弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人岡崎赫生、同万代彰郎の上告趣意第一点について
 所論は、覚せい剤の輸入について申告することは犯罪事実を告白することになつ
て覚せい剤取締法により処罰されることになるから、関税法一一〇条は覚せい剤を
輸入する者には適用がないと考えるべきであるのに、原判決が被告人に対して同条
の罪の成立を認めたのは憲法三八条一項に違反する、というのである。
 しかし、本邦に入国する者がその入国の際に貨物を携帯して輸入しようとする場
合には、成規の手続として、当該貨物の品名、課税標準となるべき数量、価格等を
税関長に申告し、納付すべき税額の決定を受け、その税額に相当する金銭を納付し
なければならないものであるところ(関税法六条の二第一項二号イ、六七条、八条、
九条の二及び三、七二条参照)、右の申告は、関税の公平確実な賦課徴収及び税関
事務の適正な処理を目的とする手続の一環であつて、刑事責任の追及を目的とする
手続でないことはもとより、そのための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般
的に有するものでもない。また、この輸入申告は、本邦に入国するすべての者に対
し、携帯して輸入しようとする貨物につきその品目のいかんを問わず義務づけられ
ているものであり、前記の目的を達成するために必要かつ合理的な制度ということ
ができる。このような輸入申告の性質に照らすと、その申告を手続の一環とする正
規の税関手続を経ないで貨物を輸入し、もつて、不正の行為により関税を免れたの
である以上、当該貨物がたまたま覚せい剤取締法により輸入を禁止されている覚せ
い剤であるからといつて、その者に対し関税法一一〇条の罪の成立を認めることが
憲法三八条一項にいう「自己に不利益な供述」を強要したことになるものでないこ
とは、当裁判所大法廷判例(昭和二七年(あ)第四二二三号同三一年七月一八日判
決・刑集一〇巻七号一一七三頁、同二九年(あ)第二七七七号同三一年一二月二六
日判決・刑集一〇巻一二号一七六九頁、同四四年(あ)第七三四号同四七年一一月
二二日判決・刑集二六巻九号五五四頁)の趣旨に徴し、明らかである。所論は、理
由がない。
 同第二点について
 所論は、単なる法令違反の主張であり、適法な上告理由にあたらない。
 なお、覚せい剤は関税の課税対象となる貨物であり、覚せい剤について不正の行
為により関税を免れた者は関税法一一〇条一項一号に掲げる者に該当するとした原
審の判断は、相当である。
 同第三点について
 所論は、事実誤認の主張であり、適法な上告理由にあたらない。
 よつて、刑訴法四〇八条により、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官高辻正己の補足意見、裁判官横井大三の意見があるほか、裁
判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官高辻正己の補足意見は、次のとおりである。
 横井裁判官の意見に関連して、多数意見につき若干の補足をしておきたい。
 関税法一一〇条一項一号所定の関税逋脱罪は不正の行為により関税を免れる行為
を罰する罪であつて輸入申告義務の不履行それ自体を罰する罪ではないから、上告
趣意第一点が憲法三八条一項違反を主張する前提として関税逋脱罪による処罰と輸
入申告の強制とを結びつけているのは誤りではないか、という疑問が生じるのも一
応はもつともである。しかし、関税法(関係条項は多数意見の指摘するとおり。)
が携帯品を輸入しょうとする者において正規に関税を納付しょうとすれば必ず輸入
申告をしなければならないものと定めており、携帯品に関する関税逋脱罪がこの輸
入申告にはじまる一連の手続を経て賦課・徴収されるべき関税についてこれを免れ
る行為を罰するものであることからすると、この場合における関税逋脱罪による処
罰には輸入申告の強制という側面があることは否定し去ることができず、本件にお
ける場合のように、税関を通過する際に関税逋脱の意図のもとに携帯品を隠匿し、
これについて申告をしない場合には、不申告の事実が不正の行為の一要素になつて
いることは否み得ないところ、と考えられる。なお、税関の存在を無視し、税関と
全くかかわり合いを持たないで貨物を輸入する場合においても、税関手続を回避し
て輸入する行為自体が不正の行為にあたり、その中には当然に申告義務の不履行が
含まれることになる、と解される。
 このようにみてくると、関税逋脱罪による処罰と輸入申告の強制との間に関連性
がないとはいいきれないのであつて、多数意見は、私の理解によれば、以上のよう
な考察を前提としたうえで憲法三八条一項違反の論旨に答えたものである。
 裁判官横井大三の意見は、次のとおりである。
 私は本件上告を棄却すべきものとすることにおいては多数意見と結論を同じくす
るが、上告趣意第一点に関する私見は多数意見と異なるところがあるので、それを
述べておきたい。
 本件で関税法違反とされるのは、覚せい剤を秘匿携帯したまま輸入したため不正
の行為により関税一五万余円を免れたという、いわゆる関税逋脱の事実である。
 これに対し論旨は、覚せい剤の輸入につき関税逋脱犯の規定(関税法一一〇条)
を適用してこれを処罰することは憲法三八条一項に違反するというのである。
 しかし、税関長の許可を受けないで貨物を輸入した者を処罰する関税法一一一条
のいわゆる無許可輸入罪に関する規定が、税関長に対する同法所定の申告のあるべ
きことを法律上不可欠の前提としているのに対し、いわゆる関税逋脱を処罰する同
法一一〇条の規定は、偽りその他不正の行為により関税を免れた者を処罰するとい
うのであつて、税関長に対する所定の申告のあるべきことを法律上不可欠の前提と
して含んでいるものとは思われない。本件の場合は、覚せい剤の粉末を木彫置物内
に隠匿している事実を秘匿したまま通関したというのであるが、税関の存在を無視
し、税関とは全くかかわり合いを持たないで貨物を輸入した場合にも、関税逋脱罪
の規定はその適用を見るべきものであることを考えると、関税逋脱罪の構成要件と
しての偽りその他不正の行為ということの中に法律上申告義務の不履行が概念必然
的に内包されているものとはいえないと考える。したがつて、関税逋脱犯の成立を
認めた第一審判決を是認した原判決につき、覚せい剤の場合税関長に対する申告義
務を課していることを前提として憲法三八条一項に違反すると論難することは、当
を得ないものというべきである。
 この意味で、私は、論旨を理由がないものと考えるのである。
  昭和五四年五月二九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    環       昌   一
            裁判官    横   井   大   三

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