弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人佐川清美を懲役一年に処する。
     但し、本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
     訴訟費用は、第一、二審及び当審を通じ、全部被告人の負担とする。
         理    由
 職権をもつて調査するに、原判決は、被告人を懲役一年の実刑に処した第一審判
決を量刑不当として破棄した上、第一審裁判所の認定した事実に対し相当法条を適
用して「被告人を懲役一年に処する、但しこの裁判確定の日より三年間右刑の執行
を猶予する」旨、並びに刑法二五条ノ二(昭和二九年七月一日施行の同年法律五七
号「刑法の一部を改正する法律」による改正規定)を適用して「右猶予の期間中被
告人を保護観察に付する」旨言渡したものであるところ、第一審判決によれば、そ
の認定事実は昭和二四年九月二六日頃(詐欺)、同年同月下旬頃(遺失物横領)の
各犯行にかかるものであつて、いずれも右刑法二五条ノ二、一項前段の改正規定施
行前の犯罪であることが認められる。而して、前掲昭和二九年法律五七号の附則二
項は、同法施行前の犯罪については、同法施行后の犯罪と併合罪の関係に立たない
限り、右刑法二五条の二、一項前段の改正規定の適用がない旨を規定しているので
あつて、右法律五七号施行前のみの犯罪にかかる本件被告事件につき刑の執行猶予
を言渡す場合において、被告人を保護観察に付することを得ないものであること明
白である。従つて、原判決が本件について右刑法二五条ノ二、一項前段の規定を適
用したことは右附則の規定に違反したものであり、かくの如きは判決に影響を及ぼ
すべき法令の違反があつて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めら
れる。
 よつて、弁護人笈川義雄の上告趣意に対し判断を加えるまでもなく、刑訴四一一
条に従い原判決を破棄することとし、刑訴四一三条但書により、更に被告事件につ
き次のとおり判決する。
 原判決が確定した事実に法令を適用すると、被告人の判示所為中詐欺の点は刑法
二四六条一項に、遺失物横領の点は同法二五四条、罰金等臨時措置法二条三条に該
当し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、後者につき懲役刑を選択した上、
同法四七条一〇条により重い詐欺罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において、
被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用し、本裁判確定の日か
ら三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑訴一八一条一項本文により、第一、
二審及び当審を通じ、全部被告人に負担させることにする。
 よつて裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 本件公判には検察官羽中田金一が出席した。
  昭和三六年七月二五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    石   坂   修   一

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