弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人口野昌三の上告理由第一点について
 国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設若しくは器具
等の設置管理又は公務員が国若しくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理に当
たつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負つて
いる(最高裁昭和四八年(オ)第三八三号同五〇年二月二五日第三小法廷判決・民
集二九巻二号一四三頁)。右義務は、国が公務遂行に当たつて支配管理する人的及
び物的環境から生じうべき危険の防止について信義則上負担するものであるから、
国は、自衛隊員を自衛隊車両に公務の遂行として乗車させる場合には、右自衛隊員
に対する安全配慮義務として、車両の整備を十全ならしめて車両自体から生ずべき
危険を防止し、車両の運転者としてその任に適する技能を有する者を選任し、かつ、
当該車両を運転する上で特に必要な安全上の注意を与えて車両の運行から生ずる危
険を防止すべき義務を負うが、運転者において道路交通法その他の法令に基づいて
当然に負うべきものとされる通常の注意義務は、右安全配慮義務の内容に含まれる
ものではなく、また、右安全配慮義務の履行補助者が右車両にみずから運転者とし
て乗車する場合であつても、右履行補助者に運転者としての右のような運転上の注
意義務違反があつたからといつて、国の安全配慮義務違反があつたものとすること
はできないものというべきである。
 これを本件についてみるに、原審が適法に確定したところによれば、(1) 陸上
自衛隊第三三一会計隊長である訴外D一等陸尉(以下「D一尉」という。)は、昭
和四二年六月二九日、北海道岩見沢の第三二七会計隊から臨時勤務者(車両操縦手)
として派遣されてきていたE一等陸士の勤務期間が終了したので同人を原隊に送り
届けることになつたが、当時第三三一会計隊には自衛隊の車両操縦手の資格を有し
ている者がなく、幹部で公安委員会の運転免許を有しているF二尉も当日不在であ
つたためと業務連絡の都合上、公安委員会の運転免許を有しているD一尉が自ら運
転することとした、(2) その際D一尉は、会計隊長として、約一か月前に公安委
員会の運転免許を取得し、将来操縦手の資格を取得させようと考えていた亡Gに対
し、その教育準備として道路状況の把握、車両操縦の実地の見学、第三二七会計隊
の見学等のほか運転助手を勤めさせる目的で、第三三一隊装備の四分の一トントラ
ツク(車番〇一―五二九四号、以下「本件事故車」という。)に同乗を命じた、(
3) D一尉は、本件事故車を運転してE一等陸士を第三二七会計隊に送り届けた
のち帰途につき、同日午後一時四〇分ころ、北海道岩見沢市a町b先国道一二号線
上を岩見沢市方面から幌別市方面へ向け進行中、国道補修工事のため舗装部分の幅
が狭くなつた道路部分にさしかかり、同所を時速約三五ないし四〇キロメートルの
速度で通過したが、その直後、道路の舗装部分の幅が広くなつたところに出て時速
約四五ないし五〇キロメートルに急加速したため、本件事故車の後輪を左に滑走さ
せ、狼狽の余りハンドルを切り返して進路を正常に復させる余裕もないまま、本件
事故車を道路上で回転させて反対車線に進入させ、折から対面進行してきた訴外H
運転の大型貨物自動車の右前部に、自車右側面部を衝突せしめ、その衝撃によつて、
本件事故車に同乗していた亡Gに頭蓋血腫、脳挫傷の傷害を負わせ、同人を同月三
〇日午前五時五五分に死亡させた、(4) D一尉は、事故当時降雨のため路面が濡
れていたばかりでなく、右補修工事に際し補修部分に塗布したアスフアルトが本件
事故車の進路の舗装路面上に約四七メートルの長さに亘つて付着し、そのため路面
が極めて滑走し易い状況にあつたにもかかわらず、路面に右アスフアルトが付着し
ていたのを看過して滑走等の危険はないものと軽信し、漫然アクセルペダルを踏み
込んで前記のとおり加速した、というのである。
 以上の事実関係によれば、本件事故は、D一尉が車両の運転者として、道路交通
法上当然に負うべきものとされる通常の注意義務を怠つたことにより発生したもの
であることが明らかであつて、他に国の安全配慮義務の不履行の点は認め難いから、
国の安全配慮義務違反はないとした原審の判断は、正当として是認することができ、
原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同第二点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審
の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用するこ
とができない。
 同第三点について
 原審が所論の主張を排斥していることは、原判決を通覧すれば明らかである。論
旨は、原判決を正解しないでその不当をいうものにすぎず、採用することができな
い。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    鹽   野   宜   慶
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    宮   崎   梧   一
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    牧       圭   欠

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