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平成23(わ)第543号,同第707号
殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反,傷害被告事件
判決
主文
被告人を懲役14年に処する。
未決勾留日数中430日をその刑に算入する。
理由
(犯行に至る経緯等)
1被告人は,中華人民共和国吉林省出身の朝鮮族であり,A及びBは同じ民族
の同郷の先輩,C及びDは同じ民族の同郷の後輩という関係にあった。
2平成23年1月1日未明,C及びDが,E及びFを含む同国漢族の集団(た
だし,F自身は漢族ではない。)と喧嘩(以下「元旦の喧嘩」という。)になった
際,Eらから暴行を受けるという出来事があった。
3その後,被告人は,元旦の喧嘩の話を聞いて,Eに謝罪を求めようと考え,
同月18日朝,同人に電話で連絡を取って会う約束をしたが,その際不安を感じた
ことから,愛人宅から洋出刃包丁(以下「本件包丁」という。)を護身用に持ち出
し,自己の使用する自動車の後部座席に置いておいた。
同日夕刻,被告人は,後記「J珈琲店K店」でEと会い(被告人は,この時には
本件包丁を携行しなかったとする。),話し合った結果,C及びDも交えて,改め
て和解の席を設けることで合意した。
4同日夜,被告人は,A,B及び同人の友人であるGと共に中華料理店「L」
で飲食していたところ,日付が変わった同月19日午前0時9分ころ,Eから電話
があり,C及びDを連れてくるように言われた。
そこで,被告人は,Cに連絡を取って,Dと共にEが指定したJ珈琲店K店に来
るよう伝え,自身もLを出てEに会いに行くことにしたが,上記電話でのEの口調
等から,同人やその仲間たちと喧嘩になるかもしれないと考え,Lに残るAに対し,
これから漢族のリーダーに会いに行くが,何かあったら連絡するので助けてほしい
旨言い残した。
被告人は,不安を感じたことから,付近に止めていた自車内から本件包丁を持ち
出して身に帯びた上,C及びDと合流し,J珈琲店K店へ行ったが,Eは来ていな
かった。
5被告人が,C及びDと共に付近を歩いていたところ,Fから呼び止められ,
被告人とFは,路上で,元旦の喧嘩の件につき言い争いになった。
そして,被告人は,Fから手けんで顔面を2回ほど殴られ,木刀を持ち出した同
人に追い掛けられたので,Aに電話で助けを求めるとともに,Lのある後記「Mビ
ル」へ向けて逃走した。
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1上記のとおり,Fから顔面を殴られ,木刀を持った同人に追い掛けられた上,
名古屋市中区所在のMビル内において,更に手けんや特殊警棒で頭部等を殴ら
れるなどの暴行を受けたことから,自身の身体を防衛するため,防衛の程度を
超え,その場に駆け付けたA,B,C及びDらと共謀の上,同月19日午前0
時39分ころ,同ビル前路上において,F(当時29歳)に対し,それぞれ,
同人の頭部等を足で多数回蹴り付け,同人から奪った上記特殊警棒で数回殴り,
同人の背部を本件包丁で1回突き刺すなどの暴行を加え,よって,同人に加療
約3週間を要する頭部打撲傷,背部刺創等の傷害を負わせた,
第2その後,同区所在のJ珈琲店K店前路上まで移動し,同所において,被告人
らとEらが対峙することとなった際,同日午前0時45分ころ,E(当時30
歳)に対し,同人が死亡するかもしれないことを認識しながら,あえて,同人
の上半身に向け,手加減することなく本件包丁を1回振り下ろして同人の左頸
部を突き刺し,よって,同日午前2時20分ころ,同市南区所在のN病院にお
いて,同人を左鎖骨下動脈切破に基づく出血性ショックにより死亡させて殺害
した,
第3業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午前0時45分ころ,上
記J珈琲店K店前路上において,刃体の長さ約17㎝の本件包丁1丁を携帯し
た。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
1争点
本件各公訴事実の要旨は,被告人が,共犯者らと共謀の上,Fに対し,暴行を加
えて傷害を負わせ(以下「本件傷害」という。),また,単独で,Eに対し,殺意
をもって左頸部を本件包丁で1回突き刺して殺害し(以下「本件殺人」という。),
その際,同包丁1丁を不法に携帯したというものである。
弁護人は,本件包丁の不法携帯については争わないものの,①本件傷害につき,
被告人は,Fの頭部を1回蹴っただけであり,暴行罪に問われることはあっても,
共犯者らとの共謀はないから,傷害罪の共同正犯は成立しない,②本件殺人につき,
被告人は本件包丁でEを刺したが,殺意はなかったから殺人罪は成立しない,③本
件傷害及び本件殺人のいずれについても,被告人には正当防衛が成立し,仮に正当
防衛が成立しない場合でも,本件傷害については過剰防衛が,本件殺人については
誤想防衛又は過剰防衛がそれぞれ成立する旨主張し,被告人も,公判廷で弁護人の
主張に沿う供述をしている。
そこで,当裁判所が,判示のとおり,本件傷害については,共謀を認めた上,過
剰防衛が成立すると認定し,本件殺人については,殺意を認めた上,正当防衛等が
成立しないと認定した理由を,以下,補足して説明する。
2争いのない事実
まず,判示「犯行に至る経緯等」に掲げた各事実及び次の各事実については,当
事者間でほぼ争いがなく,関係証拠上も容易に認められる。
(1)被告人は,愛人宅から持ち出した本件包丁の刃体の中央付近にタオルを5周
にわたって巻き付け,刃先約7㎝及び柄の末端部分がむき出しになった状態で,自
車内に置いていたこと。
(2)電話で被告人から助けを求められたAは,Bらと共にLを出て被告人の救助
に向かい,また,C及びDも,被告人のもとに駆け付け,Fに対する暴行に及んだ
結果,同人は,加療約3週間を要する頭部打撲傷,背部刺創等の傷害を負ったこと。
(3)被告人は,C及びDと共に,J珈琲店K店(以下「J珈琲店」という。)前
において,Eとその連れであるH及びIに遭遇したが,ほどなく,AとBも被告人
らに合流した結果,被告人ら朝鮮族の者5名とEら漢族の者3名が対峙する形とな
ったところ,Aが特殊警棒でHの額を殴り付けたことを皮切りとして,AらのHに
対する暴行が始まり,Aらは,逃走しようとしたHを捕まえて,更なる暴行を加え
たこと。
(4)被告人は,Hに対する暴行には加わらず,Eと対峙する形が続いていたとこ
ろ,同人が,スタンガンを持ち出して発動させたこと。
(5)被告人が,Eに本件包丁を振り下ろした結果,同包丁は同人の左下顎部を傷
付けた上,左頸部に突き刺さり,同人の左頸部には深さ約7㎝以上の損傷が生じた
が,同損傷内には,左肺刺創ないし刺切創及び左鎖骨下動脈切破が認められ,同人
は,同日午前2時20分ころ,搬送先のN病院において,同動脈切破に基づく出血
性ショックにより死亡したこと。
3関係者の供述等により認定できる事実
(1)A及びBを始めとする関係者の供述(供述調書)等によれば,①本件傷害に
関して,(ア)被告人は,Mビル内において,Fから,手けんや特殊警棒で頭部等を殴
られるなどの暴行を受け,同ビル前路上において,同人と更に体を押し合うなどし
て,双方が体勢を崩して倒れそうになっていたところ,A及びBらが駆け付け,次
いで,C及びDも駆け付けたこと,(イ)被告人を含む6名は,朝鮮語でFを口汚くの
のしりながら,同人に対し,手けんや同人から奪った特殊警棒で,一方的に殴る蹴
るの激しい暴行を加えたほか,同人の背部を本件包丁で刺して背部刺創を負わせた
ことが,②本件殺人に関して,(ア)J珈琲店前において,スタンガンを取り出したE
は,後ろに下がりながら,被告人らに対し,右手で所持していたスタンガンを弧を
描くように振り回したり,体の前で平行にして動かすように振り回して抵抗してい
たこと,(イ)AやBは,Eに近付くことができなかったが,被告人は,右手で本件包
丁を携えながら,スタンガンが近くに来た場合は1歩後ろに下がり,少し離れた場
合は1歩前に出るという動きを繰り返した後,Eが1歩後ろに下がった時に,同人
の正面から近付き,右手を振り上げて本件包丁を突き刺したことが,それぞれ認め
られる。
(2)ところで,弁護人は,①A及びB(以下,両名を「Aら」ともいう。)の供
述には,顕著な変遷や不合理な内容がある,②Aらは,自己の刑事責任を軽減し又
は逃れるために虚偽を述べた可能性が高い,③Bは,被告人に悪感情を有していた
などとして,Aらの供述は信用できないと主張する。
しかしながら,そもそも,Aらの供述に,弁護人が指摘するような顕著な供述の
変遷があるとは評し難い。
内容的に見ても,Aらは,本件傷害について,自己の行為も含めて暴行態様等に
つき詳細に供述しており,被告人に責任を転嫁するような供述をしているとは考え
られない。また,Aらは,本件殺人についても,Eはスタンガンを後ろに下がりな
がら振り回していたにすぎない旨ほぼ一致して供述しているところ,その視認状況
に問題は認められず,供述内容も具体的である。そして,Aらの供述はほぼ一致し,
Cらの供述とも整合している。
加えて,Aらは,被告人と同じ朝鮮族であり,来日後も被告人と親しく交際して
いた者であるから,Aらに,あえて被告人に不利な虚偽の供述をする動機等はうか
がわれないところ,取り分け,Aらの証人尋問調書については,本件の主任弁護人
も尋問に立ち会い,反対尋問を行っているのであるから,その信用性は高いと考え
られる。
以上によれば,Aらの供述は,信用できる。
4被告人の検察官調書の任意性
(1)被告人は,捜査段階で,本件傷害を認め,本件殺人についても,明確な殺意
を否認しつつ,Eの上半身を目掛けて手加減することなく左手に持った本件包丁を
一気に振り下ろしたことなどを認めており,その旨の検察官調書(以下,これらを
「本件検察官調書」という。)が作成されているところ,弁護人は,同検察官調書
は,検察官Oによる違法・不当な取調べの結果作成されたものであるとし,また,
同検察官調書は,その前提となる警察官2名(P及びQ)による違法・不当な取調
べの影響を遮断できていない状況で作成されたものであるなどとして,同検察官調
書(その不同意部分)には任意性がない旨主張する。
(2)しかしながら,被告人を取り調べ,本件検察官調書を作成した状況に関する
O検察官の証言や,同検察官の取調べ内容を録音・録画したDVDの内容等を踏ま
えれば,同検察官調書の作成過程には,その任意性を疑うべき事情は何ら認められ
ない。
この点,被告人は,本件検察官調書の作成状況につき,公判廷において,被告人
が供述していないことが一方的に記載され,O検察官は,被告人が訂正を申し立て
ても一切受け入れてくれなかったので,絶望して署名指印に応じた旨供述する。
しかしながら,被告人の公判供述には,O検察官から受けた取調べの状況につき,
不合理な変遷があるばかりか,被告人から作成中の供述調書の内容や以前に作成さ
れた供述調書の内容につき,訂正を申し立て,その訂正内容が録取された供述調書
が存すること,Eを本件包丁で刺した状況につき,被告人は,同検察官から利き手
である右手に持った同包丁で刺したのではないかと質問されても,左手であると主
張し,同検察官に迎合するような供述をしていないことなども考慮すれば,同検察
官の取調べ状況に関する被告人の公判供述は,信用することができない。
(3)なお,O検察官の取調べ前に被告人を任意で取り調べた警察官(P警察官)
の対応には,一部不適切な点があったと認められるが,同検察官は,警察と検察が
異なる組織であることを伝えた上,検察官に対しては,警察の取調べで話したこと
と同じ内容を話す必要はなく,自己の記憶のとおり話せばよい旨説明していること
にも照らせば,警察官の対応に一部不適切な点があったことは,本件検察官調書の
任意性に影響を及ぼすものではない。
(4)弁護人は,本件検察官調書を作成する際,通訳人が,「順手」「逆手」「目
掛ける」「加勢」などの言葉について,言語的ニュアンスが大きく相違する訳出を
した結果,被告人は供述調書上の記述の意味も分からない状態で署名指印を迫られ
たなどと主張する。
確かに,当裁判所の行った鑑定の結果によれば,弁護人が指摘する言葉の訳語と
して,一部不正確ないし不適切な点があったことは認められるが,被告人は,取調
べ時に,韓国語の通訳を介することを望まず,O検察官と日本語で直接話すなど,
相当に高度な日本語の能力を有しているところ,同検察官によれば,「順手」「逆
手」「加勢」については,その意味を取調べ時に被告人に説明したというのであり,
また,「目掛ける」については被告人自身も正しい文脈でその言葉を使用している
ことなども考えると,被告人において,弁護人の指摘する言葉の意味がおよそ分か
らない状態で供述調書に署名指印したような事情はうかがわれない。そうすると,
弁護人の指摘する言葉の訳出に一部不正確な点等があったことは,本件検察官調書
の任意性を疑わせるものではない。
5被告人の供述の信用性
本件検察官調書の被告人の供述には,Eが,被告人の顔面にスタンガンを突き付
けてきたとするなど,Aらの供述と相反する部分はあるが,少なくとも,Aらの供
述に整合する限度では信用できると思われる。
他方,被告人の公判供述には,前記のとおり,その内容自体に不合理な変遷が見
られるところ,被告人は,公判廷で,本件包丁で刺されたEが,その後,C,D及
びBに取り囲まれて暴行を受けているのを目撃したとするなどと,捜査段階では自
己が全く述べておらず,他の関係者らの供述とも矛盾する供述を新たに始めている。
これらの事情に照らすと,捜査段階の供述を変遷させた被告人の公判供述は,信用
することができない。
6争点に対する判断
以上を前提として,本件の争点について判断する。
(1)本件傷害の共謀の有無について
前記のとおり,被告人は,元旦の喧嘩の件でFと言い争いになり,手けんで殴ら
れた上,木刀を持った同人に追い掛けられるなどした際,Aに電話で喧嘩になった
ことを伝えて助けを求めたが,これに応じて駆け付けたA及びBらや,やや遅れて
駆け付けたC及びDは,被告人を助けるためにFに対する暴行に及んだものと認め
られる。
そして,Aらが,朝鮮語で口汚くののしりながら,Fに対して暴行に及ぶや,被
告人もこれに加わり,他の者と一緒になってFを取り囲み,同人に対し,一方的な
暴行を加え続けたのであるから,被告人は,A以下の者と,その場で,暗黙のうち
に,Fに対し暴行を加えることの共謀を遂げたものと認めることができる。
(2)本件傷害の正当防衛等の成否について
被告人は,言い争いをしていたFから突然顔面を殴られ,木刀を持って同人から
追い掛けられた上,当初は,1対1の状況で,同人から手けんや特殊警棒で頭部等
を殴られるなどしたものであり,これは急迫不正の侵害に当たる。また,被告人自
身はもとより,駆け付けたA以下の者についても,被告人を助けようとしてFに反
撃を加えたのであるから,防衛の意思が認められる。この点につき,検察官は,被
告人は,Eらからの侵害を予期して本件包丁を準備し,Fと言い争いになった際に
侮辱して同人を挑発し,同人が木刀を持って攻撃してきたので,いったん逃げ出し,
共犯者らを呼んで迎撃態勢を整えた上,共犯者らと共に激しい暴行をFに加えたと
いうべきであり,また,抵抗できなくなったFに対し,更に殴る蹴るの暴行を加え
ているから,やむを得ずにした反撃とはいえない旨主張するが,前記「犯行に至る
経緯等」に照らせば,同主張は採用できない。
しかしながら,Fが被告人に加えた攻撃は,まず,手けんで顔面を殴り,次いで,
木刀を持って追い掛け,さらに,手けんや特殊警棒で頭部等を殴るなどといったも
のであるところ,被告人らは,Fが被告人らからの反撃を受けて抵抗できなくなっ
た後も,更に激しく執ような暴行を加え続け,その間には,本件包丁でFの背部を
刺すことまでしたのであるから,全体として見れば,明らかに防衛行為としての相
当性を欠くものである。
以上により,被告人のFに対する本件傷害については,正当防衛は成立せず,過
剰防衛が成立する。
(3)本件殺人の殺意の有無について
被告人は,検察官に対し,Eからスタンガンを突き付けられたので,左手に持っ
た本件包丁を,同人の上半身,すなわち,頭から首,肩,胸の下辺りまでの体を目
掛けて,手加減することなく,一気に振り下ろした旨供述している(なお,捜査段
階の供述を翻した被告人の公判供述が信用できないことは,前述のとおりである。)。
被告人の供述のうち,Eからスタンガンを突き付けられたとする点は,Aらの供
述に照らして信用できないし,Eの左頸部の負傷状況からすれば,被告人が本件包
丁を左手に持っていたというのは不自然との感を否めないが,いずれにせよ,被告
人の刺突行為により,Eの左鎖骨下動脈が完全に切断され,それに基づく出血性シ
ョックにより同人が1時間半余り後に搬送先の病院で死亡したことからすれば,本
件包丁の刃体の中央付近にタオルが5周にわたり巻き付けられていたことなどを考
慮しても,被告人の上記刺突行為は,客観的に見て,人を死亡するに至らせる危険
性の高い行為であったことは明らかであり,被告人は,そのような危険性の高い行
為をあえて行ったのであるから,殺意があったものと認められる。
もっとも,被告人は,Eが持ち出したスタンガンを見て,怒りと共に恐怖も感じ
ていたこと,同人に対する刺突行為は1回のみであることからすれば,被告人の殺
意は,確定的なものであったとは認められず,同人が死んでもかまわないという未
必的なものにとどまるというべきである。
(4)本件殺人の正当防衛等の成否について
被告人は,Eから,スタンガンを右腕に1回当てられた上,スタンガンを目の前
に突き付けられたので,恐怖や怒りから,本件包丁で同人を刺した旨供述する。
しかしながら,Aらの供述によれば,Eは,後ろに下がりながらスタンガンを振
り回したのであり,被告人にスタンガンを当てたり,これを被告人に突き付けるよ
うな行動は取っていなかったものと認められる。
そして,被告人らとEらが,J珈琲店前で対峙した際,被告人らが5名であるの
に対し,Eらは3名と劣勢であったところ,Eは,被告人側のAが,E側のHに特
殊警棒で先制攻撃を加えるなどしたことから,自己が被告人らから何らかの攻撃を
受けないようにするために,すなわち,専ら防御の目的で,それ自体には殺傷能力
のないスタンガンを持ち出し,左右に振り回すなどしたものと考えられる。
そうすると,Eが,スタンガンを持ち出し,上記のような態様でこれを使用した
ことは,被告人に対する急迫不正の侵害に当たらないというべきである。
そして,被告人が,自分からEに近付き,本件包丁で刺突行為に及んだことから
すれば,仮に,被告人において,それまでスタンガンを見たことがなく,その性能
を知らなかったとしても,Eによるスタンガンの使用を,自己に対する急迫不正の
侵害と誤信して上記刺突行為に及んだものではないと認められる。
以上によれば,被告人のEに対する上記刺突行為については,正当防衛や過剰防
衛はもとより,誤想防衛も成立しない。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法60条,204条に,判示第2の所為は同法19
9条に,判示第3の所為は銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22条に
それぞれ該当するところ,判示の各罪について各所定刑中いずれも懲役刑(判示第
2の罪については有期懲役刑)を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるか
ら,同法47条本文,10条により最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした
刑期の範囲内で被告人を懲役14年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中
430日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用
して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
本件のうち,最も重い殺人の犯行態様は,隠し持っていた鋭利な包丁を上から下
に振り下ろし,頸部に命中させるという極めて危険なものである。そして,その結
果として,前途ある被害者を死亡させた結果が重大であることも多言を要しない。
突然家族を失い,悲嘆に暮れる被害者の実母や妻は,被告人に対する厳重な処罰を
望んでいるが,当然のことである。
また,傷害の犯行も,先制攻撃を仕掛けた被害者に落ち度があるとはいえ,被告
人らは,反撃行為により被害者が抵抗できなくなった後も,激しく執ような暴行を
加え続け,包丁で背部を突き刺すことまでしており,悪質である。
被告人は,公判廷で,反省の言葉を述べているが,殺人事件については,被害者
からスタンガンを突き付けられたため,恐怖心からやむを得ず犯行に及んでしまっ
た旨の,また,傷害事件については,自分は最終段階で被害者の頭部を1回蹴った
だけであり,共謀して暴行に及んだことはない旨のそれぞれ不合理な弁解に終始し
ており,後悔していることはうかがわれるものの,真摯に反省しているとは認めら
れない。
そうすると,殺人が偶発的な犯行であり,殺意も未必的なものにとどまること,
傷害については過剰防衛が成立すること,被告人は,本件直後にいったん帰国した
ものの,実母に説得されて再び来日し,警察に連絡をとって取調べを受け,この刑
事裁判を受けていること,遠路中国から来日した被告人の実母や妻が,法廷で社会
復帰後の被告人の更生への協力等を申し出ていること,被告人には前科前歴がない
ことなど,酌むべき事情を考慮しても,被告人の刑事責任は重いから,その責任に
見合う長期の服役をさせるのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑懲役16年)
平成24年11月5日
名古屋地方裁判所刑事第2部
裁判長裁判官松田俊哉
裁判官山田順子
裁判官小野啓介

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