弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを、判示第一の罪につき罰金二万円に、同第二の罪につき罰金
千五百円に、
     被告人Cを、判示第一の罪につき罰金二万五千円に、同第二の罪につき
罰金千五百円に、
     各処する。
     被告人らが右罰金を完納することができないときは、金二百五十円を一
日に換算した期間、当該被告人を労役場に留置する。
     押収に係る酒類の換価代金三百九十三円(当裁判所昭和三三年押第二六
二号の一ないし四)並びにかめ三個(名古屋地方検察庁、同年庁外保管第九号一、
三、四、)、木おけ一個(同号の二)は、いずれもこれを没収する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人谷忠冶の控訴趣意書に記載するとおりであるから、こ
こにこれを引用する。
 第一点、事実誤認の主張について、
 所論は、被告人Aは、原判示第一の事実につき従犯であつて、共同正犯ではない
というのである。
 原判決は、その引用の証拠、特に被告人両名のBに対する各質問てん末書、並び
に検察事務官に対する各供述調書、及び原審公判廷における各供述により、被告人
両名が共謀の上、原判示第一の日時、場所において、酒類製造の免許を受けない
で、原判示第一の方法により濁酒七斗七升五合位を製造した事実を認定している。
そこで、右各証拠を検討してみるのに、被告人Aが、原判示第一の事実につき、被
告人Cと共同して右犯罪を実行したという事実、あるいは、被告人両名が、右の免
許を受けないで濁酒を製造することを共謀したという事実については、被告人両名
の原審公判廷における各供述を除いて、これを認定するに足りる証拠は存しない。
そして、右被告人両名の原審公判廷における各供述といつても、それは、いずれ
も、被告事件に対する陳述として、唯、単に、抽象的に、事実はそのとおり相違あ
りませんと述べているだけのことであつて、別に具体的に事実の内容にわたつて陳
述しているわけのものではなく、被告人両名が無学の朝鮮婦人であることを思え
ば、同人らが、被告事件に対する陳述として原審公判廷において陳述したところの
ものが、果して同人等の真意を伝えたものであるか、どうか、かなり疑問である。
まして、被告人らは、本件捜査過程において、終始右共謀の点についてはこれを否
認しているのであつて、公判廷において、同人らが急に従来の供述をひるがえし
て、その事実を認めるということは、むしろ不自然である。結局同人らの原審公判
廷における前記被告事件に対する各陳述は措信することのできないものと認めざる
をえない。もつとも、本件記録を精査すれば、原判示第一の事実につき、被告人両
名の共謀の事実を疑うべき事情も存しないわけではないが、ただそれだけの事情が
あるだけで、他に確たる証拠もないのに、直ちに右共謀の事実を認定するというこ
とはできない。かえつて、原判決引用の前記被告人両名のBに対する各質問てん末
書、及び検察事務官に対する各供述調書並びに原審における証人Dの供述によれ
ば、原判示第一事実については、弁護人所論のごとく、被告人Cが、同人の息子に
嫁を迎えるについて、結婚被露のための祝宴を催すために必要な濁酒を、所轄税務
署長の免許を受けないで製造しようと考え、同人方が狭隘であるところから同胞の
被告人Aに対し、その製造の場所を貸してくれるように頼み込み、同人の承諾をえ
て、原判示第一の米、米こうじその他酒類製造に必要な諸器具を持ち込み、被告人
Cが原判示第一の濁酒を製造し、被告人Aは、その情を知りながら、前記のごと
く、その製造の場所を提供し、あるいは、米をむす際に、せいろを貸し、かまどの
火をたくなどの行為をして、被告人Cの前示濁酒製造の行為を容易ならしめ、これ
を幇助した事実の限度において、被<要旨>告人Aに対する犯罪事実を認定できるの
である。してみれば、原判決がこの事実について、被告人両名を共同正犯と
認定したことは、所論のとおり事実の認定を誤つたものである。もつとも、酒税法
六一条によれば、同条但書の場合を除いて、刑法六三条(従犯減軽)の規定は適用
されないこととなつており、本件は右但書に該当する場合ではないから、前記従犯
に該当すべき事実を共同正犯と認定しても、その法定刑はもちろん、処断刑にも差
異を来さないわけであるが、酒税法五四条一項所定の刑は、罰金刑を選択する場合
または、懲役と罰金とを併科する場合の罰金刑においても、その下限と上限との間
において極めて広い幅が存するのであるから従犯たるか、共同正犯たるかによる犯
情の差は、当然に右法定刑の範囲内における刑の量定に影響をもちうるわけであ
る。してみれば、原判決の前記事実の誤認は、本件被告人Aに対する刑の量定につ
いて影響があり、従つて、刑事訴訟法三九七条一項にいわゆる判決に影響を及ぼす
こと明らかな場合に該るものというべく、論旨は理由があり、原判決は既にこの点
において破棄を免れない。
 さらに、職権をもつて、調査してみるのに、原判決は、保管に係る密造酒の換価
代金五百五円及びかめ四個を、酒税法五四条四項、五六条二項の規定を適用し没収
しているのであるが、右換価代金の中には、米こうじ一一二合の換価代金百十二円
(当裁判所、昭和三三年押第二六二号の五)が、そして、かめ四個の中には、名古
屋地方検察庁、昭和三三年庁外保管第九号の五のかめ一個の各存することは、記録
に徴し明らかである。しかしながら、右米こうじ一一二合と、前示かめ一個は、被
告人Cが甘酒製造の用に供する目的で、それぞれ所持していたものにかかり、(記
録四二丁裏公売調書並びに記録二六丁臨検、捜索、差押てん末書参照)この甘酒製
造の事実は、もとより原判決において、被告人両名に対する犯罪事実としては認定
されていないところであるばかりでなく、右の各物件は原判示各犯罪にかかるもの
でもないから、原判決が、右換価代金百二十円と前記のかめ一個を、他の換価代金
及びかめ三個と併せて一律に没収したことは、法律の適用を誤つたものか又は事実
を誤認したものというべく、原判決は、この点において、刑事訴訟法三九七条一項
所定の事由があり、とうてい破棄を免れない。
 従つて、弁護人所論の量刑不当の論旨について判断を省略し、前記刑事訴訟法の
法条に則り原判決を破棄し、本件は、訴訟記録並びに原裁判所において取り調べた
証拠により、直ちに判決することができるものと認められるので、同法四〇〇条但
書に従い、被告事件について更に判決する。
 (罪となるべき事実)
 第一、 (イ)被告人Cは、所轄名古屋中税務署長より酒類製造の免許を受けな
いで、濁酒製造の目的をもつて、昭和三二年一一月二四日頃名古屋市a区b町c丁
目d番地の相被告人A方に於て、米、米こうじ及び水を原料として、かめに仕込み
醗酵させ、同月二八日頃アルコール分七、五度ないし八、二度の濁酒合計七斗七升
五合位(当裁判所昭和三三年押第二六二号の一及び三は、その換価代金証明書であ
る。)を製造し、
 (ロ)、 被告人Aは、右(イ)記載のとおり、相被告人Cが酒類製造の免許を
受けないで、濁酒を製造するに際し、その情を知りながら、その製造の場所を提供
し、あるいは、米をむす時にせいろを貸し、かまどの火をたくなどの行為をして、
その製造を容易ならしめ、もつてこれを幇助し、
 第二、 被告人両名は、共謀のうえ、法定の除外事由がないのに、同年一一月二
八日被告人A方居宅に於て、所轄税務署長より酒類製造の免許を受けない者の製造
したアルコール分七、六度ないし八、八度の清酒約二斗一升三合(前記押第二六二
号の二及び四はその換価代金証明書である。)を所持し、
 たものである。
 (証拠の標目)
 一、 証第一ないし第四号の換価代金証明書四通(但し、証第一、第三号は判示
第一事実につき、証第二、第四は同第二事実につき。)
 一、 大蔵事務官Bの臨検、捜索、差押てん末書
 一、 大蔵事務官Eの検定調書
 一、 原審公判廷における証人Dの供述調書(原審第二回公判調書の一部)
 一、 被告人両名の大蔵事務官Bに対する各質問てん末書
 一、 被告人両名の検察事務官に対する各供述調書
 (法令の適用)
 被告人両名の判示第一の所為は、酒税法七条一項、五四条一項(但し、被告人A
に対し、刑法六二条一項を併せ適用する。)に、判示第二の所為は、酒税法四五
条、五六条一項四号、刑法六〇条に各該当するから、各所定刑中罰金刑をそれぞれ
選択し、各罰金の所定額内に於て、被告人両名を主文第二、三項掲記の各罰金に処
し、同法一八条により被告人らが右罰金を完納することができないときは、それぞ
れ金二百五十円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置すべく、押収の金
三百七円(前記押第二六二号の一及び三)は、判示第一の製造にかかる濁酒の換価
代金であり、押収の金八六円(前同押号の二及び四)は、判示第二の所持にかかる
清酒の換価代金であり、名古屋地方検察庁、昭和三三年庁外保管第九号の一、三、
のかめ二個は、判示第一の濁酒製造にかかる器具であり、同号の四のかめ及び同号
の二の木おけ各一個は、判示第二の清酒の不法所持にかかる器具であるから、酒税
法五四条四項及び同法五六条二項の規定を各適用し、いずれもこれを没収し、訴訟
費用(原審並びに当審における各国選弁護人支給分)は、刑事訴訟法一八一条一項
但書に従い、被告人両名にこれを負担させないこととする。
 よつて、主文のとおり判決した。
 (裁判長判事 滝川重郎 判事 渡辺門偉男 判事 谷口正孝)

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