弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一 原判決中、控訴人有限会社折戸や、控訴人株式会社サンワ、控訴人
タカウ株式会社、控訴人A、控訴人株式会社中徳防水布店及び控訴人山三商事株式
会社の敗訴部分を取り消す。
     二 被控訴人らは、各自、控訴人有限会社折戸やに対し一四万八六六八
円、控訴人株式会社サンワに対し一一八万五九三四円、控訴人タカウ株式会社に対
し八四万四一五三円、控訴人Aに対し八万六三〇九円、控訴人株式会社中徳防水布
店に対し一〇万〇二〇九円及び控訴人山三商事株式会社に対し六八万八五五四円並
びに右各金員に対する平成七年六月一九日から支払済みまで年六分の割合による金
員を支払え。
     三 原判決中、控訴人石沢商事株式会社及び控訴人新潟アサヒ販売株式
会社に関する部分を次のとおり変更する。
     1 被控訴人らは、各自、控訴人石沢商事株式会社に対し五五万一七五
六円及び控訴人新潟アサヒ販売株式会社に対し一六万〇二七九円並びに右各金員に
対する平成七年六月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
     2 控訴人石沢商事株式会社及び控訴人新潟アサヒ販売株式会社のその
余の請求を棄却する。
     四 訴訟費用は、第一、二審を通じて、控訴人石沢商事株式会社及び控
訴人新潟アサヒ販売株式会社と被控訴人らとの間では、右控訴人らに生じた費用の
三分の一を被控訴人らの負担とし、その余を各自の負担とし、その余の控訴人らと
被控訴人らとの間では、全部被控訴人らの負担とする。
         事実及び理由
 第一 控訴の趣旨
 一 原判決を取り消す。
 二 被控訴人らは、各自、控訴人石沢商事株式会社(以下、当事者の表示中、株
式会社と有限会社の記載を省略する。)に対し七七万一二七〇円、控訴人折戸やに
対し一四万八六六八円、控訴人サンワに対し一一八万五九三四円、控訴人タカウに
対し八四万四一五三円、控訴人Aに対し八万六三〇九円、控訴人中徳防水布店に対
し一〇万〇二〇九円、控訴人新潟アサヒ販売に対し三〇万〇〇六三円及び控訴人山
三商事に対し六八万八五五四円並びに右各金員に対する平成七年六月一九日から支
払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
 三 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。
 第二 事案の概要
 一 本件は、各種履物などの卸販売を業とする控訴人らが、丸田屋ゴム皮百貸店
の商号で各種履物の小売店舗(原判決にいう「丸田屋」)を自営していたB(原判
決にいう「B」)の代理人であった(原判決にいう「C」)に売り渡した履物等の
売買代金について、Bの相続人である被控訴人らに対してその支払を求めている事
案であり、原審は、右売買代金はBを殺害したCが丸田屋の商号を使用して自ら営
業を行った取引に係るもので、営業の主体はCであるとして、控訴人らの請求を棄
却した。
 二 当事者間に争いのない事実及び証拠(甲一、二、一一ないし一七)により容
易に認められる事実は、原判決において前提となる事実として摘示した事実(原判
決五頁一行目から一一行目まで)のとおりであるから、これを引用する。ただし、
原判決五頁三行目及び六行目の「D」をいずれも「D」に改める。
 三 争点及びこれについての当事者双方の主張は、次に付加するほかは、原判決
摘示(原判決五頁一二行目から九頁五行目まで)のとおりであるから、これを引用
する。
 (被控訴人の当審における付加的主張)
 1 商法五〇六条の趣旨は、商取引の安全とともに、本人の死亡という突発的事
態に対して、本人の承継人のために企業の維持を図る必要に基づくものと解される
から、本人の死後、企業が相続人によって維持されることがその適用の前提とな
る。ところが、本件においては、Bの死後、丸田屋の営業がその子である被控訴人
らに承継されたという事実はないから、商法五〇六条の適用の余地はない。
 2 また、本件においては、営業主であるBは、自己の意思で死亡したのではな
く、店員であるCによって殺害されたのであるから、その瞬間からBは商人ではな
くなり営業を廃止しているのであって、商法五〇六条の適用はない。
 3 本件のような殺害による死亡という重大事象の場合にまで営業主の相続人の
不利益に優越して取引の安全だけを優先させるという法理はとるべきではない。
 4 控訴人らが本件で請求する売掛代金は、いずれも、CがBの死亡後に独自に
した自らの借金であって、被控訴人らに請求することは筋違いである。
 第三 争点に対する判断
 一 C、B及び被控訴人らの関係、CがBの営む丸田屋の営業活動に関与し、控
訴人らとの取引を行った経緯については、原判決説示(原判決九頁七行目から一三
頁九行目まで)のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決一〇頁一一
行目の「店にも」の前に「釣行や湯治のため、」を加え、一一頁二行目から三行目
の「八七〇万円」を「二五〇〇万円」に改め、同八行目の「平成二年」を「平成元
年」に改め、一二頁末行から一三頁一行目の「別紙取引内訳表記載のとおりの」を
削り、同頁四行目の「H」を「H」に改める。
 二 Cの代理権について検討する。
 1 右に引用した原判決認定の事実によれば、Bは、各種履物の小売を業とする
商人であるところ、遅くとも昭和六三年ころには、甥であるCに対し、その営む丸
田屋の営業に関する代理権を与え、Cは、右代理権に基づき、控訴人らから商品の
仕入れを行っていたものである。そして、Cは、Bを殺害した平成二年六月一八な
いし二〇日ころ以降も、Bの殺害を隠匿するため、その内心の意思はともかくとし
て、対外的には、Bが未だ生存しているように装い、したがって、丸田屋の営業主
であるBのためにする意思を明示又は黙示に示して、控訴人らから商品の仕入れを
行っていたものと解される。
 2 ところで、民法一一一条一項一号によれば、代理権は本人の死亡により消滅
すると規定されているのに対し、商法五〇六条は、その特則として、商行為の委任
による代理権は本人の死亡によって消滅しないものと規定しているところ、その趣
旨は、営業主である商人が死亡しても、その営業が当然に廃止されるわけではない
のに、民法の原則を適用して本人の死亡により代理人の代理権がすべて消滅すると
すると、あらためてその承継人からの授権行為を必要とすることになるが、これで
は継続的で敏速な企業活動が阻害されるなどの不都合がある一方、取引の相手方に
とっても、商人本人が誰であるかというよりは商人の営業に重きをおいて取引を行
っているのが通例であるのに、営業主である商人本人の死亡という偶然で、時とし
て外部の者には容易には知りえない事柄によって代理人の代理権が左右されるとす
るのでは、取引の安全が著しく妨げられることから、企業の便宜と取引の安全のた
めに、民法の特則が設けられたものと解するのが相当であり、なお、ここにいう商
行為の委任による代理権とは、商行為である授権行為により生じた代理権と解され
る。
 <要旨>したがって、相続人がいないため、本人の死亡によってその地位を承継す
る者がいないとか、本人の死亡以前にその営業が廃止されているというよう
な事情のないかぎり、商行為による代理人は、本人の死亡後も、その相続人の代理
人として、引き続き代理権を有するものと解されるところ、本件においてはそのよ
うな事情も認められないから、商人であるBがCに対して丸田屋の営業に関して付
与した代理権は、その死亡によっても消滅せず、Bの死後は、その相続人である被
控訴人らの代理人となるものというべきである。被控訴人らは、Bが自らの意思に
よらずに死亡したことによって、丸田屋の営業が廃止されたとの主張をするが、そ
のように解すべき理由はなく、採用することができない。
 3 被控訴人らは、被控訴人らにはBの営業を承継し継続する意思がなく、Bの
死亡後は丸田屋の営業は断絶しており、Bの殺害後はCが丸田屋の商号を使用して
自ら営業を行っていたから、商法五〇六条の適用の前提を欠くと主張する。
 しかしながら、被控訴人らが商人であるBの相続人としてその債権債務一切を承
継する以上は、併せてその企業体としての営業も承継したものというべきであっ
て、被控訴人らがBの死亡後に実際にその営業を承継し継続する意思があったかど
うか、また、現実に営業を承継したかどうかには係わらないものというべきであ
る。さらに、Bの死亡後、その相続人が営業を承継し継続する意思がなく、かつ、
現実に営業を承継していないというだけでは、丸田屋の営業が断絶したと認めるこ
とはできないのであり、かえって、Cは、その内心の意思はともかくとして、対外
的にはBのためにする意思で従前どおり丸田屋の営業活動を継続していたことは前
記認定のとおりであるから、被控訴人らの右主張は採用することができない。この
ように解すると、予期しない商人の死亡により、その相続人が自らは関与していな
い債権俵務関係を承継することになり、一見不当であるようにみえるが、その承継
を希望しない相続人は、相続を放棄しさえすれば(本件のように、死亡の事実が数
年後明らかになった場合には、その時点から三か月以内に相続放棄の手続をとるこ
とによって)、それらの法律関係から解放されるのであるから、特別に不都合があ
るとはいえず、逆に、取引の相手方にとっては全く面識もない相続人の営業承継の
意思の有無によって代理人の代理権が左右されるというのでは、取引の安全が害さ
れることとなり、著しく不都合であることは明らかである。
 さらに、被控訴人らは、本人であるBの死亡原因が代理人であるCによる殺害に
よるものであって、そのような反社会的な行為により死亡という結果を招来した場
合に、Cの行った取引について商法五〇六条の恩恵を与えることは信義誠実の原則
に反するとか、本件のような殺害による死亡という重大事象の場合にまで取引安全
の法理を優先させるべきではないと主張する。
 たしかに、被控訴人らにとっては、父親であるBを殺害された上、さらに、その
後加害者によって継続された取引上の債務の支払まで義務付けられる結果となり、
これを拒む心情も理解できないではないが、しかし、一方、控訴人らには全く過失
はなく、丸田屋の営業と信じて取引してきたのであり、控訴人らにとっては、営業
主のBが死亡したことを知らされていない以上、その死亡の原因が殺害という反社
会的な行為による場合と、通常の病死や老衰などの自然死の場合とで何ら事情は変
わらないこと、他方、前述のとおり、平成六年五月下旬、Bの殺害の事実が明るみ
に出て、被控訴人らは自己のために相続が開始したことを知った時点で、Bの営業
上の債権債務を含む遺産の相続につき、承認、放棄、あるいは限定承認の選択権が
与えられていたのであり、被控訴人らの意思で相続を承認した以上は、それによる
危険を負担することになったとしても止むをえないと解されることなどに照らせ
ば、被控訴人らの主張は採用することができない。
 4 したがって、Cは、B死亡後も引き統き、その相続人である被控訴人らの代
理人として、丸田屋の営業に関する代理権を有していたものというべきである。
 三 次に、控訴人らの売掛代金について検討する。
 証拠(枝番を含む甲三ないし一〇、二一ないし三二、原審証人E、同F、同G、
同H、原審における控訴人石沢商事代表者、同控訴人タカウ代表者、同控訴人A本
人、同控訴人中徳防水布店代表者)によれば、控訴人らは、原判決別紙取引内訳表
記載の取引期間内に、同表記載の取引商品を売り掛け、少なくとも同表記載の残代
金の金額の売掛代企債権(ただし、控訴人石沢商事は一一〇万三五一二円、控訴人
新潟アサヒ販売は三二万〇五五八円)を有していることが認められる。なお、控訴
人石沢商事及び控訴人新潟アサヒ販売は、右金額を超えて、原判決別紙取引内訳表
記載の残代金額の債権を有すると主張するが、同表記載の取引期間中に、それ以前
の取引による繰越金額があるとはいっても、右認定の金額を超えて商品を売り渡し
たと認め得る的確な証拠はない。
 なお、被控訴人らは、右債権は、CがBの死亡後に独自にした自らの借金である
と主張するが、以上の説示に照らし、採用することができない。
 四 結論
 以上の認定によれば、控訴人折戸や、控訴人サンワ、控訴人タカウ、控訴人A、
控訴人中徳防水布店及び控訴人山三商事の本件請求はいずれも理由があるから、こ
れを棄却した原判決を取り消してこれを認容することとし、被控訴人ら各自に債権
額の各半額の支払を求める控訴人石沢商事の請求については各自五五万一七五六
円、控訴人新潟アサヒ販売の請求については各自一六万〇二七九円とこれに対する
履行期の後である平成七年六月一九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合
による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるが、その余の請求は理由がない
から棄却すべきところ、これと一部結論を異にする原判決をその旨変更することと
し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 奥山興悦 裁判官 都築弘 裁判官 佐藤陽一)

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