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平成29年8月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成28年(ワ)第4167号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成29年6月20日
判決
原告株式会社MTG5
同訴訟代理人弁護士關健一
同訴訟代理人弁理士小林徳夫
被告ベノア・ジャパン株式会社
同訴訟代理人弁護士横清貴
同冨宅恵10
同西村啓
同補佐人弁理士森田拓生
同髙山嘉成
主文
1原告の請求を棄却する。15
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成28年5月11日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。20
第2事案の概要等
1事案の要旨
本件は,発明の名称を「美肌ローラ」とする発明に係る特許権を有する原告が,
被告が業として販売するなどするローラーが当該発明の技術的範囲に属するとして,
被告に対し,不法行為(特許権侵害)に基づき,被告が得た利益の額に相当する損25
害金1億8000万円と弁護士費用相当額1800万円の合計額の一部として損害
賠償金1億円及びこれに対する不法行為の後の日である平成28年5月11日(訴
状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払を求める事案である。
2前提事実
(1)当事者(争いのない事実)5
原告は,美容機器等の企画,製造を目的とする株式会社である。被告は,美容器
具,健康器具等の販売等を目的とする株式会社である。
(2)原告の有する特許権(争いがない)
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,これに係る特許を「本件特許」
という。)の特許権者である(本件特許の請求項1に係る発明を「本件発明1」,10
請求項2に係る発明を「本件発明2」,請求項3に係る発明を「本件発明3」とそ
れぞれいい,本件発明1ないし3を併せて「本件各発明」という。)。本件特許の
出願願書に添付された明細書及び図面(以下,これらをまとめて「本件明細書」と
いう。)の記載は,別紙「特許公報」のとおりである。
特許番号第5230864号15
発明の名称美肌ローラ
出願日平成19年12月14日
登録日平成25年3月29日
特許請求の範囲別紙「特許公報」記載のとおり
(3)構成要件の分説(争いがない)20
本件各発明を構成要件に分説すると,それぞれ以下のとおりである。
ア本件発明1
1A柄と,
1B前記柄の一端に導体によって形成された一対のローラと,
1C生成された電力が前記ローラに通電される太陽電池と,を備え,25
1D前記ローラの回転軸が,前記柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設け
られ,
1E前記一対のローラの回転軸のなす角が鈍角に設けられた,
1F美肌ローラ。
イ本件発明2
2A導体によって形成された一対のローラと,5
2B前記一対のローラを支持する把持部と,
2C生成された電力が前記ローラに通電される太陽電池と,を備え,
2D前記ローラの回転軸が,前記把持部の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ,
2E前記一対のローラの回転軸のなす角が鈍角に設けられた,
2F美肌ローラ。10
ウ本件発明3
3A前記ローラが金属によって形成されていることを特徴とする,
3B請求項1又は2に記載の美肌ローラ。
(4)被告の行為
アローラーの販売(以下の限度では争いのない事実である。)15
被告は,少なくとも,本件特許の登録日である平成25年3月29日以降,別紙
「被告製品目録」記載1のローラー(以下「被告製品1」という。)及び同記載2
のローラー(以下「被告製品2」といい,被告製品1と併せて「被告各製品」とい
う。)を業として販売していたことがある。
イ被告各製品の構成(争いのない事実)20
被告製品1の構成は別紙「被告製品1説明書」,被告製品2の構成は別紙「被告
製品2説明書」各記載のとおりである。
被告各製品のローラは,導体ではない樹脂で形を作り上げられているものの,表
面に金属メッキを施す(1b,2b参照)ことで導電性を獲得している。また,被
告各製品の太陽電池によって生成された電力は,ローラに通電されるだけでなく,25
ハンドルにも通電される(1c,2c参照)。
ウ構成要件の充足(以下の限度では争いがない)
(ア)被告製品1
被告製品1は,本件発明1の構成要件1B及び1C以外の構成要件を,本件発明
2の構成要件2A及び2C以外の構成要件をそれぞれ充足する。
(イ)被告製品25
被告製品2は,本件発明1の構成要件1B及び1C以外の構成要件を,本件発明
2の構成要件2A及び2C以外の構成要件をそれぞれ充足する。
3争点
(1)技術的範囲の属否(争点1)
ア被告各製品が「導体によって形成された…ローラ」(構成要件1B及び10
2A)を充足するか(争点1-1)
イ被告各製品が「生成された電力が…ローラに通電される」(構成要件1
C及び2C)を充足するか(争点1-2)
ウ被告各製品が「ローラが金属によって形成されている」(構成要件3A)
を充足するか(争点1-3)15
(2)無効理由(乙24発明を主引例とする進歩性欠如)の存否(争点2)
本件各発明は,当業者が本件特許の出願日前に頒布された特開2005-663
04号公報(以下「乙24公報」という。)に記載された発明(以下「乙24発明」
という。)に,特開2002-65867号公報(以下「乙25公報」という。),
昭60-2207号公報(以下「乙26公報」という。)及び昭61-7364920
号公報(以下「乙27公報」という。)に各記載された技術,特開平4-2319
57号公報(以下「乙28公報」という。)に記載された発明(以下「乙28発明」
という。)の構成,特開2004-321814号公報(以下「乙29公報」とい
う。)に記載された発明(以下「乙29発明」という。)の構成,大韓民国登録意
匠30-0399693号公報(以下「乙30の1公報」という。)に記載された25
意匠(以下「乙30意匠」という。)の構成又は中華民国M258730号公報
(以下「乙31の1公報」という。)に記載された考案(以下「乙31考案」とい
う。)の構成のいずれかを適用することによって容易に発明をすることができたか。
(3)本件特許権侵害による損害額(争点3)
4争点に関する当事者の主張
(1)争点1-1(「導体によって形成された…ローラ」〔構成要件1B及び25
A〕の充足性)について
(原告の主張)
太陽電池により生成した電流をローラに通電することにより,ローラが帯電し,
毛穴の汚れを引き出し,さらに美肌効果をもたらすという本件明細書の記載(【0
014】,【0018】,【0026】,【0030】)に照らせば,ローラは,10
太陽電池により生成した電流が通電でき,ユーザの肌に接触する表面に帯電できれ
ばよい。したがって,「導体によって形成された…ローラ」には,導体ではない部
材で形を作り上げられていても,表面に金属メッキを施すことで導電性,帯電性を
獲得できるローラも含まれる。ローラを導体である金属によって「形成」する場合
に選択することが望ましいとして例示されている金属の中に,非常に高価な貴金属15
であることからローラの形を作り上げる部材として選択するとは考えられない「プ
ラチナ」が含まれているという本件明細書の記載(【0013】)もまた,上記解
釈を基礎付けるものである。
したがって,被告各製品の構成(1b,2b)は,本件発明1の構成要件1B及
び本件発明2の構成要件2Aを充足する。20
(被告の主張)
特許請求の範囲に記載されている「形成」という文言が「形を作り上げる」とい
う意味を有すること(乙18ないし20)に照らせば,「導体によって形成された
…ローラ」は,形を作り上げている部材が導体であるローラと解すべきである。樹
脂という導体ではない部材で形を作り上げられているものの,表面に金属メッキを25
施すことで導電性を獲得したローラも,「導体によって形成された…ローラ」に含
まれると解することができる根拠となる記載は,本件明細書にもない(【001
3】,【0025】等参照)。
したがって,被告各製品の構成(1b,2b)は,本件発明1の構成要件1B及
び本件発明2の構成要件2Aを充足しない。
(2)争点1-2(「生成された電力が…ローラに通電される」〔構成要件1C5
及び2C〕の充足性)について
(原告の主張)
太陽電池により生成した電流をローラに通電することにより,ローラが帯電し,
毛穴の汚れを引き出すなどするという本件明細書の記載(【0014】,【001
8】)に照らせば,「生成された電力が…ローラに通電される」というのは,太陽10
電池によって生成された電力がローラに通電されればよい。「生成された電力が…
ローラに通電される」とは,太陽電池によって生成された電力が柄等ローラ以外の
部分に通電することまで包含されていないと解釈する根拠はない。
したがって,被告各製品の構成(1c,2c)は,本件発明1の構成要件1C及
び本件発明2の構成要件2Cを充足する。15
(被告の主張)
「生成された電力が…ローラに通電される」という特許請求の範囲の記載からは,
太陽電池によって生成された電力が柄等ローラ以外の部分にも通電されることまで
包含されていると積極的に解釈できるものではない。そこで,本件明細書の記載を
見ると,太陽電池により生成した電流をローラに通電するという記載はあっても20
(【0014】,【0018】,【0026】,【0030】),これを柄等ロー
ラ以外の部分にも通電することに言及する記載はない。したがって,「生成された
電力が…ローラに通電される」とは,太陽電池によって生成された電力が柄等ロー
ラ以外の部分に通電することまで包含されていない。
したがって,被告各製品の構成(1c,2c)は,本件発明1の構成要件1C及25
び本件発明2の構成要件2Cを充足しない。
(3)争点1-3(「ローラが金属によって形成されている」〔構成要件3A〕
の充足性)について
(原告の主張)
太陽電池により生成した電流をローラに通電することにより,ローラが帯電し,
毛穴の汚れを引き出し,さらに美肌効果をもたらすという本件明細書の記載(【05
014】,【0018】,【0026】,【0030】)に照らせば,ローラは,
太陽電池により生成した電流が通電でき,ユーザの肌に接触する表面に帯電できれ
ばよい。したがって,「ローラが金属によって形成されている」には,ローラが導
体ではない部材で形を作り上げられていても,表面に金属メッキを施すことで導電
性,帯電性を獲得している場合も含まれる。10
したがって,被告各製品の構成(1b,2b)は,本件発明3の構成要件3Aを
充足する。
(被告の主張)
特許請求の範囲に記載されている「形成」という文言が「形を作り上げる」とい
う意味を有すること(乙18ないし20)に照らせば,「ローラが金属によって形15
成されている」とは,ローラが金属部材のみで形を作り上げられていることをいう
と解すべきである。金属ではない部材で形を作り上げられているローラも,表面に
金属メッキが施されていれば「金属によって形成されている」に含まれると解する
ことができる根拠となる記載は,本件明細書にもない。
したがって,被告各製品の構成(1b,2b)は,本件発明3の構成要件3Aを20
充足しない。
(4)争点2(無効理由〔乙24発明を主引例とする進歩性欠如〕の存否)につ
いて
(被告の主張)
ア本件発明1について25
(ア)乙24発明との相違点の認定
a相違点1A
本件発明1は,ローラに通電される電力を太陽電池によって生成させる。これに
対し,乙24発明は,ローラに通電される電力を乾電池によって生成させる。
b相違点1B
本件発明1は,ローラの回転軸が柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設けら5
れ,一対のローラの回転軸のなす角が鈍角に設けられている。これに対し,乙24
発明は,ローラの回転軸である横軸部が把持部の中心線とそれぞれ直角に設けられ,
一対のローラの回転軸である横軸部のなす角が180度である。
c相違点1C
乙24発明も,ローラを備えた肌を美しくする器具に関する発明であるから,美10
肌ローラに関する発明である。したがって,原告が主張する相違点1Cは,相違点
ではない。
(イ)相違点に係る構成の容易想到性
a相違点1A
健康器具において生体に印加する電気エネルギー源として太陽電池を用いること15
が乙25公報に,歯ブラシの柄の部分に太陽電池を内蔵して電力を印加することが
乙26公報及び乙27公報に記載されていることに照らせば,生体に電流を流すた
めの電源として太陽電池を用いることは,当業者にとって周知の技術であった。し
たがって,このことのみをもってしても,乙24発明における乾電池を太陽電池に
置き換えることは,当業者が容易になし得たことである。加えて,乙25公報に,20
乙25発明をマッサージ器に適用することについて示唆されていたり,皮膚に太陽
電池を用いて生成した微弱電流を流すことにより,生体内の老廃物のスムーズな排
出・血流循環の改善という乙24発明と共通する効果が記載されていたりするなど,
乙25公報ないし乙27公報には,乙24発明に上記周知技術を適用することの動
機付けの記載もある。したがって,乙24発明における乾電池を太陽電池に置き換25
えることは,当業者が容易になし得たことは明らかである。
仮に,生体に電流を流すための電源として太陽電池を用いることが当業者にとっ
て周知の技術でなかったとしても,乙25公報ないし乙27公報には,この技術が
記載されているだけでなく,上記のとおり,この技術を乙24発明に適用すること
の動機付けの記載がある以上,乙24発明における乾電池を太陽電池に置き換える
ことはやはり,当業者が容易になし得たことである。5
b相違点1B
乙24発明のマッサージ器は,皮膚のマッサージ効果を高めるため,皮膚に与え
る機械的な刺激を大きくするべく,ローラ支持部を二股にして一対のローラを回転
軸である横軸部に回転可能に取り付けられているものの,横軸部のなす角を必ず1
80度とすることまで求められているわけではない。また,乙24発明のマッサー10
ジ器は,ローラが皮膚に接している限りは通電により老廃物を浮き上がらせるから,
ローラにより肌をねじ曲げられるという構成は阻害要因にはならない。
そして,以下のとおり,乙24発明に乙28発明,乙29発明,乙30意匠又は
乙31考案の構成を適用することの動機付けの記載があることから,乙24発明に
おけるローラとローラ支持部を,乙28発明,乙29発明,乙30意匠又は乙3115
考案のそれらに相当する構成に置き換えることは,当業者が容易になし得たことで
ある。
(a)乙28発明の構成との組合せ
乙28発明のマッサージ装置は,ローラの回転軸を取手の長手方向の中心線とそ
れぞれ鋭角に設け,一対のローラの回転軸のなす角を120度に設け,ローラを移20
動させることで,ローラによる皮膚の転動/ひだよせ作用を生じさせようとしてい
る。このように乙24発明と乙28発明は,技術分野,課題及び効果が同一である
から,乙24発明におけるローラとローラ支持部を,乙28発明のローラとその回
転軸に置き換えることは,当業者が容易になし得たことである。
(b)乙29発明の構成との組合せ25
乙29発明のマッサージ装置は,ローラの回転軸をボトルの長手方向の中心線と
それぞれ鋭角に設け,一対のローラの回転軸のなす角(α)を鈍角(90°<α≦
140°)に設け,動かしたローラが皮膚を軽く押圧して皮膚上を転がり摩擦しな
がら摺動することで,皮膚のマッサージ効果を高めようとしている。このように乙
24発明と乙29発明は,技術分野,課題及び効果が同一であるから,乙24発明
におけるローラとローラ支持部を,乙29発明のローラとその回転軸に置き換える5
ことは,当業者が容易になし得たことである。
(c)乙30意匠の構成との組合せ
乙30意匠のマッサージ器が,人体の部位を押すだけでなく,引っ張るとされて
いること,乙30の1公報の図面において,軸が球状物を突き抜けるように構成さ
れていることに照らせば,球状物が回転するとしか考えられない。10
乙30意匠のマッサージ器は,一対のローラの回転軸を柄の長手方向の中心線と
それぞれ鋭角に設け,一対のローラの回転軸のなす角を鈍角に設けることで,人体
の部位を引っ張り,押して筋肉をほぐしてマッサージ効果を高めようとしている。
このように乙24発明と乙30意匠は,技術分野,課題及び効果が同一であるから,
乙24発明におけるローラとローラ支持部を,乙30意匠のローラとその回転軸に15
置き換えることは,当業者が容易になし得たことである。
(d)乙31考案の構成との組合せ
乙31の1公報に接した当業者が第3図を基準として乙31考案の構成を理解す
ることに照らせば,乙31の1公報の第3図を直接測定して軸ロッドの角度を求め
ることに何の問題もない。20
乙31考案のマッサージ器は,マッサージ球の軸ロッドを柄の長手方向の中心線
とそれぞれ鋭角に設け,一対のマッサージ球の軸ロッドのなす角を鈍角に設けるこ
とで,皮膚のマッサージ効果を高めようとしている。このように乙24発明と乙3
1考案は,技術分野,課題及び効果が同一であるから,乙24発明におけるローラ
とローラ支持部を,乙31考案のマッサージ球と軸ロッドに置き換えることは,当25
業者が容易になし得たことである。
イ本件発明2について
本件発明2の構成は,把持部を採用している点を除けば,柄を採用している本件
発明1と同じ構成であることに照らせば,本件発明2の乙24発明との相違点は,
本件発明1と同様,ローラに通電される電力を生成するのが太陽電池か乾電池であ
るかという点(相違点2A)と,ローラの回転軸が把持部の中心線とそれぞれ鋭角5
に設けられ,一対のローラの回転軸のなす角が鈍角に設けられているか,ローラの
回転軸に相当する横軸部が把持部の中心線とそれぞれ直角に設けられ,一対のロー
ラの回転軸に相当する横軸部のなす角が180度であるかという点(相違点2B)
である。
そうすると,上記アのとおり,本件発明1が乙24発明に,乙25公報ないし乙10
27公報に各記載された技術,乙28公報ないし乙31の1公報に記載されたいず
れかの構成を適用することによって容易に発明をすることができたのと同様,本件
発明2も,乙24発明に,乙25公報ないし乙27公報に各記載された技術,乙2
8公報ないし乙31の1公報に記載されたいずれかの構成を適用することによって
容易に発明をすることができた。15
ウ本件発明3について
乙24公報には,ローラを形成する永久磁石としてフェライト磁石が用いられる
ことが記載されているところ,フェライト磁石の主成分が酸化鉄であることは周知
である。したがって,乙24発明のローラも,本件発明3のローラと同様,金属に
よって形成されている。20
そして,上記ア及びイのとおり,本件発明1及び2は容易に発明することができ
るから,その従属請求項である本件発明3も,乙24公報に基づいて容易に発明す
ることができた。
(原告の主張)
ア本件発明1について25
(ア)相違点の認定
a相違点1A及び1B
被告が主張する相違点1A及び1Bがあることは認める。
b相違点1C
本件発明1でいうところの「美肌ローラ」とは,毛穴の汚れをローラにより毛穴
を開かせることによりその開口部に移動させ,続いてローラにより毛穴を収縮させ5
ることによりその汚れを押し出させるという一連の機能を有するものをいう。とこ
ろが,乙24発明のマッサージ器は,皮膚に含まれている老廃物をローラを介した
通電により浮き上がらせる機能は有しているが,上記一連の機能は有していない。
したがって,本件発明1が「美肌ローラ」の発明であるのに対し,乙24発明が
「マッサージ器」の発明であるという点も,相違点である。10
(イ)相違点に係る構成の容易想到性
a相違点1A
乙24発明は,マッサージ器の発明であり,老廃物を浮き上がらせるために電流
を皮膚表面に印加する。
これに対し,乙25発明は,健康器具の発明であり,疲労を軽減させるために電15
流を人体のいずれかの部位に印加する。乙26発明は,歯ブラシの発明であり,歯
磨き能力を向上させるために電流を歯及び歯茎に印加する。乙27発明も,歯ブラ
シの発明であり,虫歯予防及び歯周疾患の予防治療のために電流を歯及び歯茎に印
加する。
このように乙24発明と乙25発明ないし乙27発明は,技術分野,課題及び効20
果が異なり,電流を印加する部位も異なる。そして,乙24公報には,電力を生成
するために太陽電池を用いることを示唆する記載はなく,乙25公報ないし乙27
公報には,太陽電池を用いて生成した電流を老廃物を浮き上がらせるために用いる
ことを示唆する記載はない。したがって,生体に電流を流すための電源として太陽
電池を用いることが,当業者にとって周知の技術であったとしても,乙24発明に25
おける乾電池を太陽電池に置き換える動機付けがない以上,当業者がこれを容易に
なし得たとはいえない。
b相違点1B
(a)乙30意匠及び乙31考案の構成
乙30の1公報には,球体物が回転する旨の記載がないところ,軸が回転物を貫
通することが図示されているだけである。球体物が回転せずとも人体の部位を押す5
ことができれば,逆に引っ張ることもできる。先端等に回転しない球体が設けられ
ている技術も多数存在する。したがって,乙30の1公報に開示されている球体物
が回転すると認めることはできない。
また,被告が主張する乙31考案の構成のうち軸ロッドの角度は,乙31の1公
報の第3図を直接測定したものであるが,第3図が設計図ではないことに照らせば,10
軸ロッドの角度が被告の主張するとおりであると認めることはできない。
(b)乙28発明及び乙29発明,乙30意匠並びに乙31考案の構成
との組合せ
本件各発明は,ローラによる毛穴への作用と通電による毛穴の汚れを引き出す作
用の相乗効果に着目したものである。これに対し,乙24発明には,通電による毛15
穴の汚れを引き出すという課題はあっても,ローラによる機械的な刺激を多くする
という課題は存在せず,他方,乙28発明ないし乙31考案は,ローラによるマッ
サージ作用にのみ着目したもので,乙24発明とは異なる課題に着目したものであ
る。したがって,乙24発明に乙28発明,乙29発明,乙30意匠又は乙31考
案の構成を適用する動機付けはない。20
そればかりか,乙24発明が,老廃物を効率良く浮き上がらせるべく,ローラ支
持部の形状を略T字状にし,一対のローラの位置関係を180度離す構成を取って,
ローラと肌面との接触面積をできる限り大きくし,通電させる際に肌になるべく負
荷を与えない状態にしようとしていることに照らせば,老廃物を効率良く浮き上が
らせにくくなる可能性のある構成,すなわちローラにより肌をねじ曲げられる構成25
となっている乙28発明及び乙29発明,乙30意匠並びに乙31考案の構成を当
業者が採用するとは考え難い。そして,乙24公報には,ローラの角度の変更を許
容する記載はない。
したがって,乙24発明におけるローラとローラ支持部を,乙28発明,乙29
発明,乙30意匠又は乙31考案のそれらに相当する構成に置き換えることは,当
業者がこれを容易になし得たとはいえない。5
c相違点1Cについて
そもそも乙28公報ないし乙31の1公報には,毛穴の汚れをローラにより毛穴
を開かせることによりその開口部に移動させ,続いてローラにより毛穴を収縮させ
ることによりその汚れを押し出させるという一連の機能は記載されていない。した
がって,当業者は乙24発明を出発点としてこの一連の機能を備えた構成に想到す10
ることさえできない。
仮に,当業者が上記構成に想到することができ得るとしても,それが容易でなか
ったことについては,上記bのとおりである。
イ本件発明2について
本件発明2も,乙24発明との相違点は,本件発明1と同様,被告が主張する相15
違点(相違点2A及び2B)に加えて,「美肌ローラ」の発明であるか「マッサー
ジ器」の発明であるという点(相違点2C)であり,正確には「柄」と「把持部」
の相違点もある。
そうすると,上記アのとおり,本件発明2が乙24発明に,乙25公報ないし乙
27公報に各記載された技術,乙28公報ないし乙31の1公報に記載された構成20
を適用することによって容易に発明をすることができたとはいえないのと同様,本
件発明2も,乙24発明に,乙25公報ないし乙27公報に各記載された技術,乙
28公報ないし乙31の1公報に記載された構成を適用することによって容易に発
明をすることができたとはいえない。
ウ本件発明3について25
上記ア及びイのとおり,本件発明1及び2は容易に発明することができないから,
その従属請求項である本件発明3も,乙24公報に基づいて容易に発明することが
できたとはいえない。
(5)争点3(本件特許権侵害による損害額)について
(原告の主張)
被告は,被告製品1の販売を平成22年11月頃に,被告製品2の販売を平成25
4年8月頃にそれぞれ開始しているところ,少なくとも,1か月当たり,被告各製
品を合計1000本販売し,1製品ごとに5000円の利益を得ている。そうする
と,被告は,本件特許の登録日である平成25年3月29日から平成28年3月3
1日までの間(36か月間)に,被告各製品を販売したことにより,合計1億80
00万円の利益を得ている。したがって,原告の被った損害は1億8000万円で10
ある(特許法102条2項)。また,被告の特許権侵害行為と相当因果関係に立つ
弁護士費用の損害額は,1800万円が相当である。したがって,原告の被った損
害の合計額は,1億9800万円である。
(被告の主張)
否認ないし争う。15
第3当裁判所の判断
当裁判所は,本件各発明はいずれも進歩性を欠くと判断した(争点2)。その理
由は,以下のとおりである。
1本件各発明について
本件各発明の技術的構成は,前記第2の2(3)記載のとおりであるが,本件明細20
書(甲2)によれば,その意義は次のとおりであると認められる。
本件各発明は,肌に押し付けてころがすことにより毛穴の中の汚れを押し出す美
肌ローラに関する発明である(本件明細書の【0001】)。従来の美肌ローラで
は,毛穴を開くだけ又は毛穴を閉じるだけのいずれかの作用しかせず,効率よく毛
穴の汚れを取り除けないという課題があった(同【0004】)。そこで,Ⅰ一25
対のローラを角度をつけて柄の一端や把持部に設けるという構成を取ることにより,
美肌ローラを肌に押し付けると,肌が両脇に引っ張られて毛穴が開いてその奥の汚
れが開口部に向けて移動し,逆に押し引くと,肌が一対のローラの間に挟み込まれ
て毛穴が収縮してその中の汚れが引き出され,この押し引きを繰り返すことによっ
て毛穴の奥の汚れまで効率的に除去することが可能となるという効果を奏するよう
にする(同【0008】,【0015】ないし【0017】,【0021】,【05
027】ないし【0029】,【0033】)とともに,Ⅱ太陽電池により生成
した電流をローラに通電することにより,ローラが帯電して毛穴の汚れを引き出す
という効果を奏するようにした(同【0018】,【0030】)。
2乙24発明について
乙24公報には,別紙「乙24公報の記載」のとおりの記載があり,その要旨は,10
次のとおりであると認められる。
乙24公報が目的とする発明は,皮膚の活性化を図るマッサージ器に関する発明
である(乙24公報の【0001】)。従来のマッサージ器では,単に皮膚にゲル
マニウムを浸透させることによって皮膚の血行を良くするだけであって,皮膚にあ
る油分等の老廃物を取り除くことができないという課題があった(同【00015
4】)。そこで,ⅰ外周面に金薄膜が,さらにその上にゲルマニウム薄膜がそれ
ぞれ被着された略円柱状の永久磁石であるローラと,先端部にローラが回転自在に
取り付けられるとともに当該ローラと電気的に接続された導電性を有するローラ支
持部と,このローラ支持部の基端部を保持する一方,当該ローラ支持部と電気的に
絶縁された把持部と,この把持部の内部に収納される直流電源である乾電池とを具20
備しており,前記把持部は少なくとも外周面が導電性を有した素材で構成されてお
り,前記直流電源の一方の端子又は他方の端子が把持部の外周面に,他方の端子又
は一方の端子が前記ローラ支持部を介してローラにそれぞれ電気的に接続可能にな
っているという構成を取る(同【0007】,【0008】,【0013】)こと
により,直流電源の一方の端子(陽極)をローラに接続し,直流電源の他方の端子25
(陰極)を把持部の外周面である肌に接続すると,直流電源から数μA程度の微弱
な電流をローラに流すことによって,ローラが帯電して皮膚に含まれている油分等
の老廃物が皮膚から浮き上がるという効果を奏するようにする(同【0014】,
【0032】,【0033】)とともに,ⅱ二股になったローラ支持部に2つの
ローラが離れて回転自在に取り付けるという構成を取る(同【0008】,【00
13】)ことにより,皮膚に与える機械的な刺激が大きくなるという効果を奏する5
ようにした(同【0015】)。
以上からすると,乙24公報には,次の発明(乙24発明)が記載されていると
認められる。
a把持部と,
b把持部の一端に導体によって形成された一対のローラと,10
c生成された電力がローラに通電される乾電池と,を備え,
dローラの回転軸である横軸部が,把持部の中心線とそれぞれ直角に設けられ,
e一対のローラの回転軸である横軸部のなす角が180度である,
fマッサージ器。
3本件発明1について15
(1)本件発明1と乙24発明の対比
ア以上によれば,乙24発明の「把持部」は本件発明1の「柄」に相当し,
乙24の「ローラ」は本件発明1の「ローラ」に相当すると認められるから,本件
発明1と乙24発明との一致点及び相違点は,次のとおりであると認められる。
イ一致点20
柄(把持部)と,前記柄(把持部)の一端に導体によって形成された一対のロー
ラ(ローラ)と,生成された電力が前記ローラ(ローラ)に通電される点。
ウ相違点
(ア)相違点1(争いがない)
本件発明1は,ローラに通電される電力を太陽電池によって生成させる。これに25
対し,乙24発明は,ローラに通電される電力を乾電池によって生成させる。
(イ)相違点2(争いがない)
本件発明1は,ローラの回転軸が柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設けら
れ,一対のローラの回転軸のなす角が鈍角に設けられている。これに対し,乙24
発明は,ローラの回転軸である横軸部が把持部の中心線とそれぞれ直角に設けられ,
一対のローラの回転軸に相当する横軸部のなす角が180度に設けられている。5
(ウ)相違点3
本件発明1は,美肌ローラに関する発明である。これに対し,乙24発明は,マ
ッサージ器に関する発明である。
(2)相違点に係る容易想到性
ア相違点110
(ア)乙25公報,乙26公報及び乙27公報には,別紙「乙25公報の記
載」,別紙「乙26公報の記載」,別紙「乙27公報の記載」のとおりの記載があ
ると認められる。
その記載のとおり,①生体に外部から電気エネルギーを印加する健康器具に関す
る発明の公報である乙25公報に,皮膚などの生体に印加する電圧の直流電源に一15
次電池,二次電池,太陽電池を使用することができる旨が記載されていること,②
歯牙に外部から電気エネルギーを印加するエレキ歯ブラシに関する発明の公報であ
る乙26公報には,生体の一部である歯牙に印加する電圧の電源に太陽電池を使用
することができる旨が記載されていること,③歯牙等に外部から電気エネルギーを
印加する電気歯刷子に関する発明(当該発明の発明者は,乙26公報に記載されて20
いる発明の発明者と異なる。)の公報である乙27公報にも,生体の一部である歯
牙等に印加する電圧の電源に太陽電池を使用する旨が記載されていることからする
と,生体に印加する電圧の直流電源に太陽電池を用いることは,本件特許の出願前
の周知技術であったと認められる。そして,生体に印加する電圧の直流電源として
は,乙25公報(【0030】)及び乙26公報において,太陽電池がボタン型電25
池や乾電池と選択可能なものとして掲げられていることが認められ,太陽電池を用
いる場合,乾電池を用いるのと比べて,電池を交換する手間が省けることは周知の
利点である。
そうすると,乙24発明における乾電池も,その直流電流を皮膚に印加すること
を目的とするものであるから,上記の周知技術である太陽電池を乙24発明に適用
して,ローラに通電される電力を太陽電池によって生成されるものとすることには5
動機があり,当業者が容易に想到することができたと認めるのが相当である。
(イ)この点について,原告は,①乙24発明と乙25発明ないし乙27
発明は,技術分野,課題及び効果が異なり,電流を印加する部位も異なること,②
乙24公報には,電力を生成するために太陽電池を用いることを示唆する記載はな
く,乙25公報ないし乙27公報には,太陽電池を用いて生成した電流を老廃物を10
浮き上がらせるために用いることを示唆する記載はないことから,乙24発明にお
ける乾電池を太陽電池に置き換える動機付けがないと主張する。
しかし,乙24発明において,乾電池は,「直流電源400からの数μA程度の
微弱な電流」(乙24公報の【0033】)を得るための直流電源として使用され
ているにとどまり,それ以上に,乾電池であることによって皮膚から老廃物を浮き15
上がらせるための特有の作用効果が得られる旨の記載は乙24公報にはなく,その
ような技術常識を認めるに足りる証拠もない。そして,乙24発明において乾電池
を用いることの技術的意義がこのようなものであることに加え,前記のとおり,生
体に印加する電圧の直流電源に太陽電池を用いることが周知技術であり,その場合
に太陽電池がボタン型電池や乾電池と選択可能なものとして認識され,太陽電池を20
用いる場合に電池を交換する手間が省けることは周知の利点であることからすると,
原告の上記主張を前提としても,上記の周知技術である太陽電池を乙24発明に適
用して,ローラに通電される電力を太陽電池によって生成されるものとすることは,
当業者が容易に想到することができたと認めるのが相当であり,原告の主張は採用
できない。25
イ相違点2
(ア)乙29公報には,別紙「乙29公報の記載」のとおりの記載があると
認められる。
それによれば,乙29公報では,皮膚をマッサージするための装置を備えた,製
品のパッケージ及びアプリケータユニットに関する発明に関して(乙29公報の
【0001】),マッサージ装置について,ローラの回転軸をボトルの長手方向の5
中心線とそれぞれ鋭角に設け,一対のローラの回転軸のなす角(α)を鈍角(90
°<α≦140°)に設けるという構成(同【0006】,【0018】,【00
19】)が記載されていると認められる(乙29発明)。そして,乙29発明では,
ローラを皮膚にあてがって動かすと,ローラが皮膚上を転がり摩擦しながら摺動す
ることにより,皮膚が最初はローラ間の大きい開きによって画定される領域に曝さ10
れ,次いでローラ間の小さい開きによって画定される領域に曝されることから押し
曲げられることによって,マッサージ動作により皮膚の張りが向上し,皮膚表面の
水分と皮脂が大幅に減少するという効果を奏する旨が記載されている(同【002
0】)。
(イ)このように,乙29公報においては,ローラの回転軸を柄の長軸方向15
の中心線とそれぞれ鋭角に設け,一対のローラの回転軸のなす角を鈍角に設けるこ
とにより,マッサージ動作によって皮膚の張りが向上し,皮膚表面の水分と皮脂が
大幅に減少するとの技術的意義が開示されている。
これに対し,乙24発明も,皮膚の活性化を図るマッサージ器に関するもので,
皮膚にある油分等の老廃物を取り除くという課題を有しており,相違点2に係る20
「ローラの回転軸である横軸部が把持部の中心線とそれぞれ直角に設けられ,一対
のローラの回転軸に相当する横軸部のなす角が180度に設けられている」との構
成は,「2つのローラが離れて支持されていると,皮膚に与える機械的な刺激が大
きくなるというメリットがある。」(乙24公報の【0015】),「ローラ10
0は2つあるので,ローラが1つのタイプのものより皮膚に与える機械的刺激が多25
くなるというメリットがある。」(同【0036】)として,ローラが二つあるこ
との機械的刺激により皮膚の活性化に寄与する技術的意義を有するものとされてい
ると認められる。
このような一対のローラの技術的意義の共通性に照らすと,乙29公報に接した
当業者が,皮膚へのマッサージ効果を向上させ,皮膚の油脂を取り除く観点から,
乙24発明における「ローラの回転軸である横軸部が把持部の中心線とそれぞれ直5
角に設けられ,一対のローラの回転軸に相当する横軸部のなす角が180度に設け
られている」という構成に代えて,乙29発明の構成を適用して,ローラの回転軸
を柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設け,一対のローラの回転軸のなす角を
鈍角に設ける構成を採用する動機があったというべきであり,容易に想到すること
ができたと認めるのが相当である。10
(ウ)これに対し,原告は,①本件各発明は,ローラによる毛穴への作用と
通電による毛穴の汚れを引き出す作用の相乗効果に着目したものであるのに対し,
乙24発明は通電による毛穴の汚れを引き出すという課題のみを有し,乙29発明
はローラによるマッサージ作用にのみ着目したものであり,乙24発明と乙29発
明は異なる課題に着目したものであるから,乙24発明に乙29発明の構成を適用15
する動機付けはない,②乙24発明が,老廃物を効率良く浮き上がらせるべく,ロ
ーラ支持部の形状を略T字状にし,一対のローラの位置関係を180度離す構成を
取って,ローラと肌面との接触面積をできる限り大きくし,通電させる際に肌にな
るべく負荷を与えない状態にしようとしていることに照らせば,老廃物を効率良く
浮き上がらせにくくなる可能性のある構成,すなわちローラにより肌をねじ曲げら20
れる構成となっている乙29発明の構成を当業者が採用するとは考え難いと主張す
る。
しかし,①について見ると,前記のとおり,乙24公報には,「本発明は,皮膚
の活性化を図るマッサージ器に関する。」(乙24公報の【0001】),「2つ
のローラが離れて支持されていると,皮膚に与える機械的な刺激が大きくなるとい25
うメリットがある。」(同【0015】)との記載があり,請求項2として「ロー
ラ支持部は二股になっており,2つのローラが離れて支持されていることを特徴と
する」発明も定立しているから,乙24発明は,通電による毛穴の汚れを引き出す
という課題と並び,ローラの機械的刺激,すなわちマッサージ作用による皮膚の活
性化の向上も課題としていると認められる。したがって,乙24発明と乙29発明
には課題の共通性があるから,原告の主張はその前提において採用できない。また,5
原告が主張する本件発明1の効果についても,確かに,本件発明1では,ローラに
よる毛穴への作用と通電による毛穴の汚れを引き出す作用の二つの作用が存するが,
その作用機序はそれぞれ独立しており,本件発明1はそれらの独立した作用が並存
するものにすぎないから,二つの作用を組み合わせたこと自体をもって想到容易で
ないことの根拠とすることはできない。10
次に,②について見ると,この主張は,乙29発明の構成を乙24発明に適用す
ることの阻害事由を主張するものと解されるが,まず,乙24公報には,ローラ支
持部の形状を略T字状にし,一対のローラの位置関係を180度離す構成について,
原告が主張するような,ローラと肌面との接触面積をできる限り大きくし,通電さ
せる際に肌になるべく負荷を与えない状態にして,老廃物を効率良く浮き上がらせ15
るとの技術的意義を有する旨の記載はなく,他にも,一対のローラの回転軸のなす
角度を180度とすることに特段限定する記載は見られない。そして,乙24発明
においても,通電による毛穴の汚れを引き出す作用とローラの機械的刺激による皮
膚の活性化の作用とは,独立の作用機序を有する独立の作用として並存しており,
ローラが皮膚に接している限り,通電による毛穴の汚れを引き出すという作用は奏20
するから,乙29発明の構成を乙24発明に適用することに阻害事由があるとはい
えない。
ウ相違点3
本件発明1における「美肌ローラ」の意義については,特許請求の範囲の請求項
1の記載は,「美肌ローラ」のうちで構成要件AからEまでの構成を備えるものと25
いう趣旨に理解することができること,本件明細書において,従来技術としても,
「特許文献1には,複数の円盤を,角度をつけてローラに取り付けた美肌ローラが
提案されている。」(本件明細書の【0002】)との記載があることからすると,
原告が主張するような,毛穴の汚れをローラにより毛穴を開かせることによりその
開口部に移動させ,続いてローラにより毛穴を収縮させることによりその汚れを押
し出させるという一連の機能を有するものに限定されるものではなく,単に肌を美5
しくする用途ないし作用を有するローラ器具を意味すると解するのが相当である。
他方,乙24発明の「マッサージ器」も,前記のとおり一対のローラを有してお
り,「本発明は,皮膚の活性化を図るマッサージ器に関する。」とあることから,
肌を美しくする用途ないし作用を有するものである。
したがって,相違点3は実質的な相違点とはいえない。10
(3)小括
以上のとおり,本件発明1は,乙24発明に,乙25公報ないし乙27公報に記
載された周知技術,乙29発明の構成を適用することによって容易に発明をするこ
とができたから,進歩性を欠く無効理由を有する。
4本件発明2について15
(1)乙24発明との相違点
本件発明2は,把持部を採用している点を除けば,柄を採用している本件発明1
と同じ構成である。ところで,本件発明2の「把持部」とは,本件明細書【003
3】の「本実施形態の美肌ローラは一対のローラ40を角度をつけて把持部42に
設けた。このため,美肌ローラを大きく構成することが可能となり,この場合ボデ20
ィーの毛穴の汚れを効率的に除去することが可能となるという効果がある。」との
記載並びに図4及び図5からすると,一対のローラを両側から支持する平面状の把
持部材を意味するものと解されるのに対し,乙24発明の「把持部」は,本件発明
1の「柄」と同様に,一端に一対のローラを形成した棒状の把持部材である点で相
違する。したがって,本件発明2と乙24発明との相違点は,前記相違点1ないし25
3に加え,次の点となる。
相違点4:本件発明2は,一対のローラが平面状の把持部材(把持部)によって
両側から支持されているのに対し,乙24発明では,一対のローラが
棒状の把持部材(把持部)の一端に形成されている点
(2)相違点の容易想到性
ア相違点1及び2については,本件発明2も,本件発明1と同様,乙245
発明に,乙25公報ないし乙27公報に記載された周知技術,乙29発明の構成を
適用することによって容易に想到することができたと認められ,相違点3について
は実質的な相違点とは認められない。
イ相違点4について
相違点4は,把持部材の形状とローラを支持する構造に関する相違点であるとこ10
ろ,手で握って用いる器具の把持部を棒状に形成するか平面状に形成するかは,持
ちやすさ等を勘案して適宜選択し得る設計的事項であると解され,また,回転可能
なローラを片側から支持するか両側から支持するかについても,部材の強度等を勘
案して適宜選択し得る設計的事項であると解される。そして,実際にも,乙29公
報には,乙29発明に係る「皮膚をマッサージするための装置を備えた,製品のパ15
ッケージアプリケーションユニット」において,一対のローラが平面状の把持部材
(支持体60及びボトル10)によって両側から支持される構成が記載されている
と認められ(乙29公報の【0001】,【0012】,【0016】,【002
0】,図1,図2),同一の出願人に係る乙28公報には,別紙「乙28公報の記
載」のとおり,「皮膚に当てるに適するマッサージ装置」において,棒状の把持部20
材(取手320)の一端に,一対のローラ(302,303)を両側から支持する
構成が記載されていると認められる(乙28公報の【0001】,【0048】,
図6)。そうすると,乙24発明における一対のローラが棒状の把持部材(把持部)
の一端に形成される構成を,持ちやすさや強度等の観点から,一対のローラが平面
状の把持部材(把持部)によって両側から支持される構成に置換することは,当業25
者が容易に想到することができたと認めるのが相当である。
(3)以上によれば,本件発明2は,進歩性を欠く無効理由を有する。
5本件発明3について
本件発明3は,本件発明1及び2の従属請求項であり,本件発明1又は2の構成
に「ローラが金属によって形成されている」という構成を追加したものである。そ
して,本件明細書において,「ローラ20は導体によって形成されることができる。5
ローラ20は金属又は金属の酸化物によって形成されていてもよい。」(本件明細
書の【0013】),「太陽電池30により生成した電流をローラ20に通電する
ことにより,ローラ20が帯電し,毛穴の汚れを引き出し,さらに美肌効果をもた
らす。」(同【0018】)と記載されていることからすると,本件発明3の「ロ
ーラが金属によって形成されている」とは,ローラの皮膚に接する表面部分を含む10
部分が金属から成り,実質的に導体として機能すれば足りると解するのが相当であ
る。
他方,乙24発明のマッサージ器も,「外周面に金薄膜が,さらにその上にゲル
マニウム薄膜がそれぞれ被着された略円柱状の永久磁石であるローラと…当該ロー
ラと電気的に接続された導電性を有するローラ支持部…を具備して」いること(乙15
24公報の【0007】)に照らせば,皮膚に接する部分を含む部分が,電気を通
す金薄膜やゲルマニウム薄膜から成っていると認められるから,そのローラは金属
によって形成されているといえる。
したがって,ローラが金属によって形成されている点は,本件発明3と乙24発
明で一致するから,本件発明3と乙24発明の相違点は,本件発明1及び2と乙220
4発明の相違点1ないし4と同じであり,本件発明3も,乙24発明に,乙25公
報ないし乙27公報に記載された周知技術,乙29発明の構成を適用することによ
って容易に発明をすることができたから,進歩性を欠く無効理由がある。
6結論
以上の次第で,本件各発明はいずれも進歩性を欠く無効理由があり,本件特許は25
特許無効審判により無効にされるべきものである。よって,その余の争点について
判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のと
おり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
髙松宏之
裁判官
野上誠一
裁判官
大門宏一郎
(別紙)
被告製品目録
1製品名ベノアプレミアム電子ローラー
品番BS-7005
のうち設計変更前のマイクロカレント通電型のもの
2製品名ベノアプレミアムジュエルローラー
品番BS-710
のうち設計変更前のマイクロカレント通電型のもの
以上10
(別紙)
被告製品1説明書
1aユーザが手で把持するハンドルを有している
1b前記ハンドルは先端が二股に分かれており,当該二股に分かれた部分それ5
ぞれに,周面に凹凸が形成された略円筒型の樹脂製部材の表面に金属メッキが施さ
れた一対のローラが,長軸方向を回転軸として回転可能に設けられている
1c太陽電池を有しており,太陽電池によって生成された電力は,各ローラの
各支持軸を介して各ローラに通電されるとともに,ハンドルに通電される
1d前記ローラの回転軸は,平面視において,ハンドルの長軸の中心線に対し10
鋭角に配置されている
1e前記一対のローラの回転軸の為す角は鈍角である
1f美容ローラ
以上
(別紙)
被告製品2説明書
2aユーザが手で把持するハンドルを有している
2b前記ハンドルは先端が二股に分かれており,当該二股に分かれた部分それ5
ぞれに,蓋付き略円筒型の樹脂製部材の表面に金属メッキが施された一対のローラ
が,長軸方向を回転軸として回転可能に設けられている
2c太陽電池を有しており,太陽電池によって生成された電力は,各ローラの
各支持軸を介して各ローラに通電されるとともに,ハンドルに通電される
2d前記ローラの回転軸は,平面視において,ハンドルの長軸の中心線に対し10
鋭角に配置されている
2e前記一対のローラの回転軸の為す角は鈍角である
2f美容ローラ
以上

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