弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由第一点について。
 論旨は、本件選挙の開票にあたり、開票管理者(選挙長)および選挙立会人が投
票の大部分について点検を行わず、かつ投票の効力決定につき開票管理者が立会人
の意見を聴かなかつた事実をもつて、選挙無効の自由と認めなかつた原判決の判断
を非難し、法律の解釈を誤つたものというにある。
 原判決が各証拠および弁論の全趣旨に基づいて確定したところによれば、本件選
挙の開票手続は、開票台で開披された投票を直接五名の得票計算係のもとに回送し、
同係において点検した結果、効力に疑問のある分についてのみ選挙長外三名の開票
兼選挙立会人のもとに回付し、右計算係において有効と認めた票は、そのまま有効
票として逐次計算に組入れることにして行なわれたというのである。もとより、開
票管理者、立会人はその職務のため補助者を用いることは許されるにしても、各立
会人は少くとも全投票にわたつて自由に点検し、投票の効力につき意見を表示する
機会をもち、管理者は全投票にわたつて投票の効力決定を行ない、各候補者の得票
数を確認しなければならないから、その職務の全部または一部を補助者に一任する
ことは法の認めないところと解すべきである。従つて、本件開票において計算係の
有効と認めた投票について立会人にこれを回付せず、その点検に関与せしめず、管
理者もこれら投票の効力を自ら決定せず、その投票数の計算に関与しなかつたのは、
たとえそれらの投票が有効票であることが明白であるものとしても、なお選挙の管
理執行に関する公職選挙法六六条二項末段、六七条の規定に違反することは、所論
のとおりである。
 しかし、原判決は、本件選挙がa町議会議員一般選挙と同時選挙であり、開票も
共になされた関係から、開票管理者兼選挙長は開票事務を迅速にする意図から右異
例の措置をとつたものであり、ほかに何らの他意なかつたものである旨、得票計算
係の席と選挙長および右立会人らとの席とは無効投票整理係の席を間にはさんで開
票台を鍵状に囲む位置にあり、投票計算係と無効投票整理係および無効投票整理係
と選挙長、立会人らの各席のそれぞれの距離は、いずれも一米前後であつた旨、右
立会人らよりかかる開票措置につき何らの異議申立がなかつた旨、右開票措置の状
況においても立会人らは投票を点検してその意見を述べる機会を有していた旨、本
件選挙が一選挙区一開票区で、その総投票数は五、九四〇票であるが、検証の結果
によつても全投票が投票当時の状態においてそのまま保管されており、投票の結果
を容易かつ明確に判定しうる状況にあつた旨、所論開票管理者の職権濫用の事実は
認められず、投票に対する所論不正工作の虞のなかつた旨を認定判断しており、そ
の認定判断は原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できないことはない。右の如き
事実関係のもとにおいては、本件開票および投票の効力決定に関する前示手続上の
瑕疵は、未だもつて全投票の無効を招来するほど重大なものではなく、本件選挙が
公正を欠き選挙の結果に異動を及ぼす虞ある場合にあたらないとした原審の判断は
是認でき、原判決には所論の違法は認められない。所論引用の判例は、本件と事案
を異にし適切でなく、論旨は採用できない。
 同第二点について。
 論旨は、予備的請求である本件当選訴訟において、原判決が「A政美」、「A(
原文は平仮名)まさみ」等と記載された投票一二票を、本件選挙と同時に施行され
た町議会議員選挙の候補者A政美の氏名を書したものとして無効と判断したのを失
当とし、これを本件選挙の候補者A正次の名の誤記として同人の得票と認むべきも
のと主張する。
 しかし、右一二票の投票が同時施行の町議会議員選挙の候補者A政美の氏名と完
全に一致する以上、たとえ所論のようにA正次の名の誤記と推認しうべき事情があ
るとしても、右一二票のうちそのいずれが右正次に投票する意思によつてなされた
ものか不明であり、これら投票は右正次に対する投票か政美に対する投票か判定し
えないものであるから、原判決が、たとえ原告ら(上告人ら)主張の事由があると
しても、右投票はA政美の氏名を書したものとしてこれを無効とすべきものである
とした判断は、結局正当であり(昭和三二年(オ)第一九三号同三二年五月二四日
第二小法廷判決民集一一巻五号七四五頁参照)、原判決には所論違法は認められな
い。従つて、論旨は理由がない。
 同第三点について。
 論旨第三点その一は、原審の当選訴訟においてなんら主張されず、従つて原審に
おいて判断を経ていない事項であるから、適法な上告理由とすることは許されない。
また、同その二は、上告人らが原審に提出した甲第八号証の一ないし七、甲第九号
証は紛失されたのに、その資料を欠缺したまま判決したのは判決に影響及ぼすべき
違法であると主張するのであるが、記録によれば右甲号証は昭和三九年二月二九日
原審の第三回口頭弁論期日に提出され、原審は証拠調を行ない被上告人に認否せし
めているのであり、原判決の事実摘示にも右書証の提出を記載しており、しかも右
第三回口頭弁論期日以後結審にいたるまで原審の裁判所の構成にも変更がなかつた
のであるから、原判決言渡後、原審から右書証の写の提出を求められた事実がある
からといつて、そのことだけで、右書証が原判決の資料に供せられなかつたという
ことはでない。のみならず、これら資料によつてもA政美と記載された投票をA正
次の名の誤記とし、これを同人の得票とする上告人ら主張は認められないことは、
すでに論旨第二点について説示したとおりであるから、論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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