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平成15年4月23日宣告 
平成14年(わ)第817号,第939号,第1051号,第1176号
有印公文書偽造,同行使,詐欺被告事件
            判        決     
            主        文
   被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中160日をその刑に算入する。
   所得証明書等綴3綴(平成15年押第27号の1,3及び4)及び納税証
明書綴1綴(同号の2)をいずれも没収する。
理        由
(犯罪事実)
 第1 被告人は,Aと共謀の上,B公庫からマイホーム新築資金借入名下に金員
を詐取しようと企て,平成9年11月17日ころ,福岡県遠賀郡a町bc番地所在の
被告人方及び同町de番地f所在の「C店」において,行使の目的をもって,ほしい
ままに,かねて入手していた福岡県遠賀郡a町長D各作成名義の上記Aの住民票,E
の所得証明書及び納税証明書をカラー複写機で複写した上,Aの住民票の氏名欄等
を切り取って,上記Eの所得証明書の氏名欄に貼り付けるなどした上,これを更
にカラー複写機で複写して上記a町長作成名義に係るAの平成8年度及び同9年度
の所得証明書及び納税証明書各1通の合計4通(平成15年押第27号の4)を
偽造し,同月18日ころ,B公庫から審査業務を委託された北九州市g区hi番
j号所在の「株式会社F銀行G支店」において,同支店貸付係Hに対し,真実は,
住宅新築資金の借入申込者であるAに,毎月の返済額の5倍以上の月収がないにも
かかわらずこれあるように装った上,B公庫の融資限度額は,土地購入代金等所
要資金の80パーセント以内であることから,所要資金を水増しして所要資金以
外の用途に費消する目的で,真実は所要資金が2650万円であるにもかかわら
ず,これを3525万円とするなどして,平成9年度マイホーム新築資金借入申
込書の年収欄に1061万7360円,所要資金欄に3525万円などと虚偽の
記載をし,上記偽造に係る所得証明書及び納税証明書合計4通を真正に作成され
たもののように装い,上記新築資金借入申込書等とともに一括提出・行使して住
宅新築資金2820万円の借入れを申し込み,上記Hらをして,同申込書等の記
載が真実で融資条件を満たしており,かつ,真実の所要資金などが記入されてい
るものと誤信させ,同所から広島市k区l町m番n号所在の「B公庫I支店」に上記
申込書等の関係書類を送付させるなどし,同支店個人融資第二課課長Jらをし
て,上記同様に誤信させて貸付決定をさせ,よって同人らをして,平成10年4
月27日,貸付金の一部として1279万6990円を,上記F銀行G支店のA名
義の普通預金口座に,同年7月27日,貸付金の残額として1445万3064
円を,Aが貸付金の代理受領者として指定した北九州市g区hi番o号所在の「K銀
行L支店」の「M株式会社」名義の当座預金口座にそれぞれ振込入金させ,もっ
て,人を欺いて財物を交付させた。
 第2 被告人は,A及びNと共謀の上,B公庫からマイホーム新築資金借入名下
に金員を詐取しようと企て,平成10年8月24日ころ,前記第1記載の被告人
方及び同郡p町qr番地所在の「O店」において,行使の目的をもって,ほしい
ままに,かねて入手していたs町長P作成名義の上記Nの所得証明書及び納税証
明書4通をカラー複写機で複写した上,所得証明書の数字等を切り貼りするなど
して,同人の平成9年度の所得証明書の給与収入額が「968,250円」であ
ったところを「8,968,250円」と改ざんし,また,平成10年度の同証
明書の給与収入金額が「2,583,390円」であったところを「9,58
3,390円」と改ざんした上,さらに,改ざんした所得証明書に矛盾しないよ
う平成9年度の納税証明書の税額を「434,000」,平成10年度の同証明
書の税額を「453,000」などと改ざんした上,これを更にカラー複写機で
複写して上記町長作成名義のN(「Q」名義)の平成9年度及び同10年度分の
所得証明書及び納税証明書各1通の合計4通(平成15年押第27号の3)を偽
造し,平成10年9月9日ころ,B公庫から審査業務を委託された前記第1記載
の「株式会社F銀行G支店」において,同支店貸付係Hに対し,真実は,住宅新
築資金の借入申込者であるNに,毎月の返済額の5倍以上の月収がないにもかか
わらずこれあるように装った上,B公庫の融資限度額は,土地購入代金等所要資
金の80パーセント以内であることから,所要資金を水増しして所要資金以外の
用途に費消する目的で,真実は所要資金が2760万円であるにもかかわらず,
これを3846万円とするなどして,平成10年度マイホーム新築資金借入申込
書の年収欄に958万3390円,所要資金欄に3846万円などと虚偽の記載
をし,上記偽造に係る所得証明書及び納税証明書合計4通を真正に作成されたも
ののように装い,上記新築資金借入申込書等とともに一括提出・行使して住宅新
築資金3060万円の借入れを申し込み,上記Hらをして,同申込書等の記載が
真実で融資条件を満たしており,かつ,真実の所要資金などが記入されているも
のと誤信させ,同所から前記第1記載の「B公庫I支店」に上記申込書等の関係
書類を送付させるなどし,同支店個人融資第三課課長Jらをして,上記同様に誤
信させて貸付決定をさせ,よって同人らをして,平成11年2月10日,貸付金
の一部として1653万1515円を,Nが貸付金の代理受領者として指定した
福岡県鞍手郡t町uv番地w所在の「株式会社K銀行R支店」の「有限会社S」名義の
当座預金口座に,同年6月25日,貸付金の残額として1308万9535円
を,上記同様に上記Sの当座預金口座に,それぞれ振込入金させ,もって,人を欺
いて財物を交付させた。
 第3 被告人は,T及びAと共謀の上,B公庫からマイホーム新築資金借入名下
に金員を詐取しようと企て,平成10年8月31日ころ,福岡県遠賀郡a町bx番
地y所在の「U店」において,行使の目的をもって,ほしいままに,かねて入手
していたG税務署署長V作成名義の納税証明書等を使用して,同店設置のカラー
複写機により,住所・氏名欄及び納税額欄等が空欄となった納税証明書を作成し
た上,同日ころ,前記第1記載の被告人方において,納税証明書については,氏
名(名称)欄に「T」,証明書の使用目的欄の「3資金借入」項目の「3」に丸
印,納付すべき税額の平成9年度の申告額欄に「¥166,200円」などと,
納税証明書(その2・所得金額用)については,氏名欄に「T」,証明書の使用
目的欄に「資金借入」,所得金額の平成9年分の申告額欄に「¥11,131,
270円」などと青色鉛筆を用いて各冒書して,上記税務署署長V作成名義の納
税証明書及び納税証明書(その2・所得金額用)各1通の合計2通(平成15年
押第27号の2)を偽造し,平成10年9月4日ころ,B公庫から審査業務を委
託された前記第1記載の「株式会社F銀行G支店」において,同支店貸付係Hに
対し,真実は,住宅新築資金の借入申込者である上記Tに,毎月の返済額の5倍
以上の月収がないにもかかわらずこれあるように装った上,B公庫の融資限度額
は,土地購入代金等所要資金の80パーセント以内であることから,所要資金を
水増しして所要資金以外の用途に費消する目的で,真実は所要資金が2840万
円であるにもかかわらず,これを3830万円とするなどして,平成10年度マ
イホーム新築資金借入申込書の年収欄に1113万1270円,所要資金欄に3
830万円などと虚偽の記載をし,上記偽造に係る納税証明書及び納税証明書
(その2・所得金額用)各1通の合計2通を真正に作成されたもののように装
い,上記新築資金借入申込書等とともに一括提出・行使して住宅新築資金306
0万円の借入れを申し込み,上記Hらをして,同申込書等の記載が真実で融資条
件を満たしており,かつ,真実の所要資金などが記入されているものと誤信さ
せ,同所から前記第1記載の「B公庫I支店」に上記申込書等の関係書類を送付
させるなどし,同支店個人融資第三課課長のJらをして,上記同様に誤信させて
貸付決定をさせ,よって同人らをして,平成10年12月25日,貸付金の一部
として1672万6810円を,上記F銀行G支店のT名義の普通預金口座に,
同11年3月25日,貸付金の残額として1319万7390円を,Tが貸付金
の代理受領者として指定した前記第1記載の「K銀行L支店」の「M株式会社」
名義の当座預金口座にそれぞれ振込入金させ,もって,人を欺いて財物を交付さ
せた。
 第4 被告人は,W及びAと共謀の上,B公庫からマイホーム新築資金借入名下
に金員を詐取しようと企て,平成10年9月6日ころ,前記第1記載の被告人方
及び前記第3記載の「U店」において,行使の目的をもって,ほしいままに,か
ねて入手していた福岡県遠賀郡a町長D作成名義の上記W及びEの所得証明書及び納
税証明書をカラー複写機で数枚複写した上,所得証明書の数字等を切り貼りする
などして,Wの平成9年度の所得証明書の所得内訳金額欄について「¥2,49
0,400」であったところを「¥6,386,492」と改ざんし,また,同
10年度の同証明書の所得内訳金額欄について「¥2,532,000」であっ
たところを「¥6,733,698」と改ざんした上,さらに,改ざんした所得
証明書に矛盾しないよう同9年度の納税証明書の課税額欄を「¥352,80
0」,同10年度の同証明書の課税額欄を「¥384,100」などと改ざんし
た上,これを更にカラー複写機で複写して,上記a町長作成名義にかかるWの平成
9年度及び同10年度の所得証明書並びに平成9年度及び同10年度の納税証明
書各1通の合計4通(平成15年押第27号の1)を偽造し,平成10年9月1
1日ころ,B公庫から審査業務を委託された前記第1記載の「株式会社F銀行G
支店」において,同支店貸付係Hに対し,真実は,住宅新築資金の借入申込者で
あるWに,毎月の返済額の5倍以上の月収がないにもかかわらずこれあるように
装った上,B公庫の融資限度額は,土地購入代金等所要資金の80パーセント以
内であることから,所要資金を水増しして所要資金以外の用途に費消する目的
で,真実は所要資金が2760万円であるにもかかわらず,これを3825万円
とするなどして,平成10年度マイホーム新築資金借入申込書の年収欄に898
万2840円,所要資金欄に3825万円などと虚偽の記載をし,上記偽造に係
る所得証明書及び納税証明書の合計4通を真正に作成されたもののように装い,
上記新築資金借入申込書等とともに一括提出・行使して住宅新築資金3060万
円の借入れを申し込み,上記Hらをして,同申込書等の記載が真実で融資条件を
満たしており,かつ,真実の所要資金などが記入されているものと誤信させ,同
所から前記第1記載の「B公庫I支店」に上記申込書等の関係書類を送付させる
などし,同支店個人融資第三課課長のJらをして,上記同様に誤信させて貸付決
定をさせ,よって同人らをして,平成10年12月25日,貸付金の一部として
1672万8150円を,上記F銀行G支店のW名義の普通預金口座に,同11
年3月25日,貸付金の残額として1319万7390円を,Wが貸付金の代理
受領者として指定した前記第1記載の「K銀行L支店」の「M株式会社」名義の
当座預金口座にそれぞれ振込入金させ,もって,人を欺いて財物を交付させた。
(証拠)
(法令の適用)
 罰条
    各有印公文書偽造の点    刑法60条,155条1項
    各偽造有印公文書行使の点 刑法60条,158条1項,155条1

    詐欺の点          刑法60条,246条1項
 科刑上一罪の処理     
     各偽造有印公文書の一括行使は,1個の行為が4個(第1,第2及び
第4の罪)又は2個(第3の罪)の罪名に触れる場合であり,各有印公
文書の偽造とその行使と詐欺との間には順次手段結果の関係があるの
で,刑法54条1項前段,後段,10条により結局以上を一罪として,
刑及び犯情の最も重い偽造有印公文書行使の罪の刑で処断する。
 併合罪の処理
 刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い第4の
罪の刑で処断)
 未決勾留日数の算入      刑法21条
 没     収刑法19条1項1号,2項本文
 訴 訟 費 用        刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 本件は,被告人が共犯者らと共に,B公庫の住宅新築資金の融資制度を悪用し
て,真実は融資を受けるのに必要な所得がないのにこれを水増しした内容の所得
証明書等を偽造するなどして同公庫に融資を申込み,住宅新築資金名下に現金を
詐取したという有印公文書偽造,同行使,詐欺の事案である。
 被告人は,勤務先の建設会社の売上げを上げたい,下請会社から礼金をもらい
たい,水増分から分け前を得たいなどの動機から,本件犯行を計画,実行したも
のであり,動機に酌量の余地はない。
 態様についてみるに,被告人は,建設会社の営業次長という本件犯行に欠かせ
ない役割を果たし得る地位にあったものである上,本件有印公文書の偽造等はい
ずれも被告人が行い,精巧に仕上げているほか,共犯者らが借入名義人として銀
行の担当者等に直接面談する際の要領を教示し,付き添いもするなど,その経験
や知識を駆使して,犯行目的を達成するため,終始重要な役割を果たしており,
被告人はその主犯と言える。また,常習的な犯行である点からも犯情は良くな
い。
 被告人らがB公庫から詐取した金額は,それぞれ約3000万円に及んでお
り,被害総額は大きい。
 被告人は,詐取した金額のうちから合計150万円を取得して借金の返済や遊
興費に費消した。
 本件各融資により取得された土地建物にはいずれもB公庫によって第1順位の
抵当権が設定されているものの,回収見込額は融資金額の3分の1程度にとどま
り,同公庫に与えた損害は大きく,被告人による弁償は何らされていない(加え
て,第1の犯行の物件はその後火災により消失)。
 本件は,住宅を取得しようとする国民に広く利用されているB公庫の融資制度
を悪用したものである点において,社会的影響も大きい。
 以上によれば,被告人の刑事責任を軽くみることはできない。
 他方,被告人は本件各犯行を認め,反省の情を示していること,将来少しずつ
でも被害弁償をしていく気持ちはあること,職に就いて働いてきたこと,姉が更
生への協力を誓っていること,被告人には前科がないことなど,有利な事情も認
められる。
 しかしながら,これらの有利な情状を考慮しても,前記のような情状に照らす
と,本件は刑の執行を猶予するのが相当な事案ではないので,以上の情状を総合
的に考慮して,主文のとおり量刑した。
(求刑 懲役5年,没収)
 平成15年4月23日
    福岡地方裁判所小倉支部第2刑事部
       裁判長裁判官   若  宮  利  信
    裁判官大泉一夫及び同五島真希は,転補のため署名押印することができ
ない。
       裁判長裁判官   若  宮  利  信
  

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激動の時代に
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