弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人野口敬二郎の上告理由第一点の一について
 無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為
を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ、無権代理
行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係
において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全
員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解
すべきである。そうすると、他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている
場合に無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されないとしても、他の共同
相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部
分においても、当然に有効となるものではない。
 以上と同旨の見地に立って、被上告人Bが無権代理人としてした本件譲渡担保設
定行為の本人であるDが死亡し、被上告人Bが他の共同相続人と共にDの相続人と
なったとしても、右無権代理行為が当然に有効になるものではないとした原審の判
断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は事案を異にし、本件に
適切でない。論旨は採用することができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属す
る証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定に沿わない事実に基
づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官三好達の反対意見があ
るほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官三好達の反対意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見と異なり、原判決を破棄すべきものと考えるので、以下その理由
を述べる。
 一 無権代理人が本人を単独相続した場合においては、本人が自ら法律行為をし
たのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当であるとされている(最
高裁昭和三九年(オ)第一二六七号同四〇年六月一八日第二小法廷判決・民集一九
巻四号九八六頁)。これは、大審院以来裁判実務が一貫して採用し、また理論付け
において異なるところがあるにしても、その結論は、学説の大方の支持も得てきて
いたところである。しかし、本来追認という行為によってのみ有効となるべき無権
代理行為につき、本人の死亡により開始した相続の効果だけから、本人又は相続人
による何らの行為なくして、これを有効なものとするのには、理論的に困難な点が
あることは否定できないのであって、この結論を導く理論付けについて判例、学説
等が必ずしも一致していないのもその故である。それにもかかわらず、そのような
法理が採られてきている根底にあるものは、自ら無権代理行為をした者が本人を相
続した場合に、本人の資格において追認を拒み、その行為の効果が自己に帰属する
のを回避するのは、身勝手に過ぎるという素朴な衡平感覚であるといえよう。して
みれば、右法理は、次のように理論付けるのが相当である。すなわち、本人を相続
した無権代理人が、自らした無権代理行為につき、相手方からその行為の効果を主
張された場合に、本人を保護するために設けられた追認拒絶権を本人の資格におい
て行使して、追認を拒むことは、信義則に違背し、許されないといわなければなら
ず、このように無権代理人において追認を拒み得ない以上、相手方は、追認の事実
を主張立証することなくして、無権代理人たる相続人に対しその行為の効果を主張
することができることとなり、結局相続人は、本人が自ら法律行為をしたのと同様
な法律上の地位におかれる結果となる(最高裁昭和三五年(オ)第三号同三七年四
月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻四号九五五頁参照)。
 二 これまで、この法理が採られてきたのは、本人の相続人が無権代理人のみで
ある場合、あるいは無権代理人が共同相続人の一人であるが、他の共同相続人の相
続放棄により単独で本人を相続した場合についてであるが、無権代理人が他の相続
人と共に共同相続をした場合においても、相手方から、その相続分に相当する限度
において、無権代理行為の効果を主張されたときには、同様に考えるのが相当であ
る。けだし、その行為の効果が自己に帰属するのを回避するため、その追認を拒む
ことが信義則に違背することは、唯一の相続人であったときと同様であるのみなら
ず、他の共同相続人が追認しておらず、又は拒絶した事実を自己の利益のために主
張することもまた、自ら無権代理行為をした者としては、同じく信義則に違背する
ものとして、許されないというべきであるからである。そうしてみると、無権代理
人は、相手方から、自己の相続分に相当する限度において、その行為の効果を主張
された場合には、共同相続人全員の追認がないことを主張して、その効果を否定す
ることは信義則上許されず、このように無権代理人において追認がないことを主張
し得ない以上、相手方は、追認の事実を主張立証することなくして、無権代理人た
る相続人に対して、その相続分に相当する限度において、その行為の効果を主張す
ることができることとなり、無権代理人たる相続人は、右の限度において本人が自
ら法律行為をしたと同様な法律上の地位におかれる結果となるというべきである。
 多数意見は、無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合は、共同相
続人全員において追認をしなければ、無権代理行為が有効となることはないとする
が、この点は私も肯認するところである。私の意見も、共同相続人全員の追認がな
い場合に、無権代理行為それ自体が、たとえ無権代理人の相続分に相当する限度に
おいても、当然に有効となるとするものではなく、ただ、信義則適用の効果として、
相手方は、右の限度においては、追認の事実を主張立証することなくして、無権代
理人たる相続人に対しその行為の効果を主張することができることとなるというの
である。
 三 付言するに、私の意見は、二に述べたように、無権代理行為それ自体がその
相続分に相当する限度において有効となると説くものではない。したがって、これ
を有効とすることに伴う難点が生ずることはなく、それを理由とする批判は当たら
ないといえる。すなわち、部分的に有効とすることに伴う難点は、部分的有効は相
手方に不利益をもたらし、かえってその保護に欠けるというものであるが、私の意
見は、無権代理人が相手方からその相続分に相当する限度で無権代理行為の効果を
主張された場合には、追認がないことを理由として、これを否定することはできな
いとするものであるにすぎないから、相手方において、民法一一五条の取消権を行
使し、あるいは同法一一七条により無権代理人の責任を追及するという法的手段を
採ることを妨げるものでないことはいうまでもなく、相手方に対し何ら不利益をも
たらすことはないのである。
 なお、このように、相続分に相当する限度において、相手方に対して無権代理行
為の効果を否定することができないとすることは、特定物の取引行為等に関しては、
相手方と他の相続人その他関係人との法律関係を複雑にするとの批判があり得よう。
しかし、相手方は、右の限度での無権代理行為の効果を主張した以上、たとえその
結果複雑な法律関係を生じても、それは自らの選択によるものといわなければなら
ないし、他の相続人その他当該特定物に法律関係を有する者に及ぼす影響としては、
共同相続人の一人が、相続財産たる物件につき、自己の相続分と共に、他の共同相
続人の相続分についてもその無権代理人として、他と取引をした場合、あるいは当
該物件につきその相続分の限度において他と取引をした場合に生ずる法律関係の複
雑さと径庭はないといえるから、他の相続人その他においては、これを甘受せざる
を得ないというべきである。
 四 原審は、被上告人Bが無権代理人としてした本件譲渡担保設定行為の本人で
あるDが死亡し、被上告人Bが他の共同相続人と共にDの相続人となったとしても、
右無権代理行為が当然に有効になるものではないとし、本件譲渡担保設定契約の成
否について確定しないまま、被上告人らの請求を認容すべきものとしたが、右契約
が成立していたならば、被上告人Bの相続分の限度においては、被上告人らの本訴
請求は棄却されるべきものであり、この部分の請求を認容した原判決はこの限度で
破棄を免れない。そこで、本件譲渡担保設定契約の成否について更に審理を尽くさ
せるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    橋   元   四 郎 平
            裁判官    味   村       治
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    三   好       達

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