弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。
     前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人貞家克巳、同伴喬之輔、同堀井善吉、同鎌田泰輝、同持本健司、同荒
木文明、同松村猛、同山口静夫の上告理由第一点について
 論旨は、要するに、収容者の処遇等に関する訓令、通達等を記載した「監獄法(
抜粋)」と題する箇所(以下「通達類の部分」という。)を含めて本件雑誌の閲読
を不許可にした中野刑務所長の処分(以下「本件処分」という。)を違法とした原
判決には、監獄法三一条及び同法施行規則八六条一項の解釈適用を誤つた違法があ
る、というのである。
 一 そこで、まず本件について原審の認定した事実関係をみると、おおむね、次
のとおりである。
 1 昭和四二年一〇月八日のいわゆる第一次羽田事件以来、学生を中心とする集
団公安事件の発生の増加には異常なものがあり、本来未決の被告人を拘禁する拘置
監ではなかつた中野刑務所においても、昭和四四年五月頃からこの種の被告人らを
収容せざるをえない状態となり、本件処分当時、同刑務所は四一〇名余の受刑者の
ほか二一五名の被告人を収容するに至つていた。
 2 被上告人を含めて右中野刑務所に収容されていた被告人らはすべて公安事件
関係者であつたが、これらの被告人は、概して非常に反抗的で、刑務所職員の指示・
命令にも素直に従わず、また、連帯意識が非常に強く、規律違反行為の波及が顕著
であつた。すなわち、何かのきつかけで一人が大声で叫ぶと、次々と他の者がこれ
に呼応して大声を出しシユプレヒコールをあげ、あるいは房扉、房壁、便器、洗面
器等をたたき、床を踏み鳴らすなどの違反行為に及び、舎房の中ががんがんする程
の喧噪になつた。しかも、一人一人が波状的に右のような違反行為を繰り返すため、
その制止等のために職員がかけつけても、直接違反行為を現認できることはまれで
あり、所内の規律の維持が極めて困難な状況にあつた。そして、このような舎房全
体の静ひつを乱す規律違反は、昭和四五年六月ごろは毎晩繰り返され、本件処分当
時もしばしば発生した。
 3 このような状況のもとで被告人らに対する戒護に万全を期し、集団拘禁施設
としての刑務所の秩序を維持するためには、これら被告人とその戒護にあたる刑務
所職員との間の最低限度の信頼関係の維持が不可欠であつて、刑務所又はその職員
に対する不信感や敵意をあおるおそれのある図書を多数の被告人に時を同じくして
閲読させるときは、多数の共同による規律違反行為を誘発し、刑務所内の秩序維持
に著しい支障をきたす相当の蓋然性があつた。
 4 雑誌「闘争と弁護」(一九七〇年七月)(甲第一号証、以下「本件雑誌」と
いう。)は、昭和四五年七月末、中野刑務所に勾留されていた被上告人ほか一〇〇
名の被告人に対して一冊ずつ差し入れられたものであるが、「看守による個別的リ
ンチ、あるいは所長による意図的懲罰というようなかたちで、必らず報復が加えら
れる。」、「何よりも裸の暴力が優先する。」、「これまで何回となく報告されて
いる拘置所における懲罰に名を借りた暴行、虐待事案」といつた表現が数多くあり、
これを読む者に刑務所職員に対する不信感ないし敵対意識をいだかせるおそれがあ
るものである。
 5 本件雑誌には、「監獄法(抜粋)」と題して、収容者の処遇ないし取扱に関
する運用についての訓令、通牒、通達等が掲載されているが、この通達類の部分が
掲載されているのは、全体で二一四頁ある本件雑誌のうちの二七頁である。
 6 中野刑務所においては、閲読許可不適当の箇所を抹消したり切除したりする
事務を担当する教育課図書係は、常時は職員が一名と図書夫(受刑者で作業として
右の仕事をさせている者)一名の合計二名であつたところ、昭和四五年八月におい
て右図書係が抹消ないし切除した図書の数は七四七八点(六月は八七三一点、七月
は五一八三点であつた。)に及び、これに加えて百冊に近い本件雑誌について煩雑
な抹消の作業を多数の頁にわたつて短期間に行うことは、刑務所の管理運営上著し
い支障を生ずることとなり、ほとんど不可能に近いものであつた。
 二 原審は、以上のような事実を認定しながら、前記通達類は、その内容を知る
利益を有する者に対してこれを秘匿しなければならないものではなく、これを閲読
したからといつて収容者の逃亡、罪証隠滅に役立ち、あるいは所内秩序のびん乱を
きたすものとは考えられないから、右通達類の部分をも含めて本件雑誌の閲読を不
許可にした処分は違法であり、また、右通達類の部分は、他の記事と区別されて掲
載されているから、この部分だけ切り離して綴つたうえ閲覧させる方法によること
ができるものであつて、このような方法によるのであれば、少数の職員でも処理す
ることができたものと考えられるから、右の部分を含めた本件雑誌の閲読不許可処
分が刑務所長の合理的な裁量権の範囲内のものということはできない、と判断して
いる。
  しかしながら、行刑及び未決拘禁に関する通達等は、もともと、監獄法令を適
用、実施するにあたつての職務上の指示ないし指針であつて、収容者の目に触れる
ことを前提として作成されたものではないのであるから、通達等における具体的な
記述は、それが収容者の目に触れた場合に与える影響についてまで必ずしも十分な
考慮が払われていないものが少なくないことは容易に理解しうるところである。し
たがつて、通達等の定める収容者の処遇の内容そのものは特に秘匿する必要がない
場合であつても、その記述いかんによつては、これを収容者に閲読させることによ
り、無用の誤解を与え、ひいては不安、動揺の原因となりうるものがあることは否
定することができないと考えられる。しかも、前記のとおり、原審の認定によれば、
被上告人を含めて当時中野刑務所に収容されていた集団公安事件関係の被告人らは、
概して非常に反抗的で、刑務所職員の指示・命令にも素直に従わず、また、連帯意
識が非常に強く、規律違反行為の波及が顕著であつたというのであるから、他に特
段の事情がない限り、このような被告人らに本件通達類の部分の閲読を許すときは、
右被告人らはその趣旨を曲解し、刑務所職員に対し共同して規律違反行為に出るこ
とが容易に予想されたものというべきである。
 以上に徴すれば、右通達類の部分を含めた本件雑誌の閲読不許可処分が刑務所長
の合理的な裁量権の範囲内のものということはできないとした原審の判断には直ち
に首肯しがたいものがある。これと異なる見解に立つて右通達類の部分の閲読不許
可処分を違法とした原判決は、監獄法三一条及び同法施行規則八六条一項の解釈適
用を誤り、ひいて審理不尽の違法があるものといわざるをえず、右違法が判決の結
論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決中上告人敗
訴部分は、その余の点につき判断するまでもなく破棄を免れない。そして更に審理
を尽くさせる必要があるから、右部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    塚   本   重   頼
            裁判官    栗   本   一   夫
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    鹽   野   宜   慶
            裁判官    宮   崎   梧   一

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