弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成28年9月8日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成26年(ワ)第10489号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結の日平成28年6月17日
判決
原告株式会社電研社
同訴訟代理人弁護士藤川義人
同雨宮沙耶花
被告ヒエン電工株式会社
同訴訟代理人弁護士重冨貴光
同長谷部陽平
同訴訟代理人弁理士千原清誠
同鈴木一晃
主文
1被告は,別紙イ号物件目録記載の製品を製造し,販売し,又は販売のた
めに展示してはならない。
2被告は,前項の製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,77万9411円及びこれに対する平成26年1
1月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4原告のその余の請求を棄却する。
5訴訟費用はこれを3分し,その2を原告の負担とし,その余は被告の負
担とする。
6この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1主文第1項及び第2項同旨
2被告は,原告に対し,1188万円及びこれに対する平成26年11月11
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「螺旋ハンガー用クランプ」とする特許権を有する原告が,
被告による別紙イ号物件目録記載の製品の製造,販売行為が当該特許権に対する侵
害行為であると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき,同製品の製
造,販売及び販売のための展示(以下「製造,販売等」という。)の差止め,同条
2項に基づき同製品の廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行為に基づき,損
害賠償として1188万円及びこれに対する不法行為の日の後の日である平成26
年11月11日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1判断の基礎となる事実(当事者間に争いがない。)
(1)当事者
原告及び被告は,電力・通信用機材の製造,販売を業とする会社である。
(2)原告の特許権
原告は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許に係る発明のうち請求
項1に係る発明を「本件発明」という。また,本件特許の特許出願を「本件特許出
願」といい,本件特許出願の願書に添付された明細書及び図面をまとめて「本件明
細書」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
ア登録番号特許第5485640号
イ登録日平成26年2月28日
ウ出願日平成21年10月5日
エ発明の名称螺旋ハンガー用クランプ
オ特許請求の範囲
【請求項1】
所定のケーブルを電柱間に吊支するために,前記電柱間に渡した吊線に巻き付けて
取付けた螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定するための螺旋ハンガー用クラン
プであって,前記吊線と前記螺旋ハンガーとを交差させた状態で挟持する第1プレ
ート及び第2プレートと,
これら第1プレート及び第2プレートの各一端同士を緊締するボルト及びナット
と,を備え,
前記第1プレート及び第2プレートの各一端側に前記ボルトを挿通させるボルト挿
通孔を形成するとともに,一端同士を前記ボルトにより連結される閉塞端とし,
前記第1プレート及び第2プレートの各他端を開放端とするとともに,他端同士を
係合する係合部が設けられており,
前記係合部は,前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに,前記第2プレ
ート側へ折り返して起立状に形成したフック部と,前記第2プレートの他端に一側
が開口するように形成した切欠部とからなる,ことを特徴とする螺旋ハンガー用ク
ランプ。
(3)構成要件の分説
本件発明は,次の構成要件に分説できる。
A所定のケーブルを電柱間に吊支するために,前記電柱間に渡した吊線に巻き
付けて取付けた螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定するための螺旋ハンガー用
クランプであって,
B前記吊線と前記螺旋ハンガーとを交差させた状態で挟持する第1プレート及
び第2プレートと,
Cこれら第1プレート及び第2プレートの各一端同士を緊締するボルト及びナ
ットと,を備え,
D前記第1プレート及び第2プレートの各一端側に前記ボルトを挿通させるボ
ルト挿通孔を形成するとともに,一端同士を前記ボルトにより連結される閉塞端と
し,
E前記第1プレート及び第2プレートの各他端を開放端とするとともに,他端
同士を係合する係合部が設けられており,
F前記係合部は,前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに,前記第
2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と,
G前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部とからな
る,こと
Hを特徴とする螺旋ハンガー用クランプ。
(4)被告の行為
被告は,遅くとも平成26年3月以降,別紙イ号物件目録記載の製品(以下「イ
号物件」という。)を製造し,販売し,販売のための展示をしている。
2争点
(1)イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか(文言侵害の成否・争点1)
(2)イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか(均等侵害の成否・争点2)
(3)本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点3)
(4)訂正の再抗弁の成否(争点4)
(5)原告の損害額(争点5)
第3争点についての当事者の主張
1争点1(イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか(文言侵害の成否))
(原告の主張)
イ号物件は,別紙イ号物件説明書記載のとおりであり,その構成は,別紙対比表
の「原告主張イ号物件の構成」欄記載のとおりである。イ号物件の構成aないしh
は,それぞれ本件発明の構成要件AないしHを充足するものであるから,イ号物件
は本件発明の技術的範囲に属する。
(1)構成要件Aについて
原告主張のイ号物件の構成aは,本件発明の構成要件Aを充足する。
被告は,構成要件Aの「螺旋ハンガーの終端部」が不明であるとして,同構成要
件の充足を争うが,本件明細書の【0001】,【0008】及び【0010】の
各記載によれば,「螺旋ハンガーの終端部」とは,螺旋ハンガーのうち,螺旋ハン
ガー用クランプで吊線に固定される部分を指すものといえる。
そして,イ号物件も,「終端クランプ」と名付けられ,また,その登録意匠(意
匠登録第1435638号,同第1435885号)の各意匠公報の【意匠に係る
物品の説明】には,「らせん状ハンガー終端クランプは,・・・らせん状ハンガー
を支持用吊線に固定するものである」と記載されていることからすれば,イ号物件
は「螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定するための螺旋ハンガー用クランプで
あ」り,構成要件Aを充足する。
(2)構成要件Bについて
原告主張のイ号物件の構成bは,本件発明の構成要件Bを充足する。
被告は,後記(被告の主張)(2)のとおり,「第1プレート」がボルト頭側,「第
2プレート」がナット側に位置するなどの限定がされたものである旨主張するが,
特許請求の範囲の記載内容は,明細書の一実施形態として記載された内容に限定さ
れるものでない。また,被告指摘に係る平成25年11月22日付け拒絶理由通知
書(甲11)及び平成26年1月20日付け意見書(甲12)においても,原告は,
そのように限定されるとの主張は一切していない。
イ号物件の「上固定金具」は,本件発明の構成要件Fを充足する構成を備え,「下
固定金具」は,本件発明の構成要件Gを充足する構成を備えるから,「上固定金具」
が本件発明の「第1プレート」に,「下固定金具」が本件発明の「第2プレート」
に該当するのであり,これと反対の被告の主張は失当である。
(3)構成要件Cについて
原告主張のイ号物件の構成cは,本件発明の構成要件Cを充足する。
イ号物件の「上固定金具」が本件発明の「第1プレート」に,「下固定金具」が
本件発明の「第2プレート」に該当することは上記(2)のとおりである。
(4)構成要件Dについて
原告主張のイ号物件の構成dは,本件発明の構成要件Dを充足する。
イ号物件の「上固定金具」が本件発明の「第1プレート」に,「下固定金具」が
本件発明の「第2プレート」に該当することは上記(2)のとおりである。
そして本件発明の構成要件D「閉塞端」とは,第1プレート及び第2プレートの
各一端側に形成されたボルト挿通孔に挿通されたボルトにより一端同士が連結され
た部分を指すところ,イ号物件の上固定金具及び下固定金具の各一端には,ボルト
挿通孔が形成されてボルトが挿通されて一端同士が連結され閉塞端となっているか
ら,イ号物件は当該構成要件を具備しているといえる。
(5)構成要件Eについて
原告主張のイ号物件の構成eは,本件発明の構成要件Eを充足する。
イ号物件の「上固定金具」が本件発明の「第1プレート」に,「下固定金具」が
本件発明の「第2プレート」に該当することは上記(2)のとおりである。
本件発明の構成要件Eの「開放端」とは,第1プレート及び第2プレートのうち,
前記「閉塞端」の各他端で,ボルト及びナットによる緊締がされておらず,稼働す
る状態になっている部分をいうから,イ号物件は当該構成要件を具備している。
(6)構成要件Fについて
原告主張のイ号物件の構成fは,以下に詳述するとおり,本件発明の構成要件F
を充足する。
ア「鉤形」の「フック部」について
(ア)「鉤形」及び「フック」部の用語については,特許請求の範囲の記載及び本
件明細書には定義されておらず,またその意義が説明された箇所は存しない。
(イ)そこで,当該用語の通常の用法について検討するに,鉤形とは,「鉤のよう
に,直角に曲った形。」,鉤とは,「①先の曲がった金属製の具。また,それに似
たもの。・・・・②鉄の鉤に長い木の柄をつけた武器,③鉤括弧の略。④「かぎの手」
の略。」,「フック」については,「①鉤。ホック。②ボクシングで,ひじを曲げ
て側面から打つ攻撃。③ゴルフで,右(左)打者が打ったボールが左(右)へ逸れ
ていくこと。」と説明されている(広辞苑第5版)。
したがって,「鉤形」とは,鉤,すなわち先の曲がった金属製の具のように,直
角に曲がった形を指すものであり,「鉤」の意味の一つとして,「鉤括弧の略」と
記載されていることからすると,【「】のような形状を指すものと解釈される。
(ウ)イ号物件におけるT字形は,Tという文字自体に【「】の形状が含まれる以
上,鉤形に含まれるというべきである。
また,「フック」とは「鉤」を意味する以上,イ号物件におけるT字形の「係止
部」が「フック部」に含まれることも,前記と同様である。
イ「起立状」について
本件発明において,上方か下方かは相対的なものであるから,イ号物件における
上固定金具は,下固定金具側へ折り返して起立状に形成しているということができ
る。
ウ被告の主張について
本件発明は,螺旋ハンガーの架線作業において,当該螺旋ハンガーの終端部を吊
線に対して極めて容易に,かつ確実に連結固定することができ,架線作業性を著し
く向上させることを独自の作用効果とした発明であるが,この作用効果はイ号物件
の構成fにおいても十分に発揮するものであり,イ号物件の上固定金具の他端がT
字形の一部である【「】という形状(被告の主張する「第2屈折部分」)になって
いれば発揮されるもので,この形状の先端部がさらに90度曲がって下向きに伸び
ている部分(被告の主張する「第1屈折部分」)が存する必要性はない。
被告が主張するように,第2プレートが反時計回りして係合が解けることを防止
するというのであれば,それは極めて重要な作用効果であり,特許請求の範囲又は
明細書に記載されてしかるべきところ,そのような技術的特徴は本件明細書には一
切記載されておらず,むしろ,ボルト・ナットを嵌め込むときのことしか記載され
ていない。
また,被告はナットの締め込みがうまくいかないときにはナットを逆方向に回す
必要が生じ,第1屈折部分がなければ,第2プレートが動いてしまい,第1プレー
トとずれてしまうなどと主張するが,そのような状態が生じることは本件明細書に
一切記載されておらず,また,仮にそのような状況になったとしても,再度締め直
すことでプレートも元に戻ることになる。
いずれにせよ,第1屈折部分は必須の構成ではない。
被告は,「フック部」においては先端が被告のいう「第1屈折部分」と「第2屈
折部分」の両方を備える一方,「切欠部」には「第2屈折部分」しかないと主張す
るが,同じ形状であっても別の部分を特定するものとして用語が使われる場合,別
の用語が使用されることは特許請求の範囲の文言や明細書において日常茶飯事であ
り,本件においても,両者が別々に存在するからといって,形状が異なることを意
味するものではない。仮に異なるものであるなら,その旨が明確に記載されるべき
であるが,本件明細書だけでなく本件特許出願の経過において,それに触れたもの
はない。
(7)構成要件Gについて
原告主張のイ号物件の構成gは,以下に詳述するとおり,本件発明の構成要件G
を充足する。
アイ号物件の下固定金具の他端は,一側が開口するように形成した切欠部が形
成されている構成であるから(構成g),構成要件Gにおける「他端に一側が開口
するように形成した切欠部」に該当する。
イ被告は,「開口するように形成した切欠部」が,本件明細書に記載の一実施
形態の内容(切欠部22a)に限定されるかのように主張するが,そのように限定
される理由はない。
また,被告は,先端が開口側に曲がった形状(鉤形)が除外されている旨主張す
るが,切欠部の形状から鉤形を除外する理由はなく,鉤形であってもなくてもよい
ということで限定がされていないだけである。
(8)構成要件Hについて
原告主張のイ号物件の構成hは,本件発明の構成要件Hを充足する。
(被告の主張)
イ号物件の構成は,別紙対比表の「被告主張イ号物件の構成」欄記載のとおりで
あり,以下の点で本件発明の構成要件を充足せず,構成要件Hを充足することは認
める。
(1)構成要件Aの「終端部」について
構成要件Aの「終端部」の意義は不明であるから,イ号物件は「終端部」の構成
要件を充足しない。この点に関する原告の主張は,明らかに循環論法であり,争う。
(2)構成要件BないしGの「第1プレート」,「第2プレート」について
イ号物件の「上固定金具」が「第1プレート」に,イ号物件の「下固定金具」が
「第2プレート」に該当する旨の原告主張は争う。
本件明細書の記載及び本件特許出願の経過からすれば,本件発明の「第1プレー
ト」は,少なくとも①ボルト頭側に位置し,②吊線用溝部が形成されており,かつ
③吊線が長手方向と略直交した状態であてがわれる,矩形形状のプレートであると
解され,本件発明の「第2プレート」は,少なくとも,①ナット側に位置し,②螺
旋ハンガー用溝部が形成されており,③反時計回りに回動することで他方のプレー
トとの係合を解かれ,時計回りに回動することで他方のプレートと係合させられる
プレートであると解されるところ,イ号物件の上固定金具は,ナット側に位置し,
吊線用溝部が形成されておらず,吊線が長手方向と略直交した状態であてがわれな
い,プレートであるから,イ号物件の上固定金具は,本件発明の「第1プレート」
に該当しないし,イ号物件の下固定金具は,ボルト頭側に位置し,螺旋ハンガー用
溝部が形成されておらず,係合を解く際にも係合させる際にも通常回動しない(あ
えて回動するとすれば,係合を解く際には時計回りに,係合させる際には反時計回
りに回動する。)プレートであるから,イ号物件の下固定金具は,本件発明の「第
2プレート」に該当しない。
(3)構成要件Dの「閉塞端」及び構成要件Eの「開放端」について
アイ号物件が本件発明の構成要件Dの「閉塞端」の構成要件を充足する主張は
争わない。
イ構成要件Eの「開放端」の意義は明らかでなく,イ号物件が同構成要件を充
足するとの原告の主張は争う。
(4)構成要件Fの「鉤形に形成するとともに,前記第2プレート側へ折り返して
起立状に形成したフック部」について
イ号物件の上固定金具のT字形係止部は,構成要件Fにおける「鉤形に形成する
とともに,前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部」に該当し
ない。
ア(ア)本件発明における「鉤形に形成するとともに・・・起立状に形成したフッ
ク部」とは,プレートの一方の側部に凹部が形成されかつ先端が凹部側に曲がった
形状(鉤形)であり,かつ,上方に折り返された形状(起立状)の係止部をいう。
「鉤形」は,「先の曲がった金属製の具」(広辞苑第5版)とされ,「先」の意
義は「突き出た部分。また,その端」(同第6版)と記載されているから,「鉤形」
は,先(先端)が曲がった形であると解される。そして,本件明細書の【図1】等
には,まさに先端が凹部側に曲がった屈折部分(「【「】の先端部がさらに90度
曲がって下向きに伸びている部分」,以下「第1屈折部分」という。後記図参照)
を含む形状の係止部(フック部)が記載されているから,この第1屈折部分が本件
発明における「鉤形」の「先が曲がった」部分に該当し,本件発明の「鉤形」が同
屈折部分を含む形状を意味することは明らかである。
そして,上記形状は,第2プレートが係合時の回動方向と逆方向に回動する動き
を防止し,確実な連結固定効果(本件発明の作用効果)の発生に寄与している。
【図】
(イ)原告は,ナットの締め込み方向が第2プレートの係合方向と同じ方向(時計
回り)であるため,第1屈折部分がなくともナットの締め込み時に第2プレートは
動かない(上記図の第2屈折部分の根元の部分に接触して止められる。)ことを理
由として第1屈折部分の有無は関係がないと主張する。
しかし,締め込みがうまくいかないとき等には反時計回りにナットを回して再度
締め込む必要もあるが,このとき,第1屈折部分が存在しなければ,第2プレート
が動いてしまい,ずれてしまうことを防ぐことができず,原告の主張する本件発明
の作用効果を奏することができなくなる。
イイ号物件における上固定金具のT字形係止部の形状は,凹部が上固定金具の
両側の側部に形成され,かつ,先端は凹部側に曲がっていないから,イ号物件の上
固定金具のT字形係止部の形状は,本件発明の「鉤形」に該当しない。
また,イ号物件の上固定金具のT字形係止部は,上方ではなく下方に折り返され
ており,本件発明の「起立状」に該当しない。
原告は,「鉤形」とは「先の曲がった金属製の具のように,直角に曲がった形」
をいうと主張し,第1屈折部分が存在しなくとも「鉤形」であると主張するが,原
告が「鉤形」における「曲がった」部分であると主張する屈折部分(以下「第2屈
折部分」という。前記図参照)は,先端ではなく中間に存在するから,「鉤形」に
おける「曲がった」部分とはいえない。なお,第2屈折部分が存在すれば「鉤形」
というのであれば,後記のとおり,本件特許の構成要件の表記として「フック部」
と「切欠部」を区別する必要はないはずであるが,両者は明確に異なる概念として
定義されている。
ウしたがって,イ号物件の上固定金具のT字形係止部は,本件発明の「鉤形に
形成するとともに・・・起立状に形成したフック部」に該当しない。
(5)構成要件Gの「他端に一側が開口するように形成した切欠部」について
イ号物件の下固定金具の逆C字形係止部は構成要件Gにおける「他端に一側が開
口するように形成した切欠部」に該当しない。
ア「他端に」
構成要件Gにおける「他端」とは,「端」とは「物の末の部分。先端。」(広辞
苑第6版)であるとされるから,後記参考図1に示される箇所をいい,構成要件E
によれば,「他端」は「開放端」である。
したがって,開放端である「他端」に「一側」が開口するように形成した切欠部
とは,後記参考図2に示される箇所を切り欠いた形状をいう。
実際,本件明細書の【図5】(a)には,以下のとおり,「他端」の「一側」が
開口するように形成した切欠部が存在する「第2プレート」の図が示されている。
【参考図1】
【参考図2】
【図5】(a)
イ「他端に一側が開口するように形成した切欠部」
本件発明においては,係合部を形成する各プレートの「他端」の形状を「鉤形に
形成するとともに・・・起立状に形成したフック部」と「他端に一側が開口するよ
うに形成した切欠部」の2種類の機能的部材として特定し,これらの部材を明確に
区別している。
そして,「他端に一側が開口するように形成した切欠部」の構成は,本件明細書
の図において,プレートの他端に一側が開口した切欠部が存在し,かつ先端が切欠
部側に曲がっていない形状とされている(切欠部22a)。他方,「鉤形に形成す
るとともに・・・起立状に形成したフック部」の構成は,プレートの一方の側部に
凹部が形成されかつ先端が凹部側に曲がった形状(鉤形)であり,かつ,上方に折
り返された形状(起立状)とされている(フック部12a)。本件明細書を通覧す
るに,上記2種類の機能的部材の構成については,上記形状以外に何らの説明も開
示もなく,実施例は一つのみである。
したがって,本件発明の「他端に一側が開口するように形成した切欠部」とは,
プレートの他端に一側が開口した切欠部が存在し,かつ先端が切欠部側に曲がって
いない形状の係止部をいう。なお,上記形状である本件発明の「他端に一側が開口
するように形成した切欠部」は,「第1プレート」が係合時の回動方向と逆方向(【図
7】では時計回り)に回動する動きを止める機能を有していない。
ウイ号物件の下固定金具の逆C字形係止部
イ号物件の下固定金具の逆C字形係止部は,下固定金具の他端近傍の一方の側部
に凹部を設けて逆C字形とするとともに,その先端に下固定金具の一端側へ略90
度屈折させた屈折部分を形成している。
したがって,イ号物件は,下固定金具の他端を開口することなく,金属部材から
なる金具の一端側へ略90度屈折させて屈折部としているものであるから,その下
固定金具の逆C字形係止部は,本件発明の「他端に一側が開口するように形成した
切欠部」に該当しない。
なお,上記形状であるイ号物件の下固定金具の逆C字形係止部は,上固定金具が
係合時の回動方向と逆方向に回動する動きを止める機能を有している。
2争点2(イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか(均等侵害の成否))
(原告の主張)
(1)上記1のとおり,イ号物件は本件発明の構成要件の文言を全て充足するが,
仮に,構成要件Fにおける「鉤形」が,①「第2屈折部分」だけでなく「第1屈折
部分」も必要とし,②「T字形」とは異なる形状であると捉えるとしても,均等侵
害が成立する。
特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であ
っても,(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく,(2)右部分を対象製品等にお
けるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を
奏するものであって,(3)右のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分
野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が,対象製品等の製
造等の時点において容易に想到することができたものであり,(4)対象製品等が,特
許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易
に推考できたものではなく,かつ,(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続におい
て特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないと
きは,右対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特
許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最三小判平成10年2
月24日民集52巻1号113頁。以下前記(1)ないし(5)の要件を順に「第1要件」
ないし「第5要件」という。)。
(2)第1要件(本質的部分)
本件発明の本質的部分は係合部にあり,第1プレートの「第2屈折部分」と第2
プレートの切欠部との組合せであるといえる。
他方,イ号物件であっても,上固定金具には「第2屈折部分」が存在し,下固定
金具には切欠部が存在しこれを組み合わせて係合する。
したがって,上固定金具に「第1屈折部分」が存在しない「T字形」係止部であ
るという相違は,本件発明の本質的部分ではない。
(3)第2要件(置換可能性)
本件発明の目的は,緊締部は一つとしながら「簡単な操作で確実に吊線と螺旋ハ
ンガーとを挟持することができるため,螺旋ハンガーの架線作業において,当該螺
旋ハンガーの終端部を,吊線に対して極めて容易に,かつ確実に連結固定すること
ができる。」(本件明細書【0010】)という点であり,作用効果としては「締め
混むときに,端部同士がずれない」という点であるところ,イ号物件においても,
緊締部は一つであり,他端は係合部で係合可能であるから本件発明の目的を達し,
かつ,同一の作用効果を奏する。
したがって,本件発明の構成要件Fにおける「鉤形」を「T字形」に置き換える
ことは可能である。
(4)第3要件(置換容易性)
「第1屈折部分」と「第2屈折部分」からなる鉤形を「第2屈折部分」のみにす
ることは何ら技術的困難性を伴わないし,係合部として「T字形」を用いることも
当業者には公知である。
したがって,「第2屈折部分」のみの「T字形」係止部に置き換えることは容易
に想到することができた。
(5)第4要件(容易想到性)
イ号物件は,本件特許出願時における公知技術と同一又は当業者が同出願時に容
易に推考できたものではない。
(6)第5要件(意識的除外)
イ号物件が本件特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたも
のに当たるなどの特段の事情もない。
(被告の主張)
(1)イ号物件は,少なくとも,均等論の第1ないし第3及び第5要件を充足しな
いから,本件発明の技術的範囲に属さない。
(2)第1要件(本質的部分)
本件発明は,簡単な操作で確実に吊線と螺旋ハンガーとを挟持できるようにした
螺旋ハンガー用クランプを提供する発明であるとされ,また,ナットを締め込む際
にプレートがずれることを防止することは,本件発明の作用効果の一つであるとこ
ろ,同作用効果を奏するためには,本件発明の第1プレートの係止部の形状が,第
1屈折部分を有する「鉤形」である必要があり,これは,本件発明特有の課題解決
手段を基礎付ける特徴的部分であり,本件発明の本質的部分である。
そして,上固定金具の係止部の形状がT字形であるイ号物件は,本件発明の本質
的部分を置換したものであり,本件特許の特許請求の範囲に記載された構成と均等
なものではない。
原告は,拒絶理由通知を受け(甲11),係合部は,「前記第1プレートの他端
を鉤形に形成するとともに,前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフ
ック部と」等として係合部を構成する各係止部の形状を具体的に特定する補正を行
い,登録に至ったものであるから(乙10,甲12),①当該プレートの他端を鉤
形に形成すること,②当該プレートの他端を第2プレート側へ折り返して起立状に
形成すること,により係合することを発明の構成として特定・限定したもので,「係
合」することが可能な形状であれば足りるという原告の理解は誤りである。
(3)第2要件(置換可能性)
本件発明は,第1プレートの「鉤形に形成する・・・フック部」の「第1屈折部
分」なしでは原告主張の作用効果(「締め込む時に端部同士がずれない」)を奏し
ないから,第1プレートの「鉤形に形成する・・・フック部」を第1屈折部分が存
在しない「T字形係止部」に置き換えた場合に,原告主張の作用効果を奏しない。
したがって,均等なものではない。
また,操作の簡易化・連結固定の容易化(ボルトを回動中心として,第2プレー
トを第1プレートと並行に回動して,簡単な操作で両プレートの係止部を係合する
こと)は,本件発明の作用効果の一つであるが,イ号物件は,上固定金具を斜めに
回動させ,その後,上固定金具を下固定金具の他端方向に(直線)移動させること
が必要である。これは,より確実な緊締,落下防止効果を得ることを技術思想とす
るもので,係合及び取外しの際の操作の簡易化・連結固定の容易化を犠牲にしてい
る点で,本件発明の作用効果を奏しないから,置換可能性を個別に検討するまでも
なく,本件発明の技術的範囲に属さない。
(4)第3要件(置換容易性)
本件発明において,「鉤形」の「第1屈折部分」は,作用効果に寄与しているか
ら,同部分をなくしてなお本件発明の作用効果を生じさせるためには,同部分に代
わる構成を新たに付与しなければならないから,イ号物件のT字形係止部に置き換
えることは容易とはいえない。
(5)第5要件(意識的除外)
第1要件に記載のとおり,本件発明は,本件特許出願手続において,補正により
「係合部」を構成する部材としての第1プレートの形状として,①当該プレートの
他端を鉤形に形成すること,②当該プレートの他端を第2プレート側へ折り返して
起立状に形成することを要素として盛り込み,かかる要素により係合することを発
明の構成として特定・限定したものであるから,イ号物件の上固定金具のT字形係
止部の形状であるT字形は,本件発明の特許請求の範囲から意識的に除外されたも
のである。
3争点3(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)
(被告の主張)
本件特許は,次の四つの無効理由が存在し,無効審判により無効にされるべきも
のと認められるから,原告は,被告に対し本件特許権を行使することができない。
(1)無効理由1(進歩性の欠如)
ア特開2002-135954号公報(乙11,以下単に「乙11」といい,
乙11記載された発明を「乙11発明」という。)
乙11の記載(請求項5,【0003】,【0027】,【図4】,【図5】,
【図6】)によれば,乙11発明は,別紙被告主張乙11発明との対比表の「特開
2002-135954公報(乙11)の記載」欄のとおりであり,本件発明の構
成要件AないしF及びHに相当する構成を有するが,構成要件G「前記第2プレー
トの他端に一側が開口するように形成した切欠部」に相当する構成を有さない。
イ進歩性の欠如
(ア)乙11発明のみに基づく容易想到性
乙11発明は,その技術分野,課題,並びに作用及び機能が本件発明と同一であ
り,乙11発明の立上部(13)及びストッパ部(14)の作用効果は本件発明の
フック部及び切欠部のそれと同一であるから,一方の板の立上部(13)及びスト
ッパ部(14)を切欠部に変更したところで,特段優れた作用効果を奏することも
なく,したがって,乙11発明の構成を構成要件Gに係る構成に変更することは当
業者が容易になし得ることにすぎない。本件発明は,乙11発明のみに基づいても,
本件特許出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が容易に発
明をすることができたものであるから,本件特許には,特許法29条2項に違反し
た無効理由がある。
(イ)乙11発明に周知技術を組み合わせたことによる容易想到性
本件発明は,乙11発明と,以下の公報に記載された周知技術とを組み合わせる
ことによって当業者が容易に発明することができたものであるから,本件特許には,
特許法29条2項に違反して特許された無効理由がある。
a特開平11-304052号公報(乙12,以下「乙12」という。)
乙12は,配管を固定するための「配管バンド」に関するものであり,長尺物を
固定する固定具である点で「螺旋ハンガー用クランプ」と関連の強い技術分野のも
のである。乙12には,構成要件F及びGに相当する構成を有する発明が開示され
ており,「可及的に配管作業を少ない作業者により容易且つ確実に行うこと」,「配
管パイプ押さえ用湾曲バンド片の下向きの回動によって,自動的且つ簡易にワンタ
ッチでなしうる」こと,「振動等によって連結部が緩んだり,ひいては外れたりす
ることのないものとすること」,「長期に亘る確実な連結を確保する」こと,「締
着作業を簡易且つ確実に行い,配管作業を更に効率的になし得るものとすること」
等の目的は,本件発明の課題(本件明細書【0007】)と共通しており,また,
本件発明の「係合部」と同一の作用及び機能を有している(以下「乙12発明」と
いう。)。
b実公平7-33024号公報(乙13,以下「乙13」という。)
乙13は,固定具の係合手段として,相互に切欠部を有する二つの部材を備え,
それぞれの切欠部を嵌め合わせることで係合する構成を開示している(以下「乙1
3発明」という。)。
c特開2006-275076号公報(乙14,以下「乙14」という。),
特開2004-36706号公報(乙15,以下「乙15」という。)
乙14及び乙15には,切欠部を設けた部材と,突起(鉤形)を設けた部材とで
構成される係合手段において,突起を切欠部に挿入することによって,結合の際の
ずれを防止する構成が開示されている(以下それぞれ「乙14発明」,「乙15発
明」という。)。
(2)無効理由2(サポート要件違反)
本件明細書の発明の詳細な説明の【0030】及び【0031】記載のクランプ
と【0032】記載のクランプは,いずれも本件発明とは異なるものである。
そして,本件明細書の記載(【0032】,【0033】)によれば,第1プレ
ートにフック部があり,第2プレートに切欠部があるという構成と,第2プレート
の他端を,第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させるという構成とは,
一体不可分の構成であり,請求項2に係る発明の構成要件である「前記第2プレー
トの他端を,前記切欠部から先端にかけて前記第1プレートのフック部側に所定の
角度で屈曲させた」構成が,任意の付加的構成であることは自明でない。
したがって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載したものではなく,本件特許
には,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特
許された無効理由がある。
(3)無効理由3(明確性要件違反)
ア(ア)本件特許の特許請求の範囲の請求項1には「螺旋ハンガーの終端部」との
記載があるが,「終端部」とは,螺旋ハンガーの「終端」のみならず,「終端」か
ら一定の長さを有する部分を意味するものと解されるが,本件明細書には,螺旋ハ
ンガーの一例が図面として示されているだけであり,また,発明の詳細な説明の欄
には「終端部」の範囲が明確にされていない。
(イ)また,同じく請求項1には「閉塞端」及び「開放端」との記載があるが,「閉
塞端」とされる対象は第1プレート及び第2プレートの一端同士であるが,一端同
士がどのような状態であれば請求項1にいう「閉塞端」となるかは発明の詳細な説
明及び図面からは明確でない。
イしたがって,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は明確でないから,本件
特許には,特許法36条6項2号の規定する要件を満たしていない特許出願に対し
て特許された無効理由がある。
(4)無効理由4(新規事項追加)
ア平成26年1月20日に提出した手続補正書による補正(以下「本件補正」
という。)は,願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内でするもの
ではない。
イ本件特許の願書に最初に添付した明細書には,第2プレートの他端を,第1
プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させた構成が任意の付加的構成であるこ
とが明示されていない。また,本件明細書から把握されるクランプは,第2プレー
トの他端を,第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させた構成のみである
から,この構成が,本件発明において任意の付加的構成であることが自明であると
いうこともできない。
したがって,本件補正は,願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲
内でするものとも,同明細書に記載された事項から自明な事項の範囲内でするもの
ともいえないから,本件特許には,特許法17条の2第3項に規定する要件を満た
していない特許出願に対してされたという無効理由がある。
(原告の主張)
(1)無効理由1(進歩性の欠如)
ア乙11発明
乙11発明は,構成要件E,F及びGの構成に相当する構成を有していない。
(ア)構成要件E
乙11発明の立上部(13)とストッパ部(14)は,「係合部」(構成要件E)
には該当しない。
(イ)構成要件F及びG
フック部とは,切欠部内に収容される形状をいうところ,乙11発明のストッパ
部(14)は鉤形ではあるが,明らかに「切欠部」(構成要件G)を有していない
から,「フック部」(構成要件F)には該当しない。
イ容易想到性
(ア)乙11発明のみに基づく容易想到性
本件発明は,フック部を切欠部に収容させることで,「螺旋ハンガーの架線作業
において,ボルト及びナットで締め込むときに,当該螺旋ハンガーの終端部を吊線
に対して確実に連結固定するようにして端部同士がずれてしまったりして逆に弛み
が生じないようにし,螺旋ハンガーの架線作業性を著しく向上させることが可能に
なる」という特有の作用効果を発揮させることができる。さらに,「端部同士のず
れ」は回動方向のずれだけではなく,上下方向のずれについても,確実に抑えるこ
とができ,かつ支持線の太さの違いにも対応できる構造となっている。
これに対し,乙11発明は,板と板とを重ね合わせる際,一方の板の立上部(1
3)を他方の板に当てて接触させているだけで,本件発明のように係合させている
わけではないから,第1板と第2板が僅かでもずれると,第1板と第2板が容易に
上下方向にずれてしまうことから,様々な太さの支持線に対応するのが極めて困難
であり,作業性が非常に悪いという欠点がある。
したがって,乙11発明からは,「螺旋ハンガーの架線作業において,ボルト及
びナットで締め込むときに,当該螺旋ハンガーの終端部を,吊線に対して確実に連
結固定するようにして端部同士がずれてしまったりして逆に弛みが生じないように
し,螺旋ハンガーの架線作業性を著しく向上させることが可能になる」という本件
発明の特有の作用効果を発揮させることは到底できない。
(イ)乙11と周知技術を組み合わせたことによる容易想到性
乙12発明と本件発明とは,その技術分野(乙12【0001】),課題(同【0
003】),目的(同【0004】)が明らかに相違する。
乙13発明と本件発明とは,その技術分野(乙13【産業上の利用分野】),課
題及び目的(同【考案が解決しようとする課題】)が明らかに相違する。
乙14発明と本件発明とは,その技術分野(乙14【0001】),課題(同【0
020】)及び目的が明らかに相違する。
乙15発明は,その技術分野(乙15【0001】),課題及び目的(同【00
08】ないし【0011】)が明らかに相違する。
そうすると,これらの技術を乙11発明に組み合わせるだけの示唆が何ら存在せ
ず,組み合わせることは極めて困難である。
ウしたがって,本件発明は,乙11発明のみに基づいて,あるいは乙11発明
と周知技術とを組み合わせることにより当業者が容易に想到し得ないものであるか
ら,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものではない。
(2)無効理由2(サポート要件違反)
ア本件明細書【0019】及び【0020】の記載された内容,本件発明の作
用効果(【0010】)を考慮すれば,本件発明の作用効果は十分に説明されてい
る。そして,【0021】において,請求項2に係る発明の構成要件である「前記
第2プレートの他端を,前記切欠部から先端にかけて前記第1プレートのフック部
側に所定の角度で屈曲させた」構成が任意の付加的構成であることは明らかである。
イまた,被告は,本件明細書【0032】及び【0033】の記載内容から,
第1プレートにフック部があり,第2プレートに切欠部があるという構成と,第2
プレートの他端を,第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させるという構
成とは,一体不可分の構成であると主張するが,【0032】及び【0033】は,
【0029】に「上述してきた実施形態より,以下のクランプが実現できる。」と
記載されていることから,【0019】から【0021】に記載の内容を前提とし
て記載されているものにすぎないことは明らかであり,上記一体不可分の構成だけ
では,【0019】から【0021】は説明することはできないから,被告の主張
は明らかに失当である。
ウしたがって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載したものであることは明
らかあり,本件特許は,特許法36条6項1号の規定する要件を満たさない特許出
願に対して特許されたものではない。
(3)無効理由3(明確性要件違反)
ア本件明細書の記載(【0001】,【0008】,【発明の効果】,【00
10】),本件特許出願当時の技術常識からしても,「螺旋ハンガーの終端部」と
は,螺旋ハンガーのうち,螺旋ハンガー用クランプで吊線に固定される部分を指す
ものであることは自明である。
イ本件明細書の記載(【発明が解決しようとする課題】,【0008】)から
は,本件発明の「閉塞端」とは,第1プレート及び第2プレートの各一端側に形成
されたボルト挿通孔に挿通されたボルトにより一端同士が連結された部分,「開放
端」とは,第1プレート及び第2プレートのうち,前記「閉塞端」の各他端で,他
端同士を係合する係合部が設けられた部分を指すものである。
ウしたがって,本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は明確であり,本
件特許は,特許法36条6項2号の規定する要件を満たさない特許出願に対して特
許されたものではない。
(4)無効理由4(新規事項追加)
上記(2)のとおり,本件発明は,発明の詳細な説明に記載したものであるから,本
件補正は,願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内であることは明
らかである。
4争点4(訂正の再抗弁の成否)
(原告の主張)
(1)本件特許の請求項1を以下のように訂正する(下線部を引いた箇所が訂正箇
所,以下「本件訂正」という。)。
ア請求項1
所定のケーブルを電柱間に吊支するために,前記電柱間に渡した吊線に巻き付け
て取付けた螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定するための螺旋ハンガー用クラ
ンプであって,
前記吊線と前記螺旋ハンガーとを交差させた状態で挟持する第1プレート及び第
2プレートと,
これら第1プレート及び第2プレートの各一端同士を緊締するボルト及びナット
と,を備え,
前記第1プレート及び第2プレートの各一端側に前記ボルトを挿通させるボルト
挿通孔を形成するとともに,一端同士を前記ボルトにより連結される閉塞端とし,
前記第1プレート及び第2プレートの各他端を開放端とするとともに,他端同士
を係合する係合部が設けられており,
前記係合部は,前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに,前記第2プ
レート側へ折り返して起立状に形成したフック部と,前記第2プレートの他端に両
側のうち一側が開口すると共に,内壁部が形成されるように形成した切欠部とから
なり,
前記フック部は,前記切欠部内に収容されることによって,前記第1プレート及
び第2プレートの他端同士を係合させた際,当該第1プレートと第2プレートの対
向面の裏面に位置する前記第2プレートの面上に配置され,その際,当該フック部
の先端が前記第2プレートの両側のうち他側に達する形状であり,
前記切欠部は,前記フック部を前記開口より収容可能で,且つ,前記第1プレー
ト及び第2プレートの他端同士を係合させた際,当該フック部を前記第2プレート
長手方向に移動させると,当該フック部と前記第2プレートの内壁部が接触し,そ
の移動が規制される形状である,ことを特徴とする螺旋ハンガー用クランプ。
イ構成要件の分説
構成要件AないしF及びHは,従前と同様であるが,構成要件Gは以下のとおり
訂正され,さらにI及びJが追加される。
G´前記第2プレートの他端に一側が開口すると共に,内壁部が形成されるよ
うに形成した切欠部とからなり,
I前記フック部は,前記切欠部内に収容されることによって,前記第1プレー
ト及び第2プレートの他端同士を係合させた際,当該第1プレートと第2プレート
の対向面の裏面に位置する前記第2プレートの面上に配置され,当該フック部の先
端が前記第2プレートの両側のうち他側に達する形状であり,
J前記切欠部は,前記フック部を前記開口より収容可能で,且つ,前記第1プ
レート及び第2プレートの他端同士を係合させた際,当該フック部を前記第2プレ
ート長手方向に移動させると,当該フック部と前記第2プレートの内壁部が接触し,
その移動が規制される形状である,こと
(2)イ号物件は,次のとおりの構成を有することから,訂正後の本件発明(以下
「本件訂正発明」という。)の構成要件G′I及びJを充足する。仮に文言上充足
しないとしても,本件訂正発明と均等である。
g´前記下固定金具の他端に一側が開口すると共に,内壁部が形成されるよう
に形成した切欠部とからなり,
i前記係止部は,前記切欠部内に収容されることによって,前記上固定金具及
び下固定金具の他端同士を係合させた際,当該上固定金具と下固定金具の対向面の
裏面に位置する下固定金具の面上に配置され,前記係止部の先端が前記下固定金具
の両側のうち他側に達する形状であり,
j前記切欠部は,前記係止部を前記開口より収容可能で,且つ,前記上固定金
具及び下固定金具の他端同士を係合させた際,当該係止部を前記下固定金具長手方
向に移動させると,当該係止部と前記下固定金具の内壁部が接触し,その移動が規
制される形状である,こと
(3)本件訂正発明は,乙11発明によっては全く期待できない特有の優れた作用
効果を発揮するものであるから,十分に進歩性を有するものである。
(4)訂正審判請求及び訂正請求に時間的制限がなされているため(特許法126
条2項,134条の2第1項),無効審判を提起しなくとも無効の抗弁が主張でき
ることとの公平の観点からすれば,訂正請求をしなくとも訂正の再抗弁の主張が認
められないというものではない。
(5)したがって,イ号物件は,本件特許権を侵害するものとして,原告は,被告
に対し,本件特許権を行使し得る。
(被告の主張)
(1)原告は,訂正請求を行わないままに訂正の再抗弁を主張しているが,原告は,
無効審判手続において訂正請求を行うことが可能であったにもかかわらず,この機
会を利用しなかったものであり,訂正の主張が認められるものではない。
(2)また,イ号物件は,少なくとも構成要件G′,I及びJを充足せず,本件訂
正発明の技術的範囲に属さない。また,均等については,訂正により,鉤形のフッ
ク部が本件訂正発明の本質的部分であることは明らかとなっており,鉤形のフック
部以外の構成がより意識的に除外されたもので,第1要件及び第5要件を少なくと
も欠く。
5争点5(原告の損害額)
(原告の主張)
(1)特許法102条2項に基づく請求
アイ号物件の1個当たりの販売価格は90円である。
イイ号物件の販売個数は月間2万個であるから,被告が,平成26年3月から
平成28年2月までの間に販売したイ号物件の個数は48万個である。
ウイ号物件を販売することにより被告が受ける利益の額はその販売額の30%
である。
エ以上により,被告が平成26年3月から平成28年2月までの間にイ号物件
を販売したことにより受けた利益の額を計算すると,その額は1296万円である
が,本件においては,そのうち1080万円を請求する。
(計算式)
90円×2万個×24か月×30%=1296万円
(2)弁護士費用
本件と因果関係のある弁護士費用相当の損害額は108万円を下らない。
(3)まとめ
原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づき1188万円及びこれ
に対する不法行為の日の後の日である平成26年11月11日(訴状送達の日の翌
日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(4)被告の主張について
被告が主張するイ号物件の販売個数は,原告の推定の半分程度であり,また,そ
の利益率は10%程度と単価設定が安く,他方で組立て等の単価が高すぎ,いずれ
も信用できない。
(被告の主張)
(1)イ号物件の販売総額
平成26年3月から平成28年2月までの間に被告が販売したイ号物件の個数は
24万4491個であり,販売総額は1816万2819円である。
(2)イ号物件の仕入総額
上記販売分に対応するイ号物件の仕入総額は1758万3408円である。
(3)イ号物件の利益額
したがって,被告が平成26年3月から平成28年2月までの間にイ号物件を販
売したことにより受けた利益の額は57万9411円である。
第4当裁判所の判断
1争点1(イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか(文言侵害の成否))
イ号物件が構成要件Hを充足することについては当事者間に争いがないが,構成
要件AないしGの充足については,争いがある。
(1)本件明細書には次の記載がある(記載中,図については別紙本件明細書図面
参照)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,電柱間に渡した吊線に,通信ケーブル等を架設する際に用いる螺旋ハ
ンガーの終端をクランプするための螺旋ハンガー用クランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,この種のクランプとして,図8に示すように,U字ボルト100の一方の
螺杆部110に一端側の挿通孔210において回動自在に組付けた挟持材200の
他の一端に,U字ボルト100の他方の螺杆部120に係合する切欠を設け,挟持
材200より突出する各螺杆部110,120にナット300を螺合締付けてU字
ボルト100の屈曲部130と挟持材200とで吊線400と該吊線400上に重
なり合う螺旋ハンガー500を挟持するように構成したものがあった(例えば,特
許文献1を参照。)。
【0003】
なお,図8中,符号220で示すものは,螺旋ハンガー500を係合させるため
の第1凹部,符号230で示すものは,吊線400を係合させるための第2凹部で
あり,それぞれ挟持材200に設けられている。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,上述した従来の技術では,U字ボルト100を用いており,2つ
のナット300を使用する必要があるため,吊線400と螺旋ハンガー500とを
挟持する操作が煩雑になっていた。そこで,一端同士を回動自在に連結した第1プ
レートと第2プレートとにより,吊線400と螺旋ハンガー500とを挟持する挟
持材を構成し,前記第1プレートと第2プレートの各他端同士をボルト及びナット
とで緊締する構造が考えられる。
【0006】
しかし,かかる構成は,第1プレート及び第2プレートにおいて,ボルト及びナ
ットで緊締される各他端が可動する開放端となっているため,締め込むときに,端
部同士がずれてしまったりして逆に弛みの原因ともなるおそれがあった。
【0007】
本発明は,上記課題を解決し,簡単な操作で確実に吊線と螺旋ハンガーとを挟持
できるようにした螺旋ハンガー用クランプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は,所定のケーブルを電柱間に吊支するために,前記電柱間に渡した
吊線に巻き付けて取付けた螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定するための螺旋
ハンガー用クランプであって,前記吊線と前記螺旋ハンガーとを交差させた状態で
挟持する第1プレート及び第2プレートと,これら第1プレート及び第2プレート
の各一端同士を緊締するボルト及びナットと,を備え,前記第1プレート及び第2
プレートの各一端側に前記ボルトを挿通させるボルト挿通孔を形成するとともに,
一端同士を前記ボルトにより連結される閉塞端とし,前記第1プレート及び第2プ
レートの各他端を開放端とするとともに,他端同士を係合する係合部が設けられて
おり,前記係合部は,前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに,前記第
2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と,前記第2プレートの他端
に一側が開口するように形成した切欠部とからなる,こととした。
【0009】
(2)また,本発明は,上記(1)の螺旋ハンガー用クランプにおいて,前記第2
プレートの他端を,前記切欠部から先端にかけて前記第1プレートのフック部側に
所定の角度で屈曲させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば,簡単な操作で確実に吊線と螺旋ハンガーとを挟持することがで
きるため,螺旋ハンガーの架線作業において,当該螺旋ハンガーの終端部を,吊線
に対して極めて容易に,かつ確実に連結固定することができる。したがって,螺旋
ハンガーの架線作業性を著しく向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示すように,本実施形態に係る螺旋ハンガー用クランプ(以下,単に「ク
ランプ」という場合がある)は,実質的に,それぞれ略矩形形状とした金属製の第
1プレート1及び第2プレート2とからなる一対の挟持体3と,ボルト4及び皿付
きのナット5とからなる緊締具6とから構成されている。なお,本実施形態では,
挟持体3を図示する上では,ボルト頭側に位置する第1プレート1を下側に,ナッ
ト5側に位置する第2プレート2を上側に配置した状態で示している。
【0017】
また,第1プレート1及び第2プレート2の各一端11,21側には,それぞれ
矩形形状としたボルト挿通孔13,23(図6参照)が形成されるとともに,矩形
形状の第1プレート1の長手方向における略中央には,当該第1プレート1を横断
するように,吊線8(図2参照)を這わすための吊線用溝部14が形成されている。
【0018】
他方,第1プレート1同様に矩形形状とした第2プレート2の長手方向における
略中央位置には,当該第2プレート2を横断するとともに,第1プレート1に形成
された前記吊線用溝部14と所定角度(例えば25度~50度)で斜めに交差する
ように螺旋ハンガー9を這わすためのハンガー用溝部24が形成されている。なお,
吊線用溝部14及びハンガー用溝部24はプレス成形で形成できるが,第1プレー
ト1及び第2プレート2の各板厚が3mm程度のため,これら吊線用溝部14及び
ハンガー用溝部24はプレスの際に底部が外表面に膨出している。
【0019】
かかる構成により,第1プレート1に形成された前記吊線用溝部14に吊線8を
這わせるとともに,この吊線8に対して所定の角度で螺旋ハンガー9を交差させ,
さらに,この螺旋ハンガー9がハンガー用溝部24に収容されるように第2プレー
ト2を位置させて第1プレート1のフック部12aと第2プレート2の切欠部22
aとを係合させ,ボルト4及びナット5とでしっかりと緊締することで,螺旋ハン
ガー9の終端部を吊線8に固定することができる。
【0020】
しかも,本クランプの構成は,緊締具6で緊締される一端11,21同士は,ボル
ト4により連結された,所謂閉塞端となっているため,ボルト4及びナット5で締
め込むときに,他端12,22同士がずれてしまったりして弛みの原因となるおそ
れがない。したがって,1組のボルト4及びナット5であっても,確実に螺旋ハン
ガー9と吊線8とを連結固定することができる。
【0021】
また,図示するように,第2プレート2の他端22を,第1プレート1のフック
部12a側(図において上方)に所定の角度(例えば10~15度)で僅かに屈曲
させている。具体的には,切欠部22aから先端にかけて屈曲させている。このよ
うに,第2プレート2の他端22を僅かに屈曲形成することで,図2に示すように,
それぞれ所定の径を有する吊線8及び螺旋ハンガー9を実際に挟持したときに,フ
ック部12aと切欠部22aとを係合させ易くなる。しかも,係合させた後は,係
合部20におけるフック部12a側及び切欠部22a側の各噛合面同士の密着度合
が良好となるため,弛みなどを可及的に防止することが可能となる。
【0022】
ここで,本実施形態に係るクランプを用いて,螺旋ハンガー9の終端部を吊線8
に固定する手順について,図7を参照しながら,より具体的に説明する。
【0023】
図7(a)に示すように,先ず,ボルト4とナット5とを弛めた状態のクランプ
を用意する。次いで,図7(b)に示すように,ボルト4を中心に第2プレート2
を反時計回りに回動して第1プレート1との係合を解く。そして,第2プレート2
を持ち上げた状態に維持して一方の手でクランプを保持する。
【0024】
次いで,図7(c)に示すように,一方の手にクランプを持ったまま,第1プレ
ート1の吊線用溝部14に吊線8が這うようにクランプを当該吊線8にあてがう。
すなわち,第1プレート1の長手方向と吊線8とが略直交した状態となる。そして,
他方の手で螺旋ハンガー9の終端部を吊線8に対して所定の角度で交差するように
配置する。
【0025】
かかる状態で,一方の手で第2プレート2を降ろすとともに,図7(d)に示す
ように,第2プレート2をボルト4を中心に時計回りに回動して,第1プレート1
のフック部12aと第2プレート2の切欠部22aとを係合させ,ナット5を回し
て緊締していく。このとき,ボルト挿通孔13,23は矩形形状としており,ボル
ト4は角根タイプとしているため,ボルト4とナット5との共周りが阻止されてナ
ット5の回動操作は円滑に行うことができる。また,前述したように,第2プレー
ト2の他端22を僅かに屈曲形成しているため,フック部12aと切欠部22aと
の係合を容易に行える。
【0027】
このとき,第1プレート1と第2プレート2の一端11,21同士は,ボルト4に
より連結された閉塞端となっているため,ボルト4及びナット5で締め込むときに,
開放端となっている場合の他端12,22同士をボルト・ナットで締め込む場合に
比べて弛むおそれがなく,確実に螺旋ハンガー9と吊線8とを連結固定することが
できる。しかも,やはり前述したように,第2プレート2の他端22を僅かに屈曲
形成しているため,フック部12a側及び切欠部22a側の各噛合面同士の密着度
合が良好となり,弛みなどを可及的に防止することできる。
【0029】
上述してきた実施形態より,以下のクランプが実現できる。
【0032】
また,前記係合部20は,第1プレート1の他端12を鉤形に形成するとともに,
前記第2プレート2側へ折り返して起立状に形成したフック部12aと,前記第2
プレートの他端に形成した切欠部とからなり,しかも,前記第2プレートの他端を,
前記第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させたクランプ。
【0033】
かかる構成により,フック部12aと切欠部22aとを係合させ易くなるととも
に,係合させた後はフック部12a側及び切欠部22a側の各噛合面同士の密着度
合が良好となるため,弛みなどを可及的に防止することが可能となる。
【0034】
また,上記第1プレート1を横断するように,吊線8を這わす吊線用溝部14が
形成され,第2プレート2には,当該第2プレート2を横断するとともに,吊線用
溝部14と交差するように螺旋ハンガー9を這わすハンガー用溝部24が形成され
ているクランプ。
【0038】
以上,本発明の好ましい実施形態について説明したが,本発明は上述してきた実
施形態に限定されるものではなく,特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範
囲内において,種々の変形・変更が可能である。
(2)構成要件Aについて
原告は,イ号物件の構成aは構成要件Aを充足する旨主張するところ,被告は,
構成要件Aの「螺旋ハンガーの終端部」が不明であるとして,その充足を争ってい
る。
ところで,構成要件Aの「螺旋ハンガーの終端部」にいう「終端部」について,
特許請求の範囲あるいは本件明細書において明確な定義はないが,本件明細書には,
「本発明は,電柱間に渡した吊線に,通信ケーブル等を架設する際に用いる螺旋ハ
ンガーの終端をクランプするための螺旋ハンガー用クランプに関するものである。」
(【0001】),「本発明は,所定のケーブルを電柱間に吊支するために,前記
電柱間に渡した吊線に巻き付けて取付けた螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定
するための螺旋ハンガー用クランプであ」る(【0008】),「本発明によれば,
簡単な操作で確実に吊線と螺旋ハンガーとを挟持することができるため,螺旋ハン
ガーの架線作業において,当該螺旋ハンガーの終端部を,吊線に対して極めて容易
に,かつ確実に連結固定することができる。」(【0010】)などの記載がある。
そして,通常,「終端部」とは終わる端の部分を指すことからすれば,「螺旋ハン
ガーの終端部」とは,連続して吊線に巻き付けて取り付けられた螺旋ハンガーが途
切れる箇所で,螺旋ハンガー用クランプで吊線に固定される部分を指すものとして
用いられるものと解するのが相当である。
被告は,イ号物件のそれは,螺旋ハンガーの「終端近傍の一部」であり,「終端
部」ではないと争うが,上記の意味での「終端部」とは,一点で捉えられるべき狭
い部分ではなく,部品の部分として面で捉えるのが相当であるから,被告がいうイ
号物件の螺旋ハンガーの「終端近傍の一部」も「終端部」といって差し支えなく,
イ号物件は「螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定するための螺旋ハンガー用ク
ランプ」であるといえ,イ号物件の構成aは,構成要件Aを充足するものといえる。
(3)構成要件Bについて
原告は,イ号物件が別紙対比表「原告主張イ号物件の構成」欄における構成bの
とおりであり,上固定金具が本件発明にいう「第1プレート」に,下固定金具が「第
2プレート」に該当するとして,構成要件Bの充足を主張しているところ,被告は,
本件発明の「第1プレート」が,①ボルト頭側に位置し,②吊線用溝部が形成され
ており,かつ③吊線が長手方向と略直交した状態であてがわれる,矩形形状のプレ
ートであると理解され,また,「第2プレート」が,①ナット側に位置し,②螺旋
ハンガー用溝部が形成されており,③反時計回りに回動することで他方のプレート
との係合を解かれ,時計回りに回動することで他方のプレートと係合させられるプ
レートであると理解される旨主張して原告主張を争っている。
ところで,本件明細書においては,「第1プレート」及び「第2プレート」につ
いての定義はなく,説明も特に記載されていないところ,確かに,本件明細書にお
ける実施形態としては,被告が主張する実施形態が記載されている(【0013】,
【0017】ないし【0019】,【0024】,【0034】)。
しかし,本件明細書において「本発明は上述してきた実施形態に限定されるもの
ではなく,特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において,種々の変
形・変更が可能である。」(【0038】)と記載されているように,実施形態に
限定されるべき理由はないし,本件特許の特許請求の範囲に,二つのプレートと一
端同士を緊締するボルト及びナットが記載され,その一方,形成される溝部の種類,
螺旋ハンガー用クランプで吊線に固定した際の配置関係については規定されていな
いことからすると,特許請求の範囲の記載に基づいて定められるものであればよい
ものと解されるから,被告がそれぞれ主張するような場合に限定されるものでない
ことは,むしろ明らかである。そして,この点は,被告主張に係る出願補正時の意
見書(甲12)の記載を参酌しても同様である。
そうすると,イ号物件における上固定金具及び下固定金具の各一端には,ボルト
挿通孔が形成されており,両者がボルト挿通孔に挿通されたボルト及びナットによ
り着脱可能な状態で把持され,前記ボルトを回転軸とするものであるから,上固定
金具及び下固定金具は,「第1プレート」及び「第2プレート」に該当し,後記(7)
及び(8)で検討する構成要件Fで定められる第1プレートの構成及び構成要件Gで
定められる第2プレートの構成からすれば,イ号物件の上固定金具が本件発明の「第
1プレート」に,下固定金具が「第2プレート」に該当するといえる。したがって,
イ号物件の構成bは構成要件Bを充足するものといえる。
(4)構成要件Cについて
イ号物件の上固定金具が本件発明の「第1プレート」に,下固定金具が「第2プ
レート」に該当することは上記(3)のとおりであるから,原告主張のイ号物件の構成
cは,本件発明の構成要件Cを充足するものといえる。
(5)構成要件Dについて
イ号物件の上固定金具が本件発明の「第1プレート」に,下固定金具が「第2プ
レート」に該当することは上記(3)のとおりであり,その構成の表現について争いが
あるものの,イ号物件における上固定金具と下固定金具の各一端がボルト及びナッ
トにより把持された部分が,構成要件Dの「閉塞端」に該当することについては,
当事者間に争いがないから,イ号物件の構成dは,構成要件Dを充足するものとい
える。
(6)構成要件Eについて
原告は,イ号物件を構成eのとおり特定して,構成要件Eを充足する旨主張する
ところ,イ号物件の上固定金具が本件発明の「第1プレート」に,下固定金具が「第
2プレート」に該当することは上記(3)のとおりであるが,被告は,その特定の表
現を争うとともに,構成要件Eの「開放端」の意義が明らかでないとして,その充
足を争っている。
しかし,本件特許の特許請求の範囲の「第1プレート及び第2プレートの各一端
側に前記ボルトを挿通させるボルト挿通孔を形成するとともに,一端同士を前記ボ
ルトにより連結される閉塞端とし,前記第1プレート及び第2プレートの各他端を
開放端とするとともに,他端同士を係合する係合部が設けられており,」との記載
からすれば,「開放端」とは,第1プレート及び第2プレートの各一端側に形成さ
れたボルト挿通孔に挿通されたボルトにより一端同士が連結された「閉塞端」の各
他端で,他端同士を係合する係合部が設けられた部分を指すと解される。
本件明細書において,「前記第1プレートと第2プレートの各他端同士をボルト
及びナットとで緊締する構造」が考えられるものの(【0005】),この構造の
欠点として,「第1プレート及び第2プレートにおいて,ボルト及びナットで緊締
される各他端が可動する開放端となっているため,締め込むときに,端部同士がず
れてしまったりして逆に弛みの原因ともなるおそれ」があることが課題とされてい
る(【0006】)ことからしても,「開放端」とは,「ボルト及びナットで緊締
された端」側の他端にあり,そのような緊締がなされておらず,可動する状態にな
っている部分として使用されていることにも合致するものであり,これが明らかで
ないとする被告の主張は採用できない。
そしてイ号物件は,上固定金具及び下固定金具の各一端近傍にはボルトを挿通さ
せるボルト挿通孔が形成され,上固定金具及び下固定金具がボルト挿通孔に挿通さ
れたボルト及びナットにより着脱可能な状態で把持されて,同ボルトを回転軸とし
ている閉塞端であるから,構成要件Dを充足し,また,上固定金具及び下固定金具
の閉塞端でない各他端は,回動自由であり,他端同士を係合する係合部が設けられ
ているのであるから,その特定のための表現に争いがあろうとも,これを「各他端
を開放端とするとともに,他端同士を係合する係合部が設けられて」いるというべ
きことは明らかであるから,構成要件Eを充足するものといえる。
(7)構成要件Fについて
ア原告は,イ号物件の上固定金具の係合部側の形状を構成fのとおり主張して,
これが構成要件Fを充足する旨主張するところ,イ号物件の上固定金具が本件発明
の「第1プレート」に,下固定金具が「第2プレート」に該当することは上記(3)
のとおりであるが,被告は,その特定の表現を争うとともに,構成要件Fにおける
「鉤形」,「起立状」,「フック部」について原告と異なる解釈を採ってその充足
を争っている。
イそこで,まず上記用語の意義を順に検討する。
(ア)「鉤形」,「フック部」について
「鉤形」及び「フック部」については,特許請求の範囲や本件明細書において定
義されていない。
「鉤形」とは,その用語の普通の意味において,「①先の曲がった金属製の具。
また,それに似たもの。②鉄の鉤に長い木の柄をつけた武器,③鉤括弧の略。」,
また,「フック」とは,「①鉤。ホック。②ボクシングで,ひじを曲げて側面から
打つ攻撃。」などとされている(広辞苑第6版)。
したがって,「鉤形」とは,鉤,すなわち先の曲がった金属製の具のように,直
角に曲がった形を指すものであると解される。
この点,被告は,「鉤形」とは,「先」端が曲がった形であり,本件明細書中の
図1等にある90度に曲がった凹部(第2屈折部分)の先端部がさらに90度曲が
って下向きに伸びている部分(第1屈折部分)が構成要件Eにおける「鉤形」であ
り,このような形状は第2プレートが係合時の回動方向と逆方向に回動するのを防
止し,確実な連結固定という本件発明の作用効果に寄与するものである旨主張する。
しかし,本件発明は,2つのプレートの一端同士を回動自在に連結し,ボルト及
びナットで緊締された一端に対する各他端が可動する開放端が,締め込むときにず
れたりして緩みの原因となるところを,他端を係合部とすることにより簡単な操作
で確実に吊線と螺旋ハンガーとを挟持できる作用効果を生じるものであるところ,
第1プレートの他端に90度に曲がった凹部(第2屈折部分)があれば当該作用効
果を奏するものといえ,第1屈折部分が必須の構成であるとはいえない。また,第
1屈折部分があることにより被告の主張するような効果があり得るとも考えられる
が,本件明細書において第2プレートが逆方向に回動することを前提とする記述が
ないことからすれば,上記図1等に第1屈折部分がある実施形態が示されていると
しても,本件発明における必須の構成ではないといえる。
さらに,被告は,本件特許出願時の補正の経緯(甲12,乙10)も含めて「フッ
ク部」及び「切欠部」が異なる用語を用いて明確に区別されているとして,「フッ
ク部」には第1屈折部分が必須である旨主張するが,本件明細書において両者の定
義が記載されている部分はなく,また,同様の形状について異なる用語を用いる例
は散見されることからすれば(甲13),被告の主張は採用できない。
(イ)「起立状」について
本件発明において,クランプの上下は特に規定されておらず,第1プレートと第
2プレートとの関係において「起立状」と表現されているにすぎない相対的なもの
であるから,「起立状」とは,第2プレート側に対して折り返されていることをい
うものと解される。
ウ以上の解釈を踏まえてみると,その特定の表現に争いはあるもののイ号物件
において,上固定金具の他端は,両方の側部に凹部を設けてT字形に形成するとと
もに下固定金具方向へ折り返す係止部となっていることは当事者間に争いがなく,
これによれば本件発明の構成要件Fにおける「鉤形に形成するとともに前記第2プ
レート側へ折り返して起立状に形成したフック部」に該当するといえるから,イ号
物件の構成fは構成要件Fを充足するものといえる。
(8)構成要件Gについて
ア原告は,イ号物件の下固定金具の係合部側の形状を構成gのとおり主張して,
これが構成要件Gを充足する旨主張するところ,イ号物件の上固定金具が本件発明
の「第1プレート」に,下固定金具が「第2プレート」に該当することは上記(3)
のとおりであるが,被告は,その特定の表現を争うとともに,構成要件Gにいう「他
端に一側が開口する」との構成の解釈を争っている。
イそこで,まず「他端に一側が開口する」との解釈について検討する。
(ア)まず「他端」も用いる「端」とは,その用語の普通の意味において,「①物
の末の部分,先端。②中心から遠い,外に近いところ。へり。ふち。」(広辞苑第
6版)などとされ,本件発明の構成要件Dにおいてもボルトを挿通させる部分を「一
端」としていること等からすれば,「他端」とは,プレートの一端の反対側の先端
に近い部分をいい,端外側の線や点をいうものではないと解される。したがって,
「他端の一側が開口する」とは,そのような先端に近い部分の一つの側に開口され
た場所を備えていることをいうものと解するのが相当である。
(イ)これに対し,被告は,「他端」の「一側」が開口するとは,他端の端が開口
していることをいい,また,開口した切欠部の先端が切欠部側に曲がっていないも
のである旨主張し,本件明細書の図や実施形態を指摘する。しかし,本件発明が本
件明細書における図や実施形態に限定されるものではないから,切欠部の位置が被
告主張の箇所に限定されるものではなく,被告のいう第1屈折部分がある形態が除
かれているということもいえず,被告の上記主張は採用できない。
ウイ号物件においては,その構成の特定の表現に争いがあるものの,上固定金
具が本件発明の「第1プレート」に,下固定金具が「第2プレート」に該当するこ
とは上記(3)のとおりであり,下固定金具の他端近傍の一方の側部に凹部を設けて逆
C字形にし,その先端に下固定金具の一端側へ略90度屈折させた屈折部分を形成
しているが,C字型の凹部を形成している構成を有していることは明らかであるか
ら,これらは「他端に一側が開口するように形成した切欠部」に該当するものとい
え,したがって,イ号物件の構成gは構成要件Gを充足するものといえる。
(9)まとめ
以上によれば,イ号物件は,構成要件AないしHを充足し,本件発明の技術的範
囲に属するものといえる。
2争点3(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)
(1)無効理由1(進歩性欠如)
ア主引例発明(乙11発明)の認定
(ア)特開2002-135954号公報(乙11)には,次の記載がある。
【特許請求の範囲】
【請求項5】電柱間に架設された支持線及びケーブルが,連続的に架設された螺旋
状支持具の螺旋内径側に収納された後,螺旋状支持具を支持線に固定するために使
用される固定具において,
前記固定具は,長板幅斜め方向に斜溝部を設けて螺旋状支持具本体を納める第1板
と,長板幅方向に直溝部を設けて支持線を納める第2板とによって,支持線及び螺
旋状支持具本体を挟持可能とし,前記第1板と第2板の一端部が固定孔を有して,
固定孔に挿通するボルト・ナットによって,支持線の挟持時に締付固定可能とし,
他端部が両者の反対側部を立ち上げた立上部と,さらに直角状に折曲げ成形してス
トッパ部を連続して設け,ボルト・ナットが緩んだ時に立上部とストッパ部によっ
て両板面間に取付空間を形成し,ボルト中心に第1板及び第2板を互いにずらせて
広げられ,また,すぼめる際には,立上部にて制止させて重ね合わせできる構成で
あり,螺旋状支持具を支持線に固定する際には,前もって第1板及び第2板の立上
部及びストッパ部とで取付空間を生じさせる状態で,支持線と螺旋状支持具本体と
を挟持できるようにボルト・ナットによって仮締付し,ボルトを中心にして第1板
と第2板とを互いにずらせて支持線の固定位置において位置決めされ,この位置決
め後にボルト・ナットを本締付することで固定することを特徴とする固定具。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術的分野】本発明は電柱間に既設のケーブルを一束化する方法に
関し,またこの方法に使用される先導具及び固定具に関する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述した一般的なケーブルの一束化方法では,先
頭の螺旋状支持具の先端がケーブル間に入り込んでしまい,螺旋内径内へ納めるべ
きケーブルを収納せず外側へ出してしまう問題がある。特に,既設のケーブル類は,
風雪等の影響で真っ直ぐかつ等間隔を保っていないなど,架線状態が悪いだけでな
く,各家庭へ分岐している分岐線もあり,これらを避けることが難しいという問題
がある。他方,螺旋状支持具を使うケーブル施工方法として先導具を用いる方法が
提案され,上記の特許第3025767号公報及び特許第3035620号公報に
開示された施工方法及びそれに用いる先導具がある。しかし,これらは先に螺旋状
支持具を設置し,その後又は同時にケーブルを新設する際に用いる方法であり,既
設の特に複数のケーブルを一束化するための適切な先導具及びこれを使う方法を提
案するものでない。他方,固定具に関しても,特許第2572013号公報に開示
される簡便なクリップタイプでは,ケーブルが重くなるとばね性だけでは固定が維
持できないという問題がある。これに対して特開2000-188817号公報に
開示されるボルトタイプでは,固定維持力は充分である。しかし,両挟持片を上下
方向から支持線等を挟持するという手順だけでなく,ボルト固定箇所が両端の2カ
所に配設されるため,支持線への取付固定に手間取り,時としてナットを落下させ
てしまう問題がある。特に,電柱上等の高所作業にとって部品落下は安全上でも問
題である。本発明は,上述した問題点にかんがみてなされたもので,その第1の目
的とするところは,既設のケーブルの架線状態が悪くても,また各家庭等へ分岐す
る分岐線等があってもこれらを避けて一束化できるケーブルの一束化方法と,これ
に用いる先導具を提供することである。また,第2の目的は,上記目的に加えて,
固定力が充分であり,支持線への取付作業の容易で安全な固定具と,この固定具を
用いる一束化方法を提供することである。
【発明の実施の形態】・・・
【0018】固定具4は,図4と図5に示すように,第1板9,第2板10及びボ
ルト・ナット11から構成されている。第1板9は図4イに示すように,長板幅斜
め方向に斜溝部9aを設けて螺旋状支持具2を納める。第2板10は図4ロに示す
ように,長板幅方向に直溝部10aを設けて支持線31を納める。両板9,10の
一端部は固定孔12をそれぞれ有して,固定孔12にボルト・ナット11を挿通し,
図5に示すように,両板9,10によって支持線31及び螺旋状支持具2を挟持し,
ボルト・ナット11にて固定する。両板9,10の他端部には,両者の反対側部を
立ち上げた立上部13と,さらに直角状に折曲げ成形してストッパ部14が連続し
て設けられている(図4参照)。ボルト・ナット11の仮締付時に立上部13とス
トッパ部14は両板面9,10間に取付空間を形成できる。この取付空間は自由自
在に変化できる。このため,図6に示すように,ボルト11中心に第1板9及び第
2板10を互いにずらせて広げられ,また,すぼめる際には,立上部13にて制止
させて両板9,10を重ね合わせることが簡単にできる。・・・
【0023】次の第2工程は,順次送出される複数の螺旋状支持具2が結合部材で
あるジョイント3によって連続的に継ぎ足されて,電柱間30a,bのケーブル3
2を一束化する。同時に支持線31が螺旋状支持具2によって一束化されるケーブ
ル32を支持する工程である。最後の第3工程は,図示を省略するが,他方の電柱
30bに先導具1が到達した後,先導具1を螺旋状支持具2から取り外し,電柱間
30a,bに架設され1本の長尺化した螺旋状支持具2が固定具4によって支持線
31に固定される工程である。第3工程における固定具4は,地上の準備段階にお
いて第1板9及び第2板10の立上部13及びストッパ部14によって取付空間を
生じさせる状態にボルト・ナット11で仮締付する。このため第1板9と第2板1
0は自在にずらせることができるが,ばらばらになることもなく,電柱上の高所作
業場にてナット11を落下させることがなく安全である。図6に示すように,第1
板9及び第2板10との間に自由自在に変化できる取付空間を有したまま,第1板
9を略直角方向にずらせて,第2板10の直溝部10aを支持線31に位置決めし,
第1板9をずらせて斜溝部9aを螺旋状支持具本体2に合わせて,支持線31と螺
旋状支持具本体2とを両板9,10によって挟持できる。立上部13のストッパ作
用によって第1板9をずらせる際,第2板10との合わせ位置を通過することがな
い。そしてナット11を本締付けることで,ボルト・ナット11の強固な固定力を
確保できる。しかも,ナット11のみの締付作業であるため,容易かつ安全で効率
的な固定作業となる。
【図4】
【図5】【図6】
(イ)以上によれば,乙11には,既設のケーブルの架線状態が悪くても,また各
家庭等へ分岐する分岐線等があってもこれらを避けて一束化できるケーブルの一束
化方法に用いる先導具及び固定具を提供する技術に関し,固定力が充分であり,支
持線への取付作業の容易で安全な固定具を提供することを課題として,電柱間に架
設された支持線及びケーブルが,連続的に架設された螺旋状支持具の螺旋内径側に
収納された後,螺旋状支持具を支持線に固定するために使用される固定具において,
前記固定具は,長板幅斜め方向に斜溝部を設けて螺旋状支持具本体を納める第1板
と,長板幅方向に直溝部を設けて支持線を納める第2板とによって,支持線及び螺
旋状支持具本体を挟持可能とし,前記第1板と第2板の一端部が固定孔を有して,
固定孔に挿通するボルト・ナットによって,支持線の挟持時に締付固定可能とし,
他端部が両者の反対側部を立ち上げた立上部と,さらに直角状に折曲げ成形してス
トッパ部を連続して設け,ボルト・ナットが緩んだ時に立上部とストッパ部によっ
て両板面間に取付空間を形成し,ボルト中心に第1板及び第2板を互いにずらせて
広げられ,また,すぼめる際には,立上部にて制止させて重ね合わせできる構成で
あり,螺旋状支持具を支持線に固定する際には,前もって第1板及び第2板の立上
部及びストッパ部とで取付空間を生じさせる状態で,支持線と螺旋状支持具本体と
を挟持できるようにボルト・ナットによって仮締付し,ボルトを中心にして第1板
と第2板とを互いにずらせて支持線の固定位置において位置決めされ,この位置決
め後にボルト・ナットを本締付することで固定することを特徴とする固定具に関す
る発明が記載されているものと認められる。
イ本件発明と乙11発明との一致点及び相違点の認定
本件発明と乙11発明との一致点及び相違点についてみてみると,本件発明は,
第1プレート及び第2プレートの他端同士を係合する「係合部」を有し,当該係合
部は,「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに,前記第2プレート側
へ折り返して起立状に形成したフック部と,前記第2プレートの他端に一側が開口
するように形成した切欠部」とからなるのに対し,乙11発明は,第1板及び第2
板の「他端部」に設けられた「両者の反対側部を立ち上げた立上部と,さらに直角
状に折曲げ成形し」た「ストッパ部」があるが,切欠部を有しておらず,第1板及
び第2板を「他端部」の「立上部にて制止させて重ね合わせ」ることで「支持線の
固定位置において位置決め」する構成である点で相違しており,その余の点で一致
している。
ウ乙11発明のみに基づく容易想到性についての検討
(ア)本件発明において,他端同士を係合する係合部が「前記第1プレートの他端
を鉤形に形成するとともに,前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフ
ック部と,前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」とい
う構成であることから,「フック部」と「切欠部」を係合する際,「切欠部」に「フ
ック部」が部分的にせよ収まる構造となっていることが認められる。このことによ
り,第2プレートの第1プレートと挿通するボルトを軸とする時計方向への回動は,
「切欠部」と「フック部」の内壁面が当接することにより制限され,また,各プレ
ートの上下方向のずれは,係合した第1プレートの起立状に形成した「フック部」
の「鉤形」部分が第2プレートを挟むことにより制限され,さらに,長手方向のず
れは,「フック部」を収めた第2プレートの「切欠部」により制限されているとい
える。そして,本件発明におけるクランプは,第1プレート上に吊線と螺旋ハンガ
ーを配置後,第2プレートをボルトを中心に時計回りに回動して,第1プレートの
フック部と第2プレートの切欠部とを係合させ,ナットを回して緊締する手順が記
載されており(【0022】ないし【0025】),簡単な操作で確実に吊線と螺
旋ハンガーとを挟持できるものである(【0007】)。
(イ)これに対し,乙11発明は,第1板及び第2板にそれぞれ設けられた「立上
部」と「ストッパ部」は,ボルト中心に第1板及び第2板をすぼめる際に「立上部
にて制止させて重ね合わせ」ることで「支持線の固定位置において位置決め」する
ものであるから,そのような状態では,各板のボルトを中心とする1方向の回動は,
各板の他端の「立上部」側でない「側部」を他方の板の「立上部」に当接させるこ
とで制止され,各板の上下方向のズレは,前記「ストッパ部」が存在することと,
「第1板及び第2板の立上部及びストッパ部」とで生じる「取付空間」内に「支持
線と螺旋状支持具本体」とが挟持されることにより,結果として制限されるものの,
ストッパ部の長さによっては上下方向の制限が十分でない場合が生じ,また,乙1
1発明は前記「切欠部」に相当する構成を有していないから,各板の長手方向のズ
レが制限されるものではなく,その分だけ本件発明より不安定であるといえる。そ
して,乙11発明において,このような「立上部」と「ストッパ部」とによる「位
置決め」の構成に代えて,本件発明のように「フック部」と「切欠部」とからなる
前記「係合部」の構成を採用することについては,乙11には記載も示唆もされて
いない。
また,乙11発明においては,第1板及び第2板を,取付空間を生じさせる状態
でボルト・ナットにより仮締付けし,第1板を略直角方向にずらし,第2板の直溝
部10aに支持線31に位置決めし,第1板をずらせてその斜溝部9aを螺旋状支
持具本体2に合わせて,支持線31と螺旋状支持具本体2とを両板によって挟持す
るものであるところ(【0018】,【0023】),第1板をすぼめる際には,
第1板の「立上部」と「ストッパ部」が,挟持されている支持線31と螺旋状支持
具本体2に引っかからないように,第1板を持ち上げながら回動させる必要があり,
本件発明に比して操作が煩雑であるといえる。
(ウ)そうすると,本件発明は,第1プレート及び第2プレートの他端同士を係合
する「係合部」を有し,当該「係合部」が,「前記第1プレートの他端を鉤形に形
成するとともに,前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部」と
「前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」を有するとい
う構成により,上記(ア)の作用効果を奏すると認められるところ,乙11には相違点
に係る構成については記載も示唆もされておらず,また,相違点に係る構成により,
本件発明は,乙11発明と比較して格別の作用効果を奏すると認められる。
したがって,相違点に係る構成が,乙11発明に基づいて,当業者が容易に想到
し得たものということはできない。
エ乙11発明及び乙12発明ないし乙15発明に基づく容易想到性についての
検討
(ア)乙12ないし乙15
a乙12
乙12は,「本発明は,建物に配管パイプを配管設置するに用いる配管バンドに
関し,特に配管作業の作業性を向上しうるようにした分離一対の湾曲バンド片によ
る配管バンドに関する」もので(【0001】),「その解決課題とするところは,
可及的に配管作業を少ない作業者により容易且つ確実に行なうことができる配管パ
イプ設置用に用いる配管バンドを提供するにある。」とされている(【0004】)
(乙12)。
b乙13
乙13は,「パイプ等の被取付部材へ物品を支持させるとき介装されるものであ
って,被取付部材の周囲に巻回されて取付けられて使用されるブラケットに関する」
もので([産業上の利用分野]),その課題は,「各係合部は係合時に外方への動
きが相手側の段部によって拘束されるため自由に動けない。したがって,この状態
で被取付部材へ取り付けるとき締結部側を開こうとすれば,強い力を加えて係合部
を変形させなければならない。その結果,取付状態の見栄えが悪くなるので,実質
的には両方の係合部を係合したとき両ブラケット片間に形成される空間の大きさ程
度の被取付部材をその端部から両ブラケット片間に形成される空間内へ挿入しなけ
ればならず,取付方法並びに被取付部材の大きさに制約が生じる。」とされている
([考案が解決しようとする課題]の21行目ないし30行目)(乙13)。
c乙14
乙14は,「本発明は,上下水道用・ガス用・冷暖房用などの各種の配管を建築
物ないし構造物の床面,壁面,天井などに固定するのに利用される配管用支持金具
の1種であり,配管を天井などから吊り下げて固定するのに利用されるタイプの配
管用吊りバンドに関する」もので(【0001】),その課題は,「本発明の第1
の課題は,配管の真下の位置でのボルト・ナットの締め付け作業を解消し,不十分
な高さの場所でも容易に配管作業が可能で作業能率が更に向上される配管用吊りバ
ンドを提供することであり,本発明の第2の課題は,ボルト或いはナットを脱落さ
せてしまう事故を防ぐことが可能である配管用吊りバンドを提供することにある。」
とされている(【0020】)(乙14)。
d乙15
乙15は,「本発明は,配管を床面或いは壁面などに固定するのに利用される配
管支持金具に関する」もので(【0001】),その課題は,「本発明は,上記構
成の配管支持金具における,上側支持板の脱落防止機構を明らかにすることを課題
とするものである。」(【0011】)とされている(乙15)。
(イ)検討
乙11発明は,前記のとおり,電柱間に既設のケーブルを一束化する方法に関し,
またこの方法に使用される先導具及び固定具に関するものであるが(【0001】),
乙12ないし乙15に記載された発明は,前記aないしdのとおり,配管パイプ等
のパイプ部材という単一の部材を支持固定する支持部材技術分野に属するものであ
り,乙11発明と共通する技術分野にはない。
また,乙11発明は,主として,固定力が十分で,支持線への取付作業が容易で
安全な固定具を提供することを課題としているところ(【0003】),第1板及
び第2板をボルト・ナットにより挿通し,両板に「立上部」及び「ストッパ部」を
設ける構成を採ることにより,上記課題を既に解決しているもので,それ以上に,
本件発明にある「切欠部」の構成を採用しなければならない必要性は認められない
し,乙12ないし乙15に本件発明にある「切欠部」と同様の構成が記載されてい
たとしても,乙11にそのような構成についての記載も示唆もないのであるから,
技術分野が異なるこれらの文献に記載される発明を乙11発明に適用する動機付け
もない。さらに,乙11の課題や目的は,乙12ないし乙15の課題や目的と異な
るものであるから,乙11に乙12ないし乙15に開示のある発明を組み合わせる
ことは,いずれにしても困難であるといえる。
そうすると,乙12ないし乙15に記載された発明の内容を検討するまでもなく,
乙11発明に乙12ないし乙15に記載された発明を組み合わせることは困難であ
るといえるから,いずれにしても,乙11発明と,乙12ないし乙15に基づいて,
当業者が本件発明と同様の構成に容易に想到し得たものということはできない。
オ結論
したがって,本件発明は乙11発明のみに基づいて,あるいは乙11発明に乙1
2ないし乙15を組み合わせて容易に発明することができたとはいえないから,被
告の主張する無効理由1は認められない。
(2)無効理由2(サポート要件違反)
被告は,本件発明は,発明の詳細な説明に記載したものではなく,本件特許は,
特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない無効理由が存在する旨主張
する。
しかし,本件明細書の【発明の効果】【0010】に「簡単な操作で確実に吊線
と螺旋ハンガーとを挟持することができるため,螺旋ハンガーの架線作業において,
当該螺旋ハンガーの終端部を,吊線に対して極めて容易に,かつ確実に連結固定す
ることができる。したがって,螺旋ハンガーの架線作業性を著しく向上させること
が可能となる。」との記載があることを踏まえると,本件明細書の【0019】に
「かかる構成により,第1プレート1に形成された前記吊線用溝部14に吊線8を
這わせるとともに,この吊線8に対して所定の角度で螺旋ハンガー9を交差させ,
さらに,この螺旋ハンガー9がハンガー用溝部24に収容されるように第2プレー
ト2を位置させて第1プレート1のフック部12aと第2プレート2の切欠部22
aとを係合させ,ボルト4及びナット5とでしっかりと緊締することで,螺旋ハン
ガー9の終端部を吊線8に固定することができる。」と記載され,同じく【002
0】に「しかも,本クランプの構成は,緊締具6で緊締される一端11,21同士
は,ボルト4により連結された,所謂閉塞端となっているため,ボルト4及びナッ
ト5で締め込むときに,他端12,22同士がずれてしまったりして弛みの原因と
なるおそれがない。したがって,1組のボルト4及びナット5であっても,確実に
螺旋ハンガー9と吊線8とを連結固定することができる。」と記載され,これとは
別に本件明細書の【0021】に,請求項2に係る発明の構成要件である「前記第
2プレートの他端を,前記切欠部から先端にかけて前記第1プレートのフック部側
に所定の角度で屈曲させた」構成による作用効果が特に記載されていることからす
ると,この「屈曲させ」るという構成を備えていなくとも,本件発明の構成により
奏される作用効果は十分に説明されているというべきである。
また,上記の記載振りに照らし,請求項2に係る発明の構成要件が任意の付加的
構成であることは明らかであり,したがって,第1プレートにフック部があり,第
2プレートに切欠部があるという構成と,第2プレートの他端を,第1プレートの
フック部側に所定の角度で屈曲させるという構成とは,一体不可分の構成であると
する被告主張も採用できないことは明らかである。
したがって,被告が主張する無効理由2は採用できない。
(3)無効理由3(明確性要件違反)
被告が明確ではないと主張する「螺旋ハンガーの終端部」については,上記1(2)
のとおり,螺旋ハンガーのうち,螺旋ハンガー用クランプで吊線に固定される部分
を指すものとして用いられるものと解され,また,「閉塞端」についても,上記1
(6)のとおり,第1プレート及び第2プレートの各一端がボルト及びナットにより把
持された部分が「閉塞端」に該当することと解されるもので,明確性に欠くところ
はない。
したがって,被告の主張する無効理由3は認められない。
(4)無効理由4(新規事項追加)
被告は,本件特許の願書に最初に添付した明細書には,第2プレートの他端を,
第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させた構成(具体的には,請求項2
に記載される「前記第2プレートの他端を,前記切欠部から先端にかけて前記第1
プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させた」構成)は,本件の願書に最初に
添付された明細書に記載の課題を解決する上で必須の構成であるところ,この必須
の構成を請求項1で特定しない本件補正により,当該請求項1には,発明の課題が
解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものが記載さ
れることとなったとして,同補正は,願書に最初に添付した明細書に記載された事
項の範囲内でするものとも,同明細書に記載された事項から自明な事項の範囲内で
するものともいえない旨を主張する。
本件補正は,請求項1及び請求項2の記載を本件の特許請求の範囲のとおりに補
正し,明細書の【0008】及び【0009】の記載を補正された請求項1及び請
求項2の記載に整合するよう補正するとともに,【0020】及び【0027】に
おける「他端12,22同士」の記載を「一端11,21同士」と補正するもので
ある(乙10)。
上記補正内容からすれば,【0020】及び【0027】における補正は誤記の
訂正であり,明細書の記載を実質的に変更するものでない。
そして,前記(2)で検討したように,「前記第2プレートの他端を,前記切欠部か
ら先端にかけて前記第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させた」という
構成を特定していない本件発明は,本件明細書に記載されていると認められるから,
【0008】及び【0009】における補正は,本件の願書に最初に添付した明細
書の発明の詳細な説明にも記載されていた範囲内でされた補正とも認められる。
以上のとおりであるから,請求項1に係る発明を本件発明のとおりに補正した本
件補正は,本件の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載さ
れた事項の範囲内でなされたものと認められるから,特許法17条の2第3項に規
定する要件を満たしており,被告が主張する無効理由4は認められない。
(5)以上のとおりであるから,被告が主張する無効理由はいずれも理由がない。
3争点5(原告の損害額)
(1)本件特許権侵害により被告が受けた利益の額
証拠(乙18,乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告のイ号物件の販売個数
は,平成26年3月から平成28年2月までの間で24万4491個であり,その
販売総額は1816万2819円であること,被告はイ号物件を他社から仕入れて
いるが,上記販売したイ号物件の仕入総額は1758万3408円であることが認
められるから,被告が平成26年3月から平成28年2月までの間にイ号物件を販
売するという本件特許権侵害の行為により受けた利益の額は57万9411円であ
ると認められ,これを上回って被告が利益を受けた事実を認めるに足りる証拠はな
い。
原告は,前掲証拠から認められるイ号物件販売による利益率が低すぎるとして信
用できない旨争うが,イ号物件は,螺旋状ケーブル支持具である「スーパーハンガ
ー」の使用に伴い必要となる付随部品であるところ,被告が「スーパーハンガー」
の販売に伴い,どの部品の販売により利益を確保するのかは,その営業政策の問題
にすぎないから,イ号物件の販売で確保する利益率が低すぎるからといって直ちに
その信用性が損なわれるわけではない。またそのほかに前掲証拠の信用性を疑わせ
るに足りる証拠はない。
(2)弁護士費用
本件と因果関係のある弁護士費用相当の損害金は,本件事案の内容に鑑み,20
万円と認めるのが相当である。
(3)合計
そうすると,被告の本件特許権侵害により原告が受けた損害の額は77万941
1円であると認められる。
4結語
以上によれば,原告の被告に対する本件特許権に基づくイ号物件の製造,販売又
は販売のための展示についての差止請求,並びに被告保有に係るイ号物件の廃棄請
求にはいずれも理由があり,また原告の被告に対する本件特許権侵害を理由とする
損害賠償請求は,77万9411円及びこれに対する不法行為の日の後の日である
平成26年11月11日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求には理
由がない。
よって,上記理由のある限度で請求を認容し,その余の請求を棄却することとし,
訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条を,仮執行宣言につき同法259
条1項を適用して主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官森崎英二
裁判官田原美奈子
裁判官林啓治郎

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛