弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文と同趣旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求
めた。
 当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、当審において次のとお
りつけくわえたほか原判決事実欄に記載するとおりであるからこれを引用する。
 (控訴人の主張する事実)
 一、 本件確定申告書一頁欄外にAの氏名が記載されているとしても、このこと
から直ちに本件申告書がA名義のものであると断ずることは早計である。本件申告
のような法律行為の解釈においては、その表示されたところを客観的に観察してこ
れをきめるべきであり、その表示は、書面のある個所のみの記載だけでなく、行為
当時の諸種の状況をも斟酌し、これを綜合的に決定すべきところ、本件申告書は、
内容において被控訴人自身からする申告書とみるほかない種々の記載があるのみで
なく、被控訴人がこれを係官に提出する際Aの代理人として持参したことを明示せ
ず、しかも前年度である昭和三一年度および三〇年度は飲食店営業所得について被
控訴人名義で申告書が提出され、係争年度については、被控訴人からは廃業届も、
また妻Aからは開業届も提出されていないのみでなく、その営業の実態はむしろ被
控訴人自身によつて営まれていると認められることの事情からすれば、当時係官が
本件申告をする者が被控訴人であるとしてこれを取扱つたことは無理からぬことで
あつて、そう扱うのが合理的である。
 二、 行政処分に法令に違反する瑕疵がある場合には、その瑕疵の性質、軽重の
いかんを問わず、抗告訴訟において当該行政処分が取消さるべきではなく、その瑕
疵の性質、程度、特にその瑕疵が当該当事者に不利益をおよぼすものであるかどう
かを検討し、その結果取消に価する瑕疵がある場合においてのみ、その取消がなさ
るべきである。
 もし、所得税法第四四条第四項により決定すべきところ同条第一項の更正処分を
したとすれば、法令の適用を誤つたことになることは明らかである。しかし、第四
項の決定も、第一項の決定も所得税の課税標準額を決定する課税処分である点にお
いて両者はかわりがない。ただ、異るのは、扶養控除等の有無および利子税無申告
加算税等の加算の有無であつて、それも同条第一項の更正処分が第四項の決定より
も納税者にとつて有利な処分であるからその手続上の瑕疵はなんら被控訴人に不利
益をもたらすものでなく、したがつて、それが法令に違反する瑕疵であつても、こ
れだけを理由として行政処分が取消さるべきでないことは明らかである。
 (被控訴人の主張)
 一、 控訴人の右主張は争う。
 二、 被控訴人に控訴人主張(更正処分記載)の給与所得、譲渡所得があつたこ
とは認める。
 (証拠関係)省略
         理    由
 一、 控訴人が、昭和三三年六月三〇日付で、被控訴人に対し、給与所得金三万
二一九二円、事業所得金一四万三〇〇〇円の申告所得のほか、給与所得金二、〇四
五円、譲渡所得金二六八万七、七八八円の所得があると認定し、所得控除額一八万
四、四〇〇円、課税総所得金額二六八万六〇〇円と決定し、課税額を八九万六二六
四円と認定のうえ、右税額より源泉徴収額三、九二〇円を控除した差引申告納税額
八九万二四四〇円に過少申告加算税四四、六〇〇円を加算して被控訴人の昭和三二
年度の所得額の更正処分をし、その旨を被控訴人に通知したことは当事者間に争が
ない。
 二、 1 被控訴人において提出した確定申告書は、被控訴人が妻のAを代理
し、同人の名で提出したものであり、被控訴人自身の確定申告書は被控訴人に提出
されなかつたことは、次の2のとおりつけ加えるほか原判決理由(三)、(四)
(一四枚目表二行目から二一枚目裏三行目まで)に記載するとおりであつて、当審
において提出された証拠をもつてしても右認定を動かすものではないから、右原判
決の記載を引用する。
 2 本件において、当初確定申告名義人は、申告書一頁欄外にAと記載されてい
るが、申告者氏名欄にその記載がなく、記載内容も被控訴人に関する部分の記載が
含まれているなど、必ずしも明瞭であつたとはいえないけれども右欄外の記載は当
然右申告者を予想させるものであつたということができる。もつとも、右受理係員
B事務官は、申告者氏名を被控訴人に代つて「C」と記載したがそれが不注意によ
る誤記であつたことについては前記引用の原判決に記載するとおりであるから、こ
れをもつて申告者氏名の記載とはみられないし、さらに、前記引用の原判決認定の
ように、その後被控訴人からの右誤記に対する抗議をいれ、宇都宮税務署事務官が
代筆してCをAと加筆訂正したことによつて、本件確定申告者氏名はAと訂正表示
されるにいたつたものである。したがつて、本件確定申告書の申告者として記載さ
れたのはAであつたと認めるべきであつて、それ以上に受理係員B事務官による解
釈、確定申告書の記載内容、提出者被控訴人の意思解釈、飲食店営業の主体などを
斟酌して確定申告の実質的主体を判定するまでもない。
 三、 けつきよく、被控訴人の確定申告書の提出はなかつたわけであるから、同
人に対する課税処分は、所得税法第四四条第四項による決定処分によるべきであつ
て、同条第一項による更正処分をすべきでなかつたことは明らかであるから、控訴
人が被控訴人に対し冒頭記載の更正処分をしたことは違法であるといわねばならな
い。
 <要旨>四、1 しかしながら、更正処分も、決定処分も、ともに政府(税務官
庁)のなす課税標準額の確定処分であり、その本質を異にするものではな
い。
更正処分においては、扶養控除、生命保険料控除、社会保険料控除等が認められる
一方所得税法第五六条第一項による増差税額の五%の過少申告加算税を課せられる
のに対し決定処分においては、制裁として右諸控除が認められず、その上右過少申
告加算税に代え同法第五六条第三項所定の一〇%から最高二五%の無申告加算税を
課せられるのであるから、決定処分をなすべき場合に、誤つて更正処分をしたとき
であつても、納税義務者に課せらるべき負担金額は決定処分による場合に比べて低
額となり、結果において納税義務者の利益はなんら害されないことになるといわね
ばならない。
 2 そこで、被控訴人が前記更正処分表示の所得金額があつたかどうかについて
検討する。
 (一) 被控訴人において、前記更正処分表示の給与所得、譲渡所得のあつたこ
とは、当事者間に争がない。
 (二) 事業(飲食店営業)所得額が更正処分表示の金額であつたことは、前記
認定の確定申告書に表示された事業所得金額がこれと同一であることからみて明ら
かである。
 そこで、右事業所得の帰属について考えると、成立に争のない甲第六、七号証、
第一六号証によると、飲食店「たまき」の営業許可、米飯提供業者登録票、遊興飲
食税非課税飲食物提供場所の証票がいずれもAに対してなされており、右飲食営業
の名義人がAであることは明らかであるけれども、それだけで直ちに営業の主体が
Aとは断定することができない。
 しかして、成立に争のない乙第七号証、第一〇号証、第一三号証、第二一号証、
第二三号証、原審および当審における証人Dの証言ならびにこれにより真正に成立
したと認める乙第一五号証の一ないし四、第一六号証の一ないし三、第一七号証、
原審における証人Eの証言およびこれにより真正に成立したと認める乙第八、九号
証、同証人Fの証言およびこれにより真正に成立したと認める乙第五号証の二を総
合すると、係争年度における飲食店営業を主宰していたのは被控訴人であつたと認
められ、営業利益は結局被控訴人に帰属するものと考えられる。もつとも成立に争
のない乙第二六号証にはAの名で係争年度中常磐相互銀行宇都宮支店から融資を受
けたことがうかがわれるが、前掲証拠に照らし、右認定を左右するに足りないし、
右認定に反する原審における証人A、同Gの右証言原審および当審における被控訴
本人Cの尋問の結果は信用できないし、他に右認定を覆すに足りる証拠は存在しな
い。
 結局係争年度において、被控訴人は更正処分表示の金額の事業所得があつたもの
といわねばならない。
 3 そうであるならば、被控訴人が当時本来決定処分によつて課せらるべき所得
税額は、課税総所得金額二七七万七五〇〇円に対する所得税額九三万九〇〇〇円か
ら控訴人において自認する源泉徴収税額三、九二〇円を控除したうえ、所得税法第
五六条第三項により課せられる二五%の無申告加算税額二一三万三二五〇円を加え
合計一一六万八三三〇円(別表(ウ)欄記載のとおり)となるべきところ、更正処
分によつて課せらるべき税額は別表(ア)欄記載のとおり右金額を下まわる合計金
九三万七〇四〇円となるのであつて、更正処分によつて被控訴人の利益はなんら害
されるものではないから、右更正処分の取消を求めることはできないものといわね
ばならない。
 四、 以上のとおりであつて、被控訴人の本件更正処分の取消を求める本訴請求
は理由がないから棄却すべきところ、これを認容した原判決は失当として取消すべ
く、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九六条を適用して主文のとお
り判決する。
 (裁判長裁判官 牧野威夫 裁判官 浅賀栄 裁判官 渡辺卓哉)

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