
変更するためには,法改正を行うことが必須であって,行政府による解釈
基準の変更の見解を示すことのみでこれを変更することはできず,文部科
学大臣が上記確定的解釈基準に反する省令の改正をすることは許されな
い。
被控訴人は,朝鮮高級学校を就学支援金の支給対象としないために,支
給法の趣旨に反して,国会の審議等を要しない本件省令改正という手段を
用いて本件不指定処分をしたのであり,そのことは安倍内閣の言動,支給
法の趣旨及びそれに関する政府見解,本件省令改正までの経緯から認めら
れるところである。
本件申請は,民主党政権の時代にされていたものであるが,政権交代に
より自民党政権になると,安倍内閣は直ちに朝鮮高級学校に就学支援金を
交付しないこととして,そのために本件省令改正に着手したものである。
朝鮮高級学校の支給対象外国人学校の指定に関して,民主党政権時に4
回の審査会が開催されたが,本件朝鮮学校については法令違反等の事実は
何ら確認されておらず,支給対象外国人学校に指定するのに障害はなかっ
た。本件規程13条の適合性については,財務諸表等の作成,理事会等の
開催実績等の外形的事項のほかは認可権者である所轄庁を通しての調査・
確認が予定されているが,その結果,法令違反は認められず,朝鮮総聯等
との関係についても審査会による審査の結果,教育基本法その他の法令違
反の具体的事実は認められなかった。
本件省令改正が行われた時点でも,審査会の審査は継続されており,朝
鮮高級学校について本件省令1条1項による文部科学大臣の指定をするこ
とを前提に留保事項の検討がされていたのであり,上記の指定について議
論が最終段階に達し,審議事項について肯定的な結論が見込まれた。しか
しながら,本件省令改正により本件不指定処分がされたことによって,審
査会の上記審査は結論が出されないまま強制的に打ち切られることになっ
た。審査会が審査を継続して本件規程15条による意見を述べた場合,不
指定とすることとした「政府全体の方針」と矛盾する意見が述べられるこ
とが容易に予想されたため,審査会の意見を聴かないまま審査を打ち切っ
て本件不指定処分をするために本件省令改正がされたのである。本件省令
改正により審査会の審査が打ち切られることになったため,本件規程13
条に適合すると認めるに至らなかったことになったのである。自民党は,
野党時代から朝鮮高級学校に無償化を適用することを阻止するために,支
給法の改正案を参議院に提出するなどしていたが,自民党政権になるとそ
のことを国会の審議を要しない本件省令改正により実現したのである。
被控訴人は,本件省令改正の理由として,本件規程に基づく審査におい
て指定の基準を満たすかどうかの審査に限界があることが明らかになった
からであり,政治的外交的理由によるものではないと主張する。しかしな
がら,本件省令改正に係る意見公募手続の結果の公示(甲64)におい
て,上記の理由が本件省令改正の理由となった旨の記載はなく,「朝鮮学
校については,拉致問題の進展がないこと,朝鮮総連と密接な関係にあり
教育内容,人事,財政にその影響が及んでいることを踏まえると,現時点
での指定には国民の理解を得られない」ことを「文部科学省の考え方」と
して記載している。これは,意見公募手続における「提出意見を考慮した
結果」(行政手続法43条1項4号)であり,文部科学省の意見にとどま
らず,同省内で,本件省令改正に当たり具体的にどのような事項を考慮し
たかなどの判断過程を明らかにするものである。したがって,本件省令改
正の理由は,審査会の審査に限界があるということではなく,上記「文部
科学省の考え方」に沿うものであり,政治的外交的理由によるものであっ
たことが明らかである。
なお,控訴人らが,本件省令改正に関する意見公募手続についての決裁
文書,結果の公示に関する決裁文書の開示を求めたのに対し,被控訴人
は,同文書は存在しないと主張したが,公文書管理法上,決裁文書の作
成,保管は義務であるから被控訴人の説明は虚偽であると考えざるを得な
い。また,控訴人らが本件省令改正のための決裁文書及び本件不指定処分
のための決裁文書の開示を求めたのに対して,被控訴人が開示した文書は
「24文科初第1128号」及び「24文科初第1129号」の番号が抜
けていたところ,被控訴人は,控訴人らに対し,上記は文書番号が取得さ
れたものの文書は作成されず欠番になっているためであると説明をした。
しかしながら,文部科学省内部では,起案者から文書管理班に文書記号・
文書番号の付与の申出があって文書記号等が付与されるのであり,文書記
号・文書番号を先に取得して文書作成が行われることはあり得ないから,
文書記号・文書番号が付与された文書は,決裁手続が終了していることが
明らかである。被控訴人のこの点についての説明も虚偽であると考えざる
を得ない。被控訴人のこのような態度は,開示されない文書に本件省令改
正が政治的外交的理由で行われたことを示す記載があるなど,被控訴人に
不利な内容を含んでいる可能性を示すものである。
イ被控訴人の主張
本件省令改正は支給法の委任の趣旨を逸脱するものではないこと
委任命令が法の委任の趣旨を逸脱するかどうかの判断は,授権規定の文
理,委任の趣旨,授権法の趣旨,目的等に照らして判断されるのであり,
所管大臣の主観的判断は関係がない。
支給法2条1項5号は,就学支援金の支給対象校として指定され得る各
種学校を「文部科学省令で定めるもの」としているが,これは教育行政に
精通する行政機関の専門技術的知見が不可欠であることに鑑み,就学支援
金の支給対象校の指定を下位法令に委任したものである。したがって,支
給対象校の定め方は行政機関の広範な専門技術的裁量に委ねられたもので
ある。
規定ハに基づく審査には限界があり,その問題性が明らかになったので
あるから,それを解決することは文部科学大臣の責務であり,裁量権の範
囲内のことである。各朝鮮高級学校についての審査で規程ハの問題性が明
らかになったこと,また,文部科学大臣が朝鮮学園以外に規定ハに基づく
申請をする学校がないと判断したことから本件省令改正を行ったものであ
り,本件省令改正が支給法の委任の範囲を逸脱するものでないことは明ら
かである。
控訴人らの本件省令改正は朝鮮高級学校を不指定とするためにされたも
のであるとの主張は,根拠のないものである。決裁文書の件名等から控訴
人らの主張を根拠付けることはできないし,被控訴人が意見公募手続の実
施,結果公示についての決裁文書を隠しているなどというのも根拠のない
憶測にすぎない。
なお,本件省令改正は,東京朝鮮学園が本件申請をした後にされたもの
であるが,上記のような諸事情を踏まえ,文部科学大臣において,基準適
合性の審査に限界があることが判明した規定ハを放置せずに削除すること
が裁量の範囲にあることは当然であることは上記のとおりであるし,そも
そも本件省令改正は,東京朝鮮学園に新たな義務を課したり既存の権利を
奪うようなものではなく,東京朝鮮学園において従来と同様の態勢の下で
従来どおりの教育活動を行うことは何ら妨げられていないのであるから,
本件省令改正が本件申請後にされたことは,本件省令改正の適法性を左右
するものではない。
本件省令改正は政治的外交的理由によりされたものではないこと
朝鮮高級学校の審査過程に
おいて指定の基準を満たすかどうかの審査に限界があることが明らかにな
ったこと,他方,当時,規定ハによって既に指定した一部の外国人学校以
外に同規定による指定を求める外国人学校はなく,規定ハを存続させる必
要性もなかったことからされたものであり,何ら政治的外交的理由による
ものではない。
控訴人らは,下村文部科学大臣の「外交上の配慮などにより判断しない
と,民主党政権時の政府統一見解として述べていたことについては,当然
廃止」とする発言をもって本件省令改正が政治的理由により行われたもの
と主張するが,同発言は,政権が交代した以上,それまでの政府見解をい
ったん白紙に戻した上で新たな方針で運営を行うという当然のことに言及
したものにすぎず,これをもって本件省令改正が政治的理由によるもので
あるとするのは誤りである。
規定ハを削除しても朝鮮高級学校の生徒が就学支援金を受給する可能
性を一切閉ざすことにはならないこと
控訴人らは,本件省令改正により,規定ハが削除されれば,朝鮮高級学
校の生徒が就学支援金支給を受ける可能性が一切閉ざされることとなるか
ら,そのような省令改正は支給法の委任の範囲を逸脱しており違法である
旨主張する。
しかしながら,そもそも,支給法は,外国人学校を含む各種学校につい
ては,「高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定
めるものに限り」(同法2条1項5号)と定め,その限りで就学支援金の
支給対象となることができる旨を規定しているにすぎず,控訴人らがいう
ような「全ての意志ある後期中等教育段階にある生徒」を対象としている
ものではない。外国人学校が「高等学校の課程に類する課程」を有するも
のと認められなかったために就学支援金の支給を受けられなかったとして
も,そのことは,法令の定める支給要件を充足するものと認められなかっ
た結果である。支給法は,そもそも,法令の定める支給要件を充足するも
のとは認められない外国人学校について支給対象外国人学校とはしていな
いのである。
また,本件朝鮮学校を含む朝鮮高級学校は,制度上,支給法2条1項1
号ロの「高等学校」にもなり得るし,本件省令1条1項2号イによる指
定,同号ロによる指定もあり得るところであり,規定ハによる指定を受け
なければ就学支援金の支給対象校となることができないということはな
い。
本件規程13条に適合すると認めるに至らなかった(理由②)として本件
不指定処分をしたことが,文部科学大臣に与えられた裁量権の範囲を逸脱し
又はその濫用があったものとして違法であるか否か(争点3)
ア控訴人の主張
本件朝鮮学校が本件規程13条に適合すること
a本件規程13条の基準について
支給法の趣旨は,aのとおりであり,「その在学する学校
の設置者の種類や意向に関わらず,より幅広く後期中等教育段階におい
て学ぶ生徒に対して確実な支援を行うことを可能とする」ために,本件
省令1条1項2号で「各種学校であって,我が国に居住する外国人を専
ら対象とするもののうち,次に掲げるもの」として,イ,ロに続きハを
設けて「高等学校の課程に類する課程を置くものと認められる」外国人
学校を広く制度の対象としたのであるから,本件規程は上記指定に当た
っては「高等学校の課程に類する課程を置く」かどうかの点について制
度的・客観的審査に係る事項を定めた規定と解釈されるべきものであ
る。また,都道府県知事は,各種学校の認可権限を有し,学校教育法,
私立学校振興助成法に基づく,監督権,報告聴取,立入り,帳簿検査等
の調査権限を有しているから,支給法の適用に当たり,重ねて文部科学
大臣の審査を受けることを予定していないのであって,指定に当たって
「授業料に係る債権の弁済への確実な充当」のため制度的客観的審査と
は無関係に「一般的な学校運営の適正性」についての審査は予定されて
いない(このことは支給法成立時の川端文部科学大臣の答弁からも明ら
かである。)。
本件省令1条1項2号イは本国における学校と同等であると公的に認
められる場合,同ロは国際的に実績のある評価機関による認定を受けた
場合であり,学校の性質や教育内容に制度的な保証があるものであり,
規定ハは上記イ,ロに当たらない場合をカバーする趣旨であることが明
らかである。しかし,規定ハに係る外国人学校の中には,東京朝鮮学園
など都道府県知事の監督に服しているものがあり,都道府県知事は報告
徴収,立入り,調査帳簿検討などの調査権限を有しているから制度的な
保障がないわけではない。東京朝鮮学園は学校教育法により各種学校と
して認可を受けていることが考慮されるべきである。
文部科学大臣は,政治的外交的理由などではなく生徒の学びを保証す
る観点から,規定ハによって指定するにあたって必要な事項について検
討会議に検討を依頼した。平成22年8月30日,検討会議は,指定に
関する基準等に係る報告により,「修業年限,教育課程及び教育水準に
ついて」「教員の資格について」「適正な学校の情報の提供及び公表につ
いて」「法令に基づく適正な学校の運営について」の4点を基準として
挙げ,最後の点については「各校が就学支援金の管理を適正に行うとと
もに,これらの関係法令の諸規定を遵守していることは当然」と説明さ
れている。この報告を受けて本件規程が定められたことからも,本件規
程13条の「学校の適正な運営」の認定は教育内容や運営実態等に立ち
入って調査を行うことは予定されていないし,そのような調査をして就
学支援金の受給を妨げる根拠規定として同規程を解釈することは許され
ない。
本件規程13条が要求する学校の適正な運営とは,支給法により支給
された就学支援金が学校等により流用されることなく授業料に係る債権
の弁済に当てられることであり,同条の審査は情報公開,会計処理等,
就学支援金の授業料への充当に関連する事項についての最低限の審査に
限られる。このことは,規定ハにより指定を受けたEスクール及びF学
園についての審査会の報告書は「適正な学校運営」について,いずれも
「財務諸表等の作成」欄に「財産目録の作成,財務諸表,事業報告書,
監査報告書を作成」,「理事会等の開催実績」欄には「理事会8回,評議
会6回(H22年度)」「理事会8回(H22年度)※NPO法人であっ
たため,評議会については昨年度の開催実績はなし。」,「所轄庁による
処分」欄には「なし」と記載されているにすぎないのであって,形式的
事務的な調査,判断しかされていないことからも明らかである。
以上からすれば,支給法2条1項5号及び規定ハにいう「高等学校の
課程に類する課程」は,各種学校がすべての面で高等学校と同等である
ことを要求するものではなく,同文言を教育課程に限らず,内容,学校
の組織及び運営体制も含むものとして,授業料に係る債権の弁済への確
実な充当のための審査と無関係に一般的な学校運営の適正性の審査を行
う根拠とすることはできない。また,「類する課程」とされていること
からも高等学校と同等のものが要求されているものではないから,一般
的な学校運営の適正性の審査を行うべき根拠とすることはできない。
したがって,本件規程13条の「学校の適正な運営」は,就学支援金
の授業料に係る債権への確実な充当がされることを指すのであり,その
制度的客観的審査を行うことが求められるのであって,その審査と無関
係に一般的な学校運営の適正性の審査までを行うことは,制度利用につ
いて過剰な制限であり許されない。
よって,本件不指定処分に当たって,文部科学大臣が,本件規程13
条の適合性の判断において教育基本法16条1項にいう「不当な支配」
にかかる事情を考慮することは,その裁量権の範囲を超えるものであ
る。
b被控訴人が主張する4要件について
被控訴人は,本件規程13条について,申請者において,①当該学校
における教育内容が教育基本法の理念に沿ったものであること,②支給
した就学支援金が授業料以外の用途に流用されるおそれがないこと,③
外部団体・機関から不当な人的・物的な支配を受けていないこと,④反
社会的な活動を行う組織と密接に関連していないことを,申請者におい
て主張立証しなければならないという。
しかしながら,被控訴人の上記主張は,支給法制定時,本件規程制定
時,審査会の各議論においても一度も検討されたことがなく,原審にお
いても主張されたことがなかったものである。
上記の①,③及び④は支給法や本件規程の審理等においても主張や審
議がされたことはなく,被控訴人の主張は全く根拠のないものであり,
正当な解釈ではあり得ない。
被控訴人は,本件規程13条の適合性の判断は,処分当時に存在した
客観的事実関係によって,事後的客観的に判断されるべきであると主張
し,朝鮮総聯は反社会的組織としての側面を有すると強く疑われる,朝
鮮総聯が朝鮮高級学校を含む朝鮮学校の人事,教育内容等に影響を及ぼ
していることが国会答弁等で再三指摘されているなどと朝鮮総聯と朝鮮
学校の関係を問題とし,本件不指定処分の理由として正当化されると主
張する。
しかしながら,支給法制定当時,当時の川端文部科学大臣は,朝鮮総
聯と朝鮮学校の関係については考慮しないことを明言しており,審査会
の審議でも審査基準に直結する問題ではなく,留意事項との関係で調
査,確認の対象となっているにすぎなかった。
また,東京朝鮮学園及び本件朝鮮学校は,①学校及び法人としての意
思決定が,関係法令及び寄付行為の規定に従ってされており,②人事に
ついても関係法令等に従って,理事会が解職採用等を判断しており,ま
た,③会計処理及び財産管理も関係法令,学校法人会計基準に従って行
われて,第三者への不当な資金流出の可能性は認められず,④教育課程
は関係法令の規定に従って学校法人の判断で決定,変更されており,そ
の内容も日本の学校教育指導要領を参考にしながら朝鮮人としての民族
性を育みつつ,日本社会での定住を前提にしたものとなっており,⑤こ
れらの管理,運営の実情を東京都知事に定期的に提出しているところ,
都知事から法令違反等の指摘がされたことはない。このような東京朝鮮
学園及び本件朝鮮学校の運営の実態からすれば,民族団体である朝鮮総
聯との一定の関係があったとしても私立学校法その他の関係法令に違反
するものではなく,これをもって本件不指定処分の根拠とすることはで
きない。また,被控訴人が主張するように朝鮮総聯との関係性を「高等
学校の課程に類する課程」があるかどうかの判断において加味すること
は,政府,文部科学省との見解とも矛盾するものであって,これが許さ
れないことは,原審においても控訴人らが主張したところである。
c朝鮮総聯の性質及び本件朝鮮学校の教育課程について
被控訴人は,朝鮮総聯が「反社会的組織」の側面を有することが強く
疑われるなどと主張するが,被控訴人の指摘する報道や公安調査庁の見
解は,朝鮮総聯が反社会的組織であることを推認させるものではない。
公安調査庁は,朝鮮総聯が「将来,暴力主義的破壊活動を行うおそれが
あることを否定し得ない」というが,その根拠は在日朝鮮統一民主戦線
が過去の暴力主義的破壊活動を行った疑いがあるというものであり,上
記組織と朝鮮総聯の連続性はなく,60年以上も前のことを理由に調
査,監視の対象とすることに合理的理由はない。公安調査庁は合法化か
つ正当な組織も調査の対象としており,公安調査庁が朝鮮総聯を調査,
監視の対象としていることから朝鮮総聯が反社会的組織であるというこ
とはできない。
また,控訴人らは本件朝鮮学校において勉学をしていた者にすぎない
が,朝鮮総聯は日本の各政党から合法的かつ正当な民族団体として承認
されているのであって,朝鮮総聯が反社会的組織の側面を有するという
主張は失当である。
朝鮮高級学校の教育内容は,支給法制定時の政府の見解で明らかなよ
うに本件申請の審査対象とはならず,実際に審査会においても教材の記
述等は審査基準とは無関係とされ,留意事項として改善を促すにとどめ
ることとされていた。
なお,朝鮮学校で使用する教科書は,在日朝鮮社会の実情に合わせる
ように改訂され,日本の学習指導要領の改訂も参照しながら,日本での
定住を前提としている民族教育の実情に合わせて作成されている。
このように,本件不指定処分について,被控訴人が指摘する朝鮮高級
学校と朝鮮総聯の関係,教育内容について主張はすべて根拠がなく失当
である。
d本件朝鮮学校には,審査の過程においても本件規程13条に違反する
具体的事実は確認されなかった。平成24年3月26日に開催された第
6回審査会では,本件朝鮮学校について,本件規程13条に違反する具
体的事実が何ら発見されなかったことが確認されるとともに,朝鮮高級
学校を制度の対象として指定することを前提とした留意事項の素案が示
され(甲72),平成24年9月10日に開催された第7回審査会にお
いては,第6回審査会で示された留意事項の素案を整理した留意事項の
素案が示され,今後の予定として,「今回の議論を踏まえながら,今後
も審査作業を進めていく」,「次回の審査会については,決まり次第,連
絡する」ものとされた(甲73)。
したがって,朝鮮高級学校の法令違反の有無は,所轄庁が判断すべき
であるとの基本的立場の下,本件朝鮮学校については,所轄庁である東
京都を通して,法令違反の有無やその運営実態を調査した結果,審査の
過程で法令違反の具体的事実は何ら確認されなかったものといえる。
そして,本件朝鮮学校は,人事,財政及び教育内容のいずれの側面に
おいても,教育機関としての独立性をもって,自身の判断で教育活動を
行っており,財務関係書類が整備され,地方自治体から受給した補助金
についても適正に管理してきたのであって,代理受領した就学支援金が
授業料に係る債権の弁済に充当されない事態が発生するおそれは一切な
い。また,異国の地で教育を行う外国人学校に対して,本国又は関連す
る民族団体がその教育活動等を支援することは,一般的な事象であり,
東京韓国学校の例でも,大韓民国及び同国を支持する団体である在日大
韓民国民団と密接な関係を持ち,多様な支援を受けている。さらに,朝
鮮高級学校の教育が不当な支配に当たらないことについては,別件判決
(神戸地方裁判所平成26年4月22日,大阪高等裁判所平成27年2
月3日。甲99,100)において明確に認定されているところであ
り,本件朝鮮学校を始めとする朝鮮高級学校において「不当な支配」に
該当するような関係が存在しなかったことは明白である。
なお,証人Bは,本件不指定処分当時,文部科学省内には朝鮮高級学
校は,本件規程13条に適合すると認めるに至っていないとの認識,朝
鮮高級学校の審査に具体的支障があるとの認識及び規定ハ自体に問題が
あるとの認識があった旨証言する。しかしながら,既に述べたとおり,
審査会においては法令違反等の事実等は何ら確認されておらず,指定に
向けた障害が存しなかったこと,本件朝鮮学校は,本件規程に従い,文
部科学省の指示に従った情報提供に協力し,審査会の審査の継続にも困
難はなかったこと,文部科学省において審査会の結論についての督促や
質問をしたことがなく,審査会自身も判断できないという結論を出した
ことがないこと,第7回の審査会において,最終的な結論提示の必要性
や今後の作業継続について言及がされていたことなどに照らすと,B証
人の上記証言は信用できない。
本件不指定処分は本件規程15条による審査会の意見を聴かずにされた
ものであること
a審査会は,本件設置決定(原判決別紙「関係法令の定め」5項)の定
めに基づいて設置されたものであるところ,本件設置決定は本件規程1
5条,17条に定める「教育制度に関する専門家その他の学識経験者で
構成される会議」の具体的内容を定めるものであり,本件設置決定の根
拠は本件規程にあるとともに,本件規程の制定根拠は,支給法2条5号
に由来することからすると,審査会が支給法に由来する制度上の正規の
合議制審査機関であるものといえる。
b審査会は,本件運営決定(原判決別紙「関係法令の定め」6項)にの
っとって運営されるものであるところ,①本件規程に定める指定の基準
に基づき審査を行うなど,専門技術的見地から客観的に判断するよう制
度設計され,②また,単に文部科学大臣から提供された情報のみなら
ず,実地調査の権能を有し,自ら情報収集し,具体的な審査をすること
が予定されており,③さらに,審査会の定足数が過半数とされ,議事は
出席した委員の過半数で決することとされ,「可否同数のときは,座長
の決するところによる」として合議体としての意思決定手続が詳細に規
定される(本件運営決定の1項)など,客観的な基準に基づき,実地調
査という情報収集についての権能も行使でき,個々の委員の意見ではな
く会議体としての意見を示すことが求められる点で,指定の可否につい
て具体的根拠を持った結論を示すことが制度上要請されていたというべ
きである。
c本件規程15条が,文部科学大臣が規定ハの「指定を行おうとすると
き」は「あらかじめ」,審査会の意見を「聴くものとする」と定めてい
るところ,一般に,法令において「…ものとする」という用語は,行政
官庁等に対して一定の行為を義務付ける場合に用いられていることから
すると,本件規程15条に定める審査会の意見聴取手続が,支給法に由
来する制度上の義務であることは明らかである。
したがって,文部科学大臣は,自らが選任した教育制度に関する専門
家等によって組織された審査会の意見を聴いた上で指定の可否を判断す
べきであり,さらに,審査会が客観的な基準に基づき十分な調査審議を
経た上で形成した結論に対しては,これを最大限尊重すべきであって
(甲108),特段の事情のない限りこれに反する判断を行うことは許
されないというべきである。
d文部科学大臣が,審査会の意見を聴かないで本件不指定処分をしたこ
とが違法で規定ハの「高等学校の課程に類する課程」に該当し,支給対
象外国人学校に該当するか否かの判断をするに当たって審査会の意見を
聴くべきであること,本件不指定処分に当たり文部科学大臣が審査会の
意見を聴かずに判断したことは,既に述べたとおりであるが,一般に,
行政庁が行政処分をするに当たって,諮問機関に諮問し,その決定を尊
重して処分をしなければならない旨を法が定めているのは,処分行政庁
が,諮問機関の決定(答申)を慎重に検討し,これに十分な考慮を払
い,特段の合理的な理由のない限りこれに反する処分をしないように要
求することにより,当該行政処分の客観的な適正妥当と公正を担保する
ことを法が企図しているためであると考えられるから,かかる場合にお
ける諮問機関に対する諮問の経由は,極めて重大な意義を有するものと
いうべきである。したがって,行政処分が諮問を経ないでされた場合は
勿論,これを経た場合においても,当該諮問機関の審理,決定(答申)
の過程に重大な法規違反があること等により,その決定(答申)自体に
法が諮問機関に対する諮問を経ることを要求した趣旨に反すると認めら
れるような瑕疵があるときは,これを経てされた処分も違法として取消
しを免れないというべきである(最高裁昭和42年(行ツ)第84号同
50年5月29日第一小法廷判決・民集29巻5号662頁参照)。
そして,本件不指定処分をするに当たって,文部科学大臣は,審査会
の意見を聴いておらず,少なくとも審査会の結論が示される前に本件不
指定処分がされているのであるから,本件不指定処分は,その過程に重
大な違法が存するというべきであって,違法な処分というべきである。
本件不指定処分は政治的外交的理由からされたものであること
前記とおり,支給対象外国人学校の指定手続において,政
治的外交的理由によって指定又は不指定の判断をしてはならないことは,
支給法及び本件省令の立法者意思を構成しており,支給法及び本件省令の
解釈に当たって何より重要な解釈基準となるものである。
したがって,下村文部科学大臣が,平成24年12月28日の定例記者
会見において「外交上の配慮などにより判断しないと,民主党政権時の政
府統一見解として述べていたことについては,当然廃止をいたします」と
述べ(甲27),支援室も従前の政府統一見解を廃止して規定ハを削除し
た旨を公表したこと(甲64)をもってしても,上記確定的解釈基準を変
更することはできず,政治的外交的理由から規定ハを削除し,本件不指定
処分を行ったことを正当化できるものではない。なお,自民党の所属議員
が野党時代に参議院に提出した支給法一部改正法案の内容からも,下村文
部科学大臣を含む野党時代の自民党関係者がこのことを理解していたこと
は明らかである。
しかるに,前記ア自民党は,野党時代から朝鮮高級学校
への無償化適用を阻止することを意図し,安倍内閣が発足すると直ちに本
件省令改正等に着手し,政治的外交的理由により本件不指定処分を行った
のである。
国際的な観点からも本件不指定処分の違法が宣言されなければならない
こと
いわゆる高校無償化法案の審議以降本件不指定処分に至るまでの過程
で,人種差別撤廃委員会をはじめとする国際連合の3つの委員会が,朝鮮
高級学校の生徒を高校無償化の対象から除外することについて懸念を示
し,あるいは,差別であると指摘しており(甲117,118),国際的
な観点からも,本件不指定処分の違法が宣言され,控訴人らの救済がされ
なければならない。
イ被控訴人の主張
本件朝鮮学校は本件規程13条の要件に適合しないこと
a本件規程13条の要件
教育基本法は,「教育の基本を確立し,その振興を図るため」に制定
され,教育の理念と基本原則を示したものであり,同法が標榜する理念
と基本原則を実現するために教育関係法令が制定される必要があり,そ
れらの解釈も教育基本法の理念に沿うようにされなければならない。そ
して,支給法が前提とするような金銭の出納を含めた学校運営全般につ
いて,教育基本法の定める教育の理念や基本原則に適合するものである
ことが求められる。
教育基本法は,前文において日本国憲法の精神にのっとった教育の基
本を確立することについて,また,前文及び1条において,教育の目的
として,人格の完成に並んで「平和で民主的な国家及び社会の形成者」
の育成を期すべきことを明記し,教育の目標として,個人の価値の尊重
(2条2号),男女の平等(同条3号),他国を尊重し,国際社会の平
和と発展に寄与する態度を養うこと(同条5号)を規定する。これらは
民主主義,個人の尊厳,平等原則,国際平和主義といった,日本国憲法
の依拠する基本原則を教育の基本理念として位置づけたものである。
したがって,我が国の教育体系の下で,日本国憲法の基本理念を含む
教育基本法の理念ないし基本原則に矛盾抵触するような教育が行われた
り,学校運営が行われることは想定されていないし,そのような学校に
対して教育関係法令に基づき国費が支出されることが許されないのは当
然である。
規定ハは,支給法が各種学校のうち「高等学校の課程に類する課程を
置くものとして文部科学省令で定めるもの」と規定することを受けて定
められたものであるが,前記の観点に照らせば「高等学校の課程に類す
る課程」とは,当該学校の教育内容や運営が教育基本法の理念及び基本
原則に沿ったものであることを含意するものである。本件規程13条が
「高等学校の課程に類する課程」を有するかどうかの基準として,「指
定教育施設は,高等学校等就学支援金の授業料にかかる債権の弁済への
確実な充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならな
い」と規定するのも上記の理解に基づくものである。
前記の「高等学校の課程」とは,高等学校指導要領の「教育課程」と
同義ではなく,教育内容,学校の組織及び運営を含む「教育そのもの」
として「教育課程」よりも広い概念とされている。したがって,支給法
2条1項5号及び規定ハの「高等学校の課程」は,広く教育内容,学校
の組織及び運営を含むのであるから,本件規程13条は上記法令の委任
の範囲において定められたものであって有効である。
本件規程13条について,委任の範囲を上記とは別に解する余地があ
っても,執行命令(実施命令)の規定として,支給法の趣旨を体現し,
細則的事項を定めるものとして有効である。支給法の趣旨及び規定に照
らせば,支給法は法令に基づく学校の運営が適正に行われ,就学支援金
の授業料に係る債権の弁済への確実な充当が行われることを当然の前提
として,当該支給対象学校等に就学支援金を支給するのであって,確実
な弁済や法令に基づく学校の適正な運営が確実に行われていることを確
認できない教育施設に対して就学支援金を交付するような事態をおよそ
想定していないことが明らかである。
b文部科学大臣の裁量
そもそも,支給法は,国会での法案審議の過程,同法の仕組み並びに
同法や本件省令並びに本件規程の文言,趣旨及び目的から明らかなとお
り,同法2条1項5号に定める「高等学校の課程に類する課程を置く」
ということの内容を含めて,どのような各種学校について当該課程を置
くものとして就学支援金支給の対象校とするのかの判断を文部科学大臣
に委ねている。
そして,支給法は,就学支援金が受給権者である生徒等の授業料に係
る債権に確実に充当されることを要請し,法令に基づく学校運営を適正
に行うことができない学校を就学支援金支給の対象校とすることを許容
しておらず,これを受けた本件規程13条は,支給対象外国人学校の指
定の要件として,就学支援金が授業料に係る債権に確実に充当される学
校であること,法令に基づく適正な学校運営が行われている学校である
ことを定めているところ,この点に関する検討は,その性質及び内容か
らして専門的,技術的検討を伴うものであり,文部科学行政に通暁する
文部科学大臣の専門的,技術的判断に委ねられているものというべきで
ある。
また,教育基本法16条1項が禁止する「不当な支配」の有無につい
ても,本件規程13条の適合性判断と同様に,その性質及び内容からし
て専門的,技術的検討を伴うものであるため,教育基本法16条1項の
「不当な支配」の判断は,文部科学大臣の専門的,技術的判断に委ねら
れているというべきであり,同大臣に裁量がある。
したがって,本件規程13条適合性の判断は文部科学大臣に委ねられ
ており,同判断について同大臣に裁量がある。
c本件規程13条適合性の主張立証責任
高等学校等の教育内容や運営が教育基本法の理念及び基本原則に沿っ
たものといえるかどうかという意味での本件規程13条の適合性につい
ては,指定処分が受益的処分であることを踏まえても,申請者がその立
証責任を負うことになる。
すなわち,①教育内容が教育基本法の理念に沿っていること(この理
念と相容れない内容の教育が行われていないこと),②支給した就学支
援金が生徒等の授業料に係る債権に確実に充当され,これが外部機関に
流出するおそれがないこと,③外部機関から人的,物的に不当な支配を
受けていないこと,④反社会的な活動を行う組織と密接な関連を有して
いないことの各要件が認められることが必要であり,申請者において立
証しなければならない。
d朝鮮総聯との関係
朝鮮総聯は,破壊活動防止法に基づく調査対象団体であり,公安調査
庁は,朝鮮総聯の前身的組織が暴力主義的破壊活動を行った疑いがあ
り,北朝鮮とも密接な関係を有しているから,将来,暴力主義的破壊活
動を行うおそれを否定し得ないとしている。朝鮮総聯は北朝鮮と密接な
関係があり,北朝鮮工作員の密出入国や安全保障関連の不正輸出,拉致
事件についても朝鮮総聯関係者の関与が確認されているのであり,関係
者が刑事事件で有罪判決を受けるなど反社会的組織としての側面を有す
ることを否定できない。
上記のような朝鮮総聯が朝鮮高級学校を設置,運営する学校法人であ
る朝鮮学園と人事の上で密接な関係を有することは公安調査庁等により
指摘されており,また,教育内容も,教科書が「総聯中央常任委員会教
科書編纂委員会」で編纂され,朝鮮総聯の事業体から出版されているこ
と,朝鮮総聯の思想教育を強化する方針や金正日総書記の業績を称賛す
る内容等が含まれていることなどが公安調査庁等から指摘がされてい
る。民族教育体系を整えることなどの目標の下で各教科においても北朝
鮮の指導者を賛美礼賛し,絶対的な価値として崇める記載がある。
e文部科学大臣の不指定の判断
文部科学大臣は,本件申請を受け,本件規程15条に基づき,審査会
の意見を聴くとともに,支援室をして,審査会の審査と並行して,高等
学校の課程に類する課程を置く外国人学校の審査の参考とするため,本
件朝鮮学校を含む朝鮮高級学校につき,各種の文書照会等の調査をし
た。この調査は,就学支援金が授業料に係る債権の弁済として確実に充
当される学校であること,教育基本法等の関係法令に即した適正な学校
運営をしている学校であることなどを審査する観点から行われたもので
ある。
そして,国内外の新聞報道,朝鮮総聯のホームページ,公安調査庁の
報告等の種々の資料(乙22から33,49,52)からは,朝鮮高級
学校が朝鮮総聯等と密接な関係にあり,同校において適正な学校運営が
されていないと疑われたばかりか,朝鮮総聯が朝鮮高級学校を利用して
資金を集めていることも疑われた。また,支援室は,上記調査の中で,
朝鮮高級学校に対し,朝鮮総聯等との関係について回答を求めたとこ
ろ,朝鮮高級学校側からの回答は,朝鮮総聯等による影響を否定するよ
うな記載ではあったものの,朝鮮総聯のホームページには朝鮮総聯が朝
鮮高級学校の運営等に関わっている旨の記載があり(乙22),また,
本件朝鮮学校の回答の中にも,朝鮮高級学校の教職員や生徒が,客観的
には,朝鮮総聯の傘下団体に加入し,活動していることがうかがわれる
内容のものがあった(乙7)ため,結局,上記のような疑いを払拭する
には至らなかったものである。
文部科学大臣は,このような状況を踏まえ,本件朝鮮学校を含む朝鮮
高級学校に対する朝鮮総聯等の影響力は否定できず,その関係性が教育
基本法16条1項で禁じる「不当な支配」に当たらないことや適正な学
校運営がされていることについて十分な確証を得ることができず,就学
支援金を支給したとしても,授業料に係る債権に充当されないことが懸
念されため,本件朝鮮学校について,本件規程13条に適合するものと
認めるに至らないと判断したものであって,その判断は何ら不合理では
ない。文部科学大臣のかかる判断に誤りがなかったことは,東京都によ
る東京朝鮮学園についての報告書やアンケート等(乙51,67)から
も事後的に裏付けられている。
本件規程15条による審査会の意見聴取について
a本件規程13条に定める指定要件を充足するか否かの検討は,その性
質及び内容からして自ずと専門的,技術的検討を伴うものであり,国会
での議論や本件規程の制定経緯からみても,まずは教育行政に通暁する
文部科学大臣の専門的,技術的判断に委ねられているのであって,審査
会の意見についても,同大臣の上記裁量判断の考慮要素の一つにすぎな
い。
すなわち,支給法は,そもそも審査会を設置すること自体何ら規定し
ておらず,審査会は法令の根拠を有するものではなく,文部科学大臣が
審査会の意見を聴くことが法令上要請されているものでもない。本来
は,あくまで文部科学大臣の権限と責任においてされるべき処分につ
き,規定ハによる指定の際に,教育上の観点から客観的に判断するとい
う点に鑑み,その判断の際の考慮要素の一つとして,専門家等から構成
された会議で同大臣が定めるものの意見を聴くことが判断に資するとさ
れ,文部科学大臣決定により本件規程が設けられたのである。そのこと
は,本件規程15条が「文部科学大臣は,規則第1条第1項第2号ハの
規定による指定を行おうとするときは,あらかじめ,教育制度に関する
専門家その他の学識経験者で構成される会議で文部科学大臣が別に定め
るものの意見を聴くものとする」と定めるのみで,「議により」などの
文言により規定されていないことからも裏付けられる。
また,本件規程15条は,平成22年6月30日に行われた第2回検
討会議における意見(乙4)を踏まえ,大学認可の際に文部科学大臣が
大学設置・学校法人審議会に諮問する制度(学校教育法95条,同法施
行令43条)を参考として制定された規定である。そして,大学設置学
校法人審議会の答申において,審議会への諮問に対する答申が出た場合
に,答申どおりに認可しなければならないということまで法律が規定し
ておらず,文部科学大臣が,一定の要件を満たせば当然に認可しなけれ
ばならないという拘束を受けているわけではないことなどと指摘されて
いるところ,本件規程15条についても別異に解する理由はないことか
ら,本件規程15条も文部科学大臣の判断を拘束するものとはいえな
い。
b本件朝鮮学校を含む朝鮮高級学校の指定の可否については,審査会で
の審査の過程で,朝鮮総聯との関係など適正な学校運営が行われるかど
うかにつき懸念が示され,これらの点についての真偽の確証を得ること
には限界があるなどの指摘もなされていたところ,こうした審査状況に
照らせば,本件朝鮮学校を含む朝鮮高級学校の指定の可否について,審
査会で明確な結論を出すことは困難であったものといえる。
そして,文部科学大臣は,第4回から第7回まで計4回にわたって開
催された審査会において,朝鮮高級学校の本件規程13条適合性につい
て明確な結論を出すことは困難である旨の意見が出されていたこと(甲
70から73),B証人ら文部科学省職員からも,朝鮮高級学校に対す
る審査に限界がある旨の報告を受けたことから,これらの意見も考慮し
た上で,本件朝鮮学校が同条に定める基準に適合するものとは認めるに
至らないと判断し,本件不指定処分をしたものであり,審査会の意見を
踏まえて本件不指定処分を行ったものといえる。
本件不指定処分が政治的外交的理由でされたものでないこと
本件不指定処分が政治的外交的理由でされたものでないことは,前記
のとおりであり,そのような主観的事情は本件規程13条の適合
性とは関係がなく,控訴人らの主張はその前提において失当である。
国際的な観点からも本件不指定処分の違法が宣言されるべきと主張する
控訴人らの主張に理由がないこと
本件不指定処分は,本件朝鮮学校を含む朝鮮高級学校について,支給対
象外国人学校の指定要件である本件規程13条の基準に適合していると認
めるに至らないことからされたものであり,人種差別に基づいてされたも
のではない。人種差別撤廃委員会等の所見は,我が国の就学支援金制度の
仕組みや,支給法,本件省令,本件規程,本件規程13条の基準を踏まえ
たものでも,朝鮮高級学校や朝鮮総聯等に対する具体的な事実調査を行っ
た上でされたものでもないし,適正な学校運営がされていないと疑われる
ような事情等があったことを踏まえてされたものでもない。人種差別撤廃
委員会に対しては,文部科学省から,人種差別撤廃条約に係る審査におい
て,差別ではない旨回答しているところである。
本件不指定処分が控訴人らの権利,利益を不当に侵害するものであるか
(争点4)
これについての当事者の主張は,原判決52頁15行目から16行目まで
を削るほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要
(同51頁20行目から52頁14行目まで)に記載するとおりであるから
これを引用する。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,原審と同様,本件不指定処分は違法なものとは認められないか
ら,国家賠償法1条1項に基づく控訴人らの本件各請求はいずれも理由がない
ものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
2認定事実
認定事実は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の
「第3争点に対する判断」の1(原判決53頁10行目から83頁4行目ま
で)に記載のとおりであるからこれを引用する。
原判決53頁11行目の「後掲各証拠」を「後掲各証拠(枝番号をすべて
挙げる場合には枝番号の記載を省略する。)」に改める。
同68頁19行目末尾に改行して次のとおり加える。
「支援室による調査
ア支援室は,平成23年11月9日,本件朝鮮学校を含む朝鮮高級学校
に対し,文書により,①「教科書内容の変更には,北朝鮮本国の決裁が
必要」との新聞報道の真偽,②教育内容について朝鮮総聯の指導を受け
ることの有無,③朝鮮総聯の傘下と指摘される団体への生徒・教員の自
動的加入の有無,同団体の活動への参加の有無,④朝鮮総聯幹部の役員
就任の有無,人事に関する北朝鮮(金正日総書記)ないし朝鮮総聯の関
与の有無,⑤朝鮮総聯のホームページに記載された教育会の構成,管理
運営等などの事項について照会した(乙6)。
これに対し,本件朝鮮学校は,①上記①については,教科書内容の変
更には北朝鮮本国の決裁が必要であるとの報道は事実ではない旨回答
し,②同②については,教育内容について朝鮮総聯からの指導はない旨
回答し,③同③については,朝鮮総聯の傘下団体である在日本朝鮮人
教職員同盟(教職同)や在日本朝鮮青年同盟(朝青)への教職員や生徒
の加入については,自動的に加入することはなく,本人たちの申請を受
けて加入することになっている旨,教職同は,教員たちの質の向上や
新入生の募集を行う一方,日本を始め世界各国の教員たちと交流活動を
行っており,生徒たちは,日本の学校の生徒会と同じ活動をしており,
自発的に学校生活の充実,クラブ活動,課外活動,ボランティア活動,
各学年,学級間の連携を通して,学校行事に積極的に参加するなどの活
動を行っている旨,それぞれ回答し,④同④については,役員につい
ては,寄付行為にのっとり,教職員,保護者,卒業生,同胞学識経験者
などから選出しているが,朝鮮高級学校に子供を送る保護者,卒業生,
学識経験者等は総聯系の者も多く,関係団体の者が役員に選出される場
合もあり,その場合には,必ず寄付行為に掲げている学園の理念を遵守
し,理事会の意思決定に従うことを条件にしている旨,人事に関する
北朝鮮(金正日総書記)ないし朝鮮総聯の関与はない旨,それぞれ回答
し,⑤同⑤については,朝鮮総聯ホームページの「朝鮮学校の管理運営
は,朝鮮総聯の協力のもとに,教育会が責任をもって進めている」との
記述は正確ではないため,記述の変更を朝鮮総聯に要請しているとした
上で,教育会には,教職員や保護者,卒業生等が任意で参加してお
り,任意のため総聯の関係団体の者が参加する場合もある,教育会の
意思決定機関は学園の理事会とは異なる,教育会は,日本のPTAに
当たる教育支援活動を行っており,学校の予算,決算,人事,教育内容
等に関与していない旨,回答した(乙7)。
イ支援室は,平成23年12月2日,朝鮮高級学校に対し,文書によ
り,過去5年間における都道府県及び市町村からの補助金等の交付の有
無等を照会した(乙8)。
これに対し,本件朝鮮学校は,補助金の交付を受けていることに加え
て,過去5年間に都道府県又は市町村から交付されている補助金につい
て問題を指摘されたことは特にない旨回答した(乙9)。
ウ支援室は,平成24年1月19日,朝鮮高級学校に対し,文書によ
り,理事会・評議員会の開催が確認できる書類(出席者への旅費・謝
金,飲食代等の領収書や委任状等)の提出を求めるとともに,法人内で
の理事等の印鑑の管理の有無,長期借入れの有無を照会した(乙1
0)。
これに対し,本件朝鮮学校は,理事会等の出席者への旅費,謝金等は
支払ったことがないこと,出欠の連絡はほとんど電話で行われており,
文章により行った場合も保管していないこと,定数に満たない場合を除
き委任状の提出を特段求めていなかったので,委任状は数件しかないこ
と,議事録の署名・押印については出席理事本人が署名押印を行ってい
ること(一部理事より学園事務局で認め印を預かっているものもある
が,その場合も必ず理事本人が署名押印していること)などを回答した
(乙11)。
エ支援室は,平成24年2月6日,本件朝鮮学校に対し,会計書類の記
載に関して補足的な説明を求めた(乙12)。
これに対し,東京朝鮮学園は,収益事業に関して,貸借対照表の流動
負債における「部門勘定」について,本来,学校法人の資産は全て本会
計に計上されているが,そのうちの一部は「税法上の収益事業」の用途
に使われており(売店,食堂,寄宿舎等),主に収益事業の減価償却資
産の相手勘定として「部門勘定」を使っていることなどを回答した(乙
13)。
オ支援室は,平成24年3月30日,朝鮮高級学校に対し,文書によ
り,①「全国の朝鮮初中級学校から選抜された生徒約100人が1~2
月に北朝鮮を訪問し,故金正日氏,金正恩氏への忠誠を誓う歌劇を披露
していた」との報道の真偽等,②金正恩氏の肖像を教室内に掲示してい
るか,③「故金正日氏の葬儀について,朝鮮学校の施設が使用され,生
徒の動員が行われた」との報道の真偽などを照会した(乙14)。
これに対し,本件朝鮮学校は,上記①については,中級部生徒,教職
員が参加したが,高級部の生徒は含まれていない旨,上記②について
は,金正恩氏の肖像を掲示しておらず,また,検討もしていない旨,上
記③については,学校行事ではなく,追悼行事の委員会から通常の使用
申請があり,一般貸出しとして貸したこと,生徒に出席の指示はしてお
らず,保護者とともに参加した生徒はいた旨などを回答した(乙1
5)。
カ支援室は,平成24年8月24日,朝鮮高級学校に対し,文書によ
り,同年6月18日付けの新聞記事における「今月5~7日に全国の朝
鮮学校長を対象に開かれた講習には,校長69人が出席。C議長が『金
正恩指導体系が確立されるよう確実に教育せよ』と指示した。」との報
道に関して,同月5日から7日までの間に朝鮮総聯又は他の団体による
講習会に高級部の校長その他の教員が参加した事実の有無,教育内容に
関して特定の示唆を受けた事実の有無などを照会した(乙16)。
これに対し,本件朝鮮学校は,校長が全国朝鮮高級学校校長会の主催
する全国朝鮮学校校長講習会に参加したが,教育内容に関し特定の示唆
を受けることはなかった旨回答した(乙17)。
キ支援室は,平成24年10月5日,朝鮮高級学校に対し,文書によ
り,「朝鮮高級学校から2~3人ずつ選ばれた生徒が在日本朝鮮青年同
盟代表団として,教員や朝鮮大学校生らと8月23日~9月1日に平壌
を訪問し,金正恩第1書記に忠誠を示す行事に参加した」との報道に関
して,上記行事(青年節慶祝大会)への生徒,教員の参加の有無,参加
した生徒による決議文読み上げの有無,朝鮮総聯の関与の有無などを照
会した(乙18)。
これに対し,本件朝鮮学校は,「青年節慶祝大会」に生徒1名及び教
員1名が参加したこと,同行事について,金第1書記名による参加指示
はなかったこと,夏休み中の在日本朝鮮青年同盟の呼びかけにより,希
望者が個人的に参加しているもので,学校の関与はなかったことなどを
回答した(乙19)。
ク支援室は,平成24年10月19日,朝鮮高級学校に対し,文書によ
り,「朝鮮総聯が故・金日成主席,金正日総書記の肖像画を新しい肖像
画「太陽像」に10月中に交換するように指示した」との新聞報道に関
して,朝鮮総聯等からの新たな肖像画の購入に関する案内又は指示の有
無等について照会した(乙20)。
これに対し,本件朝鮮学校は,「指示はなく,購入の予定はありませ
ん。」と回答した(乙21)。
ケ支援室内部においては,審査会における審議の経過や上記の照会に対
する回答結果等を踏まえると,規定ハに基づく審査には限界があり,審
査会を継続しても朝鮮高級学校について本件規程13条に適合するとの
意見の一致を見ることは困難であるという見方が強くなっていた(乙7
5,証人B)。
文部科学大臣への説明等
文部科学省初等中等教育局内には,支援室を含む「高校教育改革プロ
ジェクトチーム」があり,高校教育改革を担当していたが,同チーム内
においても,前記と同様に,審査会において7回の審議を重ね
たものの,結論を得るに至らず,朝鮮高級学校について,本件規程13
条に適合すると認めるに至らないこと,一方,既に規定ハにより指定を
受けたEスクール及びF学園のほかには,規定ハに基づく申請をしてい
るのは朝鮮高級学校のみであり,他に規定ハの対象となり得る外国人学
校はないことから,審査に限界がある規定ハを廃止することもあり得る
として,同チームのリーダーであるB証人ら文部科学省の事務方幹部
は,文部科学事務次官にも相談の上,検討を進めていた。
文部科学省の事務方の幹部らは,平成24年12月下旬,就任した下
村文部科学大臣に対し,規定ハによる朝鮮高級学校の指定問題につい
て,審査会における審議の状況や議論の内容等を説明するなどし,同大
臣から,朝鮮高級学校を不指定とし,併せて,規定ハを削除する省令改
正をすることについて承認を得た(乙75,証人B)。」
同頁20行目の「」を「」に改め,21行目の「被告(国)は,」の次
に「この間の」を加える。
同頁24行目の「」を「」に,同69頁24行目の「」を「
に,同71頁7行目の「」を「」にそれぞれ改める。
同頁25行目の「」を「」に,26行目冒頭から72頁3行目の「文
書」という。)」までを「本件不指定処分に係る決裁・供覧文書(文書番
号・24文科初第1130号)」にそれぞれ改め,11行目の「2通」の後
に「。なお,G高級学校を設置,運営する学校法人G学園については,不指
定処分の理由として,理由①及び理由②に加えて,本件規程16条に定める
必要な教員数に満たないことも記載されている。」を加え,12行目の「さ
れている。」を「され,備考欄に「※施行日は官報掲載日に合わせるため,
平成25年2月20日とした」との鉛筆書きの記載がある。」に改める。
同72頁13行目の「」を「」に改め,17行目末尾に改行して,次
のとおり加える。
「本件省令改正の官報公告と本件不指定通知の送付等
下村文部科学大臣は,平成25年2月19日,本件不指定処分に係る
通知文書を翌20日に発出することを記者会見で明らかにした。
支援室の担当者は,同月19日夜,東京朝鮮学園に対し,「明日発送
予定の通知文の事前送付について」と題する連絡文書をファクシミリで
送信したが,同文書には,「文部科学大臣」の印が押された翌20日付
けの本件不指定通知の写しが添付されていた。また,支援室担当者は,
翌20日,東京朝鮮学園に対し,電話で本件不指定処分を伝えるととも
に,本件不指定通知を東京朝鮮学園宛に送付した。本件不指定通知は,
遅くとも同月21日までに,東京朝鮮学園に到達した。なお,同月20
日,東京朝鮮学園の代表らが,文部科学省を訪れ,支援室関係者に対
し,抗議と要請をした上,記者会見をし,本件省令改正は差別的な措置
であり,これを撤回し,朝鮮高級学校の生徒への無償化を実現すること
を要求する旨述べた(甲44,188,乙106,108)。
一方,本件省令改正は,同日,官報に掲載され,公告された。」
同頁18行目の「」を「」に改める。
同78頁7行目から82頁4行目までを削る。
同頁5行目の「」を「」に改める。
3本件不指定処分の理由について(争点1)
前記前提事実のとおり,本件省令改正と本件不指定処分は,平成25年2
月20日付けでされたこと,本件不指定通知には,本件不指定処分の理由と
して理由①と理由②が並記されていることが認められる。そして,規定ハの
削除を理由とする理由①と規定ハを前提とする理由②が論理上両立し得ない
ものであることは,被控訴人においてもこれを自認するところである。
控訴人らは,東京朝鮮学園が本件不指定通知を受領したのは,本件省令改
正が官報に公告された後であって,既に規定ハが削除されることによって下
位規範である本件規程が根拠を失っていたのであるから,理由②は本件不指
定処分の理由にはなり得ないと主張する。
しかしながら,一般に行政処分は告知により処分の相手方に対して効力を有
するものであるとしても,行政処分の成立は,行政処分の相手方に対する効力
の発生時期と必ずしも一致するものではない。本件においては,前記認定事実
のとおり,本件不指定処分は,平成25年2月15日付けで決裁がされたもの
の,本件省令改正に係る官報公告に合わせてすることとされ,本件省令改正に
係る官報公告の前日である同月19日には,文部科学大臣が記者会見で本件不
指定処分に係る通知文書を翌20日に発出する旨を明らかにし,支援室から東
京朝鮮学園に対し,本件不指定通知の写しが添付された文書がファクシミリで
送信されたことなどからすると,本件不指定処分は,遅くとも上記官報公告が
されるまでには,行政処分として成立していたものと認められるから,理由②
は本件不指定処分の理由となり得るものというべきである。
控訴人らは,本件省令改正により,申請後審理中の事案は,審理の根拠を
失うことになるため,本件申請は審査会の意見を聴くこともなく,十分な審査
が行われることがないまま,本件規程13条に適合するとは認められないとし
て本件不指定処分をすることが可能となったものであるから,理由①が本件不
指定処分の真の理由であると主張する。
しかしながら,規定ハを削除する理由①と規定ハの存在を前提とする理由②
は論理的に両立し得ないが,理由①がなければ理由②が成り立ち得ないという
関係にはない。控訴人らは,下村文部科学大臣の発言(甲27)を捉えて,本
件省令改正をしなければ,本件不指定処分ができなかったとも主張するが,同
大臣の発言は,本件省令改正と本件不指定処分との順序を述べたものにすぎ
ず,本件省令改正をしなくとも,本件規程13条に適合しなければ不指定処分
をすることは可能であり,13条に適合しないとの判断をするために本件省令
改正が必要であったとも認められないから,本件省令改正がなければ不指定処
分ができなかったものではない。
次に,控訴人らは,安倍政権は当初から,朝鮮高級学校を就学支給金の支給
対象としないことを明らかにしており,下村文部科学大臣は,政治的外交的理
由により,本件不指定処分をするために,本件省令改正をしたものであるか
ら,本件不指定処分の真の理由は理由①であると主張する。
しかしながら,上記のとおり,本件省令改正をしなくとも,本件規程13条
に適合しなければ不指定処分をすることは可能であるから,本件省令改正がな
ければ不指定処分ができないという関係にはない上,前記認定事実によれば,
下村文部科学大臣は,審査会における審議の状況等を踏まえ,本件不指定処分
をしたものであり,平成25年2月19日及び同年5月24日の記者会見にお
いても,朝鮮高級学校を含む朝鮮学校は朝鮮総聯と密接な関係があり,教育内
容,人事,財政にその影響が及んでいることなどから,法令に基づく学校の適
正な運営が行われているとの確証が得られなかったために不指定処分となった
旨説明しているのであるから,本件不指定処分をするために本件省令改正がさ
れたものとは認められない。
また,控訴人らは,本件不指定処分に係る決裁・供覧文書(乙65)の件名
欄が「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校就学支援金に関する法
律施行規則第1条第1項第2号ハの規定の削除に伴う朝鮮高級学校の不指定に
ついて」とされていることを指摘するが,これは,飽くまでその記載の欄が限
定された件名の表記にすぎず,決裁に添付されている朝鮮学園宛ての不指定処
分の通知案には,理由②も記載されている(なお,G学園については,本件規
程16条に定める必要な教員数に満たないとの理由も付加されている。)ので
あるから,単なる件名の形式的な表記をもって,本件不指定処分の真の理由が
理由①であるとはいえない。
かえって,前記認定事実によれば,文部科学省は,審査会を開催したもの
の7回の審議を経ても,結論を得ることができなかったこと,同省内部におい
ても,本件規程のもとでは審査に限界があり,審査会を継続しても,朝鮮高級
学校について規程13条に適合するとの結論を得ることは困難であるとの見方
が固まっていたこと,異議申立てに対する決定書には,朝鮮高級学校が基準に
適合しないと判断したとする一方で,規定ハは存続させる必要がなくなったた
め,本件省令改正をしたと記載されており,文部科学省としては,朝鮮高級学
校を不指定とした場合には規定ハを存在させる必要がなくなるとの認識をして
いたことなどが認められる。
このような審査会の審査,文部科学省内における検討状況,異議申立てに
おける決定書の説明等を踏まえると,被控訴人の説明にはやや一貫性を欠く点
がなくはないものの,合理的にみれば,本件不指定処分の理由は,理由②であ
ると認めるのが相当である。
そこで,以下においては,理由②を理由として本件不指定処分をしたこと
が,文部科学大臣に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものとし
て違法であるか否か(争点3)を検討する。
4本件規程13条に適合すると認めるに至らなかった(理由②)として本件不
指定処分をしたことが,文部科学大臣に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又は
濫用したものとして違法であるか否か(争点3)
当裁判所は,文部科学大臣が,理由②を理由として本件不指定処分をしたこ
とは,その裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用したとして違法とはいえない
ものと判断する。
その理由は,次に補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3
争点に対する判断」の2(原判決83頁7行目から102頁24行目まで)に
記載するとおりであるからこれを引用する。
原判決83頁7行目,19行目,23行目,84頁10行目,87頁5行
目から6行目,17行目,21行目,88頁13行目から14行目,17行
目,21行目から22行目,89頁14行目から15行目,90頁10行目
から11行目,24行目,99頁26行目から100頁1行目,102頁7
行目から8行目の「本件省令1条1項2号ハ」をいずれも「規定ハ」に改め
る。
同83頁18行目の「委ねた」を「委ねている」に,22行目の「定め
た」を「定めている」にそれぞれ改める。
同90頁15行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
「控訴人らは,東京朝鮮学園は各種学校であり,学校教育法による認可を受
けており,一定の制度的な保障がある旨を主張するが,同法は学校の設置等に
ついて組織や編成その他に関する設置基準に関する規制であり,他方,支給
法,本件省令及び本件規程は,就学支援金の制度の観点から審査に必要な制度
を定めているのであり,その審査に当たり,学校教育法による認可を受けてい
ることは審査を不要とする理由とはならない。」
同91頁13行目の「そのような流用」を「法令に従った適正な学校運営
がされていると認めることができず,そのような流用」に改める。
同92頁22行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
「もっとも,文部科学大臣の上記の判断は,政策的なものではなく,専門
的,技術的な観点から本件規程13条の適合性を認定,評価するものである
から,同大臣の裁量にはこのような観点からの一定の限定があり,広範なも
のではないと解される。」
同頁25行目の「文部科学大臣の」の次に「上記のような一定の」を加え
る。
同93頁2行目の「本件不指定通知には,」から4行目の「この点につい
て,」までを削除し,5行目の「本件規程15条に基づき,審査会の意見を
聴くとともに」を「本件規程15条に基づき,審査会の審議おける議論の状
況等を聴くとともに」にそれぞれ改める。
同94頁1行目から96頁2行目までを次のとおり改める。
「イ①公安調査庁及び警察庁が,いずれも法によって設置された国家機関
であり(法務省設置法29条及び公安調査庁設置法,内閣府設置法64
条,警察法4条及び15条参照),一定の調査,分析能力を備えた組織で
あると考えられることに照らせば,文部科学大臣において,これらの資
料や国会答弁の内容を判断の際の考慮に入れることが不合理とはいえな
いというべきところ,公安調査庁がその調査,収集した資料の分析に基
づいて作成した資料や,公安調査庁長官及び警察庁長官官房審議官の国
会における答弁の内容によれば,朝鮮総聯が朝鮮高級学校を含む朝鮮学
校と密接な関係にあり,その教育内容,人事,財政に影響を及ぼしてい
るとされていたこと,②朝鮮総聯自身のホームページにも,朝鮮総聯が
朝鮮高級学校を含む朝鮮学校の教育内容及びその実施,管理運営等に影
響を及ぼしていることをうかがわせる記載が見られること,③広島地裁
平成19年判決においては,朝鮮学校を設置する学校法人が朝鮮総聯の
地方本部の強力な指導の下にある傘下組織のようになっており,適正な
学校運営がされていないことを疑わせる事情や,朝鮮総聯の地方本部が
朝鮮学校を利用して資金を集めていることを疑わせる事情が指摘されて
いること,④朝鮮総聯等の朝鮮高級学校に対する支配関係を指摘し,あ
るいは,朝鮮高級学校の資産や補助金が朝鮮総聯の資金に流用されてい
る疑いを指摘する報道等が繰り返しされていたことなどが認められ,朝
鮮高級学校につき,就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充
当が行われることや,学校運営が法令に従った適正なものであることに
ついて合理的な疑いが生じる状況にあったが,他方,支援室が朝鮮高級
学校に対して朝鮮総聯等との関係について回答を求めたことに対する本
件朝鮮学校側からの回答は,朝鮮総聯等による影響を否定するようなも
のとはなっていたものの,その回答の内容は,朝鮮総聯が朝鮮高級学校
の運営等に関わっている旨の朝鮮総聯のホームページの記載等とも整合
しないものであったり,教職員や生徒らが朝鮮総聯傘下の団体に加入し
ている事実を認める内容とも見られるものであったりし,上記の疑念を
払拭するに足りるものとは言い難く,審査会も,7回の審議を経ても結
論を得るに至らず,その議論の内容を見ても,本件規程13条適合性が
認められるとの積極的意見が述べられたものとはうかがわれず,むし
ろ,本件規程13条適合性についていくら確認をしてもすっきり指定を
することができるようにならないという趣旨の意見や,審査会における
審査の限界を指摘する意見が述べられていたのであるから,文部科学大
臣において,これらの状況等を踏まえ,本件朝鮮学校につき,就学支援
金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当が行われることや,学校運
営が法令に従った適正なものであることについて,十分な確証を得るこ
とができず,本件規程13条に適合するものと認めるに至らないと判断
したことは,不合理なものということはできない。
したがって,文部科学大臣が,理由②を理由として本件不指定処分を
したことは,同大臣に与えられた一定の裁量権の範囲を逸脱し又はそれ
を濫用したものとは認められないというべきである。」
同96頁8行目の「と推認できる」を削り,17行目の「示しているこ
と」を「公示していること(甲64)」に改める。
同97頁13行目の「その内容を素直に見れば」を「前政権時の見解を見
直すべきであるとの同大臣の当時の見解であるが,朝鮮学校には教育内容,
人事,財政等に朝鮮総聯の影響が及んでいることなど「適正な学校運営」の
問題があることにも言及しており,」に改める。
同頁19行目の「(」を「。」に,20行目の「10日」を「19日」に
それぞれ改める。
同98頁5行目の「ところである。)」を「ところであり,本件規程13
条の適合性(特に適正な学校運営)の問題があることを述べている」に改め
る。
同頁14行目の「対象となっているものは」から16行目の「文書であ
り」までを「対象として,上記決裁・供覧文書に添付されている朝鮮学園宛
ての不指定処分の通知案には,本件省令改正(規定ハの削除,理由①)及び
本件規程13条に適合すると認めるに足らなかったこと(理由②)が記載さ
れている(なお,G学園については,本件規程16条に定める必要な教員数
に満たないとの理由も付加されている。)のであり」に改める。
同99頁2行目の「上記ア④について」から12行目の「認められる」ま
でを「上記ア④については,前記認定事実によれば,下村文部科学大臣は,
文部科学省の事務方の幹部らから,審査会において,7回の審議を重ねたも
のの,結論を得るに至らず,朝鮮高級学校について,本件規程13条に適合
すると判断するには困難である旨の説明を受け,審査会の審議の状況,議論
の内容等を踏まえ,本件不指定処分をしたものと認められる」に改める。
同99頁23行目の「供覧文書の」から24行目から25行目にかけての
「をもって」までを「供覧文書の件名欄及び伺い文欄には,いずれも本件省
令1条1項2号「ハの規定の削除に伴」い,本件不指定処分をすることとさ
れており,本件規程13条の適合性についての記載はないものの,前記のと
おり添付の通知案には本件規程13条に適合すると認めるに至らなかった旨
が記載されており,記載欄が限られた件名欄等の形式的な表記によって」に
改め,25行目の「できない。」の次に「また,控訴人らが当審において提
出したDの陳述書(甲103)は,同人は,検討会議における検討段階まで
は関与していたものの,その後の審査会における審議の段階には関与してい
ないことなどから,採用できない。」を加える。
同100頁5行目から7行目までを次のとおり改める。
「したがって,本件不指定処分が政治的外交的理由によってされたものと
認めることはできない。」
同101頁10行目の「を」を「をも」に改め,19行目から102頁1
4行目の「採用することができない。」までを削除する。
同頁14行目末尾に改行して次のとおり加える。
「オ控訴人らは,①本件運営決定によれば,審査会においては指定の可否に
ついて具体的根拠を持った結論を示すことが制度上要請されていた,②本
件規程15条に用いられている「…ものとする」との用語は,一般に,行
政官庁等に対して一定の行為を義務付ける場合に用いられていることから
すると,本件規程15条に定める意見聴取手続が支給法に由来する制度上
の義務であるなどとした上で,文部科学大臣が審査会の最終的な意見を聴
かないでした本件不指定処分は違法であるなどと主張する。
しかしながら,支給法は,審査会を設置すること自体何ら規定していな
いのであって,文部科学大臣がその判断に当たって審査会の意見を聴くこ
とが支給法上の要請でないことは,明らかである。そして,①検討会議に
おける議論の経緯,指定に関する基準等に係る報告の内容(「審査は,教育
制度の専門家をはじめとする第三者が,専門的な見地から客観的に行い,
対象とするかどうかについて意見を取りまとめ,最終的には,文部科学大
臣の権限と責任において,外国人学校の指定がなされることが適当であ
る」とされている。),②本件規程15条が,「文部科学大臣は,規則第1条
第1項第2号ハの規定による指定を行おうとするときは,あらかじめ,教
育制度に関する専門家その他の学識経験者で構成される会議で文部科学大
臣が別に定めるものの意見を聴くものとする。」と規定するのみであって,
文部科学大臣が審査会の「議により」判断するというような規定ぶりとな
っていないこと,③本件規程13条に定める要件を充足するか否かの検討
は,その性質及び内容からして自ずと専門的,技術的検討を伴うものであ
り,まずは教育行政に通暁する文部科学大臣の専門的,技術的判断に委ね
られているものと解されることを勘案すると,審査会の意見聴取について
定めた本件規程15条は,文部科学大臣において規定ハによる指定を行お
うとするに際し,その判断の際の考慮要素の1つとして,教育制度に関す
る専門家その他の学識経験者で構成される会議で同大臣が定めるものの意
見を聞くことが判断に資すると考えられたことから設けられた規定である
ものと解され,本件規程15条に定める審査会の意見は,同大臣の上記裁
量判断の際の考慮要素の1つにとどまるものというべきである。
前記認定事実のとおり,審査会においては,7回の審議を重ねたが,結
論を出すに至らず,審査会を継続しても,朝鮮高級学校について本件規程
13条に適合するとの意見の一致を見るのが困難な状況にあり,文部科学
大臣は,このような審査会の審査の状況等も踏まえ,本件不指定処分をし
たものと認められるから,文部科学大臣において審査会の最終的な意見を
聴かないで本件不指定処分をしたことは,文部科学大臣に与えられた一定
の裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用したものとはいえない。
カ控訴人らは,国際連合の人種差別撤廃委員会等が,朝鮮高級学校の生徒
を高校無償化の対象から除外することについて懸念を示し,差別であると
指摘していることから,国際的な観点からも,控訴人らの救済が図られる
べきであると主張する。
しかしながら,本件不指定処分は,前記のとおり,本件朝鮮学校が支給
対象外国人学校の指定要件である本件規程13条の基準に適合していると
認めるに至らないことからされたものであり,もとより人種差別に基づい
てされたものではない上,人種差別撤廃委員会等の所見も,我が国の就学
支援金制度の仕組みや,支給法等の関係法令に基づく指定基準を,踏まえ
たものでも,具体的な事実調査を行った上でされたものでもないから,こ
れらをもって,文部科学大臣による本件不指定処分が違法となるものとは
いえない。
キ以上のとおり,文部科学大臣が,理由②を理由として本件不指定処分を
したことは,同大臣に与えられた一定の裁量権の範囲を逸脱し又はそれを
濫用したものとは認められない。
したがって,本件不指定処分は違法とはいえず,本件不指定処分の違法を
理由とする控訴人らの国家賠償法1条1項に基づく本件各請求は,その余の
点(争点2及び4)について判断するまでもなく,いずれも理由がない。」
同頁15行目から24行目までを削除する。
5結論
以上によれば,控訴人らの本件各請求はいずれも理由がないからこれを棄却す
べきところ,これと同旨の原判決は相当であり,控訴人らの控訴はいずれも理由
がない。
よって,控訴人らの控訴をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決す
る。
東京高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官阿部潤
裁判官上田哲
裁判官岡野典章は差支えのため書名押印できない。
裁判長裁判官阿部潤

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