弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告人の上告理由について。
 原審において上告人の主張するところによれば、訴外Dは昭和三九年八月五日、
その妻Eは同年一〇月二三日、それぞれ破産宣告を受けたが、同人らは破産債権者
を害することを知りながら、同年五月二〇日その共有にかかる本件土地を代物弁済
として被上告人Bに譲渡し、同月二三日その旨の所有権移転登記手続をし、ついで
Dは同年六月一日同様破産債権者を害することを知りながら自己の所有にかかる本
件家屋(当時未登記)を同被上告人に譲渡し、同日、いつたん自己の名義に所有権
保存登記をしたうえ、同人のため所有権移転登記手続をしたというのであり、右両
名は、それ以前それぞれ数千万円の債務を負担していたが、その弁済ができず、債
権者においてもその行動に疑問を持ち、追及が激しくなつたため、遂にEは同年五
月一九日家出し、以後行方不明になつたというのである。
 そして、上告人は、右両名の破産管財人として、右事実に基づき、本件不動産に
関する前示譲渡行為を破産法七二条一号に基づいて否認する旨主張し、同被上告人
に対して、各々その登記の抹消手続を求めているのである。
 これに対し、原審は、被上告人Bは、右土地については昭和三七年九月末ごろ建
物については昭和三九年二月ごろには、右Eらからこれを譲渡担保として取得して
いたものであり、昭和三九年五月ないし六月その所有権を取得したものとはいえな
いのみならず、被上告人Bは右昭和三七年九月ないし昭和三九年二月当時、右不動
産の譲受けが他の債権者を害するものとは知らなかつたものと見られるので、右日
時の譲渡は破産法七二条一号で否認されうべきものではないとしたうえ、さらに付
加して、「右譲渡が否認の対象とならないとしても、前記各登記行為は同法第七四
条所定の否認の対象たりうるものと解する余地もないではないが、被控訴人(上告
人)はEらの支払停止あるいは破産申立の日時など同条所定の要件事実をついに主
張せず、また同条所定の否認権を行使しないまま終つているので、この点は裁判所
として判断すべくもない。」と判示しているのである。
 ところで、原審の前示事実認定は、原判決挙示の証拠に照らして肯認しえないで
はないが、原審が破産法七四条に基づく対抗要件の否認について審理判断をしなか
つた点には、以下のとおりこれを肯認しえないものがある。
 すなわち、本来、不動産の物権変動は、対抗要件を具備しない以上第三者に対抗
しえないものであるから、これを具備しない不動産の物権変動はこれをもつて破産
財団にその効力を及ぼしえないものである。したがつて、この要件を具備すること
は、破産財団の増減という観点からは、権利変動の原因たる法律行為と同様破産債
権者を害する結果を生じうべきものであり、かかる要件の充足行為も、元来同法七
二条の一般規定によつて否認の対象となしうべきものである。しかし、対抗要件な
るものが、すでに着手された権利変動を完成する行為であることを考えれば、原因
行為そのものに否認の理由がないかぎり、できるだけこれを具備させることによつ
て当事者に所期の目的を達せしめるのが相当である。それゆえ、破産法は七四条に
おいて、一定の要件を充たす場合にのみ、とくにこれを否認しうることとしたので
ある。破産法が、七二条のほかにとくに七四条をおいて対抗要件の否認について規
定したのも、その趣旨は以上のように解せられるのである。そうであれば、一般に、
破産管財人が同法七二条に基づいて当該物権変動を否認し、これを原因とする登記
の抹消を訴求している場合において、同人の主張および弁論の全趣旨のうちに同法
七四条の要件を充たす事情があらわれているならば、もし、同法七二条に基づく原
因行為の否認が認容されないときは、原告たる破産管財人において、さらに同法七
四条に基づきその対抗要件をも否認せんとするものであることは、ほとんど疑いを
容れる余地がないのである。したがつて、裁判所としては、かかる場合において、
もし原因行為自体が否認の対象にならないとの判断に到達したときは、同法七四条
の否認についてもさらに主張・立証を備えさせることに努めたうえで、この点につ
いても判断をすべきが当然である。
 ところで、本件についてこれをみるに、原審の認定する前記事実関係に徴すれば、
本件各登記がその原因行為のあつた時から一五日以上を経過した後にされているこ
とは一見して明白であり、しかも、原審における当事者双方の主張中には、前記F
は債権者の追及が激しくなつたため遂に家出し、この事情を知つた被上告人Bにお
いて、急拠本件各物件について右登記手続をするに至つたことが明らかに述べられ
ているのであるから、被上告人Bにおいて、右E両名の支払停止後、その事実を知
つて本件各登記手続をしたとするにほかならず、同法七四条の要件事実は、ほとん
どあますところなく弁論にあらわれているといえるのである。加うるに、本件にお
いては、第一審において、原因行為自体の否認が容認され、かつ、予備的に七四条
による否認までも判断されているのであるから、それらの事情をも考えあわせるな
らば、原審としては、いやしくも一審と異なる判断に立つて原因行為の否認を認め
ないのであれば、進んで同法七四条に基づく対抗要件の否認についても、よろしく
釈明権を行使して当事者の注意を喚起し、この点に関する主張・立証を備えさせた
うえ、これについても判断を下すべきが当然である。したがつて、前記のような事
情のある本件において、右措置をとることなく、漫然と上告人が七四条の要件事実
を主張しないものとして、その点の判断をしなかつた原判決は、右の点において釈
明権の行使を誤り、ひいて審理不尽の違法を犯したものというべきであり、その違
法は原判決の結論に影響することが明らかであるから、論旨はこの点において理由
があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件は、前記の点について審理する必
要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条を適用して、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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