弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人上田誠吉、同山田一夫、同橋本敦、同細見茂の上告趣意第一点ないし第四
点について
 昭和四二年法律第一一号による改正前の関税法一一八条二項の規定が所論のよう
な理由により憲法三一条、三六条、、二九条に違反するものでないこと及びいわゆ
る差額関税の逋脱事件である本件について関税法の右規定にしたがい輸入貨物全体
の価格に相当する金額を追徴した原判決が所論のような理由により憲法三六条、二
九条、三一条に違反するものでないことは、当裁判所の判例又はその趣旨とすると
ころであるから(昭和四一年(あ)第八〇九号同四五年一〇月二一日大法廷判決・
刑集二四巻一一号一四八〇頁、昭和三七年(あ)第一二四三号同三九年七月一日大
法廷判決・刑集一八巻六号二九〇頁、昭和三一年(あ)第三四三七号同三三年三月
一三日第一小法廷判決・刑集一二巻三号五二七頁、昭和三四年(あ)第一五八二号
同三五年二月一八日第一小法廷判決・刑集一四巻二号一五三頁参照)、所論はいず
れも理由がない。
 同第五点について
 所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらな
い。
 なお、所論にかんがみ職権をもつて判断するに、昭和四一年法律第三七号による
改正前の関税定率法四条三項にいう「最近に輸入港に到着した」とは、当該輸入申
告の時に最も近い日に輸入港に到着したことをいうと解すべきであるが、昭和四一
年一月一四日から同年三月二九日までの間前後一一回にわたつて輸入申告の行われ
た本件貨物の通常の運賃については、これを同年一月初めから同年三月末までの同
種又は類似の貨物の輸入実績に現われた運賃に基づいて決定することも違法ではな
いと解するのが相当である。
 同第六点について
 所論は憲法三一条違反をいうが、関税法一三八条一項但書一号の規定が所論の趣
旨で不明確であるとは認められず、また、右規定がその適用上所論のような矛盾、
不合理を招来するとも認められないから、所論は、前提を欠き、適法な上告理由に
あたらない。
 同第七点について
 所論は憲法一四条、一九条違反をいうが、記録によると、本件につき税関長が通
告処分をすることなく直ちに検察官に告発したことに違法はないと認められるから、
所論は、すでにこの点において前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。
 よつて、刑訴法四〇八条により、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官団藤重光の上告趣意第四点についての補足意見、裁判官藤崎
萬里の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官団藤重光の上告趣意第四点についての補足意見は、次のとおりである。
 罪刑の均衡は、法定刑と宣告刑と、また、本刑と附加刑とを問わず、憲法三一条
の適正手続条項によつて要請されるところであつて、不均衡に重い刑罰は、極端な
ばあいにおいては、憲法三六条によつて絶対に禁止される「残虐な刑罰」にさえあ
たるものとして違憲とされなければならないであろう。
 ところで、本件で問題となつている昭和四二年法律一一号による改正前の関税法
一一八条一項・二項によれば、同法一一〇条(本件犯罪事実は同条一項一号前段に
該当する。)の犯罪に係る貨物は必要的な没収の対象とされ、もしこれを没収する
ことができないときは、その価格に相当する金額を必要的に追徴するものとされて
いた。右改正による新規定では没収の対象物件を輸入制限貨物等にかぎることにな
つたが、旧規定にはこのような限定がなかつたため、逋脱税額との対比において対
象貨物の価格が不均衡に高額であるばあいに、必要的な没収・追徴が時に非常識と
もいうべき結果を生じることがあつたのである。本件は、まさしく、このような事
例のひとつであつた。
 したがつて、第一審判決が「いわば超法規的(広義の)刑罰阻却事由があるもの
として」「残虐な刑罰を禁じている憲法三六条の規定の精神と法の基底とする正義
と衡平の理念に照らし」被告人らに本件追徴を科しないものとしたことも、その趣
旨を理解することができないわけではない。原判決は「超法規的刑罰阻却事由」の
理論は三権分立のたてまえからも許容されないものとするが、解釈上の根拠がある
かぎり超法規的な処罰の阻却もありうることは、すでに名古屋中郵事件に対する当
裁判所大法廷判決も認めているところである(昭和四四年(あ)第二五七一号同五
二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁、とくに二〇七頁以下)。
 しかし、ひるがえつて考えると、前記改正は本件にみられるような不都合な事態
が生じることを避けるために行われたものであり、しかも、立法者が改正規定の効
力を遡及させることができたのにかかわらず(刑法六条参照)、とくにこれを遡及
させないこととしたのは(前記改正法律附則八条)、おそらく改正規定の遡及適用
によつてすでに判決や通告処分の確定した事件とのあいだにかえつて不公平を生じ
るであろうことをも考慮したものと臆測される。そうすると、第一審判決のいわゆ
る「正義と衡平の理念」からいつても、第一審判決の結論が正しいとはいえないの
である。しかも、本件事案を具体的に点検すると、被告人らの犯罪の情状はかなら
ずしもそれほど軽いわけではなく、関税法における一般予防の必要性をも考慮する
ときは、単に逋脱税額と追徴額の対比だけをみて罪刑の極端な不均衡があるとまで
はいえないとおもわれる。上告趣意第四点は、結局において理由がないものという
べきである。
 裁判官藤崎萬里の反対意見は、次のとおりである。
 上告趣意第四点について団藤裁判官がその補足意見で述べておられるところは、
原判断を支持する立場の説明として委曲を尽くしているが、私はなお多数意見の結
論に賛同することができず、原判決を破棄すべきであると考えるものであつて、そ
の理由は次のとおりである。
 昭和四二年法律第一一号による改正前の関税法一一八条は、そこに定められてい
る特別の場合以外は必ず没収又は追徴すべきことを定めているものと解するほかな
いであろうが、そのように解釈する限り、たとえ没収・追徴を科するとすれば懲罰
として過酷になることが明らかな場合にもなおこれを科することにならざるをえな
い。しかるに、一般に過酷な刑罰を科することは、日本国憲法三一条及び三六条の
根底にある罪刑均衡の理念に反する。そうすると、関税法の右規定を適用する結果
として憲法の趣旨に反する場合がありうることを認めざるをえないであろう。この
ような場合には、関税法の右規定をそのまま適用することは憲法に違反することに
なるといわなければならない。本件は、まさにそのような場合にあたると考える。
すなわち、本件の場合、追徴は被告人から不正な利益を剥奪するためであるとはい
えないから、懲罰のためであるというほかないが、それが懲罰として過酷であるこ
とは、一、二審とも認めているとおりである。そうだとすると、本件において関税
法の右規定を適用して追徴を科した原判決には、違憲のかどがあるとしなければな
らない。(なお、本件において追徴を科することができないとすると、過酷でない
程度の没収・追徴を科される他の事件の場合と釣合がとれないこととなるが、それ
は法律の規定からくるやむをえない帰結であり、そのような不釣合の解消は、部分
的、割合的な没収・追徴を可能ならしめるような立法措置にまつほかないであろう。)
  昭和五六年四月三〇日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    谷   口   正   孝

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