弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人代表者E、上告代理人堀家嘉郎、同高田信也の上告理由について。
 論旨は、要するに、原判決が本件選挙において「D正夫」と記載された投票一四
票を、その記載が候補者D吉左衛門の旧名正夫と合致するにもかかわらず、同人の
得票と認めず、候補者D正雄の名の誤記とみる可能性のあるものとして無効と判断
したのをもつて、公職選挙法六七条及び六八条の解釈を誤つたのみならず、右一四
票の投票は、少なくとも本件選挙における「D(原文はカタカナ)マサヲ」、「D
(原文は平仮名)まさを」と仮名書きされた二三票及び「D正男」と記載された六
票とともに、公職選挙法六八条の二の規定の適用により前記二候補者に対してその
得票数に応じて按分帰属せしむべきものであり、同条を適用すれば当選の結果に異
動を生ずることはないのに、この点を看過してD吉左衛門の当選を無効としたのは、
審理不尽、理由不備であり、公職選挙法二〇五条、二〇九条及び六八条の二に違背
し、かつまた当裁判所の判例を無視するものというにある。
 原判決は、証拠により認定した諸事実に基づき、係争の「D正夫」票一四票には、
候補者D吉左衛門の旧名を記載したとみるべき多少の可能性は存するが、他面候補
者D正雄の名の誤記とみるべき可能性が多分に存するものと認め、その記載が吉左
衛門の旧名に合致するということだけを基準としてその投票の帰属を決定しがたい
ものとし、右一四票中少くとも吉左衛門がその当選を維持するに足りるだけの票数
を同人の旧名を記載したものと確定ないし推定しうべき根拠は認めがたいとして、
同人の当選を無効と判示したものであり、その投票の効力判断としては、その認定
事実のもとにおいて、右一四票中どれだけの票が吉左衛門の旧名を記載したものか、
どれだけの票が正雄の名を誤記したものか判別しがたいため、これら一四票は結局
公職選挙法六八条七号にいう候補者の何人を記載したかを確認しがたい無効票と解
せざるをえないとする趣旨にあること判文上明らかである。原判決が、本件選挙に
おいて係争の投票は、候補者D吉左衛門の旧名の記載として現われることも、また
候補者D正雄の名の誤記としても現われることも考えられ、どちらかといえば後者
の可能性が強いものと認定したのは、その適法に確定した事実関係と正雄と正夫と
は誤記されやすい名であること、及び投票上の候補者の表示として旧名使用は異例
に属すること、ことに候補者中にD吉左衛門の旧名とまぎらわしい候補者が存する
うえ、吉左衛門自身もその選挙運動において旧名使用を差控えていた本件選挙事情
のもとにおいては、同人を旧名をもつて呼ぶ選挙人でも投票上右旧名を使用するこ
とは通常とはみがたいことを併せ考えれば、決して失当ということはできない。原
判決が、この見地から係争の投票に公職選挙法六八条七号を適用したのは正当であ
り、したがつてまた同条の規定に反しないかぎりにおいて選挙人の意思が明白であ
ればその投票を有効と解すべきものとする同法六七条後段の規定にも、違背すると
ころのないのは明らかである。論旨は、候補者の旧名による投票は、その効力判定
にあたつて通称、通称化された屋号、商号などと同様に、その本人の戸籍上の氏名
を記載したものと同価値、対等に取り扱うべきものといい、旧名と現氏名とを同視
して、投票上の記載氏名が特定の候補者の氏名に合致するときは、その投票を右候
補者の得票とするのを投票の効力判定上の当然の原則と論ずるが、投票上の候補者
の表示として旧名によることが異例であることを看過した論であり、その投票上の
記載が候補者の旧名として書かれたものかどうかに疑の存する本件の場合には妥当
しない。論旨はまた、「D正男」と記載された六票、「D(原文は平仮名)まさを」
「D(原文はカタカナ)マサヲ」と仮名書きされた二三票が開票に際しD正雄の得
票とされたのを誤りとし、原判決はその誤りに気付かずして、これを係争投票の効
力の判断の基準に参酌したものとしてその判示を非難するが、原判決は、被上告人
の主張に基づきD正雄の得票として争のない投票中に前記の投票の存在する事実を
認め、これら投票もD正雄の氏名と文字が合致していない点では広い意味での誤記
ともいえる旨を蛇足的に説示したにとどまり、それが叙上原判決の係争投票の効力
の判断に影響するところはないのであつて、論旨は原料示の趣旨の誤解に基づくも
のというべきである。
 次に前記仮名書き票二三票、「D正男」票六票及び係争の「D正夫」票一四票に
対する公職選挙法六八条の二の規定の適用について案ずるに、およそ当選訴訟にお
いて、得票数を理由として当選の効力を争うにあたつては、特定の当選人につきそ
の当落の決定に影響をきたすべき候補者間の得票数の増減を具体的に主張すること
を要するものと解すべきであり、したがつてまた前記六八条の二の規定の適用によ
る得票数の変動も裁判所においては当事者の主張をまつて判断すべきものといわな
ければならない。しかるに原審においては、前記仮名書き票、「D正男」票の効力
について争われず、また係争の一四票についてもそのような主張はなかつたのであ
るから、原判決がこの点について判示を欠くとしても、審理不尽、理由不備の非難
はあたらない。裁判所は争ある投票の効力の判断にあたつて当事者の法律上の主張
に拘束されることのないのは当然であるが、論旨のように、主張のない投票の効力
についても職権審査の職責があるものとする論は、公職選挙法二〇五条、二〇九条
を根拠としても、到底首肯しがたい。のみならず公職選挙法六八条の二の規定は、
本来候補者の何人を記載したか確認しがたい無効投票を立法政策上有効化しようと
して特異な例外的の場合を定めたものであり、その結果は必らずしも選挙人の真意
に合致するとは断定しがたいものであるから、その適用範囲をみだりに拡張すべき
ではない(昭和三七年一二月二五日第三小法廷判決、民集一六巻一二号二五二四頁
参照)。それは投票の記載が二名以上の候補者の氏名、氏または名(あるいは少く
とも選挙人一般に対し氏名と同等の通用力の認められる通称)に合致する記載であ
るということだけでその投票を候補者のいずれに帰属せしむべきか判定不能の場合
について適用すべく、候補者の何人を記載したか確認しがたい原因が候補者氏名の
誤記の疑や候補者の旧名記載の可能性いかんによる本件のごとき場合にまでその適
用を拡張すべきでないと解するのを相当とする。
 なお論旨はいくた当裁判所の裁判例を引用するが、いずれも本件の場合について
は適切ではなく、論旨は結局採用しがたいものといわなければならない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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