弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 申立て
一 原告ら
被告が昭和四五年六月二七日訴外A、同B、同C、同Dおよび同Eを訴外学校法人
福岡電波学園の仮理事に選任した処分はこれを取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
(一) 本案前の申立て
原告らの訴えを却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
(二) 本案の申立て
主文同旨
第二 主張
一 原告らの請求原因
(一) 被告は、昭和四五年六月二七日、私立学校法四九条、民法五六条にもとづ
き訴外A、同B、同C、同Dおよび同Eを同学校法人福岡電波学園(以下、訴外学
園という。)の仮理事に選任した(以下、本件仮理事選任処分という。)。
(二) しかしながら、本件仮理事選任処分当時原告らは訴外学園の理事であり、
私立学校法四九条、民法五六条にいう「理事ノ欠ケタル場合」にはあたらないの
で、右処分は違法である。
(三) よつて、本件仮理事選任処分の取消しを求める。
二 被告の本案前の主張
原告F、原告Hおよび原告Iが訴外学園の理事の資格を失つたのは、訴外学園が昭
和四三年七月二日破産宣告を受けたことによるものであり、本件仮理事選任処分と
は無関係である。したがつて、本件仮理事選任処分は右原告らの法的地位を侵害す
るものではないから、右原告らは本件仮理事選任処分の取消しを求める原告適格を
欠くものである。右原告らを除くその余の原告らが訴外学園の理事であることは争
うがいずれにせよ本件仮理事選任処分によつてその余の右原告らの法的地位が左右
されるものではないから、同原告らも本件仮理事選任処分の取消しを求める原告適
格を欠くものである。
三 請求原因に対する被告の答弁および主張
(一) 請求原因(一)の事実は認めるが、同(二)の主張は争う。
(二) 本件仮理事選任処分は適法である。すなわち、訴外学園は昭和四三年七月
二日福岡地方裁判所において破産の宣告を受けた。そして、訴外学園の破産管財人
Jおよび同Kは、昭和四四年七月一八日付で原告に対し私立学校法四九条、民法五
六条にもとづき訴外学園の仮理事の選任を申請してきた。訴外学園には学生、生徒
二、五五六名、教職員二二三名が在籍し、もし破産手統によつて清算がなされれば
大きな社会問題となるおそれがあり、また、第一回債権者集会において学校教育は
あくまで存続させるべきであるとの決議がなされている経緯からみてすみやかに強
制和議を提供し、学園再建の途を講ずる必要があるのに、後記(三)に述べるよう
に訴外学園には理事が欠けており、しかも、後任の理事を選任する方法がないた
め、損害を生ずるおそれがあると認められたので、被告は昭和四五年六月二七日本
件仮理事選任処分をしたものである。したがつて、本件仮理事選任処分は私立学校
法四九条、民法五六条にもとづく適法なものである。
(三) (1)学校法人と理事との関係は委任関係であり、委任に関する規定に従
うものと解すべきであるから、学校法人が破産の宣告を受けた場合には、民法六五
三条にもとづき理事は当然にその地位を失うものと解すべきである。すなわち、理
事は学校法人の委任を受けてその管理運営を行なつているものであるところ、従前
の理事の管理運営の結果、学校法人が破産するに至つたものであるから、ここにお
いて学校法人と理事間の信頼関係は破壊されたものと考えるべきであり、したがつ
て学校法人が破産の宣告を受けた場合には、従前の理事は当然にその地位を失うも
のと解すべきである。
訴外学園は右(二)において述べたように昭和四三年七月二日福岡地方裁判所にお
いて破産の宣告を受けたのであるが、その結果、その当時の理事であつた原告F、
原告H、原告I、訴外L、同M、同Nおよび同Oはいずれもその地位を失つた。そ
して、訴外学園の寄付行為によれば、原告Fが理事の地位を失つた場合には新たに
理事を選任する方法がなくなるので、本件仮理事選任処分当時も理事が欠けた状態
にあつたものである。
(2) 次に、訴外学園の破産管財人Jおよび同Kは、昭和四四年二月二七日付で
破産財団の管理処分権限にもとづき民法六三一条により原告Fに対し福岡工業大学
学長を解任する旨の意思表示をした。訴外学園の寄付行為によれば福岡工業大学学
長がまず理事となるというのであり(九条一項一号)、原告Fも右学長たる地位に
もとづいて理事となつていたのであるが、右に述べたように学長を解任された結果
(仮に、訴外学園が破産の宣告を受けても原告Fは理事の地位を失うものではない
としても)理事の地位を失つたものというべきである。
(3) さらに、原告Fは昭和四四年五月六日福岡地方裁判所において破産の宣告
を受けた。学校法人と理事との関係は、委任に関する規定に従うものと解すべきで
あるから、原告Fは破産の宣告を受けたことにより民法五六三条にもとづき(仮
に、右(1)および(2)の理由によつては理事の地位を失つていなかつたとして
も)理事の地位を失つたというべきである。
四 被告の主張に対する原告らの答弁および反論
(一) 被告の本案前の主張は争う。被告の本案の主張(二)の事実のうち、訴外
学園が昭和四三年七月二日福岡地方裁判所において破産の宣告を受けたこと、第一
回債権者集会において学校教育存続の決議がなされたことおよびすみやかに強制和
議を提供し、学園再建の途を講ずる必要があつたことならびに被告主張のような申
請にもとづき本件仮理事選任処分がなされたことは認めるが、同処分が適法である
との主張は争う。同(三)の(1)は争う。もつとも、破産宣告を受けた当時の訴
外学園の理事が被告主張のとおりであることは認める。同(三)の(2)のうち、
訴外学園の破産管財人Jおよび同Kが昭和四四年二月二七日付で原告Fに対し福岡
工業大学学長を解任する旨の意思表示をしたことならびに訴外学園の寄付行為によ
れば福岡工業大学学長がまず理事になることになつており、原告Fが右学長たる地
位にもとづいて理事になつていたものであることは認めるが、その余は争う。同
(三)の(3)のうち、原告Fが昭和四四年五月六日福岡地方裁判所において破産
の宣告を受けたことは認めるが、その余は争う。
(二) 学校法人が破産の宣告を受けても、理事はその地位を失うものではない。
学校法人における理事の職務内容は、当該学校法人の施設の管理と当該学校法人の
設置する私立学校の職員の臥事管理およびこれらに付随する事項であるが、それは
法律行為(財産的および非財産的なそれ)および非法律行為からなる複雑多岐に亘
るものである。理事の右職務が学校法人との間のいかなる法律関係によつて発生す
るものであるか必ずしも明らかではないが、それが委任または準委任ではないとす
れば民法六五三条は適用されないので、学校法人が破産の宣告を受けても理事はそ
の地位を失うものではない。仮に、委任または準委任であつたとしても、それは個
々の具体的事務処理についての委任または準委任契約の集合であつて、可分であ
る。ところで、民法六五三条において委任者の破産により委任が終了するとした趣
旨は、破産者たる委任者自身が破産の結果できなくなつた行為については受任者も
またこれをすることができないため、委任はその目的を達しえないことにより終了
するというものであるから、破産者たる委任者において自らなしうる行為について
は、委任は終了しないと解すべきである。したがつて、学校法人が破産宣告を受け
た場合には、破産財団に属する財産の管理処分権は破産管財人に専有されるに至
り、その限りにおいて学校法人の理事との委任関係は終了するとみることができる
が、右以外の権限、すなわち、非財産的法律行為および非法律行為をする権限はい
ぜん学校法人において失わず(すなわち、これらの権限は、破産財団に属する財産
の管理処分権とは異なり、破産債権者の保護のために破産者から隔離しておく必要
がないからである。)、したがつて、受任者たる理事においても右権限を行使しう
るものというべきであり、その限りにおいて学校法人と理事との委任関係は終了し
ないと解すべきである。結局、学校法人が破産の宣告を受けても、理事はその地位
を失わないと解すべきである。破産法は、この考え方に立つて、従来の理事が法人
を代表してなすべきこと、たとえば、破産手続上の裁判に対し不服申立てをし(一
一二条)、郵便物の閲覧交付を求め(一九〇条三項)、各種の申立てをし(一九一
条、二〇〇条、二八八条等)、異議を述べ(一六八条二項、二四〇条二項)、意見
を述べ(一九九条、二三二条)、強制和議の提供をする(二九〇条以下)ことなど
を定めている。したがつて、訴外学園は昭和四三年七月二日破産宣告を受けたので
あるが、原告F、原告Hおよび原告Iらはいずれも理事の地位を失わなかつたもの
である。
(三) 仮に、一般的には学校法人が破産宣告を受けた場合に理事がその地位を失
うとしても、原告Fは次に述べるように訴外学園が破産宣告を受けても理事の地位
を失うものではない。
(1) 原告Fはそのほとんど全財産をもつて福岡電波高等学校の設置を目的とす
る訴外学園を設立し、独自の教学理念にもとづく実践において才腕をふるい、訴外
学園の財産的基礎を拡大発展させ、順次福岡工業短期大学、福岡工業大学を設置す
るに至らしめた。そして、原告Fは訴外学園およびその設賃する高等学校、各大学
の創立者としてそれらの根源的存在をなすものであり、右原告なしには訴外学園の
存在は考えられないという両者一体不可分の関係にあるのである。これを法律的に
みれば、訴外学園と原告Fの関係は委任とか雇用とかいうものではなく、一種独特
の無名契約であつて、その内容は、訴外学園の創立者たる原告Fはその学識および
豊富な教育経験を生かし、終身訴外学園の設置する高校、短大、大学の校長、学長
の地位について自らの教育理念を果すべきことならびに一定の教学理念の実現とい
う目的を有する訴外学園の教育事業を実質的に担保するため、右学長の地位を介し
てではあるが、訴外学園の財産管理権、人事権および代表権を有するところの理事
および理事長となる旨の、換言すれば、訴外学園の創立者である原告F健在の間
は、同人は学長および理事の地位を永久に保持する旨の契約である。
(2) 右の特色は訴外学園の寄付行為の中にもあらわれている。すなわち、原告
Fが福岡工業大学学長であることを前提としたうえで、まず、右学長が理事となる
ものとし(九条一項一号)、右理事が訴外学園の設立当時から功績のあつた者のう
ちから二人以上三人以内を理事に指名し(同項二号)、以上の全理事が評議員のう
ちから二人を理事に推薦し(同項三号)、以上の全理事の過半数以上をもつて二人
を理事に選任する(同項四号)こととし、福岡工業大学学長たる理事が理事長とな
る(五条二項)。このように、訴外学園の理事選任手続は学長たる理事(創立者た
る原告F)の根源的権限にもとづき順次理事が選任されていくということになつて
いるのである。さらに、寄付行為一一条一項によれば、九条一項一号に規定する理
事を除き役員の任期は二年とする旨定められているのであるが、その反対解釈とし
て九条一項一号の理事、すなわち学長たる理事の任期は終身であるということにな
るのである。
(3) 右(1)およ゛び(2)において述べたところにもとづいて考えれば、訴
外学園と原告Fとの間には、同原告が福岡工業大学の学長である限りは(右学長た
る地位は同原告の自発的意思にもとづく辞任か死亡以外には失われないものであ
る。)、たとえ訴外学園が破産宣告を受けたとしても、理事の地位を失わない旨の
特約があつたものと解すべきことになる。
なお、私立学校の自主性、独自性はこれを十分尊重しなければならないが、そのた
めには学校法人の寄付行為を最高限度に重んじる必要があるのである。
(四) 原告Fは昭和四四年二月二七日付で訴外学園の破産管財人Jおよび同Kよ
り福岡工業大学学長を解任する旨の意思表示を受けたのであるが、その意思表示は
無効である。
すなわち、訴外学園の寄付行為中には何ら福岡工業大学学長の解任に関する規定は
なく、むしろ同学長がその自発的意思にもとづいて辞任するかあるいは死亡しない
かぎり永久に学長としての地位を保持する旨の規定がうかがえること、一般的にも
真理の探究を目的とする教育研究者に対し真理探究の自由を実質的に保障するため
には同人に対する解雇の自由を制限する必要があることなどからみて、訴外学園の
理事会は福岡工業大学学長の解任権をもたないものと解すべきであり、したがつ
て、訴外学園の破産管財人も右解任権をもたないものと解すべきである。さらに、
訴外学園が破産宣告を受けた場合に破産管財人の有する権利は破産財団に属する財
産の管理処分権のみであつて、訴外学園の設置する高校、大学の教職員の人事に関
する権利はいぜんとして従来の理事が有するのである。
したがつて、原告Fに対する福岡工業大学学長解任の意思表示は無効であるから、
同原告は訴外学園の寄付行為九条一項一号にもとづき理事たる地位を有していると
いわなければならない。
(五) (1)原告Fは昭和四四年五月六日福岡地方裁判所において破産の宣告を
受けたのであるが、これによつても同原告は訴外学園の理事たる地位を失うもので
はない。
すなわち、受任者の破産により委任関係が終了する根拠は、第一に自己の財産につ
いて自ら破産に至らしめたものが他人である委任者の財産についてその委任の目的
を達しうるとは到底考えられないという意味で、双方の信頼関係が破壊されたと推
定されること、第二に委任契約の特色が受任者の裁量による目的達成にあることを
考慮すれば、受任者自身において自己の所有財産の管理処分権を有していることが
委任の目的達成を実質的に担保するために必要であることなどである。ところで、
学校法人の理事の職務の中には前記(二)において述べたとおり非財産的なもの、
たとえば教職員の人事に関する事項が含まれるのであるが、これについては、理事
が破産の宣告を受けても、第一に双方の信頼関係が破壊されたとは必ずしもいえな
いこと、第二に受任者たる理事において自己所有の財産の管理処分権を有する必要
性がないことなどから、委任関係は終了しないと解すべきである。
(2) 仮に、一般的には学校法人の理事が破産宣告を受けた場合には委任関係が
終了し理事たる地位を失うとしても、訴外学園と原告Fとの間には前記(三)の
(1)で述べたような一種独特の無名契約が結ばれているものであり、これによれ
ば、右両者間には原告Fが破産宣告を受けても理事たる地位を失わない旨の特約が
あつたものと解すべきである。
(六) (1)以上(二)ないし(ご)の主張が理由がないとしても、訴外学園と
の委任関係が終了し理事たる地位を失つた原告Fらは、民法六五四条にもとづき善
処義務を負い、訴外学園の寄付行為にもとづき後任理事を選任する義務を負つてい
ると解すべきである。
(2) さらに、訴外学園が破産宣告を受けた当時の理事であつた原告F、原告
H、原告I訴外Mおよび同Nらは、民法六五四条の善処義務にもとづき昭和四四年
二月二〇日理事会を開き訴外学園の寄付行為三二条の施行細則として福岡工業大学
学長、福岡工業短期大学学長、福岡電波高等学校校長選任規程を制定し、創立者健
在の間は創立者をもつて右学長および校長とする旨を定め、これによつて原告Fの
学長、校長としての地位が寄付行為上明確に定められることになつた。かくて、仮
に、訴外学園に対する破産宣告により原告Fの福岡工業大学学長としての地位が失
われることになるとしても、右規程の制定により同原告の同学長としての地位は適
法に確立され、それと同時に訴外学園の寄付行為九条一項一号により理事になつた
ものと解すべきである。ところで、訴外学園の評議員会は、同年四月一〇日右規程
の制定を承認した。したがつて、仮に、右規程が訴外学園が破産宣告を受けた当時
の学長を学長として確認していることから適法性を欠くような瑕疵を帯びるとして
も、右評議員会の承認によりこの瑕疵は治癒されたものというべきである。なお、
学校法人の理事が破産宣告を受けても理事の被選任資格を失うものではないと解す
べきである。なぜなら、学校法人の理事の職務権限のうち重要なものは施設管理権
と人事権であるが、施設管理権は営利の目的のためではなく、一定の教育理念の追
求という目的にのみ統率されるものであつて、破産者に右施設管理権を行使させる
ことがあながち不合理であるとはいえず、また破産者は人事について能力がなかつ
たとは必ずしもいえないからである。
(七) 以上(二)ないし(六)において述べたように原告Fは訴外学園の寄付行
為九条一項一号の理事として((六)の場合にはもと理事として)、昭和四四年五
月二九日同項二号の理事として原告H、原告Pおよび原告Qを指名し、同日、以上
の理事は同項三号の理事として原告Gおよび訴外Nを推薦し、同日、以上の理事は
同項四号の理事として原告Iを選任した。
(八) してみれば、本件仮理事選任処分当時、原告らはいずれも訴外学園の理事
であつたのであるから、同処分は違法である。
五 原告らの反論に対する被告の答弁
原告らの反論(三)の(1)は争う。仮に、訴外学園の設立につき原告ら主張のよ
うな事情があつたとしても、ひとたび学校法人として訴外学園が設立された以上、
同学園は原告Fから独立した法人格を有し、寄付行為により定められたところに従
い資産を所有し、業務執行機関によつて管理運営されるに至るものであつて、訴外
学園と原告Fとが一体不可分の関係に立つことなどありえないのである。同(三)
の(2)のうち、訴外学園の寄付行為に原告ら主張のような条項があることは認め
る。同(三)の(3)は争う。ちなみに、私立学校法三八条一項一号によれば学長
(校長、園長)は理事となる旨を定め、同法三七条一項において理事は原則として
学校法人を代表する旨を定めている。これは、教学部門の最高責任者である学長
(校長、園長)はその意思を学校法人の業務決定に反映させるのが適当であるとの
趣旨から必然的に理事になる旨を定めたものであつて、原告ら主張のごとき事情の
有無を問わないのである。したがつて、学長が当然に法人の代表権を有する理事に
なる旨の訴外学園の寄付行為を根拠として同学園が他の学校法人との比較において
特色がある旨の主張は理由がない。また、学長即理事・理事長であるとの寄付行為
の規定は、訴外学園と理事・理事長間の信頼関係が保たれている平常の場合につい
て規定したものであつて、訴外学園が破産宣告を受けたことにより右両者間の信頼
関係が破壊されるに至つた異常の場合には、教学部門の最高責任者である学長と理
事・理事長たる地位とを区別して考えることも不可能ではない。原告らの反論
(四)は争う。福岡工業大学学長は破産者である訴外学園の破産財団との間におい
て給与等の財産的請求権に関する法律関係に立つものであるから、同学長を解任す
る権限は破産財団の管理処分権限に含まれ、破産管財人に専属するものである。原
告らの反論(五)は争う。同(六)の(1)は争う。同(六)の(2)のうち、原
告ら主張のような規程が制定されたことおよび訴外学園の評議員会において原告ら
主張のような承認をしたことは不知、その余は争う。学校法人(またはその理事)
に対する破産宣告により理事がその地位を失う根拠は、学校法人と従前の理事間の
信頼関係が破壊されるに至ることに求められるものである。そして、破産宣告後新
たに選任された理事がその地位に就任するのも、それはその選任手続により新たな
信頼関係が設定されたことに根拠を置くものである。原告らは、民法六五四条の善
処義務にもとづき原告Fにおいて訴外学園の寄付行為に従い後任の理事を選任する
義務を負う旨主張するが、信頼関係を破壊するに至らしめた原告Fが後任の理事を
選任しても、そこには新たな信頼関係の設定がみられないので、原告らの右主張は
失当である。訴外学園が破産宣告を受けて理事がその地位を失つた場合には、訴外
学園の寄付行為に従い後任の理事を選任する方法はないものと解するほかない。原
告らの反論(七)は知らない。
第三 立証(省略)
○ 理由
一 請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、まず、原告適格の有無について判断する。
本訴は、原告らが本件仮理事選任処分当時いずれも訴外学園の理事であつたと主張
し、同処分は違法であるとしてその取消しを求めている訴訟である。なるほど、私
立学校法四九条、民法五六条にもとづく仮理事の選任は、被選任者に当該学校法人
の仮理事たる地位を与えるものであつて、それ自体直接に第三者の権利利益を侵害
することを目的としているものでないことはいうまでもない。しかしながら、右仮
理事の選任は、行政庁たる被告(文部大臣)の行なう行政処分であつて、それが無
効でないかぎり、いわゆる公定力を有し、取消争訟の結果あるいは被告(文部大
臣)自らの処分によつて取り消されないかぎり、何びとも右処分の拘束力を否定で
きないことになる。その結果、右仮理事選任処分により選任された者が当該学校法
人の業務を執行することとなり、右処分当時理事であつたと主張する者は右業務の
執行に関与することができなくなるのである。したがつて、右処分当時当該学校法
人の理事であつたと主張する者がその地位を守るためには右処分の取消しを訴求す
る必要があるのであり、同人は右処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有す
ると解すべきである。本訴において原告らは本件仮理事選任処分、当時いずれも訴
外学園の理事であつたと主張しているのであるから、同処分の取消しを求める法律
上の利益、すなわち原告適格を有するものといわなければならない。
三、次に、本件仮理事選任処分の適否について判断する。
1 まず、学校法人と理事の法律関係について考えるに、学校法人とは私立学校の
設置を目的として私立学校法の定めるところにより設立される法人であり、それは
一種の公益財団法人である。学校法人の目的は右にみたとおり私立学校の設置・運
営、すなわち教育事業にあるが、右事業を行なうためには必然的に一定の施設設備
その他の財産を必要とする(私立学校法二五条)。そして、右財産の管理運営その
他の学校法人の業務を執行するために、学校法人には五人以上の理事を置かなけれ
ばならないことになつている(同法三五条)。理事は学校法人よりその業務の執行
を委ねられたものであつて、右両者の関係は、特段の事情のないかぎり、委任ない
し委任類似の関係にあり、株式会社における会社と取締役の関係と同様、民法の委
任に関する規定に従うものと解するのが相当である。
そうであるならば、学校法人が破産の宣告を受けた場合には、特段の事情のないか
ぎり、学校法人と理事の委任ないし委任類似の関係は民法六五三条により(あるい
はその類推により)終了し、理事はその地位を失うに至るものと解すべきことにな
る。思うに、学校法人が破産の宣告を受けるということは、学校法人の目的である
教育事業の実現に絶対的に必要な施設設備その他の財産(財産的基礎)に破綻を生
ぜしめたことにほかならず、その破綻の結果学校法人の目的である教育事業の実現
を危うくさせるわけであるが(私立学校法五〇条一項四号により破産は学校法人の
解散事由とされている。)、右破綻は理事の業務執行の結果生じたものにほかなら
ないから、ここにおいて学校法人と理事間の信頼関係は当該理事により破綻せしめ
られるに至つたものというべきであり、このように信頼関係を破壊させた理事はそ
の地位を失うと解するのが相当だからである。
2 ところで、原告らは、訴外学園と原告Fの関係は一種独特の無名契約であり、
同原告が福岡工業大学の学長であるかぎりはたとえ訴外学園が破産宣告を受けても
理事の地位を失わない旨の特約があつたと主張する。
訴外学園の寄付行為において原告ら主張のような理事選任手続および役員の任期に
関する定めがなされていることは当事者間に争いがない。訴外学園の理事が福岡工
業大学学長たる理事(訴外学園の寄付行為九条一項一号の理事、原告Fがその理事
であつたことは当事者間に争いがない。)から順次選任されていくという定めにな
つていることおよび学長たる理事の任期が定められていないことは訴外学園の特色
であるといえないこともないが、このような寄付行為の定めから原告ら主張のよう
な特約、すなわち訴外学園が破産宣告を受けても原告Fは理事の地位を失わない旨
の特約があつたものと解することは困難であり、原告F本人尋問の結果によつても
これを左右するに足りない。原告らは、訴外学園の創立および発展に尺した原告F
の功績からみて同原告は訴外学園の根源拍存在をなし、右両者は一体不可分の関係
にあると主張するが、学校法人がいつたん設立されると、それは創立者からも独立
した法人格を有するに至り、寄付行為(そこには創立者の意思が表現されることに
なる。)の定める目的(それは私立学校の設置にほかならない。)ために、寄付行
為の定める方法によつて管理運営されていくことになるのである。したがつて、学
校法人と理事の法律関係を解釈するにあたつても、当該学校法人の寄付行為の客観
的・合理的解釈をこえて当該学校法人の設立されるに至つた事情等が影響を及ぼす
ことはありえないといわなければならない。
3 訴外学園が昭和四三年七月二日福岡地方裁判所において破産の宣告を受けたこ
と、右宣告当時の理事が原告F、原告H、原告I、訴外L、同M、同Nおよび同O
であつたことは当事者間に争いがない。そして、前記1項において述べた理由によ
り、右破産宣告当時の理事はいずれも訴外学園が破産宣告を受けると同時に理事た
る地位を失つたものと解すべきである。さきに述べたように、訴外学園の寄付行為
においては、福岡工業大学学長がまず理事となり、この理事から順次他の理事が選
任されていくという定めになつているが、訴外学園が破産宣告を受けることにより
右学長たる理事も理事たる地位を失い、その結果他の理事の選任権をも失うに至る
といわなければならない。
4 原告らは、原告Fらは民法六五四条にもとづく善処義務として後任理事を選任
する義務を負つている旨主張する。しかしながら、さきにみたように、訴外学園の
寄付行為においては、福岡工業大学学長がまず理事となり、この理事から順次他の
理事が選任されていくという定めになつているので、善処義務として後任理事の選
任を認めるということは、訴外学園を破産に至らしめ、信頼関係を破壊した右学長
たる理事である原告Fに後任理事を選任させることになり、その選任によつては新
たな信頼関係の設定ということは期待できないのである。したがつて、訴外学園の
場合にあつては、後任理事の選任は前理事の善処義務に含まれないと解するほかは
ない。また、原告らは、訴外学園が破産宣告を受けた当時の理事たちは昭和四四年
二月二〇理事会を開き訴外学園の寄付行為三二条の施行細則として福岡工業大学学
長、福岡工業短期大学学長、福岡電波高等学校校長選任規程を制定し、これにより
原告Fの右学長、校長としての地位が寄付行為上明確に定められることになり、そ
の結果寄付行為九条一項一号により理事になつた旨主張する。しかしながら、訴外
学園が破産宣告を受けても、原告Fの福岡工業大学学長としての地位が失われるも
のではないから、右選任規程が原告ら主張のとおり制定されたとしても、それは右
原告の右学長としての地位を確認したにとどまり、これによつて新たな信頼関係が
設定されるわけのものでもないから、右原告が訴外学園の理事になるいわれはない
というべきである。
5 原告F本人尋問の結果により成立が認められる甲第一三号証の一ないし三によ
れば原告らの反論(七)の事実を認めることができるが、右3、4項において述べ
たように原告Fには後任理事を選任する権限がないのであるから、同原告より順次
選任されたその余の原告らおよびNはいずれも理事の地位を取得しなかつたものと
いうほかない。
6 以上のとおりであるから、本件仮理事選任処分当時、訴外学園には理事が欠け
ていたことになる。そして、訴外学園の第一回債権者集会において学校教育存続の
決議がなされたことおよびすみやかに強制和議を提供し、学園再建の途を講ずる必
要があつたことならびに被告主張のような申請にもとづき本件仮理事選任処分がな
されたことは当事者間に争いがない。してみれば、本件仮理事選任処分当時、訴外
学園は私立学校法四九条、民法五六条にいう「理事ノ欠ケタル場合ニ放テ遅滞ノ為
メ損害ヲ生スル虞アル」状態にあつたというべきであるから、右処分は右各条にも
とづく適法なものというべきである。
四 以上のとおりであるから、本件仮理事選任処分は違法であるとしてその取消し
を求める原告らの本訴請求はいずれも理由がない。よつて、これを棄却することと
し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文の
とおり判決する。
(裁判官 高津 環 牧山市治 上田豊三)

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