弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件各公訴事実中、原判決が罪となるべき事実として引用している昭和
五三年八月八日付起訴状記載の窃盗罪並びに同年一〇月六日付追起訴状記載の第一
の住居侵入罪、同第三の窃盗罪、同第四の各詐欺罪、同第五の業務上過失傷害罪、
同第六の無免許運転罪及び同第七の救護義務違反罪につき、被告人を懲役一年六月
に処する。
     原審における未決勾留日数中六〇日を右刑に算入する。
     本件各公訴事実中、原判決が罪となるべき事実として引用している昭和
五三年一〇月六日付追起訴状記載の第二の窃盗の罪につき、被告人に対し、刑を免
除する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、被告人及び弁護人中村義正が各提出した控訴趣意書にそれぞ
れ記載されたとおりであるから、これらを引用する。
 まず、被告人の控訴趣意及び弁護人の控訴趣意中二(事実誤認ひいては法令適用
の誤の主張)について検討するに、所論はいずれも、被告人は原判決の引用にかか
る昭和五三年一〇月六日付追起訴状記載の第二の窃盗罪(以下、「本件窃盗罪」と
いう。)の犯人であるが、その犯行当時、その被害者三名(A、B及びC)と被告
人とは同居の親族の関係にあつたから、本件窃盗罪については、刑法二四四条一項
前段により刑の免除の判決がなされるべきであるのに、右被害者三名と被告人との
間の前記関係を認めず、本件窃盗罪につき右規定を適用しなかつた原判決には、判
決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認ひいては法令適用の誤があるというの
であるが、一件記録を精査検討してみると、原判決挙示の関係各証拠によれば、被
告人が本件窃盗罪の犯人であること、すなわち、被告人が昭和五三年七月一九日午
前九時三〇分ころ千葉県市原市ab番地の一所在のDアパートの二階二号室(Eが
借用中の居室。以下、「本件居室」という。)において、A所有のカメラ一台(時
価五万円相当)及び、バツグ一個(時価約五千円相当)、B所有のカメラ一台(時
価約二万円相当)及び現金二千円並びにC(以上の三名を、以下、「本件被害者」
という。)所有の現金約九千円を窃取したことが明らかであるところ、原審で取り
調べられた関係各証拠、すなわち、Eの司法警察員に対する供述調書、司法巡査F
作成の実況見分調書、被告人の司法警察員に対する昭和五三年八月二四日付(一二
枚綴りのもの)及び同年九月二一日付並びに検察官に対する同月二八日付各供述調
書と当審における事実の取調べの結果、すなわち、検察事務官作成の報告書二通、
稚内市長作成の戸籍謄本二通、新潟県佐渡郡金井町長作成の除籍謄本、北海道天塩
郡豊富町長作成の除籍謄本、証人Cに対する当裁判所の尋問調書並びに証人E及び
被告人の当公判廷における各供述とを合わせて検討すると、被告人と本件被害者と
は従兄弟(Aと同Bとは、いずれも被告人の母の実兄であるGの実子であり、C
は、被告人の母の実妹であるHの実子である。)の関係にあり、Eは、Cの実父で
あつて、本件居室を賃借して本件被害者を同室に居住させていたものであるが、被
告人の母からの依頼により、昭和五三年五月中旬ころ被告人を手許に引き取り、そ
れ以来被告人を本件居室に住まわせ、被告人においても、じ来同室を自己の唯一の
生活の本拠とし、同室において本件被害者と起臥飲食を共にし、かつ、E輩下の大
工として本件被害者と共に働いていたところ、同年七月一六日未明、前記Dアパー
トのすぐ近くにあるI方に侵入し(原判決引用の前記追起訴状記載の第一事実)、
右Iの妻に騒がれて本件居室に逃げ帰つたのであるが、I方に被告人の指紋が残さ
れているため、右住居侵入は自己の犯行であることが早晩発覚するであろうとおそ
れ、逮捕されたくないとの念から、取り敢えず同アパートを離れて善後策を講ずる
べく、同日午前一〇時三〇分ころ、Eや本件被害者に無断で、着のみ着のままの姿
で、すなわち被告人所有の身の廻り品全部を本件居室に残したまま、同アパートか
ら逃げ出し、その後は帰室したいと考えつつも帰室すれば逮捕されるとのおそれか
ら帰室をためらい、千葉市や市原市姉ケ崎の安宿を転々とするうち、同月一八日の
夜になつて、母親が住む札幌市に帰ろうという気になつたけれども、これを実行す
るためには、本件居室に置いたままの身の廻り品を持ち出すために帰室しなければ
ならないとか、兎に角一旦帰室したうえで最終的な意思決定をしょうとか、その際
にはEに身の振り方を相談しようとか、あれこれ思いをめぐらし、かくて翌一九日
午前九時三〇分ころ、本件居室に立ち戻つたが、その時点において、Eも本件被害
者も既に稼働のため出掛けてしまつていたので、被告人は、Eや本件被害者に無断
で札幌に帰つてしまおうと決意し、本件居室においてあつた被告人所有の身の廻り
品全部を自己のスーツケースに詰めて持ち出したが、その際旅費作りのために本件
居室内にある本件被害者所有の金品を盗み出そうと考え、もつて、本件窃盗罪を犯
したものであり、他方、E及び本件被害者は、I方への前記住居侵入の事犯があつ
た後、間もなく、右事件を知り、この犯人が、あるいは被告人ではあるまいかとの
疑念を抱きはしたものの、被告人の身の廻り品一切が本件居室に置かれたままにな
つていることとか、被告人においてこれまで無断外泊することがあつたことから、
被告人が同月一六日以降帰室しないのは、単なる無断外泊ではないかとも考え、右
の疑念を打ち消しつつひたすら被告人の帰室をまち、ことにEにおいては、被告人
か立ち帰り次第前記侵入事件につき事実を糺すとともに被告人の身の振り方につい
て種々配慮しようとの心境にあつたものであり、本件被害者もEも、同月一九日の
夕方、仕事先から帰室し本件被害者の所有物件を前述のとおり被告人が盗んだこと
を知るまでは、被告人との従前の生活関係を解消する意思を全く有しておらず、か
つ、被告人が本件窃盗罪を犯したときまでは、被告人の動静や心情につき何ら情報
を得ていなかつたのであるが、被告人が早晩本件居室に立ち戻り、同居関係を継続
するであろうと期待し、その際にはこれを迎え入れてやろうと考えていたことが認
められ<要旨>るところ、刑法二四四条一項前段にいわゆる同居の親族とは、犯人と
事実上居を同じくして日常生活をしてい</要旨>る親族をいうのであるが、右認定
のごとく、親族とそれまで同居関係を続けていた被告人が、逮捕を免れるために、
同居者に無断で同居場所を出て僅僅三日間、住居を定めず転々と身を隠していたの
ち、右場所に立戻り、同居者不在の間に被告人の所有物品を持ち出した際その親族
の金品を窃取した場合、たとえ被告人において、右同居場所に立ち戻つたとき、右
同居場所から確定的に退去する意思を抱いたとしても、右窃取の時点においては、
被害者側においても被告人が早晩右同居場所に立ち戻り、同居関係を継続するであ
ろうと期待し、その際にはこれを迎え入れてやろうと考えていた以上、本件窃盗罪
発生の段階においては、いまだその親族との同居関係が解消されていないと解する
のが相当であり、してみれば、本件窃盗罪については、窃盗犯人たる被告人と本件
被害者との間に、刑法二四四条一項前段の適用を受ける同居の親族関係があつたと
してその刑を免除すべきであるにかかわらず、右同居関係を看過し、本件窃盗罪に
ついても、その余の原判示の各罪と共に併合罪の処理をして原判決主文の刑の言渡
しをした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認ひいては法令
の適用の誤があるから、本件控訴趣意中、弁護人の量刑不当の論旨に対する判断を
するまでもなく、原判決は、すでにこの点において破棄を免れない。論旨は理由が
ある。
 よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八二条、三八〇条により原判決を破棄し、
同法四〇〇条但書により、当裁判所において、更に次のとおり自判する。
 (本件各公訴事案中、原判決が罪となるべき事実として引用している昭和五三年
八月八日付起訴状記載の罪並びに同年一〇月六日付追起訴状記載の第一及び第三な
いし第七の各罪について)
 原判決が確定した各事実に原判決挙示の各法条を適用して、刑期及び犯情が最も
重い昭和五三年八月八日付起訴状記載の窃盗の罪の刑に併合罪の加重をした刑期の
範囲内において、後記情状を考慮して被告人を懲役一年六月に処し、刑法二一条に
より原審における未決勾留日数中六〇日を右本刑に算入し、原審及び当審における
訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないことと
する。
 量刑上考慮した事情(省略)
 (本件各公訴事実中、原判決が罪となるべき事実として引用している昭和五三年
一〇月六日付追起訴状記載の第二の窃盗罪について)
 原判決が確定した事実は、刑法二三五条に該当するが、前述のとおり、これは、
同居の親族の間において犯した窃盗罪であるから、同法二四四条一項前段により被
告人に対し、その刑を免除することとする。
 よつて、主文のとおり判決をする。
 (裁判長裁判官 山本卓 裁判官 藤原昇治 裁判官 雛形要松)

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