弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はこれを棄却する。
     当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は末尾に添附してある弁護人木村貞作成名義控訴趣意書と題する
書面記載の通りである。これに対し当裁判所は左の如く判断する。
 論旨第一点について。
 記録によると原審の第二回公判期日は昭和二十四年三月十五日と指定せられ、被
告人にはその旨の召喚状が送達せられ弁護人は請書を差出している。然るに右期日
は突如変更せられその前日である三月十四日に第二回公判が開かれているがその間
刑事訴訟法第二百七十六条所定の適式の手続を履践していないことは論旨指摘の通
<要旨第一>りである。しかしながら同条規定の手続を履践させることは専ら訴訟関
係人の利害を考慮して定められたもので公益には関係のないことである
から仮令右手続に違背するところがあつても、訴訟関係人が変更せられた期日に出
頭し異議なく訴訟を進めた以上は右違背は何等事に害なく責問権の放棄で右違背は
救済せられたものと見るべきである。而して右第二回公判はその調書によると公開
せられたことになつておる。右期日変更手続に関する違背の故に同公判の裁判は公
開の裁判たり得ず延いて憲法第三十七条に違反すとなす論旨は首肯し難く論旨いず
れも理由なきものとする。
 論旨第二点について。
 <要旨第二>刑事訴訟法第百五十七条には証人の尋問の日時場所は検事、被告人、
弁護人に通知しなければならないと規定してあるから証人尋問には日の
みならずその時間もこれを定めて通知しなければならないものと解すべきである。
しかるに原審第一回公判調書によると検察官及び弁護人申請の各証人の尋問期日を
二月二十八日と指定してその時間の指定をしていないこと論旨指摘の通りである。
しかしながら同条が時間を指定することを命じたのも専ら訴訟関係人の便宜を考え
てのことであるから、訴訟関係人が異議を述べなければ右の違法は救済せられるも
のと認むべきである。本件記録によると右証人の尋問はいずれも同日検察官及び弁
護人立会の上異議なく施行せられているから、右時間の告知に関する違法は茲に救
済せられたものと認める本論旨も理由がない。
 論旨第三点について。
 <要旨第三>刑事訴訟法第百五十八条第二百八十一条によると証人を裁判所外で取
調べるときは検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かねばならぬこと
になつておる。その裁判所外で尋問するについて意見を聴くというのは証人を裁判
所に喚問すべきか裁判所外で尋問すべきかについて意見を聴くということで法律上
はそれで十分である。
 裁判所外で尋問する場合に一々その具体的の場所についての可否の意見を聴かね
ばならぬ趣旨ではない。具体的の場合についても意見を聴いて見ることは―勿論意
見に拘束はされないが―親切で望ましい取扱振であろうけれども法律はそこまで要
求してないと解すべきである。原審第一回公判調書によると検察官は証人としてA
Bを被害現場において尋問され度いと請求し裁判官は弁護人に対し右申請に対する
意見を求め弁護人は異議なき旨答えており次で弁護人は証人としてCを被害現場に
おいて尋問され度いと請求し裁判官は検察官に対し右請求に対する意見を求め検察
官は異議なき旨答えておる。これによるとこれ等の証人の尋問について裁判所外で
施行するかどうかについては訴訟関係人の意見を聴いておると認むべきである而し
て裁判官は右申立人の意見を容れず突如として西那須野警察署で尋問する旨の決定
をしているが当事者の申立に拘束せられない建前からして右の措置は違法という訳
にはゆかぬ。勿論当事者相方の申立が一致する場合成るべく希望に副うことは当事
者を満足せしめる所以で実務の施行上望ましいことではあるが法律はその点につい
て裁判所を拘束してないのであるから一致の申立を容れなくても違法ではないので
ある。尚警察署で証人を尋問してはいけないという法律上の規定もないから原審の
右措置は違法ではない。論旨は理由がない。
 同論旨第四点について。
 新刑事訴訟法は証拠について詳細な規定がなされ或るものは証拠力あり或るもの
は証拠力なしとせられているから裁判所は勿論証拠力なきものを証拠とすることは
できずこれを証拠とすればその理由で判決は破棄せらる<要旨第四>べきものとなる
故に裁判所は常に証拠力ありと認めた証拠を採つて罪証認定の資料とするのである
が採用した証拠について何故に証拠力を認めたかの理由を逐一説明する
必要はない。これは法律の要求しない処である論旨は理由がない。
 尚被告人提出の控訴趣意書は著しくその提出期間を徒過しているのでこれに対し
ては判断を与えない。
 以上の理由によつて本件控訴を理由なきものとし刑事訴訟法第三百九十六条、第
百八十一条に従つて主文の如く判決する。
 (裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

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