弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士浪江源治の上告理由について。
 原判示は用語いささか不十分であるが、その要点とするところは、次の如きもの
であると解するを相当とする。すなわち、日米行政協定第三条に基づく基地管理権
により、その雇傭にかかる日本人労務者に対し衛生管理権を有するものと認むべき
在日米駐留軍はその管理の必要上伝染病結核等を駆除予防すべく、適当な処置を講
じ得べき筋合であり、従つて駐留軍係官は日本人労務者の健康状態につき疑を抱く
かぎり日本人労務者に日本国法令の禁じていない身体検査を行うことを要求する権
限を有し、日本人労務者が右の身体検査を拒絶するときは駐留軍係官はかかる労務
者の駐留軍施設に立入ることを拒否する最終的権限を有するものであること、然る
に、在日駐留軍の傘下にあつて駐留軍神戸補給基地更生修理部隊の副支配人として
雇われていた上告人は、肺浸潤に罹り判示のように約九〇日間の有給休暇を取つた
が、右休暇の期間満了する数日前兵庫県立D病院の治癒証明書を提出して出勤した
ところ、病気の治癒に疑を抱く部隊労務士官はこれよりさきに上告人を肺浸潤と診
断した神戸中央治療所の診断書の提出を命じ、その提出された診断書の内容と右D
病院の治癒証明書のそれとは若干所見を異にするところから部隊労務士官は上告人
の健康状態をみるとの理由で、予て上告人に対し申し渡していた解雇を一ヶ月猶予
すべき旨告げた上、その猶予期間の満了する昭和二八年八月一〇日上告人に対し健
康状態を理由に解雇する旨申し渡したところ、上告人はこれに異議を述べたので右
労務士官は上告人に駐留軍の医療施設たる「USFJ」において診断をうけるか否
かを質したのに、上告人はこれを拒否したので、右労務士官は前示権限に基づき上
告人に対し右同日限り駐留軍施設に立入り労務を提供することを拒絶したというの
である。
 してみれば、上告人は簡単且つ容易に実行できたであろう駐留軍の医療施設にお
いて診断をうけることを自ら正当の理由なくして拒絶し、これによつて自己の債務
たる労務の提供を履行不能に至らしめたものと認めるの外はないから、民法五三六
条一項の解釈上右労務の提供に対する反対給付たる所論請求権を有せざるに至つた
ものと解すべきであり、そして上告人においてこのように報酬請求権を失つている
以上はこれを伴わない雇傭関係の存続を主張しこれが確認を求めるが如きは即時(
原審最終口頭弁論期日を基準として)確定を求める利益がないものと解するを相当
とする。
 原判決最終の判断は叙上と同一に帰するものであつて、正当である。
 所論るる論述するところは要するに、原判示中上叙の事実認定部分につき原審の
専権行使を非難するか、あるいは独自の事実関係を想定して以て独自の法律論を展
開するに外ならないものであつて、すべて採るを得ない。
 よつて、民訴九六条、三八四条一項、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致
で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    高   木   常   七

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