弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原判決中当事者参加人らの地上権設定仮登記の抹消登記手続請求に
関する部分を破棄し、第一審判決中右請求に関する部分を取り消す。
     二 当事者参加人らの右請求を棄却する。
     三 上告人のその余の上告を棄却する。
     四 訴訟の総費用は、上告人及び被上告人神社について生じた分を上告
人の負担とし、当事者参加人について生じた分を四分し、その三を上告人の、その
余を当事者参加人らの各負担とする。
         理    由
 上告代理人奥野健一、同伊豆鉄次郎、同早瀬川武の上告理由第一点について
 入会部落の構成員が入会権の対象である山林原野において入会権の内容である使
用収益を行う権能は、入会部落の構成員たる資格に基づいて個別的に認められる権
能であつて、入会権そのものについての管理処分の権能とは異なり、部落内で定め
られた規律に従わなければならないという拘束を受けるものであるとはいえ、本来、
各自が単独で行使することができるものであるから、右使用収益権を争い又はその
行使を妨害する者がある場合には、その者が入会部落の構成員であるかどうかを問
わず、各自が単独で、その者を相手方として自己の使用収益権の確認又は妨害の排
除を請求することができるものと解するのが相当である。これを本件についてみる
と、原審が適法に確定したところによれば、当事者参加人らは、本件山林について
入会権を有するa部落の構成員の一部であつて、各自が本件山林において入会権に
基づきその内容である立木の小柴刈り、下草刈り及び転石の採取を行う使用収益権
を有しているというのであり、右使用収益権の行使について特別の制限のあること
は原審のなんら認定しないところであるから、当事者参加人らの上告人及び被上告
人神社に対する右使用収益権の確認請求については、当事者参加人らは当然各自が
当事者適格を有するものというべく、また、上告人に対する地上権設定仮登記の抹
消登記手続請求についても、それが当事者参加人らの右使用収益権に基づく妨害排
除の請求として主張されるものである限り、当事者参加人ら各自が当事者適格を有
するものと解すべきである。これと同旨の原審の判断は正当であつて、その過程に
所論の違法はない。所論引用の判例は、入会部落の構成員の一部の者が入会部落民
に総有的に帰属する入会権そのものの確認及びこれに基づく妨害排除としての抹消
登記手続を求めた場合に関するものであつて、事案を異にし本件に適切でない。
 しかしながら、職権をもつて、当事者参加人らの請求中本件山林について経由さ
れた地上権設定仮登記の抹消登記手続請求の当否について検討するに、当事者参加
人らが有する使用収益権を根拠にしては右抹消登記手続を請求することはできない
ものと解するのが相当である。けだし、原審が適法に確定したところによれば、当
事者参加人らが入会部落の構成員として入会権の内容である使用収益を行う権能は、
本件山林に立ち入つて採枝、採草等の収益行為を行うことのできる権能にとどまる
ことが明らかであるところ、かかる権能の行使自体は、特段の事情のない限り、単
に本件山林につき地上権設定に関する登記が存在することのみによつては格別の妨
害を受けることはないと考えられるからである。もつとも、かかる地上権設定に関
する登記の存在は、入会権自体に対しては侵害的性質をもつといえるから、入会権
自体に基づいて右登記の抹消請求をすることは可能であるが、かかる妨害排除請求
権の訴訟上の主張、行使は、入会権そのものの管理処分に関する事項であつて、入
会部落の個々の構成員は、右の管理処分については入会部落の一員として参与しう
る資格を有するだけで、共有におけるような持分権又はこれに類する権限を有する
ものではないから、構成員各自においてかかる入会権自体に対する妨害排除として
の抹消登記を請求することはできないのである。しかるに、原審は、なんら前記特
段の事情のあることを認定することなしに、当事者参加人らが入会権の内容として
有する使用収益権に特別の効力を認め、右使用収益権はその法的効力においてはい
わば内容において限定を受けた持分権又は地上権と同様の性質を持つものと解した
うえ、当事者参加人らは、右各自の使用収益権に基づく保存行為として本件山林に
ついて経由された地上権設定仮登記の抹消登記手続を請求することができるものと
判断しているのであつて、右判断には、入会権に関する法律の解釈適用を誤つた違
法があるものといわなければならず、右違法が原判決中右抹消登記手続請求に関す
る部分に影響を及ぼすことは明らかである。
 したがつて、論旨は、理由がなく、採用の限りでないが、原審が当事者参加人ら
の請求中本件山林について経由された地上権設定仮登記の抹消登記手続請求を認容
したことは失当であるから、原判決中右請求に関する部分を破棄し、第一審判決中
右請求に関する部分を取り消し、右請求を棄却すべきである。
 同第二点について
 記録によれば、所論の主張は、本件山林が被上告人神社の所有であつて同神社は
上告人との間で適法かつ有効に地上権設定契約を締結したことを強調する趣旨に出
たものにとどまり、独立の抗弁として主張する趣旨と解することはできないから、
原審が所論の主張について判断を加えていないからといつて所論の違法があるとは
いえない。のみならず、記録によれば、当事者参加人らは、上告人主張の地上権設
定契約は本件山林について処分権限のない被上告人神社との間で締結された無効な
ものであると主張して民訴法七一条に基づき本件訴訟に当事者として参加し、上告
人及び被上告人神社の双方に対し、右地上権設定契約に基づく上告人の請求とは両
立しえない請求をしていることが明らかであつて、本件山林はその実質においては
a部落の総有であつて被上告人神社はなんらの処分権限を有しないものとして当事
者参加人らの入会権の内容である使用収益権の確認請求を認容する限り、右地上権
設定契約を有効なものと認めて上告人の被上告人神社に対する請求を認容すること
は、論理的に不可能であるといわなければならない。そうとすれば、たとえ所論の
ように、被上告人神社には上告人との関係で右地上権設定契約の無効を主張するこ
との許されない特段の事情があるとしても、処分権限のない被上告人神社が締結し
た右契約を有効なものと認めて上告人の請求を認容する余地はないから、仮に原審
において所論の主張がされていたにもかかわらず原審がこれについての判断を遺脱
したものであるとしても、右は判決の結論に影響を及ぼすものではないというべき
である。論旨は、結局、採用することができない。
 同第三点について
 原審が確定したところによれば、本件山林について被上告人神社名義に所有権移
転登記が経由されたのは、入会部落であるa部落が独立の法人格を有せず、払下げ
を受けるにあたつて部落有地としての登記方法がなかつたためやむをえず行つたも
ので、所有権の信託的譲渡があつたものではない、というのであり、右事実は原判
決挙示の証拠関係に照らし正当として是認することができる。もつとも、右事実に
よれば、被上告人神社に対する右所有権移転登記が入会権者であるa部落民の承諾
を得て経由されたものであることを否定することはできないが、入会権については
現行法上これを登記する途が開かれていないため(不動産登記法一条参照)、入会
権の対象である山林原野についての法律関係は、登記によつてではなく実質的な権
利関係によつて処理すべきものであるから、本件山林について被上告人神社名義に
所有権移転登記が経由されていることをとらえて、入会権者と被上告人神社との間
で仮装の譲渡契約があつたとか又はこれと同視すべき事情があつたものとして、民
法九四条二項を適用又は類推適用するのは相当でないものというべきである(最高
裁昭和四二年(オ)第五二四号同四三年一一月一五日第二小法廷判決・裁判集民事
九三号二三三頁)。右と結論を同じくする原審の判断は正当として是認することが
できる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、採用するこ
とができない。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、九三条、九
二条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    本   山       亨
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    谷   口   正   孝

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