弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定を次のとおり変更する。
     一 抗告人青梅市は、青梅市議会が平成三年一〇月一八日設置した「教
育行政事務の調査に関する特別委員会」の平成五年二月一日に開催された第一〇回
特別委員会の会議要録のうち、相手方(参考人)に対する意見聴取に関する部分を
提出せよ。
     二 相手方のその余の申立てを却下する。
         理    由
 第一 抗告の趣旨及び当事者の主張
 一 抗告の趣旨
 1 原決定の第一項を取り消す。
 2 抗告人青梅市議会が平成三年一〇月一八日設置した「教育行政事務の調査に
関する特別委員会」の会議要録(同委員会に出頭した参考人等の尋問速記録を含
む。)についての相手方の文書提出命令の申立てを却下する。
 二 当事者の主張
 抗告人らの抗告の理由の要旨は別紙一記載のとおりであり、相手方の反論の要旨
は別紙二記載のとおりである。
 第二 当裁判所の判断
 一 本件訴訟及び文書提出命令の経過
 記録によると、次の経過が明らかである。
 1 相手方は、平成八年七月二四日、抗告人青梅市議会を除く抗告人らを被告と
して、損害賠償請求訴訟を提起した。その請求原因は、明確でないところもある
が、要するに、「1」抗告人Aら五名の議員(以下「抗告人Aら五名」という。)
は、通学費補助の運動に協力したB議員を吊し上げ、住民運動を攻撃するという党
利党略のために、青梅市議会に「教育行政事務の調査に関する特別委員会」(以下
「本件特別委員会」という。)を設置した、「2」相手方は、本件特別委員会に参
考人として出頭を求められ、抗告人A、同C、同Dらから受けた質疑により、相手
方の請願権、表現の自由、名誉・プライバシーを含む人格権や思想良心の自由など
を侵害された、「3」 抗告人青梅市ないし抗告人青梅市議会は、本件特別委員会
の調査の結果と異なる事実を「市議会だより」に掲載し、これを頒布した、などと
して、抗告人青梅市に対し国家賠償法により、抗告人Aら五名に対し民法(不法行
為)により、それぞれ損害賠償を求めるものである。
 2 相手方は、平成九年六月二三日、文書の所持者を「青梅市 担当機関 青梅
市議会議長」として、本件文書提出命令を申し立てたところ、原審裁判所は、青梅
市議会議長を審尋した上、平成九年一〇月八日、青梅市議会に対し、本件特別委員
会の会議要録全部の提出を命じた。
 二 本件特別委員会及びその会議要録
 1 (一) 普通地方公共団体の議会は、条例で特別委員会を置くことができる
(地方自治法一一〇条一項)。
 特別委員会は、当該普通地方公共団体の事務に関する調査のため必要があると認
めるときは、参考人の出頭を求め、その意見を聴くことができる(同条四項、一〇
九条五項)。
 また、青梅市議会委員会条例(昭和四五年条例第四〇号。以下「委員会条例」と
いう。)は、「特別委員会は、必要がある場合において議会の議決で置く。」(六
条一項)とし、委員は、出席した参考人に対して質疑をすることができる(二九条
三項、二七条一項)としている。
 (二) 記録によると、次の事実が認められる。
 抗告人青梅市議会(本会議)は、平成三年一〇月一八日、本件特別委員会の設置
を議決し、委員として抗告人Aら五名を含む八名を選任し、抗告人Aが委員長に選
任された。本件特別委員会は平成五年三月一五日までに合計一三回開催され、同月
一八日、本件特別委員会委員長の抗告人Aは、青梅市議会議長に対し、調査報告書
を提出した。
 そして、その間の平成五年二月一日に開催された第一〇回特別委員会において、
参考人として出席した相手方に対する意見聴取(質疑)が行われた。
 2 委員会に関し必要な事項は、地方自治法一〇九条ないし一一〇条に定めるも
のを除くほか、条例で定める(地方自治法一一一条)とされているところ、青梅市
議会の委員会の記録について、委員会条例三〇条一項は「委員長は、職員をして会
議の概要、出席委員の氏名等必要な事項を記載した記録を作成させ、これに署名ま
たは押印しなければならない。」とし、同条二項は「前項の記録は、議長が保管す
る。」と定めている。
 また、「青梅市議会申し合わせ事項」(平成四年二月二六日議会運営委員会決
定)は、「委員会…の会議録閲覧は、議員及び市職員に限って許可するものとす
る。」としている。
 三 本件特別委員会の会議要録の所持者
 <要旨第一>1 文書の提出義務を負う者は、文書の「所持者」である(民事訴訟
法二二〇条)。右の文書の「所持者」とは、文書の「保管者」と同義で
はなく、原則として、権利義務の主体たる人又は法人を指すと解される。このこと
は、裁判所は、文書提出命令に従わない者が当事者であれば、当該文書の記載に関
する相手方の主張を真実と認めることができる(同法二二四条一項)し、それが第
三者であれば過料に処する(同法二二五条)こと等によっても明らかである。した
がつて、国又は地方公共団体を当事者とする民事訴訟あるいは国家賠償請求訴訟に
おいても、原則として、権利義務の主体である国又は地方公共団体を文書の「所持
者」とすべきであって、当該文書を保管する内部機関を「所持者」とすべきではな
い(もっとも、抗告訴訟のように行政庁が訴訟の当事者となる場合には、別個の考
慮を必要とすることがあり得よう。)。
 2 そうとすると、本件特別委員会の会議要録は、青梅市議会議長が保管すべき
ものとされているが、文書の提出義務を負う文書の所持者は、抗告人青梅市とすべ
きであって、抗告人青梅市議会あるいは青梅市議会議長とすべきではない。
 抗告人らは、原決定が抗告人青梅市議会を本件特別委員会の会議要録の所持者と
認め、かつ、これを訴訟の第三者であるとして文書提出命令を発したことにつき、
文書の所持者が第三者であり、かつ、官公署であるときは、文書送付嘱託によって
文書の提出を求めるべきであって、文書提出命令の申立てをすることができないと
主張するが、右の主張自体説得力のあるものといえるか疑問である上、本件特別委
員会の会議要録の所持者は、右にみたように抗告人青梅市であるから、抗告人らの
右主張はその前提を欠き、いずれにしても採用することができない。
 四 文書提出義務の有無
 1 法律関係文書(民事訴訟法二二〇条三号後段)の該当性について
 (一) 民事訴訟法二二〇条三号後段の「文書が……挙証者と文書の所持者との
間の法律関係について作成されたとき」とは、当該法律関係そのものを記載した文
書に限らず、当該法律関係の構成要件事実の全部又は一部を記載した文書をも含む
ものと解するのが相当である。
 (二) 本件の場合、相手方の主張する前記一、1記載の法律関係は明確性を欠
くところもあるが、このうち「1」、「3」記載の事実は、そもそも本件全証拠に
よっても直ちに相手方自身の権利利益を侵害するものということはできず、本案訴
訟の証拠調べにより証明すべき事実ということはできない(ちなみに、本件文書提
出命令申立書の「三証すべき事実」欄には「本件百条委員会の調査活動の違法性」
と記載されている。)から、抗告人らが文書を提出する義務があるということも文
書を取り調べる必要があるということもできない。しかし、そのうち「2」記載の
事実は、これと本件の本案の事件記録に現れた事実関係を併せ考えると、相手方が
抗告人青梅市に対し国家賠償請求権を取得したことを主張する点において、相手方
(挙証者)と抗告人青梅市(文書の所持者)との間の法律関係に該当すると解すべ
きものである。そうすると、本件特別委員会の平成五年二月一日に開催された第一
〇回特別委員会の会議要録のうち相手方に対する参考人の意見聴取を記載した部分
は、前記法律関係について作成された文書であるということができるが、その余の
部分は右の法律関係について作成された文書であるということはできない(この判
断は、右の部分が民事訴訟法二二〇条三号前段にいわゆる利益文書に当するかどう
かについて認定判断を加えても、左右されない。)。
 2 内部文書の該当性
 (一) 抗告人らは、青梅市議会の委員会は原則として非公開であり、その会議
要録を公開すべきものではないから、本件特別委員会の会議要録も抗告人らが提出
義務を負わない内部文書あるいは自己使用のための文書であると主張する。
 <要旨第二>(二) (1) 民事訴訟法二二〇条三号には、「専ら文書の所持者
の利用に供するための文書」(同条四号ハ参照)について文書提出義務
を負わない旨の規定は置かれていないが、いわゆる利益文書ないし法律関係文書で
あっても、内部文書、自己使用文書に該当するものは文書提出命令の対象とならな
いと解するのが相当である。
 (2) よって検討するに、委員会は、議会の予備的な調査又は審査機関であっ
て最終的な意思決定機関ではないから、自由な雰囲気で十分な調査、審査が行われ
ることが望ましい、そこで、本会議と異なり(地方自治法一一五条一項)、委員会
条例一九条は、「委員会は、議員のほか、委員会の許可を得た者が傍聴することが
できる。」と定め(なお、前記「青梅市議会申し合わせ事項」は、「委員会の傍聴
は、許可することを原則とする。」としている。)、二〇条は、「委員会は、その
議決で秘密会とすることができる。」と定めて(秘密会の議事の記録は公表されな
い。青梅市議会会議規則一〇六条一項)、いわゆる制限公開制を採用しているが、
その反面として、委員会が審査又は調査を終えたときは議長へ報告書を提出するこ
ととしている(青梅市議会会議規則一〇三条)。そして、前記二、2記載のとお
り、委員会条例は、委員長は委員会の会議の概要等の記録を作成させることとして
いるが、委員会の議事のすべてを記録すべきものとはしておらず、また、「青梅市
議会申し合わせ事項」は、委員会の会議録の閲覧は、議員及び市職員に限って許可
することとされているが、これらは、通常、あえて委員会の会議要録を公開する必
要がないことによるものと解される。
 <要旨第三>しかし、本件特別委員会は地方自治法一一〇条によって設置された公
的な機関である上、結局秘密会とされたことはなかったし、その会議の
概要等は、市議会の議決等に役立てるために法令により組織として作成、保管が義
務づけられ、かつ、その利用が予定されていることにかんがみると、本件特別委員
会の会議要録をもって外部に公表することを予定しない内部文書であるということ
も自己使用の文書であるということもできない。
 五 抗告人らの弁論主義違反の主張等
 抗告人らは、(1) 本件特別委員会における相手方に対する質疑応答について
は、抗告人(被告)らが既に自白している、(2) 相手方が抗告人A、同C、同
Dら委員の故意過失及び相手方の損害等について具体的な事実を主張していないこ
とからも明らかなように、本件文書提出命令申立ては模索的証明を行おうとするも
のである、したがって、本件文書提出命令を発する必要はないにもかかわらず、本
件文書提出命令を発することは、相手方の主張しない事実を前提にする点及び自白
の拘束力に違反する点において、弁論主義に違反すると主張する。
 しかし、(1) 抗告人(被告)らが相手方の主張する質疑応答を認めたとして
も、本案の審理をする裁判所が抗告人(被告)らの責任の存否、相手方の精神的損
害の有無・程度を認定判断する上で、その具体的状況について審理する必要がある
ことは見易い道理であるから、抗告人らの挙げる理由をもって本件特別委員会の会
議要録の証拠調べの必要性を否定することはできない。また、(2) 相手方は、
故意過失及び損害等に関する事実を一応主張しているし、本件文書提出命令の申立
てが模索的証明を行うものと認めるに足りる証拠はない。
 その余の抗告人らの主張は、いずれもこれまでの説示と相容れないものであっ
て、採用することができない。
 六 結論
 以上によれば、抗告人青梅市が、本件特別委員会の平成五年二月一日に開催され
た第一〇回特別委員会の会議要録のうち相手方(参考人)に対する意見聴取に関す
る部分の提出義務を負うことは明らかである。原決定のうち右部分を越えて会議要
録の提出を命じた部分は相当でないから、取消しを免れない。
 なお、原決定は、右文書の所持者を第三者である青梅市議会(抗告人)とした
が、さきに説示したとおり、青梅市議会は青梅市の一機関であるから、相手方の文
書の所持者についての前記申立てに対応して、原決定の文書提出義務者を抗告人青
梅市に更正するのが相当である。
 よって、主文のとおり原決定を変更する。
 (裁判長裁判官 増井和男 裁判官 岩井俊 裁判官 高野輝久)
別 紙 1
<記載内容は末尾1添付>
別 紙 2
<記載内容は末尾2添付>

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